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製品開発の成否を測る尺度

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Academic year: 2021

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(1)製品開発の成否を測る尺度 湯 沢 雅 人. はじめに. の成否の評価結果は当該企業内で利用されるこ とが大半(例えばその後の投資判断や開発者の. マーケティングの本質は企業が顧客に価値を. 業績評価)で,たとえ成否について合理的な判. 提供することにあるが,その中で製品(サービ. 断ができなかったとしても,その影響が及ぶの. スを含む)は,企業と顧客との間で価値を受け. は当該企業内に限られる.つまり,成功か失敗. 渡す媒体という重要な役割を担っている.そし. かの評価が適切でなかったとしても,その評価. て,いかに顧客のニーズを的確に把握し,製品. を元にくだされる判断の妥当性が揺らぐだけで. に機能として組み込み,顧客が効用を享受し得. ある.. るかによってその存在意義が示され,結果とし. ところが,こと学術研究の世界においては,. て広く顧客に受け入れられた製品は販売数量が. 製品開発の成否について複数のケースを比較し. 増し,俗に言う「ヒット商品」として知られる. たり,成功や失敗の要因を理論化したりするた. ところとなる.. めに,尺度が曖昧であること,すなわち適切な. すなわち,製品開発で成功を収められるか,. 評価がくだせないことによる影響度合いは大き. あるいは失敗に終わるのかが,マーケティング. くなる.逆に言えば,取り上げられる各ケース. の成否,ひいては企業活動そのものの成否に大. において,何をもって成功とするのか,どうい. きな影響を及ぼす.したがって,経営トップを. う状況ならば失敗なのか,その判断を行なうた. はじめとした実務家,あるいは一方で経営学を. めの基準軸,あるいはその度合いを見るための. 専門とする研究者にとっては,製品開発は大い. メジャメントが規定されていなければ,理論を. に関心がある領域であり,かねてから成否を分. 組み立てることすら儘ならない.. ける要因を探る取り組みが行なわれてきた.. そこで本稿では,製品開発の成否を測る尺度. ところが,製品開発の成否に関する調査を進. に関し,これまでどのような検討がなされてき. めるにあたり, ケースの分析に取り組むにつれ,. たかを先行研究から振り返り,考察の妥当性や. 何をもって成功と見たのか,どうして失敗と判. 課題に対する示唆を吟味する.そしてさらに,. 断されたのかという,製品開発の成功・失敗を. 今後製品開発の成否を対象とした研究に取り組. 測る基準が曖昧であることに気づく.しかもそ. んでいく上で考慮すべき要件を明らかにする.. れは,実務の世界においても,また学術研究の 世界においても共通して言えることである.. 1.製品開発の成否を測る尺度に関する先行研究. そして,実務の世界では,企業活動全体の成. 本節では,製品開発の成否に関する研究の中. 否は多くの場合,あるひとつの製品開発の成否. で,それを判断するための尺度がどのように取. だけで左右されるわけではなく,また製品開発. り扱われていたかを振り返るために先行研究に.

(2) 102 (510). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 触れ,これまで検討がなされてきた考察の視点. ナジーとその熟達,の 3 つを挙げている.. や議論のポイントを整理する.. そ れ で は,こ の「NewProd」で は,成功事 例と失敗事例をどのように判別していたのだろ. 1―1.製品開発に関する研究と尺度に対する認 識. うか. R. G. Cooper が採った調査手順によれば,製. 製品開発 に 関 す る 研究 は,1960 年代後半 に. 品開発に積極的な産業財企業の中からランダ. 新製品開発の成功要因を探るところから着手さ. ムに選ばれた 177 社に対し,まず電話でコンタ. れた.当初は,個別のケースを分析し, メッセー. クトを取り,その後質問票を郵送することで調. ジを抽出する取組みがなされたが,時間の経過. 査 を 実施 し た.そ し て,市場導入 し た 新製品. と共に成功要因そのものが調査の対象となり,. のうち,「商業的に成功した製品と失敗した製. 新製品開発の成果とその要因との関係を分析す. 品」を選んでもらい,各々について予め想定し. る研究が数多く出現した.新製品開発で成功し. た 77 個の要因変数に対して 11 段階(強く賛成. た事例からその要因を抽出する試みである.. できる─強く賛成できない)で回答を得た.こ. そ の 中 で,1970 年代 に 取 り 組 ま れ た 研究. こで,成功事例 102 件と失敗事例 93 件につき,. の う ち,本格的 な 研究 の 先駆 け と し て 知 ら. 成功あるいは失敗の要因との関係を確認するた. れ,イギリスの R. Rothwell らの研究プロジェ. めのデータを整えたのである.. ク ト「SAPPHO」と 双璧 と さ れ る の が,カ. ところが,成功か失敗かの評価は,「当該企. ナ ダ の R. G. Cooper による研究プロジェクト. 業の視点」で,かつ「当該新製品の利益が容認. 「NewProd」である.. 可能な最低線のレベルを越えている」かどうか. 「NewProd」では,企業がコントロール可能. が基準とされた.評価尺度としては,測定可能. な 要因 と 環境要因 が 新製品開発 の 成果 に 影響. な尺度と言える「利益の視点」が用いられては. し,企業活動の中で環境要因の影響を受けなが. いるが,合理性や客観性を保って評価するため. ら生成されたマーケティング活動そのもの,す. の「測定の基準」は明示されていない.さらに. なわち企業が市場に参入する際の戦略・製品・. は「利益」についても,開発費やプロモーショ. 価格や市場導入を支援する生産・サービスなど. ン費などの費消されたコスト,あるいは,技術. が,市場環境との相互作用の中で成果を決める. の蓄積や企業イメージの向上といった目に見え. というモデルを提示した.その概念モデルは,. ない成果をどこまで組み込むかによって振れが. ①マーケティング活動の諸要素,②新製品開発. 生じることが容易に推測される.同時に,回答. プロセスの上手さ,③取得情報の性格,④当該. 者である製品開発マネジャーの知覚差も回答に. 製品の市場,⑤企業,⑥新製品開発プロジェク. 影響を及ぼす.しかも,「商業的に成功か,失. トの性格, の 6 つの構成概念で成り立っており,. 敗か」の問いかけに対する回答は,「はい」か. さらにそれらは,環境変数(企業・企業の外部. 「いいえ」の二者択一であった.. 環境・新製品開発プロジェクトの性格)と管理. また,このケースに限らず一般的には,評価. 可能変数(マーケティング活動・新製品開発プ. 軸の持ち方によっては,製品そのものの成否に. ロセス・取得情報)に層別されるとしている.. 対する評価ではなく,製品開発行為,あるいは. R. G. Cooper はこの概念モデルに基づいて実. 製品開発プロジェクトに対する評価にすりか. 証を試み,その結果,新製品開発に強く関連し. わってしまうこともあり得る.. ている要因として,①顧客の視点でユニークで. さらにその上で,仮に評価基準の妥当性は保. 優れた製品であること,②マーケティングに関. てたとしても, データの取り方(どのようにデー. する知識と技能の熟達,③技術および生産のシ. タを収集するか) ,あるいはデータの加工方法.

(3) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (511) 103.           . 図 1 調査によって抽出された尺度の分布 (出所)Griffin and Page(1993).    (どのような分析を加えるか)によって,調査結. な尺度の道しるべがないこと,実務家が効果. 果の信憑性が左右されることになりかねない.  ところが一方で,製品開発活動の概念化,お . 的な測定を行なうための術を持たないこと,と いった実状に起因していた.. よび製品開発の成否を測る評価基準が定まらな  いことには,成功の確度を上げる議論に移るこ  とはできない.特に製品開発の成否に対する評. そこで,彼らはまず,61 件の研究プロジェ. 価については,適切な尺度の見極めという命題  と併せ,製品開発に関するテーマに取り組む研 . 46 個の尺度を抽出した.. クトにおける 77 稿の論文について,尺度とし てどのような指標が使われているかを調査し, 同時に一方で,1991 年に開催された 2 つの. 究者にとっての共通課題と言える. . 製品開発に関するコンファレンスに参加した実. 製品開発の成否を測る尺度を対象とした 1―2.. の回答を得た.そこでは,「現在使用している. 先行研究 前述の課題に対する解決策を検討するに際  し,製品開発の成否を測る尺度を対象とした先  行研究をレビューする.  検討チームによる調査活動の結果をまとめ,. 尺度」と「本来使用したい尺度」の回答を求. 論文タイトルにもあくまで「中間報告」と記さ  れ て い る Griffin and Page(1993)で は,製品  開発の成否を測る尺度としてどのような項目が  使われているのかを調査した.彼らの問題意識. 務で使用されている尺度」「実務で使用を望ま. は,尺度がまちまちであることによって異なる. 尺度」「財務尺度」「製品 レ ベ ル の 尺度」「企業. 研究間の内容を比較できないこと,新たにこの 領域の研究に取り組む研究者が採択すべき適切. 務家に対してアンケート調査を実施し,50 件. め,現在使用してる 34 個の尺度と本来使用し たい 45 個の尺度が抽出された. このようにして合計 75 個の尺度1)が得られ たが,特に「研究で使用されている尺度」「実 れている尺度」のいずれにも含まれていた 16 個の尺度を「コア尺度」とした(図 1). そして,これらの尺度を分類し,「顧客受容. 1. レベルの尺度」「プログラム尺度」の 5 区分に 整理した(表 1)..

(4) 104 (512). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 表 1 抽出された 75 尺度と 5 つの区分.                             . 㩿಴ᚲ㪀㩷㪞㫉㫀㪽㪽㫀㫅㩷㪸㫅㪻㩷㪧㪸㪾㪼㩿㪈㪐㪐㪊㪀㩷. (出所)Griffin and Page(1993). ⴫  ᛽಴ߐࠇߚ  ዤᐲߣ  ߟߩ඙ಽ. 1.

(5) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (513) 105. 「顧客受容尺度」には,顧客が当該製品を受. 企業が有する製品群全体を対象として製品開発. 容したか否かで変動する指標が分類されてお. による影響度を測るものであり,その企業の製. り, すなわち顧客が評価した結果と捉えられる.. 品開発力を示す指標と捉えることができる.. ところが,その中でも, 「顧客支持」や「顧客. そして,「プログラム尺度」は,製品開発活. 満足度」に 代表 さ れ る,顧客 が 直接製品 を 評. 動そのものの成果を測る尺度である.この尺度. 価したことになる指標と,「売上目標達成」や. も特定製品を評価対象とするものではなく,製. 「市場シェア目標達成」といった,顧客が購入. 品開発活動が経営パフォーマンスに与えた影響. したことで受容性を代用する指標とに分類され. 度を示すものである(表 2).. る.前者は理想的な尺度と言えるが,測定する. また,この中でコア尺度は,「顧客受容尺度」. のに手間や時間がかかったり,正確に測ること. に 分類 さ れ る「顧客支持」「顧客満足度」「売. ができないという問題点がある.一方後者は,. 上目標達成」「売上成長」「市場 シェア 目標達. 企業が一般的にパフォーマンスを測るために. 成」 「販売数量目標達成」の 6 尺度,「財務尺度」. 利用する指標でもあり,測定することは容易で. に 分類 さ れ る「損益分岐点到達時間」「利益幅. あるが,必ずしも顧客の評価だけに起因するわ. 目標達成」 「収益性目標達成」 「投下資本利益率」. けではない,純度に欠ける尺度であることが難. の 4 尺度,「製品レベルの尺度」に分類される. 2). 点となる .また,成否を判断する基準の設定に. 「製品開発コスト」「予定通りのリリース」「製. おいて,恣意的な要素が入り込む懸念も大きい.. 品の技術性能」 「品質目標達成」 「導入スピード」. 「財務尺度」は,顧客が購買をした結果が企. の 5 尺度,そして「企業レベルの尺度」に分類. 業の財務状況に反映されることから,顧客によ. される「5 年以下の製品の売上寄与率」の合計. る支持度合いが大きく影響すると同時に,あく. 16 尺度である.. まで利益が絡む指標で測定し,企業内での財務. 同時に Griffin and Page(1993)では,このよ. 的成果によって結果を捉えるものとしている.. うなプロセスを経て得られた尺度を列挙,分類. 製品がいかに顧客の支持を得ることができて. しただけではなく,各尺度がもつ特徴の相違点. も,企業の財務状況にプラスの結果を与えなけ. や使われ方の特性についても分析を行なった.. れば,企業活動の根底が成立しないので,製品. その結果,ひとつには,「実務で使用されて. 開発の成否を測る尺度としては不可欠なもので. いる尺度」と「実務で使用したい尺度」に乖離. ある.. があることを指摘している.特に差が顕著な尺. 「製品レベルの尺度」は,製品開発に対する. 度 を 例示 す る と,「顧客満足度」は,「実際使. 取り組み方で変動する指標によって結果を捉え. 用している」のが 5 件に対して,「使用したい」. る尺度である.企業内において,あるいは当該. が 22 件,逆に「売上目標達成」は,「実際使用. 製品の開発チーム内において製品のできばえを. している」のが 15 件に対して,「使用したい」. 測り,管理するために用いられる尺度が分類さ. が 5 件,といった具合で,一部に理想と現実の. れるが,顧客による評価という要素がまったく. ギャップがあることが示されている.これは,. 含まれておらず, 当該製品の成否を測るはずが,. 顧客による評価結果を反映する尺度を採用した. 製品開発活動の成否を測ることにすりかわって. いが測定が難しいものと,恣意的要素が入って. しまう懸念があるものの,企業内での合理性を. しまうため尺度として相応しくないが測定し易. 示す指標としては有効である.. いものの間での葛藤とみることができる.. 「企業レベルの尺度」は,開発された製品に. そしてもう 1 点,調査結果に基づき,研究者. よる企業活動への貢献度を測る尺度である.特. と実務家の採択する尺度の差異についても触れ. 定の製品のみが評価対象になるわけではなく,. ている(表 3).前述の通り,5 区分に分類され.

(6) 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 106 (514). 表 2 尺度の区分と特性         . . 㩿಴ᚲ㪀㩷㪞㫉㫀㪽㪽㫀㫅㩷㪸㫅㪻㩷㪧㪸㪾㪼㩿㪈㪐㪐㪊㪀䈪䈱ಽ㘃䉕╩⠪䈏ᢛℂ (出所)Griffin and Page (1993)での分類を筆者が整理 㩿಴ᚲ㪀㩷㪞㫉㫀㪽㪽㫀㫅㩷㪸㫅㪻㩷㪧㪸㪾㪼㩿㪈㪐㪐㪊㪀䈪䈱ಽ㘃䉕╩⠪䈏ᢛℂ . ⴫  ዤᐲߩ඙ಽߣ․ᕈ. ⴫  ዤᐲߩ඙ಽߣ․ᕈ. 表 3 実務家と研究者の採択する尺度の相違 . た各尺度にはいずれも一長一短があり,実務上. . も,また学術研究上も,一般的には異なる区分. . の複数の尺度が併用される.ところが,実務家 が「顧客受容尺度」と「財務尺度」から概ね 4. . つの尺度を併用しているのに対して,研究者は. . 併用する尺度の種類が少なく,また「製品レベ. . ルの尺度」や「企業レベルの尺度」を採択する. . 傾向にある.具体的にケースを用いて検証を行 なう際に,データを収集するにあたっては,研. . 究者にとっても,調査される立場にある企業に. . とっても,これらの尺度は製品開発活動や企業. . 活動の結果として客観的に捉え易く,またオー. . プンにし易い指標であることに起因していると 思われる.. . 加 え て,そ の 後取 り 組 ま れ た Griffin and. . Page(1996)では,製品戦略および事業戦略に. . よって,採択すべき尺度が変動することを提起. . している. 彼らは,製品戦略を「市場にとっての新規性」. (出所)Griffin and Page(1993) 㩿಴ᚲ㪀㩷㪞㫉㫀㪽㪽㫀㫅㩷㪸㫅㪻㩷㪧㪸㪾㪼㩿㪈㪐㪐㪊㪀㩷. . と「自社にとっての新規性」の 2 軸で規定され 㩿಴ᚲ㪀㩷㪞㫉㫀㪽㪽㫀㫅㩷㪸㫅㪻㩷㪧㪸㪾㪼㩿㪈㪐㪐㪊㪀㩷. ⴫   ታോኅߣ⎇ⓥ⠪ߩណᛯߔࠆዤᐲߩ⋧㆑. る 6 区分に分類した3). . すなわち, ⴫  ታോኅߣ⎇ⓥ⠪ߩណᛯߔࠆዤᐲߩ⋧㆑  市場初:まったく新しい市場を創出する製. 2. 品 2.

(7) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (515) 107.        . 図 2 製品戦略マトリックス (出所)Griffin and Page(1996).    自社初: 既存の市場に対して自社が初めて. であることを想定して答える手法を採った.さ. 参入する製品  ライン追加:自社が保有する既存の製品ラ  インに追加する製品  製品改良:既存の製品を改良し,付加価値  を高めた製品. らに,予め用意された 18 尺度から単に選ぶの. 再配置: 既存の製品を新しい市場に投入  コスト低減:既存の製品と同様の価値をよ  り低いコストで提供  であり,それぞれに対して成否を測る尺度は異. を得た.すなわち,採択された 4 尺度の重み付.  なるとの主張である(図 2) .. ではなく,「顧客起点の成功」から 2 尺度,「財 務的な成功」から 1 尺度,「技術的性能の成功」 から 1 尺度を採択し,さらに自身の持ち点 100 ポイントを 4 尺度に配分してもらうことで回答 け,言い換えれば,適合性に対する相対的な比 較までデータ化されたことになる. その結果,全般的に,「財務的な成功」では 「利益目標達成」が,「技術的性能の成功」では. そこで,各ポジションにある製品を開発す  る 際 の 評価尺度 に 対 し て,Griffin and Page  (1993)で示した「コア尺度」を含む 18 尺度4)  との関係について,製品開発の経験が長い実務. 「競争優位性」が適切と見られている.ところ. 家から集めた 80 件のサンプルによって分析が. 顧客自身が判断をくだす評価尺度が適切と見. 進められた.. られている一方で,それぞれが低い程,「市場. と こ ろ が,Griffin and Page(1993)に お け. シェア」「売上」といった販売実績を表わす指. が,「顧客起点の成功」では,「市場の新規性」 「自社の新規性」が共に高いポジションの場合 に は,「顧 客 支 持」「顧 客 満 足 度」と いった,. る考察結果から, 「現在使用している尺度」と. 標の採択が適切とされている.これは,「新規. 「本来使用したい尺度」との乖離の背景として,. 性が低い=時間を経た経験則によって販売実. 成否を測る仕組みがない,あるいは文化がない. 績系の指標で評価し得ると判断される」こと. という回答が多く寄せられていた.そこで,実. に起因していると思われる(図 3).. 在のサンプルから検証を行なうことはかえって. 同時 に Griffin and Page(1996)で は,事業. 調査の精度を下げると判断し,6 区分の製品戦. 戦略によるポジションに応じても採択すべき. 略ごとに記述されたシナリオに基づき,回答者. 尺度 が 変動 す る こ と を 示 し て い る.彼 ら は,. が 製品開発 プ ロ ジェク ト・マ ネ ジャーの 立場. Miles and Snow(1978)による事業戦略の 4 区.

(8) .  108 (516). . 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月).            図 3 製品戦略と適切な尺度の調査結果. . (出所)Griffin and Page(1996). 表 4 事業戦略と適切な尺度の調査結果.     . (出所)Griffin and Page(1996).   分を用いて,事業戦略と適切な尺度5)の関係を  調査した.  すなわち,. の 4 区分に対して,尺度との関係を定量分析し た(表 4). こ こ で も,そ の 調査方法 は,製品戦略 と の.  探鉱者(Prospector) :常 に 新 し い 製品 お. 関係を調査した際と同様に,4 区分の事業戦略. よ び 市場機会 を 模. ごとに記述されたシナリオに基づき,回答者. 索  分析者(Analyzer) :既存製品で高いシェ  アを保ちながら成長. が CEO の立場であることを想定して答える手. . . 製品にもアプローチ. 防衛者(Defender) :製品および市場を狭  く限定して取り組み  追随者(Reactor) :他社の行動を模倣  . . 法を採った.さらに,Griffin and Page(1993) で示された「企業レベルの尺度」に対して,4 尺度以上を選び,持ち点 100 ポイントを配分し てもらうことで回答を得た. その結果,前述の製品戦略との関係と同様, 将来に向けた新たな取り組みに対して適正とさ.

(9) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). れる尺度はシビアなものになっていない反面,. (517) 109. 評価. 事業戦略が積極的スタンスに基づかない場合に. 非財務的尺度. は,より現実的な尺度が求められていると同時. デザイン:新製品のデザインの評価. に,その事業戦略との合致度も重要な評価基準. 活動:新製品の導入やモデルチェンジの規. となっている. Griffin and Page(1993)に お い て,製品開 発の成否の尺度となり得る候補を抽出し,さら. 則性の存否 など 市場:当該製品によって開拓された新市場 の機会 など. に学術研究の世界と実務の世界の両面を睨みな. 技術:技術の新規性や特許の取得状況など. がらコア尺度を規定したことは,その後のこの. 商業:新製品の商業的な評価. 領域の研究における土台を築いたと言える.. と説明される.. また,Griffin and Page(1996)では,製品戦略. 財務的尺度は,売上や利益に基づく指標であ. や事業戦略という製品が置かれた状況も加味し. り,一方非財務的尺度は,組織や市場,技術と. た尺度の使い分けを提起したことにより,尺度. いった財務面以外の事項を評価対象とするもの. の見方や意義に関する議論が深耕された.. である.さらに,いずれの尺度も,直接的な尺. Griffin and Page(1993)と時期を同じくして,. 度を用いる場合と,あるいは評点評価や,イエ. Hart(1993)では,製品開発の成功の最適な定. スまたはノーによる択一評価など,間接的な尺. 義は何なのか,またその指標をいかに測定すべ. 度を用いる場合に区分される.また,その評価. きなのかが明確になっていないことを出発点と. 基準も,絶対水準を使用するのか,何らかの基. して,一般的に使用されている製品開発の成否. 準による相対水準を設定するのかによって,利. を測る尺度を振り返り,またその限界に対する. 用方法が分かれる(表 5).. 議論や,理解することによる貢献について言及. 例えば,同じ「売上成長」を尺度として採用. している.その検証は,69 社から得られたデー. する場合でも,直接的な尺度として測定単位を. タを用いて,設定されたリサーチ・クエスチョ. 成長率で見る場合と,間接的な尺度として,評. ンに対する回答を示すために行なわれた.. 価対象に「対業界平均」あるいは「対競合上位. まずはじめに,1980 年代の文献を中心に,使. 5 社」といった相対的基準を設け,測定単位を. 用されている尺度を抽出したところ,大別して. 5 点スケールで見る場合とでは,評価の意味も. 「財務的尺度」と「非財務的尺度」が 指標 と し. 測定の難易度も異なってくる.. て用いられていたが,さらに特性別に, 「財務. ここで,新製品開発の評価を財務的尺度で評. 的尺度」は「利益」 「資産」 「売上」 「資本」 「株. 価することに一定の合理性はあるとしながら. 式」の 5 尺度, 「非財務的尺度」は「デザイン」. も,必ずしも成否のすべてを的確に示すことが. 「活動」 「市場」 「技術」 「商業」の 5 尺度に分類. できない限界が存在する.例えば,最新の技術. された.. を用いた,まったく新たな市場を開拓するため. それらの指標は,. に開発された新製品を想定した場合,当初は財. 財務的尺度. 務的な成果が得られなかったとしても,そこに. 利益:利益に関する直接的または間接的な. は技術に対する資産やノウハウの獲得があった. 評価. り,市場の反応に関する経験を得られたり,次. 資産:資産の伸長度による評価. 期製品の開発を進める際に極めて有効な蓄積が. 売上:売上高に関する指標による評価. あることも考えられる.短期間での財務的尺度. 資本:資本収益率による評価. による評価で成否を判断すべきとの主張に必ず. 株式:株価の伸長や平均株価収益率による. しも合理性がない一例である.このような財務.

(10) 110 (518). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 表 5 検証に使用した成功尺度の分類. (出所)Hart(1993). 的尺度に対する批判から,成否を示す要素を含. ③間接的尺度は直接的尺度の代わりに使用す. む様々な非財務的尺度の妥当性に議論が拡大し. ることはできないが,間接的尺度がもつ高. ていく.. いデータへのアクセス性,すなわち回答者. こういった背景を踏まえ,Hart(1993)では,. にとっての答えやすさは有用. 以下の 5 つのリサーチ・クエスチョンが設定さ れた.. ④競 合を視野に入れた,技術,コスト・価 格,製品化に要する時間の 3 点. ①財務的成功を正確に把握するための部門横. ⑤活動ベースの非財務的尺度の中でも,特定. 断の郵送調査で,売上と利益のどちらか一. の財務的尺度と連動するものもあれば,連. 方だけを使用することができるか. 動しないものもある. ②新製品開発の成功は全般的な財務的成功に. といった結論が導き出された.したがって,財. よって正確に測定することができるか. 務的尺度と非財務的尺度をバランス良く併用す. ③間接的尺度は直接的尺度の代わりに使用す. ること,データのアクセス性を考慮して間接的. ることができるか ④実務家にとって財務的尺度あるいは非財務 的尺度で主要な尺度は何か ⑤非財務的尺度は財務的尺度とどの程度まで 係わりをもっているのか. 測定法を取り入れること,実務に即した尺度も 盛り込むことが必要とされた. 一方 で Hart and Claig(1993)で は,製品開 発の成果は,評価尺度,分析レベル,データ・ ソース,データ 分析手法 の 4 次元 で 構成 さ れ. これらの設問に対して,69 件のサンプルを. るとする枠組みが提起された(図 4).そして,. 定量分析した結果,あくまでも限られた代表尺. 考察をより深化させるためには,この 4 つの要. 度間での相関に過ぎないが,定量分析を行ない,. 素をいかに適切に組み合わせるかが肝要である. ①売上と利益は双方を併用する必要がある. ことに言及した.たとえば,「個人に対するイ. ②新製品開発の成功は全般的な財務的成功だ. ンタビューを実施(データ・ソース)し,その. けでは測り得ない. 結果を自己評価(データ分析手法)する,プロ.

(11) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (519) 111. 図 4 製品開発の成果の 4 次元 (出所)Hart and Claig(1993)の主張をもとに筆者が作図. . ジェクト・レベルでの分析(分析レベル)であ. ルチェンジの規則性の存否」といった,極めて. れ ば,財務的尺度 と 非財務的尺度(評価尺度). 特殊な目的で設定されたと思われる,一般的で. を集めるのに適している」という判断ができ. はない尺度が含まれていることが,考察対象の. る.プロジェクト・レベルの分析は特定のプロ. 拡がりを示している.. ジェクトに焦点を当て,個人に対するインタ. もう 1 点,対象の範囲の規定方法が影響して. ビューに基づく自己評価で詳細に触れることが. いるのかもしれないが,顧客が評価を下す「顧. できるのがその理由である.. 客受容尺度」がまったく加味されていない.尺. 対象が企業レベルなのか,あるいは製品レベ. 度を抽出したソースが学術文献であったことか. ルなのかを識別することによって,尺度を使い. ら も,前述 の Griffin and Page(1993)で 示 さ. 分けることができるとの示唆が見えてくる.. れた通り,研究者は「製品レベル尺度」や「企. 但 し,Hart( 1993)お よ び Hart and Claig. 業レベル尺度」を採択する傾向にあることの裏. (1993)によるこれらの考察は,その対象が製. づけにもなっている.. 品開発活動にまで拡げられており,尺度の捉え. そ し て,Hultink and Robben(1995)で は,. 方の観点で特定の製品の成否を測るための要素. 前述の先行研究を踏まえた上で,時間軸の視点. も含まれてはいるものの,製品そのものの評価. を付加した考察を行なった.彼らは,企業が長. に焦点を絞った議論とは距離があることは否定. 期的成長を犠牲にして短期的利益を過度に重視. できない.. することがしばしば批判の的となる一方で,新. さらに言えば, 「デザイン」の尺度としての 「新製品のデザインに関する賞の獲得状況」や,. 製品開発の成功要因を探索している多くの研究  で短期的成功と長期的成功の区別をしていない. 「活動」の尺度としての「新製品の導入やモデ. ことを問題視した..

(12) 112 (520). . 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 表 6 時間軸を加味した「コア尺度」の重要性の評価.               . (出所)Hultink and Robben(1995) 㩿಴ᚲ㪀㩷㪟㫌㫃㫋㫀㫅㫂㩷㪸㫅㪻㩷㪩㫆㪹㪹㪼㫅㩿㪈㪐㪐㪌㪀㩷. ⴫  ᤨ㑆ゲࠍട๧ߒߚ㨬ࠦࠕዤᐲ㨭ߩ㊀ⷐᕈߩ⹏ଔ  . そこで,オランダの 197 社の大手企業に電話. 売数量目標達成」「シェア 目標達成」「収益性.  によるコンタクトの後,調査票を送付して回. 目標達成」 「投下資本利益率」 「利益幅目標達成」. 答を依頼し,得られた有効回答 92 件に対して . は長期的な評価が,それぞれ必要との結果が. 実証調査を実施した.既存の研究との比較を視. 得 ら れ た(表 7).総 じ て,財務的指標8)は 長. 野 に 入 れ る た め,Griffin and Page(1993)で. 期的視点で評価すべきとの結果である.また,. 挙げられた 16 個の「コア尺度」をベースとし,. 顧客の評価に依存する尺度では時間軸の視点.  製品開発の成否を測るための各尺度の重要性. は不要とされた.. を, 短期的評価と長期的評価に分け, 5 点スケー . 製品開発の成否を測る尺度として適切かどう. ル6)で の 回答 を 得 た(表 6) .こ こ で は,短期. かに加え,製品開発プロセスの時間軸上のどの. 的評価とは製品ライフの 25% の期間,長期的. 段階で,あるいはいかなる期間で指標を測定し.  .  . 評価とは製品ライフの 75% の期間を目安とす ると規定された7).. 㩿಴ᚲ㪀㩷㪟㫌㫃㫋㫀㫅㫂㩷㪸㫅㪻㩷㪩㫆㪹㪹㪼㫅㩿㪈㪐㪐㪌㪀㩷. なければならないかという,新たな概念を持ち ⴫  㨬ࠦࠕዤᐲ㨭ߣᤨ㑆ゲߣߩ౗ߨว޿  込んだことは,このテーマの議論を進めるに際. た と え  ば,「コ ア 尺度」の 中 で も,「顧客満. して大きな意義を示した.. 足度」や「顧客支持」,「品質目標達成」や「製  品 の 技術性能」は,時間軸 に 関係 な く 重要 と. その他,関連する研究として,藤本(2002). の認識がなされているが,「予定通りのリリー. 点から,これまでの研究で採られた手法を,「成. ス」は 短期的 な 評価 が,「売上目標達成」「販. 「存続」「商品力」「開発生産性・期間」の 3 功」. は製品開発の成果をどのように測定するかの観.

(13) . 㩿಴ᚲ㪀㩷㪟㫌㫃㫋㫀㫅㫂㩷㪸㫅㪻㩷㪩㫆㪹㪹㪼㫅㩿㪈㪐㪐㪌㪀㩷. ⴫  ᤨ㑆ゲࠍട๧ߒߚ㨬ࠦࠕዤᐲ㨭ߩ㊀ⷐᕈߩ⹏ଔ  . 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (521) 113. . 表 7 「コア尺度」と時間軸との兼ね合い.       . (出所)Hultink and Robben(1995). 㩿಴ᚲ㪀㩷㪟㫌㫃㫋㫀㫅㫂㩷㪸㫅㪻㩷㪩㫆㪹㪹㪼㫅㩿㪈㪐㪐㪌㪀㩷. ⴫  㨬ࠦࠕዤᐲ㨭ߣᤨ㑆ゲߣߩ౗ߨว޿.   4 つの切り口に分類している.. れ Griffin and Page(1993)に よ る 分類 と 重 な. すなわち, 「成功」は,何らかの総体評価と. る.強いて言えば,考察の出発点が「製品開発. して「成功/失敗」の 2 次元,あるいはその他 のスケールでの「成功度」で成果を測定するも のとしており,本稿における視点と同一のもの. 3. の成果」として拡がっている分,評価の対象も 拡大していると言える.. である. 「存続」は,企業あるいは事業の存続. 2.製品開発の成否を測る際に採るべき尺度. そのものを成功の指標とするものであり,技術. 本節では,前節で先行研究をレビューした結. や市場の変化が激しく,企業の参入・退出の頻. 果を踏まえ,そこから導き出される含意を確認. 繁な一部のハイテク産業やライフサイクル初期. した上で,製品開発の成否を測る尺度に対する. の若い産業では適切な手法としている. 「商品. 考え方を整理し,今後の取り組みに対する示唆. 力」は,開発された製品の性能・コスト・品質・. を明らかにしていく.. 商品力などを測るもので,商品力が少数の客 観的な性能指標で代表でき,かつ性能の進歩が. 2―1.先行研究のレビューから得られた含意. 速いハイテク製品に対して有効であるとしてい. まず,Griffin and Page(1993)の取り組みは,. る.しかしながら,商品力が顧客の総体的な判. 学術研究の世界と実務の現場での実態を踏まえ. 断に左右され,客観的な性能指標で判断しにく. た調査を実施し,のちの研究で共通的に意識さ. い製品には適合しにくい. 「開発生産性・期間」. れている「コア尺度」を設定したこと,議論の. は,開発プロジェクト活動そのものの生産性・. 出発点を提供したことで,大きな成果を残した. コスト・リードタイムなどを測定するものとし. と言える.さらに,「実務で使用されている尺. ている.. 度」と「実務で使用を望まれている尺度」に乖. こ の 分類 を 前述 の Griffin and Page(1993). 離があることを示し,その背景に,尺度として. の考察と照らし合わせると,尺度の区分からで. 採用したいが測定が難しいものと,恣意的要素. はなく,評価項目の区分から分類していること. が入ってしまうため尺度として相応しくないが. に気づく.すなわち, 「成功」は本稿で主眼と. 測定し易いものが混在している課題を浮き彫り. する視点であるが, 「存続」は製品管理の成果. にした.また,研究者と実務家の採択する尺度. をある一面で捉えたもの, 「商品力」は製品の. の差異についても触れ,顧客起点の観点から顧. で き ば え を 測った も の, 「開発生産性・期間」. 客の評価による尺度を必要とする実務者と,製. は製品開発活動を評価したものとして,それぞ. 品開発活動全体を眺めて評価しようとする研究.

(14) 114 (522). 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 者との思惑の違いも明らかになった. こ の 研究 を ベース に 取 り 組 ま れ た,Griffin. 2―2.製品開発の成否を測る尺度の採択の考え 方. and Page(1996) お よ び Hultink and Robben. Griffin and Page(1993)で 提起 さ れ た「コ. (1995)では,いずれも新たな基軸を追加し,考. ア尺度」を是とすれば,顧客反応軸が不在であ. 察の深化を目指す取り組みがなされた.また,. る「製品レベルの尺度」 「企業レベルの尺度」 「プ. 並 行 し て Hart(1993)お よ び Hart and Claig. ログラム尺度」をそのまま単独で採択すること. (1993)でも,これらとクロスする議論が繰り広. は合理的ではない.. げられた.. 逆に本稿の冒頭に記した製品の本質的な役. Griffin and Page(1996)で は,製 品 戦 略 お. 割 を 踏 ま え れ ば,「顧客支持」「顧客満足度」. よび事業戦略によるポジションと採択すべき尺. といった “真の” 顧客支持系の指標は,測定が. 度との関係が示されたが,企業あるいは製品が. 難しいものの,製品開発の成否を測る尺度の. 置かれた立ち位置によって,適切な評価尺度を. 中核に据えるべきであることに異論はないは. 取捨する必要があるとの指摘には合理性があ. ずである.そこに,製品そのものが評価され. る.. た結果だけが販売実績に結びつくわけではな. 評価尺度を別の切り口から細分化した Hart. い こ と に 留意 し な が ら,「売上目標達成」「売. (1993)では,考察の対象が拡大しており,特. 上成長」 「シェア目標達成」 「販売数量目標達成」. 定の製品の成否を議論するための枠組みとして. といった販売実績系の尺度を併用することで,. は違和感があるが,測定法を含めた分類は,尺. 客観性の確保や測定の容易さとあわせ,「顧客. 度の議論には不可欠なものである.. 受容尺度」としての役割が果たされる.. そして,Hultink and Robben(1995)が指摘. これらに加え,「損益分岐点到達時間」「利益. した時間軸の視点の軽視は,彼らの問題意識の. 幅目標達成」「収益性目標達成」「投下資本利益. 通り,元来重要である半面,短期的な業績保証. 率」といった「財務尺度」は,顧客の受容度合. に誘引されがちな実務の世界では,ごく普通に. いを間接的に表わすと共に,企業活動を継続し,. やり過ごされているのが実態である.. 顧客価値を提供し続けるために不可欠な財務的. ま た,Hart and Claig(1993)で 提起 さ れ た. 成果を測る指標であり,「顧客受容尺度」と同. 製品開発の成果を構成する 4 つの次元,すなわ. 様,製品開発の成否を判断する際には不可欠で. ち,評価尺度が分析レベル,データ・ソースお. ある.. よびデータ分析手法という 3 つの要素と密接に. さらに,「顧客受容尺度」および「財務尺度」. 関係するという指摘も,評価尺度の本質を検討. で優れた測定値を示すために,製品開発の実務. する際の重要な事項である.. において管理されるべきなのが,「品質目標」. さまざまな尺度が想定され,また現実に用い. や「開発コスト」といった「製品レベルの尺度」. られているが,その中で真の「コア尺度」を明. である.この指標だけでは製品開発の成否を測. 示するための精査を行なっていく必要があるこ. ることはできないが,この指標で測定値の向上. と,そのためには,評価対象が置かれた状況,. を目指すことが,顧客の評価を得ること,そし. 採択された尺度での適切な測定方法の見極め,. て企業に対して財務的成果をもたらすことに繋. そして時間軸がもつ意味と製品開発の成否の判. がる.. 断への取り込みといった,関連する要素を体系. ここで概念的ではあるが,筆者が考える枠組. 的に整理する必要がある.. みを示す.特定の製品に焦点を当てたミクロ的 な「製品開発の評価」は,「コア尺度」の中で も「顧客受容尺度」「財務尺度」「製品レベルの.

(15) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). (523) 115.            図 5 製品開発の成否を測る尺度の枠組み ࿑  ⵾ຠ㐿⊒ߩᚑุࠍ᷹ࠆዤᐲߩᨒ⚵ߺ.   尺度」の 3 つの尺度で必要な評価領域はカバー  される. そ こで は,評価 す る 主体 は「顧客」と「企. 「顧客満足度」や「顧客支持」と いった 顧客支.  業」に,また評価される時期は「製品リリース. 持系の指標,あるいは客観的測定が可能な「売. 前」と「製品リリース後」にそれぞれ分割され  る.そして,この 4 象限のフレームワークに前  述の 3 つの尺度,すなわち,製品リリース前の  企業主体の評価による「製品レベルの尺度」 ,製. 上目標達成」や「市場シェア目標達成」といっ.  品リリース後の企業主体の評価による「財務尺. 続いて,この議論にその他の要素軸を重ねる. 度」 ,そして製品リリース後の顧客主体の評価に . とどのような枠組みに変化するのかを検討す. けで成否を判断することは適切ではない. これらに加え,測定の難しさはあるものの,. た 販売実績系 の 指標 に よ る,「顧客受容尺度」 での評価が加われば,評価の精度は大きく高ま る.. よる「顧客受容尺度」に区分し,マッピングを  試みた(図 5) .  「製品レベルの尺度」は企業による主観的な. る.図 5 で示した枠組みに,時間軸上に表わさ.  評価になるが,それが合理的かつ適正に評価さ. るコンテキストに応じて,成否を左右する要件. れるのであれば,製品のできばえを見るものと  して意味をもつ.  そして,顧客への販売が行なわれれば, 「財  務尺度」は可視的かつ客観的な指標として把握. をどのように加味していくか,また時間軸がも. れる評価期間など,その他の要素軸を組み込ん だ構図を示す(図 6).当該製品が置かれてい. つ意味をいかに重ねるかによって,その適正度 は一層高まっていくものと思われる. たとえば,「製品レベルの尺度」に対して,. ࿑  ⵾ຠ㐿⊒ߩᚑุࠍ᷹ࠆዤᐲߩ᜛ᒛߐࠇߚᨒ⚵ߺ することができ,またその指標を用いて評価を 「技術の蓄積」や「生産力の向上」といった要. 行なうこともできる.但し,ここまででは,当  該製品によって顧客が本当に満足しているか,. 素が加わることが考えられる.同様に「財務. 当該製品を顧客が支持しているかはまだ明らか. 「顧客受容尺度」に「ブ ラ ン ド 信仰」と いった. になっていない.したがって, 「財務尺度」だ 4. 尺度」に「ブランド価値」や「長期的ヒット」, 要素が加わることも想定される.さらに,「顧.

(16)  ࿑  ⵾ຠ㐿⊒ߩᚑุࠍ᷹ࠆዤᐲߩᨒ⚵ߺ.  . 横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月). 116 (524). .              図 ࿑6 製品開発の成否を測る尺度の拡張された枠組み  ⵾ຠ㐿⊒ߩᚑุࠍ᷹ࠆዤᐲߩ᜛ᒛߐࠇߚᨒ⚵ߺ. . 客受容尺度」 「財務尺度」 「製品レベルの尺度」. 4. の各尺度, あるいは加味されるべき要件に対し, いかなる期間で指標を測定し,評価するのかと いう,時間軸の概念が重なってくる. 加えて,企画段階で製品コンセプトを説明し て顧客の反応を洞察したり,プロトタイプを顧 客に披露して評価を仰ぐといった取り組みがな されるとすれば,製品リリース前の顧客主体の 評価もあり得るということになる. これらの追加された要素は尚更数値的測定が 困難ではあるが,製品開発の成否を左右する要 件として存在していることを認識し,また意思 決定をする際にこれらの要素も含めて判断でき ることは,企業活動に取り組んでいく上で有効 に作用するはずである.. 参考文献 藤本隆宏(2002)「新製品開発組織 と 競争力─我 田引水的サーベイを中心に」『赤門マネジメ. ントレビュー』第 1 巻第 1 号,pp. 1─32. 米谷雅之(2002) 「新製品開発成果 を め ぐ る 基礎 的問題」 『山口経済学雑誌』第 50 巻第 4 号, pp. 27─54. 湯沢雅人(2008) 「製品開発に関する先行研究の 系譜」 『横浜国際社会科学研究』第 12 巻第 6 号,pp. 155─176. Ansoff, H. Igor.(1957)Strategies for diversification. Harvard Business Review, 35(5). Cooper, R. G.(1979)“Identifying Industrial New Product Success: Project NewProd,” Industrial ,pp. 124─135. Marketing Management, 8(2) Cooper, R. G. and E. J. Kleinschmidt(1986)“An Investigation into the New Product Process: Steps, Deficiencies, and Impact,” Journal of ,pp. 71─85. Product Innovation Management, 3(2) Cooper, R. G. and E. J. Kleinschmidt(1987) “ New products: What Separates Winners from Losers?” Journal of Product Innovation ,pp. 169─184. Management, 4(3) Griffin, A. and A. L. Page(1993)“An Interim Report on Measuring Product Development Success and Failure,” Journal of Product In,pp. 291─308. novation Management, 10(4) Griffin, A. and A. L. Page(1996)“PDMA Success Measurement Project: Recommended Measures.

(17) 製品開発の成否を測る尺度(湯沢). for Product Development Success and Failure,” , Journal of Product Innovation Management, 13(6) pp. 478─496. Hart, S.(1993)“Dimensions of Success in New Product Development: an Exploratory Investigation,” Journal of Marketing Management, 9(1),pp. 23─41. Hart, S. and A. Craig(1993)“Dimensions of Success in New-Product Development,” in Baker, M.(Ed.)Perspectives on Marketing Manage.John Wiley and Sons, Chichester. ment(3) Hultink, E. J. and H. S. J. Robben (1995) “ Measuring New Product Success: The Difference that Time Perspective Makes, ” Journal of Product Innovation Management, 12 (5), pp. 392─405. Miles, R. E. and C. C. Snow(1978)Organizational Strategy, Structure, and Process, New York: McGrow-Hill. Rothwell, R., C. Freeman, A. Hosley, V. T. P. Jervis, A. B. Roberson and J. Townsend (1974) “ SAPPHO Updated: Project SAPPHO Phase Ⅱ,” Research Policy, 3(3), pp. 258─291. 注 1)図 1 の通り,複数のソースに跨っている尺度 があるため,合計 75 個となっている. 2)たとえば,製品そのものが評価された結果だ けが販売実績に結びつくだけではなく,営業部 隊の頑張りであったり,プロモーション策が顧. (525) 117. 客の一時的な興味をひいたり, 一過的とは言え, 販売実績を伸ばし得る要素は他にも存在する. 3)Ansoff(1957)によって提起されたフレーム ワークである「製品・市場マトリックス」から 派生したものである. 4)Griffin and Page(1993)で 規定 さ れ て い た 「コア尺度」の区分と尺度に対して,「顧客受 容尺度」は「顧客起点 の 成功」と 置 き 換 え ら れ て「顧客数」を 追加(合計 7 尺度),「財務 尺度」は「財務的 な 成功」と 置 き 換 え(そ の まま 4 尺度),「製品 レ ベ ル の 尺度」は「技術 的性能の成功」と置き換えられて「競争優位 性」「革新性」を 追加(合計 7 尺度),合計 18 尺度で調査された. 5) 「ROI」 「事業戦略との合致」 「成功/失敗率」 「利 益率」 「販売比率」 「 5 年間の目標との合致」 「将 来機会への繋がり」 「全般的成功」 「特許保有製 品販売比率」 「特許保有製品利益率」の 10 尺度 を採択. 6)製品開発の成否を測る尺度として「非常に重 要= 1 」から「まったく重要でない= 5 」の 5 段階評価で回答を求めた. 7)ラ イ フ が 8 年 の 製品 で あ れ ば,そ の 25% で ある 2 年のレンジで測定するのが短期的評価, 75% にあたる 6 年のレンジで測定するのが長 期的評価とされる. 8) 「顧客受容尺度」に区分されているが,財務指 標系の尺度は必ずしも「顧客支持」とリンクし ないことに注意が必要. [ゆ ざ わ ま さ と 横浜国立大学大学院国際社会 科学研究科博士課程後期].

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表 1 抽出された 75 尺度と 5 つの区分

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