野 菜 類 の脂 質成 分 に関 す る研 究(第20報)
ネ ギ の 脂 質 につ い て
北 村 光 雄
は
じ
め
に
ネギ はユ リ科 の1,2年
生 草 本 で,原 産 地 は
シベ リア の アル タ イま た は 中 国西 部 で は な い か
と い われ て い る。 ア ジア諸 国 で は古 くか ら栽 培
さ れ,わ が 国で も古 くか ら全 国的 に栽 培 され て
い る野 菜 で あ る。 品種 を大 別 す る と緑 色 部 の 多
い 葉 ネ ギ と,白 色 部 の 多 い根 深 ネ ギ(1本
ネ
ギ 〉 と に な る 。 いず れ も特 有 の風 味 が好 まれ る
が,多 量 の糖 分(5∼7%)と
刺 激 成 分 の硫 化
ア リル 化 合 物 に よる も の で あ る。 カル シウ ム,
鉄,ビ
タ ミンCな ど は葉 ネ ギ に多 く含 ま れ る。
ネ ギ の化 学 的成 分 で,木 原1)は炭 水 化 物 につ い
て グ ル コ ー ス,フ ラ ク トー ス,シ
ョ糖,ス
コロ
ドー ス お よ びマ ンナ ン,フ ラバ ンな どの存 在 を
証 明,あ
る い は推 定 して い る。 ま た水 野 ら2)は
ペ ーパ ー クロマ トグ ラ フ ィー に よ り多 数 の 単糖
類,少 糖 類,多 糖 類 の 存 在 を証 明 して い る。 ネ
ギ 類 の 抗 酸 化 物 質 と して 内 藤 ら3)はスル フ ィ ド
類 を あ げて い る 。
著 者 は根 深 ネ ギ の茎 葉 部 を溶 媒 抽 出 し,そ の
脂 質 成 分 を調 べ た の で報 告 す る。
実験方法
1.脂
質 の抽 出
試 料 は正 月 用 と して 出 荷 され た根 深 ネギ で,
品 川 区荏 原 町 の八 百 屋 で 求 め た もの で あ る。脂
質 の 抽 出 方 法 は既 報4)と 同 様 ク ロ ロ ホル ム ・メ
タ ノ ール 混 液(2:1V/V)を
用 いて 抽 出 し
た。
2.脂
質 の 分 画 ・同 定 お よ び定 量
脂 質 の分 画 は既 報5)の方 法 に よ り,中 性脂 質,
糖 脂 質,リ ン脂 質 に分 けた 。 ま た脂 質 の 同定 お
よ び定 量 は既 報5)に準 じて お こ な っ た。
実験結果 と考察
1.脂 質 の 含 量 根 深 ネ ギ の 茎 葉 部2kgか ら ク ロ ロ ホ ル ム ・メ タ ノ ー ル 混 液 で 脂 質 を 抽 出 し,5.6g(0.3%) の 黒 緑 色 総 脂 質 を得 た 。 2.総 脂 質 の 脂 肪 酸 組 成 総 脂 質 にC17酸 を 内 部 標 準 物 質 と して 添 加 し, 常 法 に よ り メ チ ル エ ス テ ル 化 物 を つ く り,ガ ス ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー(GLC)で 分 析 し た 。 そ の 結 果 は表1の と お りで あ る 。表1総
脂質の脂肪酸組成
炭
素
数
Rt 00 12:0 1.7 十 14:0 2.3 0.1 160 3.9 17.9 161 4.8 0.4 170 5.2 0.3 180 7.0 0.4 181 7.9 2..9 182 9.7 42.8 183 12.8 34.9 カ ラ ム:DEGS15%,180℃,Rt:retentiontime総 脂 質 中 の脂 肪 酸 は リノ ール 酸,リ
ノ レ ン酸,
パ ル ミチ ン酸 が主 成 分 で,そ の 他6種 の 少量 の
脂 肪 酸 か らな って い る 。
9研
究 紀 要
第28集
3.総
脂 質 の カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィー
(CMC)に
よ る分 画
総 脂 質 を ケ イ酸 のCMCに
よ り分 画 し た結
果 は表2の
とお りで あ る。
表2ケ イ酸 のCMCに よ る総 脂 質 の分 画区
分
収 量(%)状
態
中 性 脂 質
糖 脂 質
リ ン 脂 質
39.5 35.7 24.2黒緑色半固体
黒色半固体
暗褐色半固体
糖 脂 質,リ
ン脂 質 の含 量 が中 性 脂 質 に対 し,
植 物 種 子 油 に比 べ て か な り高 い のが 特 徴 で あ る。
4.中
性 脂 質 区 分 の検 索
(1)中 性 脂 質 区 分 の 薄層 ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー
(TLC)
図1中 性 脂 質 区 分 の 薄 層 ク ロ マ トグ ラ ム 展 開 溶 媒:石 油 工 一 テ ル/エ ー テ ル/ 酢 酸(70:30:1) 発 色:50%硫 酸 試 料:1.中 性 脂 質 区 分 2.炭 化 水 素 3.ト リグ リセ リ ド 4.脂 肪 酸 5.ス テ ロ ー ル 試 薬 を 噴 霧 し た の ち,加 熱 炭 化 し,デ ン シ ト メ ー タ ー に よ り そ の ス ポ ッ トの 濃 度(相 対 比) を 求 め る と 図1の よ うで あ る 。 トリ グ リ セ ラ イ ドは 少 な く,炭 化 水 素,ス テ ロ ー ル,そ の 他 脂 質 が 多 く含 ま れ る 。 (2)不 ケ ン 化 物 お よ び 脂 肪 酸 の 分 離 中 性 脂 質2.Ogを20mQの エ ー テ ル に 溶 解 し, メ タ ノ ー ル 性 のN-KOH30mPを 加 え て,2時 間 湯 浴 上 で 加 熱 ケ ン化 す る 。 ケ ン化 し た の ち 常 法 に よ り不 ケ ン化 物 と 脂 肪 酸 に 分 け た 。 そ の 収 量 は表3の と お り で あ る 。表3不
ケ ン化物および脂肪 酸の収量
こ の 区 分 の 薄 層 ク ロ マ トグ ラ ム は 図1の と お りで あ る 。 標 準 物 質 と し て 炭 化 水 素(ヌ ジ オ ー ル),ト リ グ リ セ リ ド(精 製 大 豆 油),遊 離 脂 肪 酸(オ レ イ ン 酸),ス テ ロ ー ル(β 一シ トス テ ロ ー ル)を 用 い,TLCで そ れ ぞ れ 同 定 し た 。 各 成 分 の 量 的 な 関 係 を つ ぎ の よ う に 求 め た 。 脂 質 を 展 開 し た 薄 層 プ レー トに 硫 酸 一重 ク ロ ム 酸区 分
収 量(%)状
態
不 ケ ン化物
脂
肪
酸
48.0 36.3濃赤色固体
黒色固体
(3)不 ケ ン 化 物 こ の 不 ケ ン 化 物 に は炭 化 水 素,高 級 ア ル コ ー ル,ス テ ロ ー ル な ど が 含 ま れ る の で,こ れ を 単 離 す る 目 的 で ア ル ミナ に よ るCMCを お こ な い,表4に 示 す よ う に10の フ ラ ク シ ョ ン に 分 け た 。 表4不 ケ ン化 物 の ア ル ミナCMC* No.溶 出 溶 媒
溶 出量
(mの
収 量 (%) i 石 油 工 一テ ル 70 9.7 2 〃 100 17 i 3 P+A(99 1) 〃 5 1 4 〃(982)
〃 14 6 5 〃(955)
〃 23 0 6 〃(90 ion 〃 21 1 7 〃(80 20) 〃 5 2 8 〃(60 40) 〃 1 4 9 〃(2080)
〃 0 4 io メ タ ノ ー ル 〃 2 4 *ア ル ミナ309 ,試 料0.959,P:石 油 工 一 テ ル, A:ア セ ト ン (Dフ ラ ク シ ョ ン1:こ の 区 分 は 炭 化 水 素 で あ る こ と を 認 め た 。GLCに よ り18種 類 の 炭 化 水 一10一素 を検 出 した 。 そ の結 果 は表5の
とお りで,相
当 す る炭 素 数 は市 販(東 京 化成)の 標 準 物 質 の
リテ ン シ ョン タイ ム よ り求 め た。 この 区分 に ア
セ トンを 加 え 暖 め て溶 解 し,放 冷 す ると 白色 の
沈 殿 物 が 生 ず る。 これ を ア セ トン よ り再 三 再 結
晶 した もの は融 点38∼40℃ を示 し,こ の結 晶 の
赤 外 線 吸 収 スペ ク トル は 図2の と お りで炭 化 水
素 で あ る 。GLCで
分析 す る とC23∼C31の
炭 化
水 素 で あ っ た。
表5フ ラ ク シ ョ ン1のGLC* No. Rt組 成(%)
相当炭 素数
1 2.2 1.8 2 3.0 11.3 C14 3 4.3 3.0 4 7.3 2.1 Cis 5 10.7 8.9 Cao 6 13.6 6.8 7 15.2 1.0 8 15.7 8.7 C23 9 17.3 1.7 10 18.4 9.4 C25 11 18.9 6.7 12 20.7 4.5 13 21.4 12.4 C27 14 21.8 7.0 15 23.3 2.4 16 23.6 2.7 17 24.2 3.2 Cas 18 24.5 2.8 る 。 これ を ア セ トン よ り再 三 再 結 晶 し た も の は 融 点76∼77℃ を 示 し,こ の 結 晶 の 赤 外 線 吸 収 ス ペ ク トル は 図3の と お り で,1725cm-1に 吸 収 を もつ 鎖 状 カ ル ボ ニ ル 化 合 物 の よ う で あ る 。 こ の 物 質 はGLC分 析 に よ り こ の 区 分 に50%以 上 含 ま れ,そ の 他 は フ ラ ク シ ョ ン1と 同 様 の 炭 化 水 素 で あ っ た 。 図3赤 外 線 吸収 スペ ク トル (III)フラ ク シ ョ ン3:こ の 区 分 もTLCお よ び GLC分 析 に よ り フ ラ ク シ ョ ン2と 同 様 の 鎖 状 カ ル ボ ニ ル 化 合 物 が 大 部 分 を 占 め る 。 (iv)フラ ク シ ョ ン4:こ の 区 分 は ア セ トン よ り 白 色 の 沈 殿 を 生 ず る 。 こ れ を ア セ ト ンで 再 結 晶 し,融 点68∼70℃ の 結 晶 を 得 た 。 こ の 結 晶 は リ ー ベ ル マ ン 反 応 陰 性 で,赤 外 線 吸 収 ス ペ ク ト ル は 図4を 示 し,高 級 ア ル コ ー ル で あ る こ と を 認 め た 。 こ の 結 晶 を ア セ チ ル 化 し,GLC分 析 に よ りC22∼C28の 高 級 ア ル コ ー ル で あ っ た 。 WAVεU匚 鱒3τH(wml *カ ラ ムSE303% ,140→260°/5℃図2炭
化水素の赤外線吸収 スペク トル
(ii)フラ ク シ ョ ン2:こ の 区 分 に ア セ ト ン を 加 え 暖 め て 溶 解 し,放 冷 す る と 白 色 の 沈 殿 を 生 ず 嚇AVE…9ε霞{c吊゜■, 図4高 級 アル コ ー ル の赤 外 線 吸収 スペ ク トル (V)フ ラ ク シ ョ ン5:こ の 区 分 か ら の 結 晶 は 融 点78∼80℃ を 示 し,リ ー ベ ル マ ン反 応 陰 性 で あ る 。 こ の 結 晶 の ア セ チ ル 化 物 はGLC分 析 に よ りC24∼C30の 高 級 ア ル コ ー ル を 検 出 し た 。研
究 紀 要
第28集
㈹ フ ラ ク シ ョ ン6:こ の 区 分 も ア セ トン を 用 い て 再 結 晶 す る と,白 色 の 柱 状 結 晶 を 得 た 。 こ の 結 晶 は 融 点132∼134℃,リ ー ベ ル マ ン 反 応 は 陽 性 で,赤 外 線 吸 収 ス ペ ク トル は 図5に 示 す と お り で,ス テ ロ ー ル で あ る こ と を 認 め た 。 こ の 結 晶 を ピ リ ジ ン に 溶 解 し,TMS化 し てGLC で 分 析 し た 結 果 は 表6の と お り で あ る 。 図5ス テ ロー ル の赤 外 線 吸収 スペ ク トル 表6ス テ ロー ル 区分 のGLC* ス テ ロ ー ル Rt 組 成(00) ブ ラ シ カ ス テ ロ ー ル 5.1 n.i 未 同 定 ス テ ロ ー ル 6.5 2.1 カ ン ペ ス テ ロ ー ル 8.5 7.7 ス チ グ マ ス テ ロ ー ル 10.7 7.0 β 一 シ トス テ ロ ー ル 13.0 82.7 *カ ラ ムSE30 ,260℃,SampleTMS化 物一
の
の
こ
@ り?
相対 比 (/) 16.9 15.9 1.1 1.2 20.1 26.1 14.2 図6不 ケ ン 化 物 の 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ ム 展 開 溶 媒:石 油 工 一 テ ル/エ ー テ ル/酢 酸 (70:30:1) 発 色:硫 酸 一 重 ク ロ ム 酸 試 薬㈹ フ ラ ク シ ョン7∼10:こ
れ らの 区 分 は赤 褐
色 粘 ち ょ う な物 質 で,TLCのRf値
は小 さ く,
GLC分
析 か らも高 沸 点 物 で あ った 。
以 上 が不 ケ ン化 物 成 分 の検 出 で あ るが,各 成
分 の 量 的 な 関係 をつ ぎの よ う に求 め た 。 不 ケ ン
化 物 を展 開 した 薄 層 プ レー トに,硫 酸 重 ク ロ
ム酸 試 薬 を噴 霧 したの ち加 熱炭 化 し,デ ン シ ト
メー ター に よ りその ス ポ ッ トの濃 度(相 対 比)
を求 め る と図6の
よ うで あ る 。
(4)脂 肪 酸
中 性 脂 質 区 分 の 混合 脂 肪 酸 は5%塩
化 水 素 を
含 む メ タ ノ ー ル よ りメ チ ル 化 し,GLC分
析 を
お こな った 。脂 肪 酸 組 成 は ガス ク ロマ トグ ラ フ
に ク ロマ トパ ックCR-IA型(島
津)を 連 動 さ
せ て 求 め,そ の結 果 は表7の
とお りで あ る 。
表7中
性脂質区分の脂肪酸組成*
A炭 素
数
Rt 00 i2:0 1.6 0.5 140 2.5 2.0 160 4.1 18.0 161 5.0 1.2 180 7.0 1.3 181 8.0 3.8 182 io.o 43.9 183 13.2 28.3 *カ ラ ムDEGS15°0 ,190℃ 5.糖 脂 質 区 分 の 検 索 (1)糖 脂 質 のTLC こ の 区 分 のTLCは 図7の と お り で あ る。 ス ポ ッ ト1は ジ ガ ラ ク ト シ ル ジ グ リ セ リ ド (DGD),ス ポ ッ ト5は ト リ ガ ラ ク トシ ル ジ グ リ セ リ ド(TGD)で あ る と 推 定 さ れ る 。 (2)糖 脂 質 の 分 離 と確 認 糖 脂 質 区 分 に は 未 だ 多 く の 不 純 物 が 含 ま れ る の で,DGDお よ びTGDを 単 離 す る 目 的 で, 製 造 的TLCを お こ な っ た 。 分 離 し た 相 当 す る DGDお よ びTGDの 赤 外 線 吸 収 ス ペ ク トル は 図8の と お り で,1750cm-1に エ ス テ ル カ ル ボ 12図7糖 脂 質 区 分 の 薄 層 ク ロ マ トグ ラ ム 展 開 溶 媒:ク ロ ロホ ル ム/メ タノ ー ル/水 (65:25:4) 発 色:α 一 ナ フ トー ル 試 薬 6.リ ン 脂 質 区 分 の 検 索 (1)リ ン 脂 質 のTLC リ ン脂 質 の 薄 層 ク ロ マ トグ ラ ム は 図9の と お り で あ る 。 ス ポ ッ トの 呈 色 は 表9の と お り で あ る 。 さ ら に 二 次 元 のTLCを 示 す と 図10の と お り で,ス ポ ッ ト1と3は そ れ ぞ れ2つ の ス ポ ッ トに 分 か れ た 。 以 上 の こ と か ら 図9の ス ポ ッ ト 1は ホ ス フ ァ チ ジ ル エ タ ノ ー ル ア ミ ン(PE) と 未 知 の リ ン 脂 質 混 合 物,ス ポ ッ ト3は ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン(PC)と 未 知 の リ ン脂 質 混 合 物,ス ポ ッ ト5は リ ゾ ホ ス フ ァ チ ジ ル エ タ ノ ー ル ア ミ ン(LPE),ス ポ ッ ト6は リ ゾ ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン(LPC)と 推 定 さ れ る 。