地域の総合的教育力を高め、各学校を支援するユニークな試み : 士別市職員自主研グループ「エコクラブ」の活動
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(2) “北海道生涯学習研究”北海道教育大学生涯学習教育研究センター紀要 第2号. 平成14年3月. ReportoftheResearchandEducationCenterfbrLifelongLeaming−HokkaidoUniversityofEducationNo・2 March 2002. 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み ∼士別市職員自主研グループ「エコクラブ」の活動∼ 中西 信行・原田 政広 北海道教育大学旭川校 士別市役所職員自主研修グループ「エコクラブ」代表. EducationalpowerofcommunitiessupportingschooIs ∼Anexampleof‖Ecoclub一’∼ NobuyukiNakanishiand MasahiroHarada Research stuff of the HUE Research Center of Lifelong Learning and Teaching Representativeof”Ecoclub”. Abstract. InthesprlngOf2002,JapaneseschooIsstartanewcoursenamed一一Syntheticstudy,Hwhich. aimstohelppupilsandstudentslearninvolitionalandcreativeways・Thisnewcourse glVeSPuPilsandstudentschancestolearnSyntheticallythecircumstancesoftheirschooIs andhouses,enVironmentalproblems,andissuesofsocialwelfareacrossdi飴rentsu切ects・. Althoughcommunitiesareaccordinglyrequiredtosupportsuchnewwaysoflearnlng,mOSt. ofthemarenotinthestateofbeingabletorespondtothoseneeds・ IIEcoclub,IlavolunteerlnggrOuP,hasprovidedsupportsforclassesglVeninschooIsinthe. citywhereitis based,PrOPOSing various topics dealt with and asking helps oflocal governmentS,medicalinstitutions,and commercialandindustrialbodies・The present. articlepurportstoshowthatHEcoclubl▼hasmuchmore−Ieducationalpower一一thanmany COmmunitiesarethoughttohave.. Keywords:地域の教育的資源(educationalresourcesofcommunities),総合的な学習支援バンク (resourcebankfortotalsupportsofschooIs),総合的な学習フォーラム(workshopforpromoting Syntheticstudy),学校支援(communitiessupportingschooIs). −81一.
(3) 中西信行・原田政広. 1.はじめに 従来の学校教育では,学習指導要領に示された枠内での授業を推進していれば,直接的な責任 を問われることはなかった.しかし,今回の学習指導要領の改訂によって,指導内容や方法の弾 力化が大幅に図られたため,学校責任という課題が生じてきたのである.. 平成14年度から小・中・高等学校において実践される「総合的な学習の時間」には,その特徴 が如実に表われている.どのような課題を追求させて主体的・創造的解決能力を児童・生徒一人 一人の身につけていくのかが各学校の自由裁量となる反面,その責任もまた学校が背負うことに なったからである.. この時間では,活動を通して自ら学び,考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質 や能力を育成することが重視されている.また,その過程の中で,情報の収集・整理,追求,報 告や発表などの学び方や広いものの見方や考え方を身につけることも求められている. この時問の運用の困難点として,児童・生徒がはじめて体験的・問題解決的学習に取り組んで,. どの程度の能力や資質が身につくのかという不安が教師側にあるということがあげられる.教師 は,答えの明確な指導内容を効率的に教えるのは得意であるが,豊かな発想や創造力を発揮しな がら,答えの見えない追求活動を支援することには慣れていない.しかも,小学校で100時間以上, 中学校で70時間以上にわたる活動なのである.. また,学校の中だけでは解決しえない部分を,地域にまで学習フィールドを広げていくという 課題がある.地域には,市役所や老人や身体障害者のための施設や専門的知識や技術をもった人 材など,物的・人的教育力が多数存在している.しかし,児童・生徒を指導するための専門家は 一人もいない.また,働いている時間に,児童・生徒の質問に答えてくれるのかといった協力体 制にも不安が残る.. 平成13年度は,翌年から本格的 に実施するこの「総合的な学習の時. 間」の移行期間であった.したがっ て,各学校とも,この時間の効果的. 指導方法を求めて研究を推進して いた.12校ほどの小・中学校を視察 する機会を得たが,その中で次の ような傾向が見られた。 ①追求活動不足の学習例. 認識内容は高度だが,追求方法 に努力が見られず,本や資料を写 したり,専門家の話をそのままま とめたりしているので,説明の中 で使われている専門用語の意味さ. えわからない.児童の興味・関心だ. けで活動を始めた典型例である.. −82−.
(4) 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み. ② 分析・考察が弱い学習例. 身近な課題で追求活動は活発に行われたが,分析・考察ができず,資料の羅列に終わってしまっ た事例.まとめに成果がなく,感想で終わってしまう典型例である. (多 発表方法に重点を置く学習例. 追求内容が不足している部分を,模型づくりや図表,劇化などによって補い,発表方法に工夫 をこらす事例.発表物としては工夫されているが内容に乏しい典型例である. 三つの典型例をあげたが,児童・生徒の興味・関心をもとに課題を設定した場合,どうしても 認識内容が高度になる傾向は否めない.しかし,認識内容が高度になればなるほど自分の力で追 求することは難しくなる.課題の質は,認識方法の可能性,多様性によって決定すべきであろう. 粘り強く追求してこそ,新たな課題が浮かび上がり,その解決を通して学び方や認識力を高め, 広げていくことができるからである.. 「総合的学習の時間」の成否は,このスタート段階の課題の選択が鍵を握っていると言えよう. しかし,こうした体験型の探求的学習が未経験なうちは,どうしても見通しが甘くなるものであ る.この間題を克服するにはどのようにしたらよいのか.. そこで,標題の「エコクラブ」の基本的考え方と活動状況を示しながら,その価値を探ってい く.. 2.地域の教育力が「総合的な学習の時間」を充実させる二つの方法 はじめにトップダウン型の事例を示す.これは,長崎県の教育センターが「環境科学教育研修 講座」を小・中・高の教員を対象に実施し ている例である.1). それが授業実践へと結びつき,各小・ 中・高等学校では実践のまとめを行う.そ. の実践発表会が第3段階である.テーマ が環境科学問題に限定されているので, その認識内容と認識方法の難度を考慮し. たり,追求方法の適切性,学び方が児童・ 生徒の身についているかどうかも判断で. きる.共通テーマだから可能になるので ある.. 県内の学校が互いに情報を公開するの でその質の高まりが十分期待されるとこ ろである.それを,第4段階として冊子 にまとめ配布することによって,その取 り組みの評価資料ができあがる.それは. また,他校との連携よる調査活動にも広 がっていく可能性を示している.. こうしたトップダウン型の総合的学習の推進は,課題が限定されるという弱点はあるが①小・ 中・高の連携による一斉清掃の実施と環境教育②小・中・高の交流による追求方法の新たな開発 など,各学校で悩むさまざまな課題をセンターの強力な推進力によって解消できるという利点が. −83−.
(5) 中西信行・原田政広. ある.. 次に,ボトムアップ型で地域の教育力を発揮させている事例を示す.それが,士別市職員自主 研究グループ「エコクラブ」の活動である.クラブのコンセプトは,学校で取り組む「総合的学 習の時間」に,地域の教育的. dヒ 蟻 酸 轟計. 資源をどのようにリンクさ. 閲(57粥)−2001年(平成13年)12月7日. せていくのかを徹底的に追. 求していくことにある.な ぜこのようなクラブが発足. したのだろうか.それには, 次のような経過がある.. 士別市内には,現在,小 学校が11校,中学校が5校,. 高等学校が3校あるが,総 合的学習における課題追求. ︻士別︼拙頑の教育力. の自主研究グループ﹁エ. ︵原田政広代. を学校に−。壷. コクラブ﹂. 表、十四人︶が、来年度. 完全実施される小中学校 の﹁讐学習﹂に向け、. 市内のさ嘉の. 人を集め、琴柱立て てもらう人民ンクを来 年二塁設立する。遭. よる同様の曇. るが、民間グループ毒 は量的にも珍しいとい う。. 岡クラブの呼びかけに 対し、すで﹄蛋業者、 薬剤師、保健婦、農家、 商壷署など二十五職. が多様化すれば,市役所や 保健所,消防署をはじめ各 施設に五月雨式に児童・生 徒が訪問することになるで. あろう.一方,市街地から. 離れた学校から訪れて体験 的学習を試みる場合には, 追求課題の解決につながる. 有効な資料を短時間で手に 入れる必要もあるだろう.. 本来は,学校が児童・生徒の 課題に応じて,その追求に 其の展開を想定してい る。 また、学校側の了解を 得られれば﹁総合学習の 内容の宏階から、ア. ︵原. ドバイザ皇加す. 田代表︶という。. ることも考えたい﹂. 原田代表はr働く人は. バンク萱録の当面の目 襟は五十職種、約百人。. なっての教育英現に]役. 皆、萎詩を持ってい る。地域の教育力をフル に活用し、地域が一体と. 貿いたい。子供たちにさ まぎまな価宰に散九て もらいたい﹂と話してい る。 同クラブは一九九八年. 瑠、約四十人が蓋の意空覧を市内十五の全小童や、子供たちが萱に市の寄手賓巌成、 向を示している。中学校に配布し、盆療の寮の職場に出かけて教育問題をテーマに港動 バンク設立後は、専轟要望に対応。学校での出の蔭学習墓浸している。. 墓会などに. 来年2月、士別に. 適した地域の物的・人的教 材を探すべきものである. しかし,交通機関をはじめ,. 訪問の日時や質問内容の打 ち合せ等,すべてを完了す るには相当数の手間と時間. 北i毎道新聞記事2). がかかるであろう.そこで,. 逆に地域主導で「総合的な学習支援バンク」を作り,「地域の教育的資源」を最大,かつ有効に活 用できる学校支援のための推進団体をつくろうという構想をもったわけである.学校にその情報 を逆発信,逆提案していけば,将来の「まちづくりのリーダー」を育成することにもなると考え た.それが,「エコクラブ」の結成へと発展していったのである. 逆発信する利点は,具体的な教材と対応できる内容が地域にはあるということを学校に示し, 幅広い課題追求に応じたり,また,問題意識の薄い児童・生徒には,これならやれそうだという. −84−.
(6) 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み. 「疑問の芽」を育み,広げていくことができるところにある.. また,地域での体験学習を通して人的・物的価値に触れることにより,士別市のよさへの理解 を深め,ふるさと意識を高めることができる.. さらに,この「総合的な学習支援バンク」が整備され,活用が活発になされるようになれば, 小・中・高一貫した課題追求や,共通の学習フィールドでの活動後に学校レベルに合わせた独自 の課題追求を行うなど,多様な総合的学習の形態のバリエーションづくりも期待できる・ このような発想で,「エコクラブ」は平成10年に士別市の若手職員を中心にして結成され,現在 に至っている.その堅実な歩みを事例を中心に紹介し,そのユニークさと柔軟性,「地域主体」が 総合的学習の取り組みを支援する価値を述べていく.. 3、下士別小学校の総合的学習を支援した「エコクラブ」の協力体制 平成11年度,下士別小学校では,5・6年生を対象に16時間の総合的な学習「士別の環境問題 対策を知ろう」という追求課題を設定した.. エコクラブは,その授業内容にも積極的にかかわってきた.代表の原田をはじめ,下水道課に 勤務する職員がメンバーに多くいたからである.そこで,環境問題対策の一つとして,「汚水をど のように処理するのか」を題材として取り上げたのである.. そこで,市の下水道課で展開している個別合併処理浄化槽設備事業を通して,下士別小学校の 浄化の仕組みを探ろうとした.まず,微生物(好気性微生物)が,汚水や生活排水を浄化する仕 組みについて実験を通して学習した.さらに,微生物が,生態系を維持する上で欠かせない存在 であることを,食物連鎖を例に児童に考えさせていった.. さらに,理解を深めるために,下士別小学校の個別合併処理浄化槽の製作業者と設置業者をス タッフとして組み入れ,その仕組みを具体的に説明した.. 担任は,こうしたエコクラブの学校支援に対して,学級通信の中で次のように述べてい る.3). 今回の参観日には,2002年度から始まる「総合的な学習」に向けての試みを行う予告をいた しました.しかし,話題の入り口が「汚水」ということで少々のためらいもありましたが,「汚 れているからこそ,きれいにしなくてはならない」という考えに至ったことは収穫でした. 3時間目には,多数の父母が見守る中で微生物の観察をしたり,実験をすることができまし た.これも,父母の方々の関心の高さだと思いました.. 11月9日に行った第2回の総合的な学習では,かねてお願いしてあった「丸衛協和化成㈱」 さんの工場を見学しました.バスで工場に着くと,早速見学が始まりました.適宜,質問の時 間をとりながら工程ごとに丁寧に説明をいただきました.加えて見学しやすいように上部をつ り下げたり足場を組んでいただいたりと,至れり尽くせりの学習でした. 川瀬専務さんが,実物を通して学ばせようということで工程を一時ストップして見学させて くださいました.企業として,利益追求は当然のことですが,社会に責献するという点でここ まで取り組んでいただけたのは,浄化槽を通して環境を守るという企業の目的がそうさせたの だと思います.. −85−.
(7) 中西信行・原田政広. 今回は,市役所の方だけでなく,農業改良普及センター主査の小林さん,土木現業所士別主張. 所河川係大久保さんを迎えて,堂々と「私の環境対策」の提言を行いました.一人1分の現状 分析と提言ということでしたが,それぞれの専門家から高い評価を受けた人が多くいました. それは,これまでの学習が実り多いものだったことを証明するものです.. 「今回もまた,学校主導でもなくよくある『出前講座』でもない,学校とエコクラブとが融合し た形で行う『総合的な学習』でした」と担任が感想を述べているように,今回の工場見学も,事. 前の詳しい説明を受けたあとの実地見学であり,先に得た知識を確認するための体験学習であっ た.学校独自では,こうした体験的な学習を計画することはできない.このように,エコクラブ の支援活動の姿勢は一貫している.専門的知識を生かす以外は,学校の要望を実現するための物 的・人的支援に撤するのである.. 4.児童・生徒との知的・情的ふれあいをめざす「エコクラブ」の活動 (1)科学教室の開催. 現在,子供たちの理科や数学離れが深刻化している.そこで,エコクラブは,『科学教室∼実験 ∼土のパワー∼』を開催した. 保護者の皆様へ. 理科ばなれといわれる現代,中でも難しいと思われがちな科学の世界を,親子で楽しく体験 してみませんか.家庭で簡単にできる,身近な素材を使った実験を通して,土の力や,微生物の はたらきを学習します.このことから,科学への興味関心,また自ら調べ,学ぶことの大切さを. 少しでも感じていただけたらと考えております. 皆様の参加を心からお待ちいたしております. エコクラブ代表 原田 政広 対象は,小学校4年生の児童および父母である.子供だけではなく,大人にも科学的知見を身 につけてはしいという願いから,こうした地道な活動を続けていくのである.. (2)絵本の読み聞かせの実践. 平成13年11月から週1回水曜日,朝8時10分∼20分の間,士別南小学校の1,2年生の4クラ スを対象に絵本の読み聞かせを実践してきている.スタッフに,エコクラブ会員のほか,士別南. 中学校生徒,市民がいる.昨年,大阪教育大学附属池田小学校において,不法侵入者によって児 童が殺傷されるという痛ましい事件が起こった.今まで,開かれた学校をめざしてきた各学校が, 再び閉鎖的になってはならないと考える.そこで学校の不安解消や崩れかけそうな学校の姿勢に 少しでも協力できないかと,読み聞かせを始めたのである.. 5、総合的な学習フォーラムの開催と会員の研修 エコクラブでは,毎年「総合的な学習フォーラム」を開催している.平成13年度のフォーラム は,11月27日,士別市民文化センターで実施された.目的は,以下の通りである. ① 総合的学習の内容とその必要性を広く一般市民が理解する.∼「総合学習支援バンク」の. −86一.
(8) 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み. 充実. ② 地域がもつ教育力の価値と学校への支援体制の具体的方策を探る.∼各学校の理解と積極的 な取り組み・学校とエコクラブとの具体的融合. ③ 士別市が,真の「生涯学習のまち」として機能する方策を研究する。∼総合学習のもつ価値 「知の総合化」を市民・地域をまとめるための「知の総合化」に 当日は猛吹雪のなか,一般市民,学校教職員,民間団体な. 内容. ど多様な人たち40名はどが参加してフォーラムが開催され. ◇基調講話. 『地域の教育力を学校教育. た.名寄市民の参加もあり,エコクラブの活動がその輪を確 実に広げているということを実感できた.基調講話の要旨. へ』. 北海道教育大学助教授 中西 信行. は次のようなものである. ①総合的学習の時間が果たす役割. ②移行期間に見られた活動内容の諸問題. ◇学校現場から. 『総合的な学習の展望』. ④地域の教育力を学校教育に生かす手立て. 愛別町立協和小学校校長. (9地域の教育力がもつ三つの壁. 香川 芳見. ⑥総合的学習を地域での生涯学習の一つとする特に,強調し. たのは次のことである.現在,地方分権の動きが急速に進み,. ◇研究事例発表. 住民主導の個性的でしかも,総合的な行政システムが求めら. 『総合的学習の時間・グロー. れてきている.それは,「よりよく共に生きる」地域社会と地. カル・情報・コンパスの展開』. 北海道教育大学附属旭川中. 域福祉の実現を図ることであろう.健康を維持するための. 学校教官. 施設と病気予防のための保健指導,病気になったときの医療. 同. 佐藤 保. や介護の充実は,総合的な施策計画の中で具体化されていか. 澤井 陽一. なければならない.それは,地域住民が,「ふるさと意識を. ◇フロアとのディスカション. もち,その地で生きて暮らすことに誇りがもてる」価値を共 有することでもある.. コーディネーター. 士別市立南中学校教頭. 白井 彰. これからの地域社会では,NPOのような公共活動を担う. 民間活動の意義を重視しつつ行政と民間活動団体がパート ナーシップの関係で手を取り合い,その活動の質を互いに磨. き合っていくことが,行政を維持していくうえで欠かせない要件となっていくであろう.地域 に根ざした「特色ある学校づくり」が求められてきたことと,上の行政改革の視点とは密接な関 連性をもっている.それは,地域と学校の融合という視点である.したがって,エコクラブのよ うなボランティア活動は,地域と学校の融合化を進めていくうえでなくてはならない存在である. 「特色ある学校づくり」における特色は,児童・生徒が生きる力を身につけるための特色でなけ. ればならない.独自の特色と価値のある教育が展開されるためには,地域と学校の融合化がもっ と積極的に進められなければならない.教科書中心の知識・技能の育成や探求心を培う指導には 限界がある.生活を向上させる目的からあまりにも離れた学習だけでは,問題解決能力,真実を 探求する知的好奇心が育たないからである.. 体験的・探求的・創造的な「総合的学習の時間」は,自己の生き方や生活の向上に直接目を向 けるための学習でなければならない.物的・人的価値と直接ふれあい,真実や事実を体験を通し て発見する,「わかる」学習でなければならない.. ー87−.
(9) 中西信行・原田政広. 佐伯月割ま,『学びの構造』の中で,「たとえば『地球はまるい』ことが一たびわかってしまうと,. もはやそのことを「知らなかった」状態にもどることはできない。それをあたかも『知らなかっ た』ことにする,というわけにはいかない.つまり,『おぼえる』ということばはいわば『可逆 的』(もとにもどる)ことばであるのに対し,『わかる』ということばは『非可逆的』(もとにもど らない)ことばである.」と述べている.4). 実際に,児童・生徒が体験を通してふれた地域の真実の姿や事実は,「わかる」学習の中で身に つけたものであり,「わからなくなること」は決してない.そこで得た地域の価値は,自己の生き 方への認識を広げ,自己の生活の向上に直接役立つものとなっていくはずである。その意味で, 総合的学習の時間で身につけることは①問題解決の道筋がわかること②多角的な視点から解決方. 法を判断し,よりよい方法で解決できることと言える.. 特色ある学校づくりは,地域と学校が強力に結び合わなければ実現できない「総合的学習の時 間」を核として,学校の独自性や主体性を生み出していくであろう.その過程の中で,児童・生 徒と地域住民との文化的交流がなされ 最終的には地域に根付いた文化に発展していくものと考 えられる.学習は,自ら課題をもち探求していくことに意義がある。この「総合的学習の時間」. も,小・中・高等学校で学び方や解決方法を学ぶための,生涯学習の基礎的,基本的な能力を身 につける場とならなければならない.. 士別市は,優秀なボランティア団体が多く育つ「まち」である.そのため,「総合的学習支援バ ンク」も,2月からその力を発揮できることになったのであろう.また,ボランティア同士が互. いに手を結び合って新たなボランティア活動ができるというボトムアップ型のこうした土壌は, 士別市民が長い間に培ってきた良質なパートナーシップが結実しつつある過程の姿なのかもしれ. ない.いずれにしても,このエコクラブの教育力は,「総合的学習支援バンク」の設立によって一 気に高まることが期待される.. 6、地域の教育力がもつ三つの壁 地域の専門家を活用する際の第一の壁は,教育的配慮がどこまで可能かということである.特 に,専門分野の言葉がその壁となるのである.職業人は,その分野の技術や知識に関してはプロ フェッショナルな力量をもっていても,教えることに関しては素人である.そのことを忘れては ならない.説明が端的であり簡潔であるうえに専門用語が多い.児童がメモしようにも,話す速. 度が達すぎる場合もある.教えることが主となり,育てようとする面が欠けているからである.. 児童・生徒の質問部分には答えるが,それにかかわる原理や仕組みなど,本質の部分は話さない という場合もある.そのため,教師との事前の打ち合せが必要なことは言うまでもない.. 小学校4年生の発表に「耕地の土壌を改良するためには,∼」「河川の汚染・汚だくの原因は ∼」という,発表者自身もその意味を理解してはいない言葉が入ること自体を問題にしたい.「表 現・発表の工夫」の面が育っていないからである.. エコグループのメンバーは,授業参観を研修に取り入れている.児童・生徒の発達段階を理解 するためである.「総合学習支援バンク」登録者全員が,メタ言語の使用者になることは難しいが, 何度かの児童・生徒との出会いを通してこのことを理解し,解消していく登録者自身の努力も必 要であろう.. 第二の壁は,質問に対してすぐ解答や結論を示してしまうことである.学校側としてはなぜそ. ー88−.
(10) 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み. のようになるのかを検証する方法など,追求するための視点を示唆してほしいところだが,質問 にすぐ答えることが子供たちのためになると考える専門家が多い.そのため訪問前に児童・生徒 の質問内容を整理し,重なりをなくすとともに,事前に指導方法の打ち合せをしておく必要があ ると考える.よりよい解決方法を探す能力を身につける学習なのに,すぐ結論が出たのでは何の 追求にもならないからである.「分析・考察能力」をいかにして育てていくのかは,この学習の生 命線ともかかわるものである.. ある学校で,校庭にある樹齢150年以上と言われている樹木の本当の年令を知りたいという疑 問が児童たちの間から出た.それを解決するために,教師が林産試験場の方に依頼をしたところ, 樹齢測定器で樹木に穴をあけて調べてくれたそうである.これは,貴重な樹木に穴をあけただけ ではないか.手軽な解決から,分析・考察の意欲は生まれない.第三の壁は,学習支援を避けた いという役所や事業所が多くあるということである.確かに勤務中での児童・生徒の訪問は,勤 務にも差し障りが出よう.営利目的や安全管理の面から快い返事がもらえない場合もある.父母 の場合は仕方なく引き受けてくれても,学校を子供が卒業した途端,断られるケースもある.教 師が管理していてくれるならという条件を出す施設もある.しかし,同時に何箇所もの施設を訪 問している場合も多く,教師が一か所についていることは不可能に近い.もっとも,困るのが日 時等の折り合いがつかない場合である.このように,地域の教育力を活用しようとするときには, さまざまな問題が出てくることが予想される.. 特に,①協力してくれる人材や施設および,可能な指導内容をまとめた基礎データをもとにし た依頼②日時,交通機関,安全面,服装,持ち物等の調査③質問内容を整理した上での事前打ち 合せなど,学校の責任として考えなければならないことは多い.. エコクラブは,この諸課題を「総合学習支援バンク」を機能させ,解消しようとしている.大 いに期待したいところである.. 7、ポートフォリオを活用した追求活動の充実 長期間にわたる「総合的学習の時間」において,もっとも重要なことは,児童・生徒が粘り強 く自己課題を追求できるのかという問題である.専門家に答えを聞いてすでに解決してしまった. 者,まだ,解決の見通しが不十分なまま新たな課題に悩んでいる者,追求して資料は多く集めた が,その整理がつかなく分析や考察に入れない者など,実際の活動では,一人一人の進度が異な り,またその対応に教師も苦しむことが予想される.. そこで有効な手立てとなるのは,ポートフォリオによる評価である.これまでの活動を振り返 り,今後の見通しをもつためにこの評価法は有効だと考える.そのため,A4版の厚紙を5∼6. 枚用意する.見やすいように,それぞれの内容は,色画用紙に書いてレイアウトし適当な大きさ に切ってから厚紙に貼っていく.項目ごとに色を変える.写真や図表も適時入れてわかりやすい ようにする.内容は次の通りとし簡潔にまとめる. ①追求課題→②設定の理由→③発見した事実を箇条書きに→④これまでの成果のまとめ→⑤新 たな課題の整理⑥今後の追求内容と方法を箇条書きに. このように,簡潔にまとめさせて⑤と⑥を考えさせるのである.もし,④の成果が不足してい ると考える児童・生徒がいる場合には,①の追求課題の視点を変えて,新たな追求をさせるよう にすればよい.. −89−.
(11) 中西信行・原田政広. 前述した佐伯氏は、「『わかる』とは,『わからないところがわかる』ということである。」と述. べている.ボートフォリオ評価は,不十分な部分,「わからないところ」を発見するうえで有効な 手段だと考える.. 中間発表会を行い,意見を出し合う.もし,その時点で追求を終えていたり,成果まで出せな い状況の児童・生徒がいた場合は,課題の質を話題にし,どのような方法で取り組むのかを全体 の中で考えさせる.. ポートフォリオによる評価はなぜ有効なのか.それは,長期間取り組みを続けていると互いの よさを学ぶ機会もなく,追求の空回りをしている可能性があるからである.そこでこのような中. 間発表会を設定し,問題解決の方法を学び合う中で,解決のヒントを得る機会をつくるのである. 「総合的学習の時間」は,「ゆとり」とともにある時間である.これまでの「学び方」は,いか に効率的に知識・技能を身につけるのかというところに主眼がおかれてきた.しかし,「総合的学. 習の時間」においては,失敗体験も多くさせるべきである.失敗したあと,「では、どうすればよ かったのか」を考えさせるのである.そこに「学ぶこと」の原点がある.自分の学び方を振り返. り,追求活動の弱さを知り,分析・考察することの難しさを知るなど,自分の弱さを見つめ,そ れを克服するために今後何が必要かを考えていくところに「真の学び方」があると考える.その ための「ゆとり」の活用を学校でも大いに工夫していきたいものである.. 8.おわりに 学校の「総合的学習の時間」を,地域の教育力がどのように支えていくのかという視点には,. トップダウン型とボトムアップ型の両面があると述べてきた.しかし,長崎県教育センターの事 例にみられるように,通常はトップダウン型を考えるのではないだろうか.組織力があり,教育 的物的・人的環境が整っている教育委員会や研修センターのような公的教育機関であれば,地域 の教育力を結集するにもさまざまなコンタクトが容易にとれるであろう.. 施設や人材,自然等の教育的価値を見直し,その基礎資料を作り,その活用方法を講座や現地 説明会において教員に指導する.このような情報提供や活用方法までの指導を行うことまでもで きるであろう.. こうしたきめ細かな構想を小規模のボランティア団体である「エコクラブ」が主導し,実現し ようとしているのである.その取り組みは,士別市内の各学校,地域に浸透しつつある.このボ. トムアップ型で地域の教育力を機能させていく方法は,全国的にもあまり例がないと思われる. 士別市の校長会も,この「エコクラブ」の考え方に賛同の意を示していると聞く.今後,「総合学 習支援バンク」が本格的に機能し,各学校との結びつきが強くなったとき,「エコクラブ」の教育 的真価が問われることになるが,そのユニークな発想と実践力には,これまで述べてきたように 驚かされることが多い. 6のところで述べた「地域の教育力がもつ三つの壁」は,これから学校と地域の行き来が密に. なるほど生じてくる課題である.そうした状況の中で,もっとも困難な第三の壁を「エコクラブ」 が肩代わりをするというのである.そのことだけでも,クラブの存在価値は大きい.しかも,ボ ランティアというところに敬意を表したい.. 一方,「総合的学習の時間」は,児童・生徒が成長する場である.体験活動をさせれば問題解決 能力が身につくものではない.7の評価でも述べたが,学校教育の中で,児童・生徒の探求的・. −90−.
(12) 地域の総合的教育力を高め,各学校を支援するユニークな試み. 創造的姿勢が育っていかなければ,価値ある体験であっても,その効果は半減してしまう場合さ えある.学校には,児童・生徒を育てるという責任が伴う.前述したように,特に,この総合的 学習の活動については,内容や方法についてもすべて学校の裁量に任せられているものである. 学校の教育力が試されることになっただけにその責任は重い.. 責任の伴う教育指導を行う学校の立場からすれば,この「エコクラブ」の存在は心強く映るこ とであろう.しかし,情報の活用を効果的にするのは学校側の創意工夫であり,最終的には,児 童・生徒自らの判断がそれを左右するものである.その部分まで「エコクラブ」に頼るのは間違 いである.「学社融合」という言葉に隠れて,教育を地域にあずけたとき,それは学校崩壊が始ま るときであると考える.「特色ある学校」の色は,学校の独自性と主体性によって染められなけれ ばならない.. 学校とボランティア団体「エコクラブ」と行政が,互いにパートナーシップの関係を保ちつつ 「総合的学習の時間」の充実を図るようになれば,士別市の生涯学習の質も畳も一気に高まるこ とが期待できる.まさに,幼児から小・中・高生,そして高齢者までが「学習」という一本の強 い絆で結ばれるからである。. 【参考文献】. 1)『豊かな学力をはぐむ教育の実践』,全国教育研究所連盟編,ぎょうせい,1998年,p197. 2)北海道新聞,2001年12月7日(夕刊)記事 3)下士別小学校,5・6年学級通信「OPEN」,恥.39,恥.45. 4)『「学び」の構造』,佐伯膵,東洋館出版社,1995,p39. −91−.
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