アジ研ワールド・トレンド No.182 (2010. 11)
57
本書は、
二〇〇五
年に出版した
﹃アジ
ア
に
お
け
る
循
環
資
源
貿
易
﹄︵
小
島
道
一
編︶に引き続き、
ア
ジ
ア
を
主
た
る
対
象
として、
国際リサイ
クルの現状、
各国の
法制度、バーゼル条約やシップ・リサ
イクル条約といった国際的な枠組みを
分析したものである。本稿では、本書
の内容を国際リサイクルに伴う問題や
課題に沿って紹介したい。
日
本
で
国
際
リ
サ
イ
ク
ル
へ
の
関
心
は、
二〇〇一年ごろから徐々に高まってき
た。リサイクルに関する法整備がすす
み、エコタウンなどでのリサイクル工
場への投資が進む一方、再生資源や中
古
品
の
輸
出
が
増
加
し
て
き
た
時
期
で
あ
る。アジア諸国の再生資源の貿易量も
大きく拡大してきた︵第二章︶
。
日本では、日本のリサイクル法の制
度内で、再商品化・再資源化されたも
のが、海外に輸出される場合もあった
が、法制度外で輸出されるものも少な
くなかった︵日本の各種リサイクル法
と輸出との関係については、文献①第
二
章
お
よ
び
本
書
第
一
〇
章
参
照
︶。
二
〇
〇
五
年
以
降
の
日
本
の容器
・
包装、家電
な
ど
の
リ
サ
イ
ク
ル
法
制
の
見
直
し
の
な
かでは、
国際リサイ
ク
ル
と
の
関
係
を
ど
の
よ
う
に
考
え
る
か
が
重
要
な
論
点
の
ひ
とつとなっている。また、有害廃棄物
の不適正な輸出を抑えるとの観点から
も取り組みが強化されている。
韓国や台湾も、日本と同様に再生資
源の輸出国︵第五章、第六章︶となっ
ており、有害廃棄物の不適正な輸出を
抑えるための取り組みが始まってきて
いる。しかし、再生資源輸出と国内の
リ
サ
イ
ク
ル
制
度
と
の
関
係
に
つ
い
て
は、
日本ほど問題となっていない。韓国は
輸
出
も
制
度
内
に
位
置
づ
け
る
こ
と
が
で
き、台湾は、経済的な方法で輸出の増
大に対処できるためと考えられる︵文
献②第九章︶
。
日本等からの再生資源の輸出先であ
る中国やその他のアジア諸国では、高
い経済成長に伴った資源需要の拡大か
ら、再生資源の輸入を産業界は求めて
いる。しかし、再生資源や中古品の輸
入に伴い、いくつかの問題を抱えてい
る。ひとつは、輸入された再生資源の
質の問題である。例えば、鉄スクラッ
プに放射性廃棄物が混入したりする問
題が発生している。また、輸入再生資
源のリサイクルの過程で水質汚濁や大
気汚染が引き起こされている。このよ
うな問題に対処するため、輸入できる
再生資源の品目を限定したり、再生資
源の質について基準を設けたりしてい
る︵
第
三
章
∼
第
六
章
︶。
こ
れ
ら
の
基
準
や輸入制限は、リサイクル産業におけ
る環境対策が進むと緩和される傾向が
観察される。
再
生
資
源
や
有
害
廃
棄
物
の
輸
出
入
は、
先進国から途上国への輸出のみだけで
はない。日本は、アジア各国から有害
廃棄物が輸入されている。この背景の
ひとつとして、各国の保税区・輸出加
工区の制度が、廃棄物の処理を踏まえ
たものとなっておらず、当該国でリサ
イクルするよりも、輸出を行うほうが
容易である場合がみられることがあげ
られる
︵第七章︶
。また、
貴金属スクラッ
プのように所得の高い国の方が比較優
位を持ち、
輸入量が多いものもある
︵第
二章︶
。
国際的にも、再生資源や中古品の貿
易をめぐる議論が行われている。有害
廃棄物の越境移動を規制するバーゼル
条約については、先進国から途上国へ
の
有
害
廃
棄
物
の
越
境
移
動
を
禁
止
す
る
B
A
N
改正決議の発効条件の解釈で締
約国のコンセンサスがえられず、発効
に
は
至
っ
て
い
な
い︵
第
八
章
︶。
一
方、
船籍の移動が容易な船舶のリサイクル
については、シップ・リサイクル条約
が二〇〇九年五月にまとめられ、各国
で批准に向けた準備が始まってきてい
る。しかし、日本、台湾の船舶解体業
の盛衰から、条約に基づく管理だけで
なく、鉄鋼産業の保護育成策の見直し
が必要と考えられる︵第九章︶
。また、
今後、国際的な枠組みが求められる分
野として、
国際リユースの分野がある。
各国のリサイクル制度との関係、環境
規制の強化や新製品の開発などで、リ
サイクルされない物質を含んだ製品の
処理コストの負担の観点から国際的な
対応が進められる必要がある︵第一〇
章︶
。
日本からの中古品や再生資源の輸出
については、資源確保の観点からの議
論
も
行
わ
れ
る
よ
う
に
な
っ
て
き
て
い
る。
諸外国が国際リサイクルにどのような
観点からどのような規制を行ってきて
いるのかを理解することは、日本の政
策を考えるうえで、また、諸外国と協
力して、資源の有効利用や環境の保全
を図っていくうえで重要と思われる。
︵
こ
じ
ま
み
ち
か
ず
/
ア
ジ
ア
経
済
研
究
所環境・資源研究グループ長︶
︽参考文献︾
①
小島道一編﹃アジアにおける循環資
源貿易﹄アジア経済研究所、二〇〇
五年。
②
小島道一編﹃アジアにおけるリサイ
クル﹄アジア経済研究所、二〇〇八
年。
小島
道一
編
﹃
国
際
リ
サ
イ
ク
ル
を
め
ぐ
る
制
度
変
容
︱
ア
ジ
ア
を
中
心
に
﹄
研究双書
No.五八六
アジア経済研究所
■
小島 道一
■
新刊
紹介