Vol.51(2014) 近 畿大学原子力研究所年報
総
説
放 射 線 に よ るDNA損
傷 とDNA修
復機 構
松
田
外志朗1
Radiation-induced DNA damage and DNA repair
Toshiro Matduda' DNAは 、 放 射 線 を は じめ 紫 外 線 や 活 性 酸 素 等 の 要 因 に よ り多 様 な 損 傷 を 受 け る。 生 体 は 、DNA損 傷 の 種 類 に 応 じて 損 傷 を修 復 す る 複 数 のDNA修 復 機 構 を 有 して い る。DNA損 傷 は、 常 に確 実 に 修 復 され る わ け で は な く、 修 復 で き な か っ た 場 合 に細 胞 死 を もた らす シ ス テ ム やDNA損 傷 を 乗 り越 え てDNA合 成 を行 うシ ス テ ム も存 在 す る。 ま た、DNA損 傷 が 適 切 に修 復 され な け れ ば 、 突 然 変 異 が 誘 発 さ れ 、 が ん 化 の 要 因 とな る 。 放 射 線 は 、 直 接 的 作 用 あ る い は主 と して 活 性 酸 素 等 を 介 す る 間 接 的 作 用 に よ り、DNA損 傷 を 引 き起 こす 。 放 射 線 に よ るDNA損 傷 は、2本 鎖DNA切 断 、 一 本 鎖DNA切 断 、 塩 基 脱 落 部 位 、 塩 基 損 傷 の4種 類 に 大 き く 分 類 さ れ る。 放 射 線 に よ るDNA損 傷 の うち 生 体 に与 え る 影 響 が 大 き い 損 傷 は 、2本 鎖DNA切 断 と損 傷 が 密 集 して 形 成 され る場 合(ク ラ ス ター-DNA損 傷)で あ る。2本 鎖DNA切 断 は、 細 胞 死 や 染 色 体 異 常 の 誘 因 と な る。 クラ ス ターDNA損 傷 は 、 修 復 が 困難 な場 合 が 多 く、 修 復 の過 程 に お い て も2本 鎖DNA切 断 が 生 成 さ れ うる。DNA損 傷 の うち一 本 鎖DNA切 断 、 塩基 脱 落 部 位 、 塩 基 損 傷 は、 塩 基 除去 修 復 機 構 に よ っ て 修 復 さ れ る 。2本 鎖DNA切 断 は、 相 同 組 換 え機 構 あ るい は 非 相 同 末 端 結 合 に よ っ て 修 復 され る。 相 同 組 換 え 機 構 は 、細 胞 周 期 に お い てS期 お よ びG2期 の み で働 く。 そ の た め 、分 裂 しな い 細 胞 で は相 同組 換 え機 構 は 働 か な い。 通 常 ヒ ト細 胞 で は 、 非 相 同末 端 結 合 が主 と して 働 くが 、 非 相 同末 端 結 合 で は原 理 的 に損 傷 周 囲 のDNA の欠 失 を ともな う。
Keywords:放 射 線 、DNA損 傷 、DNA修 復 機 構