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フィラリア症をめぐる歴史疫学の世界

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Academic year: 2021

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(1)情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2016-CH-111 No.9 2016/7/30. フィラリア症をめぐる歴史疫学の世界 飯島 渉(青山学院大学文学部). 1.感染症データの歴史化 報告者は、2015年10月から、日本学術振興会委託研究「医学史の現代的意義―感染症対策 の歴史化と医学史研究の社会との対話の構築」を進めている。その目的は、日本における感 染症や寄生虫病の抑制過程を示すデータの整理や保存である。 今回のプロジェクトは、報告者が進めてきた医療社会史的な研究を発展させたもので、目 黒寄生虫館や長崎大学熱帯医学研究所熱研ミュージアムなどの全面的な協力のもとで、マ ラリア、日本住血吸虫症、フィラリアという20世紀の日本社会が制圧に成功した寄生虫病に 注目し、データの整理・保存とともに、関係者からの聴き取り調査を進めている。. 2.ファラリアの抑制をめぐるデータ フィラリアは、長崎、鹿児島、愛媛などで流行していたが、第二次大戦後、関係者のさま ざまな努力、すなわち、フィラリアの流行のメカニズムの解明、対策としての対蚊対策の展 開、流行地域の住民の夜間血液検査(これは悉皆調査であった) 、ミクロフィラリアの保有 者へのジエチルカルバマジン(DEC)の内服、すなわち、選択的集団治療によって根絶さ れるにいたった。 長崎大学熱帯医学研究所熱研ミュージアムには、長崎大学熱帯医学研究所教授としてフ ィラリア対策に尽力した片峰大助らが、長崎県内の五島列島、松島、および沖縄県の宮古島 で実施した対策に関するデータが保存されている。それは、 「松島フィラリア症集団治療」 、 「松島風研臨床(1960 年代松島フィラリア調査日記) 」などであり、その内容は、業務日誌 (薬の服用者名) 、受診記録や投薬服用の名簿などで、ジエチルカルバマジンの投薬方法や 薬量に関するデータが中心である。 こうした感染症の抑制に関するデータは、日本では廃棄されることが多く、地域での感染 症対策、公衆衛生的対策の実相を示す資料の保存は十分とは言えない。むしろ、 「感染症デ ータ・クライシス」と言うべき状況が普通であり、日本の経験を国際的に参照しようとする 国際保健での試みがしばしば指摘されるにもかかわらず、肝心の日本の経験は「歴史化」さ れているとは言えない。. ⓒ 2016 Information Processing Society of Japan. 1.

(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2016-CH-111 No.9 2016/7/30. 3.オーラルヒストリーの試み プロジェクトの一環として、感染症や寄生虫病の抑制にかかわった研究者、行政そして医 師や患者などからの聴き取り調査を進めている。こうした調査を、歴史学の世界ではオーラ ルヒストリーと呼ぶ。この間、フィラリア対策にかかわった多田功氏(九州大学名誉教授) 、 青木克己氏(長崎大学名誉教授)などからの聴き取り調査を行った。今後の計画としては、 地方の寄生虫予防会関係者、患者などからの聴き取り調査を行う予定である。. 4. 「資料をつくる」 感染症や寄生虫病の抑制に関する歴史的経験は、これを整理し、資料化してはじめて利 用可能になる。つまり、「資料はあるのではなく、つくるもの」である。フランスの歴史 学者、エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリは、「未来を憂うる専門家としての歴史学者の 使命は、歴史の寄与を求める者である科学者に力を貸すことではないでしょうか」と述べ る。報告者は、この言葉を常に意識してプロジェクトを進めている。 東日本大震災ののち、地震や津波をめぐる歴史学的な知見を、予知や被害を食い止める ための知恵として利用することが本格化した。これは、感染症や寄生虫病の歴史学にも大 きな示唆を与えている。日本の社会は、感染症や寄生虫病の抑制に成功すると、その記録 を廃棄してしまうことが多かった。しかし、それは感染症や寄生虫病をめぐる経験を放棄 してしまうことでもある。この面で、報告者は、歴史学が、医学や公衆衛生学と共同で進 めることが出来る課題は数多く残されていると考えている。. ⓒ 2016 Information Processing Society of Japan. 2.

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