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ペトリネットのシミュレーションへの応用[III] —待ち行列を伴うシステムのシミュレーション事例—

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ペトリネットのシミュ V ーションへの応用

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一一待ち行列を伴うシステムのシミュレーション事例一一

椎塚久雄

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net) を用い て,待ち行列を伴うシステムのモデル化とシミュレーシ ョンの事例を紹介する.

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時間ペトリネット

トランジションが発火する毎に,その発火ステップを 1 単位時間きざみの時間軸上でコントロールすることに よって,ペトリネットに時間の概念を導入することがで きる.この場合, トランジションの発火に要する時間の 最小値を 1 単位時間 (Ut と記す)とし,各トランジショ ンでの発火時間違れを U

t

の整数倍とするものである.時 刻1m のときのマーキングをM とする .Mのもとで U

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遅 れのトランジション tが発火可能であれば,これを発火 させることによりマーキングはM' に変わる.次の時刻 m+l でこの新たなマーキング M' のもとで発火可能な トランジションを見つけ出しこれを発火させ,以下 同様の方法で順次時聞を進める. 一般に,遅れ T (T> l) を持つトランジションの 場合,このトランジションの発火によるマーキング の変化のさせ方には基本的に 2 つの方法が考えられ る.その l つは,図8.t (叫に示すように,発火と問 時にそのトランジションの入力プレースより l 個の トークンを取り去り , T時間後にそのすべての出力プレ ースに 1 個ずつトークンを加える方法である.もう I つ は,まず発火と同時にそのすべての入力プレースの中の 1 つのトークンを予約済みとして登録し,他のトランジ ションの発火に関与させないようにし,そして T時間後 に予約を解除して入力プレースより l 個ずつトークンを 取り去り,すべての出力トークンに 1 個ずつトークンを しいづかひきお工学院大学電子工学科 干 160 新宿区西新宿 1-24-2

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(a) トランジション時間ペトリネット I • I T 時間後 \ノ\ 一--キ 予約解除 :J---+(・ 1 (b) プレース時間ベトリネット 図 8.1 時間ペトリネットの遅れの解釈 加える方法である.この間トランジションは,悶 8.1 (b) に示すように,発火中と L 、う状態にあるものとする. 最初の方法ではトランジジョンの発火によるマーキン グの遷移則が発火期間中は成立しないように見えるので これはトランジションに実際の行動を対応させる場合の モデル化に適している.また後の方法ではマーキングの 変化が T時間後に瞬時に行なわれるのですべての時間で マーキングは遷移則を満たすように変化するから,これ はプレースに実際の行動を対応させる場合のモデル化に 適している.

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このように時間ベトリネットは,時間に関す るパラメータの導入の仕方によって大きく 2 つ に分類され,上述した前者のように, トランジ ションの発火に要する時間を規定する場合をト ランジション時間ペトリネ・7 ト( 11) ,また後者 のように,プレースに入力されたトークンが利 用可能になるまでの遅延時間を導入する場合を プレース時間ペトリネヴト (12) という.さらに これら両者をあわせたペトリネットモデルの研 究もされている(1 3). 両日瞬口② 配時口① キソチン 一方,システムの確率的な事象の表現と解析 を行なうために,この時間ペトリネットはさら に拡張され, トランジションが発火可能になっ たがって,使用するシミュレータの最も特徴的な点は,プ レースでのトークンの待ち時間を導入したことであり, それをプレースタイマー (place timer) と名づけた. たとえば,食堂のテーブルに対応するプレースにトー クンが入ると,それは客が食事をするために席に着いた ことを意味するが,このとき,その入力プレースとなっ ているトランジションは発火可能状態となり,これを発 火させると,次の瞬間にはトークンが出ていってしま う.つまり,客が席に着いた次の瞬間すぐに席を立って 出ていってしまうことになる.プレースタイマーは,こ の現象を避けるために,テープルに対応するプレースに モデル化する学生食堂の見取図 図 9.1 てから発火を開始するまでの時間を,連続の確率分布を 持つような確率変数で定義する確率ペトリネ'"ト {sto­ chastic Petri net も提案されている(1 4). 文献(1 5) に は,時間および確率ペトリネットに関する最近のす・ーベ イがある.

学生食堂の毛デル化とシミュレーシ

ョン事例

9

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新しくトークンが入ると,指定したある一定の時間だけ そのトークンを使ったトランジションの発火はできない ようにコントロールするもので,各プレースにつけられ たタイマーがモデルを実行するうえで有効な働きをして 時間ペトリネットの一応用例として,ここでは筆者の 勤務する大学の学生食堂を取り上げ,食堂内における客 の食事時間および流れを待ち行列を伴う同時進行システ ムとしてとらえ,ペトリネットモデルにより客の流れの 状態をシミュレーションした事例を紹介する (16). L 、る.

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2

ネヴトモデル化 図 9.1 にはペトリネットによってモデル化しようとす る学生食堂の見取り図を示す.客は出入口より入場し, ショーウインドにてメニューを選び,チケット売り場(窓 口①,②,および自動販売機)で食券を質 L 、,各自が選 んだメニューの配膳口(①,②,③,…メニュー別にな っている)へ進み,注文したメニュー品を受け取り,座 席に若いて食事をとる.座席は 1 つのテープルに 12席, 片側にそれぞれ 6 庸ずっとなっている.客は自由に腐を 選ぶことができる.食事が済んだら下謄口にて下膳し, 出入り口より退場する. このシステムをペトリネットによってそデル化したも のを図 9.2に示す.ただし,このネ γ トモデルでは,食券 売り場,配膳および下膳部分のモデルは簡単化するため

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1

時間進行とプレースタイマー ここで考えるネットモデル上での時聞は,基本的には 8. で述べたプレース時間ベトリネットにしたがってい る.しかし,ネットモデルの時聞はトランジションが発 火する毎に進めるのではなく,マーキングがMのとき発 火可能なトランジジョ γ をすべて発火させた時点で単位 時間として“ 1 "進める.そして,発火が一周したとき のマーキングを M' とし , M' の状態においても同様に発 火可能なすべてのトランジションを発火させたら,また 時聞を“ 1 "進める.このようにすることによって,疑 似的な並列処理を行なうことができる.ただし 2 つ以 上のトヲンジションの発火が競合状態にある場合には, トランジジョンの番号が小さいものを優先して発火させ ることにする.これは競合トランジションをランダムに 発火させても,ほぽ同ーのシミュレーション結果が得ら れるためである.プレース時間ベトリネ γ トを用いた理 由は,食堂での客の食事時間を考慮するためである.し 1990 年 1 月号 © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.

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図 9.2 学生食堂のベトリネットモデル に省略した.したがって,このモデルでは入り口にあた る場所では,客はすでに料理を受け取っているものと仮 定している. 座席のモデル化:座席は 1 つのテープルに 12席あって, 片側にそれぞれ 6 席ずつある,ここでは,立ったまま食 事をすることは考えていないので,座席の数より客が多 くなることはあり得ない.図 9.3はこれをモデル化したも ので,入口より客が入ってきて, トランジション Tt が 定の時間になれば,トランジション TOが発火し対応する プレース PkのトークンはプレースPj に移り,同時に客 は出口へと向かう. 通路のモデル化:通路をモデル化するときに注意しな ければならないことは,~の動きをうまくコントロール できるようなモデルを作ることである.たとえば,一度 庸に着いた客が再び戻ってきて席に着いたり,あるいは 庸に着かずに出ていってしまうことがあっては客の流れ Pk をコントロールできない.そこで客の動ける 方向を限定して,食堂内に入ってきた客は必 ずどこかの席に着くようにし,腐を立った客 は必ず出口へ向かうようにした.したがって モデル上ではこれから食事をする客と食事を 終えた客との経路は交わらないようにした. 発火条件を満たし,それを発火させるとプレ ース PJ の中にあるトーグンはプレース Pk の中に移る.すなわち,プレース PJ の中の トークンの数は空いている座席の数を表わ し,プレース Pkの中のトークンの数は食事 中の客の数を表わしている.この 2 つのプレ ースは対になって座席に役目を果たしてい る.したがって, プレースPj の中のトーク ンの数とプレース Pkの中のトークンの数を 加えたものはこの場合常に6 に等しい.食事 を終えた客'ì.,プレースタイマーによって所 図 9.3 座席のネ・y ト 図 9.2においてプレースの対 (P2, PS) , (PU'

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1 分毎に到着する客の数 ンはすぐに発火可能であるし,タイマーが 3 ならそのプ レースを入力プレースとするトランジションはモデル上 での時聞が 3 進まなければ発火できない. ここでは,次のような 2 つの場合のシミュレーション 実行例の一部を示す. 実行例出口での混乱を避けるために出口へのアー クの重みは 3 とした.テープルのプレースにまだトーク ンの入る余裕があるのに,通路のプレースにトークンが 溜ってしまうことがあるため,通路に関する初期マーキ ングを増加させ変更した.また,各テープル毎のプレー スタイマーを表9.1 に示すように, 10分から 30分までとラ ンダムに設定した.これは客の食事時聞をみな一定とす るより,客毎に食事時聞が異なるようにした方がより現 実的であるからである.初期客の食事時聞は表9.2 に示 すように,客 1 と客 2 で時間 l 分から 24分までとした. シミュレーション結果を図 9.5に示す.この結果からみ るかぎりにおいては,この食堂にはまだ余裕があるよう に思える.。 実行例 2 実行例 i の結果から,この食堂にはまだ余 裕がみられるため,各時間の入口での到着客をすべて 2 人ずつ増加してみる.トークン数では約 5 割増しである. ただし, 12:00 の到着客だけは図9.4 と同じである. 図 9.8 に示すように,モデル上の時間 20以降の客はほぼ 図 9.4 ーキングにおいてすでにトークンの入 っているプレースは,座席をモデル化 した場合と同じように,その存在によ ってもう片方のプレースにはそのトー クン数以下のトークンしか入ることが できない.これによって通路上の一点 に多数のトークンが溜ってしまうこと を防ぐことができる. 9.3 シミュレーションの実行 食堂内での客の食事時間およびシミュレーション開始 時刻にすでに何人かが食事中であるかといういわゆる初 期客も考慮し,種々の状況を想定してシミュレーション を実行することができる.食堂の入口に到着する客の待 ち行列のデータは, 1977年 7 月 2 日の 12:00から 13:00に おいて生産機械工学科の矢部研究室が調査を行なった実 測値を借用した.しかし,実際のシミュレーションでは, 計算時聞を短縮するために,実測データをもとにして各 1 分毎の客の数を計算し,それをその時間の到着客とし た.したがって,客は全くランダムに到着するのではな く 1 分毎に何人かがまとまって到着することにした.図 9.4に示すのは 1 分毎に到着する客の人数である.それ以 外のデ一九たとえば客の食事時間等はすべて推測値を 用いる.初期客というのは 12:00現在に食堂内ですでtこ食 事をしている客のことである.また,実行時間とは時計 で計った実時間ではなく,発火可能なトランジションを すべて発火し終えたとき時聞を 1 進めることにしている. モデル上で、の時間のことを意味する.プレースタイマー は,各プレースに 6 個設けた.食堂の片側のテープルに は 6 人まで座ることができるので 6 個のタイマーはそ の 6 人に対応している.あるプレースのタイマーが 0 な らば,そのプレースを入力プレースとするトランジショ

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110から 120 の聞で安定している.言 い換えればこの時間で客の数は飽和 している.したがって,だいたいこ のあたりが許容人数の限界ではない かと考えられる. 以上示したモデル化とシミュレー ションは,時間ベトリネットのみを 用いて基本概念だけを例示した.さ らにシステムの性能評価等を行なう には,時間・確率ベトリネットを導 入することが望まれる.また,この シミュレーションはパソコン上で専 用シミュレータを開発して実行し た.しかし,パソコンでは規模が大 きくなると処理速度が問題になる. システム性能評価用ソフトウェアパ ッケ}ジの代表的なものとして,最 近, Chiola らがワークステーショ ン上で開発した Great SPN があげ られる(17). ところで,本稿で示した例でもわ かるように,ベトリネットモデルは システムをプラックボックス的に扱 うのではなく,かなりホワイトボッ クスに近い状態で扱うことができる 利点を持っているつづく) 文献 (前固までにあげたものは省く) (1

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R.R. Razouk and C.V.Phelps:

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pp.75-93

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G. Balbo and G.Conte:

図 9.6 実行例 2 の結果

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No.2

,

pp.93-122

,

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.

[1 5) 西尾章治郎:“システム性能評価のための時間およ び確率ペトリネットヘ計測と制御,

Vo

1.

28

,

No.9

,

p

p

.

760-769

,

1989年 9 月. [16) 椎塚久雄・末永亮・中国努:“ペトリネットによる 待ち行列システムのモデノレ化ヘ電子通信学会ネット理 論研究会論文集(第 l 回), pp.I-14, 1986年 5 月.

[

1

7)

G. Chiola:

Great SPN U

ser's Manual

,

Ver.

1. 3ヘ Dipartimento

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Informatica

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Universita

図 9.2 学生食堂のベトリネットモデル に省略した.したがって,このモデルでは入り口にあた る場所では,客はすでに料理を受け取っているものと仮 定している. 座席のモデル化:座席は 1 つのテープルに 12席あって, 片側にそれぞれ 6 席ずつある,ここでは,立ったまま食 事をすることは考えていないので,座席の数より客が多 くなることはあり得ない.図 9.3はこれをモデル化したも ので,入口より客が入ってきて, トランジション T t が 定の時間になれば,トランジション T O が発火し対応するプレース
図 9.6 実行例 2 の結果

参照

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