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分子マトリックス電気泳動

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Academic year: 2021

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(1)電気泳動 第 58 巻 第 2 号,pp. 12-14,2014 年 doi:10.2198/sbk.58.12. 〔特集:最新の電気泳動技術〕 . 分子マトリックス電気泳動 亀山 昭彦*・松野 裕樹 . 産業技術総合研究所生物プロセス研究部門複合糖質応用研究グループ Supported molecular matrix electrophoresis * Akihiko Kameyama, Yu-ki Matsuno * Corresponding Author E-mail: [email protected] (受付 2014 年 6 月 11 日,受理 2014 年 6 月 18 日) . トラフルオロエチレン(PTFE)膜など他の疎水性膜を利用. はじめに . することもできるが, 機械的強度や後に述べる抗体染色と. タンパク質の生合成過程の後半では, ゴルジ体に並ぶ. の相性を考慮すると, ムチンの分離分析には現在のところ. 種々の糖転移酵素の働きによりタンパク質の糖鎖修飾が. PVDF 膜が最も適していると思われる. 親水性ポリマーに. 施される. 完成された糖タンパク質の糖鎖バリエーションは 細胞の分化度を鋭敏に反映するため, がんや免疫疾患,. ついては, ポリビニルピロリドン(PVP), ポリエチレングリコ ール(PEG)なども利用できる. 泳動条件は, セルロースア. そして再生医療の分野において, 糖鎖は良いバイオマー. セテート膜電気泳動で使われている条件がそのまま使え. カーとなる可能性がある. 実際, 古くから知られてきた. る.. CA19-9 をはじめとする腫瘍マーカーの多くは糖鎖抗原で ある. そして現在では, これらはムチン上に存在する糖鎖 と考えられている. 粘膜の主要な構成成分であるムチンは, 多量の O-結合型糖鎖に覆われており, その糖鎖含量が 重量にして 50%を超える巨大な糖タンパク質である. 近年, プロテオミクスの技術が成熟し, それを用いた疾患関連タ ンパク質マーカーの探索研究が活発に進められているが,. 図 1 SMME のコンセプト. ムチンは上に述べた特性のためトリプシンなどのプロテア ーゼに耐性があり, また, SDS-ポリアクリルアミドゲル電気. SMME には, PVDF 膜の物理化学的性質に由来するいく. 泳動(SDS-PAGE)の分離ゲルに入らない. このため, これ. つかの特長がある. 第一に, 泳動後の膜に様々な化学処. らの研究からムチンが見いだされることは少ない. ムチン. 理を施すことができる点があげられる. 例えば分離したム. を標的としたバイオマーカー探索を進めるためには, 従来. チンスポットから化学的に糖鎖遊離を行うことができる. セ. のプロテオミクスとは異なる新たな分析技術が必要である. 我々は, ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜を利用した新. ルロース系の膜はこの化学処理で分解して大量のオリゴ糖 を生じ, これが糖鎖分析の妨害となるが, PVDF 膜はそのよ. しい膜電気泳動法「分子マトリックス電気泳動」を開発し 1),. うな分解物を与えない. 第二は, 泳動後の抗体染色が容. ムチンの簡易分析への応用を進めている.. 易な点である. SMME の PVDF 膜はもともとウェスタンブロッ トに使用される膜であるため, ゲル電気泳動のように別の 膜に転写する必要がない. さらに第三の特長として, 予め. 原理と特長 . 疎水的吸着によりレクチンや抗体などを膜上に非動化でき. 分子マトリックス電気泳動(Supported Molecular Matrix. る点があげられる. これを活用し筆者らは別項で解説した. Electrophoresis: SMME)は, 疎水性の膜フィルターに含浸 させた親水性ポリマーを分離担体とする膜電気泳動である. アフィニティーSMME を開発している.. (図1). 筆者らは通常, 疎水性膜フィルターとして PVDF 膜, 親水性ポリマーとしてポリビニルアルコール(PVA)を用い. ムチンの分析 . ている. 疎水性膜フィルターとしては, ナイロン膜やポリテ. 膜結合型ムチンの1つである MUC1 は乳がん, 卵巣が 12. . 12.

(2) 電気泳動 第 58 巻 第 2 号,2014 年. 行った. アルシアンブルーで染色された各スポットを切り取り,. ん, 膵がんなどの免疫療法における標的分子として注目さ れている. ここでは3種の株化細胞(乳がん由来:T47D,. 膜ごと還元β脱離処理(50mM NaOH / 500 mM NaBH4,. 膵がん由来:HPAF-II および BxPC3)により産生される. 45℃, 16 h)に供してムチンから O-結合型糖鎖を遊離させた.. MUC1 の相違に関して, SMME を用いて分析した例を紹介. 糖鎖は完全メチル化後, MALDI-TOF MS にて分析した. 各. 2). する .. スポットの糖鎖比較を容易にするために, MS スペクトルにお. 各細胞の ペ レ ッ ト を ト リ プ シ ン 消化し , 限外濾過膜. ける各糖鎖(1‒18)の相対シグナル強度をヒストグラムに表示. (cut-off : 100 KDa)を用いてムチン画分を濃縮後, ジチオ. した(図 3). シアロ糖鎖はグレー, 中性糖鎖は黒の棒で示し. スレイトール(DTT)およびヨード酢酸による還元アルキル 化処理を行い, SMME 分析に供した. 泳動緩衝液としてピ. た. . リジン‐ギ酸緩衝液(pH 4.0)を用い, 1 mA/ cm の定電流 で 30 分間通電した. 電気泳動後の膜をアルシアンブルー で染色した結果を図 2a に示す. 左端のレーンは対照とし て泳動したブタ胃ムチン(PGM)である. この PGM は粗製品 であり, アルシアンブルー染色では移動度の早いものから 順に, コンドロイチン硫酸型プロテオグリカン, ヒアルロン 酸, 酸性ムチンであることが判明している 1). 株化細胞から 得られたスポットのうち, 移動度の高いスポット(T1, H1, B1) は, PGM の泳動像との比較からプロテオグリカンと推定さ れた. 図 3 各ムチンスポットの糖鎖プロファイル. 糖鎖の詳細は文献 2 を参照.. MUC1 のスポットの内, 膵がん細胞株由来の H2 と B3 は 互いに類似した糖鎖プロファイルを示し, 多種類のシアロ 糖鎖を含んでいることが示された. 一方, 乳がん細胞株 (T47D)の MUC1(スポット T2)は(NeuAc)(Hex)(HexNAc)を 主成分とする比較的単純な糖鎖プロファイルを示した. 膵 がん細胞株由来の MUC1 ではない 2 スポット(H3 と B2)は (Hex)(HexNAc)2 を主とする多種類の中性糖鎖を含み, や. 図 2 SMME による株化細胞のムチン分析 a: アルシアンブルー染色, b: 抗 MUC1 抗体染色. はり互いに類似する糖鎖プロファイルを示した. 以上のように, 糖鎖分析の結果, 同じムチンでも組織に よって糖鎖が異なることが示唆された. さらに, ここに紹介. 次に, 抗 MUC1 抗体(MY.1E12)を用いて SMME 膜の. したムチンの例では, 同じ MUC1 である上に, 糖鎖プロフ. 染色を行った(図 2b). HPAF-II の MUC1(H2)は他の 2 株 の MUC1(T2 , B3)よりも電気泳動における移動度が高く,. ァイルが類似していても移動度が異なる結果となった. 従 って, SMME における移動度は, ムチン分子をカテゴライ. 同じ MUC1 でも分子の物理化学的性質が異なっていること. ズする新たなパラメーターとして利用できるかもしれない. . が示唆された. HPAF-II には MUC1 の他に MUC4 が主た るムチンとして存在することが報告されており 3), スポット H3 は MUC4 の可能性があるが未確認である. また, BxPC3 は. コハク酸‐アルシアンブルー染色 . MUC1 の他に MUC2, MUC4, MUC6 を高発現しているとい. 泳動後の膜に化学処理を施すことができる SMME の特. う報告がある 4). 各ムチンに対する抗体で SMME 膜を染色. 長を活かしたムチンの新しい染色法を紹介する. ムチン染. することにより, それぞれのスポットを同定できると期待され. 色に用いられるアルシアンブルーは, 酸性ムチンの検出 には有効だが, 酸性残基の少ないムチンを染色することが. る. SMME による分離でムチンと推定された 5 個のスポット(T2,. できない. 一方, 中性のムチンでも検出できる過ヨウ素酸. H2, H3, B2, B3)について質量分析計を用いた糖鎖解析を. 酸化‐シッフ塩基法(PAS 染色)では糖鎖部分を酸化分解 13. . 13.

(3) 電気泳動 第 58 巻 第 2 号,2014 年. molecular matrix electrophoresis: a new tool for. するため, 染色後に糖鎖分析をすることができない.. characterization of glycoproteins. Anal Chem. 2009;. そこで我々は, 中性ムチンも染色することができ, かつ. 81:3816–3823.. 染色スポットの糖鎖分析も可能な, 新規ムチン染色法「コ ハク酸‐アルシアンブルー法」を開発した . 原理は, ムチ. 2) Matsuno YK, Dong W, Yokoyama S, et al. Improved. ンの特徴である多量の糖鎖分子にコハク酸を導入すること. method for immunostaining of mucin separated by. により, 酸性残基を増加させアルシアンブルー染色におけ. supported. る感受性を高めるものである(図 4). 糖鎖にコハク酸が導. optimizing the matrix composition and fixation. 入されるため糖鎖分析に影響を与えると危惧される方がい るかもしれないが, ムチンの糖鎖分析ではアルカリによる. procedure. Electrophoresis. 2011;32:1829–1836. 3) Khorrami AM, Choudhury A, Andrianifahanana M,. 糖鎖遊離処理を行うので, エステル結合は分解されて元. et al. Purification and characterization of a human. の糖鎖になる. この手法を用いることで, 高感度 PAS 染色. pancreatic adenocarcinoma mucin. J Biochem. 2002;. 法である Pro-Q Emerald に比して 2 倍高感度に中性ムチン. 131:21–29.. 5). molecular. matrix. electrophoresis. by. 4) Andrianifahanana M, Moniaux N, Schmied B M, et al.. 5). を検出することが可能となった .. Mucin (MUC) gene expression in human pancreatic adenocarcinoma and chronic pancreatitis: a potential role of MUC4 as a tumor marker of diagnostic significance. Clin Cancer Res. 2001;7:4033–4040. 5) Dong W, Matsuno YK, Kameyama A. A novel procedure for Alcian blue staining of mucins on polyvinylidenedifluoride membranes. Anal Chem.. 図 4 コハク酸‐アルシアンブルー染色の原理. 2012;84:8461–8466. 6) Matsuno YK, Dong W, Yokoyama S, et al.. まとめと展望. Identification of mucins by using a method involving a. ムチンの簡便分析法として, 新しい膜電気泳動法である SMME を紹介した. ムチン分析における今後の課題は, ム. combination of on-membrane chemical deglycosylation. チンコアタンパク質の同定である. 筆者らは, 抗体による. 394:125–130.. 同定法の開発を進めてきたが. and immunostaining. J. Immunol. Methods. 2013; 7) Dong W, Matsuno YK, Kameyama A. Serum protein. 2,6). , この方法を一般化する. ためには, 抗体ではなく何らかの物理化学的手法による同. fractionation. 定法が望ましい. また, SMME はムチン分析に限定される. electrophoresis. Electrophoresis. 2013;34:2432–2439.. ものではない. プロテオグリカンやヒアルロン酸などのムコ 多糖類の分析はもちろん, 通常の血清タンパク質の分析 にも応用できる 7). その場合, セルロースアセテート膜電気 泳動との違いは, 糖鎖分析や抗体染色が容易なことである. 一方, SMME は SDS-PAGE や二次元電気泳動と比べると 分解能は劣る. これらの点をご理解の上, SMME をご活用 いただければ幸いである. 謝 辞 本研究は , 新エ ネ ル ギ ー ・産業技術総合開発機構 (NEDO)「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト」の一部およ び 日本学術振興会( JSPS ) 科 研 費 ( 23310154 お よ び 23850019)の助成を受けたものである. 文 献 1) Matsuno YK, Saito T, Gotoh M, et al. Supported 14. . 14. using. supported. molecular. matrix.

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