駒場ミクロ HW1 解答 ∗
松井彰彦
November 9, 2016
1 基礎
1.1 問題 1
1 ∀y∃xP (x, y)
日本語: ミクロ、マクロ、統計、経営、会計、経済史、原論、ファイナンスのどの科目においても、最低一人は 優をとる経済学部の学生がいる。
英語: For any class among Microeconomics, Macroeconomics, Statistics, Management, Accounting, Economic history, The Principles of Economics, and Finance, there exists a student whose major is Economics and obtains A.
2 ∃x∀yP (x, y)
日本語: ある経済学部の学生が、ミクロ、マクロ、統計、経営、会計、経済史、原論、ファイナンスのすべての 科目で優をとる。
英語: There exists a student whose major is Economics and obtains A in all the classes, Microeconomics, Macroeconomics, Statistics, Management, Accounting, Economic history, The principles of economics, and Finance.
日本語で、仮に「全ての科目で優をとった学生がいる」と述べた場合、1 の意味なのか 2 の意味なのかは分 かりにくいですが、論理式であれば、論理記号の順序によって意味がはっきり異なるものと理解できます。た だし、数学の論理式の語順は英語に近いため、言葉に直した時には、日本語よりも英語のほうが論理式の意味 をとらえやすい場合もあります。論理記号の順序で意味が全く異なるため、論理式を持ちいた証明を行う際に は注意をしてください。
1.2 問題 2
次の推論 P⇒Q は TRUE か FALSE か答えて下さい。 P:蟻が鯛 、 Q:芋虫は鯨
P⇒ Q
「ありがたいならいもむしゃくじら」というのは付け足し言葉のひとつと言われていますが、「蟻が鯛」は FALSEのため、推論 P⇒Q は TRUE になります。よって「ありがたいならいもむしゃくじら」という言い回 しは論理的に正しいと言えます。
1.3 問題 3
全体集合を X とします。X 上の選好 ⪰ が合理的であるとは、(1) 完備性と (2) 推移性を満たすことです。 (1) ∀x, y ∈ X [x ⪰ y ∨ y ⪰ x ]
(2) ∀x, y, z ∈ X [x ⪰ y ∧ y ⪰ z ⇒ x ⪰ z]
1.4 問題 4
定義を確認します。
強い単調性: ∀x, y ∈ X, x ≥ y ∧ x ̸= y ⇒ x ≻ y 弱い単調性: ∀x, y ∈ X, x >> y ⇒ x ≻ y
∗担当 村上愛。HW1 の解答に関する質問、訂正のご指摘は TA メールアドレスの komabamicro2016@gmail.com までお願いします。
1
1.4.1
x≻ yが成立しています。 1.4.2
xと y の選好関係は明らかではありません。弱い選好関係は以下のように、一方の消費ベクトルが他方に比べ てどの 3 財をとっても厳密により多い場合に選好関係を定めます。
5 3 2
≻
3 1 1
2 標準
2.1 問題 1
奥野正寛編「ミクロ経済学演習」の解答を参照して下さい。
2.2 問題 2
辞書的 (lexicographic) 選好と呼ばれる選好関係に関する問題です。本問では問題文の設定より、全体集合 X に ついて、X = R2+となっています。一般に X = Rn+の時、辞書的選好を表す効用関数は存在しません。また、 下記でみるように連続性は満たされていません。
2.2.1 y⪰ xです。
オレンジジュースの量が厳密に多い y のほうが好まれます。そのため、y ⪰ x が成立します。本問の例では、 また、y ⪰ x は成立しないため、y ≻ x も成立しています。
2.2.2
Aさんの選好 ⪰Aは合理的です。
証明では、辞書的選好が完備性と推移性を満たすことを示します。 (完備性の証明):
任意の x, y ∈ X について考えます。x = (xo, xa)、y = (yo, ya)と表すことにします。xo, yo∈ R より、R の 性質より xo≥ yoまたは yo≥ xoが成立します。一般性を失うことなく、xo≥ yoを仮定します。
xo> yoの場合、x ⪰ y となります。xo= yoの場合、xa ≥ yaまたは ya ≥ xaが成立し、x ⪰ y または y ⪰ x の選好関係が定まります。
(推移性の証明):
任意の x, y, z ∈ X について、x ⪰ y と y ⪰ z を仮定します。x ⪰ y より、xo> yo または、xo= yo∧ xa ≥ yaが 成立しています。同様に、y ⪰ z より、yo> zoまたは、yo= zo∧ ya≥ zaが成立しています。よって、xo> zo
または、xo= zo∧ xa≥ zaが成立します。よって、x ⪰ z が成立します。 2.2.3
連続性は満たされていません。下図のような x ∈ X に対して、Ux= {y ∈ X|y ⪰ x}、Lx= {y ∈ X|x ⪰ y}の いずれも閉集合になっていません。
2
O Apple juice
Orange juice Ux
x
Figure 1:
O
x Apple juice
Orange juice Lx
Figure 2:
2.2.4
凸性は満たされています。
任意の x ∈ X について考えます。任意の y, y′ ∈ Uxについて以下が成立しています。y ⪰ x、y′ ⪰ xより、 yo> xoまたは、yo= xo∧ ya≥ xaが成立し、同様に、yo′ > xoまたは、y′o= xo∧ ya′ ≥ xaが成立しています。 任意の α ∈ [0, 1] について考えます。αy + (1 − α)y′ = (αyo+ (1 − α)yo′, αya+ (1 − α)ya′)となりますが、 αyo+ (1 − α)y′o > xoまたは、[αyo+ (1 − α)yo′ = xo] ∧ [αya+ (1 − α)ya′ ≥ xa]が成立しています。よって、 αy+ (1 − α)y′⪰ xより、αy + (1 − α)y′∈ Uxとなり、Uxは凸集合であることがわかりました。
2.3 問題 3
C(S3)としてありうるのは、{x} または {z} のいずれかです。C(S3) = {y}となった場合、WARP は満たされ ません。
3 応用
3.1 問題 1
A,B,Cの 3 人が旅行先を決めようとしています。ここで 3 人のグループの選好 ≻gを以下のように定めます。も しグループ 3 人のうち過半数が x, y の選択肢について x ≻iy (i = A, B, C)であれば x ≻g yと定義します。こ こで選択肢は 3 つしかなく、X = { 山、川、海 } であり、3 人の選好は以下のようになっているとします。 山 ≻A川、山 ≻A海、川 ≻A海、川 ≻B海、川 ≻B山、海 ≻B山、海 ≻C山、山 ≻C川、海 ≻C川
3.1.1
合理性は満たされています。
完備性、推移性いずれも成立しています。
3.1.2
山 ≻g川 となります。
山 ≻A川、川 ≻B山、山 ≻C川という選好関係より、3 人のうち A と C の二人が川よりも山をより好んで います。そのため、山 ≻g川 となります。
3.1.3
3人の社会的選好 ≻gは合理性を満たしません。
3.1.2と同様に、川と海の間の社会的選好を考えると、川 ≻g海となります。一方、山と海の間の社会的選好 を考えると 海 ≻g山となります。完備性は満たされていますが、、山 ≻g川、川 ≻g海 という選好関係にも 関わらず、海 ≻g山という選好関係が成立しているため、推移性が成立していません。
3
3.2 問題 2
3.2.1
任意の (x, y) ∈ X について考えます。U(x,y)= {(x′, y′) ∈ X|y′ ≥ −ax′+ ax + y}、L(x,y)= {(x′, y′) ∈ X|y′≤
−ax′+ ax + y}となり、下図のようになります。よって、U(x,y)、L(x,y)のいずれも閉集合です。
O y財
x財 Ux
x
Figure 3:
O y財
x財 Lx
x
Figure 4:
3.2.2
y = −ax + ax1+ y1と y = x の交点の x 座標は、x = ax1+ y1
1 + a となります。よって、f(x1, y1) = ax1+ y1 1 + a です。
3.2.3
f(x1, y1)を ⪰ を表す効用関数として定義することができます。
∀(x1, y1), (x2, y2) ∈ X[(x1, y1) ⪰ (x2, y2) ⇔ f (x1, y1) ≥ f (x2, y2)]を証明します。 (証明)
任意の (x1, y1), (x2, y2) ∈ Xについて、一般性を失うことなく、(x1, y1) ⪰ (x2, y2)を仮定します。(x1, y1) ∈ U(x2,y2)であり、y1≥ −ax1+ ax2+ y2が成立します。よって、−ax1を移行し、両辺を (1 + a) > 0 で割ると、
ax1+ y1
1 + a ≥
ax2+ y2
1 + a を得ます。よって、∀(x1, y1), (x2, y2) ∈ X[(x1, y1) ⪰ (x2, y2) ⇒ f (x1, y1) ≥ f (x2, y2)]が 示されました。
また、任意の (x1, y1), (x2, y2) ∈ X について、一般性を失うことなく、f(x1, y1) ≥ f (x2, y2)が成立し ているとします。y1 ≥ −ax1+ ax2+ y2 が成立し、(x1, y1) ∈ U(x2,y2) であることがわかります。よって、
∀(x1, y1), (x2, y2) ∈ X[f (x1, y1) ≥ f (x2, y2) ⇒ (x1, y1) ⪰ (x2, y2)]が示されました。
4