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第 16 章
金融 (2) :不良債権問題
16.1 銀行の不良債権問題
不良債権: 貸したのに返ってこないお金(不良な債権)
マクロ経済学で銀行の不良債権問題を考える理由: 世界恐慌、バブル崩壊、リーマン・ショックなど、銀行の不良債権問題に起因
16.2 貸出時に生じるリスクへの対処
金融機関とリスク: 金融機関にとって最も重要なのは、さまざまなリスクに対処すること
•貸し倒れリスク、債券の価格変動リスク リスクの取り方(1): 貸出金利
• 1億円を100万円ずつにわけ100社に貸出すことを考える
–銀行は経費などを回収するために最低限5% (500万円)のリターンが必要 –企業の種類(中小企業と大企業)によって、倒産する可能性が異なる
企業規模 倒産する可能性 貸出金利 中小企業 7%
大企業 0%
•銀行は企業の種類によって貸出金利を変え、貸し倒れリスクに対処している リスクの取り方(2): 担保
•お金を貸すとき、土地などの担保をとる → 資金回収できない場合担保を売って損失穴埋め リスクの取り方(3): 監視
•お金を貸した先の企業をおかしなお金の使い方をしていないか銀行が監視(たとえば役員を派遣)
16.3 不良債権問題の基礎知識
銀行のバランスシート(貸借対照表): 資産(融資、債券、預金準備) =負債(預金等) +自己資本 自己資本比率: 総資産額に対する自己資本の占める割合
•これが低すぎると、銀行がリスクに対応できず不健全になる
•何か問題が起こった時、問題解決のために使えるお金が少ない
•貸したお金を回収できなかった時、預金の返却ができない可能性が出てくる
明海大学マクロ経済学:影山純二(学生用)
16.4 不良債権問題の発生と対処法
発生のメカニズムと自己資本への効果: 急激な経済状況悪化(急激な地価下落など)→ 貸出が回収できず → 不良債権の増加
•当初
資産 負債,資本 貸出金100 預金90
自己資本10 自己資本比率= 10/100 = 10%
•資産のうちの5が不良債権化し、自己資本で処理した場合 資産 負債,資本
貸出金95 預金90 自己資本 自己資本比率=
–不良債権処理の過程で自己資本比率
経済全体への影響: 銀行の経営が傾くことは、金融システムだけにとどまらず経済全体に悪影響
•銀行:自己資本比率の低下を回避するために、総資産を圧縮
–例えば、貸出金を45減らして50にすれば、自己資本比率10%を維持できる –結果1:貸し渋り → 投資の減少
–結果2:信用創造機能の低下 → 貨幣乗数の低下 → マネーサプライが伸びない
•預金者:銀行の経営に対する不安が増し、預金者が預金の引き出す
–多くの預金者が一度に預金を引き出せば、健全な銀行も倒産する=銀行取り付け 不良債権問題に対する政策: 公的資金による銀行の救済
• 2002年の日本、2008年リーマン・ショック後のアメリカで行われ、景気回復に効果があった
•政府が公的資金(税金)で銀行の自己資本を増やす(例:政府が銀行の株を買う) –貸し渋りの解消 → 投資環境の整備
–信用創造機能の回復 → マネーサプライを増加させることができる環境整備 –預金者の不安解消
銀行救済の問題: 公的資金の注入する是非
•民間企業を税金で救済して良いのか
•経営者のモラルハザードの助長
–銀行経営陣が「公的資金で助けてくれるから経営に失敗してもいい」と認識し、経営規律が緩んでしまう
16.5 課題
(A4、上部に課題番号、学籍番号と氏名、計算過程も記入、読みにくい場合は減点)1. バブル崩壊後より2000年代前半にかけて銀行の不良債権問題が日本の大きな経済問題だった。その解決法の1つとして銀行 同士の合併が行われた。みずほ銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行の母体となった銀行をそれぞれ調べて書け。
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