2021年,88–95 1)現所属は立教大学(Rikkyo University)。 2) Maximizing tendencyには、追求という訳語が用いられ ている(藤島ほか,2018; 磯部ほか,2008; 都築,2008) が、この訳語には最大化されるのが選択場面における 利益であるという事実が反映されていないし、 maxi-mizerの特徴である選択肢を可能な限り多く探索し、吟 味しようとする傾向も反映されていない。そのため、 本研究ではより本義に近い訳語として、利益最大化傾 向を提案する。
[資料論文]
二要因モデルに基づく利益最大化傾向の日本語版尺度の作成
石 黒
格
1)(日本女子大学)The Japanese version of scales measuring high standards and alternative search components of maximization Itaru ISHIGURO (Japan Women’s University)
Despite recent advancements in the theory and assessment of maximization, only outdated scales of maximization have been available in Japanese. Based on the two-component model of maximization, I translated into Japanese the Maximizing Tendency Scale and the alternative search subscale of the Maximiza-tion Inventory as indexes of high standards and alternative search, respectively, and also tested the validity of both scales. The results of exploratory and confirmatory factor analyses and item response theory revealed considerable internal reliability for both scales. The correlation analyses depicted a significant positive relationship between the Maximizing Tendency Scale and the Multidimensional Perfectionism Cognition Inventory as predicted, implying external validity of the Maximizing Tendency Scale as an index of high standards. Conversely, the Maximization Inventory did not correlate with the General Procrastination Scale, though a positive correlation was expected between alternative search and procrastination tendency. However, considering that correlations between the two factors of maximization and psychological traits were hardly reported, the result is not decisive.
Key words:maximizing tendency, two-component model of maximization, item response theory, perfec-tionism, procrastination
キーワード:利益最大化傾向、二要因モデル、項目反応理論、完全主義、先延ばし傾向
本研究の目的
本 研 究 の 目 標 は、 利 益 最 大 化 傾 向maximizing tendency/maximization2)の二 要 因 モ デ ル(Cheek &
Schwartz, 2016; Cheek & Ward, 2019)で提唱された最 高基準high standardsと選択肢探索alternative searchを 測定する日本語版の尺度を作成することである。この
目的のため、二要因の尺度として、それぞれMaximizing
Tendency Scale(Dalal, Diab, Zhu, & Hwang, 2015; Diab, Gillespie, & Highhouse, 2008)と、Maximization Inven-tory(Turner, Hye, Rim, Betz, & Nygren, 2012)の一部 を翻訳し、日本語版利益最大化傾向尺度とする。 利益最大化傾向と選択のパラドクス 古典的経済学においては、ヒトは自らの利益を最大化 するように振る舞うことが前提とされている。それは、 複数の選択肢のなかから1つを選ぶような選択場面でも 変わらない。しかし、Simon(1957)は、現実的な状況 では利益を最大とする選択肢を選ぶのは非常に困難だと 指摘した。選択課題にかかる情報が多い、情報や構造が 複雑であるといった条件がある場合、情報処理のコスト は非常に大きく、利益計算は困難となる。 現代社会は、きわめて複雑で、変化が早く、選択に際 して、利益を最大化するための労力は大きくなってい る。そのような状況で意思決定するため、人々が利益 最大化を選択の基準としていない場合があるとSimon (1957)は論じた。現実場面では、人々は自分が満足す るのに十分な、(相対的に低い)利益の基準を設定し、 その基準を満たす選択肢が見つかった時点で採用し、 情報の探索や吟味を終了する行動がとられることがあ る。この行動を、Simonは利益の最大化に対して満足化 satisficeと呼んだ。
Schwartz, Ward, Monterosso, Lyubomirsky, White, & Lehman(2002)は、選択場面において利益最大化を 追求しようとする傾向と満足化で選択を終わらせよう とする傾向を、1次元のパーソナリティ特性だと考え、 その両端を利益最大化戦略者maximizerと満足化戦略 者satisficerとして、この特性を測定するMaximization DOI: http://dx.doi.org/10.14966/jssp.1911 早期公開日:2021年 1 月20日
Scale(以下、MS)を作成した。 この概念は、特に消費者行動研究の領域で大きな反響 を呼び、利益最大化戦略者には、満足化戦略者とは異 なる、さまざまな特徴があることが示されてきた。それ ら先行研究の多くが、利益最大化戦略者は利益を最大 化しようとする強い動機を持ち、実際にそのように行 動していることを示している。たとえば、利益最大化 戦略者は最大の利益を求めて物品や商品(Dar-Nimrod,
Rawn, Lehman, & Schwartz, 2009)、職業(Iyengar, Wells, & Schwartz, 2006)、 恋 愛 パ ー ト ナ ー(Yang & Chiou, 2010)の選択に多大なコストを投じるとされる。 特に注目を集めたのは、利益最大化戦略者が、多大 なコストを投じるにもかかわらず、選択の結果に満足し にくいとSchwartzほかが主張したことだった(Iyengar
et al., 2006; Schwartz et al., 2002)。さらに、選択につい て後悔が強く、選択後も続けて選択肢の探索を続け、決 定を変更しやすいことなどが主張された(Iyengar et al., 2006; Lai, 2011)。こうした傾向は、主観的ウェルビーイ ングをも低下させるとされた(Bruine de Bruin, Parker, & Strough, 2016; Schwartz et al., 2002)。選択肢が多いほ ど自由度が大きく、したがって幸福であるとされる社会 的信念がある中で、選択肢の価値に強いこだわりを持つ ことで主観的ウェルビーイングが下がるというこの現象 は、選択のパラドクスと呼ばれることになった。 利益最大化傾向の概念的混乱と尺度乱立 しかし、選択のパラドクスに関わる研究については、 利益最大化傾向の指標としてSchwartz et al.(2002)が 提案したMSの問題が強く指摘されてきた(Cheek & Schwartz, 2016; Lai, 2010)。その中心は、MSに決定困 難decision difficultyと選択後に感じる後悔regretに関わ る項目が多数含まれる点にある(Diab et al., 2008; Lai, 2010)。 これらの項目は、回答者のネガティブな心理状態を反 映することになり、必然的にウェルビーイングの指標と は負相関することになる。だが、ウェルビーイングとの 概念的重複以上に重大な問題は、決定困難も後悔も、利 益最大化傾向の結果として生じる心理状態であって、利 益最大化傾向そのものではないという点にある(Cheek
& Schwartz, 2016; Cheek & Ward, 2019; Lai, 2010)。こ れは、尺度として致命的な問題である。 選択のパラドクスという現象のインパクトの強さから 来る関心の大きさと、当初の尺度の問題の大きさが相 まって、利益最大化傾向の測定に用いられる尺度は数 多く開発されている。管見の限りでも、2019年までに 10以上の尺度が存在する(レビューとして、Cheek & Schwartz, 2016)。そして、上記の決定困難や後悔の要 素を取り除いた尺度では、選択への満足やウェルビーイ ングとの負相関は確認されないか、むしろ正相関するこ
とが報告されている(Bruine de Bruin et al., 2016; Diab
et al., 2008; Lai, 2010)。
Cheek & Schwartz(2016)はこうした状況を精査し、 利益最大化傾向の概念的整理と、測定尺度の再検討を 行った。Cheek & Schwartz(2016)は、まず利益最大 化傾向の概念と尺度に決定困難と後悔が含まれていた のは上述した理由から誤りだったとする。その上で、
利益最大化傾向の二要因モデルtwo-component model
of maximization(Cheek & Schwartz, 2016; Cheek & Ward, 2019)を提出している。このモデルでは、利益
最大化傾向は目的goalとしての最高基準と、目的達成
の戦略としての選択肢探索の二要因で構成されるとし た上で、それぞれの尺度としてDiab et al.(2008)の Maximizing Tendency Scale(以下、MTS)とTurner et
al.(2012) のMaximization Inventory(以 下、MI) に 含まれる選択肢探索因子を推奨するとした。この結論に 対して、理論的な整理が不十分で、尺度を提唱する段階 にないとする異論(Misuraca & Fasolo, 2018)もある3)
が、二人の整理が利益最大化傾向研究の現在地だと言 える。Cheek & Ward(2019)など、これらの二要因が、 選択に対するポジティブ/ネガティブな経験と逆方向に 相関することを示し、混乱の解決がなされたとする研究 も登場している。 日本国内における尺度の未整備と本研究 本研究が問題とするのは、利益最大化傾向の尺度にか かるこうした議論が、日本国内での研究に反映されてい ないことである。利益最大化傾向の日本語版尺度は、磯 部・久冨・松井・宇井・高橋・大庭・竹村(2008)や 都築(2008)があるが、いずれもMSの翻訳をベースと しており、最高基準と選択肢探索が明確に分離した下位 尺度として含まれない。質問項目のレベルでは両要因 に該当すると考えられる内容が含まれているが、磯部 ほか(2008)は、それらが混交した2因子構造を示して いる4)。3因子構造を見出した都築(2008)や藤島・髙 橋・江利川・山田(2018)でも、やはり両要因が混交
3)たとえば、Misuraca & Fasolo (2018)はインターネット 上で情報の探索と比較が容易になった現代社会では、 そもそも利益最大化傾向の果たす役割が変化している 可能性を指摘し、そうした新たな要素を理論的考察に 加えるべきだとしている。他にも、利益最大化と満足 化が一次元ではない可能性も指摘している。 4)磯部ほか(2008)は、4因子を仮定した因子分析では、 「追及者」概念に関わる2つの因子を得ているが、尺度 の構成に際してはそれらをまとめて1つの因子としてい る。これら2つの因子には、最高基準と代替選択肢、ど ちらの概念にも含まれない他者との比較に関わる項目 が含まれているほか、どちらの因子も、両概念に関わ る項目を含んでしまっているため、やはり二要因モデ ルに基づいた測定には向かない。
している。
英語圏での研究と同様の因子構造を仮定したときで も、日本語版の尺度は下位尺度の信頼性(一次元性) に問 題 が あ る。Oishi, Tsutsui, Eggleston, & Galinha
(2014)は、都築(2008)が日本語訳したMSを用いて いるが、英語版と同じ因子構造を仮定したとき、最高 基準と選択肢探索の下位尺度のα係数は、それぞれ.66 と.54と低い値に留まっている。MSに基づいた日本語 版尺度は、二要因モデルに基づいた研究に利用するに は不向きだと考えられる。一方で、二要因モデルが登 場する以前から、利益最大化傾向には(決定困難を含 む)多次元性が指摘されており、平均や効果について は、各次元について個別に検討すべきであるという主 張がなされていた(Nenkov, Morrin, Ward, Schwartz, & Hulland, 2008)。この主張を考慮すると、日本語の尺度 では、海外の研究と対応可能な因子構造で利益最大化傾 向を測定できないという現状の不利益は大きいと考えら れる。
そこで、本研究では、Cheek & Schwartz(2016)が 利益最大化傾向の二要因モデルに対応する尺度として 推奨しているMTSとMIの一部を翻訳することを目的 とする。それぞれの尺度が1因子構造をもつことを確認 し、項目反応理論によって、十分に倹約的であることを 確認する。2因子構造を仮定したときの妥当性も検討す る。なお、MTSについては、Oishi et al.(2014)におい て日本での使用がすでに報告されている。しかしOishi et al.(2014)では日本語訳された質問項目が公開され ておらず、またα係数以外に信頼性、妥当性の指標が報 告されていない。MTSについての本研究の貢献は、尺 度の信頼性と妥当性についての検討を行い、日本語版の 項目を公開する点にある。 妥当性検討のための外的基準 利益最大化傾向の二要因モデルは提唱されて日が浅 く、また、すでに論じた尺度の混乱も相まって、安定し て正または負の相関を示すと確信できる変数は存在しな い。そのため、翻訳した尺度の妥当性の検討に向けて、 外的基準を設定するのが難しい。繰り返し関係性が検討 されてきたのは主観的幸福感を中心とした主観的ウェ ルビーイングだが、利益最大化傾向を因子に分解し、そ れぞれのウェルビーイングとの関係を検討した研究は 少ない(Nenkov et al., 2008)のに加え、相関の方向性 に、日本と中国ですら文化差がある(Oishi et al., 2014; Roets, Schwartz, & Guan, 2012)。そのため、本研究で 翻訳する日本語版尺度の妥当性検討は、限定的なものと ならざるをえない。その上で、本研究では、最高基準と 選択肢探索のそれぞれについて、外的基準として完全主 義perfectionismと、パーソナリティ特性としての先延 ばし傾向trait procrastinationを用いる。 完全主義は、自己に対して完全性を求める態度であ り、ポジティブな側面とネガティブな側面があるとされ る(Frost, Marten, Lahart, & Rosenblate, 1990)。高い目 標を設定するという点で利益最大化傾向と共通し、その ために相関関係が期待されるが、利益最大化傾向が意思 決定分野に限定的である点で異なるなど、理論的・実
証的にも弁別性があるとされている(Bergman, Nyland,
& Burns, 2007; Chang, Lin, Herringshaw, Sanna, Fabian, Perera, & Marchenko, 2011)。
最高基準と完全主義との関係については、管見の限り 2つの研究がある(Kokkoris, 2019; Roets et al., 2012)。 検討に用いられている完全主義の尺度がそれぞれ異な るが、Roets et al.(2012)はFrost et al.(1990)の多次 元 完 全 主 義 尺 度Multidimensional Perfectionism Scale に含まれる高目標設置personal standardsと、ミスへの とらわれconcern over mistakesの下位尺度のいずれも
が、MSの最高基準下位尺度と正相関することを報告し
ている。Kokkoris(2019)はSmith, Saklofske, Stoeber, & Sherry(2016)の尺度を用い、厳格な完全主義rigid perfectionismとMTSの正相関を確認している。両研究 が用いた完全主義の尺度には日本語版が存在しないが、 小堀・丹野(2004)の多次元完全主義認知尺度には、 Roets et al.(2012)が用いた高目標設置とミスへのとら われの両下位尺度と等しい名称の下位尺度が存在し、項 目内容も対応している。Kokkoris(2019)が用いた厳 格な完全主義については、多次元完全主義認知尺度には 同等の下位尺度はないが、高目標設置と完全性追求の下 位尺度とは概念と質問項目が重複している。これらのこ とから、本研究では多次元完全主義認知尺度に含まれる 高目標設置、完全性追求、ミスへのとらわれの各下位尺 度が最高基準と正相関すると仮定して、妥当性検討の基 準とする。 先延ばし傾向は、課題遂行や意思決定を先延ばしする 安定した行動傾向の背後にある心理特性だと定義され ている(Lay, 1986; Lay & Silverman, 1996)。利益最大化 傾向が高いほど、選択肢の探索と精査に資源が投じら れ、結果として意思決定に時間がかかる。このことから 先延ばし傾向は、利益最大化傾向、中でも選択肢探索と 正相関すると予測される。この相関関係についての実証 的報告は管見の限り1つしかないが、Rim, Turner, Betz, & Nygren(2011)によると、先延ばし傾向は選択肢探 索とは正相関し、最高基準とは無相関である。本研究で は、選択肢探索と先延ばし傾向に正相関があると仮定し て、妥当性の検討の基準変数とする。Rim et al.(2011) が用いた先延ばし傾向の尺度(項目例「最終的な決定 に至る前に、些末な点に多くの無駄な時間を割いてし まうI waste a lot of time on trivial matters before getting to the final decision」) は 未 公 刊(Mann, 1982) で、
翻訳もされていないため、本研究では日本語版General Procrastination Scale(GPS,山下・福井,2010)を用 いる。 方 法 調査の構造 本研究では、2回の調査データに基づいて尺度の検討 を行った。調査1のデータを用いて探索的因子分析を行 い、調査2のデータを用いて確証的因子分析による因子 構造の確認と項目反応理論による各項目の識別力の確 認、そして基準変数との相関の確認を行った。 倫理審査 質問紙調査の実施に当たっては、著者の所属する組織 の研究倫理審査委員会による審査を受け、実施の許可を 得た5)。 調査計画と回答者 調査1はセルフ・アンケート・サービス「アンとケイ ト」上で、ウェブ法で行った。調査時期は2018年11月 だった。回答者は20代から60代以上の482名で、各年 代5グループ、男女2グループに同数が含まれるように 割り当てた。指定された選択肢を選ぶことを求める2つ の質問について指示に従わなかった回答者40名と、無 回答を含む回答者26名を除外した。分析対象は男性 197名、女性219名だった。回答者は低額のポイントを 得た。 調査2は、時期と回答者の総数が異なるのみで、同様 の手続きで行った。回答者が両調査で重複することを避 けるため、調査1の回答者は調査2の対象に含まれない よう手続きした。調査時期は、2020年6月だった。回答 者724名から指示に従わなかった42名と無回答を含む65 名を除外し、分析対象は男性308名、女性309名だった。 指標 最 高 基 準 の 尺 度 と し て、MTSの9項 目(Diab et al., 2008)を、選択肢探索の尺度として、MIのalternative search因子に含まれるとされた12項目(Turner et al.,
2012)を用い、筆者が翻訳した。これらの項目は、調査 1, 2のどちらにも含まれていた。調査2にのみ、外的基準 に関する尺度を含めた。完全主義の尺度として、小堀・ 丹野(2004)の多次元完全主義認知尺度を用いた。先延 ばし傾向の尺度として、山下・福井(2010)のGPSを用 いた。すべての質問項目は4件法で測定された。 指標の和訳 本研究では、MTSとMIを可能な限り忠実に翻訳した が、原文の意味を概念レベルで損なわない範囲で、日本 人回答者に理解しやすい文章を構成することを意図し た。Lai(2010)が指摘しているように、利益最大化傾 向に関わる質問項目は、英語圏、特に北米の(かつ尺度 作成当時の)文化的文脈に強く依存しており、日本語に 限らず英語以外の言語への翻訳は困難が大きいからであ る。たとえばMTSの項目3である“I am a maximizer” を直訳しても、回答者が理解することは不可能であろ う。 磯 部 ほ か(2008) は、Schwartz et al.(2002) の 尺度を可能な限り直訳しているが、“I never settle for second best”を「商品を選ぶ時、二番目に気に入ったも ので満足したことはない」と訳しており、同様の困難か ら、かなりの補足を行ったことが示唆される。本研究で も磯部ほか(2008)と同様に可能な限り直訳を行う一 方で、心理尺度の翻訳で通常行われるよりも意訳の範囲 を広くする判断をした。意訳の妥当性を確認できるよ う、付録に原文を収録した。 結 果 信頼性係数 調査1で測定したMTSとMIのα係数は、それぞれ.87 と.91で、十分な内的一貫性が確認された。調査2で測 定した多次元完全主義認知尺度とGPSのα係数は、それ ぞれ.94と.86で、十分な値だった。多次元完全主義認 知尺度の高目標設置、完全性追求、ミスへのとらわれの 各下位尺度のα係数も、それぞれ.90, .90, .89で、十分な 値だった。 探索的因子分析 調査1のデータを用いてMTSの9項目を対象に最尤法 の探索的因子分析を行った結果、最大で3因子が抽出可 能だったが、このときの第一因子の分散説明率が.84と 高かった。同様にMIの12項目についても最尤法の因子 分析を行った結果、最大で4因子が抽出可能だったが、 このときの第一因子の分散説明率が.82だった。主成分 法の因子分析を行って第一因子と第二因子の固有値を 比較したところ、MTSでは4.57と0.95, MIでは6.12と 0.94と、第一因子の寄与が大きいことが示された。 確証的因子分析 調査2のデータを用いて、MTSの9項目の確証的因子 分析を行った(Table 1上段)。一因子構造と、各項目の 誤差の独立を仮定し、潜在変数の分散を1に固定したと ころ、RMSEAの値がやや高いものの、適合度は妥当な 値であった。MIの12項目についても同様に分析したと ころ、MTSよりもやや低いものの、妥当な適合度が確 認された(Table 1下段)。以上の結果から、各尺度が一 因子構造であることが強く示唆された。 項目反応理論 調査2のデータを用いて、MTSの9項目それぞれの識 別力を段階反応モデルによる項目反応理論で検討した (Table 1上段)。識別力が2を下回る項目は、6, 7, 8であ 5)調査1と調査2では、当時所属していた機関が異なる。 調査1については前所属である日本女子大学、調査2に ついては現所属での審査を受けた。
るが、特に7と8の識別力が低かった。この2つの項目 が識別力に劣るという結果は、Dalal et al.(2015)と一 致していた。Dalal et al.(2015)は、この結果から、項 目7と8を省き、MTSの短縮版としてのMTS-7を作成 している。MTS-7を対象としてα係数の算出と確証的因 子分析を行ったところ、RMSEA以外のすべての妥当性 指標でMTS-7のほうが優れることが示唆された。 MIの12項目それぞれの識別力を項目反応理論で検 討した結果、識別力が2を下回る項目は、2, 3, 10, 12 で、特に項目2の識別力が低かった(Table 1下段)。し か し、 項 目2を取 り 除 い て も、CFIが.01ポ イ ン ト と Table 1 尺度項目と各項目の識別力ならびに適合度指標
Maximizaing Tendency Scale/MTS-7 識別力
1 なにについても、最高のものを常に選ぶようにしている。 2.56 2.52 2 「そこそこ」というところで妥協するのは好きではない。 2.01 2.01 3 最高や最上を求めるタイプだ。 3.06 3.09 4 何をしようとするときでも、成功や到達の基準を最高のところに置く。 2.77 2.72 5 どれだけ時間がかかっても、最高の選択肢を待つ。 2.10 2.01 6 なにかを選ぶときに、次善の選択肢で満足することはない。 1.92 1.89 7 すべての選択肢が明らかになる前に決断を下すのは不愉快だ。 1.06 8 選択に迫られたときには必ず、そのときには選べないものも含めて、すべての可 能性について考えるようにしている。 1.20 9 絶対に妥協しない。 2.47 2.59 α(調査1/2) .87/.88 .88/.89 χ2 114.50*** 57.46*** CFI 0.96 0.98 RMSEA 0.07 0.07 SRMR 0.04 0.03 Maximization Inventory 1 すべての選択肢を慎重に検討した後でないと、決断できない。 2.14 2 外食をするとき、時間をかけてメニューをすべて読む。 1.15 3 たいてい、買う品物が自分の基準をすべて満たすまで買い物を続ける。 1.94 4 期待に添うものが見つかるまで、商品を探し続ける。 2.73 5 買い物のときには、品物を探すための時間をたっぷりと用意しておく 2.19 6 買い物のときには、求めているのと完璧に合うものが見つかるまで探し続ける。 2.72 7 欲しいものを見つけるまで、たくさんの店を回っていることがある。 2.66 8 なにかを買うときには、探すのに何時間かかかっても気にしない。 2.14 9 決断を下す前に、すべての選択肢を検討するのに時間をかける。 2.42 10 欲しいものを見つけたら、買う前に一番条件のいいところを探す。 1.91 11 ある店で探しているものに完璧に合う商品を見つけられなかったら、ほかの店に 行くだろう。 2.08 12 決定までのプロセスが十分だと感じられるまでは、決断することができない。 1.96 α(調査1/2) .91/.92 χ2 257.20*** CFI 0.94 RMSEA 0.08 SRMR 0.04 *** p<.005
Table 2 Maximization Inventoryから識別力の低い 項目を取り除いたときの適合度と信頼性 除外した項目 項目2 項目2,10 項目2,10,3 項目2,10,3,12 α 0.92 0.91 0.91 0.90 CFI 0.95 0.95 0.95 0.97 RMSEA 0.08 0.08 0.09 0.07 SRMR 0.04 0.04 0.04 0.03
わずかに改善する一方で、RMSEAとα係数は悪化した (Table 2)。識別力の低い項目から順に取り除いても、4 項目すべてを取り除いたときに、わずかに適合度が改善 するのみだった。先行研究との対応も考慮すると、MIは 12項目のまま用いることが妥当であることが示唆された。 二因子モデルの確証的因子分析 二要因が一定の独立性を持つ因子を構成することを 確認するため、調査2のデータを用いて、MTSとMIの 計21項目を対象とする二因子モデルの確証的因子分析 を行った。項目得点の誤差は互いに独立と仮定し、潜 在変数の分散は1に制約した。因子間の独立性は仮定し な か っ た。 統 計 量 はχ(2 188)=687.80(p<.005)、CFI =.92, RMSEA=.07, SRMR=.06で、許容範囲の妥当性 を示した。このとき、因子間相関は.67だった。MTS に替えてMTS-7を用いたときには、χ(2 151)=544.27 (p<.005)、CFI=.93, RMSEA=.07, SRMR=.05で、 わ ずかだがMTS9項目を用いたモデルよりも高い妥当性を 示した。因子間相関は.65だった。いずれの場合も、因 子間の独立性を仮定したモデルでは、適合度が低下した (数表略)。 MTSとMIの全項目を合算したときのα係数は.93で、 MTS-7とMIの全項目を合算したときのα係数も等し かった。要因ごとの分析が推奨されてはいるが、全体と して一次元の尺度として用いても、十分な信頼性を備え ていると判断できる。 基準変数との相関関係 調 査2の デ ー タ を用 い て、MTS, MTS-7お よ びMI と完全主義並びに先延ばし傾向との関係性を検討した (Table 3)。MTS, MTS-7はともに、完全主義の3つの下 位尺度とその合計との間に、中程度の有意な正の相関が あった。これらの完全主義の尺度は、MIとも中程度の 正相関があった。予測の通り、完全主義はMTSで測定 される最高基準と正相関していた。一方、GPSはMTS, MTS-7, MIのいずれとも有意な相関がなかった。つま り、先延ばし傾向は、利益最大化傾向の2要因のいずれ とも無関係だった。 考 察 本研究の目的は、二要因モデルに基づいた利益最大化 傾向の尺度を翻訳し、日本語話者を対象とした研究に おいても、同モデルに基づいた研究を可能とすること だった。二要因の1つである最高基準については、この 目的は達成された。先行研究(Dalal et al., 2015)と一 貫して、MTSは7項目版であるMTS-7で特に信頼性が 高く、倹約的だった。また先行研究と一貫して、完全主 義との中程度の正相関が確認された。この結果から、今 後は最高基準をターゲットとする研究では、MTS-7の 利用が推奨される。ただし、管見の限りではオリジナル のMTSのほうがMTS-7よりも使用頻度が高い。そのた め、先行研究との対応を考えるのであれば、MTSを用 いることが望ましいケースもあるだろう。 一方で、選択肢探索については結果は複雑である。内 的に一貫した尺度が作成されていることは確認された が、先行研究で相関が報告されている先延ばし傾向とは 無相関であり、基準関連妥当性を確認することができ なかった。先行研究に用いられたものとは異なる尺度 で先延ばし傾向を測定したことが1つの原因として考え られる。Mann(1982)の尺度は未公刊であるが、Rim et al.(2011)が例示している項目の内容は、日本語版 GPS尺度には含まれておらず、かつ選択肢探索や選択 困難に近い。Rim et al.(2011)では利益最大化傾向の 測定にMSを用いている点も異なり、こうした尺度の差 異が相関係数の差として現れた可能性が考えられる。ま た、先延ばしは、長期的な利益よりも短期的な利益を 優先する時間割引でも発生すると考えられる(Steel & König, 2006)が、利益最大化戦略者が長短期どちらの 利益を優先するのかは明らかではなく、認知的手がかり などの境界条件に依存する可能性がある。さらに、現状 では文化差の可能性も否定できない。選択肢探索の尺度 としてのMIの妥当性については、確認の途上と評価せ ざるをえない。もとより、選択肢探索と先延ばし傾向と の相関関係を報告した先行研究は数少なく、知見の蓄積 が不足しているのである。 結論の曖昧さはMTSについても同様だと言わざるを えない。先行研究はやはり数少なく、予測通りに完全主 義との正相関も確認されたものの、完全主義と利益最大 化傾向の最高基準は尺度に含まれる質問項目の内容が似 通っており、当然の相関を確認したのにすぎないとも言 Table 3 利益最大化傾向測定尺度と完全主義、先送り傾向との相関 完全主義 General Procrastination Scale 高目標設定 完全性追求 ミスへのとらわれ 合算
Maximizing Tendency Scale 0.60 0.58 0.37 0.60 −0.07
MTS-7 0.61 0.58 0.36 0.60 −0.04
Maximization Inventry 0.40 0.50 0.42 0.51 0.02
える。MTSの妥当性を判断するにも、未だ情報は乏し いと考えるべきであろう。 利益最大化傾向の二要因モデルに基づいた研究は開始 されて日が浅く、特に質問紙で測定される選択肢探索に ついては、どのようなパーソナリティ要因や心理的状態 と相関するのか、ほとんど明らかになっていない。過去 の利益最大化傾向の研究知見を二要因モデルに基づいて 再検討する過程の中で、尺度の妥当性を確認していく必 要があるだろう。 引 用 文 献
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Appendix MTSとMIの原文 Maximizing Tendency Scale 1 No matter what it takes, I always try to choose the best thing. 2 I don’t like having to settle for “good enough.”
3 I am a maximizer.
4 No matter what I do, I have the highest standards for myself. 5 I will wait for the best option, no matter how long it takes. 6 I never settle for second best.
7 I am uncomfortable making decisions before I know all of my options.
8 Whenever I’m faced with a choice, I try to imagine what all the other possibilities are, even ones that aren’t present at the moment.
9 I never settle.
Maximization Inventory
1 I can’t come to a decision unless I have carefully considered all of my options. 2 I take time to read the whole menu when dining out.
3 I will usually continue shopping for an item until it reaches all of my criteria. 4 I usually continue to search for an item until it reaches my expectations. 5 When shopping, I plan on spending a lot of time looking for something.
6 When shopping, if I can’t find exactly what I’m looking for, I will continue to search for it. 7 I find myself going to many different stores before finding the thing I want.
8 When shopping for something, I don’t mind spending several hours looking for it. 9 I take the time to consider all alternatives before making a decision.
10 When I see something I want, I always try to find the best deal before purchasing it. 11 If a store doesn’t have exactly what I’m shopping for, then I will go somewhere else. 12 I just won’t make a decision until I am comfortable with the process.