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新型コロナウイルス感染症の基礎知識

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(1)

 病原体

 これまでにヒトに感染するコロナウイルスは 4 種

類知られており、かぜの原因の10~15%を占める原

因ウイルスである。ヒトコロナウイルスによる急性

上気道炎は夏、秋に少なく冬や春に増えるとされて

おり

1, 2)

、大規模な流行は 2 ~ 3 年周期に起こると

いう

3)

。ヒトコロナウイルスにヒトが再感染するこ

とはしばしばあり、これは抗体の減少が比較的早く

起こるためと考えられている

4)

 2019年12月から中国の湖北省武漢市で発生した原

因不明の肺炎は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明した

5)

(表 1 )。コ

ロナウイルスの中では SARS-CoV と同じベータコロ

ナウイルスという亜属に分類される。受容体結合遺

伝子領域の構造は、SARS-CoV の構造と非常によく

似ており、細胞侵入に同じ ACE-2 受容体を使用す

ることが示唆されている。

 臨床症状

 新型コロナウイルス感染症の潜伏期は14日以内

であり、多くの症例が曝露から概ね 5 日で発症す

6, 7)

 多くの有症状者で発熱、呼吸器症状(咳嗽、咽頭

痛)、頭痛、倦怠感などのインフルエンザ様症状が

みられる(ただし鼻汁や鼻閉の頻度は低いと考えら

れる)

7)

。アメリカ合衆国で診断された37万人の臨床

症状の頻度

8)

を図 1 に示す。

 下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度はメタ解析

9)

では下痢13%、吐き気/嘔吐10%、腹痛 9 %となっ

ており、SARS や MERS よりも少ないと考えられ

る。臨床症状はインフルエンザや感冒に似ている

が、嗅覚異常・味覚異常をみられることがあるのが

特徴である。10の研究を対象にしたメタアナリシス

では嗅覚障害、味覚障害の頻度はそれぞれ52%、

44%であった

10)

。インフルエンザ様症状に加えて、

新型コロナウイルス感染症の基礎知識

忽那 賢志

1) 〔論文受付日:2021年 1 月28日〕 1 )国立国際医療研究センター 国際感染症センター

特 集

特 集

表 1

コロナウイルスの種類とその特徴(筆者作成)

(2)

新型コロナウイルス感染症の基礎知識

嗅覚異常・味覚異常があれば、新型コロナウイルス

感染症の可能性が高くなるかもしれない。

 また経過が特徴的であり発症から 1 週間程度は軽

症のことが多いが、一部の症例では発症から 1 週間

程度で酸素投与が必要となり、さらに重症化する事

例では10日目以降に集中治療室に入室という経過を

辿る

12)

(図 2 )、というのが典型的な経過である。中

国での44,672人のデータによると、81%が軽症(肺

炎がない、もしくは軽度)、14%が重症(呼吸困難、

低酸素血症、24~48時間以内に肺炎像が肺面積の

50%以上を占める)、 5 %が最重症(呼吸不全、

ショック、多臓器不全)であった。

 日本での新型コロナウイルス感染症の入院患者の

レジストリである COVIREGI-JP の2,636例の解析

13)

によると、入院患者の年齢中央値は56歳(四分位範

囲 IQR:40~71歳)であり、症例の半数以上が男性

であった(58.9%、1,542/2,619)。入院までの中央値

は 7 日、在院日数の中央値が15日、死亡率が7.5%

であった。また2,625人の入院患者のうち酸素投与

が不要であった軽症者が62%、酸素投与を要した中

等症が30%、重症が 9 %であった。

 重症化のリスクファクター

 新型コロナウイルス感染症の入院患者レジストリ

COVIREGI-JP では、併存疾患がない症例と比較し

腎機能障害、肝疾患、肥満、高脂血症、高血圧、糖

尿病を有する症例は入院後に重症化する割合が高い

図 1

新型コロナウイルス感染症の症状の頻度 文献

8)

を元に筆者作成

図 2

新型コロナウイルス感染症の典型的な経過(文献

11)

を元に筆者加筆)

(3)

傾向にある(表 2 )。また併存疾患がない症例と比

較し、心疾患、慢性肺疾患、脳血管障害、腎機能障

害を有する症例は死亡する割合が高い傾向にあり、

重症化因子と死亡因子は異なる可能性があることが

示唆されている。

 また、60歳以上の基礎疾患のない患者の致命率は

3.9%であったのに対し、60歳以上の基礎疾患のある

患者の致命率は12.8%と高く、高齢者かつ基礎疾患

のある患者で特に死亡リスクが高いこと、および年

齢が高くなるほど致命率は高くなることが分かって

いる

28)

(表 3 )。

 亜急性期~慢性期に遷延する症状

 急性期を過ぎた後も症状が遷延することも明らか

になってきた。

 イタリアからの報告では、新型コロナウイルス感

染症から回復した後(発症から平均 2 ヶ月後)も

87.4%の患者が何らかの症状を訴えており、特に倦

怠感や呼吸苦の頻度が高かったという

29)

。その他、

関節痛、胸痛、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、

結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの

痛み、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状がみら

れるようである。32%の患者で 1 ~ 2 つの症状があ

り、55%の患者で 3 つ以上の症状がみられた。

 フランスからは、脱毛、記憶障害、睡眠障害、集

中力低下といった症状も後遺症として報告されてい

30)

(図 3 )。新型コロナを発症してから約110日後

に電話インタビューで回答した120人の回復者のう

ち、55%の人が倦怠感、42%の人が呼吸苦、34%が

記憶障害、31%が睡眠障害、28%が集中力低下、

20%が脱毛を訴えた。記憶障害、集中力低下、脱毛

などの症状はエボラ出血熱や SFTS(重症熱性血小

板減少症候群)などの感染症の後遺症としてみられ

ることがあるが、新型コロナでも稀にみられるよう

である。また新型コロナに感染する前に仕事をして

いた人のうち、発症から110日後の時点で職場復帰

をしていたのは69.1%であった。

 日本からも同様の報告があり、新型コロナから回

復した63人に電話インタビューを行ったところ発症

から60日経った後にも、嗅覚障害(19.4%)、呼吸

苦(17.5%)、だるさ(15.9%)、咳(7.9%)、味覚

障害(4.8%)があり、さらに発症から120日経った

後にも呼吸苦(11.1%)、嗅覚障害(9.7%)、だるさ

(9.5%)、咳(6.3%)、味覚異常(1.7%)が続いて

おり、また急性期には見られなかった脱毛の症状が

24%でみられた

31)

 胸部画像所見は、両側抹消側の浸潤影・すりガラ

ス影が特徴的である(図 4 )。胸部 CTでは肺炎像が

あっても、胸部レントゲンでは肺炎と判断できない

重症化のリスク因子 評価中の要注意な基礎疾患など 65歳以上の高齢者13) 担癌患者14) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)15) 慢性腎不全16) 2 型糖尿病17) 高血圧18) 脂質異常症13) 心血管疾患19) 肥満(BMI 30以上)20) 喫煙18) 固形臓器移植後の免疫不全21) 気管支喘息22) ステロイド23)や生物学的製剤24)の使用 HIV 感染症(特に CD4<200/μL)25) 妊婦26, 27)

表 3

日本の COVID-19 入院患者レジストリにおける60歳以上の致命率 文献

28)

より作成

(4)

新型コロナウイルス感染症の基礎知識

事例がある。中国での報告では胸部レントゲンでは

59.1%にしか肺炎像が確認できなかったのに対し、

胸部 CT では86.2%で肺炎像が確認できたという

7)

撮影された対象が一部異なるため単純化はできない

が、胸部レントゲンでは肺炎を 2 ~ 3 割は見逃す可

能性がある。接触歴があるなど検査前確率が高い事

例では胸部レントゲンで肺炎像を認めなくても胸部

CT を撮影することも検討すべきである。肺炎像は

発症から経過と共に広がっていくが、無症候性感染

者であっても胸部 CT を撮影すると肺炎像が観察さ

れることがある

32)

。全く熱も呼吸器症状もない無症

候性感染者であっても著明な肺炎像が観察されるこ

とがあるのは本疾患の特徴と言える。

 検査・診断

 日本では PCR 検査で SARS-CoV-2 を検出するこ

とで診断するのが一般的である。喀痰が採取できれ

ば喀痰での感度が最も高いが、採取できない場合に

は鼻咽頭拭い液が用いられる

33)

。SARS-CoV-2 は唾

液からも検出されることから、唾液を検体として用

いることもできる。唾液の感度は鼻咽頭拭い液に劣

34)

とする報告もある一方で、発症10日以内は唾液

と鼻咽頭拭い液とではウイルス量に差がないとする

報告

35)

もあり、侵襲が少なく医療従事者への曝露の

リスクもない唾液検体は特に今後インフルエンザと

の同時流行も懸念される冬季には有用であると考え

図 3

フランスで新型コロナウイルス感染症と診断された279人の発症から約110日後も続いていた症状

30)

図 4

新型コロナウイルス感染症患者の胸部 CT 画像(自験例)

(5)

られる。WHO は初回の PCR 検査が陰性であっても

なお強く疑われる事例では、繰り返し複数検体を採

取し検査を行うことを推奨している

36)

 国内では抗原検査も保険適用となっているが、

PCR 検査と比較して感度が劣るため、陰性であって

も除外することはできない点に注意が必要である。

また抗原検査では偽陽性の問題が指摘されてお

37)

、検査前確率の低い症例に無差別的に検査を行

うことで偽陽性の症例が多く発生することが懸念さ

れる。

 新型コロナウイルス感染症と確定診断されれば、

2020年12月時点では感染症法での指定感染症に指定

されており、診断した医師は速やかに保健所に届け

出を行わなければならない。

 保険適用とはなっていないが、抗体検査も臨床研

究や自由診療として行われている。PCR 検査、抗原

検査、抗体検査の違いを表 4 に示す。

 治療の考え方

 COVID-19 では、発症後数日はウイルス増殖が、

そして発症後 7 日前後からは宿主免疫による炎症反

応が主病態であると考えられている

11)

。したがっ

て、発症早期には抗ウイルス薬、そして徐々に悪化

のみられる発症 7 日前後以降の中等症・重症の病態

では抗炎症薬の投与が重要となる

38)

(図 5 )。ここで

の重症度は、軽症は酸素投与が必要のない状態、中

等症は酸素飽和度94%(室内気)未満または酸素投

与が必要な状態、重症は人工呼吸管理や ECMO(体

外式膜型人工肺)を要する状態を指す。

 さらに、これに加えて凝固異常に対してヘパリン

などの抗凝固薬を使用することも一般的になってき

ている。

 レムデシビル

 レムデシビルは RNA ウイルスに対し広く活性を

示す RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ阻害薬で、も

ともとはエボラウイルス感染症の治療薬として開発

されたが、in vitro で新型コロナウイルスに対し良

好な活性を示す

39)

ことから、新型コロナウイルス感

染症患者への投与が行われてきた。

 これまでに 5 つのランダム化比較試験が報告され

ている。中国からの237人の重症新型コロナウイル

ス感染症患者が登録された RCT では死亡、臨床的

改善に有意差はなかったが

40)

、一方、多国間医師主

導治験として実施され1,063人が登録された NIH の

RCTでは、プラセボ群では臨床的改善に15日であっ

たのに対しレムデシビル群では11日と31%短縮され

41)

。また 5 日治療群と10日治療群とでは有効性・

図 5

  COVID-19の重症度と治療の考え方 文献

38)

より

(6)

新型コロナウイルス感染症の基礎知識

副作用に差がなかった

42)

。これらの結果を受けて、

2020年 5 月 1 日に米国 FDA により緊急使用承認

(EUA)を受け、また2020年 5 月 7 日に国内で特例

承認制度に基づき薬事承認された。その後、 5 日投

与群、10日投与群、標準治療群の 3 群比較のランダ

ム化比較試験が報告されたが、ここでは 5 日治療群

は標準治療群と比較して有意に症状の改善が見られ

たものの、10日治療群は標準治療群と比較して有意

差はないというちぐはぐな結果となった

43)

。また

WHO とその関係協力機関が協力し、30カ国、405の

病院で入院中の患者を対象に実施した非盲検の比較

臨床試験において、標準治療群と比較したレムデシ

ビル群の死亡リスク比は0.95(95%信頼区間0.81-1.11)であったとする報告された

44)

。これまでのラ

ンダム化比較試験の結果をまとめたメタ解析では、

すでに人工呼吸管理が必要となった重症例に対して

は効果が期待できず、酸素投与が必要な症例に可及

的速やかに投与することで効果がある可能性が残さ

れている。

 副作用としては、肝機能障害、下痢、皮疹、腎機

能障害などの頻度が高く、重篤な副作用として多臓

器不全、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧が

報告されている

45)

 デキサメタゾン

 重症 COVID-19 患者は、肺障害および多臓器不全

をもたらす全身性炎症反応を発現する。コルチコス

テロイドの抗炎症作用によって、これらの有害な炎

症反応を予防または抑制する可能性が示唆されてい

る。

 英国で行われた入院患者を対象とした大規模多施

設無作為化オープンラベル試験では、デキサメタゾ

ンの投与を受けた患者は、標準治療を受けた患者と

比較して死亡率が減少したことが示された

46)

 この研究は6,425人の参加者を対象に行われ、デ

キサメタゾン群2,104人、対照群4,321人が参加した。

デキサメタゾン群の参加者の21.6%、対照群の

24.6%が、試験登録後28日以内に死亡した(RR 

0.83;95%CI、0.74-0.92、P<0.001)。予後改善効

果は、無作為化時に侵襲的人工呼吸管理を必要とし

た患者で最大であり、また登録時に酸素投与を必要

とした症例でも予後改善効果がみられた。しかし、

登録時に酸素投与を要しなかった集団では予後改善

効果はみられなかった。なお、デキサメタゾンは現

在の承認の範囲内で新型コロナウイルス感染症に対

しても使用可能である。

 その他、回復者血漿、モノクローナル抗体、トシ

リズマブなどランダム化比較試験で有効性が示され

た治療薬も存在する。

 感染対策

 医療従事者の感染を起こさないことは新型コロナ

ウイルス感染症の診療の上で最も大事なことの一つ

である。中国の138例の報告では感染者の43%が病

院内で感染した事例と考えられている

47)

。その他の

コロナウイルス感染症である SARS や MERS も病院

内感染症を起こしやすいことが知られており

48, 49)

病院という閉鎖空間で、特に患者と近距離で接する

機会の多い医療従事者はリスクとなる。

 感染経路は接触感染および飛沫感染と考えられて

いるが、エアロゾルが発生する状況では空気予防策

が推奨される。WHO は標準予防策に加えて接触予

防策、飛沫予防策を行い、エアロゾル発生手技を行

う際には空気予防策を行うことを推奨している

(WHO. Rational use of personal protective equip-ment for coronavirus disease 2019(COVID-19). 

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/ 

331215/WHO-2019-nCov-IPCPPE_use-2020.1-eng.

pdf)。

 国立感染症研究所と国立国際医療研究センター国

際感染症センターから示されている「新型コロナウ

イルス感染症に対する感染管理」でも WHO と同様

に、

Ⅰ 標準予防策に加え、接触、飛沫予防策を行う

Ⅱ 診察室および入院病床は個室が望ましい

Ⅲ 診察室および入院病床は陰圧室である必要はな

いが、十分換気する

Ⅳ エアロゾルが発生する可能性のある手技(例え

ば気道吸引、気管内挿管、下気道検体採取)を実

施する場合には、N95 マスク(または DS2 な

ど、それに準ずるマスク)、眼の防護具(ゴーグ

ルまたはフェイスシールド)、長袖ガウン、手袋

を装着する

Ⅴ 患者の移動は医学的に必要な目的に限定する

なお、職員(受付、案内係、警備員など)も標準予

防策を遵守する。

(7)

療研究センター 国際感染症センター.新型コロナ

ウイルス感染症に対する感染管理 改訂2020年 6 月

2 日.https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/

corona/2019nCoV-01-200305.pdf)。

 前述のように、発症前に感染性のピークがあるこ

とから無症状の時点でも屋内や公共機関ではマスク

着用(ユニバーサルマスク)が推奨されるように

なってきている

50)

。実際に、米国でもユニバーサル

マスクを導入することで医療機関における医療従事

者の感染者が減少したとする報告があり、新型コロ

ナウイルス感染症の院内感染対策としても一定の効

果があるものと思われる

51, 52)

。厚生労働省は「新し

い生活様式」を提案している。これは上記の手洗

い、咳エチケットに加えて「Social Distance(人と

の間隔を取る)」、 3 密(密集・密接・密閉)を避け

るなどを含むものである。

 新型コロナウイルス感染症が登場して以降、私た

ちは以前の生活にはもはや戻れないことを自覚し、

新型コロナウイルスと共存する社会を生きていかな

ければならないことを国民全体が理解し実行する必

要がある。

   著者の COI(conflict of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

 文 献

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参照

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現在政府が掲げている観光の目標は、①訪日外国人旅行者数が 2020 年 4,000 万人、2030 年 6,000 万人、②訪日外国人旅行消費額が 2020 年8兆円、2030 年 15

国内の検査検体を用いた RT-PCR 法との比較に基づく試験成績(n=124 例)は、陰性一致率 100%(100/100 例) 、陽性一致率 66.7%(16/24 例).. 2

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・Mozaffari E, et al.  Remdesivir treatment in hospitalized patients with COVID-19: a comparative analysis of in- hospital all-cause mortality in a large multi-center