論 文 内 容 の 要 旨
論文提出者氏名
小 椋 明 子
論 文 題 目
Validity of radial magnetic resonance imaging to determine the extent of Bankart lesions
論文内容の要旨 正常な肩関節唇(関節唇)は肩甲関節窩(関節窩)に全周性に付着し,肩関節の安定性に寄 与している.外傷やスポーツ障害に起因する関節唇損傷では,損傷の部位や形状によって疼痛 や不安定感などの臨床症状が生じる.Bankart lesion は,外傷性肩関節脱臼によって関節窩の前 下方に発生する関節唇損傷である.手術療法の際には Bankart lesion を正確に修復する必要が あるため,術前に損傷の範囲を評価することが重要である.これまで関節唇損傷の評価として 磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI と略)が用いられ,その診断率は近年向上し ている.しかし,横断と冠状断を組み合わせた従来の MR 撮像法(従来法 MRI)では,損傷を 正確に評価できない範囲が存在した.一方,肩腱板の評価法として,放射状断の MR 撮像法(放 射状 MRI)が用いられ,その有用性が明らかにされている.この方法を,関節唇に応用するこ とで,評価困難であった損傷範囲を正確に描出できる可能性がある.本研究の目的は,従来法 MRI と放射状 MRI の関節唇描出範囲を比較し,関節唇損傷に対する放射状 MRI の有用性を検 討することである.
対象は,肩関節鏡視下手術を施行した関節唇非損傷群 45 例 45 肩と関節唇損傷群 30 例 30 肩 であった.MR 装置として Philips 社製 Achieva 3.0 Tesla X-series, SENSE-flex-M coil を用い,脂 肪抑制 T2 強調画像を撮像した.従来法 MRI として横断像と冠状断像を撮像した.横断像では 体軸に対して平行に,冠状断像では肩甲骨に対して平行に撮像断面を設定した.放射状 MRI では,関節窩中央と上腕骨頭中心を結ぶ線を回転軸として,7.5°間隔で放射状に関節窩に直行 する 24 枚の断面を作成した.各放射状断面と関節窩縁との交点を時計表示で最上方 12 時,最 前方 3 時,最下方 6 時として 15 分ごとに設定した.関節唇描出の評価として輪郭が整である 場合を明瞭,輪郭が不整である場合を不明瞭と定義した.関節唇損傷の評価として内部に高信 号像を認める場合を損傷有りと定義した.両群において,従来法 MRI と放射状 MRI で関節唇 描出が明瞭であった範囲を比較した.関節唇損傷群において MR 画像で関節唇損傷有りとした 部位と,関節鏡所見から関節唇損傷と診断した部位を比較し,診断の正確度について検討した. 関節唇非損傷群において,従来法 MRI と比べて放射状 MRI において 3 時 15 分から 5 時 30 分の範囲では関節唇を明瞭に描出できた症例が有意に多かった.関節唇損傷群においても,放 射状 MRI においては 3 時から 5 時 45 分の範囲では関節唇を明瞭に描出できた症例が有意に多
かった.関節鏡所見では,関節唇損傷は 1 時から 6 時の範囲に存在し,特に 2 時 30 分から 5 時の範囲では全例に関節唇損傷を認めた.関節唇損傷を従来法 MRI と放射状 MRI で部位ごと に関節鏡所見と対比した結果,放射状 MRI の感度が従来法 MRI より 3 時 30 分から 5 時 30 分 の範囲において有意に高く,正確度でも 3 時から 5 時 30 分の範囲で有意に高かった. 関節唇の画像診断として,従来法 MRI が一般的に用いられる.従来法 MRI は,関節唇に断 面が直交する部位において関節唇を明瞭に描出できるが,断面が斜位になる部位においては, 部分容積効果のために関節唇の輪郭の描出が不明瞭となる.本研究では放射状 MRI を用いる ことで,従来法 MRI と比べて,より広い範囲で関節唇損傷を評価できた.放射状 MRI では, どの部位の関節唇に対しても直交するよう断面を設定することで,部分容積効果の軽減が可能 となった.近年 MR 装置の性能が向上し,従来よりも薄い断面を作成できたことも,関節唇の 描出に有用と考えた.関節唇損傷で頻度の高い Bankart lesion は,主に前下方すなわち 3 時か ら 6 時の範囲に生じるが,特にこの範囲において放射状 MRI は従来法 MRI よりも正確な評価 ができた.放射状 MRI を用いることで,関節唇修復術の手術計画に役立つことが明らかとな った.
本研究で関節唇が描出できる範囲を従来法 MRI と放射状 MRI で比較した結果,放射状 MRI はより広い範囲で関節唇を明瞭に描出して,正確に損傷を評価できることが判明した.放射状 MRI は,Bankart lesion の画像診断法として有用と考えた.