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算数科における主体的な学びに関する研究の動向と展望

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52 1.はじめに 平成31 年度全国学力・学習状況調査(国立教育 政策研究所,2019)において,質問紙調査「課題 の解決に向けて,自分で考え,自分から取り組ん でいたと思いますか」の問いに,児童は「当ては まる(33.1%)」,「どちらかといえば,当てはまる (44.1%)」,「どちらかといえば,当てはまらない (18.0%)」,「当てはまらない(4%)」,「無回答 (0.2%)」と回答している。質問に肯定的に回答し ている児童ほど,国語や算数の正答率が高い傾向 にあることが示された。学習指導要領(文部科学 省,2017)では,知識の理解の質を高め,資質・ 能力を育む「主体的・対話的で深い学び」が求め られているが,先述の調査により,主体的に学ぶ 児童の育成の重要性が改めて認識されることとな った。 主体的な学びは,中央教育審議会(2016)によ り次のように示されている。 「学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリ ア形成の方向性と関連付けながら,見通しを持っ て粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返っ て次につなげる「主体的な学び」が実現できてい るか。子供自身が興味を持って積極的に取り組む とともに,学習活動を自ら振り返り意味付けたり, 身に付いた資質・能力を自覚したり,共有したり することが重要である。」 算数科において主体的な学びに関する研究は, 学習意欲,主体性,動機づけ,近年ではアクティ ブラーニングという視点で研究がなされてきたが, 学術誌において先行研究を広く網羅し,検討した 論文は見当たらない。学習者の学びの質を高め, 資質・能力を高めるためには,これまでの研究を 整理して,その成果を学びに生かすことや課題を 改善していくことが必要であろう。本研究の目的 は,算数科における主体的な学びに関する研究の 動向を整理し,今後の展望を検討することである。 2.研究の方法 (1) 文献の抽出方法 これまでの算数科における主体的な学びに関 する研究の動向を整理するため,学術情報検索デ ータベースCiNii (国立情報学研究所 註)において 論文の検索を行った。文献検索は,論文のタイト ルに「算数」と「意欲」,「動機づけ」,「主体性(的)」, 「アクティブラーニング」を含む論文を検索し, 643 件のうち学会誌に掲載された学術論文である (2021 年 3 月 27 日 受理) 花巻市立東和小学校 東北大学大学院 教育学研究科博士課程後期 吉田 英彰 要約 本研究の目的は,算数科における主体的な学びに関する研究の動向を整理して,展望を検討する ことである。学会誌に掲載された学術論文を調査した結果,学習内容,学習方法,動機づけ,評価 の領域に整理することができた。主体的な学びを促すためには,「学習内容を生活や経験と関連さ せることや算数のよさを伝えること」,「既習内容の想起や学び合い,問題づくり,具体物操作,ゲ ームを行うこと」,「自己効力感や内発的動機づけを高めること,不安感を解消すること,学習者の 信念を把握して指導に生かすこと」,「診断的評価や準備学習の評価,形成的評価,形成的フィード バック」が有効だと示された。課題として,事前に理解状況を的確に評価して指導に生かすことや 主体的な学びに関する評価などが示された。最後に,今後の研究への展望として,主体的な学びを 自己調整の過程と捉え,評価や指導の改善の視点としていくことを検討した。 キーワード:学習意欲,主体的な学び,動機づけ,アクティブ・ラーニング,自己調整

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53 55 件を抽出した。 (2) 分析の方法 研究の動向を整理するために,抽出した文献を 研究領域ごとに分類して表にまとめた。そして, 領域ごとにこれまでの研究の概要や成果,課題を 示すこととした。 3.研究の動向 論文を分析した結果,学習内容,学習方法,動 機づけ,評価の領域での研究に整理することがで きた。研究の概要を研究領域ごとにまとめて,成 果や課題を示すこととした。 表1 算数科の主体的な学びに関わる研究領域 研究領域 著者(発行年) 学習内容 稲田(1981),森岡(1984), 長谷川(1986),渕野(1987), 蜂須賀(1988),加藤(1988), 直江(1988),書上他(1997), 松永・服部(1999), 山本(1999),松沢(2010), 鷺谷(2013),徳留(2013) 学習方法 西崎(1974),赤松(1977), 小林(1981),小野(1982), 井上・戸ヶ崎(1984), 遠藤(1985),有見(1987), 白井(1990),渡辺他(1990), 冨長(1991),宗高(1992), 藤井(1993),高橋(1993), 鈴木(1995),久野(1996), 岸浪(1996),津知(1997), 古藤(1998),高橋(2000), 尭山(2006),吉村(2009), 星(2010),山岸(2015), 田仲・佐藤(2016) 動機づけ 杉山(1977),山崎(1997), 佐々木・荒木(1998), 伊藤(2003),大家・藤江(2007), 細谷他(2013) 評価 望月(1981),加々美他(1982), 松本(1985),杉澤(1985), 田中(1985),長谷川(1986), 松野(1990),田中・岡村(1992), 堀川(1993),楠本(1993), 細水(1993),山本(2015) (1) 学習内容 生活や経験と関連させた学習内容 児童の生活や経験と関連させた学習内容が,主 体的な学びを促したとする研究が報告されている。 例えば,稲田(1981)は,5年生「平均とちらば り」において,身近な資料(身長調べ)をもとに することで学習内容に興味をもたせることができ たとしている。蜂須賀(1988)は,6年生「対称 図形」の学習において,生活の中にあるマークや 記号を収集し,分別することで対称の概念を形成 する実践を行っている。児童に興味,関心をもた せ,意欲的に追求させるためには,生活と関連さ せた教材との出会いが大切であると述べている。 他にも,長谷川(1986),渕野(1987),加藤(1988), 松永・服部(1999) ,鷺谷(2013)らが同じよ うな見解を示している。 学習者にとって生活や経験に関連させた学習 内容は,これまでの経験を数理的に考察し理解す ることであり,将来同じような経験をするときに より良く対処する方法を学ぶことでもある。 市川(2004)は,「この内容だからこそ学ぶ気に なる」という学習内容を重視した動機を内容関与 的動機づけとしている。そして,内容関与的動機 づけには,充実・訓練・実用の3つの動機づけ志 向があるとする(図1)。「勉強は仕事や生活に生 かせるからやる」という学習動機が実用志向であ る(市川,1995)。生活や経験に関連させた学習内 容は,学習者の実用志向に沿う学習となり,主体 的な学びを促す要因となったと考えられる。 ② 算数のよさ 算数のよさを伝えることが,主体的な学びを促 すとする研究も報告されている。例えば,書上他 (1997)は,3年生「かけ算」で,2位数✕2位

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54 数においても乗数を分解することで既習の考えが 使えるよさや十進位取り法のよさを感じることが できる学習を実践している。その結果,児童が算 数のよさを味わい,算数の問題解決に対する関心・ 意欲・態度が高まってきたとしている。直江(1988) や山本(1999),徳留(2013)も算数のよさや面 白さに気づかせることにより,興味が高まったと している。松沢(2010)は,現職教員 180 名とと もに学習意欲を高める教材の有効性を検討し,教 材に具備させたい7つのキーワード(①よさ・美 しさ,②多様性,③不思議さ,④一般化,⑤発展 性,⑥発見,⑦考えること)を抽出している。 市川(2004)は,「学習することが楽しい」,「学 習をしていると充実感がある」といった学習動機 を充実志向としている(図1)。松沢の教材に具備 させたい7つのキーワードのうち,①よさ,美し さ,③不思議さ,⑥発見は,充実志向と関連させ ることができる。また,訓練志向は(図 1),「知 力をきたえる」ために学習をするということなの で,②多様性,④一般化,⑤発展性,⑦考えるこ とと関連させることができる。上述7 つのキーワ ードを含んだ学習内容による学習の構成は,市川 の学習動機から裏付けることができ,主体的な学 びを促すものと考える。 学習内容に関する研究では,次のような課題が 挙げられている。森岡(1984)は,教材研究が, 児童を除いたところで行われていることを危惧し ている。児童の実態を正しく把握することが重要 であるが,その実態は常に変化しており,より的 確な方法を考えていかなければならない。その一 つとして個人カルテのあり方などが,今後,大切 になっていくと述べている。加藤(1988)は,課 題を開発するときに注意すべきことは,今の児童 の実態はこうだから,ぜひこの課題をもってきた いというように,必ず自分の教える児童を頭に置 きながら考えることだとしている。しかし,自分 ではとてもいいと思っても,提示してみたらだめ ということが多く,評価の方法が課題だとしてい る。このように,事前に学習者の理解状況を的確 に評価することが共通した課題である。 (2) 学習方法 具体物操作 具体物操作を取り入れることで主体的な学び が促されたとする研究がある。例えば,渡辺他 (1990)は,牛乳のふたを集めて,まとまりごと につないだり分けたりすることで,1万までの数 の大きさに興味をもたせることができたという。 具体物を用いて細かいステップを踏んで抽象化を 試みた結果,十進取り記数法の仕組みを十分に理 解させ,数についての理解をいっそう深めさせる こともできたと述べている。冨長(1991)は,ピ ンに輪ゴムをかけて図形を表すジオボードを操作 させることで,三角形の概念を理解させようとす る実践を小学3年生で行っている。導入場面でジ オボードを操作することにより,学習のイメージ や見通しをもたせ主体的に取り組ませることがで きたと述べている。久野(1996)は,3年生にお いて,学校農園で栽培していたさつまいもを掘り, その重さを測る学習を行っている。手で持った感 覚的な重さの比較から,普遍単位の必要性を感じ 取らせることをねらいとした学習であった。意欲 的に学習に参加したり,重さを単位で表すことの よさを感じたりすることができたとしている。 Ball(1992)によると,具体物操作は,動機づ けを高めたり,考えを深めたりする手段として重 要であるとしている。しかし,具体物操作により 理解に混乱を引き起こすこともあると指摘してい る。具体物操作を行う際は,学習のねらいをはっ きりさせたり(冨長, 1991),操作の手順を明確に したりすることに配慮する必要がある。具体物の 操作に時間がかかること(渡辺他,1990),理解に つながる具体物操作にするためには,児童の実態 を評価しておくこと(赤松, 1977)も課題として 挙げられている。 ② ゲーム 具体物操作にゲームの要素を取り入れた研究 も主体的な学びに効果的であったとする報告があ る。例えば,井上・戸ヶ崎(1984)は,虫を3本 の直線で囲んで捕まえる虫取りゲームを通して三 角形や四角形の概念を理解させる実践を小学2年 生で行っている。ゲーム活動により,児童が学習 に意欲的に取り組んだということである。また, 能力の低い児童も課題意識をもち学習に取り組む ことができたとしている。藤井(1993)は,計算 練習にゲームの要素を取り入れることで,計算練 習に対する嫌悪感がある程度払拭できたとしてい る。鈴木(1995)は,6年生の「場合を順序よく 整理して」において,絵本のキャラクターである ウォーリーの頭部,胴体,足のイラストを組み合 わせて何通りのウォーリーができるかを児童に考

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55 えさせた。児童が,ウォーリーのキャラクターに 親しみを持っていることにより,日頃,算数の授 業に参加していない児童も楽しく学習をすること ができたとしている。 近年,ゲーミフィケーションと呼ばれ遊びの要 素を教育に取り入れた研究の報告がなされるよう になってきた。ゲーミフィケーションとは,非ゲ ーム的な文脈で「フィードバックを提供する」,「進 捗を対外的に示す」などのゲーム要素やゲームデ ザイン技術を用いることである(ワーバック・ハ ンター, 2013)。Dicheva ら(2015)は,ゲーミフ ィケーションに関連する実践や研究をレビューし, 適切な指導に配慮した上でゲーミフィケーション の考えを教育に用いることは,学習の改善に役立 つとする研究が多数報告されているとしている。 算数の分野では,福山ら(2017)が,タブレット 端末で動作するゲーミフィケーションの要素を取 り入れた電子教材を用いて学習を行い,児童のモ チベーションや計算能力を高めたりする効果があ ったことを実証的に明らかにしている。これらの ことから,遊びの要素を学習に取り入れることは, 主体的な学びを促す一助となると考えられる。 ゲームの要素を取り入れることで,主体的に問 題解決できたことが報告されている(西崎,1974) が,考慮すべきことも明らかになっている。遠藤 (1985)は,小学校4年生において,陣取りゲー ムで広さを比較し,面積の概念を形成させる実践 を行った。課題設定で興味をもたせることができ た一方で,何を追求すればよいか子どもがつかめ なかったとしている。岸浪(1996)は,学習内容 に遊びの要素を加えて意欲を高めつつ,理解を伴 う学習を構成すべきだとしている。 ③ 既習内容の想起 既習内容を想起させることで,主体的な学びを 促すことができたという報告がある。例えば,小 林(1981)は,6年生の「拡大図と縮図」の学習に おいて,既習事項や既有経験をもとにして子ども 自身で新しい概念を生み出し,性質を見つけ出す 学習を繰り返し行った。積極的に予想を立て,見 通しをもって学習活動をすることができたという。 宗高(1992)も,5年生の「小数✕小数」の学習を既 習の学習内容と結びつけたことで,連続的発展的 に学習をすることができたとしている。既習知識 を整理して与え,その知識をもとに新しい対象に 向かわせたり,アンバランスから新たな課題に挑 戦させたり,学習内容を類推させたりする必要が あると考察している。高橋(1993)や古藤(1998),尭 山(2006)も既習知識や既有知識との関連を確認し たり,既有知識と学習する内容との差異に着目さ せたりすることが学習への動機づけを促すとする 報告をしている。学習は,既有知識を適切に活性 化できたときに促進される(ブランスフォード他, 2002)。小田切(2012)は,既有知識を活用できる 課題を設定し,個別解決の時間を十分にとること を提案している。それにより,自分の考えと他者 の考えを関連づけた形で認知的葛藤が解消できる という。このように,既有知識に配慮して指導に あたることは大切である。 ④ 問題作り 高橋(2000)は,6年生の「比とその利用」に おいて学習内容の理解と情意面の向上を促すため に単元を通して問題作りに取り組んでいる。単元 を通して構造的に問題作りを行うことにより,学 習内容全体に関する情意面,これから先の学習内 容に対する情意面をともに高めることができたと している。星(2010)も,原題をもとに問題を作 り,その問題を発表,分類,整理させた実践を報 告している。問題作りにより,多様な視点で考え, 活用しようとしていたこと,生徒は主体的に取り 組んだことが報告されている。 ⑤ 学び合い 学び合いも主体的な学びを促すとする研究が 報告されている。例えば,有見(1987)や吉村(2009) は,ペアの学習で考えを深めたり広めたりしたと きほど課題意識が高まり,全体学習の場で意欲的 に 取 り 組 む よ う に な る と 考 察 し て い る 。 津 知 (1997)は,おはじきの数の数え方について,自 分と友達が考えた方法と比べることで,問題意識 をもちながら同じ次元で学び合えたとしている。 学び合いの中で形成される「不確定的状況」に山 岸(2015)は着目している。多様な見方や考え方 が生まれる課題設定や提示の仕方の工夫すること で相互作用や主体的な学びが生まれるとしている。 田仲・佐藤(2016)は,あきた型算数・数学の 授業の「学び合いを一層重視した学習モデル」と アクティブラーニングを促す授業改善の3つの視 点(教育課程企画特別部会, 2015)を比較してい る。アクティブラーニングを促す授業改善の3つ の視点は,「習得・活用・探究という学習プロセス のなかで,問題発見・解決を念頭に置いた深い学

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56 びの過程が実現できているかどうか」,「他者との 協働や外界の情報との相互作用を通じて,自らの 考えを広げ深める, 対話的な学びの過程が実現で きているかどうか」,「子供たちが見通しを持って 粘り強く取り組み,自らの学習活動を振り返って 次につなげる,主体的な学びの過程が実現できて いるかどうか」である。分析によると,あきた型 算数・数学の授業の「学び合いを一層重視した学 習モデル」とアクティブラーニングを促す授業改 善の3つの視点は類似しており,主体的な学びに おける学び合いの重要性を指摘している。 秋田(2012)は,教室の観察を通して,授業に 参加しているが学習に関心を持てない生徒が友だ ちに誘われて授業に参加したり,課題が何か,何 をやれば良いのかを友達にたずねてそっと教えて もらったり,(中略)友達同士でのすくい上げとで も呼べる機能があるとしている。このようなこと からもペアやグループ,全体での学び合いを行う ことで,授業への参加を促し,学びを受動的な行 為から主体的な行為へと変容させることができる のではないかと考えられる。 小野(1982)は,間違っていても,自信がなく ても発表できる雰囲気や,失敗を笑わない学級づ くりが根底になければならないとしている。また, 練り合う時間が十分に確保できないことを課題と してあげている。 (3) 動機づけ ① 自己効力感 杉山(1977)は,取り扱う内容の難易を考慮し, 挫折による自信喪失を排除することで成功感を与 えて意欲づけをすることが大切であると述べてい る。算数の学習に対する学習者の信念に配慮した 適切な学習指導が望まれるところである。課題解 決に向けた努力の結果が,成功であった場合に自 己効力感は向上し,失敗であった場合には低下す る(Bandura, 1977; Zimmerman & Ringle, 1981)。 自己効力感は,取り組もうとする課題に対してう まく対処できるという信念で(Bandura, 1978), 自己効力感が高い生徒のほうが,課題にすぐに取 り組み始め,懸命に努力をし,困難に直面しても 粘り続け,高い水準で成し遂げるという(シャン ク, 1998)。杉山(1977)は,成功感を与えて意欲 づけを行う指導を行っているが,自己効力感を高 め,主体的な学びを促す指導であったと考えられ る。 ② 不安感の解消 山崎(1997)は,不安が算数の学習にどのよう な影響を与えているかを考察している。算数不安 の弱い子供は,授業中により多様な考えをもつ傾 向があるが,算数不安の強い子供は,より確実に 問題を解き,理解しようとする傾向があるとして いる。細谷他(2013)も不安に着目した研究を行 っている。学業不振の児童の中には,学習して悪 い結果を出すよりも,自分に能力がないように見 えることを極力避けることが目標となるために, 努力をせず,学習を回避することがある。学力不 振の児童に対して,努力することに意味があるこ と,能力というものは訓練や努力によって進歩し うるものだという働きかけが必要だとしている。 ③ 内発的動機づけ 山本(1999)は,4年生「面積」において,大 きい三角形の中に小さい三角形はいくつ入るかと いう課題を設定した。問題場面との印象的な出会 いを工夫することにより,子どもの知的好奇心を 引き出すことで,内発的動機づけを促すことがで きたと述べている。 ④ 学習者の信念 佐々木・荒木(1998)は,児童 498 名と教師 43 名に対して,算数への信念に関する質問紙調査を 行った。調査の量的な分析から,児童は算数への 不安感をもっており,学習する内容が何に役立つ のか,どのような面白さがあるのかを児童に積極 的に伝えたり,算数に対して爽快感・期待感をも たせたりすることが重要であると述べている。 大家・藤江(2007)らは,理科の動機づけ尺度 をもとに算数・数学の動機づけ尺度の作成を試み ている。質問紙調査の因子分析の結果から,算数・ 数学の動機づけ尺度は「算数・数学が好き」「学習 内容に対する良いイメージ」「算数・数学が役に立 つ」「よい成績をとりたい」の4つの要因から構成 されていることが示唆されたという。 動機づけに関する研究で明らかになった課題 は,「算数が好き」,「学習内容に対する良いイメー ジ」,「算数(数学)が役に立つ」は学年が上がる につれて低下する傾向があるため(大家・藤江, 2007),算数や数学が,どう生かされるのか,どの ような有用性があるのかをみんなで議論する必要 があることである(伊藤,2003; 吉村, 2009)。ま た,アカデミック・サポートによる学習指導だけ でなく,エモーショナルサポートが重要とされ,

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57 教師には学習者の信念の理解とそれに応じた指導 が求められる(細谷他, 2013)。 (4) 評価 ① 診断的評価(既習の学習内容) 松本(1985)は,学習したことがよく分かると いうことが,学習意欲を育むことに重要であると 考えた。前時の小テストで既有知識を把握し,本 時でもつまずきが予想される児童に,机間巡視を して指導を適宜行った。小テストで不合格の場合 は,朝自習や家庭学習で再テストに備えさせるこ ととした。絶えず個の学習に対する意欲をつかん で指導にあたることは,学習指導の個別化とも関 連し,大切なことであると考察している。田中・ 岡村(1992)は,事前テストを分析し,教師が予 想したつまずきを反応類型としてまとめ,指導に 生かした実践を行っている。反応類型をもとに児 童の考えに立った学習の構成を行うことができた としている。これにより,児童は,見通しを持ち, 主体的に数理を追求していくことができたという ことである。 ② 準備学習の評価(新規の学習内容) 望月(1981)は,既習と新規の学習内容を含ん だ事前テストを行い,どの子にも取り組める課題 を検討して提示している。一人ひとりにわかる授 業を組織化することで,一人ひとりが自らやる気 を起こし,主体的に学ぶことが実践よりわかった としている。田中(1985)も,予習課題に取り組 むことにより,一人ひとりに学習課題をもたせよ うとした実践を報告している。用意した予習課題 に児童が意欲的に取り組んだということである。 ノートに自分の考えが書いてあるため,それをも とにして自分の考えを授業で話せるようになった という。指導する側にとって予習課題は,どこま でがわかっていて,何がわからないのか,疑問な ところはどこなのか見付けることができるという ねらいがあったとしている。実際の指導において は,誤答も生かしやすくなったと述べている。

Bransford & Schwartz(1999)は,準備学習が, その後の学習への転移を促すとしている。準備学 習では,新規の学習内容を扱い,学習者自身が主 体となり課題解決に関わらせる。課題に関する知 識の解釈を学習者自身にさせることで,事後学習 の理解がしやすくなるということである。また, 準備学習を評価することで,的確な介入を検討す ることができるとしている。予習課題は,準備学 習と捉えることができる。教師は,準備学習を評 価することにより,つまずきが予想されるポイン トに焦点化した授業が可能となる。学習者に応じ た指導は,学習内容の理解を促し,自己効力感を 高めると考える。 ③ 形成的評価 加々美他(1982)は,問題解決型の学習過程で は,「できる」「できない」を評価することで「や さしからず,難しからずの問題」や「必要感のあ る問題」を与えている。これにより,子どもたち は解決の過程で,自分なりの考えを持ったり,他 の人の考えと比べたりしながら,学習に対して意 欲的に取り組むことが明らかになったとしている。 細水(1993)は,関心・意欲・態度の指導と評 価が効果的に行われる場面を指導計画に設定し, 反応を見ることが大切であるとしている。そして, 学習ノートの活用は,算数の楽しさやよさが味わ えるような指導と評価を行う上でとても効果的だ と述べている。堀川(1993)も,ノート指導を通 して,児童一人一人を励まし,賞賛し,個別指導 を繰り返していくことで学習内容の理解が促され, 課題の解決に主体的に取り組もうとする意欲が高 まったとしている。杉澤(1985)は,6年生「比 例」おいて,ノート記録から既有知識を評価して 指導を構想したり,観点別単元評価集計表を活用 し理解の状況を確かめたりしている。指導と評価 の一体化を図ることが重要だと述べている。 松野(1990)は,学習進度状況カルテとヒント カードを活用することで,学習意欲を高めようと 試みている。学びの履歴といえる学習進度状況カ ルテにより,児童の様子が捉えやすくなり,それ をもとに個別指導をしたので,成績も向上したと いう。しかし,ヒントカードは,児童の実態に合 わないと,かえって混乱をおこしてしまうと指摘 しており,児童の実態をどう捉え,どのようなヒ ントをあげればよいか検討が必要だと述べている。 長谷川(1986)は,課題提示で高めた意欲が喪 失しないように個人差に応じる指導を工夫してい る。理解状況を把握するためにシグナルボックス を活用して個別指導を行ったことが意欲を持続さ せることに有効だったとしている。 ④ 形成的フィードバック 山本(2015)は,公立小学校1年生の「数と計 算」領域を中心とした授業を22 回参観し,学習を 高めたと確認できた事例において,教師や児童の

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58 発話を分析し,学習の文脈における有効な形成的 フィードバック抽出している。7つの形成的フィ ードバック(教師の状況描写的,探索的,証拠抽 出的,子どもの判断的,状況描写的,探索的,証 拠抽出的)は,学習目標の達成への過程と,子ど もたちの間の関係性を調整するという効果があっ たとしている。フィードバックは教師の行う教育 活 動 の 中 で も 高 い 効 果 を 示 し て い る (Hattie, 2009)。しかし,フィードバックの仕方で効果の出 方には差が見られるという報告もある(Kluger & DeNisi, 1996)。山本(2015)の研究は,教師の評 価をどのように学習者にフィードバックすること が,理解や動機づけを促すかを示唆するものであ り,日常の指導に有用であると考える。 このように,診断的評価や準備学習の評価,形 成的評価,形成的フィードバックにより,主体的 な学びを促すことができたと報告されている。一 方で,多くの教員は評価方法に難しさを感じてお り,主観的になりがちであるとする報告がある(楠 本,1993)。主体的な学びをどのように評価するか は課題として残っていると言える。 4.今後の研究への展望 (1) 研究領域 主体的な学びに関する研究を学習内容,学習方 法,動機づけ,評価に分類して,研究の動向を整 理してきた。これまで,学習方法の領域を中心に 研究が進められてきたが,動機づけの研究は多い とは言えない(図1)。教育心理学の知見を取り入 れ,動機づけの研究が進展していくことを望む。 学習内容や学習方法の研究において,課題として 評価が挙げられていることから,一領域に特化し ただけでは手立てとしては不十分だと言える。学 習内容と動機づけ,学習内容と評価など複数の研 究領域の知見を総合的に組み合わせていく研究が 求められる。 (2) 主体的な学びと自己調整学習の関連 本稿で取り上げたのは 1970 年代からの 2010 年代にかけての研究である。主体的な学びは,学 習意欲,主体性,動機づけ,近年ではアクティブ ラーニングという多様な視点で,幅広く研究がな されてきた。今後,研究を深化させていく上で, 論点を整理することが重要である。まずは,主体 的な学びとはどのような学びであるかについての 認識を共有する必要がある。 中央教育審議会(2016)では,「主体的に学習に 取り組む態度」について,「子供たちが自ら学習の 目標を持ち,進め方を見直しながら学習を進め, その過程を評価して新たな学習につなげるといっ た,学習に関する自己調整を行いながら,粘り強 く知識・技能を獲得したり思考・判断・表現しよ うとしたりしているかどうかという,意思的な側 面を捉えて評価すること」としている。学習にお ける自己調整と主体的な学びの関連が示唆されて いる。日本の教育目標とされている「生きる力」 は,海外では自己調整学習という概念で重要性が 指摘されており,多くの研究者によって精緻な理 論化が試みられ,実証的な検討が積み重ねられて いる(伊藤・神藤,2003)。このようなことから, 学びが主体的かどうかは,学びが自己調整されて いるかという論点で検討することを提案する。 シャンク・ジマーマン(2009)は,自己調整学 習を促す動機づけの源を示している。それは,「目 標志向」,「興味」,「自己効力感」,「結果期待」,「時 間展望」,「課題価値」,「意思」,「内発的動機づけ」, 「原因帰属」,「目標設定と自己反応」,「社会的動 機づけ」,「性同一性」,「文化同一性」である。本 研究でレビューをした先行研究のうち,学習内容 は主に「目標志向」や「課題価値」,「興味」と関 連づけられる。学習方法は,「興味」や「目標設定 と自己反応」,「社会的動機づけ」と関連づけられ る。動機づけの先行研究は,「自己効力感」や「内 発的動機づけ」,「意思」に関連づけることができ る。主体的な学びに関する研究をする際は,動機 づけの源のどの領域かを特定し,これまでどのよ うな知見があるのかを参考とすることで,より効 果が高い研究を実現できると考える。複数の動機 づけの源を組み合わせた研究やこれまで着目して こなかった動機づけの領域に取り組むことにより 効果的な研究が実践できる。 (3) 主体的な学びの評価 最後に,評価に関する展望である。自己調整学 習では,メタ認知や動機の相互作用の過程を予見, 遂行,自己内省という3つの循環的な段階で示し ている(図2)。予見の段階は,学習前の段階であ り,課題に対する分析を行うことで目標を設定し たり,学習方略を検討したりする。また,結果を 予想したり,課題に対する興味や学習することの 意味を確かめたりすることにより自己を動機づけ る。遂行の段階は,学習中の段階であり,学習過

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59 程やその結果に対して自己調整や自己観察の状況 を把握する。自己内省は学習後の段階であり,目 標に対する自己評価や学習に対する満足度などを 把握することからなる段階である。予見,遂行, 自己内省のそれぞれの段階で動機づけの源を評価 することで学びが主体的かどうかを捉えることが できると考える。 註釈 学術情報検索データベースCiNii (国立情報学 研究所) https://ci.nii.ac.jp 引用・参考文献 1)国立教育政策研究所(2019).「平成 31 年度 全国学力・学習状況調査の結果」 https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukok u/19summary.pdf(2020.4.19 確認) 2)文部科学省(2017). 「学習指導要領」 https://www.mext.go.jp/content/1413522_001. pdf(2020.4.19 確認) 3)中央教育審議会(2016)「幼稚園,小学校,中 学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要 領等の改善及び必要な方策等について」, pp.49-50 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuky o/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/0 1/10/1380902_0.pdf(2020.8.13 確認) 4)稲田美恵子(1981).「解決への意欲づけを試 みる学習の展開 : 統計的見方・考え方を育てる 指導法」,『日本数学教育学会誌』, 63(4), pp.86-88 5)蜂須賀渉(1988).「自ら学ぶ意欲をもち追求 する子供の育成 : -教材との出会いを大切にす る算数学習」,『日本数学教育学会誌』, 70(12), pp.323-329 6)長谷川和正(1986).「学習意欲を高める指導 の工夫」,『日本数学教育学会誌』, 68(2), pp.23-28. 7)渕野寿美子(1987).「ひとりひとりが意欲的 に追求する学習過程の工夫 : -6 年「比例」を通 して-」,『日本数学教育学会誌』, 69(12), pp.287-292 8)加藤政幸 (1988).「問題解決の意欲と力を育 てる算数指導 : -自ら求めて学ぶための工夫」, 『日本数学教育学会誌』, 70(8), pp.187-192 9)松永健治,服部勝憲 (1999).「子どもたちが 主体的に取り組む統計に関わる学習の展開 : 算数科の授業展開を総合的な学習に生かす」, 『日本数学教育学会誌』, 81(6), pp.92-99 10)鷺谷康子 (2013).「主体的な学びのプロセ スを意図した算数的活動の工夫 : 第 2 学年「せ いりのしかた」の実践から (特集 理数教育と 学校図書館)」,『学校図書館』,751, pp.25-28 11)市川伸一(2004).『学ぶ意欲とスキルを育 てる』.小学館.pp.36-39 12)市川伸一(1995).『現代心理学入門3 学習 と教育の心理学』.岩波書店.pp.18-24 13)書上敦志,今泉達也,原岡悦子,森田良一, 矢部一夫(1997).「問題解決の関心・意欲・態 度を伸ばす指導 : 算数のよさを味わう指導を 通して」,『日本数学教育学会誌』, 79(2), pp.11-16 14)直江洋子(1988).「ひとりひとりの学習意欲 を高めるための課題提示の仕方はどうすれば よいか」,『日本数学教育学会誌』,70(7), pp.206-212 15)山本一美 (1999).「子ども一人一人の主体 的な学習活動を促す算数科の学習指導」,『応用 教育心理学研究』, 15(21), pp.45-50 16)徳留信登 (2013).「算数・数学 主体的に学 ぶ喜びを体感する算数的活動に関する研究 : 6 年「和算」の授業実践を事例として」,『教育実 践研究』, 23, pp.103-108 17)松沢要一 (2010). 「学習意欲を高める算数・ 数学の教材開発--教材に具備させたい 7 つのキ ーワード」,『臨床教科教育学会誌』, 10(1), pp.67-74 18)森岡幸雄(1984).「意欲的な学習をすすめ るための授業実践 : -目標分析と教具の開発を 図2 学習の自己調整サイクル(Zimmerman, 1998) 遂行 自己内省 予見 遂行 自己内省 予見

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Achievements and Issues in Research on Proactive

Learning in Arithmetic

YOSHIDA, Hideaki

Abstract

The purpose of this study is to summarize the trends in research on proactive learning in

arithmetic and to examine the prospects. As a result of a survey of academic papers published in academic journals, it was found that to promote proactive learning, it is necessary to: "relate learning contents to life and experiences and convey the goodness of arithmetic," "recall previously learned contents and learn from each other, create problems, manipulate concrete objects, and play games as learning methods," "increase self-efficacy and intrinsic motivation," "reduce anxiety," "understand learners' beliefs," and "promote proactive learning. It was also indicated that "increasing self-efficacy and intrinsic motivation, relieving anxiety, understanding learners' beliefs and applying them to instruction," and " diagnostic assessment, assessment of preparatory learning, formative assessment, and formative feedback" are effective. As

challenges, the assessment of understanding in future learning and its application to

instruction, and the assessment of proactive learning were presented. Finally, as a prospect for future research, it was discussed that proactive learning should be regarded as a process of self-regulation and utilized in the improvement of assessment and instruction.

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