学びの持続可能性
著者
豊原 法彦
雑誌名
エコノフォーラム
号
27
ページ
77-77
発行年
2021-03
URL
http://hdl.handle.net/10236/00029408
Econo Forum/ No.27 チャペル講話 卒業生を覚えて 77 ご卒業おめでとうございます。 卒業生を覚えてのチャペルとして 少しお話をさせて頂きます。 皆さんは所定の単位を修得され大 学から巣立つ、つまり「卒業」され ます。言い方を変えると 12 4 単位 を修得されたことで学士になられた わけです。 皆さんは経済学部で学 ば れました ので、需要と供給の考え方は頭にた たき込まれていると思います。単純 に言え ば 、ある条件の下で買い手は ある量を求め、売り手はある量を供 給し、需要が供給を上回れ ば 価格は 上昇し、逆の場合には下がるという ものですが、その背後には、当然欲 しい人はなんとか安く買おうと努力 し、売る方はなんとか高い値段で売 りつけようとするのが合理的だとい う考え方があります。 そして、完全競争市場では、双方 の満足がいくところで均衡価格が決 まる訳ですが、たとえそこで一旦均 衡点が見つかったとしても、その時 にメリットだったものが、実は今後 はそれがデメリットになること、と いうのが十分考えられます。それは 技術革新であったり、環境意識の高 まりであったり、コロナ禍による社 会変容などといった要因が考えられ ます。 例え ば 自動車産業で車が今回はコ ロナ禍で売れ出しましたけれども、 何年後かに電気自動車になれ ば 、タ イヤは変わらないけれどもエンジン はなくなり、電池とモーターで動く ようになります。ご存じのようにエ ンジンは気化したガソリンをうまく 制御しながら爆発させて動力を得る 内燃機関ですので、電気自動車には その圧力に耐える鋳物は不要になっ てしまいます。つまり、現時点では 日本にとってメリットとなっている 技術がデメリットになってしまう事 もあり得ます。そうならないために も、 陳 腐 化 を 避 け る た め の 技 術 進 化、それに対する適応が必要になっ てくるわけです。 そのためにも多様な視点で、そし て相手の側に立った考え方、スタン スを身につける事が重要かと思いま す。需要者であれ ば 供給者の立場に たち、なぜそれがその価格で供給さ れているのか、また逆に供給者であ れ ば 、なぜこの価格で、これだけの 量が需要されているのか、そこに思 い を い た す こ と で、 い わ ゆ る Win -Win の 関 係、 悪 く と も Win -Even の 状況を作り出すことが重要だと思い ます。 さらに、 10年前にスマホは存在し ていませんでしたが、現時点ではス マ ホ な し で の 生 活 は 考 え ら れ ま せ ん。アナロジカルに考えると 10年後 には、現時点で存在していない何か が、その時にはそれなしでは生活で きないということになっているかも しれません。そのような歴史の流れ を 常 に 感 じ な が ら 学 ん で い く こ と が、今後一層重要になってくると考 えてください。 皆さんはアフターコロナ、ウイズ コロナと言われるような新しい環境 の下に船出をされていくことになり ます。今後、社会生活を通した学び の中で、新たな知識、社会の常識も 獲得しながらも、自らの軸を明確に し、 Sustainability 、持続可能性を頭 に入れて、満足のいく日々を過ごさ れること、祈念しております。 ■
豊原
法彦
経済学部長
学びの持続可能性
2021年
1
月12日
火曜日
Econo Forum/ March 2021 76
シリーズチャペル<経済学と聖書> ローマ人への手紙 第 12章 11節 「勤勉で怠らず、 霊に燃え、 時に(主 に)仕えよ。 」 第 一 次 世 界 大 戦 後 、 危 機 に 陥 っ た キ リ ス ト 教 世 界に衝 撃 を 与 えた神 学 者 カ ー ル ・ バ ル ト の 『 ロー マ 書 ( 講 解 ) ( 1 92 2 ) 』( S 4 7 4 、4 8 0 -4 8 1 )は、第 12章第 11節の後半 のギリシャ語原文を、 「時に仕えよ」 と訳し、論争となりました。多くの 聖 書 の 翻 訳 は、 「 主 に 仕 え よ 」 と い う一般的意味しかないと考えられて いたからです。実はマルティン・ル ターは、同じ箇所を「時代に飛び込 め」と読んでいました。 そ れ で は、 「 時 に 仕 え る 」 と い う の は、 ど う い う 意 味 な の で し ょ う か。それは、コロナ危機の現代に生 きる私たちに、何を求めているので しょうか。 今年度、 チャペル 「経済学と聖書」 は金曜日午前にライブストリームで 発信し、同時に、ビデオで公開しま した。今という瞬間に、神様が共に 働いて下さると思うからです。 毎日、日本でも世界中からも、感 染拡大と経済危機が報じられます。 何が起きているのか、将来はどう変 わるのか、私たちが主体的に考え、 責任をもって行動を起こすことが不 可欠です。 聖書は、 人間が、 被造物(ギリシャ 語では、生物と地球環境の二種類の 用語)と敵対関係にあることを指摘 し て い ま す( ロ ー マ 8 : 20‐ 22)。 ウ イ ル ス の 起 源 は 数 十 億 年 前 な の に、人類の歴史はせいぜい十万年で す。人間と被造物の間に生じた敵意 や憎悪を取り除き、共存する道を探 ることが、危機を超え未来を創造す る道だと思います。 そもそも人体機能は、数億の体内 微生物の働きで支えられています。 同時に人類は、病原性の細菌・ウイ ルスの外部からの侵入に対しては脆 弱です。 感染症と人類の出会いは、聖書で も、 紀 元 前 10世 紀 以 上 に も 遡 り ま す。人類が地球上を移動、戦争・内 戦で生態系を破壊すると、一方で飢 餓と貧困が、他方で宿主を出た菌・ ウイルスの拡散で疫病が繰り返され ます。例え ば 、 ダ ビデがエルサレム の王の時代にも、戦乱及び飢餓に加 え、疫病で 7 万人が倒れたとされて います(歴代誌第一 21: 14)。 13世紀から 14世紀を中心に欧州を 襲ったペストが、欧州の人口を半減 させただけでなく、既成の権威を失 墜させ、近代科学の発展を促し、特 に、都市における公衆衛生行政の確 立が、その後の経済・文化の復興の 基盤になったことは、現代の私たち への重要な示唆に富んでいます。 第 1 に、都市人口が巨大化し、グ ロ ー バ ル な 相 互 依 存 が 強 ま っ た 現 在、都市封鎖(ロック ダ ウン)を繰 り返すことは危険です。短期的又は 局所的ならともかく、大規模に繰り 返すと経済活動の低下や投資減退、 廃業・失業、貧困を生み、人命の損 失を大きくします。 第 2 に、日本は、 1 990 年代以 降、感染病床を削減し保健所を大き く減らしました。日本の人口当たり 病床数は世界一多いのに、感染病床 は公的病院に偏り、 I C U に柔軟性 が乏しく、医療崩壊が起きかねない のです。公衆衛生と医療体制の立て 直しは、日本経済の再生にとっても 大事な鍵です。 第 3 に、北里柴三郎博士はペスト 菌の発見者で、戦前の東京の警視庁 衛生課は公衆衛生行政の先駆けでし た。現在も、北里研究所の発見した 人工抗体は、安全性の高いワクチン や治療薬開発に適しています。政府 は、ワクチンの外国メーカーからの 輸入を優先せざるを得ません。しか し、国内の研究開発の強化や安全な 国産ワクチンの安定供給を、中長期 的な戦略とするように願います。 最後に、コロナ危機による廃業・ 休業に加え、消費不況で過剰雇用を 抱え、生産性の低い飲食業や小売業 などで、低賃金の非正規労働者の生 活は困難を増しています。外国人労 働者や技能実習生にも、失業・所得 減少の危機が迫っています。雇用調 整助成金が、非正規雇用者や技能実 習生の所得減少の場合にも、迅速・ 確実に支給される仕組を求めていき たいと思います。 ★ シ リ ー ズ 最 終 回 を 再 構 成 し ま し た 。 ■