知的障害児を対象とした交流及び共同学習における学習支援に関する文献的検討
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 知的障害児を対象とした交流及び共同学習における 学習支援に関する文献的検討 藤嶋さと子・細谷 一博* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学函館校 障害児臨床研究室. A Review on the Learning Support in the Inclusive Activities and Collaborative Learning for a Student with Intellectual Disabilities FUJISHIMA Satoko and HOSOYA Kazuhiro* Graduate School of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 現在,多くの特別支援学校及び特別支援学級には,知的障害のある児童生徒が多く在籍して おり,そのほとんどの学校現場で交流及び共同学習が実施されている。そこで,本研究では, 実際の交流及び共同学習場面における「教師の支援の在り方」に焦点をあて,その支援方法を 整理し,今後,障害のある児童生徒が交流及び共同学習に参加する際の教師の支援の在り方に ついて検討することを目的とした。その結果,子どもたちの自然なかかわりを促すためには, 教師がかかわり方のモデルとなったり,互いの良さを認め合える場を設定したりすることの必 要性が明らかになった。また,障害のある児童生徒の動機に働きかけることの必要性も指摘さ れていることから,今後は,内発的動機づけ理論に基づき,知的障害のある児童生徒が積極的 に教科交流に参加するための支援方法を検討していかなければならない。. Ⅰ はじめに. (小学部18,830名,中学部16,572名),知的障害特 別支援学級に在籍している児童生徒が,94,821名. 文部科学省(2015)によると,現在わが国には,. (小学校62,591名,中学校32,230名)と,他の障. 特 別 支 援 学 校 が1,895校( 小 学 部953校, 中 学 部. 害種に比べて知的障害を主障害とした児童生徒が. 942校) ,特別支援学級が52,052校(小学校35,570. 最も多く在籍していることが報告されている。. 学級,中学校16,482学級)存在することが示され. さらに,近年,交流及び共同学習を実施してい. た。そのうち,障害種別にみると,知的障害特別. る児童生徒は96%おり,ほとんどの学校教育現場. 支援学校に在籍している児童生徒は,35,402名. で取り組まれている。また,教科別に実施率を比. 191.
(3) 藤嶋さと子・細谷 一博. 較すると,国語(24.9%),算数・数学(12.7%), 英語(12.7%)と低い実施率であるのに対し,実 技系の教科では70%前後の児童生徒が交流及び共 同学習を行っていることが明らかとなった。その 中でも特に,音楽では80.7%と最も高い実施率で. Ⅱ 交流及び共同学習における教師の支援の 成果と課題 1.特別支援学級と通常学級との交流及び共同学 習に関する先行研究. ある(国立特別支援教育総合研究所,2008) 。交. 特別支援学級と通常学級との交流について,井. 流及び共同学習について文部科学省(2009)は,. 坂・川林(2004)は,難聴学級児童と通常学級児. 障害のある児童生徒の経験を広め,社会性を養い,. 童の合同授業を分析し,担任教員相互による児童. 豊かな人間性を育てる上で,大きな意義を有して. への学習支援の在り方を検討した。その結果,難. いるとともに,双方の児童生徒にとって,意義深. 聴学級児童が通常学級児童と共に学び合うための. い活動である。また,障害のある子どもと障害の. 観点として,障害補償・情報保障・学習保障の3. ない子どもが一緒に参加する活動は,相互の触れ. つを取り上げ,双方のコミュニケーション上では,. 合いを通じて豊かな人間性を育むことを目的とす. 相互に情報保障すること,及び相互に情報受容能. る交流の側面と,教科等の達成を目的とする共同. 力を高めることが重要であると指摘した。また,. 学習の側面があるとし,この両側面が一体として. 教員相互・児童相互の信頼関係の構築も求められ. いることを明確に表したものであると述べている。. ることから,児童相互に共通したコミュニケー. 以上の事から,特別支援学校及び特別支援学級. ションモードの確立と共に授業に参加するという. に知的障害のある児童生徒数が多いことや交流及. ことが重要であると述べている。また,宮脇・阿. び共同学習の実施率が高いことから,教育現場に. 部(2009)は,アンケートによって,交流及び共. おいて,多くの知的障害のある児童生徒が交流及. 同学習における特別支援学級担任や交流学級担任. び共同学習を経験していることが推測できる。. が行っている配慮を①直接的な配慮,②環境での. これまで行われてきた交流及び共同学習の研究. 配慮,③集団参加への配慮の3つに設定し調査を. を概観すると「実施状況」や「教師間の連携・支. 行ったところ,特別支援学級の児童は,友だちの. 援の在り方」 「活動内容と児童生徒の変容」「障害. 協力を多く得ながら学習や係活動などに取り組ん. 理解教育」など,障害種に関わらず数多くの成果. でいることが分かった。また,特別支援学級担任. や報告がなされている(藤嶋・細谷,2016)。し. は学習の補助を行うだけでなく,特別支援学級児. かし一方で,溝上(1990)や関戸・岡島(2000). 童へのかかわり方が周囲に分かるように意図的に. らによって,特殊学級の児童生徒が必ずしも喜ん. 指示したり,モデルを示したりすることで,その. で交流に参加しているわけではないという課題も. 児童へのかかわり方を知ってもらい,誰もが適切. 報告されている。. なかかわりをできるように拡大していく必要があ. そこで本研究では,これまでの先行研究から交. ると指摘している。よって,特別支援学級担任が,. 流及び共同学習における教師の支援の在り方に焦. 交流及び共同学習の授業に付き添った際は,単に. 点を当て,実際に行われている支援方法を概観す. T2として学習の補助を行うだけでなく,特別支. ることで,今後の交流及び共同学習における知的. 援学級の児童に対する支援の実際を,交流級の担. 障害児童生徒に対する教師の支援の在り方につい. 任に伝えることを意識して指導にあたることが必. て検討することを目的とする。. 要であると述べている。さらに,田島・都築(2006) は,特殊学級に在籍する子どもが,通常学級にお ける交流学習を学ぶ際の特殊学級担任の支援の在 り方を検討した。その結果,特殊学級に在籍する 児童に対して,全てを個別指導によって指導した. 192.
(4) 知的障害児を対象とした交流及び共同学習における学習支援に関する文献的検討. り,支援者なしで通常学級で学ばせたりするので. どもと通常学級の子ども達とをつなげる役割を担. はなく,児童の実態や教育内容,学習補助者など. う」ことの必要性を指摘している。なお,今後は,. の要素を勘案することで,可能な限り特殊学級の. 他の障害のある子どもたちに対しての教師の支援. 担任が交流先に児童と一緒に出向く条件を確保す. 方法を見ていかなければならないと述べている。. ることの重要性を明らかにした。また,学習補助. その後,篠原・杉谷(2008)は,「子ども同士の. の在り方として,特殊学級の児童に対し,事前に. かかわり」を促すために「子どもの集団」に焦点. 特殊学級で当該の学習に触れた後に交流先におい. を当て,教師の支援方法について検証した結果,. て同年齢集団で一斉指導を受けさせることが重要. 対象児を活動に参加できるようにする為には,物. であることを示唆している。松岡・納富(2008). 的環境と人的環境の両側面を整えることが大切で. は,交流学級の体育科の授業に部分的に参加でき. あることを明らかにした。また,対象児と全体を. ていない知的障害のある自閉症児に対して,交流. 繋げる支援として,対象児の実態や良さを知るこ. に参加するための効果的な手立てについて検討. とができるような活動や頑張りをみんなで共有し. し,児童に役割をもたせることが交流教育を促進. たり,参加方法を認める場を設定,さらに対象児. させるプログラムとして有効であることを明らか. への理解やかかわり方,グループでの練習方法や. にした。その上で,役割を与えられたことにより,. 教え方を示したりすることで,子どもたちの自主. 活動に主体的に参加することができ,周りの児童. 的な活動を生み出すことができたことを明らかに. とも協力することができるようになったことか. した。教科交流において,音楽は言葉がなくても. ら,自閉症児に対して役割をもたせることは,活. コミュニケーションがとれるなどの理由から頻繁. 動への参加の動機づけとなり,健常児との相互の. に行われているが,現実には様々な問題を抱えて. 関係を良いものにすることが可能であると述べて. いるため,様々な個性をもつ子どもたちが,音楽. いる。また,教師は自閉症児のマイナス面のみが. を,仲間と心から楽しめるようにすること,そし. イメージとして定着しないように,低学年の段階. てそのような学びの場を決して失わせないように. からそれぞれの自閉症児のもつ良さが出せる場面. することを考えていかなければならないと述べて. を設定していくこと,その場面を通して健常児に. いる。なお,尾崎(2014)は,音楽科教育に焦点. 意識の啓発を試みていくことの重要性を指摘して. を当て,音楽科の指導に携わる教員が「交流及び. いる。なお,篠原・杉谷(2007)は,音楽の教師. 共同学習」をどのような観点で実践しようとして. が特殊学級の子どもに行うべき支援として「1.. いるのかを調査をしたところ,因子として「人と. 特殊学級の子どもが音楽の授業で,安心して“表. のかかわり」に意識があることを明らかにした。. 現できる環境”を整える」 「2.子どもが自分の. 今後は,子ども同士がかかわる場面を充実した授. 思いを“表現できる”ようにする」「3.共に育. 業構成の確立が重要であると指摘している。また,. てる体制を作る」ことの3点を明らかにした。そ. 河野(2015)は,自閉症・情緒障害特別支援学級. の中で, 「1.特殊学級の子どもが音楽の授業で,. に在籍する児童(A児)と交流級児童が,ともに. 安心して“表現できる環境”を整える」において. 学びかかわろうとする姿が具現化することを目指. は,子ども達同士の信頼関係を作るための方法と. した交流活動を行ったところ,A児の得手不得手. して, 「特殊学級の子どもへの接し方を,教師の. や頑張っていることを知ることができたり,同じ. 態度を見せることで知ってもらう」 「友だちの成. 学年の友だちとしてかかわろうとする姿が具現し. 長を共有し,認められるような場面を設定する」. たことを明らかにした。さらに,交流学級の児童. 必要性を指摘している。さらに,「3.共に育て. の中でも,A児が困っていたら積極的に声をかけ. る体制を作る」では,「子ども同士の学び合い,. たり,A児が困らないように配慮した行動をした. 育て合いの姿勢を育てる」 「教師が特殊学級の子. りする子が多く見られるようになってきたと共. 193.
(5) 藤嶋さと子・細谷 一博. に, 「また,Aさんと同じクラスになりました」 等と笑顔で担任に報告する児童が出てきたと述べ. 2.特別支援学校と小学校,中学校における交流 及び共同学習に関する先行研究. ている。そこで今後の課題として,A児自身の表. 特別支援学校と小・中学校との交流について,. 現力や積極性を高める支援を行っていく必要があ. 細谷・白府(2013)は,知的障害と診断されてい. ると同時に,楽しい活動,小さい活動を積み重ね. る特別支援学校児童を対象とし,交流時における. ることで,頭で理解するよりも,感覚的に自然な. 教師の付き添いの有無が及ぼす交流相手に対する. 交流ができるようにしていく必要があると述べて. 行動の変化について検討した。その結果,教師が. いる。中原・今岡・中村・武田・堀・堀・中禮・. 児童との距離を置き,子ども同士が活動を共有す. 尾西・登・吉本・林田・土器・高山・姫島・最. るための人的環境を構築したことで,交流相手に. 所・高浪・吉本・藤金(2015)は,特別支援学級. 対して要求発信や質問発信,動作発信の項目に増. に在籍する生徒と通常の学級に在籍する生徒との. 加傾向がみられたことを明らかにした。この結果. 交流及び共同学習における合理的配慮について検. より,対象児本人から交流相手に対して,自ら話. 討した。そこで,学びの実感を促すために判断基. しかけることができる関係を築くことができた表. 準を明確に理解できるような選択や記述式の評価. れであると述べている。さらに,動作発信がみら. 表,学習の振り返りを行ったことで,「次からの. れたことは,交流相手との距離が近くなってきた. 交流活動も楽しみである」 「学習の成果を伝えた. 表れであり,交流において良好な関係を築くこと. い」 という発言が生徒から出てきたと述べている。. ができた変化であると述べている。一方で,本研. 一方で,交流及び共同学習においては,教員の支. 究では2回の交流活動が同一のメンバーであった. 援が増えることにより,ペアの積極的なかかわり. ことが児童の発信内容に影響していることが想定. が減退してしまう可能性があるため,今後は,支. されるため,今後の課題として,活動を継続して. 援のフェイディングを意識する必要があると述べ. いく中で対象児の発信行動の変化及び定着を見て. ている。また,ペアを固定したことで,通常学級. いくことの必要性を挙げている。また,鈴木(2015). の生徒から「自分から交流を積極的にすればよ. は,知的障害特別支援学校児童との学校間交流と. かった」 「もっと全体で交流したかった」という. 居住地校交流について,特別支援学校教員に対し. 意見も出されたため,今後は,特別支援学級の生. てインタビュー調査を行ったところ,初めは緊張. 徒とのかかわりが比較的多い生徒とそうでない生. していたり会話が難しかったりする児童のグルー. 徒との差をどのように埋めていくかが課題である. プでは,絵を一緒に描くことを通して,児童同士. と指摘している。. が話し合いに参加できるような支援をしたとの回. 以上のように,特別支援学級と通常学級との交. 答がみられたと述べている。この回答より,児童. 流においては, 日常的に同一校内にいることから,. 同士の自然な触れ合いの時間が生まれたことによ. 積極的に障害のある児童生徒と障害のない児童生. り,小学校児童が「特別支援学校の友達と仲良く. 徒とのかかわりをもたせることが重要であること. なれた」と実感し,特別支援学校の児童の良さや. がわかる。また,授業場面において障害のある児. 頑張りを見つけることができたのではないかと述. 童生徒に役割をもたせたり,児童生徒の良さや頑. べている。また,児童が「楽しかった」「仲良く. 張りを互いに認め合うことができたりするような. なれた」「友だちになった」「上手に発表できた」. 機会を設定することの効果も報告されている。さ. 等の実感をもつことができ,学区内の同年齢の知. らに,特別支援学級の教員は,単に障害のある児. り合いを広げることができた成果を上げている。. 童生徒に付き添い,T2として支援を行うだけで. さらに,児童同士の積極的なかかわり合いがみら. はなく,交流級の児童生徒のモデルとしての役割. れたとの回答から,交流相手校の児童との4年間. も担っていくことが必要である。. の交流体験の積み重ねと児童同士の中の深まり. 194.
(6) 知的障害児を対象とした交流及び共同学習における学習支援に関する文献的検討. が,児童同士の自然なかかわり合いに繋がったの. このように,特別支援学級と通常学級との交流. ではないかと述べている。陸川(2015)は,特別. と同様に,学校間交流においても,教師が意図的. 支援学校小学部の知的障害児が通常教育に参加. に,子ども同士がかかわることのできる環境を構. し,教科学習で共に学ぶためのインクルーシブ教. 築することの必要性が述べられていることが分か. 育システム構築に向けた交流及び共同学習の在り. る。また,児童生徒に対し,教師の支援方法や教. 方について検討をした。その結果,障害のある児. 材教具の工夫をすることで,障害の有無にかかわ. 童は障害のない児童をモデルとし, 「自分も同じ. らず,同じ仲間として共に学び,活動することが. ようにやるにはどうすればよいか」と比較して取. できるということに気づかせる必要があると指摘. り組んでおり,集団の中から学ぶ姿が見られたこ. されている。. とを明らかにした。よって,各教科において,意. 一方で,交流場面で支援を行う際の手立ての一. 欲や関心を高めるねらいから発展し,教科に関す. つとして,障害のある児童生徒の意欲に注目した. る知識や技能が深まり,児童の学びが高まったと. ものもある。百瀬(2010)は,日常行っている授. 述べている。合わせて,学習する中で,障害のあ. 業中で,特別支援学級児童と通常学級児童とが交. る児童の感じ方や表現を感じたり,視覚的な支援. 流及び共同学習できる授業の場面設定を行い,双. や座席配置,教員による身振りによる指示や教材. 方が共に成長できる支援について検討した。その. の工夫等の合理的配慮から適切な支援やかかわり. 結果,交流及び共同学習を行う際,教師は,対象. 方を明らかにした。また,障害の有無に関わらず,. 児の良さが発揮できる場面設定を授業づくりの重. 同じように学べることを実感することで,同じ人. 要な視点として行ったことで,特別支援学級児童. として学ぶ者として,多くの共通点を見出し,仲. が,自信をもって諸活動に意欲的に取り組めるよ. 間意識を育むことへつながったと報告している。. うになったことを明らかにした。また,石本(2011). なお,渡部(2015)は,特別支援学校中学部の学. は,特別支援学級に在籍する児童の交流学級にお. 校間交流において,合理的配慮に基づいた交流支. ける活動参加を促すための支援方法を検討した中. 援を行ったところ,初めは意図的に設定された交. で,対象児にとって安心して親密にかかわること. 流活動によって生じた交流動機であったものが,. のできる共同活動者を学校の中で増やしていくこ. 経験を経て日常水準にまで汎化し,内発的な動機. とが必要であると指摘し,そのために,教員間で. へと移行したことを明らかにし,接触を通して交. 対象児について共通理解し,その上で普段のかか. 流内容に一定の深化が認められたことを報告し. わりの中から動機づけを高めるようなかかわりを. た。そして, 「障害のある人/ない人との関わり. 継続的に行っていくことが大切であると述べてい. 指向」の視点から意識形成についての分析を行っ. る。さらに,知的障害児は自信を喪失する経験を. た結果,A盲学校の被験者群の方がB中学校より. 普段から多くしており,同時に活動参加への意欲. も積極的な関わりを指向することが明らかとなっ. も低下しがちであることから,交流及び共同学習. た。これらの結果より,交流場面において双方の. を行うことに対して,意欲の低下している児童が. 生徒に認められた援助の“やりもらい”の関係性. 活動への意欲を高めることが必要であり,そのた. や意識は,必ずしも相手に対する肯定/否定の感. めには児童の動機づけを高めることが必要である. 情を伴って障害児と定型発達児の対等なかかわり. と述べている。さらに,遠藤・佐藤(2012)は,. の障壁となるわけではないのではないかと述べて. 特別支援学級児童が通常学級に「行く交流」に焦. いる。そこで,今後は,より良い共生社会の形成. 点を当てた調査を行い,児童本人が期待して,意. に向けて子どもたちの人間性を育て,心を育むた. 欲的に取り組むからこそ教育効果が上がることを. めの活動の在り方の検討を継続する必要があると. 指摘した。そのための方法として,教師が期待し. 述べている。. たい児童の姿・活動のねらいの検討と実施後の評. 195.
(7) 藤嶋さと子・細谷 一博. 価をする一方で,児童の満足度・自己評価という. いくことが重要であると考える。. 指標から交流を見直すことの必要性を述べてい. なお,障害のある児童生徒が学習をする際の動. る。また,行方(2013)は,特別支援学級に在籍. 機づけの必要性や支援の有効性についての報告も. する児童を対象とした学校生活の交流場面におけ. みられる。しかし,知的障害のある児童生徒に焦. る他者とのかかわりを促すための支援において,. 点を当てた教科交流場面における具体的な支援方. 自分ができる範囲の中で活動を行うことで有能感. 法については,現在あまり多くの報告がなされて. の充足,集団から離れずに活動を行えたことで同. いない。よって,今後は,知的障害のある児童生. 時に交流感を充足させ,動機づけを高めることに. 徒が自ら積極的に交流学習に参加し,通常学級児. 繋がる成果を報告した。その中で,特別支援学級. 童との活動を「楽しい」と感じることができるよ. に在籍する児童の交流場面への参加を促す際に. うな教師の支援方法を明らかにしていく必要があ. は, 朝の会などの集団規模の小さい日常交流から,. る。. 集団規模の大きい学校行事へと,段階を踏んだ交 流場面への参加を促すことが有効であると述べ, 今後は,自己決定感の側面からも,有能感と交流. Ⅲ おわりに. 感との関連を考えた支援方法を検討することの必. 本研究では,これまでの先行研究から交流及び. 要性を指摘している。. 共同学習における教師の支援の在り方に焦点を当 て,実際に行われている支援方法を概観すること. 3.成果と今後の課題. で,今後の交流及び共同学習における知的障害児. これまで,特別支援学級と通常学級,特別支援. 童生徒に対する教師の支援の在り方について検討. 学校と小・中学校との交流及び共同学習に焦点を. することを目的とした。. 当て,教師の支援方法に関する先行研究を整理し. 知的障害のある児童生徒の学習上の特性につい. てきた。. て文部科学省(2009)は,成功経験が少ないこと. その結果,障害のある児童生徒が交流学習に参. などにより,主体的に活動に取り組む意欲が十分. 加する際,授業に付き添う教師は,対象の児童生. に育っていないと述べている。また,松久・谷山. 徒のみに焦点を当てて支援をするのではなく,特. (2012)は,認知特性に合わない指導をされてい. 別支援学級の児童生徒と通常学級の児童生徒の双. る軽度の知的障害児は,いつまでも「できない」. 方が, かかわりをもてるような環境調整をしたり,. 「わからない」という混乱を抱え続け,発達が促. 自然と協力や接触したりすることができる授業内. されず自尊感情が低下し,二次障害を引き起こす. 容,あるいは教材教具の提示をすることの必要性. 可能性があると指摘している。このように,知的. が明らかとなった。そのためには,今後,特別支. 障害のある児童生徒は,学習に対する成功をあま. 援学級の教師が,単に対象となる児童生徒の授業. り経験してこなかったことにより,学習に対して. に付き添い,支援に当たるだけではなく,通常学. 消極的な感情を抱きがちであることが分かる。. 級の教師や児童生徒のモデルとして授業に参加す. しかし一方で,近年の研究では,障害のある児. る必要がある。また,交流活動の中で,障害のあ. 童生徒が交流及び共同学習に参加する際には,彼. る児童生徒の良さや頑張りを認める場を設定する. らの「動機」にアプローチをすることの必要性が. ことで, 子どもたちの自主的な活動やともに学び,. 述べられている。そのためには,児童生徒の発達. かかわろうとする姿が見られるようになったとの. の程度や交流環境を把握した上で,彼らの興味・. 報告もあることから,教師が常に障害のある児童. 関心に即した授業内容を考えていく必要があると. 生徒の側にいるのではなく,一定の距離をとるこ. 同時に,教師側から一方的に教授するのではなく,. とで,双方の児童生徒の自然なかかわりを促して. 彼らに達成感ややる気を味あわせることができる. 196.
(8) 知的障害児を対象とした交流及び共同学習における学習支援に関する文献的検討. ような支援方法を考えていかなければならない。. 学校の児童を対象とした研究の中で,級友と助け. また,交流及び共同学習におけるねらいの一つで. 合ったり協力し合ったりしながら課題に取り組む. もある「交流の側面」から考えると,障害のある. ことや級友や教師と良好な対人関係をもち,自分. 児童のみに焦点を当てた支援を行うのではなく,. 自身の内的な欲求が満たされることで,意欲を. 通常学級児童とかかわる場面を積極的に設けるこ. もって学習に取り組むことができると指摘してい. とで,共に授業に参加している同じクラスの仲間. る。同様に,石田・吉田(2015)によっても,友. という「対等な関係」を築くための支援方法の検. 人との関係が親密である程,授業に積極的に取り. 討が必要である。さらに,このようなかかわりを. 組んでいることや,友人の能力が高い程,自分の. 通して,障害のある児童生徒が自分の良さやでき. 能力も高く評価する傾向があることが明らかにさ. ることに気づくことで,自ら活動に参加したい,. れている。このように,子どもが学習活動に向か. 交流学習が楽しみであるという意欲をもつことに. う場合は,個人の力だけではなく,友人や周りに. 繋がることが期待されるため,今後は,障害のあ. いる大人との関係が大きく影響していることが考. る児童生徒の学習意欲に注目した支援方法の検討. えられる。. が必要である。. よって交流及び共同学習の支援における今後の. 学習に対する動機や意欲を高めるための方法の. 展望として,これまでの先行研究で多くの成果が. 一つとして, 「内発的動機づけ」に基づく支援が. 報告されている内発的動機づけに基づく支援に注. 考えられる。内発的動機づけについてBrunner. 目し,その中でも交流及び共同学習において必要. (1966)は,内発的動機づけの原型は知的好奇心. とされる他者とのかかわりを意識する「交流感」,. であり,ほとんどすべての子どもが,学習への内. 自己の有能さを意識する「有能感」に焦点を当て. 発的な動機をもっていると述べている。また,内. ることで,知的障害のある児童生徒が,自分一人. 発的動機が働く際に基礎となる人間の主要な欲求. ではなく,他者という「友人」と共に学習活動が. についてDeci & Ryan (1985), Ryan, Connell, &. 展開される交流及び共同学習において,自ら積極. Deci (1985)は,人間の主要な心理的欲求(自己. 的に交流学習に参加するための支援方法を検討し. 決定感,有能感,交流感)の充足が,全ての教育. ていかなければならない。. の目標となるべきであると指摘している。これら の定義を基に,国内外では数多くの内発的動機づ. 文 献. けの研究がなされている。 国内を概観すると障害児を対象とした内発的動. 1)Brunner, J.S. 1966 Toward a theory of instruction,. 機 づ け の 研 究 は, 川 村(1993,1996,2001,. Belknap, 田浦武雄・水越敏行(訳) (1976)教授理論の. 2003,2004)や森・川住(2010),森・熊井・川 住(2008)を始めとし,複数の成果や効果及び課 題が報告されている。 以上のように,交流場面における教師の具体的 な支援の方法や効果及び,障害のある児童生徒の 学習動機や意欲を高めることの必要性については. 建設,黎明書房. 2)Deci, E.L., & Ryan, R.M. (1985) Intrinsic motivation and self-determination in human behavior, New York: Plenum. 3)遠藤恵美子・佐藤愼二(2012)小学校における交流 及び共同学習の現状と課題-A市の通常学級担任と特 別支援学級担任への質問紙調査を通して-.植草学園 短期大学研究紀要,13,59-64.. 多くの指摘がなされているにも関わらず,知的障. 4)藤嶋さと子・細谷一博(2016)交流及び共同学習の. 害のある児童生徒が交流場面で学習をしたり,参. 現状と今後の展望-2004年以降の特別支援学級におけ. 加をしたりする際の内発的動機づけを用いた支援 はほとんどみられない。 真田・浅川・佐々木・貴村(2014)は,公立小. る交流及び共同学習に焦点を当てて-.北海道教育大 学紀要(教育科学編) ,66⑵,65-76. 5)細谷一博・白府士孝(2013)交流及び共同学習にお ける教師の付き添いが及ぼす知的障害児の発信の変化. 197.
(9) 藤嶋さと子・細谷 一博. に関する実践的研究.北海道教育大学紀要(教育科学. 果的な支援に関する研究-通常学級との交流及び共同. 編),64⑴,81-88.. 学習の授業を中心として-.家庭教育研究,15,23-. 6)井坂行男・川林まり子(2004)難聴学級児童と通常 学級児童がともに学び合うための学習支援について- 小学校低学年における合同授業の分析を通して-.大 阪教育大学紀要,52⑵,283-297.. 33. 21)文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説 総則等編(幼稚部・小学部・中学部) . 22)文部科学省(2015)特別支援教育資料(平成26年度).. 7)石田靖彦・吉田俊和(2015)友人との関係の親密さ. 23)森つくり・川住隆一(2010)注意欠陥/多動性障害. と友人の特徴が生徒の学習動機づけに及ぼす影響.愛. の合併が疑われる聴覚障害幼児の言語指導場面におけ. 知教育大学教育創造開発機構紀要,5,133-140.. る内発的動機づけの変化.東北大学大学院教育学研究. 8)石本悠(2011)交流学級における活動参加を促すた めの支援方法に関する事例的研究.発達支援研究, 15,1-3. 9)川村秀忠(1993)学習障害児の内発的動機づけを高 める援助手立て.秋田大学教育学部研究紀要教育科学 部門,45,39-51.. 科研究年報,58⑵,169-187. 24)森つくり・熊井正之・川住隆一(2008)聴覚障害幼 児の言語指導場面における内発的動機づけの変化と母 親からのフィードバックおよび働きかけの影響.特殊 教育学研究,46⑶,135-147. 25)中原真吾・今岡千明・中村国広・武田巨史・堀浩二・. 10)川村秀忠(1996)学習障害幼児の内発的動機づけを. 堀修二・中禮裕子・尾西洋平・登由美子・吉本悟・林. 高める援助・支援手立て.秋田大学教育学部研究紀要. 田眞姫・土器修・高山剛・姫島和久・最所健太・高浪. 教育科学部門,50,15-29.. 伊織・吉本眞也・藤金倫徳(2015)インクルーシブ教. 11)川村秀忠(2001)学習障害児の内発的動機づけを支. 育システム構築を目指した合理的配慮の検討(Ⅰ)-. 援する教育的手法.東北大学大学院教育学研究科研究. 交流及び共同学習での検討-.特別支援教育センター. 年報,49,343-363.. 研究紀要,7,13-18.. 12)川村秀忠(2003)学習障害児の内発的動機づけを支. 26)行方桃子(2013)特別支援学級に在籍する児童を対. 援するために-求められる教師や保護者の基本姿勢. 象とした学校生活の交流場面における他者とのかかわ. -.LD研究,12⑶,288-297.. りを促すための支援方法に関する事例的研究.発達支. 13)川村秀忠(2004)小学校低学年期学習障害児の内発 的動機づけに影響を及ぼす教師の基本姿勢.東日本国 際大学研究紀要,9⑵,41-68. 14)河野進之介(2015)かかわることで互いに育つ交流. 援研究,17,7-9. 27)尾崎祐司(2014)音楽科における「交流及び共同学習」 の開発視点-音楽科担当教員の意識調査を通して-. 教育実践研究,24,19-24.. 及び共同学習-自閉症・情緒障害特別支援学級在籍児. 28)陸川みどり(2015)特別支援学校知的障害児小学部. 童の障害理解の実践を通して-.教育実践研究,25,. と小学校における教科を通じた交流及び共同学習の実. 217-222.. 践と課題-インクルーシブ教育システム構築に向けた. 15)国立特別支援教育総合研究所(2008)「交流及び共同 学習」の推進に関する実際的研究.国立特別支援教育 総合研究所,1-45.. 合理的配慮の視点を生かした共同学習の在り方.教育 実践研究,25,229-234. 29)Ryan, R.M., Connell, J.P., &Deci, E.L. (1985) A. 16)松久眞実・谷山優子(2012)知的障害児に効果的な. motivational analysis of self-determination and self-. 学習指導方法-認知特性に応じた実践研究より-.プー. regulation, In C. Ames & R.E. Ames (Eds.), Research. ル学院大学研究紀要,53,239-254.. on motivation in education: The classroom milieu,. 17)松岡恭平・納富恵子(2008)小学校体育科における. New York: Academic Press, 13-51.. 自閉症児に対する支援-特殊学級での個別支援のあり. 30)真田穣人・浅川潔司・佐々木聡・貴村亮太(2014). 方の検討-.福岡教育大学障害児治療教育センター年. 児童の学習意欲の形成に関する学校心理学的研究-学. 報,21,37-46.. 習規律と学級適応感との関連について-.兵庫教育大. 18)宮脇恭子・阿部美穂子(2009)交流及び共同学習の. 学教育実践学論集,15,27-38.. 実践における教師の支援の工夫-T市小学校教師のア. 31)関戸英紀・岡島育雄(2000)小・中学校における交. ンケート調査から.とやま特別支援教育学年報,3,. 流教育の現状と課題:横浜市立小・中学校特殊学級担. 31-39.. 任への意識調査を通して.横浜国立大学教育人間科学. 19)溝上脩(1990)交流教育の現状と問題点-小学校・ 中学校における特殊学級の場合-.佐賀大学研究論文 集,39⑴,63-86. 20)百瀬光一(2010)特別支援学級に在籍する児童の効. 198. 部教育実践研究指導センター紀要,16,67-80. 32)篠原秀夫・杉谷怜子(2007)音楽科の教科交流にお ける教師の支援についての一考察-小学校特殊学級の 児童が参加している授業を対象として-.金沢大学教.
(10) 知的障害児を対象とした交流及び共同学習における学習支援に関する文献的検討. 育学部教育工学研究・実践研究,33,69-78. 33)篠原秀夫・杉谷怜子(2008)音楽科の教科交流にお ける教師の支援についての一考察(Ⅱ)-子ども同士 のかかわりに焦点を当てて-.金沢大学教育学部教育 工学研究・実践研究,34,1-12. 34)鈴木達也(2015)知的障害特別支援学校における交 流及び共同学習の実践に関する調査研究.教育実践高 度化専攻成果報告書抄録集,5,109-114. 35)田島広嗣・都築繁幸(2006)自閉症児の交流学習補 助の試み-特殊学級に在籍する自閉症児が通常学級で 学ぶ際の特殊学級担任の支援-.治療教育学研究, 26,57-65. 36)渡部博(2015)共生社会の形成に向けた交流及び共 同学習の在り方について-「障害のある人/ない人と の関わり指向」と「援助のやりもらい意識」の分析か ら-.上越教育大学学校教育実践研究センター教育実 践研究,25,205-210.. (藤嶋さと子 函館校大学院生) (細谷 一博 函館校准教授) . 199.
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