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マレーシアにおけるパームオイル産業のゼロエミッション化にむけての取り組み

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1. は じ め に 低炭素化社会の実現に向けて,バイオマス資源の利用 に注目が集まっている。バイオマス変換についても,多 くの優れた技術が開発されている。しかし,バイオマス 利用に関しては,変換技術がどれだけ優れていても,そ れだけでは社会的に普及することは難しい。バイオマス は石油と比較すると安定した供給,効率的な輸送・貯蔵 などロジスティックスの点で多くの問題を抱えている。 たとえば,我が国のように四季のある国では,年間を通 して都合よくバイオマスを集めることは難しい。また, 廃屋材のように四季を通じて集めることが可能なバイオ マスであっても,石油のように一定の品質が保証できる バイオマスを得ることも難しい。 その点,熱帯のバイオマスの中には油ヤシの木のよう に 1 年を通して安定して果実を収穫できるものもある。 さらに,その実から取られる油は大規模な工場で連日搾 油されるため,パームオイルの生産に際し,副生される 膨大なバイオマスが工場に自動的に集積される。これら の大半は工場のエネルギーとして利用されているが,少 なからずの均質のバイオマスが 1 年を通して安定的に獲 得できる。本総説では,バイオマスの有効利用の観点か ら,マレーシアにおけるパームオイル産業のゼロエミッ ション化に向けた取組みについて述べることとする。 2. パームオイル産業の現状 パームオイルは油ヤシの木の実から搾られる植物油で ある。ダイズ,ナタネと並び,世界 3 大植物油のひとつ である。油ヤシは地上で最大の光合成能力をもつと言わ れているが,限られた気候条件の下でしか栽培できな い。すなわち,温暖かつ恒温で高い日射量が要求され る。また,定期的かつ多量の降雨が必要で,さらに,水 はけのよい立地と,収穫のためには平坦な土地が広大に 必要である。これらの条件に適合する場所は赤道周辺南 北 15° の地域に限られる。すなわち,先進国では決して 栽培できない植物である。 マレーシアとインドネシア,タイ南部はこれらの条件 に最適な場所であり,マレーシアが世界最大のパームオ イル産油国のひとつである理由もここにある1)。2000 年 におけるマレーシアの油ヤシプランテーションの総面積 は 3 万 3 千平方キロメートルであり,マレーシア国土(33 万平方キロメートル)の 10%を占めている1)。

図 1 に油ヤシの木とその実(FFB: fresh fruit bunch: 油ヤシ実房に 1000 個以上つく)の写真を示す。パーム オイル産業では多くの場合,FFB の量を基準にさまざ まなバイオマス量が見積もられる。たとえば,ヤシの実 から搾った CPO(粗パームオイル)の収率は FFB あた り約 20%である。この値を下回ると,搾油工場の責任 者の評価が下がる。搾油にあたって,まず FFB は蒸気 を使って蒸煮される。現在の回分式の蒸煮プロセスでは, 75 分から 90 分にわたって,最高温度 140°C(圧力+ 2 気圧)をピークに 2,3 回圧力をスイングする操作がな されている。これは FFB から油ヤシの実を取り易くす ると同時にリパーゼ等の酵素を失活させ,CPO の劣化 を防止するためである2)。

マレーシアにおけるパームオイル産業の

ゼロエミッション化にむけての取り組み

Towards Zero Emission from Palm Oil Industry in Malaysia

白井 義人

1

*,モハメッド・アリ・ハッサン

2

YOSHIHITO SHIRAI and MOHD ALI HASSAN

1 九州工業大学大学院生命体工学研究科 〒 808–0196 北九州市若松区ひびきの 2–4 2 マレーシアプトラ大学生物工学・分子生物科学部 〒 43400 UPM セルダンセランゴー州マレーシア

* TEL: 093–695–6070 FAX: 093–695–6060 * E-mail: [email protected]

1 Graduate School of Life Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology, 2–4 Hibikino, Wakamatsu-ku, Kitakyushu-shi, Fukuoka, 808–0196, Japan

2 Faculty of Biotechnology and Biomolecular Sciences, University Putra Malaysia, 43400 UPM Serdang, Selangor, Malaysia

キーワード:パームオイル産業,バイオマス,地球温暖化ガス削減,CDM

Key words: Palm Oil Industry, Biomass, Reduction of Global Worming Gas, Clean Development Mechanism (CDM)

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このとき分取されるのが EFB(Empty Fruit Bunch: ヤシ空房)である。EFB は蒸煮の蒸気により含水率が 高く,燃焼させても得られるエネルギーは低い。次に, 取られたヤシの実を搾汁し,油を搾る。ここで,実の中 の核(ナッツ)と繊維(メソカップファイバー)が分離 される。ナッツの中には種(その中に核油)が含まれ, 核油を搾油する原料となる。ナッツを砕き,種を取り出 した後,残る固形分が殻(シェル)である。メソカップ ファイバーとシェルは含水率が低く,良好な燃料になる。 さて,搾油された油は湯と混合されて浄化される。こう して浄化された油が CPO となる。つまり,CPO は,1 回の収穫操作で 1000 個を超える実が一度に得られる効 率的な作業で得た FFB から,機械的に実が分別,圧搾 されて得た油を水でリンスするだけで得られるのであ る。搾油工程では水以外に使われるものは基本的にない。 このように比較的容易でコストのかかる薬剤の消耗も ほとんどないプロセスにより生産される CPO であるが, その価格は以外に高い。昨年(2008 年)石油の値段が 1 バレル 200 ドルに近づいた頃の CPO の価格は 1 トン 1000 ドルを越えていた。現在,値は下がったとはいえ, 1 トン 700 ドルは下らない価格で取引されている。現在, マレーシアでは年間 1300 万トン以上の CPO が生産さ れているので,CPO だけに限っても,約 100 億ドルの 価値となる。赤道周辺の開発途上国がマレーシアを習い, パームオイルに高い関心を示すのも,このように国を豊 かにできる可能性がパームオイルに秘められているから である。 一方,CPO を製造する工程では,油中の水可溶分や 比重の大きい SS(懸濁固形分)が洗浄水と共に廃棄さ れる。これが POME(Palm Oil Mill Effluent:パームオ イル廃液)である。POME は BOD が 1 万 5 千 ppm 以上, COD が 4 万 ppm,SS が 1 万 ppm もあり,生産された CPO の 2.5 倍から 3.5 倍も排出され3) ,現在,年間 50 万 トンの POME が排出されていると言われている4)。 3. パームオイル産業からのバイオマス資源 油ヤシの木は年間を通して FFB を産する。プランテー ションで収穫された FFB は連日トラックに積まれ,搾 油工場に運ばれる。工場からは連日,CPO が大型のも のでは 40 トンを越える大きさのタンクローリーに積ま れて,輸出港近くにある精製工場に運ばれる。図 2 に搾 油工場前に列をなす FFB を運ぶトラックを示す。繁農 期には連日このような光景が見られる。搾油工場では, CPO 以外でも,FFB に含まれる成分は一旦工場に集積 される。そのため,これを利用することは容易である。 以下その量について検討する。 筆者が共同研究先の FELDA 社の技術者からヒアリン グした結果によると,一般的にパームオイル産業から排 出されるバイオマスや CPO 製造に必要な電力は表 1 に示 すようにまとめられる。FELDA 社は世界最大のパームオ イル企業のひとつである。搾油工場を 70 以上有し,1 工 図 1.油ヤシの木と FFB 及び油ヤシの実(油ヤシの木は最近品 種改良されてつくられた低木種) 図 2.搾油工場内に列を成す FFB を満載したトラック 表 1.パームオイル搾油工程で排出される バイオマスと必要なエネルギー FFB 1 トンから CPO 生産量とバイオマス排出量[トン] CPO 0.2 メソカップファイバー 0.12–0.13 シェル 0.06–0.07 EFB 0.22–0.24 POME 0.6–0.7 FFB 1 トンから CPO を製造する際に要する電力と蒸気量 電力 17–18 kWh 加圧水蒸気(+2 気圧) 1 トン

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場あたり,搾油用に FFB を概ね 18 万トンが農家から買 い上げられている。以降,この数字を基に考察を進める。 FFB の量を 18 万トン/年と仮定すると,1 工場から排 出されるメソカップファイバー,シェル,EFB の量は, それぞれ,23000 トン,12000 トン,42000 トンになる。 ま た, 廃 液 で あ る POME は 約 12 万 ト ン 排 出 さ れ, DOE(マレーシア環境局)の基準に基づいて処理され ている。しかし,その処理法は後述するようにプリミティ ブである。 排出されるバイオマスのうち,メソカップファイバー (図 3)は実の中の油とナッツを除いた部分であるが, 含水率が低く,また,灰分も少ないため搾油工場の燃料 源として利用されている。表 1 から計算できるように, 18 万トンの FFB を処理するためには 315 万 kWh(270 万 Mcal)の電力と 18 万トンの加熱水蒸気が必要になる。 プロセス温水は一旦水蒸気にされ,凝縮後,リンス用と して用いられている。したがって,これらが POME と なり,その量も 12 万トンと大量になる。これらのエネ ルギーは現状ではメソカップファイバーとシェルの一部 の燃焼により賄われている。このように考えるとエネル ギーの多くは蒸気製造に用いられていることがわかる。 一方,EFB については 1 工場あたり,42000 トンと膨 大であるが,含水率が 60 ∼ 70%もあるため,発熱量が 低く,燃料としてはあまり好ましくない。EFB の写真 を図 4 に示す。一方,EFB はカリ成分が多く含まれる ため,優れた有機肥料となり得る15)。実際,古い工場で は焼却炉で焼却され,燃え残った灰をカリ肥料として売 られている。また,新しい工場や都市部に近い工場では 焼却が許されておらず,プランテーションの保水効果を 向上させる補助材として,プランテーションに返送され ているところが多い。これは結果的にカリ成分のプラン テーションへの返送につながり,プランテーションの持 続性の維持に一役買っている可能性は高い。 昨今,EFB がバイオマス資源・燃料として注目され, 一部にはもう自由に獲得できるものではないという情報 も流れているが,もし EFB が海外に多量に持ち出され るようなことになれば,プランテーションの持続性を損 なう可能性が懸念される。 4. POME 処理とメタン発酵 パームオイル搾油工場から排出される廃液(POME) は量が多いばかりでなく,高濃度である。さらに,成分 的にも難分解なリグノセルロース分を多く含み,一般的 に処理は容易でない。マレーシアでは POME のメタン 発酵については 1980 年代から多くの研究がある5–10)。し かし,それらの結果はいずれも十分な処理のためには, POME の長い滞留時間が必要であることが示されてい る。実際,POME の処理は図 5 で示すような広大な嫌 気処理池(深さ 5 m 以上)をいくつも用い,好気理処 理も含め,60 日程度の処理時間をかけて処理されてい る。そのため,搾油工場には工場敷地の数倍の面積の POME 処理池を備えるところも珍しくない。 一方,嫌気処理池をつくる広さが足りない立地条件や, 工場建設時に鉄の価格が低かったなどの条件で,図 6 に 示すような嫌気処理タンクを複数備える工場もある。図 図 3.搾油プロセスから排出されるメソカップファイバー 図 4.搾油プロセスから排出される EFB 図 5.POME 嫌気処理池 図 6.POME 処理用嫌気開放タンク

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でも示すように,このタンクの上部は開いており,嫌気 処理池と同様,生成したメタンはそのまま大気中に放出 されている。現在のところ,メタンを回収して利用して いる搾油工場は非常に少ない。放出されたメタンは炭酸 ガスの 21 倍の温暖化係数をもつガスであり,地球温暖 化問題の観点からは,その放出は制限されるべきである。 現在,パームオイル産業は収益性が高い産業である。 また,パームオイルそのものが生産できる場所が限られ ており,新規参入の競争者が多く現われる心配も少ない。 そのため,現状を大きく改変する動機も少ない。POME からメタンを回収し,発電事業や毎日集まっているも膨 大なバイオマスを用いて新しい事業を始めることも,必 ずしも積極的でない。しかし,ここにはバイオマスを利 用できる多くのチャンスがあることも確かであり,第 3 者がパームオイル企業と連携して,新産業を興すことは 十分に可能である。 筆者らは,POME のメタン発酵大型パイロットプラ ントを FELDA 社と共同でつくり,同社の Serting Hilir 工場に設置し,実験を行った。このタンクは縦方向と横 方向の循環流による攪拌ができるようになっている。ま た,汚泥の回収用沈降槽を設け,汚泥を返送し,微生物 濃度を高く保つこともできる。図 7 にそのパイロットプ ラントを示す。 POME を 1 日に 1 回供給するだけの操作で攪拌を行 わない操作でメタン発酵を試みた。その結果,POME の液滞留時間を 17 日に設定することによって,POME 投入開始後 3 ヶ月で安定的な廃液処理が可能になった。 すなわち,COD 除去率 97%で安定した。しかし,メタ ンの COD あたりの収率は低く,COD 1 kg あたりわず か 0.1 kg しか発生しなかった。これは微生物濃度が高 く保てなかったことと,POME の成分が難分解性の成 分が多く,見かけ上,メタン収率が低下したことにも因 ると考えられる11)。 一方,横方向の液流をポンプで起こし,緩やかに攪拌 すると液滞留時間を 10 日に短縮することに成功し, COD 除去率も 92%∼ 97%を記録した。メタン収率も 0.15 kg/kg-COD まで上昇させることもできた12) 。しか し,メタン収率は一般的な値と比較すると低い。これは POME の COD 成分として難分解性の成分を多く含む ことによると考えられる。 5. 地球温暖化ガス削減の方法論としての CDM とパームオイル産業での適用 FELDA 社とは 2004 年より国際産学共同研究契約を 結び,様々なバイオマス利用と POME の処理,並びに 地球温暖化の経済的な対策手法として京都議定書でも認 められた Clean Development Mechanism(CDM)の認証 を得ることもテーマとして取組んだ。CDM とは,開発 途上国と先進国が協力し,途上国で温暖化ガス削減事業 を行った場合,その削減量を両者で共有できる制度であ る。この際,先進国から温暖化ガス削減に資する技術移 転を伴う必要がある。認証は国連の CDM 理事会によっ てなされる。CDM 事業が認められるためには,現在ど れだけの地球温暖化ガスが放出されており(ベースライ ン),それが CDM 事業を行うことにより,どの程度低 減 さ れ る か を 客 観 的 に 説 明 せ ね ば な ら な い。 ま た, CDM 事業にすることにより,つまり,削減温暖化ガス の売買益を入れることによって初めて事業性が生まれる (Additionality)事業である必要もある。さらに,CDM 事業が途上国の持続可能な成長に貢献することも求めら れる13)。 前節で述べたように,パームオイル産業では廃液処理 工程で多くのメタンガスが大気中に放出されている。筆 者らは開放式タンクによる POME 処理工程でどれくら いのメタンが放出されているかを,Serting Hilir 工場で 1 年間を通して測定した14) 。さらに,Serting 工場の嫌気 処理池でも年間を通じ,メタン発生量を測定した4)。こ れらの工場では POME 処理後に河川放流する際の放流 点での COD の記録が残されている。そのため,メタン の放出量と COD の削減量との関係を調べた。その結果 を図 8 に示す。この関係があれば,工場の廃液処理実績 記録を見れば,その年にどれだけのメタンが放出されて いたかを見積もることができ,客観的に検証をすること ができる。

図 7.Seting Hilir 工場に設置された 500 m3の POME メタン発

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を蓋閉めし,槽内をポンプで攪拌する方式でメタン発酵 を行い,発生したメタンをガスエンジンによって発電し, マレーシア電電公社(TNB)に売電する CDM 事業を企 画した。6 基のタンクの内第 1 タンクは POME の貯留に, 最後の第 6 タンクはバルーン方式のメタン貯留タンクと して利用されている。この事業の提案書は国連の CDM 理事会に送られ,審査の結果,2009 年 3 月に国連に登 録された13)。

CDM を申請した計画書(Project Design Document: PDD)によると,この CDM 発電事業の発電量は 1300 kW であり,年約 35,000 トンの CO2 換算の温暖化ガス削減 が認められている。設備費は約 1000 万リンギット(3 億 円:30 円 / リンギットと仮定)である。電気の売電収 入は年約 100 万リンギット(3,000 万円)と見積もられ ている。もし温暖化ガス排出権の売買収入を事業に組み 込 ま な い 場 合, 内 部 収 益 率(Internal Rate of Return: IRR)は 5.3%と見込まれている。一方,温暖化ガスの 排出権事業収益を組み込んだ場合,IRR が 10.7%と見込 まれている。FELDA 社の通常事業における標準的な IRR 目標は 11.7%であると記載されており,温暖化ガス 排出権事業を組み込まなければ,FELDA 社としては事 業として認められないことがわかる。Additionality はこ のように考えられている。この際,温暖化ガス排出権の 価格が上がれば,IRR はさらに向上するが,どれだけ上 がっても CDM が無効になることはない。 6. パームオイル産業の持続性と有機肥料製造 これまでに述べてきたように,パームオイル搾油工場 には EFB をはじめ膨大な量のバイオマスが集積してい る。特に,EFB は現在必ずしも必要とされておらず, そのまま焼却されることもあり,また,プランテーショ ンに投棄されているとみなせることも珍しくない。その ため,EFB は均一なバイオマス資源として,しばしば 海外からバイオマス燃料として注目される。しかし,前 述したように,EFB はプランテーションに返送される ことによって,結果としてカリのバランスを保っている 可能性があるので,EFB の無秩序な海外持ち出しは, プランテーションの持続性に支障をきたす可能性を否定 原料成分が安定していることが必要である。パームオイ ル搾油工場から排出される EFB は均質で安定している。 一方,前節で述べた POME の処理に伴い副生する汚泥 は,大部分が微生物により占められており,優良な窒素 源となり得る。この汚泥も POME の品質が安定してい るのであるから,安定することが期待できる。すなわち, EFB と POME 処理後の汚泥を原料にすれば,高品質の 有機肥料が安定して製造できるはずである。 有機肥料を EFB と汚泥から作る場合,基本的には好 気的に微生物を働かせ,炭素分を炭酸ガスの形で放出さ せることにより,結果的に,生物起源の有機物中に含ま れる肥料成分である窒素,リン酸,カリ分の割合を高め ていくのである。したがって,EFB の炭素分を炭酸ガス として無為に放出するのではなく,エタノールや有機酸 をはじめとした付加価値の高い製品として固定し,副生 する灰分を肥料とするような仕組みがつくれるのであれ ば,プランテーションの持続性は損なわれないであろう。 筆者らはそのような観点から,FELDA 社と共同で EFB と POME 処理汚泥からの有機肥料製造について研 究している。図 10 は FELDA 社の 1 工場で現在つくら れている有機肥料の製造工程を示す。 工場に集積された EFB はシュレッダーによって破砕 される。破砕 EFB は繊維状に解されており,長さは数 cm 程度である。これらは 5 ha 程度の土地に幅 3 m 長 さ 100 m,高さ 1.5 m 程度の畝に成形され,日に数回, 自走式の切返し機により切返される。同時に,嫌気処理 池で半ば処理された POME が散布される。最後はカバー がかけられ,熟成と発酵熱により,乾燥される。肥料は 8 週間かけて製造される。図 11 につくられた有機肥料 を示す。見た目にはまだまだ十分に有機物の分解が完了 していないように見える。 一方,この肥料の主な組成は C/N が 12 ∼ 14,水分 含量 65%∼ 75%,窒素 1.5%∼ 2%,リン 0.5%∼ 1%, 図 9.Serting Hilir 工場のパームオイル廃液のメタン発酵によ る CDM 発電事業の現場 図 10.EFB と POME からの有機肥料の製造

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カリ 2%∼ 3%,pH 7.7 ∼ 8.5 であった。筆者が直接工 場で確認したところ,ここの工場ではこの肥料を近隣の 農家に有償で提供していたが,1 トンあたり 80 リンギッ ト(2400 円)で流通していた(2008 年)。製造現場で, しかも,地元の農家が工場に取りに来てこの価格である ので,有機肥料は相当高値で取引されているように思わ れる。さらに,高速で分解し,より良好な肥料ができれ ば,一度に輸送できる有機肥料の量がさらに増えるので, 収益はますます上がる。このような分野にも我が国の進 んだ技術を移転し,相互互恵で利益を分配することも可 能である。 ここで紹介したように,バイオマス利用で,最終的な灰 分や汚泥といった我が国では廃棄物となるものが,マレー シアのパームオイル産業では肥料として,十分な事業性を もって利用できる可能性がある。このことは,経済と両 立するプランテーションの持続性にとって重要である。 7. パームオイル産業と生物多様性の保全 パームオイル産業と聞いて,熱帯雨林の破壊を直感す る人は少なくないと思う。実際,クアラルンプール国際 空港の周辺は見渡す限り油ヤシのプランテーションであ る。これを見て,嘆く日本人はいても,賞賛する日本人 はほとんどいないだろう。しかし,世界の状況はどうだ ろうか?表 2 に世界の主要国の農地面積割合と森林面積 を示し,パームオイルの主な産油国であるマレーシア・ インドネシアのそれらとの比較を示す。 表より,峻険な山々と周囲を海で囲まれた日本を除き, 世界の先進国は概ね,国土の半分が農地であり,森林の 割合は 10%∼ 30%ということがわかる。(日本も山岳部 を除いて考えると,ほぼ主要国と同様になると考えられ る)。他方,マレーシア,インドネシアは農地が 25%程度, 概ね半分は森林と,先進国の真逆の状況にある。マレー 半島やスマトラ島では平坦な地域が多いことを考える と,自然はむしろよく保全されていると評価できるので はないだろうか?つまり,先進国は自国の自然を十分に 開発しつくした上に現在の豊かさを享受しているのであ る。インドネシアでは 1995 年の森林割合は 60%あり, この 10 年で 10%以上も森林割合が減少している20)。し かし,2 億 3 千万人もの人口をかかえるインドネシアに おいて,ここ 10 年の発展からすると,むしろよく 10% の減少で留めたと評価すべきかもしれない。なぜなら, インドネシアと先進国では豊かさの意味が違うからであ る。先進国の豊かさは贅沢を意味するが,インドネシア の豊かさは基本的人権を担保するための手段にすぎな い。筆者らはもちろんマレーシア,インドネシアの自然 と生物多様性が先進国なみに失われてしまうことを認め るものではない。むしろ,できる限り保全されるべきで あると考える。しかし,現状から 1 cm も開発を認めな いとは,決して思わない。地球の自然から恩恵を得る権 利は人類全体にあり,決して早いもの勝ちではない。 パームオイル産業には自然と共生しつつプランテー ション地域をより発展させる潜在力がある。これは農業 としてのパームオイル生産の特殊性による。図 12 に示 すように,油ヤシプランテーションの内部は空間と多種 類の動植物によって構成されている。この点は,米でも 麦でもとうもろこしやさとうきびでも,一般的な農業が 平面の利用しかできないことと根本的に異なる。すなわ ち,油ヤシの木の根元には相当広い土地が広がり,一般 的に,ここにはマメ科の植物が植えられている。これら により,空中窒素が肥料として固定される。さらに,こ れら下草は肉牛の飼育にも利用され,その糞も肥料にな る。一方,油ヤシの実にとって最大の害獣である野ねず みの駆除についても,経済的観点からも,殺鼠剤をまく よりも,梟や蛇といった天敵をこの空間に巧みに住まわ せ,駆除されている。我が国においても,稲作で,合鴨 農法が注目され,また,自然との共生農法として賞賛さ れているが,油ヤシのプランテーションでは経済合理性 から,このように自然と共生した農法に自然に進化して いる。 一方,プランテーション地域の発展についても,パー ムオイル企業は大きな期待を寄せ,貢献を考えている。 なぜなら,プランテーションの農家が離農すると,せっ かく開発したプランテーションが荒廃し,また,新たな プランテーション開発が必要になるからである。これは 熱帯雨林のさらなる破壊につながるということもある し,より切実には,既存のプランテーションを維持した 方が,新たな開発よりもはるかにコストが低く抑えられ るからでもある。 そのためには,プランテーション住民にプランテー ションに残ってもらう政策が必要である。まずはプラン テーションでの農作業の軽減化が必要である。これには, 収穫作業の機械化,自動化,ロボット化が求められてい る。これも油ヤシの栽培が空間を利用した農法であるこ とを考えると,より広いスペースの利用が可能であり, 様々なアイデアを考えることができよう。 図 11.EFB と POME からつくられた有機肥料 表 2.世界の主要国とマレーシア・インドネシアの 土地利用割合の比較 国 名 農地割合[%]国土に対する16) 森林割合[%]国土に対する 日本 13.7 68.917) ドイツ 47.6 30.217) フランス 53.8 31.617) イギリス 69.6 11.617) 合衆国 42.5 32.617) マレーシア 23.9 56.218) インドネシア 23.9 48.819)

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次に必要なことは,プランテーション住民のさらなる 雇用の創出である。農法が機械化されれば,人手は少な くて済む。そのため,余剰労働力を吸収する仕事が必要 である。このために,FELDA 社では SAWARI(一村一 品運動)を展開している。たとえば,筆者らのパイロッ トプラントがある Serting Hilir 地域では,農家の奥さん や娘さんを集め,FELDA 社の社員,関係者(20 万人以 上)のユニフォームを一貫生産している。また,半島中 部のプランテーションでは,湯量の豊富な温泉が見つか り,これをベースにホテルリゾートを展開している。 さらに,油ヤシプランテーションは熱帯雨林との境界 地に位置する所が多い。そのため,プランテーションを ツアー拠点とし,熱帯雨林を損なわないように気をつけ たエコツアーを企画することが可能である。前節で説明 したように,パームオイルは積出港まで大型のローリー により運ばれている。このことは,どんな山間僻地にあ る搾油工場でも,そこまで重いローリーが通っても壊れ ない程度の道が整備されていることを意味する。したがっ て,自然を破壊しないエコツアーは容易に企画できる。 このように,プランテーション地域をパームオイルの 収入に加え,さらに事業を創出し,地域住民の発展が検 討され,実行されている。 8. パームバイオマスと新産業の創出(おわりに) これまでに述べてきたように,パームオイル搾油工場 バイオマスは主に加熱水蒸気をつくるために使われてい る。現在,FFB の高温高圧での水蒸気処理は改良され つつあり,これまでの回分操作から,低圧の連続操作に 変わりつつある。連続の加熱水蒸気処理の場合,使用水 蒸気の量は大きく減量させることができる。このことは, 搾油工場にさらに余剰の均質バイオマスが得られる可能 性がある。 一方,我が国にはこれまで,石油ショック,地球温暖 化問題の克服のため,さまざまな省エネルギー,先端環 境技術を開発してきた。バイオマスの変換要素技術にお いても,世界最先端レベルのものが数多くある。これら の技術をもって,マレーシアのパームオイル産業との協 働によって,さまざまなバイオマス起源の高い付加価値 の製品を提供する仕組みをつくることで,我が国の先端 技術が優位に活かされる機会を得ることができる。 さらに,ここでは地球温暖化ガスの削減を同時に行う ことができ,また,パームオイルプランテーション地域 の発展につなげることができる。パームオイル産油国で 最も発展しているマレーシアで成功すれば,それに続く, インドネシア,タイ,ナイジェリア,パプアニューギニ ア等,開発途上国の発展のテキストとすることにより, 世界の低炭素化と持続可能な発展につながるのではない だろうか。 文   献

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12) Alawi, S., M.A. Hassan, Y. Shirai, A.A. Suraini, M. Tabatabaei, B. Zainuri, and S. Yacob. 2009. The Effect of Mixing of Methane Production in a Semi-commercial Closed Digester Tank Treat-ing Palm Oil Mill Effluent. Australian Journal of Basic and Applied Science. in press.

13) http://cdm.unfccc.int/Projects/DB/SGS-UKL1227808382.8/ view

14) Yacob, S., Y. Shirai, M.A. Hassan. M. Wakisaka, and S. Subash. 2005. Baseline study of methane emission from open digesting tanks of palm oil mill effluent treatment. Chemosphere. 59: 1575–1581.

15) 永富 悠,山本博巳,山地憲治,岩崎 博,山田興一. 2008.マレーシアにおけるパーム残渣のエネルギー利用 と技術競合に関するシステム分析.J. Japan Soc. Energy Resource. 29(5): 1–7.

16) (財)矢野恒太郎記念会.2006.世界国勢図会.222–224. 17) OECD Environmental Data Compendium. 2004. (http://

www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/0680.html)

18) http://areainfo.asafs.kyouto-u.ac.jp/japan/fsws/2005_thai/ natio_laosst/natio.html

19) http://www.eco-future.net/eco/indonesia.html

参照

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