脳梗塞の診療情報提供書における記載項目 —地域連携クリティカルパス作成時における調査—
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(2) 脳梗塞の診療情報提供書. はじめに 2006 年 3 月に日本医療マネジメント学会が全国の. 病院へは 25 項目,回復期病院へは 20 項目とし,その うち 14 項目は共通とした.回答は,「必要」「不要」 「どちらでもない」の 3 択とした.そして,必要とい. 200 床以上の病院,約 2,000 施設を対象にアンケート. う回答が 8 割以上あった項目を「希望記載項目」とし. を行った結果では,89 %の病院でクリティカルパス. た.さらにアンケートの自由記載欄に寄せられた意見. (以下,パス)が導入されており,パスは良質の医療. は,著者らの考えが及ばなかった切実な問題点である. を効率よく安全に提供するための必須のツールとして 1). 定着しつつある .パスはそれぞれの医療施設で作成. と考え,これも「希望記載項目」に加えた. 2.現状調査. したパスから,急性期病院とリハビリテーション(以. 地域連携パス参加の病院が記載すべき「必要記載項. 下,リハ)病院をつなぐ連携パス,さらに地域の複数. 目」は,すべての病院が記載可能である必要があるた. の急性期病院と複数のリハ病院が参加した地域連携パ. め,脳梗塞の地域連携パスに参加予定の急性期 5 病. スへと進化してきている2).しかし,一般のパスは 1. 「希望記載項目」を各々の病 院,リハ 13 病院に対し,. 日ごとに検査,治療,看護,指導などを詳しく設定す. 院が診療情報提供書に実際記載しているかという現状. るのに対し,地域連携パスは急性期病院入院からリハ. と,今後記載することが可能かについて,2006 年 7. 病院退院までを 1 枚にまとめたオーバービューパスで. 月にアンケートを行った.回答は,「現在記載してい. あり,連携施設間で共有すべき重要事項のみが記載し. る」,「現在記載してないが今後記載可能である」,「今. てあるものに過ぎないため,地域連携パスがあれば急. 後も記載不可能」の 3 択とした.そして,現在記載し. 性期病院とリハ病院の連携の問題がすべて解決するも. ているという回答が 2 割を越え,今後も記載不可能と. のではない.熊本では「脳血管疾患の障害を考える. いう回答がなかった項目を最終的に「必要記載項目」. 会」を中心に急性期病院とリハ病院のスタッフ間で意. とした.これは,連携パスの運用が始まれば,すぐに. 見交換をしてきているが 3),今回この会を中心に,脳. でも全病院が記載する必要があるため,「今後も記載. 梗塞の地域連携パス作成を開始した.その際,地域連. 不可能」がないことと同時に,現在少数でも記載して. 携には診療情報の共有が急務であると考え,限られた. いる病院があることを考慮して設定した.. 施設数・地域ではあるが,急性期病院とリハ病院それ ぞれが診療情報提供書に求める記載項目は何か,その. 分割表の検定には c 2 独立性の検定を行い,p<0.05 を有意とした.. 記載の現状はどうか,に関するアンケートを行った.. 結 果. 本稿ではその結果について報告する.. 対象と方法. 希望調査の急性期 5 病院とリハ 5 病院,現状調査の 急性期 5 病院とリハ 13 病院のすべてから回答を得た. 希望調査を依頼した急性期 5 病院,リハ 5 病院のう. 1.希望調査 アンケートは,まず 2006 年 6 月に「脳血管疾患の. ち,診療情報提供書に記載する項目として必要である. 障害を考える会」の急性期 5 病院の責任者に,患者が. と回答した病院の数を表 1 に示す.必要という解答が. リハ病院から退院する際にリハ病院が急性期病院へ送. 8 割以上あったのは,急性期病院がリハ病院からの診. る診療情報提供書に対して,急性期病院が望む記載項. 療情報提供書に対して 9 項目/ 25 項目,リハ病院が急. 目を調査した.同様に,主なリハ 5 病院の責任者に,. 性期病院からの診療情報提供書に対して 16 項目/ 20. 患者が急性期病院からリハ病院に転院する際に送られ. 項目であった.各設問に対して急性期病院は平均 2.6. る診療情報提供書に対して,リハ病院が望む記載項目. 病院/ 5 病院が必要と回答したが,リハ病院は平均 4.2. を調査した.アンケートの設問を表 1 に示す.この設. 病院/ 5 病院が必要と回答した.急性期病院とリハ病. 問は主著者が所属するリハ病院(当院)に届く様々な. 院に同じ質問をした 14 項目のうち,急性期病院とリ. 急性期病院の診療情報提供書と当院が急性期病院に送. ハ病院の回答に有意差があったのは 5 項目あり,. る診療情報提供書をもとに,当院の医師 3 名が作成. 「Barthel Index の項目別点数」は急性期病院で必要と. し,共著者である他のリハ病院の医師 1 名と急性期病. いう回答が多く,一方,「検査結果」「看護師記載の報. 院の医師 2 名の意見を加えて決定した.設問は急性期. 告」 「リハスタッフ記載の報告」 「患者家族への説明内. リハビリテーション医学 VOL. 43. NO.. 12 2006 年 12 月. 835.
(3) 徳 永 誠・他. 表 1 アンケートの設問と回答 設問. 急性期病院の希望. . 退院時処方 .
(4) . 急性期病院からリハ病院転院時点の問題点 .
(5) の項目別点数 .
(6) の合計点 移乗・移動能力 食事(食事内容,とろみ,角度,介助の有無) 検査結果 看護師記載の報告 患者家族への説明内容 リハスタッフ記載の報告 排泄(排泄状況,失禁の有無) 医療ソーシャルワーカー記載の報告. . / ○ / ○ / ○ / ○ / ○ / / / / / / / / / . . かかりつけ医への報告の有無 リハ病院入院中や退院時の問題点 転帰 外来通院先 杖・装具の有無 要介護度 . .
(7) 障害老人の日常生活自立度(寝たきり度) の合計点 の項目別点数 痴呆老人の日常生活自立度(認知度). . / ○ / ○ / ○ / ○ / / / / / / / . . 脳梗塞の臨床病型 急性期病院での治療内容 かかりつけ医の有無と病院名 既往歴,合併症 コミュニケーション能力 更衣・整容 / . 平均 急性期病院に対する患者家族の評価 の目標値. . リハ病院の希望 . / ○ / ○ / ○ / / / ○ / ○ / / ○ / ○ / ○ / ○ / ○ / ○. . / ○ / ○ / ○ / ○ / ○ / . 有意差 − − − < − − − − < < < − − −. / ○ . ○. : .
(8) . . , : .
(9) . . ,急性期病 院の希望:リハ病院からの診療情報提供書に記載する必要があると急性期病院が回答した割合,リハ病 院の希望:急性期病院からの診療情報提供書に記載する必要があるとリハ病院が回答した割合,分数: アンケートを依頼した 病院のうち必要であると回答した病院数,有意差:急性期病院とリハ病院に同 じ質問をした 項目のうち急性期病院とリハ病院の回答に有意差があったもの,−:有意差なし,○: 希望記載項目. 容」は,リハ病院で必要という回答が多かった.自由. 特に希望のあった「急性期病院に対する患者家族の評. 記載欄では,急性期病院からは「急性期病院に対する. 価」と「PT-INR 目標値」の 1 項目ずつを加えた,急. 患者家族の評価」と「急性期病院のリハスタッフへの. 性期病院希望 10 項目とリハ病院希望 17 項目を,「希. フィードバック」の記載希望があり,リハ病院からは. 望記載項目」とした(表 1) .. 「プロトロンビン時間の国際標準比(PT-INR)の目標. 希望記載項目の記載現状と今後の対応をきいた現状. 値」の記載希望と「急性期病院での説明内容はその理. 調査の結果を表 2 に示す.急性期病院希望の記載項目. 解度を含めとても重要だ」という意見があった.そこ. 10 項目中,リハ 13 病院の現状から 8 項目を「必要記. で,必要という回答が 8 割以上あった急性期病院希望. 載項目」とした.同様に,リハ病院希望の記載項目. の 9 項目とリハ病院希望の 16 項目に,自由記載欄で. 17 項目中,急性期 5 病院の現状から 12 項目を「必要. 836. Jpn J Rehabil Med. VOL.. 43. NO.. 12 2006.
(10) 脳梗塞の診療情報提供書. 表 2 希望記載項目の記載現状 リハ病院の現状 . 項目. 記載. 今後記載. 不可能. 必要記載項目. 転帰 外来通院先 退院時処方 急性期病院からリハ病院転院時点の問題点 かかりつけ医への報告の有無 リハ病院入院中や退院時の問題点 .
(11) の合計点. . . . ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎. .
(12) の項目別点数. . . . . . . . 項目. 記載. 今後記載. 不可能. 必要記載項目. 退院時処方 看護師記載の報告 リハスタッフ記載の報告 脳梗塞の臨床病型 急性期病院での治療内容 既往歴,合併症 急性期病院からリハ病院転院時点の問題点 検査結果 かかりつけ医の有無と病院名 の目標値. . . . ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎. . . . ◎ ◎. . . . .
(13) . 急性期病院に対する患者家族の評価. 急性期病院の現状 . 患者家族への説明内容 .
(14) . . . 移乗・移動能力 食事(食事内容,とろみ,角度,介助の有無) 排泄(排泄状況,失禁の有無) コミュニケーション能力 医療ソーシャルワーカー記載の報告. リハ病院の現状:急性期病院希望の希望記載項目 項目に対するリハ病院の現状と今後の対応,急性 期病院の現状:リハ病院希望の希望記載項目 項目に対する急性期病院の現状と今後の対応,記載: 現在記載している,今後記載:現在記載してないが今後記載可能である,不可能:今後も記載は不可能, 数字は回答した病院数,点線:点線より下は現在記載している割合が半数未満の項目,◎:必要記載項目. 記載項目」とした.これらのほとんどは現在記載して. が転院する場合には,一貫した診療計画に基づいた医. いるという回答であったが,急性期病院希望の. 療が行われなくなること,転院施設での経過や退院時. 「Barthel Index の項目別点数」と,リハ病院希望の. の患者の状態が急性期病院にフィードバックされない. 「患者家族への説明内容」と「modified Rankin Scale」. ことなどが問題点として指摘されている2).. は現在記載しているという回答が半数未満であった.. 我々は,上記のような転院患者の問題点を解決する には,地域連携パスの機能のうちでも,急性期病院と. 考 察. リハ病院の間での「診療情報の共有」が最も急務であ. クリティカルパスが病院内で適切に活用されると,. ると考え,今回限られた施設数・地域ではあるが,急. 診療の標準化,適正化,エビデンスに基づく治療. 性期病院とリハ病院が互いの診療情報提供書に望む記. (EBM)の促進,患者満足度の向上,在院日数短縮,. 載項目を調査した.アンケートの各項目に対して記載. 業務の効率化,チーム医療の向上,コスト削減などの. を必要とするという回答は,急性期病院よりもリハ病. 2). 効果が期待されると報告されている .ところが患者. 院で多くみられたが,これはリハ病院が急性期病院か. リハビリテーション医学 VOL. 43. NO.. 12 2006 年 12 月. 837.
(15) 徳 永 誠・他. ら転院した患者を数カ月にわたって入院加療していく. っていく必要があると思われる.. 必要があるためだと思われた.したがってリハ病院. 多数の病院が参加する場合,より良いものを追求す. が,積極的にお互いの診療情報提供書を改善するよう. る一方で,全病院が参加できるように妥協も必要であ. 働きかけていく必要があるであろう.急性期病院とリ. るというジレンマがある.今回は地域連携パスを始め. ハ病院の間で「患者家族への説明内容」の記載を希望. るにあたり参加全病院が確実に記載できる必要がある. するかについて有意差を認めたのは,急性期病院で楽. ため,希望記載項目をしぼり込んで必要記載項目にし. 観的な予後予測に基づいた説明がなされるとリハ病院. た.しかし今回の希望記載項目や必要記載項目に含ま. で対応に苦慮することがあるためかもしれない.自由. れなかった項目にも重要なものはある.今回の調査結. 記載欄で要望のあった「急性期病院に対する患者家族. 果はあくまで当地域の現時点での結果にすぎず,急性. の評価」は,急性期病院が患者満足度に注目している. 期病院とリハ病院の実情が異なる他地域では異なった. ためであり,「急性期病院のリハスタッフへのフィー. 結果になるだろう.その地域・地域で実情に合った診. ドバック」は,急性期病院とリハ病院のリハスタッフ. 療情報提供書を作る努力が必要であり,その過程が地. 同士の連携もまた大切であるためであろう.. 域の連携を深めることになると思われる.当地域でも. 脳梗塞の急性期病院とリハ病院との間で,診療情報 提供書にお互いがどのような記載を求めているのかに. 今回の調査で終わりではなく,今後地域連携パスを運 用していく中で必要記載項目を見直す必要がある.. ついて調査した報告は,検索し得た限りではこれまで. 急性期病院との診療情報の共有は,リハ病院が積極. 認められない.急性期病院とリハ病院は,相手が診療. 的に取り組むべき課題である.急性期病院とリハ病院. 情報提供書に何を望んでいるのかをまず把握し,診療. の間の診療情報提供書を充実させるには,お互いがど. 情報の共有に努め,地域全体として診療のレベルアッ. ういう情報を求めているのかをまず知り,それを確実. プを図る必要があると思われる.今回,「必要記載項. に記載していく必要があるだろう.そして,地域全体. 目」と判断したリハ病院診療情報提供書の 8 項目,急. でこの問題に取り組むには,地域連携パス作成がその. 性期病院診療情報提供書の 12 項目のほとんどは現在. 絶好の機会になると思われる.. 記載されているという結果であったが,急性期病院希. 文 献. 望の「Barthel Index の項目別点数」,リハ病院希望の 「患者家族への説明内容」と「modified Rankin Scale」 については現在記載されている割合が少なく,今回の 調査を契機に今後地域連携パス参加の急性期病院とリ ハ病院すべてにおいて記載されることになれば,今回 の調査の成果であると考える.さらに,検査結果記載 が乏しい診療情報提供書は,今回地域連携パスに参加 する脳卒中専門の急性期病院よりむしろ,紹介患者数 の少ない病院であることから4),今後は地域の中小の 病院にも地域連携パスへの参加を積極的に呼びかけ. 1)宮崎久義 : 地域連携クリティカルパスの意義と今後の 展開. 中外製薬, 東京, 2006 ; pp 1.33 2)野村一俊 : クリティカルパスの実際. 実験治療 2004 ; 675 : 128.133 3)古閑博明 : 地域完結型の脳卒中リハビリテーションシ ステム. リハビリテーション医学 2001 ; 38 : 812.817 4)徳永 誠, 渡邊 進, 桂 賢一, 橋本洋一郎, 中西亮二, 山永裕明 : 急性期病院から回復期リハビリテーション 病院に転院した脳梗塞患者の診療情報提供書の検討― 熊本市近郊における実態報告―. リハビリテーション 医学 2005 ; 42 : 50.57. て,地域全体として診療内容と情報共有の底上げを図. 838. Jpn J Rehabil Med. VOL.. 43. NO.. 12 2006.
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