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ニューラル機械翻訳の衝撃

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Academic year: 2021

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(1)特 別 解 説. 基 応 専 般. ニューラル機械翻訳の 衝撃. 鶴岡慶雅 (東京大学) れる機械学習モデルである.これは,通常の多層. ニューラル機械翻訳. ニューラルネットワークと異なり,入力があるたび.  ニューラルネットワークを使って機械翻訳をする. に変化する「状態」を保持しているため,同じ入力. という一見突拍子もないアイディアは,コミュニ. に対しても異なる出力を出すことが可能になってい. ケーションにおける「言葉の壁」の在り方を大きく. る.たとえば入力として,文章中の単語を順次受け. 変えることになるかもしれない.専門家の間では近. 取るようにすれば,「状態」によってそれまでの文. 年そのポテンシャルの高さからニューラル機械翻訳. 脈を実数値ベクトルで表現し,次に出現するであろ. (Neural Machine Translation, NMT)に大きな注目. う単語を予測するようなモデル(言語モデル)を容. が集まっていたが,Google がニューラル機械翻訳. 易に作ることができる.. に基づいたシステムを一般に公開したことにより,.  現在のニューラル機械翻訳技術のベースとなった. その優秀な翻訳性能が多くの人に知られることと. エンコーダ・デコーダモデル. なった.. レントニューラルネットワークを使用する.1 つは.  最近公開された Google の機械翻訳システムに関 1). では,2 つのリカ. エンコーダと呼ばれ,翻訳元の文の単語を順次読み. では,人手評価による翻訳精度が,従. 込み,文全体の内容を表す実数値ベクトルを生成す. 来手法であるフレーズベース機械翻訳と比べて,誤. る役割を担う.もう 1 つのリカレントニューラル. り率にして平均で 60%減少したと報告されている.. ネットワークはデコーダと呼ばれ,エンコーダが出. 言語対によっては,人間の翻訳精度に迫るスコアを. 力した実数値ベクトルを入力とし,上述の言語モデ. 達成しており,機械翻訳システムは当分の間実用に. ルとほぼ同様の仕組みで翻訳先の単語列を出力する.. ならないという見方は完全に過去のものとなった.. 文全体の内容を 1 つの実数値ベクトルで表現してし.  翻訳性能以外にも,多言語翻訳の同時学習によっ. まおうというのはいかにも乱暴に見えるが,このよ. て言語横断的なある種の共通意味表現(interlingua). うな単純な仕組みでそれなりに高い翻訳性能が得ら. が自然に得られたり,学習コーパスには存在しない. れたことに多くの研究者が驚いた.. する論文. 言語ペアの翻訳(ゼロショット翻訳)が可能である ことが示される. 2). 発展. など,ニューラル機械翻訳なら. ではの興味深い研究成果が次々と報告されている.. 96. 3).  ニューラル機械翻訳のレベルを大きく引き上げた のは,アテンション(attention)と呼ばれる仕組み. 誕生. である .これは,デコーダが各単語を出力する際.  ニューラル機械翻訳を実現するための重要な要素. の情報として,エンコーダにおける各単語の隠れ状. 技術がリカレントニューラルネットワークと呼ば. 態の重み付き平均を入力として用いるという方法で,. 情報処理 Vol.58 No.2 Feb. 2017. 4).

(2) ニューラル機械翻訳の 衝撃. 翻訳元の文の文脈情報をより詳細に捉えることがで きるようになる.アテンションの機構が導入された. 今後. ことによってニューラル機械翻訳の精度は大きく向.  もちろん最先端のニューラル機械翻訳システムと. 上し,従来の統計的機械翻訳モデルに匹敵,あるい. て完璧な翻訳ができるわけではない.文の意味を完. はその性能を追い越すこととなった.. 全に取り違えた翻訳文が生成されることもあるし,.  当初ニューラル機械翻訳は低頻度語に弱いという. 学習コーパスに含まれていないような種類のテキス. 弱点があったが,その弱点もさまざまな手法によっ. トでは翻訳精度が大きく落ちるというのもほかの機. て克服されつつある.単語レベルの翻訳だけでなく,. 械学習ベースのシステムと同様である.また,従来. 文字ベースの翻訳や,サブワードと呼ばれる,単語. 型の翻訳システムと比べて,翻訳誤りの原因を追究. よりも小さな単位を併用することで,現在のニュー. することが難しいという点も,システムの改良を難. ラル機械翻訳システムは計算コストを大きく増やす. しくする要因になり得るかもしれない.. ことなく低頻度語に対する頑健性を向上させている..  とはいえ,ニューラル機械翻訳は,それを実現す.  大きな注目を集めているニューラル機械翻訳モデ. るための仕組みが(少なくとも概念的には)非常に. ルの性能を陰で支えているのは,モデルの学習に使. シンプルであるという大きなメリットがあり,これ. われるパラレルコーパスである.パラレルコーパス. まで機械翻訳に関する研究の経験のなかった研究者. とは,文同士の翻訳関係の対応がついている 2 言語. や研究グループも機械翻訳の分野に続々と参入して. のコーパスである.たとえば,機械翻訳モデルの学. いる.研究は急ピッチで進んでおり,当面ニューラ. 習・評価用データとしてよく用いられる WMT デー. ル機械翻訳の進化は止まりそうにない.. タセットでは,英仏では約 3,600 万文ペア,英独で は約 500 万文ペアが提供されている.学習データ の量が多ければ多いほど翻訳精度が向上するという のは従来の統計的機械翻訳と同様だが,ニューラル 機械翻訳の場合は特にその傾向が強いと言われてい る.Google の翻訳システムでは,それらの標準的 なコーパスの 10 倍から 100 倍以上の大きさのパラ レルコーパスが学習に使われたとされている.パラ レルコーパスの巨大さもさることながら,それだけ の量のデータを使って実際にモデルを学習できるだ けのハードウェアリソースにも驚かざるを得ない.. 参考文献 1) Wu, Y. et al. : Google's Neural Machine Translation System :. Bridgingthe Gap between Human and Machine Translation, arXiv:1609.08144 (2016). 2) Johnson, M. et al. : Google's Multilingual Neural Machine Translation System : Enabling Zero-Shot Translation, arXiv:1611.04558 (2016). 3) Sutskever, I. et al. : Sequence to Sequence Learning with Neural Networks, In Advances in Neural Information Processing Systems, pp.3104-3112 (2014). 4) Bahdanau, D., Cho, K. and Bengio, Y. : Neural Machine Translation by Jointly Learning to Align and Translate, In International Conference on Learning Representations (2015). (2016 年 12 月 12 日受付) 鶴岡慶雅(正会員) [email protected] 2002 年東京大学大学院博士課程修了.博士(工学).マンチェス ター大学研究員などを経て,2009 年北陸先端科学技術大学院大学 准教授.2011 年より東京大学大学院工学系研究科 准教授.自然言 語処理,ゲーム AI 等に関する研究に従事.. 情報処理 Vol.58 No.2 Feb. 2017. 97.

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