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ニューラルネットワークを用いた大規模マルチエージェントシミュレーション結果の推定

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(1)

ニューラルネットワークを用いた大規模

マルチエージェントシミュレーション結果の推定

Estimation of Large-scale Multi Agent Simulation Results

Using Neural Networks

山下 裕

1

重中 秀介

2

大場 大輔

3

大西 正輝

4

Yu Yamashita

1

Shusuke Shigenaka

2

Daisuke Oba

3

Masaki Onishi

4

1

筑波大学情報学群知識情報・図書館学類

1

College of Knowledge and Library Sciences, School of Informatics, University of Tsukuba

2

筑波大学大学院システム情報工学研究群社会工学学位プログラム

2

Policy and Planning Sciences, Graduate School of Systems and Information Engineering,

University of Tsukuba

3

九州大学工学部電気情報工学科

3

Department of Electrical Engineering and Computer Science, School of Engineering,

Kyushu University

4

産業技術総合研究所人工知能研究センター

4

Artificial Intelligence Research Center, National Institute of Advanced Industrial

Science and Technology (AIST)

Abstract: マルチエージェントシミュレーションによって群集の移動を計算する研究が行われてい る.このようなシミュレーションでは各エージェントに経路や帰宅開始時刻などのシナリオを与える ことでその後の群集の移動を計算し帰宅人数の推移などを推定することが可能である.しかしなが ら,様々なシナリオを網羅的にシミュレーションすることは,計算資源の観点から限界がある.この 問題に対して,本研究では各エージェントのシナリオと初期座標,途中までのシミュレーション結果 から,その後の結果を推定するニューラルネットワークを提案する.実験の結果,提案手法は短時間 かつ高精度でシミュレーション結果を推定できることが分かった.この知見は,提案手法によってシ ミュレーションの計算過程の一部を代替し,シミュレーションの実行時間を短縮できることを示して いる.

1

はじめに

マルチエージェントシミュレーションによって群集 の移動を計算する研究が行われている.このようなシ ミュレーションでは各エージェントに行動を定義づけ るようなシナリオを与えることでその後の群集の移動 を計算することができる.例えばシナリオとして,経路 や帰宅開始時刻を与えることで,ある施設での観客の 帰宅の様子を計算し,帰宅完了人数の推移を推定する ことができる.近年このようなマルチエージェントシ ミュレーションがさまさざまな場面で用いられている. 新国立劇場では,災害発生時における劇場から観客の 連絡先: 筑波大学情報学群知識情報・図書館学類        〒 305-8550 城県つくば市春日 1-2        E-mail: [email protected] 避難誘導方法の検討が行われた.各エージェント(人) にいくつかの避難経路を与えてそれらをシミュレーショ ンすることによって,適切な避難誘導方法を探索した. 他にもオリンピックや花火大会において会場の混雑を 緩和する目的 [1],スタジアムでの試合終了後における 交通渋滞を緩和する目的 [2] などで利用されている. 実際の状況を計算し適切なパターンを探索するには, 各エージェントにさまざまな初期条件を与え,網羅的 なシミュレーションを行うことが望ましい.しかしな がら,マルチエージェントシミュレーションは,各エー ジェントの動きを正確に計算することができる反面,シ ミュレーション一つひとつの計算時間が長くなるとい う問題がある.また,シナリオは何通りも考えられ,施 行するパターン数が非常に多くなる.例えば,100 人 が 2 つの扉を選ぶというだけでも 2100通り計算する必

(2)

要がある.そのため計算資源の観点からも,あらゆる シナリオを網羅的にシミュレーションで計算すること は困難である. この問題を解決する方法の一つとして,機械学習に よってシミュレーションを高速化する手法が考えられ る.本研究では,各エージェントのシナリオと初期座 標,途中までのシミュレーション結果から,その後の 結果を推定できるようなニューラルネットワークを提 案する.本研究の目的は,シミュレーションの計算過 程の一部をニューラルネットワークで代替し,シミュ レーションの実行時間を短縮することである. 大規模なシミュレーションとしてカシマスタジアムの シミュレーションデータを用いて実験を行い,提案手法 の評価を行う.我々はカシマスタジアムを実証フィール ドとして,マルチエージェントシミュレータ Crowdwalk を用いた観客の帰宅完了人数の推定を行っている.そ の際大規模かつエージェント数が多いため,網羅的な 探索を行うには膨大な時間を要してしまう.今回の実 験では各エージェントにシナリオとして帰宅開始時刻 を与え,試合終了後の帰宅完了人数の推移を推定する. またシナリオと初期座標のみを与えた場合や,入力す るシミュレーション結果の時間の長さを変化させた場合 と,推定精度の比較を行うことで提案手法を評価する.

2

関連研究

2.1

マルチエージェントシミュレーションを

用いた群集移動の計算

近年マルチエージェントシミュレーションを用いて, 群集の動きを計算する研究が盛んに行われている.そ の代表的なシミュレータに CrowdWalk が挙げられる. CrowdWalk とは,一次歩行者モデルを用いた歩行者シ ミュレータ [3, 4] であり,観客一人ひとりを自らの意思 に従って動くエージェントとして作れる他,歩行者が移 動する空間を一次元的に表現することにより高速にシ ミュレーションすることができる.大西ら [5] は,北九州 芸術劇場(2009 年)と新国立劇場(2014 年)において 大規模な避難訓練を行い,様々な条件における避難の様 子を CrowdWalk を用いてシミュレーションすることに よって,適切な避難誘導方法を検討した.CrowdWalk は,北九州芸術劇場での避難訓練を 5%程度の誤差で計 算することに成功しており,高い精度で群集の動きを 推定することが可能である [6].

2.2

機械学習を用いたシミュレーションの高

速化

一般的にシミュレーションは計算時間がかかること が多い.シミュレーションを高速化する方法の一つとし て,機械学習を用いた手法が提案されている.Ichimura ら [7] は,モンテカルロシミュレーションによって地震 による被災状況を区域ごとに分類する際に,その一部 を機械学習で推定する手法を提案し,全体の計算を高 速化することに成功している.Jonathan ら [8] は,膨 大な計算資源を必要とする流体シミュレーションにお いてナビエストークス方程式を計算する際に,その計 算の一部を CNN で推定する手法を提案し,高速化する ことに成功している.Endo ら [9] は,短時間の分子動 力学シミュレーション結果から,長時間のシミュレー ション結果を機械学習で推定する手法を提案し,長時 間シミュレーションを高速化することに成功している [10]. 一方でマルチエージェントシミュレーションにおいて も機械学習を用いて高速化する手法が提案されている. 安野ら [11] は,マルチエージェントシミュレーション の実行結果を推定する手法として Convolution Neural Network (CNN) を用いた手法を提案している.適切な 新国立劇場の避難誘導方法を見つける際に,各エージェ ントにさまざまなシナリオを与えて,網羅的な分析を することが望まれるが,計算資源の観点から困難であ る.そこで各エージェントのシナリオとして避難経路 を与え,その避難経路と初期座標を基に作成した画像 を CNN に入力することで,避難完了人数の推移全体 を高速かつ高精度で推定することに成功している.[11] の研究のように新国立劇場の一部の客席や避難経路と いったシナリオのシミュレーションであれば,シナリオ と初期座標を基に作成した画像のみを単純な CNN に 入力することで容易に推定することができる.しかし ながら,よりエージェントの数や施設の規模が大きく, よりシナリオが複雑なシミュレーションでは高精度で シミュレーション結果全体を推定するのは困難である. そのため我々は,各エージェントのシナリオと初期座 標,途中までのシミュレーション結果を入力し,その 後の結果を推定できるようなニューラルネットワーク を提案する.

3

問題設定

3.1

一般的な問題設定

図 1 に,マルチエージェントシミュレーションの一般 的な流れを示す.I はシナリオ,x は群集の座標,y はシ ミュレーションで群集の移動を計算することによって求 めたい値を表す.また正方形は,シミュレータで群集の

(3)

𝒚𝟐 𝒚𝒏 𝒚𝑵 群集の座標 𝒙𝟏 𝒙𝟐 𝒙𝒏 𝒙𝑵 𝒚𝟏 ・・・ ・・・ エージェント ・・・ ・・・ 群衆の様⼦を表した画像 𝒙0 𝒚0求めたい値 Iシナリオ 図 1: マルチエージェントシミュレーションの一般的な 流れ I 𝒚𝟎⋯ 𝒚𝒎 𝒙𝟎 シナリオ 群集の初期座標 求めたいベクトル 群集の初期の様⼦を表した画像 途中までのシミュレーションで求めた ベクトル 𝒚𝒎#𝟏⋯ 𝒚𝑵 図 2: 本研究の流れ 座標 x を基に作成した,群集の様子を表した画像であり, その中の丸はエージェントを示す.事前に各エージェン トの行動を定義づけるような経路や帰宅開始時刻など のシナリオ I を入力する.マルチエージェントシミュ レーションによって,各エージェントをシナリオ I に 基づいて行動させ,群集の座標 x0, x1,· · · , xn,· · · , xN を順に計算する.シミュレーションすることで計算し た群集の座標 x0,· · · , xNから,経過時間などの求めた い値 y0,· · · , yNを求める. 図 2 に,本研究の流れを示す.変数 n の任意の値 m を 設定する.シミュレーション上で群集の座標 x0,· · · , xm を計算し,ベクトル y0,· · · , ymを求める.各エージェ ントのシナリオ I と,群集の座標 x0(初期座標)を 基に作成した画像,途中までのシミュレーションで求 めたベクトル y0,· · · , ymを用いて,求めたいベクトル ym+1,· · · , yN を推定する.

3.2

本研究の問題設定

今回の大規模シミュレーションは,スタジアムにお ける観客の帰宅完了人数の推移を求める.各エージェ ントのシナリオ I には,各観客の帰宅開始時刻を入力 する.帰宅開始時刻は,試合終了時の群集の座標を x0 とし,その時間を基準にして何秒後に帰宅を開始する かを示す.帰宅完了人数が全体の人数のうち 5n% に達 した時点での群集の座標を xn,その状態に至るまでの 経過時間を yn(ただし帰宅完了人数 0%は 0 秒とする) とする.そのため 0≤ n ≤ 20 で,N = 20 とする.経 過時間のベクトル y の要素 21 点を結ぶことで帰宅完了 人数の推移を表現する. 帰宅完了人数が全体の人数のうち 5m% までシミュ レーションするかを設定する.シミュレーション上で 群集の座標 x0,· · · , xmを計算し,経過時間のベクトル y0,· · · , ymを求める.各エージェントの帰宅開始時刻 I と,群集の座標 x0(初期座標)を基に作成された画 像,途中までのシミュレーションで求めた経過時間の ベクトル y0,· · · , ymを用いて,求めたい経過時間のベ クトル ym+1,· · · , y20を推定する.

4

提案手法

4.1

初期条件の画像化

初期座標 x0を基に作成した画像に,各エージェント の帰宅開始時刻 I によって色付けを行うことで,1 枚 の画像で群集の初期座標 x0と帰宅開始時刻 I を表現 する. 各エージェントの帰宅開始時刻を,16 進数カラーコー ド#000000 から#ffffff の色を用いて色付けする.こ こで,あるエージェントの 16 進数カラーコードを c, 帰宅開始時刻を s,帰宅開始時刻の最大値を d,16 進 数を(16),10 進数を(10)で表記する.あるエージェン トの色は,c(16) =ffffff(16)× (s(10)/d(10)) によって 決定する.c が小数の値になった場合は,小数点以下を 切り捨てる.

4.2

ニューラルネットワークを用いた推定

各エージェントの帰宅開始時刻 I と群集の座標 x0(初 期座標)を基に作成した画像と,途中までのシミュレー ションで求めた経過時間のベクトル y1,· · · , ymを入力 とし,求めたい経過時間のベクトル ym+1,· · · , yNを推 定するニューラルネットワークを作成する.y0,· · · , ym でなく,y1,· · · , ymであるのは,帰宅完了人数 0%の経 過時間は必ず 0 秒であり,情報量が無くベクトルから除 外するためである.図 3 は,提案するニューラルネット ワークの構造を示す.O,Q,R はそれぞれの層での出 力サイズ,P は求めた経過時間のベクトル y1,· · · , ym のサイズ m を示す.例えば 50%が帰宅を完了するまで シミュレーションした場合は,求めた経過時間のベク トルは y1,· · · , y10となり,P = 10 となる. 提案するニューラルネットワークの流れについて述べ る.まず,Wide Residual Networks (WideResNet)[12]

(4)

𝒚𝟏⋯ 𝒚𝒎 Co nc at 𝒚𝒎#𝟏⋯ 𝒚𝟐𝟎 co nv 1 co nv 2 co nv 3 av g-po ol FC FC FC FC (⼊⼒1) 初期座標 𝒙𝟎と帰宅開始 時間 𝑰 を基に作成した画像 (⼊⼒2) 求めた経過時間のベクトル (出⼒) 求めたい経過時間のベクトル O P Q Q Q R 図 3: 画像化の流れ ① 実際のカシマスタジアム ② CrowdWalkで再現 ③ 帰宅開始時刻と初期座標から画像化 ④ 32×32にリサイズ a b c d a’ d’ b’ c’ 図 4: 画像化の流れ と呼ばれる CNN で,各エージェントの帰宅開始時刻 I と群集の座標 x0(初期座標)を基に作成した画像の 特徴抽出を行う.この WideResNet についての説明は 後述する.次に,WideResNet により抽出された特徴 と途中までのシミュレーションで求めた経過時間のベ クトル y1, .., ymを Concat 層で結合して 1 つのベク トルにまとめる.最後に,3 つの FC 層で結合して出 力されたベクトルから,求めたい経過時間のベクトル ym+1,· · · , y20を推定する.最後の FC 層以外は,活性 化関数に ReLU を用いる. WideResNet

 画像の特徴を抽出するため,Wide-ResNet を用いる.Wide 画像の特徴を抽出するため,Wide-ResNet は,2015 年 ILSVRC の 優勝モデルである Residual Networks (ResNet) [13] を 改良したモデルである.ResNet は,H(x) = F (x) + x を次の層に渡す,ショートカットを含めた Residual モ ジュールを持つ.Residual モジュールは,ショートカッ トによって,Backpropagation 時に勾配を直接下層に 伝えることができる.そのため非常に層の深いネット ワークであっても,勾配消失が起きることを防ぎ,効 表 1: WideResNet28-10 の構造

group name output size block type=B(3,3) conv1 32× 32 [3× 3, 16] conv2 32× 32 [ 3× 3, 16 × 10 3× 3, 16 × 10 ] × 4 conv3 16× 16 [ 3× 3, 32 × 10 3× 3, 32 × 10 ] × 4 conv4 8× 8 [ 3× 3, 64 × 10 3× 3, 64 × 10 ] × 4 avg-pool 1× 1 [8× 8] 率的な学習を可能にする.今回用いる WideResNet は, 各 Residual モジュール内の畳み込みの出力チャンネル 数を増やしたモデルである.Sergey ら [12] の主張は, 層が深くて幅の狭いモデルよりも,層が浅くて幅の広 い(wide な)モデルの方が,最終的な精度と学習速度 という観点において優れているというものである [14].

5

実験

5.1

実証フィールド

本実験ではカシマスタジアムにおけるシミュレーショ ンデータを用いる.カシマスタジアム [15] は,敷地面 積が 10.7ha,地上 6 階建て,収容人数 40,830 名であり, 十分に大規模施設である.それぞれのエージェントの 帰宅開始時刻を入力として,すべてのエージェントが カシマスタジアムから出場するまでの時間を求める.

5.2

画像化

図 4 に画像化の流れを示す.実際のカシマスタジア ムにおいて,試合が終了してから一斉に観客が帰宅する 様子を,マルチエージェントシミュレータ Crowdwalk を用いて再現する.各エージェントの帰宅開始時刻 I と群集の座標 x0(初期座標)を基に作成した画像を, CIFAR-10 や CIFAR-100 と同じサイズである 32× 32 にリサイズする(元のサイズは 800× 600).この際た だリサイズするだけでは,中央のサッカーコートの領 域(図 4 の左下)が入っており,無駄な部分が多く存 在する.そこで,客席の a,b,c,d の部分を切り取り, それぞれ 16× 16 にリサイズし,a′,b,c,dで再度 結合して一枚の画像にする(図 4 の右下).こうする ことで,より無駄の少ない状態で入力画像を作成する ことができる.作成した画像は,図 5(左)のように なり,それに対応する経過時間ベクトルは,図 5(右) のようになる.

(5)

0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 図 5: 入力画像(左)とそれに対応する経過時間のベクトル(右)

5.3

実験設定

各エージェントの帰宅開始時刻は任意の分布を定義 し,試合終了時を起点とした 0 秒後から 2500 秒後の中 で,その分布に従うような乱数を割り当てた.任意の 分布には,ベータ分布,一様分布,正規分布,混合正 規分布(混合数 2),混合正規分布(混合数 3)の 5 種 類を用いた. 画像の特徴を抽出する WideResNet は,深層学習 フレームワーク PyTorch[16] で実装した.WideRes-Net はいくつかの構造があるが,本研究の実験では, CIFAR-10 と CIFAR-100 に対して良好な精度であった WideResNet28-10 を用いた.表 1 は,この WideRes-Net28-10 の構造を示している.これは,ネットワーク の深さが 28 層で,feature map の幅が ResNet の 10 倍 である構造をしている.ニューラルネットワークの出 力層の誤差関数には,Mean Squared Error (MSE) を 用いた.最適化関数には Adam を用いて,そのハイパ パラメータは β1= 0.9,β2= 0.999,ϵ = 10−8とした. 学習率は,はじめ 0.01 に設定し,60,120,160 エポッ クで 0.2 倍した.またバッチサイズは 64 とし,エポック 数は 200 で学習を行った.図 3 で,O = 20, R = 20−P とする. 学習データ数として 45,000,テストデータ数として 10,000 用意した.またシナリオと初期座標を基に作成 した画像のみを入力し,WideResNet28-10 を用いて推 定した場合(安野らが提案した手法 [11]),画像と帰宅 完了人数が全体の 10%,30%,50%までの経過時間の ベクトルを入力とした場合で,その後の経過時間のベ クトルの推定精度を比較した.

6

結果

まず学習曲線を用いて,ニューラルネットワークの 学習の評価を行う.図 6(a),図 6(b),図 6(c),図 6(d) はそれぞれ,画像のみを入力した場合,画像と帰宅完 了人数が全体の 10%,30%,50%までの経過時間のベ クトルを入力とした場合における訓練データとテスト データに対するエポックごとの MSE を示す.横軸が学 習回数,縦軸が MSE である.どの図も学習曲線が右下 がりとなっており,適切にニューラルネットワークの 学習が行われていると考えられる. 次にテストデータに対する MSE の比較を行う.図 7 は,200 エポック終了時のテストデータに対する回帰 誤差(MSE)を示す.横軸は帰宅完了人数が全体人数 の何%までシミュレーションしたか,縦軸は MSE であ る.画像のみを入力した場合と,画像と帰宅完了人数 が全体の 10%までの経過時間のベクトルを入力とした 場合を比較すると,後者はテストデータに対する MSE を大きく下げることができた.このことから,途中ま でのシミュレーションで求めた経過時間のベクトルを 入力することで,より高い精度でその後の経過時間の ベクトルを推定できることが分かる.画像と帰宅完了 人数が全体の 10%,30%,50%までの経過時間のベク トルを入力とした場合を比較すると,差はそれほど大 きくないものの,後者ほどテストデータに対する MSE を下げることができた.このことから,より長時間の シミュレーションで求めた経過時間のベクトルを入力 することで,その後の経過時間のベクトルを高い精度 で推定できることが分かる.またそれぞれの帰宅完了 人数(%)によってどのように推定誤差が変化するのか 調べるために,帰宅完了人数(%)ごとに MSE を計算 した(図 8).横軸は 5%∼ 95% における帰宅完了人数 (%),縦軸は MSE である.青色,橙色,緑色,赤色 はそれぞれ,画像のみを入力した場合,画像と帰宅完 了人数が全体の 10%,30%,50%までの経過時間のベ クトルを入力とした場合を示す.画像のみを入力した 場合,画像と帰宅完了人数が全体の 10%,30%,50% までの経過時間のベクトルを入力とした場合で,全体 的に後者ほど MSE が下がっている.また画像と帰宅完 了人数が全体の 10%,30%,50%までの経過時間のベ クトルを入力とした場合では,帰宅完了人数(%)が 多くなるにつれて MSE が大きくなっていく傾向が見 られ,推定精度が低くなっていることがわかる.

(6)

25 50 75 100 125 150 175 200 epoch 0 20000 40000 60000 80000 100000 loss(MSE) train loss test loss (a)画像のみを入力した場合 25 50 75 100 125 150 175 200 epoch 0 20000 40000 60000 80000 100000 loss(MSE) train loss test loss (b) 画像と帰宅完了人数が全体の10%までの経過 時間のベクトルを入力とした場合 25 50 75 100 125 150 175 200 epoch 0 20000 40000 60000 80000 100000 loss(MSE) train loss test loss (c)画像と帰宅完了人数が全体の30%までの経過 時間のベクトルを入力とした場合 25 50 75 100 125 150 175 200 epoch 0 20000 40000 60000 80000 100000 loss(MSE) train loss test loss (d) 画像と帰宅完了人数が全体の50%までの経過 時間のベクトルを入力とした場合 図 6: 訓練データとテストデータに対するエポックごとの回帰誤差(MSE) 0 10 20 30 40 50

percent number of people(%) 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 loss(MSE) 図 7: 200 エポック終了時のテストデータに対する回帰 誤差(MSE) さらにテストデータに対する回帰誤差に大きく差が あった,画像のみを入力した場合と,画像と帰宅完了 人数が全体の 10%までの経過時間のベクトルを入力と した場合を用いて,より詳細な比較を行う.図 9 は,推 定した経過時間のベクトルと真の経過時間のベクトル を示す.経過時間のベクトルを推定した結果の大部分 では,図 9(a) のように,途中までのシミュレーション で求めた経過時間のベクトルを入力することで,推定 精度が向上した.しかしながら,一部では図 9(b) のよ うに,推定精度が悪化する,もしくは推定精度に変化

10 20 30 40 50 60 70 80 90

percent number of people(%)

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

loss(MSE)

0%

10%

30%

50%

図 8: 帰宅完了人数(%)ごとの回帰誤差(MSE).横 軸は,5%∼ 95%. が見られないこともあった. 最後に,提案手法の実行時間の評価を行う.シミュ レーションは,Intel i7-5930K,3.50GHz,6 コア,12 スレッドの環境で行った.計測の結果,帰宅完了人数 が全体の人数の 10%,30%,50%,100%までのシミュ レーション実行時間は,それぞれ平均約 190 秒,242 秒, 275 秒,344 秒であった.ニューラルネットワークを用 いた推定には,TITAN RTX,24GB の環境で行った. 計測の結果,推定にかかる時間は約 0.0011 秒であった.

(7)

0 20 40 60 80 100 percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth (a)推定精度が向上したもの 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth 0 20 40 60 80 100

percent number of people(%) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 time(s) 0% 10% ground truth (b)推定精度が悪化したもの,もしくは変化が見られないもの 図 9: 推定した経過時間のベクトルと真の経過時間のベクトル

(8)

提案手法により,帰宅完了人数が全体の人数の 10%, 30%,50%までのシミュレーション結果を入力として経 過時間のベクトルを推定した場合は,それぞれ 154 秒, 102 秒,69 秒が 0.0011 秒に短縮される.そのため,そ れぞれ 140,000 倍,90,000 倍,60,000 倍程度に高速化 することができる.このことより,提案手法では,シ ミュレーションの実行時間を短縮できることが分かる. 以上より,提案手法は高速かつ高精度で,シミュレー ション結果を推定することができた.また,より長時 間のシミュレーション結果を入力することで,高精度 でシミュレーション結果を推定することができた.こ れは,提案手法によってシミュレーションの計算過程 の一部を代替し,シミュレーションの実行時間を短縮 できることを示している.

7

まとめ

マルチエージェントシミュレーションにおいて,さ まざまな初期条件を網羅的にシミュレーションするこ とは,計算資源に限界がある.この問題に対して本研 究では,エージェントの初期座標とシナリオから作成 した画像と,途中までのシミュレーション結果から,そ の後の結果を推定するニューラルネットワークを提案 した.カシマスタジアムの観客の帰宅を Crowdwalk で 再現した実験を行い,提案手法の評価を行った.実験 の結果から,高速かつ高精度で,シミュレーション結 果を推定することができた.また,より長時間のシミュ レーション結果を入力することで,高精度でシミュレー ション結果を推定することができた.今後の課題とし て,推定精度をさらに向上させるために,ネットワー クを改善していくことなどが挙げられる.

謝辞

本研究は JSPS 科研費 JP19H04943 の助成を受けた ものです.

参考文献

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[12] Sergey Zagoruyko, Nikos Komodakis: Wide Residual Networks, British Machine Vision Conference (2016) [13] Kaiming He, Xiangyu Zhang, Shaoqing Ren, Jian Sun: Deep Residual Learning for Image Recognition, Computer Vision and Pattern Recognition, pp.770-778 (2016) [14] 内田 祐介,山下 隆義:物体認識のための畳み込みニュー ラルネットワークの研究動向,電子情報通信学会論文誌 D, Vol.J102-D, No.3, pp.203-225 (2019) [15] https://www.antlers.co.jp/kashima-stadium/about/ [16] https://pytorch.org/

参照

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