高 校 生 の 『 集 団 的 実 践 能 力 』 を 育 成 す る 要 因 と 生 徒 会 活 動 活 性 化 の 課 題 に 関 す る 研 究
一取り組みの異なる学校の生徒・教師の意識調査を通して一
学 校 教 育 専 攻
学 校 改 善 コ ー ス
山 崎 文 則
1 .研究の目的
現在の高校教育では,
r
国家及び社会の形成者
として必要な資質」を育成する観点が軽視され
ていると考える。本研究では,先行研究に示さ
れている「自治(的)能力Jの概念が,高校生
の実態とはかけ離れた能力として定義され,ま
た,教師の「自治jへの抵抗感により学校に受
け入れられにくいと考え,その上で,すべての
高校生を対象化しうる概念を構築し,その育成
要因の解明をする。中でも,生徒会活動が,主
として上記概念の育成に繋がることを実証し,
高校教育に明確に位置づけ,活性化を図るため
の課題を見出すことを目的としている。
2.
r
集団的実践能力』の概念
すべての高校生が獲得すべき「集団的実践能
力jを「高校生が学校生活の主体として, 目的
の実現にあたっては多くの意見を集団や系邸哉に
反映させるべく討議を重ね,共同で決定してい
く力であり,同時に自らの手で決定した事柄に
ついては,責任を負い,自己統制しながら,協
力,連帯し,行動していく能力J とした。
3.研究の枠組みと方法
「集団的実践能力jの育成要因は,右図のよ
うに生徒会活動状況を中心とする組織的要因と
個人的要因に規定され,その活動状況は教師の
生徒会活動に対する価値意識とその促進要因と
の関連によって規定されるとの仮説をたて,以
下の方法で研究を進めた。
指導教官 J-U
方ゴ 永
①I県を対象とした生徒会活動の状況調査
.-L-.
厄
②①で抽出した高校の生徒を対象とした「集団
的実践能力jを測定する質問来臨周査
③上記の高校の教師を対象とした「生徒会活動
に対する意識jに関する質問系既周査
④ 事 例 校 (
J
県G高校)の生徒会顧問への聴き
取り調査
個人的要因
生徒の活動経験
公民分野関,む
組餅句要因
学科・進路状況
生徒会活動状況
高
│
位置付け │
T
I
自 主 自 蛾 │
I
I
対話・浸潤生 │
低│ 継 樹 生
!
集団的実践能力
高│ 行動過程
開票存芳
高校生の「集団的実践能力J を捉えやすくす
るために,内面過程(f学校への関心J,
r
集団討
議への肯定感J,
r
決定事項に対する責任意識J)
と行動過程(f集団討議への参加度J,
r
討議能
力J,
r
民主的決定力J,
r
協同実行力J)に分け,
計7つの下位尺度を設定した。下位尺度に対応
する質問項目は, 4件法を採用し,意識の高い
順に得点化し,仮説の検証を行ったo その分析
-36-過程と結果は以下に示す通りである。
第1に 1県の生徒会活動状況をグループ。分
けし,一元配置分散分析にかけた結果と生徒会
活動状況の違いに限定した事例校 (G高校)と
I県抽出校との比較結果の両方から生徒会活動
が活性化し,活動が一般生徒に一定の広がりを
みせても,
r
集団的実践能力Jの育成は十分にな
されないことが明らかとなった。
更に分析をすると,内面過程の育成はある程
度可能であるが,行動過程の育成は期待できな
いことや,むしろ生徒会活動を実践することで,
かろうじて「集団的実践能力jがより低下する
ことを抑制するとし、う消極的効果が示された。
第2に,生徒個人に注目し,
r
学校内役職経験j
と「学
1
妙ト活動経験」を分析視点として,学校
ごとに二元配置分散分析にかけ,共通する知見
を整理した結果,概ね学校内の役職を多く経
験し,学校外の活動も多く経験していくことで
育成が期待できることが示された。また,生徒
の「公民分野への関心j と「集団的実践能力J
の関係を Pearsonの相関係数から考察した結果,
両者は双方向的に高まる可能性が示唆された。
生徒会活動の活性化が「集団的実践能力Jの
育成に結び、ついていない原因の1っとして,高
校生の集団行動に対する価値の捉えが変質して
いる可能性が考えられた。そこで 1県, G高
校それぞれに,主成分分析を行い,
r
集団的実践
能力Jをどのように捉えているのか分析した結
果,第3に,
r
集団行動に対する根底的な歪みJ
が存在することが示された。すなわち 1県高
校生は他者への配慮と自己抑制の
5
齢、ものとな
り
,
G
高校は,一定の歪みはみられるものの,
相対的に自律的捉えになっていたことから,生
徒の主体的な活動が「集団的実践能力Jに対す
る価値の方向性を歪めることに歯止めをかけて
いる可能性が示唆されたD ゆえに,これ以上,
集団で討議・決定・行動することに対する価値
観を歪めないためにも,生徒会活動を活性化し
ていく必要がある。
第4に,教師の意識調査から実際の活動を規
定する要因を探索したところ,生徒会活動状況
は,教師間の生徒会活動価値意識によって規定
されるのではなく,生徒の能力及び生徒会活動
の自制力への信頼を中心とする教師の生徒への
信頼度と教員間の雰囲気,学校の手厳哉的整備を
中心とする教師聞の協働要因によって規定され
ることがわかったo G高校の生徒会が活性化し
ていったフ。ロセスを分析すると,生徒会の活性
化には,下図に示すように,第1に中核教師の
存在,第2に生徒会活動活性化による効果の表
出,第3に生徒会を支援する学校内の組織的整
備があったことが示唆され,多くの学校に欠落
している要因が明らかとなった。
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5. 実践上の課題
本研究では,ある意味で生徒会活動を活性化
させることの限界性が示された。つまり,通常
の範囲で活動を拡大・発展させても「集団的実
践能力」の育成には繋がらない。それを脱する
ような質の取り組みが実践されることによって
生徒の変容が期待できる。こうした体験をさせ
るためにも,教育行政的な施策として各校に学
校協議会を設置するなどの改善策を導入するこ
とも必要となることを指摘しておきたいD
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