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東北大学 災害科学国際研究所 佐藤翔輔

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Academic year: 2018

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(1)

*1 東北大学災害科学国際研究所 助教・博士(情報学) Assistant Professor, International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University,

Dr. Informatics *2

東北大学災害科学国際研究所 教授・博士(工学)

東日本大震災の被災地における震災遺構の保存・解体の議論に関する分析

-震災発生から

5

年の新聞記事データを用いて-

Quantitative Analysis Situation of Disaster Remains in the Affected Area of the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami Disaster

- Content Analysis with Text Data on News Articles for 5 Years after the Disaster -

佐藤翔輔

1

,今村文彦

2

Shosuke SATO,Fumihiko IMAMURA

本稿では,東日本大震災の被災地における震災遺構の保存・解体に関する議論について,全体像を捉えるために,

新聞記事データベースを構築して分析を行った.その結果,1)東日本大震災の震災遺構の状態には,「検討中」「保

存断念」「解体決定」「解体開始」「一部保存・解体決定」「解体・撤去完了」「復元検討中」「見守り保存決定」「保存

決定」「修復・利活用検討中」「修復完了」の11種類があることが明らかになった.2)震災遺構に関する議論は,概

ね震災発生3年前後から活発に行われていた.3)保存か解体か定まらない震災遺構は,その場所で犠牲者が発生し

ているなどの原因で,議論が継続的に行われているほか,4)発災後に比較的早くに記事が出て,ネガティブなスト

ーリーが存在する震災遺構は解体されやすく,比較的遅く記事がでて,ポジティブなストーリーがあるものは保存

されやすい傾向にあることを確認した.

キーワード: 災害遺構,災害伝承,東日本大震災,津波災害

Keywords: Disaster Remain, Disaster Tradition, the 2011 Great East Japan Earthquake Disaster, Tsunami Disaster

1.はじめに

災害遺構(震災遺構)の定義には,「自然災害の 被害の痕跡をとどめる実物資料のうち,特に不動産 的建造物」

1)

,「以下の3項目にあてはまるもの.被 災の痕跡を残す構造物・建築物(必要に応じ地形, 地層等も含む).鎮魂,後世に向けて防災・減災に 役立つもの.原則として,現地保存されるもの」

2)

, 「(東日本大震災の津波による)被害を受けた建物 など,被災の記憶や教訓を後世に伝える構造物」

3)

など様々ある.

この災害遺構は,我が国でも,いくつかの保存例 があり,災害が発生した当時の状況を直接的に,視 覚的に,実感的に伝える媒体として活用されている. 昨今では,災害遺構に関する研究が盛んに行われる ようになってきた.例えば,筑波・澤田(2013)は,

2004年新潟県中越地震災害における妙見の崩落現場

(現在は,妙見メモリアルパーク),鈴木ら(2013) は,1999年台湾集集地震災害における断層や被災校 舎(現在は,921地震教育園区)が災害遺構として成 立する過程を明らかにしている.石原・松村(2013) は,雲仙普賢岳噴火災害における土石流被災家屋と 旧大野木場小学校被災校舎と,2004年新潟県中越地 震災害における木籠地区の水没家屋の維持管理の現 状を明らかにしている.

東日本大震災においては,その被害の甚大さや広 域さに起因して,これまでの災害に類を見ない多く の数の災害遺構(震災遺構)が,保存するか否かの 議論の対象になっている.以下,特に断りのないか ぎり,震災遺構は東日本大震災の遺構を指すことに する.震災遺構として候補に挙がっている対象物は 徐々に明らかになり

1)7)

,一部の対象物について保 存・解体の議論や顛末を記述したもの

8)

(2)

12 東日本大震災の全被災地における震災遺構の議論・ 現状の体系的な整理は進んでいない.学術情報検索 サービスCiNiiで「震災遺構」「東日本大震災AND遺 構」で検索しても,東日本大震災の被災地を広範囲 に渡って整理した文献は存在しない(執筆時点2015 年12月).東日本大震災の震災遺構については,震 災から5年がたとうする執筆時点においては,その全 体像の理解が不足している可能性がある.

本研究は,以上を鑑み,東日本大震災の震災遺構 の議論に関する分析を行い,震災発生から5年目にお ける震災遺構が置かれている現状を体系的に明らか にすることを目的とする.ここでの分析・議論を通 して,東日本大震災に由来する震災遺構が置かれた 現況を認識し,東日本大震災の震災遺構の議論プロ セスの特徴を明らかにすることで,今後の保存・解 体の議論を展開する上で有用な知見を提供すること をねらいとしている.

2.調査およびデータの収集

本稿では,新聞記事データを分析対象にして議論 する.調査時点(2015年12月)において,東日本大 震災の震災遺構に関する調査は網羅的に行われてい ないことが懸念される.3.11震災伝承研究会は,震 災遺構の候補挙げているが,宮城県だけが対象にな っている

7)

.そこで,本研究では,複数の新聞(新 聞社)をもとに,震災遺構に関する記事から東日本 大震災における震災遺構のデータを積み上げていく ことにする.

本稿では,対象物が新聞報道によって,震災遺構 (の候補)と社会的に認知されたプロセス議論を追 う.前述の震災遺構に関する定義における「鎮魂, 後世に向けて防災・減災に役立つもの」

2)

,「被災 の記憶や教訓を後世に伝える構造物」

3)

という形容 部分は,立場や捉え方によって様々であるため,実 質的に定義にもとづく対象物のすべての存在を明ら かにすることは不可能である.そこで,震災遺構に 関する研究の第一次な分析として,新聞報道上に「震 災遺構」として表象化した物を対象にして議論を進 めていくことにする.

震災遺構に関する情報を検索する上で,参照した 新聞は,KD河北新報データベース(河北新報),聞 蔵IIビジュアル for Libraries(朝日新聞),ヨミダス 歴史館 (読売新聞),毎索(毎日新聞)日経テレコ ン21(日本経済新聞)の5紙(5社)といったオンラ インデータベースのものである.以上の新聞データ ベースは,著者らの研究環境でオンラインデータベ

ースとして閲覧可能な全国紙と地方紙である.河北 新報は,宮城県ほか,東北6県の話題もカバーしてい る.本来,東日本大震災に関する遺構に着目する場 合,岩手日報(岩手県),福島民報や福島民友(福 島県)も調査対象にすべきである.これらが含まれ ていないことに,調査や調査結果に一部の限界があ る点を注記しておく.なお,4章で示すように,岩手 県と福島県の震災遺構を抽出できていることから, 当面の分析・考察を進めていく.

以上5つの新聞オンラインデータベースに対して, 東日本大震災が発生した2011年3月11日以降で,「震 災」「遺構」の組み合わせでAND検索を行い,記事 データを抽出した.抽出した記事は,新聞社,発行 日,見出し,記事をフィールドとするデータベース に整理した.これを震災遺構記事データベースと呼 ぶことにする.その結果,1,311件の新聞記事が該当 した.

3.データセットの作成

本研究では,前章で作成した震災遺構記事データ ベースにもとづいて,1)震災遺構記事データセット (以下,記事データセット),2)震災遺構データセ ットといった2種類のデータセットを作成する.

1)震災遺構記事データセットは,前章の震災遺構

に関する記事をもとに作成しているもので,記事を 単位データとするものである.新聞記事の中には, 必ずしも1つの記事に,1つの震災遺構について記述 されているわけではない.1つの記事に2つ以上の震 災遺構について記述されている記事については,記 述されている震災遺構の数だけレコードを複製する. この複製の際に,記事中で記載されている震災遺構 の名称(後に名称を統制),震災遺構の所在地(県・ 市町村)を新たなフィールドとして加える.震災遺 構記事データベースのレコード件数(記事件数)は

1,311件であったが,記事データセットのレコードは

2,131件となった.

さらに,1)の記事データセットの各レコードに, 記事の内容を参照して,次のようなカテゴリを付与 する.これらは,レコード(記事)で対象になって いる震災遺構が,記事中でどのような位置づけ・状 態で記述されているかを表すものである.なお,以 下のカテゴリは,記事の内容を読み込み,ボトムア ップ形式で作成している.下記に付与したカテゴリ と,記事の記載例を併せて示す:

(1) 検討中:対象物を震災遺構とするか否か検討中

(3)

13 場庁舎について,大槌町は23日,解体に向けた住 民説明会を開いた.出席者からは遺構化への賛否 のほか,議論の棚上げを求める声も上がり,震災 か ら4年8カ 月 た つ い まも意 見 が 割 れ てい る こ と が浮き彫りになった.(2015年11月24日,朝日新 聞)」

(2) 保存断念:対象物を震災遺構の候補から除外さ

れたことを表す.かつ,解体の決定までは言及さ れていないもの.「震災で被害を受けた建築物な ど の 遺 構 と し て の 価 値 を検 討 す る 県 有 識 者 会 議 の第4回会合が31日,仙台市内で開かれ,石巻市 の『住吉公園』」と『中瀬北地区』を検討対象か ら除外することが報告された.(2014年8月12日, 読売新聞)」

(3) 解体決定:対象物を震災遺構とはせず,解体す

ることが決定したことを表す.「気仙沼市が震災 遺 構 と す る こ と を 目 指 した 大 型 漁 船 『 第18共 徳 丸』の保存を,被災者は望んでいなかった.市が 実施した保存の賛否を問うアンケートが5日まと まり,約7割の市民が『保存の必要はない』を選 択.『保存の道は閉ざされた』と菅原茂市長は結 論付けた.(中略)打ち上げられた漁船近くの仮 設住宅で親睦会長を務める小野寺良男さん(77) は,市が漁船の保存を断念したことをニュースで 知 り , ホ ッ と 胸 を な で 下ろ し た . (2013年8月7 日,河北新報)」

(4) 解体開始:対象物の解体が始まったことを表す.

「東日本大震災の津波で被災し,保存が一時検討 さ れ た い わ き 市 平 薄 磯 の市 立 豊 間 中 学 校 校 舎 の 解体が6日から本格化した.(2015年7月7日,読 売新聞)」

(5) 一部保存・解体決定:対象物のうち,一部は保

存とするが,それ以外の部分を解体することが決 まったことを表す.「震災で壊れた宮古市田老の 防 潮 堤 の 一 部 を 県 が 取 り壊 さ ず に 保 存 す る 方 針 を決めたことについて,達増拓也知事は1日,防 潮 堤 を 震 災 遺 構 と し て 活用 し よ う と し て い る 宮 古市の姿勢に賛同する姿勢を示した.(2014年9 月2日,朝日新聞)」

(6) 解体・撤去完了:対象物の解体や撤去が完了し

た状態を表す.「釜石市鵜住居地区の中心部にあ った防災センター.(中略)遺族連絡会からの要 望を受け,2014年2月までに市が解体した.」

(7) 復元検討中:一度,解体や撤去された対象物を

復元しようとする動きを表すもの.「船の復元に は民宿の補強も含め数億円かかるが,寄付はなか

なか増えず,まだ300万円に満たない.地元住民 ら約30人に星野さんも加わって『はまゆり復元の 会』を3月中に発足させ,資金集めを本格化させ る予定.(2014年3月3日,朝日新聞)」

(8) 見守り保存決定:保守等を伴う保存ではなく,

そのままの状態で保存することを表す.「『野々 島崩壊地』は見守り保存されることが報告された. (2014年5月25日,読売新聞)」

(9) 保存決定:対象物が震災遺構として保存される

ことが決定したことを表す.「今回全滅した東部 の ま ち は , 観 光 ホ テ ル を津 波 遺 構 と し て 残 す . (2015年5月21日,読売新聞)」

(10) 修復・利活用検討中:対象物を震災遺構として

保存するのではなく,修復して,もともとの機能 と は 別 の か た ち で の 利 活用 を 検 討 し て い る こ と を表す.「東松島市は2日,津波で被災した旧浜 市小と旧野蒜(のびる)小の校舎を貸し出すと発 表した.(2015年11月3日,朝日新聞)」

(11) 修復完了:対象物を震災遺構とはせず,修復し

て再利用することを表す.「旅館は高台に移すと 決めました.避難所にもなった旅館は震災遺構に と考えました.でも,被災地見学に来たいという 中学生や作業員の宿が欲しい,と言われて修繕し て再開しました.(2014年9月24日,朝日新聞)」

最終的に,記事データセットは,新聞社,発行日, 見出し,記事,震災遺構名(記事中に記載されてい る震災遺構の名称),所在地(県・市町村),カテ ゴリといったフィールドからなる.

2)は,記事データセットをもとに作成するもので,

(4)

14 日本大震災の津波で2階天井まで浸水.庁舎前に設置 された対策本部に集まっていた町職員ら約40人が犠 牲になった.」と,ネガティブなものとして記述さ れている.調査対象となった震災遺構は,ポジティ ブな位置付けであるもの,ネガティブな位置付けで あるものへの弁別は比較的容易であった.弁別でき ないものの多くは,遺構の名称のみ記事中に出てく るものであった.これらを「不明・なし」と区分し ている.

2)の震 災遺構 データ セッ トは, レコー ド数 が80

件となり,震災遺構の名称,犠牲者の人数,その場 でのストーリー(ポジティブまたはネガティブ)と いったフィールドからなる.

4.分析・考察

本章では,前章で作成したデータセットを用いて 分析を進める.以降では,新聞記事を単位とする分 析と震災遺構を単位とする分析を行う.前者は,東 日本大震災における震災遺構に関する社会的な反応 を,後者は各震災遺構の候補が置かれている現状を 分析・考察するものである.

4.1 新聞記事を単位とする分析

図1に,記事データセットを用いて,毎月の記事件 数を棒グラフで示している.棒グラフは,記事(震 災遺構のカテゴリ)で色分けしている.総じて,「検 討中」が多く,全体の63.5%(1,353件)を占めた. 図1を見ると,2013年11月(震災発生から2年9ヶ月) に記事件数(情報件数)が最も多い(190件).これ は,同15日に復興庁から「震災遺構の保存に対する 支援について」という施策が発表されたことに大き く起因している

8)

.この施策は,各市町村につき,1 箇所について,保存のために必要な初期費用を対象 とする施策である.なお,維持管理費は対象となら ない.この施策発表そのものの報道や,これを受け ての被災自治体の反応に関する報道が多くなされた. この時期は,石巻市が「石巻市震災伝承検討委員会」 を設置したほか,南三陸町が震災遺構の対象候補と して議論されていた「防災対策庁舎」について解体 を宮城県に申し出たこと,女川町で復興工事の障害 となる「女川サプリメント」と宿泊施設「江島共済 会館」の解体方針を示したことが,記事件数が多く なった背景にある.東日本大震災の場合,震災発生

から3年が経過する少し前に,震災遺構に関する議論 が最も活発なっていた.

その後,震災発生から3年たった2014年3月も記事 件数が多い(図1,113件).この時期には,前記の 「女川サプリメント」が解体されている.また,宮 古市が「たろう観光ホテル」の土地を購入し,同ホ テルを譲受する契約を締結した時期でもある.加え て,石巻市震災伝承検討委員会は震災遺構保存に関 して市民を対象にしたアンケート調査の結果を公表 し

15)

,気仙沼市東日本大震災伝承検討会は同月の検 討会に震災遺構の対象を絞り込んだことを発表した 時期となっている.

2番目に記事件数が多かったのは,2015年3月(震

災発生から4年)だった(図1,131件).震災発生月 ということで,様々な震災遺構の候補に関する記事 が報道されたことが影響している.また,震災発生 から5年を前に2015年11月に記事件数も多い(72件). 大槌町では,同年8月に町長選が行われ,「旧大槌町 役場庁舎」の解体方針を示している平野公三氏が当 選した.11月には,「旧大槌町役場庁舎」の維持管 理費の試算,住民を対象とした意見交換会において 改めて解体の方針を発表,一方で住民や地元高校生 が保存を訴えるなど,議論が大詰めとなった.

図2に,記事データセットを用いて,震災遺構の候 補別に,記事件数を棒グラフで示している.棒グラ フは,記事(震災遺構のカテゴリ)で色分けしてお り,震災遺構の候補は物理的な位置に対応して,概 ね北から南方向で順番に示している.

図1 東日本大震災の震災遺構に関する記事件数の変遷 (震災遺構記事データセット,1つの記事に複数の震災

遺構が記述されていた場合は重複してカウント)

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 2011

4

2011

5

2011

6

2011

7

2011

8

2011

9

2011

10

2011

11

2011

12

2012

1

2012

2

2012

3

2012

4

2012

5

2012

6

2012

7

2012

8

2012

9

2012

10

2012

11

2012

12

2013

1

2013

2

2013

3

2013

4

2013

5

2013

6

2013

7

2013

8

2013

9

2013

10

2013

11

2013

12

2014

1

2014

2

2014

3

2014

4

2014

5

2014

6

2014

7

2014

8

2014

9

2014

10

2014

11

2014

12

2015

1

2015

2

2015

3

2015

4

2015

5

2015

6

2015

7

2015

8

2015

9

2015

10

2015

11

情報件数

検討中 保存決定

見守り保存決定 一部保存・解体決定

復元検討中 修復完了

修復・利活用検討中 県有化決定

保存断念 解体決定

(5)

15 南三陸町の「防災対策庁舎」の記事件数が357件と 最も多く,石巻市の「門脇小学校」が178件,気仙沼 市の「第18共徳丸」が163件とつづく.「防災対策庁 舎」については,前記のような南三陸町と宮城県の

意見のやりとり(のちに県有化に決着)が活発に行 われたことが,記事件数が多くなった背景にある. 「門脇小学校」は,保存と解体に関する議論が継続 的に行われ,2015年12月の執筆時点でも方針が定ま

図2 各震災遺構に関する記事件数

0

100

200

300

400

明戸防潮堤

中の浜キャンプ場(震災メモリアルパーク中の浜)

たろう観光ホテル

巨大防潮堤(田老の防潮堤)

大槌町旧役場庁舎

観光船「はまゆり」

鵜住居地区防災センター

旅館「宝来館」

唐丹小学校

さいとう製菓旧本社ビル

越喜来小学校の避難階段(「奇跡の橋」)

茶々丸パーク時計台

奇跡の一本松

高田松原の砂浜

陸前高田市民会館

米沢商会ビル

気仙中学校

定住促進住宅

陸前高田市中央公民館の壁

旧道の駅(タピック45)

陸前高田ユースホステル

陸前高田市民体育館

陸前高田市旧市役所庁舎

被災ピアノ

大型船「第18共徳丸」

気仙沼向洋高校

シーサイドパレス

JR気仙沼線鉄橋

面瀬川の水門

岩井崎の「龍の松」

唐桑町の津波石

尾崎神社

小泉旧診療所裏山

高野会館

南三陸町防災対策庁舎

公立志津川病院

旧女川交番

女川サプリメント

江島共済会館

七十七銀行女川支店

女川町生涯教育センター

大川小学校

門脇小学校

観慶丸商店

湊第二小学校

谷川小学校

雄勝公民館屋上のバス

石巻本間家土蔵

株式会社木の屋石巻水産の鯨大和煮の大型魚油タンク(巨大缶詰)

旧東北実業銀行石巻支店

旧石巻ハリストス正教会教会堂

おしかホエールランド

観光桟橋(鮎川浜)の歓迎アーチ

長面集落

中瀬北地区

住吉公園

石巻市立病院

雄勝地区の仮埋葬地(震災直後に土葬が行われた)

「札幌ラーメン味平」

和船「第2勝丸」の登録プレート

かんぽの宿松島

野蒜小学校

浜市小学校

鳴瀬第二中学校

JR野蒜駅プラットホーム

野々島の津波湾

野々島の崩壊地

浦戸寒風沢の津波石

荒浜小学校

中野小学校

東六郷小学校

閖上中学校

佐々直本店工場

「神明社」境内の大イチョウ

中浜小学校

請戸小学校の黒板

原発推進の看板

被災パトカー

豊間中学校

窯元「いそべ陶苑」の登り窯

中条橋

検討中

保存決定

見守り保存決定

一部保存・解体決定

復元検討中

修復完了

修復・利活用検討中

県有化決定

保存断念

解体決定

解体開始

解体・撤去完了

田野畑村

宮古市

大槌町

釜石市

大船渡市

陸前高田市

気仙沼市

南三陸町

女川町

石巻市

東松島市

塩釜市

仙台市

名取市

岩沼市 山元町 浪江町

双葉町 富岡町 いわき市 笠間市 栄村

(6)

16 っていない.同校は,大規模な火災で大きく損傷し ており,時間経過による劣化の進行が懸念されてい ることや,周辺エリアで住宅再建が行われることが 議論を活発していることの原因となっている.「第

18共徳丸」は2013年9月に解体が始まり,翌10月に解

体が完了した.解体の開始・完了に関する記事も多 いが,解体を受けて激減した外部からの流動人口と 地元経済への影響に関する記事も多い.

図3に,記事データセットと震災遺構データセット を組み合わせて,震災遺構1件当たりの記事件数を比 較したものを示す.図3は,左から,犠牲者の発生有 無.その場のストーリー,所在地といった3つの視点 で比較を行ったものである.犠牲者の発生有無で見 ると,犠牲者が発生しなかった(「なし」)震災遺 構に比べて,犠牲者が発生した(「あり」)震災遺 構に関する震災遺構1件当たりの記事件数が多い.震

災遺構の候補となっている場所でのストーリーにつ いては,ネガティブなストーリーが存在する遺構候 補の記事件数がポジティブなものより多い.所在地 で見ると,宮城県の記事件数が最も多い.犠牲者の 発生と,その場でネガティブなストーリーがあるこ とが記事件数を多くする要因となっており,そうい った震災遺構が宮城県に多いことが分かる.

4.2 震災遺構を単位とする分析

表1に,震災遺構データセットと記事データセット を用いて,カテゴリにもとづいて執筆時点で最新の カテゴリ(対象物の最新の状態)と,記事が初出し た時期,犠牲者数(4区分),その場所でのストーリ ー,所在地(県)をクロス集計した結果を示す.表1 では,横方向に見て,頻度が最も多いセル,もしく は頻度が5件以上のセルに色塗りしている.

表1において,記事が初出した時期で見ると,震災

1年目で記事が初出した遺構11件のうち,現状,「解

体決定」,「解体開始」,「解体・撤去完了」,に なっているもの合わせて7件となっており,保存され ないものが最も多い.それに対して,震災3年目と5 年目で記事が初出した遺構は,前者が10件,後者が3 件と横方向で最も多くなっている.

表1において,犠牲者の人数で見ると,犠牲者が派 生しなかった遺構群では,保存決定が19件と検討中 と同列で最も多い.一方で,101人以上発生している 遺構2件は,「一部保存・解体決定」と「解体・撤去 完了」となっている.

表1において,その場でのストーリーがポジティブ かネガティブかで見ると,ネガティブなストーリー が存在する遺構は,「検討中」が8件と最も多く,解 体・撤去完了」が6件とつづく.一方で,ポジティブ なストーリーが存在する遺構は,12件と「保存決定」 が最も多い.

表1において,所在地で岩手県と福島県で「保存決 定」が最も多く,宮城県では「検討中」についで「解 体・撤去完了」が多い.

以上の傾向を,統合的に分析するために,表1の変 数(表中の変数・カテゴリ)に対して多重コレスポ ンデンス分析を行った(図4).図4では,多重コレ スポンデンス分析によって得られる次元1と次元2の カ テ ゴ リ ウ ェ イ ト に 対 し て ク ラ ス タ ー 分 析 をWard 法と平方ユークリッド距離で行い,その結果分けら れたクラスターごとに,プロットの色を変えている.

図3 震災遺構における犠牲者の有無・ ストーリーの違い・所在地による記事件数の比較

19.9 64.5

22.0 47.8

24.8 29.7

8.0

1.5 0

10 20 30 40 50 60 70

な し

あ り

ポ ジ テ ィ ブ

ネ ガ テ ィ ブ

岩 手 県

宮 城 県

福 島 県

そ れ 以 外 の 県

震災遺構

1

件当た

の記事件数

犠牲者 の発生

その場での ストー リー

所在地

表1 震災遺構の現状(2015年12月時点)と 当該の記事が初出した時期・犠牲者数・ ストーリーの違い・所在地との対応関係

変数 カテ ゴリ 検討中 保存 断念

解体 決定

解体 開始

一部 保存・ 解体 決定

解体・ 撤去 完了

復元 検討中

見守り 保存 決定

保存 決定

修復・ 利活用 検討中

修復 完了

震災1年目 3 0 2 2 0 3 1 0 0 0 0 11

震災2年目 11 5 0 2 2 7 1 1 6 2 1 38

震災3年目 7 1 1 1 0 1 0 0 10 0 0 21

震災4年目 2 0 0 2 0 1 0 0 0 1 1 7

震災5年目 0 1 0 0 0 0 0 0 3 0 0 4

な し 19 5 3 5 1 9 2 1 19 3 2 69

1-50人 2 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 5

51-100人 2 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 5

101人以上 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 2

不明・ な し 12 2 3 3 0 5 1 1 5 0 0 32

ネガテ ィブ 8 5 0 1 1 6 1 0 2 1 1 26

ポジ テ ィブ 3 0 0 3 1 1 0 0 12 2 1 23

岩手県 4 0 0 3 2 3 1 0 9 0 2 24

宮城県 18 7 3 3 0 9 1 1 7 2 0 51

福島県 1 0 0 1 0 0 0 0 2 0 0 4

それ以外の県 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 2

計 23 7 3 7 2 12 2 1 19 3 2 81

記事が 初出した 時期

犠牲者数

その場所 での ストーリー

(7)

17 図4をでは,以上のクラスター分析において,3ク ラスターに分かれた結果を示している.クラスター1 には,初出した記事の時期として「震災1年目」と「震 災2年目」が,犠牲者の人数として「1-50人」,「51-100 人」が,ストーリーとして「ネガティブ」が,所在 地として「宮城県」が,震災遺構の現在の状態とし て「解体決定」.「解体・撤去完了」,「保存断念」, 「検討中」,「復元検討中」「見守り保存決定」が 分類されている.クラスター2は,初出した記事の時 期 として「 震災3年目」 ,「 震災4年目」 ,「震災5 年目」が,犠牲者が発生しておらず(「犠牲者なし」), ストーリーとして「ポジティブ」が,所在地として 「岩手県」,「福島県」,「それ以外の県」が,震 災遺構の現在の状態として「保存決定」,「修復・ 利活用検討中」,「修復完了」,「復元決定」が分

類されている.これらは,前述の表1での分析結果と 概ね呼応した結果を示している.記事が初出した時 期(当該の震災遺構が話題になる時期)が早く,ネ ガティブなストーリーがある震災遺構は,保存され ない傾向が見られた.一方,記事が初出した時期が 遅 く ポ ジ テ ィ ブ な ス ト ー リ ー が あ る 震 災 遺 構 は 保 存・修復されやすい傾向が概ね示されている.記事 が初出した時期に着目すれば,前者は震災発生から2 年目まで,後者は震災発生3年目以降で分かれている. 前 述した 復興庁 の施 策が震 災発生 から3年 目を前に して出されたことが影響していることが推察される. クラスター3は,「一部保存・解体決定」と犠牲者の 人数で101人以上が分類されている.これは,「田老 の巨大防潮堤」であり,稀なケースとして分類され ている.

図4 震災遺構の現状と対応する変数・カテゴリの多重コレスポンデンス分析およびクラスター分析の結果

1

2.000

1.000

.000

-1.000

-2.000

-3.000

犠牲者101人以上

一部保存・解体決定

犠牲者なし

ポジティブ

それ以外の県

福島県

岩手県

保存決定

修復・利活用検討中

復元決定

修復完了

解体開始

初記事:震災5年目

初記事:震災4年目

初記事:震災3年目

犠牲者51-100人

犠牲者1-50人

ネガティブ

宮城県

解体・撤去完了

見守り保存決定

保存断念

復元検討中

検討中

解体決定

初記事:震災2年目

初記事:震災1年目

2

3.000

2.000

1.000

.000

-1.000

-2.000

-3.000

-4.000

3

2

1

クラスター

1

クラスター

2

クラスター

3

次元

1

(8)

18

5. おわりに

本稿では,東日本大震災の被災地における震災遺 構の議論・現状について,全体像を捉えるために, 新聞記事データベースを構築し,それから記事を単 位とする分析と震災遺構を単位とする分析を行った. 本稿で得られた結論は次の通りである:

1)河北新報,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,

日本経済新聞の 5 紙における東日本大震災の 震災遺構の記事を調査したところ,震災遺構 の状態は,「検討中」「保存断念」「解体決定」 「解体開始」「一部保存・解体決定」「解体・ 撤去完了」「復元検討中」「見守り保存決定」「保 存決定」「修復・利活用検討中」「修復完了」 の11種類に分けられた.このうち,「検討中」 という保存か解体かの議論に関する記事が最 も多い.

2)震災発生から 3 年を前にして,復興庁による

震災遺構を対象にした施策が打ち出されたこ とや,各自治体で議論が活発化したことによ り,震災遺構に関する記事が最も多くなった. また,3年経過した震災遺構に関する記事が多 く推移していることから,震災遺構に関する 議論は概ね震災発生 3 年前後から活発に行わ れていた傾向が読み取れた.

3)議論の状態として,保存か解体かについて「検

討中」である記事,言い換えれば,保存か解 体か定まらない様子を記述する記事が継続的 に出される震災遺構の記事件数が多くなる結 果が見られた.これらの震災遺構は,死者発 生などのネガティブなストーリーが存在する 場所である傾向が見られた.

4)震災遺構の対象候補について,発災後に比較

的早くに話題になり(記事になり),ネガティ ブなストーリーが存在するものは,解体され やすい傾向が見られ,話題になるのが比較的 遅くポジティブなストーリーがあるものは保 存されやすい傾向にあることを確認した. 本稿では,東日本大震災の被災地における震災遺 構について,震災発生から5年の全体像を把握した. 以上5)によれば,もし,対象物を震災遺構として保 存したい意図がある場合には,対象物が震災におい てポジティブなストーリーを有するものであれば, 比較的意図通り保存される可能性がある.一方で, ネガティブなストーリーを有し,早期に社会的に話 題になるような対象物は,今後発生する災害におい

ても,「保存」とはならず,早期に「解体」となる 可能性が高い.対象物がもつストーリーの内容(ポ ジティブかネガティブか)は,災害発生後に操作す ることは実質不可能であることから,今後の災害に おいても,保存・解体を決める大きな規定因となる であろう.他方,ネガティブなストーリーをもつ対 象物は,「検討中」であることも多く(表1,図4), 議論が長引き,早期に解体とならない傾向も有して いる.ネガティブかつ早期に話題になった対象物に ついて,早期に「解体」,5年後もなお「検討中」を 分かつ規定因は,今後明らかにしていきたい.

震 災発 生か ら5年 の時 点にお ける 調査 研究 である ため,前述で示したカテゴリや,表1で示した震災遺 構の位置付け,図4で示した傾向は,今後変化し得る ものであることに留意されたい.震災発生5年目とい う震災遺構の議論の中途段階で状況を整理したのに は,こうしている最中に新たに大規模災害が起きる 可能性を懸念して,東日本大震災における震災遺構 の現状を速報的に提供する位置付けがある.

本研究では,新聞記事上では表出していない震災 遺構の調査には及んでいない.さらには,一部,震 災遺構の保存や解体の背景に迫ったが,簡易的な傾 向分析にとどまっている.今後は,メディアで取り 上げられていない震災遺構について洗い出しを行う とともに,個々の震災遺構について,保存や解体に 至るプロセスについて詳細な調査を個別に実施し, そのメカニズムを解明する.対象物が震災遺構(の 候補)として報道によってラベリングされる以前の 議論プロセスについては明らかにできていないため, この調査分析を今後の課題とする.

謝辞

本研究は,日本学術振興会 課題設定による先導 的人文学・社会科学研究推進事業・実社会対応プロ グラム「効果的・持続的な災害伝承を目的にした拠 点構築手法のモデル化と実践的研究」(研究代表者: 佐藤翔輔)による助成を得た.また,資料の整理等 においては,東北大学災害科学国際研究所技術補佐 員の後藤さつき氏,早坂真紀氏からのサポートを得 た.

参考文献

1) 3.11震災伝承研究会(2012),「3.11震災伝承研究会」

第1次提言-震災遺構の保存について-,8pp.

2) 宮城県震災遺構有識者会議(2014),震災遺構の定義

と役割について,第3回宮城県震災遺構有識者会議

(9)

19

3) 石巻市震災伝承検討委員会(2015),震災遺構の考え

方について,第2回委員会資料6,1pp.

4) 筑波匡介,澤田雅浩(2013),中越地震における震災

遺構の成立過程 その1-中越メモリアル回廊 妙見

メモリアルパークについて-,日本建築学会学術講演

梗概集,pp. 1111-1112.

5) 鈴木さち,本田真大,柳旻,佃悠,本江正茂,小野田

泰明(2013),台湾における921地震教育園区の災害

遺構保存活用に関する調査研究-台湾収集地震の災

害遺構保存活用と復興まちづくりの手法に関する調

査研究その1-,日本建築学会学術講演梗概集,pp.

1083-1084.

6) 石原凌河,松村暢彦(2013),維持管理の観点から見

た災害遺構の保存に関する研究-雲仙普賢岳噴火災

害・中越地震の災害遺構を事例として-,都市計画論

文集,Vol. 48,No. 3,pp. 861-866

7) 3.11震災伝承研究会(2012),「3.11震災伝承研究会」

第2次提言-震災遺構保存対象物第1回選考結果-,

5pp.

8) 木村拓郎(2015),東日本大震災における震災遺構の

現状-宮城県内の動向を中心に-,復興,Vol. 7,No.

1,pp. 11-19

9) 河北新報社:KD河北新報データベース,

http://neokd.kahoku.co.jp/home.1 (2015-12-12)

10) 朝日新聞社:聞蔵IIビジュアル for Libraries,

http://database.asahi.com/library2/ (2015-12-12)

11) 読売新聞社:ヨミダス歴史館,

https://database.yomiuri.co.jp/rekishikan/ (2015-12-12)

12) 毎日新聞社:毎索,

http://mainichi.jp/contents/edu/maisaku/ (2015-12-12)

13) 日本経済新聞社:日経テレコン21,

http://telecom.nikkei.co.jp/ (2015-12-12)

14) 石巻市震災伝承委員会(2013),第1回石巻市震災伝

承委員会議事要旨,3pp. ,.

15) 石巻市震災伝承委員会(2014),第3回石巻市震災伝

承委員会議事要旨,3pp.

16) 気仙沼市東日本大震災伝承検討会(2014),気仙沼市

参照

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