県立広島大学人間文化学部紀要 13,7-19(2018)
クックチルシステムの一次加熱時間が鶏手羽元の成分特性,
嗜好特性へ及ぼす影響
北 和貴
*1,古都 丞美
*2,檀上 沙梨
*1,彦田 星香
*2,杉山 寿美
*1Ⅰ.緒言
加熱調理した料理を急速冷却,冷蔵,再加熱し提供するクックチルシステムは,生産性の向上や HACCP方式による衛生管理によって安全性が確保されることから,給食施設においてはその導入が 不可欠なものとなっており1),病院や福祉施設において,クックチルシステムによる料理の調製が広 く行われている。一方,クックチルシステムで調製された料理の嗜好特性は,クックサーブシステム で調製した料理と異なり急速冷却,冷蔵,再加熱の工程が加わるため2),一般的に低いことが指摘さ れている3-4)。しかしながら,クックチルシステムで調製した料理の成分特性,嗜好特性に関する研 究は未だ少なく,一次加熱と二次加熱をどのように設定することが適切であるのかは明らかではない ために,現状では,クックサーブシステムと同様の一次加熱時間が採用されていることが多い。 我々はこれまでに,クックチルシステムで調製した煮物の成分特性,嗜好特性についていくつかの 報告を行っており,大根では保存中に表面と内部の塩分濃度の差が小さくなること5),ホテルパンと 真空包装袋を用いた鶏手羽元の比較では,煮汁中へのコラーゲンの溶出が真空調理袋を使用した場合 に抑制されること6)などを報告している。加えて,鶏手羽元のテクスチャーを決定する最も大きな要 因は,結合組織中のコラーゲンの量とその構造であり,コラーゲン分子は加熱過程での収縮,低分子 化に伴い水分量や脂肪量など他の成分量へも影響を及ぼすことも報告している7)。
これらのことから,本研究は,前報と同様に鶏手羽元を試料として,より一次加熱時間の短い試料 を調製し,前報の結果と比較することで6),二次加熱後の成分特性,嗜好特性へ及ぼす影響を検討した。
Ⅱ.研究方法
1 .試料および加熱方法冷凍鶏手羽元(国産)は広島市内で購入し,10℃で 1 晩解凍した。その後,重量を 1 本ずつ測定し, 55g程度の鶏手羽元を選別した。ホテルパンに 8 本ずつ入れ,調味液(鶏手羽元に対して砂糖15%, 食塩 4 %,蒸留水160%)を加えた。一次加熱は,調味料を加えて 5 分後に,130℃でスチームコンベ クションオーブン(アイホー,ACO-060GS)を用いて30分加熱した(前報の一次加熱時間は90分で ある)6)。これらの加熱条件は,クックチルシステムで一般的に用いられている加熱条件から決定し た(通常120-150℃)。加熱過程の温度履歴はテープ型温度センサーを用いて中心温度計(安立,AP-320)でモニタリングした。試料は18分で75℃に,21分で90℃に到達した。加熱後の試料は,ホテルパ ンに入れたままの状態で,クイックチラー(フクシマ,QXF-005BC5)で中心温度が 3 ℃になるまで 急速冷却し,48時間あるいは96時間の冷蔵保存を行った。二次加熱は,一次加熱と同温度で加熱時間 は30分とした。加熱後,直ちにホテルパンから取り出した鶏手羽元は網上に10分間置いた後, 1 本ず
つ重量を測定した。その後,骨を除いて,皮と肉に分けて重量を測定した後,皮と肉は 1 本分ずつホ モジナイズし分析試料とした。なお,鶏手羽元は,同じ形態の試料を同じ重量で用意することができ, かつ,鶏手羽元の煮物が一般的な料理であることから本研究の試料として選択した。
2 .水分量の測定
水分量は,鶏手羽元試料 4 本を用いて,天秤式水分計(Sartrius MA-150)を用いて135℃で測定し た8)。加熱前100gあたりと加熱後100gあたりで算出した。
3 .脂肪の抽出と定量
脂肪量は,鶏手羽元 2 本を 1 本ずつ均一化し, Bligh-Dyer法9)によって脂質抽出を行った。脂肪の 定量は,ガスクロマトグラフィー(島津 GC-2010)による脂肪酸メチルエステルの定量を行った10)。 なお,内部標準液としてトリペンタデカノインを用い,カラムはキャピラリーカラム DB-WAX 60m×0.25 mm(J&W Scientiic)を用いた。
4 .コラーゲン抽出と定量
鶏手羽元 4 本を 2 本ずつ均一化し,その30gを用いて,Satoらの方法11)でコラーゲン抽出と酸可溶 性コラーゲン(ASC),ペプシン可溶化コラーゲン(PSC),不溶性コラーゲン(ISC)に分画を行っ た。コラーゲンの定量は,ヒドロキシプロリン量の定量によるWoessner法12)で行った。なお,コラー ゲン分子の変性を防ぐため,抽出過程で用いる試薬はすべて10℃以下に冷却したものを使用し,攪拌 および遠心分離はすべて 4 ℃で行った。
5 .NaClおよび糖の抽出と定量
鶏手羽元 2 本を, 1 本ずつ均一化し,100mlの蒸留水とともに一晩攪拌した。2500rpmで20分間の 遠心分離,濾過後,上層を分析試料とした。NaClの定量は,分析試料の塩分濃度を塩分計(アタゴ, PAL-ES1)で測定した。糖の定量は,フェノール硫酸法で行った。すなわち,10-100倍希釈した試料 500μlを試験管に入れ, 5 %フェノール溶液500μlを加えて混合した。これに,濃硫酸2.5mlを加え混 合し,490nmの吸光度で測定した。定量されたNaClおよび糖は,加熱前100gあたりと加熱後100gあ たりで算出した。
6 .官能評価
識別試験と嗜好試験は, 5 点評価法で行った。官能評価は,一次加熱のみの試料と96時間後に再加 熱した試料の 4 種類の試料について評価を行った。識別試験のパネルは,訓練された管理栄養士課程 の女子大学生(22± 1 歳) 8 名とし,嗜好試験では女子大生(20± 1 歳)16名をパネルとした。官能 評価に用いた試料は,食塩の代りに醤油を同じ塩分量になるように用いたことを除いては,上述と同 様に調製した。評価項目は,識別試験は 2 項目(甘み,塩味),嗜好試験は 5 項目(色,におい,食感, 味,総合評価)とした。
7 .統計処理
試料間の重量,水分量,脂肪量,コラーゲン量,塩分量,糖量,官能評価の有意差検定は,SPSS Statistics 24.0(IBM Japan Inc.)を用いて,t検定あるいは多重比較(Tukey-HSD)を行った。
Ⅲ.結果
1 .重量変化74.3
66.6 66.2 68.4
59.1 58.9
79.7
76.3 76.6 77.7 76.8 77.9
0 20 40 60 80 100
(%)
a
A a A a A a A a A
a
A
96時間後 二次加熱
一次加熱 48時間後
二次加熱
一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
図 1 :各加熱条件における重量変化 :皮部分,■:肉部分
異なるアルファベットは,それぞれの部位における有意差を示す(p<0.05,大文字: 皮部分,小文字:肉部分)。
a)肉部分
63.1
61.3 59.9
59.2 59.3 58.2 57.8
63.1
46.3
40.9 41.3 40.6 40.5 41.5
0 20 40 60 80
(g)
c Aa
AB
b ABC
c BC
c c c
ABC BC C
一次加熱
生 48時間後
二次加熱
一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
96時間後 二次加熱
63.1
Aa
図 2 :一次加熱,二次加熱後の鶏手羽元(肉部分)の水分量 :加熱後100gあたり,■:加熱前100gあたり
は79.7%,90分加熱試料では68.4%,77.7%に重量は減少し,有意ではないものの90分加熱試料で重 量減少が大きい傾向にあった。二次加熱後は,30分加熱試料,90分加熱試料ともに,皮,肉いずれで も,有意な減少は認められず,保存時間による差も認められなかった。
2 .水分量
図 2 に鶏手羽元の水分量を示した。また,図 1 に示したように,調理過程では重量減少が生じてい るため,得られた水分量は加熱後の皮あるいは肉100gあたりの値だけでなく,生の皮あるいは肉100g あたり(加熱前100gあたり)の値も示した。なお,皮については,加熱後の鶏手羽元から採取できる 試料量が, 1 本あたり 5~6.5gと少なく,分析試料調製時の乾燥による水分量変動が大きいため,測定 は肉部分のみとした。一次加熱によって,水分量は30分加熱試料で46.3g ,90分加熱試料で40.6gとなり, 加熱前(生)から有意な減少を示すとともに,一次加熱時間による有意な差も認められた。二次加熱 後では,30分加熱試料では有意な減少が認められた一方,90分加熱試料では有意な減少は認められな かった。二次加熱試料間では,30分加熱試料と90分加熱試料の差は認められなかった。
3 .脂肪量
図 3 に鶏手羽元の脂肪量を示した。皮,肉ともに,加熱後100gあたり,加熱前100gあたりの脂肪 量は,一次加熱時間が異なる一次加熱後,二次加熱後の試料間で,いずれの条件でも有意な差は認 められなかった。なお,一次加熱後,二次加熱後の加熱後100gあたりの脂肪量が生の脂肪量よりも 多く,さらに,皮の脂肪量が二次加熱後に多くなる傾向が認められたことについては,水分量の減 少による相対的な増加と考えられた(図 1 )。
4 .コラーゲン量
図 4 に鶏手羽元のコラーゲン量の結果を示した。コラーゲンは加熱によってISCからPSC,ASC になり,その後,低分子ペプチドとなって可溶化する13-15)。すなわち,加熱過程においては,PSC, ASCの増加と減少が同時に生じている。そのため,有意差検定は総コラーゲン量とISC量に対しての み行った。
皮のコラーゲン量(総量,ISC量)は,一次加熱によって,30分加熱試料で4.7g,0.7g,90分加熱 試料で2.8g,0.1gとなり,有意な減少を示すとともに,一次加熱時間による有意な差も認められた。 また,二次加熱後も,必ずしも有意な減少ではないものの,30分加熱試料,90分加熱試料ともに減少 が認められ,保存時間が長い試料で大きく減少した。この保存時間の長さが減少に影響したことは, 保存時間につれて,コラーゲン分子が弛緩し,二次加熱中の低分子化が促進された結果と考えられた。 肉のコラーゲン量は,一次加熱によって,30分加熱試料,90分加熱試料ともに,総量は有意な減少を 示し,ISC量も有意ではないものの減少した。また,二次加熱による有意な減少は認められなかった。 食肉中で脂肪は脂肪組織に蓄積し,脂肪組織はコラーゲン繊維間に存在する16)。そのため,加熱過程 でのコラーゲン構造の変化が著しいほど,脂肪の溶出量は多くなる。しかしながら,本研究においては, 皮部分,肉部分ともに一次加熱時間による脂肪量の減少に差は認められず(図 3 ),コラーゲン構造 の変化との関係は確認できなかった。これは,皮部分のコラーゲンの多くがASC,PSCであり,脂肪 の溶出が加熱初期に容易に生じること,その一方で肉部分のISC量は大きく減少せず,脂肪の溶出が 限定されたためと推察された。
5 .食塩量
a)皮部分
23.4 24.2 24.6
21.2
25.6 26.4 25.4
23.4
17.9
16.6
14.1
17.6
16.1
15.3
0 5 10 15 20 25 30 35 (g)
a a
a
Aa A A
A
A A
A
a a
a
b)肉部分
7.6
8.2 8.2 8.2 8.3 8.2 8.1
7.6
6.6
6.2 6.1 6.5 6.2 6.3
0 2 4 6 8 10 (g)
a Aa
A A
a a
A
a A
a A
a
生 一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後
二次加熱 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料
A
生 一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後
二次加熱 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
一次加熱90分試料
⁶⁾
23.4
7.6
図 3 :一次加熱,二次加熱後の鶏手羽元の脂肪量 :加熱後100gあたり,■:加熱前100gあたり
a)皮部分
2.1 2.1
1.0 0.7 1.00.7 1.10.8 0.2
0.1
0.0 0.0 0.0 0.0 5.2 5.2 5.0 3.7 4.3 2.9 3.9 2.6 3.8 2.6 3.5 2.2 3.2 1.9 0.6 0.6 0.3 0.2 0.1 0.1 0.0 0.0 0.2 0.1 0.2 0.1 0.1 0.1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 (g) A,X (6.3) b,x (4.7) B,X (5.4) bc,x (3.6) B,X (5.1) c,x (3.4) B,Y (4.1) c,y (2.8) B,Y (3.7) c,y (2.2) B,Y (3.3) c,y (2.0) AaXx (7.9)
b)肉部分
3.2 3.2 2.8 2.2 2.8 2.1 3.0 2.2 2.9
2.3 2.7 2.1 2.6 2.0
1.8 1.8 0.7 0.5 0.5 0.4 0.3 0.2 0.6 0.5 0.7 0.5 0.6 0.4 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.1 0.2 0.2 0.1 0.1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 (g) B,X (3.4) b,xy (2.8) B,X (3.4) b,xy (2.6) B,X (3.3) b,xy (2.5) A,X (3.6) b,xy (2.9) B,X (3.4) b,xy (2.7) B,X (3.2)b,y (2.4) AaXx (7.9)
生 一次加熱 96時間後
二次加熱
48時間後 二次加熱
一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
生 一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
2.1 5.2 0.6 3.2 1.8 0.1 AaXx (7.9)
図 4 :一次加熱,二次加熱後の鶏手羽元のコラーゲン量 ■:ISC量, :PSC量, :ASC量
図 5 :一次加熱,二次加熱後の鶏手羽元の塩分量 :加熱後100gあたり,■:加熱前100gあたり
異なるアルファベットは,それぞれの項目間における有意差を示す(p<0.05,大文字: 加熱後100gあたり,小文字:加熱前100gあたり)。
a)皮部分
0.3
1.2
1.3 1.4 1.3
1.5 1.5
0.3
0.9 0.9 0.9 0.9 0.9
0.9
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
(g)
b)肉部分
0.3
0.8
1.2 1.2
1.0
1.1 1.2
0.3
0.6
0.9 0.9
0.8
0.9 0.9
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
(g)
Aa B
b BC
b b b
b b BC
BC
C C
生 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後
二次加熱 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
生 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
48時間後 二次加熱 一次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
Aa B
b C
c
C
C C
c c
c D
d
0.3
分加熱試料0.6g,90分加熱試料0.8gとなり,有意な差が認められ,90分加熱試料で食塩の浸透が多かっ た。また,二次加熱後では,30分加熱試料と90分加熱試料で有意な差は認められず,一次加熱時間の 影響は認められなかった。
6 .糖量
図 6 に鶏手羽元の糖量を示した。皮では,一次加熱によって30分加熱試料2.6g,90分加熱試料3.2g となり,有意な差は認められないが,90分加熱試料で多かった。二次加熱後の30分加熱試料では有意 な増加が認められた一方,90分加熱試料では有意な増加は認められず,二次加熱試料間では,30分加 熱試料と90分加熱試料に差が認められなかった。肉では,一次加熱によって30分加熱試料0.9g,90分 加熱試料1.7gとなり有意な差が認められ,また,二次加熱により,いずれの条件でも有意な増加が認 められた。また,二次加熱後の30分加熱試料と90分加熱試料の間に,有意な差は認められず,一次加 熱時間の影響は認められなかった。なお,これらの砂糖の浸透の結果は,図 5 に示した食塩の浸透よ りも遅く,砂糖は一次加熱後に浸透していることが明らかとなった。
7 .官能評価
図 7 に官能評価の結果を示した。一次加熱後では30分加熱試料が90分加熱試料よりも,甘み,塩 味ともに,有意ではないものの薄い傾向を示した。二次加熱後では,甘み,塩味ともに差は認められず, この結果は図 5 ,6 に示した調味料の浸透の結果と一致していた。嗜好試験では,色,におい,食感, 味,総合評価のいずれでも,一次加熱のみの30分加熱試料は,他の試料よりも好ましくないと有意に 評価された。しかし,二次加熱後には,30分加熱試料と90分加熱試料で有意な差は認められず,一次 加熱時間の差による嗜好特性に差は認められなかった。このことは,実際の調理過程における一次加 熱後の嗜好評価は,最終的な料理の嗜好評価とはならないこと示しており,一次加熱後の嗜好評価は, 保存,再加熱後の嗜好特性を予測したものでなければならないと考えられた。
Ⅳ.考察
クックチルシステムで調製した料理の成分特性,嗜好特性に関する研究は未だ少なく,一次加熱と 二次加熱をどのように設定することが適切であるのかは明らかではないために,現状では,クックサー ブシステムと同様の一次加熱時間が採用されていることが多い。そこで,本研究は,鶏手羽元を試料 として,一次加熱時間が,二次加熱後の成分特性,嗜好特性へ及ぼす影響を検討した。
成分量への影響については,皮部分の重量,総コラーゲン量,ISC量は,一次加熱後,二次加熱後 ともに,30分加熱試料で90分加熱試料よりも多く,一次加熱時間の差が,試料表面にある皮の成分量 に影響したと推察された。肉部分の重量,水分量は,30分加熱試料で90分加熱試料よりも,一次加熱 後には多かったが,二次加熱後に同程度となり,総コラーゲン量,脂質量には一次加熱時間の影響は 認められなかった。調味料の浸透への影響については,皮部分の糖量は,30分加熱試料で90分加熱試 料よりも,一次加熱後には少なかったが,二次加熱後に同程度となり,NaCl量には一次加熱時間の 影響は認められなかった。肉部分の糖量,NaCl量は,30分加熱試料で90分加熱試料よりも,一次加 熱後には少なかったが,二次加熱後は同程度となり,保存中に試料内部まで調味料が浸透することが 確認された。また,官能評価の結果,一次加熱時間の異なる試料間の嗜好特性に有意な差は認められ ず,これは肉部分が皮部分よりも多いために,皮部分の成分量の違いが影響しなかったためと推察さ れた。
図 6 :一次加熱,二次加熱後の鶏手羽元の糖量 :加熱後100gあたり,■:加熱前100gあたり
異なるアルファベットは,それぞれの項目間における有意差を示す(p<0.05,大文字: 加熱後100gあたり,小文字:加熱前100gあたり)。
a)皮部分
0.1
3.5
4.6
4.9
4.6 4.8 4.7
0.1
2.6
3.1 3.2 3.2
2.9 2.8 0 1 2 3 4 5 6 B b B bc C bc C bc C c C Aa bc (g)
b)肉部分
0.1 1.1 2.7 3.2 2.2 2.8 3.1 0.1 0.9 2.1 2.4 1.7
2.2 2.4
0 1 2 3 4 5 6 (g)
生 一次加熱 48時間後
二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
生 一次加熱
48時間後 二次加熱
96時間後
二次加熱 一次加熱
96時間後 二次加熱
48時間後 二次加熱
一次加熱30分試料 一次加熱90分試料
⁶⁾
合,生産性を考えると,通常,それ以上の加熱は行われにくい。また,一次加熱後の食品への調味料 の浸透について,我々は,保存により食品表面と内部の濃度差が小さくなることを報告している5)。 これまでにスチームコンベクションオーブンや真空調理による栄養量の変動に関する研究は多くなさ れている一方で17-19),一次加熱,冷蔵,二次加熱という一連の工程における食品成分の変化や調味料 の浸透について検討はなされていない。本研究の結果は,クックチルシステムの一次加熱時間は,調 味料の浸透よりも,食品成分の量的・質的変化に着目することが重要であることを示したものであり, 高い嗜好特性を確保する成分変化が生じる一次加熱時間を設定する必要があることを示した。すなわ ち,一次加熱終了時の成分変化と,二次加熱終了時の調味料浸透を考慮した加熱時間の設定が必要で あることが示唆された。今後は,野菜等の食品群や焼き物等の調理方法など,一次加熱時間の影響を 広く検討し,嗜好性の維持,向上につながるクックチルシステムの加熱時間を明らかにする必要があ ると考えている。
Ⅴ.要約
クックチルシステムによる料理の調製は広く行われつつあり,我々はこれまでにクックチルシステ ムで調製した料理の特性についての報告を行ってきた。しかし,一次加熱時間が二次加熱後の特性に どのように影響しているのかの検討は,十分に行われていない。本研究では,鶏手羽肉を試料として, その成分特性,嗜好特性への影響を検討した。
鶏手羽元(55g× 8 本),調味液(鶏重量に対して砂糖15%,塩 4 %,水160%)をホテルパンに入れ, 図 7 :鶏手羽元の官能評価
○,●:一次加熱30分試料,◇,◆:一次加熱90分試料,白:一次加熱のみ試料, 黒:二次加熱後試料
異なるアルファベットは,それぞれの項目間における有意差を示す(p<0.05)。
識別試験
色 好ましくない
好ましくない 甘み 薄い
塩味 薄い
食感 好ましくない
味 好ましくない
総合評価 好ましくない
嗜好試験
濃い
濃い
好ましい
好ましい
好ましい
好ましい
好ましい
a
a
a
a
a
a
a
ab ab
ab
b b
b
b b b
b
b b b
b b b b
b b b
b b
におい
130℃で30分あるいは90分の一次加熱を行った。 3 ℃で 3 日あるいは 5 日間保存後,130℃で30分の二 次加熱を行った。重量測定後,肉と皮に分けて,水分量(水分計Sartorius MA-150,135℃),脂肪量(Bligh &Dyer法で抽出後,GC分析),コラーゲン量(Satoらの方法で分画抽出後,Woessner法分析), NaCl 量(塩分計アタゴ PAL-ES1),糖量(フェノール硫酸法)を測定した。官能評価は,識別試験,嗜好 試験を行った。
皮部分は,一次,二次加熱後ともに,30分加熱の試料で90分の試料よりも,重量,コラーゲン量, 脂肪量が多く,コラーゲン量,特にISC量の影響が推察された。糖量は,一次加熱後は30分加熱の試 料で他よりも少なかったが,NaCl量に試料間の差は認められなかった。肉部分は,一次加熱後の重 量が30分加熱の試料で90分の試料よりも多かったが,二次加熱後に同程度となり,コラーゲン量,水 分量,脂肪量も同程度であった。一次加熱後の糖量,NaCl量は,30分加熱の試料で90分の試料より も少なかったが,二次加熱後は同程度であった。官能評価では30分加熱の試料の一次加熱後の評価は 低かったが,二次加熱後の評価は他と同程度であった。これらの鶏手羽元の結果から,一次加熱終了 時の成分変化と二次加熱終了時の調味料浸透を考慮した条件設定の必要性が示唆された。
Ⅵ.参考文献
1 )広瀬喜久子:クックチルシステム,日調科誌,31,54-60(1998)
2 )新調理システム推進協会:新調理システムのすべて,p34-36 (2000)日経BP社,東京
3 )殿塚婦美子,三好恵子,谷武子:クックチルシステムにおける煮物の再加熱条件の標準化につい て,日本食生活学会誌,12,127-133(2001)
4 )殿塚婦美子,谷武子,渡辺千夏,青柳康夫:クックチルシステムにおける牛肉の含有脂質の変化 について,日本食生活学会誌,12,134-140(2001)
5 )杉山寿美,三宅彩矢,多田美香,水尾和雅,都留理恵子:大根の加熱および保存過程がコラーゲ ン,グリセリド,塩化ナトリウムの浸透および硬さに及ぼす影響,日調科誌,44,64-71(2011) 6 )Furuichi,T., Komekura,M., Suzuki,M., Asai,T., Sugiyama,S.:Collagen Characteristics and Textural Properties of Chicken Wing Sticks Prepared in a Cook-chill System Using a Cooking Pan or Vacuum Package, J.Cookery Sci.Jpn., 46, 372-380(2013)
7 )Sugiyama,S., Mizuo,K., Nomura,S., Harada,R.:Efects of Cooking with Ginger Juice or Kiwifruit Juice on Collagen and Lipid Contents of “Kakuni Pork”, J.Cookery Sci.Jpn., 44, 411-416(2011) 8 )原田良子,杉山寿美,元木万里子,石永正隆:加熱後の鮭,鯖,鶏肉の保存が水分量,脂肪量,
官能評価に及ぼす影響,家政誌,62,133-139(2011)
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Abstract
Efects of primary heating time in a cook-chill system on
component properties and palatability of chicken wing sticks
Kazutaka KITA, Tsugumi FURUICHI
Sari DANJO, Seika HIKOTA, Sumi SUGIYAMA
In hospitals and welfare facilities, the cook-chill system is increasingly being used for food services. However, variations in the component properties and palatability of reheated foods depending on the primary heating time have not been fully examined.
In this study, chicken wing sticks primarily heated for 30 min (Condition A) and 90 min (Condition B)were compared. The weight and total/insoluble collagen levels in the skin part were higher both after primary heating and reheating when cooked under Condition A compared with Condition B. As the skin covers the surface, primary heating time may markedly inluence these properties. The sugar content of the skin part was lower after primary heating under Condition A compared with Condition B, but no diferences were apparent after reheating. No diference in salt content was seen between conditions.
Weight and moisture levels of the meat part were higher after primary heating under Condition A compared with Condition B, but no diferences were evident after reheating, revealing no inluence of primary heating time on either total collagen or fat level. Sugar and salt contents of the meat part were lower after primary heating under Condition A compared with Condition B, but no differences between them were seen after reheating, indicating that seasonings had penetrated the chicken during preservation.
Furthermore, on sensory evaluation, no signiicant diferences in palatability were identiied between Conditions A and B. As the proportion of meat is higher than that of skin, variations in component properties of the skin may not have inluenced the palatability of samples cooked under these conditions.