学力向上策としての悉皆学力テストの批判的検討 ―「成績公表」信仰の妥当性を問う―
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(3) 163. 群馬大学教育実践研究 第 26 号 163 ~ 168 頁 2009. 学力向上策としての悉皆学力テストの批判的検討 ―「成績公表」信仰の妥当性を問う― 山 崎 雄 介 群馬大学大学院教育学研究科教職リーダー専攻 (2008 年 10 月 31 日受理). はじめに. しかし,こうした動きはひとり「下位」県だけのも のではなく,2007 年の第 1 回に続き,2008 年にも都. 下に引用するのは,2008 年度「全国学力・学習状況. 道府県間順位はきわめて高かった(上記 8 つの問題・. 調査」 (以下「全国調査」)の結果が同年8月下旬に文部. 学年類型のうち5つで 1 位,残る3つも2~3位)秋. 科学省(以下,文科省)から公表されたことをうけ,. 田県でも,寺田典城知事がこの動きに追随し,市町村. 府下の全市町村に「成績公表」を求めた橋下徹・大阪. の「成績公表」をすすめる意向を表明した。また,新. 府知事の発言を報じたニュースサイトの記事 1)である。 聞報道によれば,鳥取県教育委員会は,2009 年度分か らの学校別の「成績公表」を 11 月県議会に提案する意 全国学力調査の市町村別の結果を公表するよ. 向だという 2)。さらに,広島県福山市,東京都板橋区. う主張する大阪府の橋下徹知事は7日,同府箕面. など3つの区,栃木県宇都宮市などで,すでに学校単. 市であったラジオの公開生放送で「あのクソ教育. 位の「成績公表」の動きが出てきている。. 委員会のメンバーが,過度な競争が生まれるとい う理由で発表しない」と発言した。. 本稿の目的は,これらの政策イニシアティヴに通底 する信念,すなわち, 「情報開示による学校間競争の組. 橋下知事は放送後も,報道陣に対し,公表・非. 織化は指導改善のためのインセンティヴとして有効で. 公表の市町村教委によって来年度の予算編成で. ある」とでもいった信念がはたして正しいのかどうか. 「差をつける」と述べた。一例として,府が年間. を,2007 年から開始された「全国学力・学習状況調査」. 30 億円負担し維持する公立小学校での 35 人学. の都道府県別通過率などのデータを用いながら批判的. 級編成について,非公表の教委に「費用は出す必. に検証することである。. 要はない」 と主張。 「府がつける予算は府の判断, 責任でやる」と話した。. 具体的には, 「広域学力テスト‐成績公開」という 近年の動向を概観したうえで,とくに全県レベルで学 校単位の「成績公表」をすすめる自治体の「全国調査」. ちなみに,大阪府の「全国調査」における 47 都道 府県中の順位は,小学校国語Aが 42 位,国語Bが 45. 結果をみることにより,件の信念への一定の反証を試 みる。. 位 (同調査では問題Aが 「主として知識に関する問題」 , 問題Bが 「主として活用に関する問題」 となっている) , 中学校国語A・Bが 45 位,小学校算数Aが 36 位,算. 1.1998 年版学習指導要領と悉皆学力調査の制度化. 数Bが 34 位,中学校数学Aが 43 位,数学Bが 45 位 と,総じて下位ではあった。橋下はこの結果をうけ,. (1)「学力低下」批判への国の対応. 学力向上にむけた施策の一環として,件の「成績公表」. 周知のように,1998 年 12 月に小・中学校分,翌年. を提案したのである。これをうけて,府下の多くの自. 3 月に高校および盲・聾・養護学校(当時)分が告示. 治体が「成績公表」を実施している。. された学習指導要領は,大学生の「学力低下」を指摘.
(4) 164. 山崎雄介. する著書等(岡部・戸瀬・西村(編)1999 など)の出. の動きで特徴的なのは,こうした悉皆テストの学校単. 版もあり,高校以下での「学力低下」を危惧する世論. 位での「成績公表」がしばしば行われ,場合によって. から強烈な批判をうけてきた。当然のこと,文部科学. はそれが学校選択,学校予算にも影響する――すなわ. 省(本稿では旧文部省時代も含め,以下「文科省」と. ち件のテストがハイ・ステイクス(High Stakes,関. 略称)はこれに対応する方策を講じ,また,地方教育. 係者にとって高度の利害関係を有すること)化する―. 委員会もそれぞれ対応策を講じてきた。. ―ことである。. まず国のレベルでは,中央教育審議会(以下,中教. 全県レベルでもっとも徹底していると思われる広島. 審と略)答申「初等中等教育と高等教育との接続の改. 県の場合,2002 年から毎年行われている「 『基礎・基. 善について」 (1999 年 12 月)が,初等・中等教育に. 本』定着状況調査」 (悉皆調査。小学校 5 年生国語,. ついては学力低下を示す証拠はないとしながらも, 「各. 算数,中学校 2 年生国語,数学,英語の学力調査,児. 学校段階における到達度評価」 をそれぞれの学校の 「責. 童/生徒質問紙調査, 学校質問紙調査からなる。 なお,. 務」として強調したのをうけ,2000 年 12 月の教育課. 1998 年,2000 年の同名調査は抽出調査)の結果が,. 程審議会答申「児童生徒の学習状況と教育課程の実施. 各学校のウェブサイトで公開されている。しかも,自. 状況の評価の在り方について」が,学校の「自己点検・. 校成績‐所在市町村平均‐県平均が教科全体について. 自己評価」をそれぞれの学校の責務であるとして,評. 表でまとめられるとともに,教科内の分野ごとの成績. 価項目を例示した。そのなかには, 「全国的な学力調査. もレーダーチャートで同じく自校‐市町村‐県が比較. の結果との比較」が含まれていたのである。. 可能な形で公開されるという徹底ぶりである。 さらに,. ただし,この段階では文科省による「全国的な学力. 市町村が独自に悉皆調査を行う例も多く,そのうちの. 調査」としては,従来からの「教育課程実施状況調査」. 一つ,三次市で答案改竄などの不正が発覚した(2005. (抽出調査) が頻度や受験者数を増やして行われる (た. 年)ことは記憶に新しい. とえば小・中学校では,従来 10 年に一度程度だった. 必ずしも各学校のサイトなど「見やすい」ところで. のが 2001 年度, 2003 年度に実施) にとどまっていた。. はないにしても,学校単位の成績公表を県全体として. さらに,実際の学校の「自己評価」事例では,学力調. 推進している県としては,他に鳥取,和歌山がある。. 査の結果(CRT など全国平均が利用可能な業者テスト. また,東京都も,23 区を中心に,区・市での悉皆調査. も含む)そのものは「自己評価」とは別枠の扱いになっ. と結果公表が急速に進んだ。ちなみに東京では,足立. ていることがほとんどである。. 区――テスト結果が学校予算配分上考慮される――で. さらに,学習指導要領「はどめ規定」の緩和, 「個 に応じた指導」 ,とくに「習熟度別指導」を小学校でも. の正解教示,学力不振児の答案破棄などの不正事件 (2007 年)がスキャンダルとなっている。. 奨励するなどの策が講じられ, 2002 年の文部科学大臣 アピールなどによる「確かな学力」の強調,2003 年の 学習指導要領一部改正,授業時数・教科内容を増加さ せた 2008 年の全面改訂へと事態が展開したのは周知 のとおりである。. 2.悉皆学力調査「成績公開」の「効果」の検証 ――「全国調査」をもとに (1)「全国学力・学習状況調査」の概要 全国レベルでの悉皆学力調査としてまず想起される. (2)地方自治体の動き. のは,1956 年度から文科省が行っていた「全国一斉学. いっぽう,地方自治体では,上記の国の動きと並行. 力調査(学テ) 」の,1961 年度から 65 年度の中学校. して,特定学年に対して悉皆学力調査を行い,その結. 部分であろう。同調査は基本的には小学校~高校まで. 果にもとづく改善計画の策定を各学校に求めるという. の抽出調査であったが,1961 年度から,学力と教育条. 方策を採るところが急増してきた。もっとも,こうし. 件との関連の詳細な分析と政策への活用などを理由と. た学力調査,その結果にもとづく学校への指導・助言. して掲げ,文部省は,中学校について,従前の3年生・. 自体は, 従来から少なくない自治体で行われてはきた。. 2教科の抽出調査を,2・3年生,5教科の悉皆調査. 1998 年版学習指導要領完全実施(2002 年)前後から. に改めたのである。.
(5) 学力向上策としての悉皆学力テストの批判的検討. 165. しかし,おりからの高度経済成長のもと, 「学テで好. はある)について,文科省は「原則として全員参加」. 成績を挙げた県が工場誘致など開発に有利になる」と. と悉皆調査を志向している。ただしいっぽうで,参加. いった風評が流れたりしたこともあり,小学校も含め. はあくまで各学校(国公立,私立学校) ,教育委員会(公. て自治体間競争が激化する。こうしたもとで, 「成績上. 立学校)の自主性によるという建前なので,2007 年. 位」県を中心に,教師による暗黙裡のカンニング奨励. 度・2008 年度とも,私立学校には相当数の不参加校が. (優秀児の利き手の逆側に成績不振児を着席させるな. あり,また公立では,愛知県犬山市教委が, 「市独自の. ど) ,答案用紙の操作(欠席者等の答案用紙に教師が記. 学力向上のとりくみが成果を挙げている」 「テストによ. 入,不出来な答案の廃棄など)など,さまざまな不正. る競争は市のめざす学力づくりになじまない」といっ. が発覚したこともあり,66 年度には中学校も抽出に戻. た理由で不参加を決めている。. るとともに,この年で調査自体も打ち切られる(高校. 第 3 に調査内容は,大きくは教科の学力テスト,児. は 1963 年度から能力開発研究所によるテストにきり. 童(生徒)質問紙,学校質問紙の3者からなっている。. かわり,それも 68 年度で終了) 。. 学力テストについては,小・中とも国語,算数(数. それ以後,全国レベルの学力調査は,基本的に「教. 学)の2教科で,各教科はさらに, 「主として知識に関. 育課程実施状況調査」という,頻度も高くない(ほぼ. する問題(問題A) 」 「主として活用に関する問題(問. 学習指導要領改訂ごと)抽出調査のみとなった。こう. 題B) 」からなっている(実施には各問題類型とも1単. した状況が変化し, 「全国調査」実施にいたる契機とし. 位時間を使用) 。. ては,まず1で述べた「学力低下」への危惧,さらに,. 児童(生徒)質問紙は,学習意欲,学習習慣,生活. 小泉内閣期の「経済財政運営と構造改革に関する基本. などを問うもので,これと学力との相関が分析される. 方針 2005」 (いわゆる「骨太の方針 2005」 ,2005 年6. ことになる。これの回答にも1単位時間が費やされる. 月)での「児童生徒の学力状況の把握・分析,これに. ため,受験する児童・生徒にしてみれば,ほぼまる1. 基づく指導方法の改善・向上を図るため,全国的な学. 日が「全国調査」で潰れることになる。. 力調査の実施など適切な方策について,速やかに検討. 学校質問紙は,指導方法・体制,人的・物的教育条. を進め, 実施する」 との提起など官邸筋のイニシアティ. 件などについて校長が回答するものであり,児童質問. ヴが挙げられよう。. 紙同様,学力との相関が分析対象となる。. その後,文科省において実施にむけての作業が進行. 結果について,文科省が公表するのは,国全体,都. し,2007 年度から,毎年4月の第 4 火曜日に実施さ. 道府県,地域別(大都市,僻地など)の調査結果,学. れることが決定したのである。周知のことではあるけ. 力と生活, 教育条件等の相関に関する分析結果である。. れども,以下, 「平成 20 年度全国学力・学習状況調査. さらに,各当事者への情報提供としては,都道府県. リーフレット」3)および実施要領 4)より,その概要をみ. および市町村教委にはそれぞれ当該自治体の調査結果,. ておこう。. 各学校には当該校の調査結果,各受験者には本人の結. まず,調査の目的は, 「国が,全国的な義務教育の機. 果をまとめた個票(答案自体は返却されない)がそれ. 会均等と水準向上のため,児童生徒の学力・学習状況. ぞれ返却される。これら当事者の調査結果の公表につ. を把握・分析し,教育の結果を検証し,改善を図る」. いては,それぞれ各当事者の自主性によることになっ. 「各教育委員会,学校等が,全国的な状況との関係に. ており,上位の当事者が一方的に下位のそれの結果を. おいて自らの教育の結果を把握し,改善を図る」 「各学. 公表する――都道府県教委が各市町村の,市町村教委. 校が,各児童生徒の学力・学習状況を把握し,教育指. が各学校の結果を公表するなど――ことは(少なくと. 導や学習の改善等に役立てる」と,国,教委,学校の. も実施要領レベルでは) 禁止されている。 だからこそ,. 各主体による結果の「活用」を前提としている。. 「はじめに」で述べたような首長の言動が話題を呼ん. 次に,実施学年と調査範囲については,義務教育の. でいるわけである。. 各学校段階の最終学年である小学校 6 年生と中学校 3. さて,では,この「全国調査」やその他自治体レベ. 年生(とはいっても,実施が年度当初なので,実質的. ルのテストの「成績公表」は,学力向上策として――. にはそれぞれ 5 年生まで,2年生までの学力の調査で. 件の首長たちが信仰しているように――有効なのだろ.
(6) 166. 山崎雄介. (3)中学校での「順位低下」の原因は私学の不参加に. うか。節を改めてみていこう。. 還元できるか――東京・広島の場合 まず,2008 年調査の結果について,表 1 と同様に. (2)学力調査「成績公表」推進都県の「全国調査」. 整理してみたものが表 2 である。. での順位――2007 年調査から 山崎(2008)は,自治体独自の悉皆学力テストの学 校単位での成績公開に積極的な都県について,各問題. 表2:自治体テスト結果公開に積極的な都県の 第2回「全国学力・学習状況調査」における順位. 類型の小学校と中学校での順位の変動をみた結果,総 じて,小学校から中学校にかけて順位の低下がみられ ることを指摘した。表1は,山崎(2008)の表を一部. 小国A 中国A 小国B 中国B 小算A 中数A 小算B 中数B 広島. 9. 21. 9. 27. 7. 20. 8. 32-. 鳥取. 8. 9. 15. 21. 15. 18. 14. 14. 改め,同一問題類型ごとの順位の変動を対照しやすく. 和歌山. ―. -. 44. -. -. 22. 19. 44-. 31-. したものである(加えて,平均通過率の全国平均との. 東京. 5. 31-. 20. 8. 28-. 3. 30-. 33. 42. 44. 6. -. は通過率が全国平均を下回ったもの,*は全国平均と等しいもの. 相対的な位置関係を示す記号の位置を改めた) 。 表1:自治体テスト結果公開に積極的な都県の. 前年と比較して,①鳥取県の算数・数学について,. 第1回「全国学力・学習状況調査」における順位 小国A 中国A 小国B 中国B 小算A 中数A 小算B 中数B. 小学校から中学校にかけて前年ほど大きな順位の低下 がみられない,②和歌山県の算数・数学については小. 広島. 8. 20. 9. 25*. 7. 17. 8. 25*. 鳥取. 4. 28. 11. 25*. 8. 17. 8. 20. 学校から中学校にかけて順位はむしろ上昇している,. 30―. 44-. 40-. 44-. 18. 22. 26-. 42-. という相違がみられる。ただし①については,小学校. 11. *. 4. *. 10. -. 7. *. での算数・数学の順位がそもそも昨年より低下してい. -は通過率が全国平均を下回ったもの,*は全国平均と等しいもの. ることによる面が強い。いっぽう②については,現時. 山崎(2008) ,p.154 の表を一部改変。. 点では確たる原因を指摘するのが困難であり,分析に. 和歌山 東京. 32. 25. 33. 25. ついては他日を期したい。 一見して明らかなように,和歌山県を除いては,小. ところで, 「全国調査」は,私立学校の参加率が高く. 学校でこそ各問題類型においておおむね 10 位以内と. ないことでも知られている。 2007 年調査では小学校が. いう高順位であるけれども,各都県とも中学校の同一. 60.0%, 中学校が60.5%, 2008 年度は小学校が47.1%,. 問題類型ではおしなべて順位を落としており,なかに. 中学校が 53.4%と参加率が低下した(数字はすべて所. は平均通過率が全国平均を下回ったケースすらある。. 定の4月第4火曜日に実施した校数なので,最終的に. ここから強く示唆されるのは, 「成績公表で各学校に圧. はごくわずか増えている) 。. 力をかけて学力向上をさせるという手法は,小学校で. 私立学校の数,当該学校段階での占有率はもちろん. こそ『有効』にみえるけれども,学年が上がるにつれ. 自治体によっても異なるので,都道府県別の成績(公. 効果が薄れる『その場しのぎ』にすぎない」というこ. 立学校のみで集計されている)をみる場合には,この. とである。換言すれば,この種の手法でつく「学力」. 点に注意する必要性が指摘されている。そこで本稿で. は,学年が上がるにつれメッキのはがれる「息切れ」. は,私立学校比率が最も高い東京都と,東京ほどでは. 型学力だとでもいえようか。. ないにしても私立学校がある程度存在する広島県を例. もっとも,とくに東京の中学校については,私立学 校の比率が他県に比べいちじるしく高く,そのことが. にとり,国立・私立学校生徒を含めた場合に平均通過 率がどう変化するかを推測してみたい。. 順位低下の原因となっている可能性は否定できない。. 表3・4は, 「東京都,広島県のすべての小学校が『全. そこで次に,2008 年調査の結果を用い,この点の検証. 国調査』に参加していたとしたら,当該自治体全体の. を行ってみよう。. 平均通過率はどのようになっていたか」を仮説的に推 計したものである。まず,設置主体別の児童数( 「全国 調査」の対象学年である6年生)は, 「平成 20 年度学 校基本調査速報」によった。また,国立,私立の平均.
(7) 167. 学力向上策としての悉皆学力テストの批判的検討. 通過率は, 東京都, 広島県単体のものは入手できなかっ. これをみてわかるように,国立・私立を含めたばあ. たため,文科省から発表された全国の数値 5)を用いた。. いには,東京都では,小学校‐中学校間での順位の下. 以上の数値を用いて,いわば「仮想平均通過率」とで. 降幅がいちじるしく小さくなり,各問題類型とも 10. もいったもの(表では「仮想平均」と表記)を次の式. 位以内となる。いっぽう,広島県については,下降幅. で算出した(表5・6の中学校についても同様) 。仮想. こそ小さくなるものの,小学校‐中学校間での順位の. 平均のカッコ内は公立単体の平均との差である。. 下降傾向は残存する。これは,すべての問題類型で平 均通過率がもっとも高い国立学校はすべての自治体に. 仮想平均通過率(%) =設置主体ごとの(平均通過率)× (児童・生徒数)の合計/全児童・生徒数. あるため,私立学校による平均通過率の「引き上げ」 効果(東京都ほどは大きくない)がある程度相殺され たことによると考えられる。. 表3:東京都の仮想平均通過率(小学校) 児童数 国 A 仮想平均 国 B 仮想平均 算A 仮想平均 算B 仮想平均 国立. 761 81.6. 69.3. 4,458 81.6. 計. による競争の組織」という政策イニシアティヴでつく. 68.0. 69.2 54.1. 54.8 74.2. 74.7 55.7. 56.3. (+0.7) 67. (+0.7) 84.4. (+0.5) 65.7. (+0.6). 公立 92,789 68.5 私立. 84.6. 98,008. 238 81.6. 公立 27,067 67.8. 69.3 68.1 (+0.3). 289 81.6. 計. りうるのだろうか。筆者はそうは考えない。 げた国立・私立学校での「学力向上」策が,自治体テ. 児童数 国 A 仮想平均 国 B 仮想平均 算A 仮想平均 算B 仮想平均. 私立. 学力が「息切れ」型学力だ,という主張への反証とな というのは,東京都の「仮想平均通過率」を引きあ. 表4:広島県の仮想平均通過率(小学校). 国立. では,東京都の結果が上述の「学校ごとの成績公表. 53.3. 84.6 53.6 (+0.3). 67. 74.3. 策――例外はあるにしても,大きくは調査対象となっ. 68.0 74.5 (+0.2). 84.4. 53.6. スト「成績公表」のもとでの公立学校でとられている. 53.9 (+0.3). 65.7. ている教科に(のみ)偏した対症療法的「学力向上」 策となろう――と同じだとはとうてい考えられないか らである。私立難関校をめぐる受験競争の弊害は改め. 27,594. て指摘するまでもないけれども,そこに入学できた児 表5:東京都の仮想平均通過率(中学校). 童・生徒に対しては,より上位の学校段階や社会参加. 生徒数 国 A 仮想平均 国 B 仮想平均 数A 仮想平均 数B 仮想平均 国立. 1,084 87.7. 公立 73,397 73.5. 82.9 76.3 (+2.8). 私立 26,184 83.5. 61.4. 87.1 65.1 (+3.7). 74.9. 62.6. 75.6 67.0 (+4.4). 78.5. 48.9. 53.3 (+4.4). 64.9. をみすえた学習が展開されているという事例は数多く みられる。こうした事情に目をむければ, 「成績公表」 はやはり,公立学校の学力――それが 2008 年版学習 指導要領の強調する「思考力,判断力,表現力等」を. 計 100,665. 含むのであればなおさら――向上策としては不適格で あるという結論にならざるを得ないのではないだろう. 表 6:広島県の仮想平均通過率(中学校) 生徒数 国 A 仮想平均 国 B 仮想平均 数A 仮想平均 数B 仮想平均 国立. 412 87.7. 公立 24,285 74.1 私立 計. 82.9 75.3 (+0.8). 2,808 83.5. 60.9. 87.1 62.7 (+1.8). 74.9. 64.1. か。. 75.6 65.9 (+1.8). 78.5. 48.7. 50.8 (+2.1). 64.9. おわりに 以上,悉皆学力調査「成績公表」という政策イニシ. 27,505. アティヴの有効性,とくにその唱道者がきわめてナ. 同様に計算した全自治体の「仮想平均通過率」と比. イーヴに信仰している「情報開示=成績公表による学. 較してみると,東京都・広島県の各問題類型の順位は. 校間競争の組織化は指導改善のためのインセンティヴ. 表7のようになる。. として有効」という信念に対して,彼ら/彼女らが人 一倍こだわりをみせる「全国調査」のデータをもとに. 表 7:東京・広島の仮想平均通過率による順位 小国A 中国A 小国B 中国B 小算A 中数A 小算B 中数B 東京. 4(5). 広島. 9(9) 15(21). 5(31). 5(20). 7(8) 10(28). 3(3). 9(9) 18(27). 8(7) 14(20). 7(8) 23(32). 5(6). カッコ内は同都・県の「全国調査」(公立のみ)の順位. 8(30). 具体的に反証を試みてきた。 橋下に代表されるように,上記の政策イニシアティ ヴの唱道者は,教育(だけでなく他の政策分野も含め) に関する見識はきわめて低い。たとえば橋下が,昨今.
(8) 168. 山崎雄介. の,あるいは 1960 年代の「全国一斉学力テスト(学 テ) 」のもとで生じたような不正・腐敗を防止する手だ. a/20020501.pdf 4)http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/11/07111403/0 01.htm. てについて提案したことが一度でもあっただろうか。 さらに,その種の混乱が生じた場合,それを収拾し,. 5) 小学校については. 責任をとる能力が彼にあるだろうか。答はいわずもが. http://www.nier.go.jp/08chousakekka/08shou_data/shiry. なだろう。. ou/02_shou_kyouka_chousakekka.pdf 所載の PDF ファ イル pp.24-25,. いっぽう,そうした見識の低さとは裏腹に,学校・ 教員や公務員への反感を利用し,市民層に一定のア. 中学校については,. ピールを行うことには一定の 「手腕」 を発揮している。. http://www.nier.go.jp/08chousakekka/08chuu_data/shir. こうしたもとで,教育研究者からの事実にもとづく発. you/02_chuu_kyouka_chousakekka.pdf 所載の PDF ファ. 信はきわめて重要性をましているといえるだろう。. イルの pp.24-25 参照。. なお, 本稿では, とりあげた一連の自治体とは逆に, 小学校から中学校にかけて順位を上昇させている自治. 文. 体――たとえば群馬県もそうである――についての分. 岡部恒治・戸瀬信之・西村和雄 (1999) 分数ができない大学. 析や,首長のイニシアティヴによる強権的な「成績公 表」のはらむ法理論的問題の分析は行えなかった。他 日を期したい。. 献. 生.東洋経済新報社. 山崎雄介 (2008) 1990 年代後半以降の日本の学力観・教育課 程管理の変遷―学力テストを要とした PDCA サイクルは 機能するか―.佐貫浩・世取山洋介(編).新自由主義教育. 註. 改革 その理論・実態と対抗軸.大月書店.pp. 144-156.. 1)http://www.asahi.com/special/08002/OSK200809070019. html,2008 年 10 月 29 日閲覧。. 本研究は,独立行政法人日本学術振興会科学研究費補. 2)『毎日新聞』2008 年 10 月 31 日付。. 助金基盤研究(B) (課題番号 20330190)の助成を受. 3)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chous. けたものである。 (やまざき ゆうすけ).
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