Title
A disturbance of intestinal epithelial cell population and kinetics
in APC1638T mice( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
WANG, TUYA
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学) 甲第1034号
Issue Date
2017-03-25
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/56154
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与要件 学位論文題目 審 査 委 員 WANG TUYA(中華人民共和国) 博 士(医学) 甲第 1034 号 平成 29 年 3 月 25 日 学位規則第4条第1項該当
A disturbance of intestinal epithelial cell population and kinetics in APC1638T mice
(主査)教授 原 明
(副査)教授 國貞 隆弘 教授 大沢 匡毅
論 文 内 容 の 要 旨 【緒言と目的】
Adenomatous polyposis coli (APC) は,家族性腺腫性ポリポーシス症 の原因遺伝子として発見さ れた。その遺伝子産物である APC タンパク質はβ-カテニンとの結合を介して Wnt シグナル系を負 に制御し,癌抑制因子として機能していることが明らかとなっている。一方で近年,APC が形態形 成や脳機能に深く関与していることがわかってきた。しかし,APC ノックアウトマウスのホモは胚 性致死,ヘテロは若年で大腸癌が発生して死亡するため,APC の癌抑制以外の生体機能の解析は遅
れている。APC1638T(APC1638T/1638T )マウスは,1639 アミノ酸以降の C 末端側が欠損した変異 APC タ
ンパク質(APC1638T)を発現する遺伝子変異マウスである。APC の C 末端には tubulin(微小管), end-binding protein-1 (EB-1)(微小管結合因子),discs large (DLG)(細胞接着裏打ちタンパク質), postsynaptic density-95 (PSD-95)(後シナプス膜裏打ちタンパク質)等が結合するので,APC1638T マウスではこれらの因子は APC に結合できない。一方,APC1638T にはβ-カテニン結合ドメインは 残っているので,Wnt/β-カテニン系は正常に作動し,癌は発生しない。したがって,APC1638T マ ウスを用いれば,癌の発生によって妨げられることなく,APC の C 末端側に特異的な機能を解析す ることができる。これまでの研究によって,APC1638T マウスでは発育障害,統合失調症様行動異常, 歩行異常,甲状腺機能異常を認めている。本研究では,APC1638T マウスにおける小腸上皮の細胞構 築と細胞動態を精査して,野生型(APC+/+)マウスと比較した。 【対象と方法】 8~12 週齢の APC1638T マウスと野生型マウスを使用して,以下を行った。 (1)体長,体重,腸管の長さを測定した。 (2)小腸組織のパラフィン切片をヘマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡観察し,陰窩絨毛長(陰 窩底から絨毛先端までの距離)と絨毛全長の腸上皮細胞の数と密度を計測した。 (3)ブロモデオキシウリジン(BrdU)を腹腔内投与して 24 時間後のマウスの小腸パラフィン切片を 抗 BrdU 抗体で免疫染色し,小腸上皮細胞の陰窩底からの移動距離を測定した。 (4) 小腸パラフィン切片を細胞増殖マーカーである Ki-67 に対する抗体で免疫染色し,増殖細胞を 検出した。 (5)小腸上皮内の杯細胞,パネート細胞,内分泌細胞をそれぞれ,PAS 染色,フロキシン-タートラ
ジン染色及びクロモグラニン免疫染色により検出し,それぞれの細胞種の数と分布を検索した。 【結果】 (1)APC1638T マウスの体長は野生型マウスより小さく,全ての週齢において APC1638T マウスの体重 は有意に少なかった。APC1638T マウスの小腸の長さ(幽門~回盲部)も野生型より短かかった。 (2) APC1638T マウスでは,陰窩絨毛長が伸長しそれとともに腸上皮細胞数の増加を認めたが,腸絨 毛 100μmあたりの細胞数(上皮細胞密度)には有意差はなかった。 (3)APC1638T マウスにおける小腸上皮細胞の分裂後の移動速度は,野生型マウスより速かった。 (4)APC1638T マウス小腸上皮内の Ki-67 陽性細胞の数は野生型マウスよりも多く,しかも野生型の ように陰窩内に限局せずに,絨毛基部にも存在した。 (5) APC1638T マウスでは,杯細胞は回腸で増加し,十二指腸と空腸では有意差がなかった。パネー ト細胞は十二指腸と回腸で増加し,空腸では有意差はなかった。内分泌細胞は空腸で減少し,十二 指腸と回腸では有意差はなかった。 【考察】 本研究において,APC1638T マウスの小腸の構造異常と共に,上皮細胞の動態(細胞交代現象,恒常 性)にも異常が認められた。APC1638T マウスの陰窩絨毛長は野生型マウスよりも有意に長かったが, 上皮細胞の細胞密度は同じであった。このことから,APC1638T マウスの小腸絨毛の伸長は,個々の 上皮細胞の大きさの増大によるものではなく,上皮細胞数の増加によることがわかる。APC1638T マ ウスにおける腸上皮細胞の増加とそれに伴う陰窩絨毛長の伸長は, Ki-67 のデータで示された増殖 細胞の増加に起因すると思われた。小腸上皮を構成する 4 種類の細胞(吸収上皮細胞,杯細胞,パ ネート細胞および内分泌細胞)のいずれの細胞も,腸陰窩底に存在する幹細胞から分化する。その 数的構成比と絨毛陰窩軸における存在部位は,腸上皮の絶え間ないターンオーバーの中で,常に一 定に保たれている。しかし,APC1638T マウスでは,この 4 種類の細胞の数的構成比に異変が認めら れたことから,増殖した前駆細胞から 4 種類の上皮細胞への分化過程の異常が示唆された。 【結論】 以上の結果より,1639 アミノ酸以降の APC タンパク質の C 末端ドメインが小腸上皮の細胞分化と細 胞動態の制御に関与している可能性が示唆された。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
申請者 WANG TUYA は,遺伝子変異マウス APC1638T において,小腸上皮の細胞構築と細胞動態を観 察することにより,増殖細胞の増加に起因する陰窩絨毛長の伸長とともに,小腸上皮を構成する 4 種類の細胞(吸収上皮細胞,杯細胞,パネート細胞および内分泌細胞)の分化過程に異常が生じて いる可能性を明らかにした。本研究の成果は,小腸上皮細胞の分化と動態に関して新たな知見を与 えるものであり,解剖学の発展に少なからず寄与するものと認める。
[主論文公表誌]
Tuya Wang, Takanori Onouchi, Nami O. Yamada, Shuji Matsuda, Takao Senda:A disturbance of intestinal epithelial cell population and kinetics in APC1638T mice