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宮城教育大学機関リポジトリ 菅井裕行 エマヌエル症候群児

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(1)

宮城教育大学機関リポジトリ

エマヌエル症候群児に対するコミュニケーション支

援の試み

著者

菅井 裕行, 金森 光紀

雑誌名

宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀

5

ページ

40- 54

発行年

2010- 06

U

RL

ht t p: / / i d. ni i . ac . j p/ 1138/ 00000696/

(2)

< 研 究 報 告 >

エマヌエル症候群児に対するコミュニケーション支援の試み

菅 井 裕 行 (

宮 城 教 育 大 学 )

金 森 光 紀 (

宮 城 教 育 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 )

要約

重度の知的および感覚・運動障害を伴う一人のエマヌエル症候群児に対して,コミュニケーショ

ンに関する障害状況からの立ち直りを目指した療育支援を行った. 感覚活用の評価に基づいて音

声 言 語 モ ー ド に 限 定 し な い 多 様 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン モ ー ド を 検 討 し , 主 に 触 覚 型 の コ ミ ュ ニ ケ ーションを中心にインタラクションを行い,同時に子どもの自発的な外界探索を促進させる働き か け を 行 っ た 結 果 , 当 初 不 明 確 で あ っ た 視 覚 的 接 近 行 動 が 明 確 化 し , オ ブ ジ ェ ク ト キ ュ ー や 簡 単 な身振りによるコミュニケーションが可能になり,対象物が認知可能な状況であれば自発的な探

索が生起するようになった. 言語発達の遅れがみられるエマヌエル症候群児に対してどのように

コミュニケーションを成立させ言語発達を促すかについて,方略的な示唆が示された.

1. はじめに

厚生労働省は,症例数が少なく,原因不明で、治療方法も未確立であり,かつ,生活面で長期に わ た る 支 援 が 必 要 で あ る 疾 患 に つ い て 難 治 性 疾 患 克 服 研 究 班 」 を 組 織 し , 医 療 関 係 者 や そ の 他

の協力のもと,患者や家族の病態に関する実態把握を目的とした研究を継続してきている. 筆者

は2009年 10月より, [ " " エマヌエル症候群の疾患頻度とその自然歴の実態調査」研究班に加えられ, 研究協力を行うこととなった. この研究班では, t( 11; 22) 染 色 体 転 座 保 因 者 お よ び エ マ ヌ エ ル 症

候群の患者の自然歴に関するアンケート調査研究を実施している. エマヌエル症候群とは 11番と

22番染色体の転座、 11; 22の部分的トリソミーの病気であり,この病気はトリソミー22、過剰 22

番派生染色体症候群、 11; 22 不均衡型転座としても知られている ( Car t er,St Pi er r e, Zac k ai,

Emanuel & Boy c ot t, 2009) . t ( 11; 22) 染色体転座保因者は, 日本にも結構な人数がいると考えら れるが,実際にどれだけの患者数があり,どのような臨床経過を経ているかはわかっていない. また,エマヌエル症候群はどちらかといえば,頻度の低い疾患のために,診察をした経験のある

医師は少ないのが現状である. したがって,患者が発達上どのような経過をたどるのかを家族が

知ることは難しい状態にある. この研究班による調査では, t ( 11 ; 22)染色体転座保因者,および,

エマヌエル症候群の患者の疫学( どの地域にどれぐらいの人数がいるのか) や臨床経過( どのよ

うな疾患経過を経るか) , 自然歴( どのような成長経過をたどるか) を調査し,どこでも情報が得

られる体制を築くことを目指している. 著者は,個別事例に関するコミュニケーション支援を中

心 に し た 発 達 支 援 を 継 続 し て お り , こ の 研 究 班 に お い て 著 者 に 求 め ら れ て い る こ と の 一 つ は , 特

(3)

-定事例に関する発達経過の報告である.

これまでに入手された海外文献からは,エマヌエル症候群児に対するコミュニケーション支援

について詳しく触れたものは見あたらない. 現段階では,比較検討はまだ難しく,まずは複数の

事例報告が蓄積される必要があると思われる. これまでのところネット上に公開されている報告

から,各事例の症状は一人ひとり大きく隔たっていることがわかっている. それは言語発達につ

いても同様で,言語理解が可能な事例もあれば,そうでない事例もある. また,ある程度の言語

の理解は可能な事例であっても,発語は非常に少ないという特徴もある. し1かにして様々な様相

を示す子どもとの聞にコミュニケーションを成立させ,言語発達を支援していけばいいのか,各

事例に則して検討する必要がある. 本研究は現在,著者らが係わり合いを継続している重度の知

的および感覚・運動障害を伴う一人のエマヌエル症候群児( 以下 E と記す) に関するものである.

Eに対して行ったコミュニケーション支援のアプローチから,主にEの感覚機能評価とそれに基づ

く係わりの方略について取り上げ,検討することを目的とする.

1

1

.

行 動 観 察 と 感 覚 機 能 評 価 に つ い て

まず,子どもの状態像を適切に評価する必要がある. しかし重度の知的障害を伴うエマヌエル

症候群児に通常の心理アセスセメントを適用させることは,困難である場合が多い. それゆえ実

態把握のためには,詳細な行動観察が必要となるであろう. 重症心身障害児の行動観察において

は,松田( 1986) が述べているように,①行動を肯定的にみる,②行動を周囲の条件との関連で

みる,③部分と全体を関連づけて行動をみる,④長い時間の流れの中で行動をみる,⑤子ども固

有の発達過程を考えるという, 5点が重要な視点であると思われる. この視点は,アセスメントを

単にインテーク時の評価だけで済ますのではなく,係わり合いの間中,絶えることなく継続的に,

反復的になされるものと捉えるものといえる. つまり,評価から対処方針設定,そして実行,そ

して査定という一連の過程を従来の段階的な構造ではなく,絶えず反復される螺旋状的進行にお

いて捉えるものである. 本研究においても,このような視点での係わりを模索した.

実際の支援にあたりエマヌエル症候群児のように種々の重度障害を併せ有する子どもとの問で コミュニケーションを成立させるためには,従来考えられてきたコミュニケーションの概念を転

換する必要がある. つまり,コミュニケーションを観念や情報を二者間で伝達し合い,理解しあ

うことと考えるのではなく,より柔軟に,かっ幅広く考えることである. ショルテン ( Skj or t en,

1989) らは,重症児との実践から「トータルコミュニケーションと構造」という概念を生み出し

た. [ " トータルコミュニケーションj としづ概念では,音声言語をはじめとして手話や書字から,

においや筋の緊張といったものまでをコミュニケーション方法として扱っている. さらに特筆す

べきはこれらどのコミュニケーション方法も価値的には等しいとされていることである. コミュ

ニケーション方法を音声言語だけに限定して考えるのではなく,子どもの実態に合わせて,あり

とあらゆるものをコミュニケーション場面に持ち込むことが出来る. 本研究においても,このよ

うなショルテンらの考え方をもとにコミュニケーションを考えることとした. また,一般にコミ

E

i

A

(4)

ュニケーションは,複数者間の意図的な情報のやりとりと捉えられる傾向が強い. しかし,重度・ 重 複 障 害 の あ る 子 ど も に お い て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 問 題 に す る と き , 相 互 の 意 図 性 を 前 提 に で

きない場合もしばしばあり得る. そこで,この研究においては,梅津 ( 1967) の「生活体 0

1のあ

る行動( 運動,分泌,身体表面の色などの変化) が他の生活体O

2に( 刺激となって) 作用して O2

が た び た び あ る 特 定 の 型 の 行 動 を 起 こ す こ と が 認 め ら れ る と き , 両 者 は 交 信 関 係 , ま た は 伝 達 関 係 に あ る と す る な ら ば , ヒ ト に お い て も , 言 語 行 動 以 外 の 交 信 関 係 が あ る 」 と し づ 考 え 方 に 拠 っ てコミュニケーションを捉えるものとする.

我 々 は , ま た 視 覚 と 聴 覚 を 中 心 と す る 感 覚 入 力 面 の 障 害 状 況 に 特 に 着 目 し て き た . 感 覚 機 能 の 障 害 は , 人 間 の 行 動 に 様 々 な 影 響 を 及 ぼ す . 特 に 視 覚 と 聴 覚 は 外 界 か ら の 情 報 の 窓 口 と し て 極 め て 大 き な 働 き を す る 器 官 で あ り , こ れ ら が 重 複 し て 障 害 さ れ る と , 探 索 や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 甚 大 な 影 響 が 及 ぼ さ れ る . そ こ で , 感 覚 機 能 の 障 害 に よ っ て 対 象 児 は , き わ め て 情 報 が 制 限 さ れ

た状態にあると捉え,可能な限り不足する情報の保障を工夫しつつ係わることとした. さらに,

人 間 行 動 の 基 礎 と し て の 感 覚 や 運 動 の 自 発 ( 中 島 ,1983) に 着 目 し つ つ , 個 別 事 例 に 実 践 的 , 継 続 的 に 係 わ る こ と に よ っ て 探 索 活 動 や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 促 進 を 目 指 す ア ク シ ョ ン ・ リ サ ー チ

を千子った.

なお,この研究における倫理面への配慮としては,研究の目的および方法について対象児の保 護 者 と 協 議 し 同 意 を 得 る こ と と し , 実 践 研 究 を 進 め る 上 で 入 手 す る 映 像 記 録 に つ い て は , こ れ を 研 究 目 的 以 外 に 使 用 し な い こ と に つ い て 了 承 を 得 , 発 表 等 に 際 し て は 事 前 に 了 解 を 得 る こ と と し た.

ill. 対 象 児 に つ い て

1. 対象児

E 男児 7歳( 2010年 3月現在) •

出生時体重2212g . 2003年4月より 1年間,発達相談支援センターの療育を受ける. 2003年9

月から 2006年3月まではろう学校の乳幼児教室に通い,その後もしばらくはろう学校での教育相

談を受けた. 2004年4月から 2007年 3月までは母子通園施設に在籍していた. 2008年4月から

2009年3月まで、知的障害児通園施設に通った. 現在は地域の通常小学校特別支援学級( 知的障害)

1年に在籍している. また,不定期ではあるが,こども専門病院で理学療法士より,ボ、パース法

によるリハビリを受けている.

2. 医学的所見

11/ 22混合トリソミー( エマヌエル症候群) . 疾患の特徴としては,重度精神遅滞,小頭症,成長

障害,前耳介洞,耳の奇形,口蓋裂,先天性心疾患( 心房中隔欠損症,肺動脈弁狭窄症) ,が挙げ

られる. 心房中隔欠損症については, 2007年 11月末に閉鎖手術を受けた. ABR検 査 で95dB以上,

生後 11 ヶ月時に聴覚障害により身体障害者手帳 3級の認定を受ける. 1歳 10 ヶ月時から大学病

院歯学部にて摂食指導を受ける. 2歳時に無熱生痘筆発症. この時,気管支晴息,肺高血圧症の疑

-4

(5)

い を も た れ る . 視 覚 障 害 も 指 摘 さ れ る . 移 動 機 能 障 害 に よ り 身 体 障 害 者 手 帳1級 , ま た 療 育 手 帳A

判 定 の 認 定 を 受 け る . 体 温 調 節 に 困 難 が あ り , ま た 易 感 染 症 の 傾 向 が あ っ て , 風 邪 の 症 状 が み ら れ る と き に は 頻 回 な 吸 引 , 吸 疾 が 必 要 に な る こ と が あ る . て ん か ん 薬 の 他 数 種 類 の 薬 を 服 用 し て

し1る.

3. 行動観察から( 係わり合い当初の様子)

(1) 感 覚 に つ い て

1) 視 覚

2歳 時 の 無 熱 生 痘 肇 発 症 直 後 、 光 を 感 じ て い な い 様 子 を 見 せ る ほ ど 視 力 が 極 度 に 低 下 し た . 入 院

をするが原因は分からないままであった. 退院後2ヶ月後に,電気の光に対する反応が観察され,

そ の 後 徐 々 に 回 復 の 様 子 が 見 ら れ , 筆 者 ( 菅 井 , 以 下S と記す) が係わり始めた2006年4月 頃 に は時折視覚を活用している様子がみられたが,その視線はぼんやりとしており,固視も不明確で、 対象を捉えているような様子はほとんど観察されなかった.

2 ) 聴 覚

生後すぐに高度難聴を指摘されており 3ヶ 月 時 か ら ろ う 学 校 乳 幼 児 教 室 に 通 っ て , 聴 覚 活 用 の 可 能 性 に つ い て 検 討 さ れ て い た . 補 聴 器 は1 歳 6 ヶ 月 時 か ら 装 用 を 試 み て い た が , 装 用 効 果 は

あまり明確で、はなかった. 時折,周囲の音に反応したのではなし、かと疑われる行動が観察される

程 度 で , 療 育 で は 聴 覚 活 用 の 様 子 を 観 察 し つ つ , 視 覚 的 手 段 を 活 用 す る と し づ 方 針 が た て ら れ た が 2歳 時 の 痘 壁 発 症 後 に 視 覚 の 活 用 が み ら れ な く な っ た た め , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 方 法 に つ い て再検討が必要になった.

s

へ の 相 談 が 求 め ら れ た の も , そ の こ と が 主 要 因 で あ っ た . 当 初 の 行 動観察から打楽器等については,音への気づきが見られた.

3 ) 触 覚

触覚の過敏性は無い. 軽く手に玩具が触れている状態からその物を掴み口へと運んでし、く様子,

物の表面を手や足で、触って確かめているような様子が見られるなど,むしろ積極的に触覚を活用 している様子がみられた.

(2 ) 姿勢・運動について

家 庭 で の 生 活 は ベ ッ ド の 上 で 過 ご す こ と が 多 い 状 態 に あ っ た 。 寝 返 り は か ろ う じ て 出 来 る が 、 支 え が あ れ ば 座 位 も 可 能 で あ っ た 口 定 頚 に は ま だ い た っ て お ら ず , 全 身 が 低 緊 張 気 味 で あ り 、 強 い 麻 庫 は 見 ら れ な か っ た 。 物 の 把 持 は 可 能 で あ っ た が , や や 弱 々 し い 握 り 方 で , 手 か ら 把 持 物 が 離 れ 落 ち て も 探 す 様 子 は 見 ら れ な か っ た . 身 体 前 方 に 物 を 置 い て E の手をガイドして触知させ, そ の 手 を 元 に 戻 し で も , 再 び 前 方 に 手 を 出 し て 探 索 す る 様 子 は 見 ら れ な か っ た が , 手 元 に 物 を 近 づ け る と そ れ に 触 れ た 時 に 把 持 す る 動 き は 明 確 で あ っ た . 手 に し た 物 を 口 に 運 ぶ 操 作 は , 直 線 的

で、明確で、あったが,外在の物に対する接近性の手伸ばし( リーチング) はあまり見られず,たま

に あ っ て も そ の 操 作 は あ ま り コ ン ト ロ ー ル の 効 か な い も の で あ っ た . 調 子 が 良 い と き や 興 奮 し た ときには足をばたつかせる様子が観察された.

d

4

(6)

N. 経 過 お よ び 結 果

S は , ろ う 学 校 乳 幼 児 教 室 を 訪 問 す る 中 で E と出会い,担当教師,保護者との協議の上,引き

続き S が 家 庭 訪 問 し な が ら , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 支 援 を 行 う こ と と な っ た . Eが4歳 時 か ら 家 庭 訪

問は開始された. 間もなく

s

の研究室に所属していた学生が家庭訪問に同行することとなり,

以 降 現 在 に 至 っ て い る . 毎 回 の 家 庭 訪 問 に よ る 係 わ り は , 約2 時 間 , 特 定 の 部 屋 に お い て も た れ た.

以下では, Eの感覚活用に関して我々が実施した感覚機能評価の結果と, E のコミュニケーショ

ン活動の変化を取り上げて述べる. 1. 感 覚 機 能 評 価

先 述 の よ う に 我 々 は , 視 覚 と 聴 覚 を 中 心 と す る 感 覚 入 力 面 の 障 害 状 況 に 特 に 着 目 し て き た . 係 わり当初 E に 視 覚 と 聴 覚 の 二 重 障 害 が 認 め ら れ , こ の こ と がE の 発 達 に 与 え る 影 響 は 甚 大 な も の が あ る と 考 え た か ら で あ る . 実 際E が ど の よ う に 視 覚 や 聴 覚 を 活 用 し て い る の か と い う こ と を 知 る た め に , そ し てE の 視 覚 活 用 に 際 し て ど の よ う な 配 慮 を 行 う 必 要 が あ る の か E の聴覚活用 に 際 し て ど の よ う な 配 慮 を 行 う 必 要 が あ る か , さ ら に 二 重 障 害 で あ る こ と を 踏 ま え た 配 慮 を ど の ように行うかということの参考のために, 日 頃 の 係 わ り 合 い に お い て 注 意 深 く 感 覚 活 用 の 様 子 を 観 察 す る と と も に , 機 会 を み て 感 覚 機 能 評 価 を 実 施 し た . こ こ で は こ れ ま で に 実 施 し た 機 能 評 価

のうち3 回の経過を取り上げる.

(1) 視 機 能 評 価

1) 評 価 方 法

Tel l er (1 979) に よ っ て 開 発 さ れ た 乳 児 対 象 の 視 力 測 定 法 と し て FPL 法 が あ る が , こ れ を 一 層 簡 便 に し た も の と し て 新 生 児 や 低 年 齢 児 に も 適 用 可 能 な Tel l er Ac ui t y Car d( TAC) がある. 現在は, St er eo Opt i c al 社 が 販 売 し て い る TEL L ER ACUI TY CARDS

II ( TAC II) (図1 ) が用いられており, 本 評 価 で も こ れ を 用 い た . 評 価 の 方 法 は 次 の と お り で あ る . ま ず 縞 幅 の 広 い カ ー ド (0. 23cy/ cm)

をEの眼前 38c mに縞視標が左右いずれかになるようにランダムに提示し, E の眼球運動を観察し

て ど ち ら か に 対 す る 選 好( pr ef er ent i a l ) を判定する. 選好が確認できた場合には,順次,縞幅の 狭 い 視 標 を 提 示 し て 同 様 の 手 続 き で 判 定 し て い く . 1 つ の 視 標 に つ い て 3 試行まで、を行った. ま た 最 初 や , 途 中 休 憩 を 入 れ た 後 の 試 行 開 始 前 に は , 色 鮮 や か な 楽 器 を 眼 前 に 提 示 し て 前 方 へ の 注 意 を 喚 起 し た . 視 力 値 は , 近 似 式 で 換 算 し た . ま た Opt oki net i c Nys t agmus ( OKN) を参考にし、

白 黒 の 縞 に 覆 わ れ て い る 缶 ( 図2 ) を黒地のテーブル上で、転がし,これに対する視行動も観察し

た。

次に暗室条件で、の光の捉え方についても行動観察を行った. 完全暗室において視標となる光を

発する玩具( 図3 ) をEの眼前約20cm' "' - ' 30cmに提示し,上下左右に動かし,注視の様子を観察した. な お 評 価 を 実 施 す る 前 に , 梓 体 の 作 用 を 活 性 化 す る た め 3 分一5 分 程 度 完 全 暗 室 条 件 に し て 身 体 接 触 や 声 が け な ど し て 過 ご し た 後 評 価 を 行 っ た . 一 般 に 明 順 応 よ り 暗 順 応 に 時 間 が か か る こ と が 知られているが,

E

の 心 理 的 不 安 を あ お る こ と の な い よ う に 数 分 の 無 光 状 態 に と ど め た .

(7)

-さらに 2008年 か ら は 視 野 や 追 視 に 関 す る 評 価 も 行 っ た . STYCAR法( Sher i dan Tes t s f or Young Chi l dr en and Ret ar dat es ) を 参 考 に し て , 黒 背 景 の ボ ー ド 内 に ラ ン ダ ム な 方 向 か ら 視 標 ( 玩 具 :

フラッシュウニボール) (図 4 ) を 提 示 し , ど の 位 置 で 発 見 さ れ た か を 視 方 向 と 注 視 の 様 子 か ら 判

定 し , さ ら に そ の 視 標 を 主 に 左 右 に 動 か し て 追 視 が み ら れ る か ど う か を 判 定 す る 方 法 を 行 っ た .

評価では, Eの 正 面40c mの位置に 79c mX91c mの黒いボード( 図5 ) を 提 示 し , そ の ボ ー ド 上 で 視 標 となる玩具を提示し,ボード上で動かした.

図1. TEL L ER ACUI TY CARDS

図3. 視 標 と な る 光 玩 具

図5. 黒 い ボ ー ド( 79c mX 91cm)

図 2. 黒 白 縞 の 缶

図 4 . 視 標 と な る 玩 具

J

A

(8)

2 ) 結果

TELLER

A

C

U

I TY

CARDS

I

I

( T

A

C

II)

による評価は,母親が

E

の座位を後ろから支え,

E

の正面から

学生が視標を提示し,

s

が観察記録した. また実施中は高感度のビデオカメラで記録し,視標を捉

えるまでのおよその時間を計測した. 結果は表1に示した. 初回 ( 2006年) の評価中のE は母親

に 座 位 を 支 え ら れ な が ら も 目 の 前 に 提 示 さ れ る 視 標 に 興 味 を 示 す 様 子 が 見 ら れ , 視 覚 の 活 用 が 明 確 に 認 め ら れ た . そ の 後3 年 に わ た る 継 続 的 な 評 価 に お い て , ほ ぼ 評 価 値 は 一 定 し て お り , 視 力

はO. Q N SセV

様子がみられていたが 3回目( 初回実施3年後) には, QセT

うになった.

白黒縞の缶による行動観察については,缶( 細) をE から約 30c m離れた正面に提示したところ,

初 回 か ら す ぐ に 視 線 は 缶 へ 向 け ら れ た 。 そ し て 缶 の 側 面 ( 白 黒 の 縞 ) を 見 せ 、 ゆ っ く り と そ の 場

で回転させた。約 8 秒間の固視があった。そして視線が外れ、再び缶に視線が向けられたので回

転させた。約 5 秒間の固視があった。その後、缶をテーブルに置き、右から左、左から右へと転

がした。初年度は,これを追視する様子が明確で、はなかったが 2年 目 以 降 , 明 確 な 追 視 が 観 察

されるようになった.

暗室条件で、の光の捉え方についても,姿勢としては母親が E の座位を後ろから支え,完全暗室

の状態で,学生が視標を提示し,

s

が行動観察を行った. 初回実施時に完全暗室の状態になると,

E は不安であるのか,大きな声を出す様子が見られ,光の変化を明確に捉えているようであった.

視標をEの顔の高さで提示し,左右,上下にゆっくり何度か往復移動させた. 最初のうちは注視,

追視ともはっきりとして持続的であったが,途中から疲れからか,頭が前傾することがあった.

持 続 時 間 は 2 回目 3 回目になるにつれて長くなり 3 回目には一度うなだれでも再び首を持

ち上げて光を見たり,光を追視したりする様子もみられた.

視野に関する評価では, Eからみてボードの左端,高さはちょうど半分の位置に視標を提示する

と,顔を左に向けて視標を捉えることが出来た. 右端,高さは同じ位置に視標を提示すると,こ

れ も す ぐ に 視 標 を 捉 え る こ と が 出 来 た . 左 端 , 高 さ は ち ょ う ど 半 分 の 位 置 か ら 中 央 部 に 向 け て 少

しずつ視標を動かしながら提示すると,これへの追視ははっきりと見られた. 右端からの提示に

対 し て は 首 を う な だ れ て 視 標 を 捉 え る 動 き が 見 ら れ な か っ た た め 評 価 は 終 了 と し た . 乳 幼 児 時 期 の視野検査は一般に困難であるが,おおよその気づきの状態は観察しうるものと思われる.

以 上 の 結 果 の う ち 視 力 に つ い て は , 医 療 機 関 で 検 査 を う け た と き の 結 果 と ほ ぼ 一 致 す る も の で あ っ た . 光 や 視 野 の 面 に つ い て は , こ れ ま で に 医 療 機 関 等 で は 実 施 さ れ て こ な か っ た が , 我 々 の

評価によって E の視覚活用にむけて光玩具を用いたり, e RPセSP」ュ

左 右 横 に ず れ な い 位 置 に 物 を 提 示 し た り す る な ど の , こ れ ま で の 視 覚 的 な 働 き か け の 有 効 性 が 裏 付 け ら れ た . こ れ ら の 結 果 に 基 づ き , 視 覚 活 用 に 向 け て 光 玩 具 の バ リ エ ー シ ョ ン を ひ ろ げ , あ る いは影絵などの活動を導入することとなった.

(9)

-表

1

E における T A C に よ る 視 機 能 評 価 の 結 果

2006

1

1

7

日,

12

5

I J U穿ぐcycl es/伽 〉

1

ft;

ウ盗t(湯直属皆3 8 c mノ

+

0. 32

0. 007

+

0

. 4

3

0. 01

+

0. 64

0. 014

+

0. 86

0. 02

1.

3

0. 03

1.

6

0. 04

+

2

. 4

0. 05

+

3

. 2

0. 07

+

4

. 8

0. 11

6

. 5

0. 15

9

. 8

0. 22

2007

5

16

I

f

t

t弄ぐcycl es/伽 〉

1

ft;

ウ 窟 傍 距 離3 8 c mノ

+

0. 32

0. 007

+

0

. 4

3

0. 01

+

0. 64

0. 014

+

0. 86

0. 02

+

1.

3

0. 03

+

1.

6

0. 04

+

2

. 4

0. 05

3

. 2

0. 07

+

4

. 8

0. 11

+

6

. 5

0. 15

+

9

. 8

0. 22

/

4

(10)

2008年5月29 日

提療ぐりTcl es/加 〉 指Jク窟( 復活主管38c m)

+

0. 32 0. 007

+

0. 43 0. 01

+

0. 64 0. 014

+

0. 86 0. 02

+

1.3 0. 03

+

1.6 0. 04

+

2. 4 0. 05

+

3. 2 0. 07

+

4. 8 0. 11

+

6. 5 0. 15

9. 8 0. 22

(2 ) 聴 機 能 評 価

1) 評 価 方 法

BOA(聴性行動反応検査) を参考にして,ラッパ,笛,パドルドラム( 図6 ) ,ネオメーターの音を

E の 背 後 右 側 , 左 側 後 方 そ れ ぞ れ か ら 発 生 さ せ E の音源方向への視線・身体の動き,音に対する

身 体 の 動 き な ど の 行 動 を 観 察 し た . 裸 耳 と 補 聴 器 装 用 と の 両 方 の 条 件 で 評 価 を 実 施 し た . ネ オ メ ー タ ー は 補 聴 器 装 用 時 に の み 使 用 し た . 評 価 は 防 音 設 備 の 整 っ た 聴 覚 検 査 室 で 実 施 し た .

図6. 音 へ の 反 応 の 評 価 に 用 い た 楽 器

2 ) 結 果

聴 機 能 に つ い て の 評 価 結 果 は , 初 年 度 か ら そ の 後 毎 年 実 施 し て い る が 目 立 っ た 経 年 変 化 は な い . そ こ で こ こ で は3 年 目 の 結 果 の み 表 2 お よ び 表 3に 示 す . 補 聴 器 を つ け た と き E は「ああJ と 声 を 出 し , 興 奮 し て い る 様 子 が み ら れ た . し か し , 補 聴 器 を 気 に し て 耳 を 触 る 様 子 は み ら れ な か

(11)

-っ た . 楽 器 を 用 い た 評 価 で は , 補 聴 器 を 装 用 し て い な い と き は , 音 に 対 す る 明 確 な 反 応 は 見 ら れ な か っ た も の の , 補 聴 器 装 用 時 に は 体 を 音 源 に 向 け た り ん ー 」 と 声 を 出 し た り す る 様 子 が 観 察

された. ネオメーターによる評価では,音に集中するかのように動きがぴたりと止まる様子がみ

られた. 裸耳条件下で楽器を鳴らした場合には,音に対する明確な反応はみられない. しかし,

補聴器を装用している状態でのE は激しく身体を動かしたり,音源方向に身体を動かしたりし,

ま た ネ オ メ ー タ ー の 際 は 動 き を 止 め て 音 を 感 じ て い る 様 子 が み ら れ た . 評 価 場 面 で は 補 聴 器 を 装

用することで音を感じている様子がうかがえているが, 日常生活でのひとやものへの係わりにお

け る 視 覚 や 触 覚 の 活 用 に よ る 情 報 の 収 集 と 比 べ る と , 聴 覚 の 活 用 が 果 た す 役 割 は 十 分 で あ る と は い え な い . 係 わ り 合 い の 中 で 楽 器 を は じ め と す る 音 を 楽 し む も の を 用 い る と き に は , 聴 覚 は も ち

ろんのこと,視覚的に楽器を捉える,振動を触覚的に感じるなど E がさまざまな感覚を通しも

のの特徴を感じることができるような工夫が必要であると思われる.

以上のような機能評価の場面以外の行動観察において, 2008 年の夏頃から聴覚活用についての

エピソードを母親からしばしば聞くようになった. 2007 年の心臓手術以降,約半年ほどの聞に体

力 の 回 復 が み ら れ 次 第 に 元 気 な 様 子 が 見 ら れ る よ う に な っ て い っ た が , そ れ と と も に 通 園 で の 活 動 に お い て 音 に 反 応 し て い る こ と が 報 告 さ れ る よ う に な っ た . 実 際 に 園 で の 活 動 を 訪 問 観 察 し た ところ, C D音 源 に よ る リ ズ ム 感 あ る 音 楽 に 対 し て , す ぐ に 音 に 注 意 を 向 け る と し づ 行 動 が 数 回 にわたって観察された.

表2. 楽器に対する反応

楽器の種類 補聴器装用

音源の位置 音へのEの主な反応・様子

音の大きさ の有無

右 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

フ ツ ノ ¥

左 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

京 句 90dB

右 側 後 方 あり 音 を 出 す と 動 き 出 し ん ー 」 と 声 を 出 す .

左 側 後 方 あり 右側後方同様「んー」と声を出し,微笑む.

右 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

ノ田ヤ-;,

-左 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

来句86dB

右 側 後 方 あり 「んー」と声を出し 右側に身体を傾ける.

左 側 後 方 あり 音を出すと動き出し,左側後方にいるS を見る.

右 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

太鼓

左 側 後 方 なし 音に対する反応は特に見られない.

来句96dB

右 側 後 方 あり 身体を激しく動かしながら,左に傾ける.

左 側 後 方 あり

太鼓を叩くと身体を左に傾けるが,もう一度叩 いてみると顔が右側を向く.

(12)

-表 3. ネオメーターに対する反応

dB 11直 音源の位置 kHz 値 音へのE の主な反応・様子

断裂音を何度か鳴らしたあとに連続音を鳴らす

右側後方 3kHz

と,それまで前に垂れていた頭をふっと持ち上 げた.

50dB

右側後方

「んーj という声を出さずに 一瞬であったが

2kHz

音に集中したかのように動きが止まった.

右側後方

身体を動かす様子はみられたが, 2 秒 ほ ど , じ

1kHz

っと前を見つめ,音を感じているような様子で あった.

身体を動かしていたが,音が鳴ると一瞬動きが

70dB 右側後方 3kHz 止まり,また動き始める. 同じ体勢でいること

に疲れたよう様子だ、ったので,評価をやめる.

(3 ) 機能評価についての考察

機 能 評 価 の 結 果 , 我 々 はE の視距離を常に考慮、して,物の提示を行ったり,提示の際にその視

対 象 と そ の 背 景 に 注 意 し て , 明 度 差 や 色 差 に よ る コ ン ト ラ ス ト を 意 識 し た り , 提 示 物 に 関 し て は

光素材を多用するなどの工夫・配慮を行った. 見る活動が組み込まれている際には,常にE が対

象を見ているかどうかを注意深く観察するようにするとともに,対象物を動かすときにはできる

だけゆっくりと E が追視できるように心がけた. E への物の提示や話しかけ( 対面) にあたって

は,そのときE が向いている方向を確かめその眼前に提示したり E の顔の正面にこちらが顔を

出したりなど E がその視界中央付近で捉えられるように配慮した. 聴覚的な活動に際しては,

その都度 E が音を感じ捉えているかどうかを E の表情や視線,身体の動きなどを通じて観察

するようにした. 時折,音を出した後にしばらく働きかけを控え E の反応がみられるかどうか

を確認することも意識的に行った. 佐藤 ( 2002) は,重複障害児の聴力検査に関して,特定の事

例に対する長期にわたる継続的検査を実施する中で,教育的検査の意義と検査そのものがコミュ

ニケーションを促進することを述べている. E における聴性行動反応は,全般的に微弱で、,相当

に丁寧に観察しなければ拾い上げることが難しかった. 評価にあたっては条件詮索反応聴力検査

を試みてはみたものの,未だ明確は反応を得ていない. こういった場合,音の意味を子どもとの

間でやりとりすることを通じて作り上げていくことも重要になるであろう. 今後は我々の機能評

価の結果から E の感覚活用は可能ではあっても,標準的な感覚機能に比して相当制限されてい

ることが伺われたので,もう一つの重要な感覚で、ある触覚に着目し,触覚による外界交渉を積極

υ

(13)

的 に 提 供 す る こ と が 重 要 で あ る と 考 え た . そ れ は 具 体 的 に はE の手をガイドして触知させたり,

物をE の手や口を中心に触知しやすい身体部位に接近させたりするなどの方法で、行った. このよ

うな工夫・配慮が E の 外 界 交 渉 が よ り 確 実 な も の と な る 上 で 効 果 的 で あ り , さ ら に 次 節 で も 述

べるように E とのコミュニケーションにおいてもこの触覚活用を重視したことが有効であった

と思われる.

2. コミュニケーション活動の変化

(1) 経過

S らによる E に対するコミュニケーション支援においては,まず,対象児の自成する微細な運

動をコミュニケーションにつなげる試みをした.

E

の視線,表情,あるいは身体の動きといった

自成的な状態変化を,子どもの情動や意思の指標( 信号) として丁寧に拾い上げ,コミュニケー

ションの中に取り入れてきた. 具体的には,

E

のわずかな視線に対しても,これを対象に対する接

近性の行動の発現であると仮定し,対象物をEに近づけたり, E を抱いて対象物の方向へと移動さ

せ た り し た , あ る い は ま た , 当 初 は こ ち ら の 働 き か け に 対 し て 明 確 な 受 容 や 拒 否 が 見 ら れ な い 状 態であったが,その表情に受容の可否を読みとって働きかけを継続したり中止したり変更したり

した. このような支援を続ける中で,次のような経過が見られた.

係 わ り 当 初 , 紹 介 元 の 乳 幼 児 教 室 担 当 者 はE に 重 度 の 視 覚 障 害 を 疑 っ て い た こ と か ら , 特 に 視 機能について注目して観察した. E の 視 線 を 観 察 し て い て も , 見 て い る 対 象 が 特 定 で き な か っ た

り,顔前に事物を提示し動かしてみても,追視が起きなかったりすることが多くあった. しかし,

キーボードや自作の縞視標などに対しては,はっきりとした注視が見られていた. そこで,我々

はE の視覚的接近を喚起すべく教材を自作もしくは購入して,係わりの場に持参するようにした.

それらの教材・教具の内容と,それらの活用結果は表1に示した. E には,これらの教材・教具

のほとんどに対して視覚的注意を向ける様子が見られたが,とくに縞視標は効果が大であった.

また,柔らかなゴム素材玩具( フラッシュウニボール) ヨーヨーには特に興味を示し, RセS

月間時折自主的に手を伸ばして取ろうとする動きも見られた.

さらに,

E

に見られる微細な運動変化,例えば人差し指を突き立てるなどの行動が,それが生起

した文脈において要求や叙述的な発信とみなせる場合に,積極的にこれに応答するようにした. 係わり当初にこの行動がよく見られたのは,主に好物の菓子類を与えられる時で,チョコレート

を 始 め い く つ か の 特 定 の 菓 子 を 食 べ る 場 面 で , 一 口 食 べ た 直 後 に , こ の 人 差 し 指 を 突 き 立 て る か の よ う な 手 の 動 き が よ く 観 察 さ れ た . そ こ で も う 一 つ だ ねJ Iもっと( 欲しいん) だね」とい った声がけをしながら,さらに菓子を口に運ぶと口を大きく開けて食べることがしばしばあった.

このような支援を続ける中で,特に E が対象を捉える際に,触覚を用いて働きかけることができ

るように, Eの手を取って対象物に触らせたり,対象物をEの手や口唇に触れさせたりすることを

重点的に行った. コミュニケーション場面においても,係わり手からの発信の際にネームサイン,

オブジェクトキュー,指文字など触覚系による信号を用いた方法を積極的に採用した. 以上のよ

うなアプローチの経過の中で E において,運動そのものの自発が促進され,視覚をはじめとする

(14)

-接 近 性 の 行 動 が 明 確 化 し た . そ の こ と に よ っ て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 循 環 す る よ う に な り , シ ン ボル体系を活用するコミュニケーションがうまれるに至った.

E に 意 図 的 な 運 動 の 自 発 が 見 ら れ る よ う に な っ た 頃 か ら , AAC ( Augment at i ve Al t er nat i ve Communi cat i on : 補助・代替コミュニケーション) の導入も試みた. 通常のコミュニケーションに 近い AAC の道具としては, VOCA( Voi ce Out put Communi cat i on Ai d) の利用が一般的であるが, E

に お い て は 聴 覚 活 用 に か な り 制 限 が あ る こ と か ら , ス イ ッ チ 系 の 装 置 を 光 刺 激 や 振 動 刺 激 に 連 結

させたものを用いることとした. まだ明確で意図的な運動によってスイッチのOn- Of f を操作する

までには至っていないが,時折,繰り返し運動を起こして刺激を楽しむ様子が見られるようにな ってきている.

( 2 ) E のコミュニケーション活動についての考察

これまでの E との係わり合いの経過から,微細な行動変化を発信として読み取り,これに丁寧

に応答していくとしづ係わりの方略が,初期的な言語発達の基礎を形成する上で重要なものであ

ることが示唆された. 微細な行動変化は,初期の段階では必ずしも子どもの意図性を確認するこ

とが出来るとは限らない. けれども,それらを白成的な信号として位置づけ,これに応答的に対

応 し て い く こ と が , そ の 後 の 意 図 的 に 構 成 す る 信 号 の 自 発 の 土 台 に な っ た と 考 え る . コ ミ ュ ニ ケ ーションモードに関しては特に,その障害様相からみて,知的な面での障害,運動面の障害,さ らに感覚面の障害を併せ有しているため,単一障害に関して開発されてきた特定方法ではコミュ ニ ケ ー シ ョ ン の 促 進 は 困 難 で あ る . そ こ で , 障 害 の 程 度 を 考 慮 し つ つ , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 方 法 を音声言語系を中心とするものに限定せず,多様な方法を用いたことが効果的で、あったと思われ

る. また,触覚系によるコミュニケーションを重視したことも,視覚と聴覚の両方に障害がある

本児において有効で、あった.

生起したコミュニケーションを質的側面から検討する場合,子どもと養育者( あるいは支援者)

との間にまず形成されるべきコミュニケーションは安心と落ち着きを基盤とした共感的なもので な く て は い け な い だ ろ う . 共 感 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が , 情 報 伝 達 型 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン も 含

め,あらゆるコミュニケーションの土台となると考えるからである( 菅井, 2007) . この点につい

て , 積 極 的 な 応 答 と 本 児 の 自 発 行 動 の 中 に 子 ど も の 意 思 を 読 み 取 る 係 わ り が 大 き な 影 響 を 持 っ た と考えるが,なお情動の共有といった定型発達において重要とされている側面について今後さら に検討が必要である.

AACの活用については,本児においてはまだ明確な結果を見いだせていないが,これらの有効性

について今後も検討していきたい.

V . おわりに

エ マ ヌ エ ル 症 候 群 児 に よ く 見 ら れ る 症 状 と し て は 次 の よ う な も の が 指 摘 さ れ て い る ( Medne,

Zackai ,

&

Emanuel, 2007) . 口蓋裂( ピエールロバン連鎖を含む) 、先天性心疾患、精神発達・運

動発達遅滞、耳の異常( 前耳介の小孔、小突起、難聴) 、小下顎、停留皐丸、小頭症、先天性股関

(15)

-節脱臼、人中が長く幅広い、鼻、腎臓の異常、鎖紅などである. E においても,これらの症状の

うちいくつかが該当している. 我々が係わり合いにおいて,検討した内容は以下のようなもので

あ っ た . ① 口 蓋 裂 : 現 在 ま で の と こ ろ 保 護 者 は 外 科 的 閉 鎖 を 希 望 し て い な い . 液 状 の も の を 口 腔 か ら 取 り 込 ん だ 際 に 鼻 腔 か ら 鼻 穴 へ と 流 出 す る こ と が 何 度 か 見 ら れ て い る . 誤 瞭 性 肺 炎 に 対 す る 注 意 が 必 要 と さ れ た が , こ れ ま で の と こ ろ そ の 前 兆 は 見 ら れ て い な い . 今 後 も 摂 食 の 際 に , 無 理 な 挿 入 や 過 度 な 喉 下 の 促 し は し な い よ う に 注 意 す る 必 要 が あ る . ② 先 天 性 心 疾 患 : 心 房 中 隔 欠 損 があり,自然閉鎖が見込まれないことから6 歳 時 に 閉 鎖 手 術 を 行 い , 経 過 は 良 好 で あ る . 開 胸 手

術だ、ったこともあって,肉体に与えた負担はかなり大きかったように思われる. 手術前の状態と

手 術 後 の 状 態 を 比 較 す る と , 身 体 姿 勢 維 持 , 外 界 探 索 の 自 発 性 , 感 覚 活 用 い ず れ の 面 に お い て も 一 時 的 に 後 退 し た . し か し , そ の 後 徐 々 に 体 力 の 回 復 が み ら れ , 現 在 は 手 術 の 影 響 は ほ と ん ど 感

じられない. ③精神発達・運動発達遅滞: 全般的な発達遅滞の様相は係わり合い当初から見られ

ている. 就学前の療育機関では,この点について配慮された活動プログラムが組まれていた.

我 々 は 係 わ り 合 い に お い て E の 行 動 様 相 か ら 特 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 動 と 探 索 活 動 の 形 成 ・ 促 進 に 着 目 し 働 き か け を 行 っ て き た . 働 き か け に あ た っ て は , 継 続 的 にE の感覚活用につい て 機 能 評 価 を 行 い , そ の 結 果 か ら 働 き か け 方 に 配 慮 や 工 夫 を 加 え て き た . こ の よ う な 評 価 活 動 が

E に対するより詳細な理解に役立ち,かっ係わり合いを進めていく上で有効で、あった. E のよう

に重複障害のある子どもにおいては,医療機関等における一般的な電気生理学的検査や耳鼻科医,

オージオロジストによる検査の他に,教育分野における評価が必要となるものと考える. それは,

評価( 検査) 者との親和的コミュニケーション関係,子どもが慣れ親しんだ評価( 検査) 状況,

子 ど も の 興 味 ・ 関 心 を 十 分 に 踏 ま え た 評 価 ( 検 査 ) 場 で の 実 施 , 子 ど も の 体 調 や 集 中 度 合 い を 丁 寧 に 読 み 取 り な が ら の 実 施 が , こ れ ら 重 複 障 害 児 へ の 検 査 的 ア プ ロ ー チ に 重 要 だ か ら で あ る ( 佐 藤, 2002) . この教育的意義を踏まえた評価( 検査) が,コミュニケーション形成に役立つととも

に,また一方でコミュニケーション関係の形成・促進がこれらの評価をより確実なものにしてい

くものと考える. 機能評価とコミュニケーションの密接な関連を重視して働きかけていくことが

重要であろう. 我々の係わりの方略は E の自成的な信号によるコミュニケーションを土台とし

てシンボ、ル体系を活用するものへと形成的に働きかけることであり,相互のコミュニケーション

がし1かに成立・進展しているかを吟味しつつ E との共同活動を創出していくことであった. こ

の経過から,コミュニケーション障害を状況として抱えがちなエマヌエル症候群児において,そ の 支 援 指 針 の ひ と つ は , 適 切 な 機 能 評 価 と そ れ に 基 づ く 多 様 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 形 成 と 促 進であると考える.

我 々 の 係 わ り 合 い に お い て 示 唆 さ れ る こ と は , エ マ ヌ エ ル 症 候 群 児 に 特 有 の こ と で あ る と は 考

えてはいない. エマヌエル症候群児が示す状態像は,従来,重度・重複障害児の療育や教育にお

い て 取 り 上 げ ら れ て き た 範 轄 に 入 る も の で あ る と 思 わ れ る が , こ れ ま で の 重 複 障 害 教 育 実 践 に お いて,今回取り上げたような感覚機能評価やコミュニケーション支援が必ずしも十分取り上げら れ て き て い る と は 言 え な い 状 況 が あ る と 考 え る こ と か ら , 上 記 の よ う な 報 告 を 行 っ た . 今 回 の 報

(16)

-告 で 取 り 上 げ た 内 容 は , エ マ ヌ エ ル 症 候 群 児 が 抱 え る こ と の 多 い 課 題 の う ち , 外 界 探 索 に お い て 欠 か す こ と の で き な い 感 覚 活 用 の 側 面 仁 言 語 発 達 の 側 面 に つ い て だ け で あ る . 姿 勢 や 運 動 に つ い て の 側 面 , 健 康 維 持 に 関 す る 側 面 な ど 多 く の 課 題 が あ る が , そ れ ら を 含 め E に 対 す る 支 援 の 取 り 組 み の よ り 包 括 的 な 報 告 は 別 の 機 会 に 行 い た い . 今 回 有 効 と 思 わ れ る 評 価 方 法 お よ び コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 形 成 と 促 進 に 向 け て の ア プ ロ ー チ を 整 理 し , そ の 実 際 と 進 展 の 様 子 を 報 告 し た が , 今 後 こ の よ う な 種 々 の ア プ ロ ー チ と そ の 経 過 の 報 告 が 蓄 積 さ れ る こ と が , 今 後 の エ マ ヌ エ ル 症 候 群児への療育の発展に必要であろう.

< 付記)

本 研 究 は , 平 成2 1年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 難 治 性 疾 患 克 服 研 究 事 業 ) 270 I エ マ ヌ エ ル 症 候 群 の 疾 患 頻 度 と そ の 自 然 歴 の 実 態 調 査J により実施された.

文 献

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A

図 1 . TEL L ER  ACU I TY  CARD S
表 1 E における T A C に よ る 視 機 能 評 価 の 結 果 2006 年 1 1 月 7 日 , 12 月 5 日 I J U 穿 ぐ cycl e s/ 伽 〉 1 ft; ウ 盗t( 湯 直 属 皆 3 8 c m ノ + 0
表 3 . ネオメーターに対する反応 dB  11 直 音源の位置 kH z 値 音への E の主な反応・様子 断裂音を何度か鳴らしたあとに連続音を鳴らす 右側後方 3kH z   と,それまで前に垂れていた頭をふっと持ち上 げた

参照

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