最 近 の 研 究
レドックスとアスベスト
土
橋
邦
生
は じ め に 私の行ってきた研究につき紹介する機会を与えていた だき感謝申し上げます. 1978年に群馬大学第一内科 (現 病態制御内科学)に入局以来,呼吸器・アレルギー疾患を 中心に, 免疫学的手法を用いて研究を行ってきました. 2005年に保 学科に移りましたが, 今回は, 現在取り組 んでいる主な研究につきご紹介申し上げます. 1.レドックスによる Th1/Th2バランス制御の解析 第一内科に入局した年, カンジダに対する遅 型過敏 症である過敏性肺炎の症例を経験し, 内科学会雑誌に報 告しました. その時カンジダは, 即時型過敏症である喘 息の原因抗原でもあるので, どちらが起こるかは何で決 まるか疑問でした. この解明には, 基礎免疫学が不可欠 と思い, 当時免疫学のメッカであった大阪大学腫瘍発生 学教室 (濱岡利之教授) に 1982年より留学し, IL-5の発 見者高津聖志先生のもとで B細胞 化因子の研究を開 始し, 学位も取得しました. 1987年よりペンシルバニア 大学病理学教室 (Mark Greene 教授) で, がん遺伝子c-erb B 2のチロシンリン酸化機構の研究に携わり, 子生 物学的手法に触れることができました. この間ヘルパーT 細胞が, Th1, Th2細胞に大別され, Th1/Th2バランスが, アレルギー疾患や感染症の発症に 重要であり, MΦより産生される IL-12は, Th1誘導サ イトカインとして注目されていました. 一方, 活性酸素 などの酸化ストレスに対し, 生体には種々の還元装置が 存在し, この酸化還元反応の制御機構 (レドックス制御) は, 酸化ストレスの中和作用だけでなく, 細胞内情報伝 達を変化させ細胞機能を調節していることがわかってき ました. 米国より帰国後, 最近の喘息の増加は, 環境から の酸化ストレスが一因と え, レドックスの Th1/Th2 バランスへの影響の研究を開始しました. 酸化ストレス 中和ペプチドのグルタチオンに着目し,還元型 (GSH)と 酸化型 (GSSG) グルタチオンの MΦ内のバラン ス (GSH/GSSG 比) より, GSH/GSSG 比の高い MΦを還 元型 MΦ, 低い MΦを酸化型 MΦと定義し, これら MΦ からの IL-12産生は, 還元型 MΦでは増強され, 酸化型 363 Kitakanto Med J 2009;59:363∼365 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 平成21年10月6日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 土橋邦生 図1では抑制されること, さらに IFN-γは MΦを還元型に, IL-4は酸化型にかえる positive feedback 機構を発見い たしました (図 1). 酸化ストレスは, MΦを酸化型に変 え, Th2優位な反応を引き起こすことを示しました. 共 同研究者の宇津木ら は, MAPキナーゼ系の P38はIL-12産生を促進し, JNK は抑制することを示し, 細胞内が 還元型に傾くと, P38活性を促進し, JNK 活性を低下さ せ IL-12産生が相乗的に増加することを明らかにしま した (図 2). さらに, IL-12産生系の細胞内シグナル伝達 の研究を進めています. 共同研究者の小池ら は, マウ ス喘息モデルにおいて, GSH 前駆体の投与は, 肺局所の GSH/GSSG 比を還元型に変えて, 気道過敏性を抑制し, Th2サイトカインを抑制することを見出し, 新しい喘息 薬の可能性を示しました. レドックスは, COPD, 肺線維 症や肺がんの発症とも深くかかわっており, これらの疾 患の治療への応用も期待できます. 2. 合アレルギー対策住宅の喘息改善効果 最近の喘息患者の増加は, 重大な問題です. タバコ煙 やディーゼルなどの微粒子は, 肺に酸化ストレスを与え, 喘息の悪化因子となります. 環境における酸化ストレス が, アレルギー疾患の増悪に関与することは, 我々の研 究からも明らかです. そこで, 住居内の抗原や微粒子 (酸 化ストレス)を減少させることは,喘息の予防・治療に極 めて重要です. 足利工業大学と群馬県のハウスメーカー と, 住環境改善が, 居住者の喘息を軽減するか医学的に 解析し, 居住者の 康に貢献する目的で, 共同研究を 行っています. アレルギー対策住宅への転居前後で, 喘 息症状と相関する呼気中の NO (一酸化窒素) 濃度を測 定する最新方法で, 有効性を評価しました. その結果, 喘 息患者では, 呼気中 NO濃度は, 転居により低下しまし た.(図 3)今後,住環境因子のアレルギー疾患に与える影 響を解析し, 環境改善によるアレルギー疾患患者の減少 を目指したいと思います. 3.大気マイクロ PIXEによる肺組織内吸入 アスベストの可視化の試み アスベストは, 肺線維症, 中皮腫や肺癌を引き起こし, 発病までの潜伏期間が数十年と長いことから, 静かな 時限爆弾」とも言われ, 大変な社会問題となっています. 吸入したアスベストの種類, 量, 布などを, 人の肺組織 内で観察することが, 早期診断や病態解明に不可欠です が, 簡単に調べられませんでした. 我々は, 独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (以下「原子力機構」)と 21世紀 COE プログラムの一環として共同研究を組織して,原子 力機構が開発した大気マイクロ PIXE 析技術を応用 して, わずか数 mg の肺組織中のケイ素や重金属元素の 二次元 布を, 1μmの解像度で画像化する 析法を開発 し, 共同研究者の清水らは, 2008年 10月に論文発表しま した (図 4). この新方法で, アスベスト吸引の有無を早 期に診断し, その後の迅速な対処が可能になります. 免 疫組織染色と対比すれば, どのような炎症性蛋白質やが ん遺伝子がアスベストの周囲で発現されているか観察で きます. 事実, アスベストの周囲ではアポトーシスに関 与する Fas受容体の高発現が観察されました. 今後アス ベストによる肺癌や肺線維症の発症機構の解明をおこな うつもりです. 現在の研究 図2 図4 大気マイクロ PIXE 析で測定した肺組織切片中の アスベストの画像緑 :カラーでは, Si, 緑 : Mg 青 : Si と Mg が混ざったアスベストが観察されます.(Inter-national journal of immunopathology and pharma-cology) 図3 喘息患者の夫は, 転居により呼気中の NO濃度が低下 しました. アスベスト Si Mg 364
終 わ り に 以上今行っている研究につき簡単にご説明いたしまし た. これらのデータは主に病態制御内科学 呼吸器アレ ルギー内科や保 学科の諸先生との共同研究であり, 厚 く感謝申し上げます. 参 文献
1. Dobashi K, Aihara M, Araki T, Shimizu Y, Utsugi M, Iizuka K, Murata Y, Hamuro J, Nakazawa T, Mori M. Regulation of LPS induced IL-12 production by IFN-gamma and IL-4 through intracellular glutathione status in human alveolar macrophages. Clin Exp Immunol. 2001 May; 124(2): 290-296.
2. Utsugi M, Dobashi K, Ishizuka T, Endou K, Hamuro J, Murata Y, Nakazawa T, Mori M. Jun N-terminal kinase negatively regulates lipopolysaccharide-induced IL-12 production in human macrophages: role of mitogen-activated protein kinase in glutathione redox
regulation of IL-12 production. J Immunol. 2003 Jul 15; 171(2): 628-635.
3. Utsugi M, Dobashi K, Ono A, Ishizuka T, Matsuzaki S, Hisada T, Shimizu Y, Kawata T, Aoki H, Kamide Y, Mori M. PI3K p110beta positively regulates lipopolysaccharide-induced IL-12 production in human macrophages and dendritic cells and JNK1 plays a novel role. J Immunol. 2009 May 1; 182(9): 5225-5231. 4. Koike Y, Hisada T, Utsugi M, Ishizuka T, Shimizu Y,
Ono A, Murata Y, Hamuro J, Mori M, Dobashi K. Glutathione redox regulates airway hyperresponsiveness and airway inflammation in mice. Am J Respir Cell Mol Biol. 2007 Sep ; 37(3): 322-9. Epub 2007 May 16. 5. Shimizu Y,Dobashi K,Kusakbe T,Nagamine T,Oikawa M, Satoh T, Haga J, Ishii Y, Ohkubo T, Kamiya T, Arakawa K,Sano T,Tanaka S,Shimizu K,Matsuzaki S, Utsugi M,Mori M. In-air micro-particle induced X-ray emission analysis of asbestos and metals in lung tissue. Int J Immunopathol Pharmacol. 2008 Jul-Sep ; 21(3): 567-576.