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宮本結佳著『アートと地域づくりの社会学―直島・大島・越後妻有にみる記憶と創造―』 昭和堂,2018年,256頁,4,200円

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Academic year: 2021

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― 123 ― 西日本社会学会年報 No.18(2020) 真っ青な海に臨む圧倒的な存在感の黄色い南瓜。直島と聞けば真っ先にこの風景を思い浮かべ、一 度はこの目で見てみたいと感じる人も少なくないだろう。評者もその魅力に魅せられて直島へ旅した ことのある者の一人である。実際に島を訪れてみると、島全体に何とも言えない心地良さがある。 3,000人ほどの人口の島に、年間72万人(2016年)を超える人びとが訪れるこの島の魅力が、アート作 品によるもののみならず、地域住民のたゆまぬ実践によって下支えされて在ることを教えてくれるの が本書である。それは本書の表紙にもよく表れている。ともすれば地域から浮いてしまいかねない アート作品が、住民の生活の中にごく身近なものとして存在しているのが感じられる不思議な魅力を 持つ写真である。 本書は、近年まちづくり・地域づくりの有力な方策として地域社会と結びつくことが多くなってき たアートプロジェクトに注目し、次の疑問に答えようとするものである。それは地域社会・アートの 双方が互いの目的のための手段として消費されてしまうことに対する疑問である。本書は大きく三つ の事例を詳細に分析することを通してその疑問に答え、それを通して、アートプロジェクトが、主体 間のいかなる相互作用によって持続可能な形で展開しうるのかを検討している。 ここでまず、本書の事例と構成について簡単に紹介しておきたい。本書は三部10章で構成されてい る。本書が事例とするのは、香川県直島、香川県大島、新潟県十日町市松之山上鰕池の三つ事例地に おけるアートプロジェクトであり、特に香川県直島の事例には4章分が割かれ、詳細な分析がなされ ている。第Ⅰ部は、第1章から第3章までで構成され、地域社会でアートプロジェクトが展開されて いく経緯が時系列によって整理され、プロジェクトの隆盛に伴って生じてきた問題点が指摘される。 第Ⅱ部は、第4章から第7章までで構成され、香川県直島の事例分析によって第Ⅰ部で出された問い 「アートが地域と違和なく一体化することが何を生むのか」、「アートだからできることはいったい何 なのか」、「地域に生活する住民と作品の制作者側との間で、場所の解釈をめぐっていかなる相互作用 が存在すれば、外部者のまなざしによる一方的な場所の消費が防がれうるのか」が検討される。第Ⅲ 部は、第8章から第10章までで構成され、香川県大島と新潟県十日町市松之山上鰕池の事例分析から 残された問いが検討され、持続可能なアートプロジェクトの展開可能性が示される。 また、各章は以下のようになっている。「地域づくりとアートの接点―彫刻のあるまちづくりから アートプロジェクトへ」(第1章)、「アートプロジェクトに投げかけられる疑問―プロジェクトの隆盛 が生んだ光と影」(第2章)、「地域づくりをめぐる研究動向と本書のアプローチ―環境社会学の視点」 (第3章)、「直島の開発の歴史をたどる―アートの島への道のり」(第4章)、「住民はなぜ景観を保全 するのか―集合的記憶の形成過程への注目」(第5章)、「新たに生成されるのはどのような資源なのか ―地域表象の創出過程への注目」(第6章)、「いかなる相互作用が地域再生に寄与するのか―外部から の場所の消費を防ぐ仕組み」(第7章)、「ハンセン病療養所における経験をいかに継承するのか―香川 県高松市・大島青松園における取り組み」(第8章)、「『現在』を描き出すアートの持つ潜在力―新潟

宮本結佳著『アートと地域づくりの社会学―直島・大島・越後妻有にみる記憶と創造―』

Junko FUKUMOTO

(Shimonoseki City University)



昭和堂,2018年,256頁,4,200円

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― 124 ― 西日本社会学会年報 No.18(2020) 県十日町市・旧松之山町における取り組み」(第9章)、「アートプロジェクトの可能性と課題―地域と アートの関係を展望する」(第10章)。 本書は特に環境社会学で議論されてきた、自然環境、歴史環境の保全をめぐる先行研究において残 されていた課題を、第Ⅰ部で立てた問いに答えることを通して乗り越えようとしている点で研究の発 展に大きく寄与しているだろう。その課題とは、第一に、住民たちが環境を保全する根拠についてど のように判断を変化させていくのかというもの、第二に、環境が創造されていく際、外部のアクター はいったいどのような機能を果たすのかというもの、第三に、記憶や経験をもとに環境が創造された 後、その環境を基盤にしながら、経験はどのように豊富化されるのか、そしてそこからさらにどのよ うな環境が生まれるのかという「社会的仕掛け」を把握する必要であった。 評者が考える本書の最大の魅力は、地域でおこなわれる実践を、綿々と続いていく現在進行形のも のと捉えるダイナミックな視点である。第5章では、現代アートを媒介にして、江戸、明治、大正、 昭和という幅広い時代の景観が一つの空間に重なり合って現れることになった事例が描かれている。 従来の景観保全における議論では、歴史上の特定の時点に注目がなされることが前提となっており、 どの時点の景観を保全すべきかということが一つの論点となっていた。そこでは、選ばれた時点に よって保全の担い手が限定されてしまうという問題があった。しかしながら、幅広い時代の景観を保 全するという仕組みが提示されたことによって、担い手が多様になることや、今後も担い手が広がっ ていく可能性が示唆された。 そもそも本書はさらに大きなスケールで、一貫して地域住民や地域それ自体の動態の様子を描いて いる。直島は、三菱の企業城下町、藤田観光の参入と撤退、そしてベネッセ主導の開発…… と一見受 け身であるだけの歴史をたどってきているようにも見える。特定のある時点に注目すれば、そのまち づくりは失敗と評価されることもあるだろう。しかしながら、現在、直島の住民はたえずアートの側 とやりとりをし、その相互作用を通じた実践によって、アートを地域資本にしていることが第7章で は描かれている。私たちは特定の時点に立ち、特定の時点の評価をしがちだが、そもそも特定の時点 を設定しないこと、安易に評価を固定しないことでうまくいく地域づくりの方法があることを本書は 示唆しているのではないだろうか。それには絶えず対象への働きかけが必要なことも示されている。 本書は、今生きている人びとが動態的に地域の意味を捉えなおしていく様子を描き、ある時点で固定 されがちな地域づくりで、担い手が途絶えてしまう問題を乗りこえる方法を提示した。このことは、 アートプロジェクトの展開過程において、どのようにその時々の現代世代が保持する地域の文脈を共 有していくのか、という課題に非常にクリアに答えている。地域づくりは、しばしば失敗例としての 烙印を押されてしまうこともある。本書では、現在進行形で絶えず働きかけを続けることで、地域の 意味が捉え直されていく希望があることも示されている。同時にそれは、その地域づくりが本当に失 敗だったのか、どのような意味で失敗だったのかを、私たちに問い直してくれるものでもある。

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