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株式のディカップリングに関する若干の考察 : 法科大学院教育における実体法と手続法の交錯の一断面

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(1)株式のディカップリングに関する若干の考察. 研究ノート. 株式のディカップリングに関する若干の考察 ―法科大学院教育における実体法と手続法の交錯の一断面―. 芳賀 良 1.はじめに 2.株式のディカップリング 3.募集株式の発行等・募集新株予約権の発行に係る差止請求権 4.株主総会等の決議の取消しの訴え 5.むすびにかえて. 1.はじめに 法科大学院は、法曹養成教育の一環を担う。法曹は社会において生起する法 的諸問題の合理的解決を求められる。そのため、法科大学院教育においては、 「実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育」の実践が求め られている 1)。実務上生起する法的諸問題を解決する上では、実体法と手続法 の統合的な理解が不可欠となる。法科大学院における会社法教育も、民事訴訟 法や民事保全法等の手続法との協働を前提として行われることとなる。もっと も、会社法と手続法が交錯する領域は、手続法の基礎的な理解が必要となるた め、学校教育上、学生の理解が困難な分野でもある。 ところで、株主の権利は、自益権と共益権とに分類される。そして、一般に、 25.

(2) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 共益権は、自益権の価値を保障するものと位置付けられている 2)。本稿では、 株主の経済的利益が欠缺した状態を視座として、自益権を事実上失った株主が、 実体法である会社法上の権利を、手続法との関係で行使することができるのか、 ということを検討するものである。検討の対象となるのは、①募集株式の発行 等に係る差止請求権、②募集新株予約権の発行に係る差止請求権、③株主総会 等の決議の取消しの訴えに係る提訴権である 3)。上記①の募集株式の発行等に 係る差止請求権(会社 210 条)及び上記②の募集新株予約権の発行に係る差止 請求権(会社 247 条)は、 株主が取締役等の行為を監督是正する権利であるから、 共益権に分類される 4)。しかし、会社に損害を生ずるおそれを要件とする取締 役の行為の差止請求権(会社 360 条)や執行役の行為の差止請求権(会社 422 条)と異なり、 「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」を要件としている。 このため、①募集株式の発行等に係る差止請求権及び②募集新株予約権の発行 に係る差止請求権は、 「自益権的共益権」と称されている 5)。このため、株主 の経済的利益が欠缺した状態において、これらの差止請求権を行使することが できる会社法 210 条の「株主」としての地位を有するのか、という点が問題と なるのである。 他方、上記③の株主総会等の決議の取消しの訴えに係る株主の提訴権は、典 型的な共益権である 6)。そして、後述するように、判例によれば、自らの権利 が侵害されていない株主も決議の瑕疵を争う原告適格を有するとされる。換言 すれば、自らの権利が侵害されていない株主も会社法 831 条 1 項が定める「株 主等」に該当するのである。また、判例によれば、 「訴えの利益」が消滅する 場合もあるとされる 7)。このため、自らの権利が侵害されていない株主も決議 の瑕疵を争う原告適格を有するという判例理論との関係から、経済的利益が欠 缺した株主に、株主総会等の決議の取消しの訴えに係る提訴権における原告適 格が認められるのかという点、換言すれば、会社法 841 条 1 項の「株主等」に 該当するのかが問題となる。また、経済的利益の欠缺が訴えの利益に影響を及 ぼすのかという点も問題となる。 26.

(3) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 以上のように、本稿においては、株主の経済的利益が欠缺した状態が、①募集 株式の発行等に係る差止請求権、②募集新株予約権の発行に係る差止請求権、 及び、③株主総会等の決議の取消しの訴えに対して、影響を与えるか否かを分 析することとする。差止請求権と提訴権という法的位置付けの違いはあるもの の、株主の経済的利益が欠缺した極端な状態を視座にして上記①②と上記③を 対比することによって、自益権的共益権と典型的な共益権との機能の差異が明 確となると思われる 8)。このような分析を通じて、手続法との協働を前提とし て行われる会社法教育への示唆を得ることを目的とする。. 2.株式のディカップリング まず、会社法における株主の位置付けについて概観しよう。通説的な見解に よれば、株主は、株式会社の「実質的な所有者」と位置付けられる 9)。株主が 株式会社の「実質的な所有者」であることを前提に、自益権や共益権という株 主の権利も所有権の変形物であると位置付けられている 10)。また、株主の出 資は企業が倒産すると消滅することから、危険資本(risk capital)の担い手と なる 11)。換言すれば、株主の会社に対する請求権は債権者の会社に対する請 求権に劣後するため、株主は残余請求権者(residual claimant)と位置付けら れる 12)。残余請求権者である株主は自らの取り分である残余財産を増加させ ることに強いインセンティブを有するので、残余財産の増加が会社利益の増加 に結びつくことから、会社の意思決定を株主に委ねることにより会社利益の最 大化を期待できる、という説明がなされている(株主利益最大化の原則)13)。 つまり、株主の意思決定は、株主の経済的な利益に裏打ちされて適切なものと なることを前提として、会社関係者の利害調整を図ろうとしているのである。 ところで、金融工学の手法を利用すれば、株式を保有しながら、株式を売却 した場合と同様の経済的効果を得ることができる。株式のディカップリング (decoupling)と称される現象である。株式のディカップリングとは、エクイ 27.

(4) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). ティ・スワップ・アレンジメント(equity swap arrangement)により、会社 に対する実質的所有と議決権を通じた支配が分離する現象である 14)。エクイ ティ・スワップ・アレンジメントの例として、トータル・リターン・スワップ (total return swap)がある。トータル・リターン・スワップとは、 エクイティ・ デリバティブ(equity derivative)取引の一種とされる 15)。このデリバティブ 取引は、ショート・ポジションを有する者(以下、 「売り方」とする。 )がロン グ・ポジションを有する者(以下、 「買い方」とする。 )に対して、原資産であ る株式に係るキャッシュ・フローを支払い、買い方は売り方に対して、想定元 本に一定利率利子を支払うものである 16)。買い方が得られる利益は、①原資 産である株式を保有していた場合に得られる配当等、②上記スワップを行って いる期間における株式に係る市場価値の増加額に相当する金銭、③上記スワッ プ期間終了時に取得する株式である 17)。他方、売り方が得られる利益は、① 想定元本から得られる利子相当額、②株式に係る市場価値の減少額に相当する 金銭である 18)。換言すると、トータル・リターン・スワップとは、株式に関 する諸権利のうち、議決権などの共益権は株主に残存したまま、経済的利益だ けデリバティブの買い方に移転するデリバティブ取引である。 つまり、株主は、スワップ取引を利用して経済的利益を第三者に売却してい るが、法形式上は株主としての地位にとどまっている状態である。このような 株主を想定すると、前述の株主利益の最大化が会社関係者の利益調整に適合し ていると評価することは困難であろう。 従来、こ の ディカップ リ ン グ 現象 と 会社法 と の 関係 は、議決権行使 と い う観点から論じられてきた。これが、エンプティー・ボーティング(empty voting)の問題である。例えば、 「エクイティ・デリバティブ等のスキームを 利用することにより、経済的利益と議決権を分離することが可能となっている。 会社の様々な利害関係者の中で株主のみが議決権を行使できるのは、株主が会 社財産に対する残余権者であり、会社の価値を増加させるインセンティブを有 していることから説明する場合、経済的利益を伴わない議決権を有している株 28.

(5) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 主は、会社の価値の向上のために議決権を行使するインセンティブを有してい ないこととなる。当該株主については、会社の価値の向上と無関係な自らの利 益のみを図る可能性が高く、他の株主との間で利益相反関係にあることが多い」 という問題提起がなされている 19)。すなわち、株主として経済的な実態がな いにもかかわらず、法形式上有する議決権を行使することに関する正当性の問 題である。 エクイティ・スワップ・アレンジメント取引によって、株式を売却すること なく、売却した場合と同様の経済的効果を享受する株主を、本稿では、 「ディ カップリング株主」と表記することとする。問題の分析を単純化するために、 本稿で想定するディカップリング株主は、エクイティ・スワップ・アレンジメ ント取引によって、その保有する株式すべてに係る経済的利益を第三者に売却 していることを前提とする。また、エクイティ・スワップ・アレンジメント取 引の相手方を、本稿では、 「スワップ取引の相手方」と表記する。ディカップ リング株主を巡る問題状況を整理しよう。仮に、株主権として共益権と自益権 は一体であるとすれば、ディカップリングを行った株主にも、共益権がある以 上、法形式上、自益権もあることになりそうである。しかし、ディカップリン グにより、会社の価値下落について経済的な利益を得るため、剰余金配当請求 権などの自益権から経済的な利益を得ることがない(以下、この状態を「自益 権の空洞化」と称することとする) 。 本稿は、ディカップリング現象と議決権行使との関係を分析の対象とするの ではなく、ディカップリング現象と①募集株式の発行等に係る差止請求権、② 募集新株予約権の発行に係る差止請求権、及び、③株主総会等の決議の取消し の訴えとの関係を探る点で、従来の研究と異なるものである。また、ディカッ プリング現象と議決権行使との関係を分析の対象としないことから、完全無議 決権株式におけるディカップリング現象をも検討の対象とすることができる。 すなわち、ディカップリング現象はデリバティブ取引を利用した投資の結果と して発生する事象であるから、完全無議決権株式を有する株主がデリバティブ 29.

(6) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 取引を利用してその保有する完全無議決権株式すべてに係る経済的利益をス ワップ取引の相手方に売却することも可能である。このため、理論上、完全無 議決権株式についてもディカップリング現象が生じるのである。本稿において は、議決権のある株式におけるディカップリング現象を検討した後、完全無議 決権株式におけるディカップリング現象を検討することとする。. 3.募集株式の発行等・募集新株予約権の発行に係る差止請求権 法科大学院では、前述した法理論教育を前提に、 「実務教育の導入部分(例 えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することと し、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育を行うべきで ある」とされている 20)。要件事実とは、権利の発生、障害、消滅等の各法律 効果を生じさせる具体的事実である 21)。ある事実が権利の発生、障害、阻止、 消滅いずれかの効果を基礎づけるものであるかは、実体法の解釈によって定ま る 22)。したがって、法律要件分類説を前提とすれば、実体法の解釈によって 証明責任の所在が明らかとなる 23)。 ところで、差止請求は何らかの行為を差し止めるものであるから、差止めの 対象となる行為がなされてしまえば、もはや差止めができなくなる。そのため、 会社法上の差止請求権においては、当該差止請求権を被保全権利とする仮の地 位を定める仮処分(民保 23 条 2 項)の申立てがなされるのが通常であるとさ れる 24)。保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければ ならない(民保 13 条 2 項) 。疎明は証明と異なる。しかし、差止請求訴訟を本 案とする以上、疎明責任の分配は、証明責任の分配基準に従うことになる。本 稿では、株主に経済的利益が存在することが保全の必要性が肯定されるための 「要件事実」となるのか、を検討することとする。 会社法上の差止権として、 (1)募集株式の発行等差止請求権(会社 210 条) 、 (2)募集新株予約権 の 発行差止請求権(会社 247 条) 、 (3)取締役 の 違法行為 30.

(7) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 差止請求権(会社 360 条) 、 (4)執行役 の 行為 の 差止請求権(会社 422 条)が ある。上記(1)の募集株式の発行差止請求権と上記(2)の募集新株予約権の 発行差止請求権は、 「株主が不利益を受けるおそれ」を要件としている。他方、 上記(3)と上記(4)は会社の損害を要件としている。 ディカップリング株主は、前述のように、株式会社の企業価値が減少した場 合に利益を得ることになる。そのため、会社に損害が発生する行為がなされて も、 通常、 差止めを行うインセンティブはないのである。そうであれば、 ディカッ プリング株主が、現実に、取締役の違法行為差止請求権(会社 360 条)又は執 行役の行為の差止請求権(会社 422 条)を行使する可能性は極めて低い。この ような理由から、本稿においては、取締役の違法行為差止請求権(会社 360 条) と執行役の行為の差止請求権(会社 422 条)を検討の対象から除外することと する。. (1)募集株式の発行等に係る差止請求権 (a)要件 会社法 210 条は、① 199 条 1 項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分 が法令又は定款に違反する場合、②当該株式の発行又は自己株式の処分が著し く不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれが あるときは、株主は、株式会社に対し、当該株式の発行又は自己株式の処分を やめることを請求することができる旨規定している。その趣旨は、募集新株の 発行や自己株式の処分によって不利益を被るおそれのある株主に自衛手段をあ たえることにある 25)。 上記①に関連して、当該株式の発行又は自己株式の処分が法令に違反する場 合とは、 (ⅰ)法定の機関決定を経ていない場合(例として、全株式譲渡制限 会社において、株主総会の特別決議を経ずに募集事項を決定する場合が挙げら れる。会社 199 条 2 項) 、 (ⅱ)公開会社において、募集株式の引受人にとって 特に有利な払込金額による発行が株主総会の特別決議を経ずになされた場合 31.

(8) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). (会社 201 条 1 項。以下。 「有利発行」と称することとする。 ) 、 (ⅲ)募集事項 が均等でない場合(会社 199 条 5 項) 、 (ⅳ)新株株式の割当てを受ける権利が 無視される場合(会社 202 条 1 項 1 号)などが挙げられている 26)。 (b)仮処分 前述のように、募集株式の発行等の効力が生じてしまうと、差止めをするこ とができなくなる。このことから、通常、株主は、効力発生前に、会社を債務 者として、募集株式の発行等に係る差止請求権を被保全権利とする仮の地位を 定める仮処分の申立てを行うこととなる(民保 23 条 2 項) 。 民事保全法 23 条 2 項は、 「仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利 関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必 要とするときに発することができる」と規定する。仮の地位を定める仮処分の 内容は、本案の内容と同一であり、本案の満足を目的とする仮処分として位置 付けられている(満足的仮処分)27)。満足的仮処分においては、①被保全権利 の存在と②保全の必要性の双方について、証明に近い高度の心証が得られない 限り疎明がなされていないと取り扱うのが裁判実務であるとされている(民保 13 条・23 条 2 項参照)28)。 ところで、被保全権利の存在が疎明された場合、保全の必要性は、会社が自 発的に募集株式の発行等を差し控えるなどの特段の事情がない限り、否定され ることはないと解されている 29)。募集株式の発行等の効力が発生すると、募 集株式の発行等に係る差止請求権を行使することができなくなるため、被保全 権利を保全する必要性があるからである 30)。そうであるなら、 「保全の必要性」 の有無を検討するためには、まず「被保全権利の存在」の有無を明らかにする 必要がある。被保全権利を構成する要素として、株主の不利益がある。株主の 不利益の有無が、 仮処分の可否に影響を与えることとなる。以下では、 ディカッ プリング現象と株主の不利益の関係を検討することとする。. 32.

(9) 株式のディカップリングに関する若干の考察. (c)議決権株式のディカップリングと差止め そもそも、ディカップリング株主が自らの利益のために行使する類型の場 合、会社の利益になる募集株式の発行等を阻止する動機が働くこととなる。な ぜなら、ディカップリングにより自益権が空洞化した場合、ディカップリング 株主は会社の価値の向上と無関係な自らの利益のみを図る可能性があるからで ある。ここで、このような差止めの動機を、差止請求権を行使する資格の有無 という段階で判断すべきか、ということが問題となる。 「当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合」にお いては、法令・定款を遵守した会社運営を確保する視点から、ディカップリン グ株主であっても当該法令・定款違反を理由に差止めの請求ができると解さ れる。他方、 「当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法によ り行われる場合」については、 「著しく不公正な方法」という要件は「著しく」 という評価を伴う概念であるため、差止請求者の動機を考慮すべきか否かが問 題となる。当該募集株式の発行等の方法は会社が決定したものであるから、 「著 しく不公正な方法」か否かは、募集株式の発行等を行う会社を基準として判断 されるべきである。そのため、ディカップリング株主であることのみをもって、 「著しく不公正な方法」に基づく差止請求をなしえないと即断すべきではない。 このように、議決権株式のディカップリング株主も、募集株式の発行等に対す る差止請求権を行使する「株主」 (会社 210 条柱書)としての資格は有すると 解される。 問題は、ディカップリング株主の利益が会社の利益と相反する状況で、当該 株主の不利益が、本条における株主の「不利益」という要件を充足するのか、 という点である。本条の「不利益」とは、保有する株式の価値が低下するとい う自益権に関わる不利益と持分比率の希薄化という共益権に関わる不利益に大 別される。 まず、募集株式の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であ る場合(会社 199 条 3 項、201 条 1 項。以下、 「有利発行」とする。 )のみが争 33.

(10) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 点とされるならば、ディカップリング株主について、 「株主が不利益を受ける おそれ」は観念されないことになろう。なぜなら、少なくとも、ディカップリ ング株主において自益権は空洞化しているため、株式価値の低下という自益権 に関わる不利益を考慮する必要はないからである。 次に、議決権に関わる不利益は、差止事由としては、 「当該株式の発行又は 自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合」が問題となる。そ もそも、募集新株の発行には、持分比率の低下が伴う。当該新株発行による持 分比率の低下が許容される範囲にあるか否かが問題となるのである。ディカッ プリング株主についても共益権がある。そのため、著しく不公正な方法により 行われる新株発行によって持分比率が低下することが共益権に対する「不利益」 であるとすれば、本条の「株主が不利益を受けるおそれ」も観念できる。 募集株式の発行等の差止めの仮処分における「保全の必要性」は、 「株主が 不利益を受けるおそれがあるとき」に充足すると考えられる。募集株式の発行 等が為されてしまえば、もはや当該不利益は顕在化して回復するのが困難であ るからである。前述のように、株主に経済的利益が存在しなくとも、 「株主が 不利益を受けるおそれ」が生じる場合がある。そのため、株主に経済的利益が 存在することが保全の必要性が肯定されるための「要件事実」とはならない。 (d)完全無議決権株式のディカップリングと差止め 株式会社は、株主総会において議決権を行使することができる事項について 内容の異なる種類の株式を発行することができる(会社 108 条 1 項 3 号) 。株 主総会において議決権を行使することができる事項について制限のある種類の 株式を、議決権制限株式と称する(会社 115 条) 。議決権制限株式には、議決 権が全くない完全無議決権株式が含まれる。ここでは、完全無議決権株式の保 有者がディカップリング株主となった場合を検討することとする。この場合、 ディカップリング株主は、共益権の中軸たる議決権を有しないこととなる。こ の場合においても、差止請求権の行使が認められるのか、という問題がある。 34.

(11) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 完全無議決権株式においては、議決権の希薄化という点は考慮する必要がない。 また、完全無議決権株式の場合、募集株式の発行等に係る株主総会の決議に参 加することもできない。そうすると、完全無議決権株式の株主には、そもそも 差止請求権の行使は認められないということになりそうである。しかし、完全 無議決権株式の株主であっても、 法令・定款を遵守した募集株式の発行等や「著 しく不公正」ではない募集株式の発行等を会社に求めることすら否定する必要 はない。 まず、 「当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合」 についてである。そもそも、完全無議決権株式の株主が、 「当該株式の発行又 は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合」において、募集株式の発行 等に係る差止請求権を行使できるのか、ということが問題となる。差止請求後、 法令や定款を遵守した募集株式の発行等を行うためには、株主総会の決議が必 要になる場合もある。この場合であっても、議決権がない以上、完全無議決権 株式の株主は議決権を株主総会で行使することはできない。このため、完全無 議決権株式の株主に差止請求権の行使を認める実質的な意義はないという批判 も考えられる。しかし、議決権株式の株主が差止請求権を行使した場合であっ ても、適法な株主総会の決議を経た結果が差止め前と同様の状況となることも ある。資本多数決による結論であるから、この結果は是認される。あくまで、 差止請求権行使の意義は、法令や定款を遵守した会社運営を求めることにある のであり、結果の是正にあるわけではない。この事情は、完全無議決権株式の 株主が差止請求権を行使する場合にも妥当する。そうであるなら、法令や定款 を遵守した会社運営を求める得ることは、議決権株式の株主であろうと完全無 議決権株式の株主であろうと変わらないことになる。また、無議決権株式の株 主がディカップリングを行っている場合であっても、同様である。したがって、 「当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合」におい ては、法令や定款を遵守した会社運営を確保する視点から、完全無議決権株式 のディカップリング株主であっても当該法令・定款違反を事由とする差止請求 35.

(12) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 権を行使する「株主」 (会社 210 条柱書)としての資格はあると解される。 次に、 「当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行 われる場合」についてである。完全無議決権株式の株主の場合であっても、例 えば取締役会が当該完全無議決権株式の割当権限を濫用して第三者割当てを行 うことにより、自己の持分比率を著しく低下させられることがありうる。完全 無議決権株式が優先配当などと結びついている場合は、ディカップリングを 行っていなければ、経済的な不利益も被る。このような不利益を是正する機会 を確保する要請は、議決権株式の株主であろうと完全無議決権株式の株主であ ろうと変わりはない。換言すれば、議決権株式の株主であろうと完全無議決権 株式の株主であろうと、 「著しく不公正」でない方法による募集株式の発行等 を求めることができる。 しかし、完全無議決権株式の株主がディカップリングを行っている場合は、 状況が異なる。株式のディカップリングにより、持分比率の低下に伴う経済的 な不利益を受けないからである。もっとも、 完全無議決権株式の株主がディカッ プリングを行っている場合でも、法形式上、株主として資格を有している。し たがって、完全無議決権株式のディカップリング株主であっても、 「著しく不 公正な方法」に基づく募集株式の発行等に係る差止請求権を行使する 「株主」 (会 社 210 条柱書)としての資格は有すると解する。 上記のように完全無議決権株式のディカップリング株主が募集株式の発行等 に係る差止請求権を行使する「株主」 (会社 210 条柱書)としての資格は有す るとしても、 「株主の不利益を受けるおそれ」という要件を充足し得るかは別 の問題である。完全無議決権株式のディカップリング株主が、持分比率の低下 により不利益を受けるおそれがある場合を観念することは極めて困難である。 そのため、募集株式の発行等によって、完全無議決権株式のディカップリング 株主が「不利益を受けるおそれ」を想定し難いものと思われる。. 36.

(13) 株式のディカップリングに関する若干の考察. (2)募集新株予約権の発行に係る差止請求権 (a)要件 会社法 247 条は、会社法 238 条 1 項の募集に係る新株予約権の発行が法令又 は定款に違反する場合、当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行 われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株 式会社に対し、当該新株予約権の発行をやめることを請求することができる旨 規定している。その趣旨は、募集新株予約権の発行によって不利益を被るおそ れのある株主に自衛手段をあたえることにある 31)。募集新株予約権の発行差 止請求権が成立する要件として、① 238 条 1 項の募集に係る新株予約権の発行 が法令若しくは定款に違反する場合、又は、当該新株予約権の発行が著しく不 公正な方法により行われる場合であること、②株主が不利益を受けるおそれが あることである。 当該新株予約権の発行が法令に違反する場合とは、 (ⅰ)法定の機関決定を 経ていない場合(例として、全株式譲渡制限会社において、株主総会の特別決 議を経ずに募集事項を決定する場合が挙げられる。238 条 2 項) 、 (ⅱ)公開会 社において、募集新株予約権の引受人に特に有利な条件等による発行が株主総 会の特別決議を経ずになされた場合(240 条 1 項) 、 (ⅲ)募集事項が均等でな い場合(238 条 5 項) 、 (ⅳ)新株予約権の割当てを受ける権利が無視される場 合(241 条 2 項) 、 (ⅴ)株主への通知を欠く場合(241 条 4 項) 、 (ⅵ)新株予 約権の内容(238 条 1 項各号)が定められていない場合などが挙げられてい る 32)。当該新株予約権の発行が定款に違反する場合とは、定款により定めら れた新株予約権の割当てを受ける権利を無視される場合が挙げられている 33)。 上記②の株主が不利益を受けるおそれがあることという要件についてであ る。募集新株予約権の発行によって株主に生じる不利益とは、株式の経済的価 値の低下と議決権の希釈化である 34)。もっとも、どのような場合に株主が不 利益を受けるおそれがあるかは、ケース・バイ・ケースで判断されると指摘さ れている 35)。 37.

(14) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). なお、新株予約権無償割当て(277 条)を対象とした差止めの請求も可能で あると解されている 36)。 (b)仮処分 募集新株予約権の発行差止請求権は、募集新株予約権の発行を「やめること」 を請求する権利である(247 条) 。そのため、募集新株予約権の発行の効力が 生じてしまうと、差止めをすることができなくなる。このことから、通常、株 主は、効力発生前に、会社を債務者として、募集新株予約権の発行差止請求権 を被保全権利とする募集新株予約権発行差止めの仮処分の申立てをおこなうこ ととなる (民保 23 条 2 項) 。この点は、 募集株式の発行差止請求権と同様である。 (c)議決権株式のディカップリングと差止め 募集株式の発行等に係る差止請求権の場合と同様に、ディカップリングによ り、ディカップリング株主は会社の価値の向上と無関係な自らの利益のみを図 るインセンティブがある。そのため、ディカップリング株主は、会社の利益に なる募集新株予約権の発行を阻止する動機を有することになる。ここでも、こ のような差止めの動機を、差止請求権を行使できる「株主」 (会社 247 条柱書) としての資格の有無という段階で判断すべきなのか、という点が問題となる。 「当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合」 (会社 247 条 1 号) においては、法令・定款を遵守した会社運営を確保する視点から、ディカップ リング株主であっても当該法令・定款違反を差止事由として新株予約権の差止 請求ができると解される。また、 「当該新株予約権の発行が著しく不公正な方 法により行われる場合」 (会社 247 条 2 号)においても、当該新株予約権の発 行が著しく不公正な方法により行われているか否かを検討する際に、差止請求 者の動機や属性を考慮すべきではないから、ディカップリング株主であること のみをもって、 「著しく不公正な方法」に基づく差止請求をなしえないと即断 すべきではないと思われる。したがって、議決権株式の株主がディカップリン 38.

(15) 株式のディカップリングに関する若干の考察. グ株主であっても、募集新株予約権の発行に係る差止請求権を行使できる「株 主」 (会社 247 条柱書)としての資格は有すると解される。 次に、募集株式の発行等に対する差止請求権の議論と同様に、募集新株予約 権の発行差止請求権においても 「株主が不利益を受けるおそれ」という要件(会 社 247 条柱書)を充足する必要がある。仮処分を行う場合においても、 「保全 の必要性」という要件(民保 23 条 2 項)を検討する上でも、被保全権利を構 成する「株主が不利益を受けるおそれ」という要件の充足が必要となる。 「株 主が不利益を受けるおそれ」のある募集新株予約権の発行とは、会社にとって 不利益な募集新株予約権の発行を実施する可能性は乏しいため、会社にとって 利益となる募集新株予約権の発行であっても、ディカップリング株主にとって 不利益となる募集新株予約権の発行となりうる。このことは、通常の株主が募 集新株予約権の発行差止請求権を行使する場合と同様である。ディカップリン グ株主であることのみをもって、 「株主が不利益を受けるおそれ」がないとは いえないであろう。問題となるのは、ディカップリング株主にとって不利益を 受けるおそれがある場合とは、どのような類型があるのかという点である。本 条の差止請求権は、 「株主の不利益」を要件としている以上、差止請求権者で ある当該株主になんらかの「不利益」が生じるおそれは必要である。 株主総会の特別決議を経ずに行われる募集新株予約権の引受人に特に有利な 条件等による当該新株予約権の第三者割当ては、通常、既存株主の持株の価値 も希釈化させる。この場合、ディカップリング株主は、トータル・リターン・ スワップ契約により、利益を受ける。このように、株式の経済的価値の希釈化 のみが当該新株予約権の発行による不利益である場合には、ディカップリング 株主は「不利益を受けるおそれ」はない。他方、会社に対する支配の帰属に争 いがある状況で、取締役が議決権の過半数を維持するための手段として新株予 約権を発行することは、著しく不公正な方法により新株予約権を発行する場合 に該当する 37)。この場合には、既存株主の持分比率が著しく低下することが ありうるので、 ディカップリング株主も 「不利益を受けるおそれ」がある。また、 39.

(16) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). いわゆる企業防衛策の一環として、基準日後の株式の移転に随伴しない新株予 約権が発行される場合も、保有株式の売却が困難になることから、ディカップ リング株主も「不利益を受けるおそれ」があると考えられる 38)。 募集新株予約権発行差止めの仮処分における「保全の必要性」は、 「株主が 不利益を受けるおそれがあるとき」に充足すると考えられる。募集新株予約権 の発行が為されてしまえば、もはや当該不利益は顕在化して回復するのが困難 であるからである。前述のように、株主に経済的利益が存在しなくとも、 「株 主が不利益を受けるおそれ」が生じる場合がある。そのため、株主に経済的利 益が存在することが保全の必要性が肯定されるための「要件事実」とはならな い。 (d)完全無議決権株式のディカップリングと差止め 完全無議決権株式の株主にも、法令や定款を遵守した募集新株予約権の発行 や「著しく不公正な方法」によらない募集新株予約権の発行を求めることがで きる。このことは、差止請求権を行使する主体の経済的な利益状況に依存しな い。そのため、完全無議決権株式の株主がディカップリング株主であっても、 募集新株予約権の発行に係る差止請求権を行使できる「株主」 (会社 247 条柱書) としての資格は有すると解される。もっとも、完全無議決権株式のディカップ リング株主が、持分比率の低下により不利益を受けるおそれがある場合を観念 することは極めて困難であろう。. (3)小括 自益権的共益権と位置付けられる①募集株式の発行等に係る差止請求権と② 募集新株予約権の発行に係る差止請求権を行使できる「株主」 (会社 210 条柱 書、247 条柱書)に、ディカップリング株主も該当する。しかし、募集株式の 発行等や募集新株予約権の発行による不利益が経済的な不利益に限定される場 合、ディカップリング株主は「株主が不利益を受けるおそれ」という要件(会 40.

(17) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 社 210 条柱書、247 条柱書)を充足することができない。. 4.株主総会等の決議の取消しの訴え 株主総会決議に取消事由に該当する瑕疵がある場合には、無効の一般原則に よれば集団的法律関係に影響を与えるため、決議取消訴訟という形成訴訟に よってのみ主張することができる(株主総会等の決議の取消しの訴え:会社 831 条)39)。決議取消しの請求を認容する確定判決には、第三者に対してもそ の効力が生じる(会社 838 条:対世的効力) 。また、 決議取消判決が確定すると、 当該決議は遡って無効となる(会社 839 条参照)40)。ディカップリング株主が 株主総会等の決議の取消しの訴え(以下、 「総会決議取消しの訴え」とする。 ) を提起する場合に生じる理論上の問題点は、訴訟要件の主観的要素である原告 適格(後述(1) )と訴訟要件の客観的要素である訴えの利益(後述(2) )とに 大別することができる。順次検討することとする。. (1)原告適格 (a)株主の議決権と原告適格 総会決議取消しの訴えにおいて提訴権者は法定されており、株主、取締役、 監査役などに限られている(会社 831 条 1 項。なお、 会社 828 条 2 項 1 号参照) 。 この提訴権を有する「株主」には、自己の利益を害されていない株主が含まれ るのか、という問題がある。このことは、例えば、自らは招集通知を受領し た株主 A が、株主 B への招集通知の欠缺を取消事由として、株主総会決議の 瑕疵に関する訴えを提起できるのか、という事例で顕在化する。判例は、 「株 主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集 手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのである」とする 41)。 その理由は、総会決議取消しの訴えという訴訟類型が、法令や定款を遵守した 会社運営を求める訴訟であることにある 42)。この判例を前提とすれば、議決 41.

(18) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 権のある株式についてディカップリング現象が生じた場合であり、且つ、当該 株式の株主が自己の利益を害されていない場合でも、法令や定款を遵守した会 社運営を求めるために、総会決議取消しの訴えを提起する原告適格があると解 すべきであろう。 ところで、決議取消しに係る訴権は議決権があることを前提とする共益権で あることを根拠に、議決権のない株主には原告適格を否定する見解がある 43)。 この見解によれば、完全無議決権株式の株主は、会社法 831 条 1 項の「株主等」 に該当しないことになる。総会決議取消しの訴えという制度が法令や定款を遵 守した会社運営を求めることにあるのであれば、議決権の有無にかかわらず、 法令や定款に違反した会社運営を是正する法的手段をひろく株主に提供すべき である。このことから、議決権のない株主も、議決権を有する株主の濫用的な 議決権行使に対抗できるように、総会決議取消しの訴えにおける原告適格を有 すると解すべきである 44)。また、法令や定款を遵守した会社運営を求める機 能を純粋に貫けば、議決権のない株主が、議決権を有する株主の濫用的な議決 権行使に基づく総会決議によって不利益を受ける可能性がなくても、議決権の ない株主は、総会決議取消しの訴えにおける原告適格を有すると解すべきであ ろう。 上記と類似する問題として、ある種類株式(例:取締役の選解任に関する種 類株式)に係る種類株主総会の決議取消しの訴えを、他の種類株主が提起する ことができるのか、という問題がある。例えば、A 種類株式と B 種類株式と いう 2 種類の株式を発行している株式会社を想定することとする。A 種類株 式に係る種類株主総会において、B 種類株式の株主は、議決権を行使すること ができない(会社 324 条参照) 。A 種類株式に係る種類株主総会を基準に考え れば、B 種類株式の株主は、A 種類株式に係る種類株主総会での議決権を有 しない。この点で、完全無議決権株式における原告適格の問題と類似する。A 種類株式に係る種類株主総会において、濫用的な議決権行使に基づく種類株主 総会決議が行われた場合、A 種類株式以外の B 種類株式の株主が当該決議に 42.

(19) 株式のディカップリングに関する若干の考察. より不利益を被る可能性がある。そうであれば、B 種類株式の株主も、A 種類 株式に係る種類株主総会の決議取消しの訴えに係る原告適格を有すると解すべ きであろう 45)。さらに、法令や定款を遵守した会社運営を求める機能を純粋 に貫けば、A 種類株式に係る種類株主総会において、濫用的な議決権行使に 基づく種類株主総会決議が行われ、A 種類株式以外の B 種類株式の株主が当 該決議により不利益を被る可能性がない場合でも、B 種類株式の株主も、A 種 類株式に係る種類株主総会の決議取消しの訴えに係る原告適格を有すると解す べきことになろう。 株主総会の決議によって株主の地位を奪われた場合、株主としての地位を奪 われた「元株主」は当該総会決議取消しの訴えに係る原告適格を有するのか、 という問題もある。全部取得条項付種類株式の取得に関する決議(会社 171 条 1 項)がなされる場合にこの問題が発生する。当該総会決議が取り消されれば、 当該「元株主」も、 株主としての地位を回復する可能性がある 46)。このことから、 当該「元株主」も当該総会決議取消しの訴えに係る原告適格を有すると解され ている 47)。 (b)議決権株式のディカップリングと原告適格 判例によれば、総会決議取消しの訴えは、法令や定款を遵守した会社運営を 求める訴訟類型と位置付けられる。これを前提に、まず議決権のある株式につ いてディカップリング現象が生じた場合を検討することとする。議決権のある 株式についてディカップリング現象が生じた場合とは、換言すれば、議決権を 有する株主がディカップリング株主となる類型である。ディカップリング株主 は会社の業績や評価が下落したときに経済的利益を得られる。法令や定款に違 反した会社運営を訴訟で明らかにすることにより、会社に対する評価を下落さ せる動機から、ディカップリング株主が総会決議取消しの訴えを提起すること も考えられる。しかし、上記のような動機からディカップリング株主が総会決 議取消しの訴えを提起する場合であっても、法令や定款を遵守した会社運営の 43.

(20) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 維持に資するものであり、他の株主にとっても有益である。総会決議取消しの 訴えが法令や定款を遵守した会社運営を求める訴訟類型である以上、ディカッ プリング株主以外に取消事由が生じた場合であっても、ディカップリング株主 は、総会決議取消しの訴えの原告適格を有することになる。 同様に、A 種類株式に係る種類株主総会において、取消事由に該当する瑕 疵を帯びた決議が成立した場合、B 種類株式の株主がディカップリング株主で あり、A 種類株式に係る種類株主総会決議により不利益を受けない場合であっ ても、A 種類株主総会決議の取消しの訴えにおいて原告適格を有すると解す る。総会決議取消しの訴えの機能が、法令や定款を遵守した会社運営の確保に あることから、総会決議取消しの訴えの原告が実際に当該決議により不利益を 受けたか否かは、原告適格の有無の判断に影響を与えない。したがって、B 種 類株式の株主が A 種類株式に係る種類株主総会決議により不利益を受けるか 否かは問題とならない。また、提訴者の属性に関わらず、瑕疵のある A 種類 株主総会決議の取消しを通じて、法令や定款を遵守した会社運営が確保され る。そうであれば、 原告適格を A 種類株式の株主や「非ディカップリング株主」 に限定する必要はないことになる。 そして、取消事由に該当する瑕疵を帯びた株主総会の決議によって株主の地 位を奪われた場合、総会決議取消しの訴えは、法令や定款を遵守した会社運営 を求める訴訟類型と位置付けられる以上、当該「元株主」がディカップリング をしていたとしても、当該株主総会の決議の取消しを通じて法令や定款を遵守 した会社運営を求めることができる。また、当該株主総会の決議が取り消され れば、当該「元株主」も、株主としての地位を回復することになる。このこと から、当該「元株主」がディカップリングをおこなっていたとしても、原告適 格を有すると解すべきである。 (c)完全無議決権株式のディカップリングと原告適格 決議取消しに係る提訴権は議決権があることを前提とする共益権であること 44.

(21) 株式のディカップリングに関する若干の考察. を根拠に、議決権のない株主には提訴資格を否定するのが通説とされているが、 総会決議取消しの訴えは、法令や定款を遵守した会社運営を求める訴訟類型と 位置付けられる以上、完全無議決権株式の株主にも、総会決議取消しの訴えの 原告適格があると解すべきである。このことは、当該決議により完全無議決権 株式の株主が不利益を受けるか否かに影響を受けるものではない。前述のよう に、総会決議取消しの訴えの機能が、法令や定款を遵守した会社運営の確保に あるため、総会決議取消しの訴えの原告が実際に当該決議により不利益を受け たか否かは、原告適格の有無の判断に影響を与えないからである。 同様に、A 種類株式に係る種類株主総会において、取消事由に該当する瑕 疵を帯びた決議が成立した場合、B 種類株式(完全無議決権株式)の株主がディ カップリング株主であっても、A 種類株主総会決議の取消しの訴えにおいて 原告適格を有すると解する。このことは、A 種類株式に係る種類株主総会決 議により不利益を受けない場合であっても、影響を受けない。 取消事由に該当する瑕疵を帯びた株主総会の決議によって株主の地位を奪わ れた場合、当該「元株主」がディカップリングをしていたとしても、原告適格 を有すると解すべきである。総会決議取消しの訴えは、法令や定款を遵守した 会社運営を求める訴訟類型と位置付けられる以上、当該「元株主」がディカッ プリングをしていたとしても、当該株主総会の決議の取消しを通じて法令や定 款を遵守した会社運営を求めることができること、当該株主総会の決議が取り 消されれば、当該「元株主」も、株主としての地位を回復することがその根拠 である。. (2)訴えの利益 (a)判例法理 総会決議の取消しの訴えは、形成の訴えである。形成の訴えは、法律の規定 がある場合に限って認められる訴訟類型であるから、法律の規定する要件を充 たすときには、訴えの利益が存在するのが、原則である 48)。しかし、判例は、 45.

(22) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 事情の変更により、形成の訴えにおいても訴えの利益が消滅する場合があると する 49)。その例として、①取締役などの役員選任決議の効力を争う訴訟の係 属中に、当該役員が退任し、且つ、次の役員が選任された場合、②株主総会決 議取消訴訟の係属中に同一内容の再決議が適法になされた場合である。上記① の場合について、判例は、 「株主総会決議取消の訴は形成の訴であるが、役員 選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役 員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら 役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役 員がもはや現存しなくなつたときは、右の場合に該当するものとして、特別の 事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るも のと解するを相当とする」と判示する 50)。 また、上記②の判例は、次のような事案である。昭和 62 年 3 月 30 日に開催 した定時株主総会において退任取締役及び退任監査役に退職慰労金を贈呈する 旨の決議( 「第一の決議」 )がなされ、当該第一の決議の取消しを求める訴えが 提起され、第一審は第一の決議を取り消す旨の判決を言い渡した。その後に昭 和 63 年 3 月 30 日に開催した定時株主総会において同一の議案(ただし、第一 の決議に係る前株主総会におけるのと異なり、贈呈すべき退職慰労金の総額が 明示された。 )が可決された( 「第二の決議」 ) 。当該第二の決議については、こ れに対する取消訴訟等の提起もなく確定した。そして、第二の決議によれば、 退職慰労金支給の時期は昭和 62 年 3 月 31 日とされ、第二の決議は、第一の決 議の取消しが確定した場合に、さかのぼって効力を生ずるものとされていた、 という事案である。これに対して、 「本件においては、仮に第一の決議に取消 事由があるとしてこれを取り消したとしても、その判決の確定により、第二の 決議が第一の決議に代わってその効力を生ずることになるのであるから、第一 の決議の取消しを求める実益はな」いと判示した 51)。 上記②の事例は、再決議が行われて、その効果が遡及的に適用されることに なる。再決議により法令や定款を順守した会社運営が確保されることになるか 46.

(23) 株式のディカップリングに関する若干の考察. ら、このような遡及効により第三者が害されない限り、訴えの利益が消滅する ことも肯首できる。ディカップリングとの関係で問題となるのは、上記①の事 例である。上記①の判例は、既に退任した役員の地位を遡及的に喪失させるこ とによって生じる具体的な実益を「特別の事情」として証明しない限り、訴え の利益が消滅するとするものである 51)。確かに、当該役員の責任を追及する ことや当該役員の報酬支払根拠がないことなどは、上記の具体的な実益とは言 えない 52)。役員の地位を遡及的に消滅させることによる「具体的」な実益が ある場合は、ほとんど考えられないであろう 53)。しかし、役員の地位を遡及 的に消滅させることについて、会社運営の適法性や定款遵守の確保という「抽 象的」な実益は存在する 54)。法令や定款を遵守した会社運営の確保が決議取 消しの訴えという制度の趣旨であるならば、取消しの対象となる株主総会決議 で選任された役員が退任したことをもって、訴えの利益が消滅すると解する必 要はない。換言すれば、取消しの対象となる株主総会決議で選任された役員が 退任したとしても、当該株主総会決議の取消しの訴えにおける訴えの利益は消 滅しないと解すべきである。 (b)ディカップリングとの関係 仮に、判例法理のように、取消しの対象となる株主総会決議で選任された役 員が退任した場合には訴えの利益が消滅すると解釈を前提にしたとしても、法 令や定款を遵守した会社運営の確保が決議取消しの訴えという制度の趣旨であ れば、提訴権者がディカップリング株主であることが、訴えの利益の有無に影 響を与えると解すべきではない。決議取消しの訴えは形成訴訟であるため訴え の利益が消滅する場合は例外的であること、ディカップリング株主であっても、 前述のように法令や定款を遵守した会社運営の確保という観点に基づいて、決 議取消しの訴えにおける原告適格を有していることから、訴えの利益が消滅す る場合を拡張して解すべきでないからである。また、法令や定款を遵守した会 社運営の確保という観点を強調すれば、単に取消しの対象となる株主総会決議 47.

(24) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). で選任された役員が退任しただけでは、訴えの利益は消滅しないと解釈するこ ととなる。この場合であっても、ディカップリング株主であることが訴えの利 益が消滅する事由とはならない。ディカップリング株主も、法令や定款を遵守 した会社運営の確保という観点に基づいて、決議取消しの訴えにおける原告適 格を有しているからである。. 5.むすびにかえて 一般に、共益権は、自益権の価値を保障するものと位置付けられている。し かし、ディカップリングは、自益権と共益権と切り離す。このため、自益権を 有しない者が、共益権を行使することは不適切ではないか、という疑問が生じ る。本稿では、自益権的共益権とされる①募集株式の発行等に係る差止請求権 や②募集新株予約権の発行に係る差止請求権については、ディカップリング株 主も差止請求権を行使することができる「株主」 (会社 210 条柱書、247 条柱書) であることが明らかになった。しかし、募集株式の発行等や募集新株予約権の 発行による不利益が経済的な不利益に限定される場合、ディカップリング株主 は「株主が不利益を受けるおそれ」という要件(会社 210 条柱書、247 条柱書) を充足することができない。これに対して、共益権の典型例である③株主総会 等の決議の取消しの訴えについても、ディカップリング株主は原告適格を有す ること、 及び、 訴えの利益において特別な考慮は不要であることが明らかとなっ た。 自益権的共益権である上記①及び②においては、法令・定款を遵守した会社 経営をディカップリング株主が求める場合であっても、経済的利益が欠如して いるため、差止請求権の行使ができなくなる類型が存在する。このことは、仮 処分における「保全の必要性」の存否にも影響を与える。他方、共益権である 上記③においては、ディカップリング株主に経済的利益が欠如していることを 考慮する必要がない。これは、自益権的共益権として位置付けられる上記①及 48.

(25) 株式のディカップリングに関する若干の考察. び②の差止請求権と、株主総会決議の取消しを認容する確定判決には対世的効 力(会社 838 条)がある上記③の総会決議取消しの訴えの制度趣旨の違いから 生じているものである。法科大学院における会社法教育においても、法令・定 款を遵守した会社経営の確保という視点から、募集株式の発行等に係る差止請 求権及び募集新株予約権の発行に係る差止請求権の要件を検討し、 「株主が不 利益を受けるおそれ」という要件(会社 210 条柱書、247 条柱書)の位置付け を確認させることも有益と思われる。このことにより、会社に損害を生ずるお それを要件とする取締役の行為の差止請求権(会社 360 条)や執行役の行為の 差止請求権(会社 422 条)との関係性がより明確になるからである。また、総 会決議取消しの訴えを検討する際に、株主に経済的利益が欠如していることが 原告適格に影響を及ぼすのか否かを検討させることも有益であると思われる。 本稿では、株主の経済的利益を第三者に全て移転するという最も極端な類型 を想定した。第三者に対して移転した経済的利益の割合が、募集株式の発行等 に係る差止請求権や募集新株予約権の発行に係る差止請求権の成否に影響を与 えるか否かなどの検討が今後の課題となる。 . (2012 年 10 月 29 日脱稿). 【追記】 本稿の草稿段階において、民事訴訟法・民事保全法の分野について、石渡哲 教授(横浜国立大学)から有益な示唆を賜った。記して感謝を表する次第であ る。なお、 当然のことながら、 本稿におけるすべての誤謬は、 筆者の責任に帰す。 1)司法制度改革審議会 「司法制度改革審議会意見書- 21 世紀の日本を支える司法制度-」 (平 成 13 年 6 月 12 日)67 頁。 2)大隅健一郎=今井宏=小林量『新会社法概説〔第 2 版〕 』 (有斐閣、2010 年)14 頁。 3)法科大学院におけるコア・カリキュラムとなる「共通的な到達目標モデル(第二次案修 正案) :商法」は、募集新株の発行等の差止請求権を、法科大学院の商法教育において教 示すべき事項としている(3 - 3 - 2 新株発行) 。また、 「共通的な到達目標モデル(第 二次案修正案) :商法」は、株主総会決議の取消しの訴えを、法科大学院の商法教育にお 49.

(26) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). いて教示すべき事項としている(3-4-2-4 株主総会の決議の種類・瑕疵) 。 4)江頭憲治郎『株式会社法[第 4 版] 』 (有斐閣、2011 年)124 頁。 5)同上 125 頁。 6)同上 124 頁。 7)なお、 「共通的な到達目標モデル(第二次案修正案) :商法」の前身である当初の「コア・ カリキュラム:商法」は、 「決議取消の訴えについての訴えの利益がなくなる場合の具体 例を挙げることができる」という項目を挙げていた(3 - 4 - 2 - 4 株主総会の決議の種 類・瑕疵) 。 8)この点が、株主総会等の決議の取消しの訴えを分析の対象とした理由である。なお、 「株 主総会等の決議の不存在の確認の訴え」や「株主総会等の決議の無効の確認の訴え」は 会社法上「確認訴訟」に分類され(会社 830 条) 、原告適格も株主に限定されないため、 考察の対象から除外した。 9)例えば、 大隅健一郎=今井宏『会社法論上巻〔第 3 版〕 ( 』有斐閣、1991 年)292 頁参照。また、 仮屋広郷「金融工学と会社法」川村正幸先生退職記念論文集『会社法・金融法の新展開』 (中央経済社、2009 年)65 頁。 10)大隅=今井・前掲注(9)43 頁。 11)龍田節『会社法大要』 (有斐閣、2007 年)156 頁。 12)仮屋・前掲注(9)65 頁。 13)仮屋・前掲注(9)70 - 71 頁。 14)Thomas Lee Hazen, Treatise on the law of securities regulation § 1.5 n.15(2009) . 15)太田洋「ヘッジファンド・アクティビズムの新潮流-英米における対応とわが国上場企 業法制への示唆」西村高等法務研究所編『金融商品取引法と企業戦略―資本市場との対 話と実務対応』 (商事法務、2008 年)171 頁。 16)同上 171 - 172 頁。 17)同上 172 頁参照。 18)同上 172 頁参照。 19)三井秀範「金融・資本市場 の 観点 か ら 重要 と 考 え ら れ る 論点」法制審議会会社法制 部 会 第 3 回 会 議(平 成 22 年 6 月 23 日 開 催) 参 考 資 料 14( http://www.moj.go.jp/ content/000049415.pdf) 。 20)司法制度改革審議会・前掲注(1)67 頁。 21)司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実』第 1 巻(法曹会、 昭和 61 年)3 頁。 「要 50.

(27) 株式のディカップリングに関する若干の考察. 件事実」という概念自体にも多様性があるが、本稿では、要件事実に関する司法研修所 の見解を前提とすることとする。なお、拙稿「手形訴訟における主張・証明責任-法科 大学院教育の視点から-」横浜国際経済法学 20 巻 1 号 1 - 3 頁(2011 年)参照。 22)伊藤眞『民事訴訟法[第 4 版] (有斐閣、2011 年)356 頁。 23)法律要件分類説とは、法規の定める法律効果を権利発生、権利障害、権利阻止又は権利 消滅に分類して、当該法律の効果が自己に有利に作用する当事者に証明責任の分配する 見解である。伊藤・前掲注(22)356 - 357 頁参照。 24)江頭・前掲注(4)710 頁。 25)同上 705 頁参照。 26)同上 706 頁。 27)東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社訴訟Ⅱ〔第三版〕 』 (判例 タ イ ム ズ、2011 年) 568 頁。 28)同上 569 頁。 29)同上 569 頁。 30)同上 569 頁。 31)酒巻俊雄=龍田節(編集代表) 『逐条解説会社法』第 3 巻(中央経済社、2009 年)303304 頁〔松井秀征〕参照。 32)江頭・前掲注(4)742 頁。 33)同上 742 頁。 34)酒巻=龍田(編集代表) ・前掲注(31)306 頁〔松井秀征〕 。 35)江頭憲治郎編『会社法コンメンタール 6―新株予約権』 (商事法務、2009 年)112 頁〔洲 崎博史〕 。 36)江頭・前掲注(4)742 頁。 37)同上。 38)新株予約権の無償割当てについて、東京高判平成 17・6・15 判時 1900 号 156 頁。 39)江頭・前掲注(4)343 頁参照。 40)同上 348 頁参照。 41)最判昭和 42・9・28 民集 21 巻 7 号 1970 頁。 42)江頭・前掲注(4)347 頁参照。 43)同上参照。 51.

(28) 横浜国際経済法学第 21 巻第 2 号(2012 年 12 月). 44)弥永真生「会社の組織に関する訴えと株主の原告適格」慶應法学 11 号 199 頁(2008 年) 。 なお、平成 18 年改正前商法における議論について、上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫(編 集代表) 『新版・注釈会社法(5) 』 (有斐閣、平成 4 年)329 頁〔岩原紳作〕 、洲崎博史「優 先株・無議決権株に関する一考察(二・完) 」民商 91 巻 4 号 556 - 557 頁(1985 年)参照。 45)相澤哲ほか編『論点解説 新・会社法』 (商事法務、2006)105 頁。 46)江頭・前掲注(4)347 頁。 47)このように解する裁判例として、東京高判平成 22・7・7 判時 2095 号 128 頁。 48)最判昭和 37・1・19 民集 16 巻 1 号 76 頁。 49)最判昭和 45・4・2 民集 24 巻 4 号 223 頁は、 「形成の訴は、法律の規定する要件を充たす かぎり、訴の利益の存するのが通常であるけれども、その後の事情の変化により、その 利益を欠くに至る場合がある」とする。また、本判決が引用する最判昭和 37・1・19 民 集 16 巻 1 号 76 頁は、 「形成の訴は、法律に規定のある場合に限つて許される訴である から、法律の規定する要件を充たす場合には訴の利益の存するのが通常であるけれども、 その後の事情の変化により右利益を欠くに至る場合がないわけではない」とする。 50)最判昭和 45・4・2 民集 24 巻 4 号 223 頁,225 頁。 51)最判平成 4・10・29 民集 46 巻 7 号 2580 頁。 52)江頭・前掲注(4)350 頁参照。 53)例えば、野田博「役員選任決議取消の訴え―役員が退任した場合と訴えの利益」会社法 判例百選[第 2 版]85 頁(2011 年) 。 54)ある裁判例によれば、会社の損害を回復する不可欠の手段である場合のみが、この具体 的な実益に該当するとする(東京高判昭和 57・10・14 判タ 487 号 159 頁) 。役員の行為 により会社が損害を被る場合には役員の何らかの義務違反が伴うことがほとんどである から、役員の地位を遡及的消滅させることが会社の損害を回復するための不可欠の手段 であることは極めて稀であろう。 55)中島弘雅「株主総会決議訴訟の機能と訴えの利益(三・完) 」民商 99 巻 6 号 801 頁以下 (1989)参照。また、伊藤・前掲注(22)179 - 180 頁参照。. 52.

(29)

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