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The potential of spatially explicit survey method for diverse socio-cultural values regarding the natural environment:A case study of “The Painting by Children of the Past Waterscape Program” in Lake Mikatagoko, Fukui Prefecture, Japan

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(1)

原 著

自然に対する多様な価値づけについての空間明示的な調査手法と

成果の活用についての可能性と課題

─福井県三方五湖における

「昔の水辺の風景画」募集活動の検討から─

富田涼都

1

・ハスプロジェクト推進協議会

2

・吉田丈人

3, 4 1静岡大学農学部 2ハスプロジェクト推進協議会 3総合地球環境学研究所 4東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系

The potential of spatially explicit survey method

for diverse socio-cultural values regarding the natural environment:

A case study of “The Painting by Children of the Past Waterscape Program”

in Lake Mikatagoko, Fukui Prefecture, Japan

Ryoto Tomita

1

, NGO Hasu project

2

, Takehito Yoshida

3, 4

1Faculty of Agriculture, Shizuoka University 2NGO Hasu project

3Research Institute for Humanity and Nature 4Department of General Systems Studies, University of Tokyo

Abstract For the management of the relationship between wildlife and society, we are required to know diverse socio- cultural values regarding the natural environment. However, conventional survey methods have two major problems. First, they need detailed preliminary information of human-nature relationships, such as subsistence activity, folklore, history, and the ecosystem. Second, a detailed survey is difficult to conduct a spatially explicit analysis for a wide area, such as that involved at a municipal level.

In this study, we conducted an analysis of a citizen participation survey project at Lake Mikatagoko, in Fukui Prefec-ture, central Japan, called “The Painting by Children of the Past Waterscape Program”. From this, we developed a new survey method for diverse socio-cultural values regarding the natural environment, and this solved several conventional problems.

The method for this case obtained basic spatially explicit information for diverse socio-cultural values regarding the natural environment on a municipal scale. In particular, it was important to analyze values that were strongly based on individuals, places and times. However, quantitatively analyzing, the utilization of the workshop and professionals’ involvement were left as issues that needed to be addressed in order to develop better survey methods for diverse socio- cultural values.

   

受付日:2019 年 5 月 21 日 受理日:2020 年 2 月 20 日 責任著者:富田涼都 tomita.ryoto@shizuoka.ac.jp

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1.問題の所在 「野生生物と社会」におけるガバナンスと諸課題の解 決においては,人間社会が自然環境(生態系)に対して 行う多様な価値づけをどのように把握し,また活用する のかという点が重要なポイントになる.例えば,鳥獣被 害の現場における社会科学的研究においても,単に被害 を与える動物が「悪しき害獣」というネガティブな存在 と見なされるだけでなく,時と場合によっては「かわい い」「同じ土地のもの」といったポジティブな価値を伴 うこと,そのことが時として「野生生物と社会」の問題 解決が技術的な手段だけで達成されない原因になること が指摘されている(丸山 2006,鈴木 2007,Hill 2009). つまり,「野生生物と社会」の問題群の解決に際して は,まずは自然に対して多様な価値づけが現状としてど のように行われてきたのかを把握する必要がある.この 価値づけは,単に経済的あるいは物質的な価値だけでな く,知識や記憶,そして心象などの非物質的な価値も 含まれる(Millennium Ecosystem Assessment 2005,富田 2014).とりわけ非物質的な価値は,無意識的なものを 含めて当事者の自然環境の認識構造(何を認識し,何を 認識しないか)をもとにして形成される傾向がある(富 田 2017,福永 2017).そのため,価値づけの把握には, 自然環境の認識構造を含めて把握する必要がある. こうした自然に対する価値づけについて,既往の社会 調査や民俗調査の成果から読み解ける例は少なくない. 例えば,社会学的あるいは民俗学的な調査の結果 (鳥越・ 嘉田 1984,田口 1994,篠原 1995)や博物館の図録(静 岡市立登呂博物館 1997),都道府県・市町村史および個 人やローカルな研究会組織による郷土誌(佐賀 1995, 静岡県民俗学会 2006)などが挙げられる.また,知の 世代間継承や地域おこし,災害からの復興などを背景と して,近年では特定のテーマや地域の歴史文化などにつ いて,話者の語りをある程度再現したり,直接手記を掲 載したりして読み物に近い形でまとめた出版物も増えて いる(森の“聞き書き甲子園”実行委員会事務局 2005, ききがきや 2014,静岡在来作物研究会 2015,西城戸ほ か 2016). しかし,こうした「調査」の多くはあくまで結果的に 成果物から自然に対する多様な価値づけが読み解けてい るに過ぎないことには注意が必要である.社会調査や民 俗調査,「聞き書き」などの一般的な手法は教科書的な ものも整備されているが(宮内2004,大谷ほか 2005, 上野ほか 1987),それらの手法がそのまま「野生生物と 社会」の問題解決において「使える」ように最適化され ているわけではない. 一方,環境保全においては空間的な情報の把握の必要 性が指摘されている(武内ほか 2001).日本生態学会が 公表した自然再生事業指針(松田ほか 2005)において も,自然再生事業を計画する前提となる基本認識を共有 するために「時間的,空間的な広がりや風土を考慮して, 保全,再生すべき生態系の姿を明らかにする」ことを求 めていて,その地域の固有性や社会との相互作用につい ての情報を把握することが重要であるとしている.また, 鳥獣被害のマネジメントにおいても,被害状況と土地利 用等の重ね合わせによる空間的な状況の把握は集落レベ ルにおいても重要な課題であり,さらに自治体などの集 落を超えた範囲での土地利用を含めた空間的な対応手法 の開発が未整備であることが指摘されている(九鬼・武 山 2014,梶・土屋 2014). そもそも人間が自然環境と関わる際には,狩猟(田口 1994)はもちろん漁業や山仕事(篠原 1995),マイナー サブシステンス(松井 1998)など,さまざまな場面で かなり綿密なその地域固有の空間把握が行われる.ま た,そうした空間(場所)における価値づけが社会にお ける活動の原動力のひとつになることが知られている(福 永 2017,関 2013,鬼頭 1999). したがって,野生生物と社会の関係のマネジメントに おいて,その空間における自然に対する価値づけを把握 することは「野生生物と社会」の問題解決において必須 である.そのため,空間明示的かつ地域の自然に対する 多様な価値づけを把握できる調査手法とその成果の活用 について研究を進める必要がある. 本稿では,まず先行事例を検討して,空間明示的な地 域の自然に対する多様な価値づけの調査手法として備え るべき要素を整理する.そのうえで,この要素を備えう る調査手法の事例として,著者ら自身もその運営に参与 して福井県若狭町と美浜町において行われた「昔の水辺 の風景画」募集活動(Tomita et al. 2019)を対象に,空 間明示的な地域の自然に対する多様な価値づけについて の調査手法としての可能性と課題について検討する. Key words: diverse values, human-nature relationships, nature restoration, participation survey, spatially explicit survey

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2.方   法 本稿では,2 つのステップによって研究を行う.まず 先行して実施された調査事例から,空間明示的な地域の 自然に対する多様な価値づけの調査手法として備えるべ き要素を抽出する.次に,その要素を備えうる事例とし て,三方五湖における「昔の水辺の風景画」募集活動を 対象に,その手法や成果の活用の可能性と課題について 考察する. まず,第1 のステップとして,先行事例からの要素の 抽出については,「水辺遊び」に焦点を当てて,水辺の 自然環境に対する多様な環境認知を明らかにした日本で も最大規模の調査である「琵琶湖流域の三世代アンケー ト調査(1992~1994 年)」と,この琵琶湖の調査を含む 1990 年代から 2000 年代にかけて行われた環境保全活動 や市民参加型調査の経験をサーベイして開発された日本 自然保護協会(NACS-J)の「人と自然のふれあい調査」 (2010 年)を特徴的な先行事例として分析する.ここか ら,空間明示的な地域の自然に対する多様な価値づけの 調査手法として備えるべき要素を抽出する. 次に第2 のステップとして,その要素を備えうる仮説 的な事例として,筆者らも参画し,三方五湖周辺の流域 保全活動の一環として2009 年から 2017 年の毎年夏休み に若狭町および美浜町で行われた「昔の水辺の風景画」 募集活動を対象として,2009 年から 2018 年の間の関係 者からのインタビュー記録,地域で行われたワークショッ プの記録も含めて分析を行い,先行事例から抽出した要 素についての調査手法および成果の活用についての可能 性や課題について考察を行った. 三方五湖は,福井県の南西部にある若狭町と美浜町 にまたがる5 つの湖(水月湖,三方湖,久々子湖,日 向湖,菅湖)の総称である(図1).5 つの湖の面積の 合計は10.93 km2,周囲長の合計は34.25 km,直接海と 繋がる日向湖を除く流域面積は93.97 km2である(福井 県 2019).はす川が最大の流入河川で,若狭町内を流れ ている.5 つの湖はそれぞれ異なる塩分濃度であり,多 様な環境と自然分布の限定されるコイ科魚類であるハス (Opsariichthys uncirostris),イチモンジタナゴ(Acheilog-nathus cyanostigma)などが生息することから 2005 年に ラムサール条約登録湿地,2019 年に「三方五湖の汽水 湖沼群漁業システム」が日本農業遺産に認定された. なお,2015 年の国勢調査によれば若狭町の人口は 1 万 5257 人,美浜町の人口は 9914 人である(総務省統計局 2015). 本稿で取り上げる「昔の水辺の風景画」募集活動は, 2005 年より三方五湖流域の生物多様性保全について活 図1 .三方五湖とその周辺.国土地理院地形図より作成.

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動するNGO であるハスプロジェクト推進協議会(以下, ハスプロ)によって2007 年に若狭町内の小学校に対し て,夏休み期間を使って任意の応募を呼び掛けたことか ら始まった.この時は,「絵日記」のように風景画とそ れにまつわるエピソードを書いてほしいという依頼を行っ ていた.また,応募された絵は縄文博物館などの若狭町 内の施設で展覧会を開催するなどして公開した. 2009 年から筆者(富田・吉田)らの研究者グループ も企画立案に参画するようになり,後述するアンケート 票の追加や,「みんなの三方五湖マップ」というウェブ 上のGIS システムによる風景画の公開,そしてウェブ の公開データを利用した集落単位でのワークショップも 開催されるようになった.2015 年には若狭三方縄文博 物館において集まった水辺の絵画をもとにした企画展も 開催された(若狭三方縄文博物館 2015). 2011 年には,自然再生推進法に基づき三方五湖自然 再生協議会が設置され,筆者らを含む研究者や,NGO 団体としてハスプロもそのメンバーに加わった.また, 2013 年からは三方五湖自然再生協議会の取組の一つと しても募集活動が位置づけられ,協議会の支援の下,同 じ三方五湖流域の美浜町においても風景画の募集が行わ れることになった. 3.結   果 3-1.先行事例から求められる調査手法上の要素の抽出 3-1-1.「琵琶湖流域の三世代アンケート」の検討 琵琶湖流域において「水辺の環境研究会」と滋賀県琵 琶湖博物館開設準備室が中心となって行った三世代アン ケート調査(遊磨ほか 1997)は,自然に対する多様な 価値づけを明らかにしようとした日本におけるもっとも 充実した調査のひとつである.この調査は1992 年から 1994 年にかけて行われ,子どもたちがまず自分の水辺 遊びを記録し,そのあとで子どもたち自身が自分の父母, 祖父母に聞き取りを行うという参加型のアンケート調査 が核になっている.1 年目と 2 年目でモデル地区におけ る予備的な聞き取り調査と小学生によって大人へのイン タビューからアンケートを記入する「三世代アンケート 方式」を検討し,3 年目でほぼ琵琶湖流域にあたる全県 的なアンケート調査が行われた.この調査には予備調査 を含めると,子ども世代,父母世代,祖父母世代あわせ て延べ6000 人ほどが参加した大規模調査である. この調査では多様な「水辺遊び」に焦点を当てて,場 所や年代,生物名,道具などを「子ども世代」,「父母世 代」,「祖父母世代」ごとにアンケートを行うことによっ て,水田から河川や水路,湖に至るまで様々な水辺の自 然環境に対する多様な環境認知と世代間差を明らかにし た.例えば,魚類の呼び名の数を聞く質問では,男女と もに祖父母と父母世代と比べて魚類の呼称の多様性が子 ども世代で少ないことが統計的解析も踏まえて明らかに なった. また,市民参加型で行われたため流域単位での大規模 調査が可能になっているほか,調査活動を行うことで参 加者自身の「気づき」にもつながっている.さらに,情 報共有においても一部はデータベース化されて琵琶湖博 物館で公開されるなど,成果の活用法という点でも学ぶ べき点は多い(嘉田 ・ 遊磨 2000). しかし,この事例を調査手法として見ると,1 年目 2 年目と周到な予備調査を行っている点も含めてアンケー ト設計の前提となる充実した知見の蓄積と,実行に際し ての人的なネットワークの存在を前提としていることに は注意が必要である.すなわち本調査としてのアンケー ト調査の実施には,事前に「水辺の遊び」の様態や,そ こで見出されるだろう価値づけなどについての相当の情 報に裏付けられた事前の見通しによる調査設計,選択肢 の検討などが必要であり,充実した予備調査が欠かせな い. 実際,琵琶湖流域では少なくとも1980 年代より環 境に関する多くの社会科学的な事例研究(鳥越 ・ 嘉田 1984,鳥越 1989,嘉田 1995)が行われていたほか, 1989 年から「ホタルダス」と言われるホタル発生調査 から水辺との関係性を再考する市民参加型の取り組み が行われており,調査を支える市民レベルのネットワー クも琵琶湖流域の各地に存在していた(水と文化研究会 2000). つまり,琵琶湖流域は日本でも(おそらくは世界でも) 有数の「自然に対する多様な価値」についての情報や調 査を担った市民レベルの人的なネットワークを何年にも わたって集積してきた場所と言える.三世代アンケート 調査は,それを基礎として実行されているため,同様の ことをいきなり他所で再現することは簡単ではない.む しろ,「野生生物と社会」のコンフリクトに悩む多くの 地域では,こうした蓄積が十分ではないことが多く,そ もそもどんな価値づけが存在するかを探索できる,より 簡便な調査手法が必要である.また,この調査は四半世 紀前に実施されているため,その後の情報技術の進展に よって,調査結果の分析や情報共有方法などについても より多様な選択肢が取り得ることも指摘できる.

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3-1-2.人と自然のふれあい調査 1980 年代後半から日本全国で盛んになった里山など の身近な自然の保全活動は,保全対象が「ありふれた」 存在であり,希少な生物種などのシンボリックな保全対 象を見出しにくい.そのため,その地域固有の価値づけ を知る事が保全活動を行う上で重要な課題だった.これ に対応するために,保全活動の一環として,市民自身に よる生活文化などの聞き取り調査が行われるようになっ た.例えば,茨城県土浦市宍塚大池では,現地の市民団 体である「宍塚の自然と歴史の会」が里山を利用した地 域の暮らしについての聞き書きをすすめてきた.そこに は,暮らしの記憶だけでなく,地域への愛着や自分の人 生に対する自負,それを次世代に伝えたいという思いが 反映されている(宍塚の自然と歴史の会 1999).この活 動は,保全活動の参加者だけでなく宍塚の住民にとって も地域固有の自然に対する価値づけを顕在化させること になった(NACS-J ふれあい調査研究会 2005). このような日本全国の自然に対する価値づけの事例を サーベイし,日本自然保護協会(NACS-J)が研究者と 共同開発したのが「人と自然のふれあい調査」である (NACS-J ふれあい調査委員会 2010).基本的なプロセス としては,五感に残る自然との触れ合いについての定型 的な質問(1)のアンケート結果から,ランキングをとっ たり,KJ 法的な分類による「ふれあいマンダラ」など を制作したりして,回答者と共に大まかなその土地での 「人と自然のふれあい」を把握する.そこから詳しい聞 き取りや現地踏査と,その結果をまとめて報告する懇談 会を開催して参加者やゲストの間で調査結果を共有する ことを繰り返す.成果は,地域側の要望に基づいて地図 や「聞き書き」の冊子などにまとめる. 実際に宮崎県綾町で行われた「人と自然のふれあい調 査」の結果からは,川の遊びやアユ釣りがよく語られた り,動植物が「食べた」かどうかで判別されたり,道端 にある石が「しゃべる石」として名づけられていたりす るなど,住民なりの自然に対する価値づけが示された. また,日常の中で無数にあり得る自然との「ふれあい」 のなかで,そもそもどんな自然との「ふれあい」がクロー ズアップされるのかという事から,単なる「望ましい」 自然との記憶だけでなく,それを基礎づけている環境認 知の世界も示されている(図2).こうした価値づけは, 個人や時代,場所によって固有性が強いものではあるが, それが成果として公表されることによって価値の存在が 図2 . 綾町上畑地区の「ふれあいマップ」.この地区では,絵地図という成果の表現方法を使った.(イラスト:岩井友子,制作: 結デザインネットワーク)

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認められて,ユネスコエコパークの申請や照葉樹林保全 によるまちづくりを後押しする結果になるなど,さらな る別の価値を見出すような「きっかけ」にもなっている (富田 2017). このように「人と自然のふれあい調査」は,実際の現 場において,どのような自然に対する価値づけが存在す るか自体を探索しながら進められるため,必ずしも琵琶 湖のように充実した予備調査の蓄積がなくとも実行可能 である.また,地元の住民が地元に関する知識を発掘し て,自分たちの生活向上に役立てようとする「地元学」 (吉本 2008)などの手法を参考とし,住民を交えた当該 地域の巡検や地図化などの作業を取り入れて参加者間の コミュニケーションを促す手法を取り入れた.そのこと によって,単に調査することを超えて,情報の共有と人 的なネットワークの形成にも貢献することができる. 「人と自然のふれあい調査」は,里山などの身近な自 然の保全活動を参考として手法の開発が行われているた め,日常的な生活空間である集落などの範囲の調査や結 果の取りまとめはやりやすい.しかし,自治体や河川流 域などの日常的な生活空間を超えるような広い空間範囲 での調査は労力が膨大になったり,結果の取りまとめが やりにくいという手法上の弱点が存在する.綾町の生物 多様性地域戦略で行われたように,ふれあい調査の入り 口として用いられる「五感アンケート」やそれに近い「記 憶に残るふれあい」を聞くことに限定したアンケートを 用いることで,ある程度広域の環境認知を大まかに把握 することは可能ではある(小此木 2014).ところが,「五 感アンケート」だけでは,個人や場所,時代によって固 有性の強い価値づけの詳細までは把握ができない.また, 結果を空間明示的に示すとしてもかなり大雑把になって しまう.そして,アンケートのみでは情報共有のプロセ スが欠けてしまうこともあり,その結果の活用方法の探 索についても別個に考える必要がある. 3-2.「昔の水辺の風景画」の募集と集計の手法 以上の先行事例の検討から,自然に対する多様な価値 の把握の調査手法として求められる要素として,①自然 に対する価値の探索が行えること,②探索結果から個人 や時代等に固有性の強い価値づけも把握や分析が可能で あること,③自治体や流域などの日常的な生活空間を超 える範囲において空間明示的な調査や結果の提示が可能 であること,の3 点が挙げられる.本稿ではこの要素に ついて,三方五湖周辺で行われた「昔の水辺の風景画」 募集活動がその要素を持ちうると仮説として設定する. それを検証するために,以降では「昔の水辺の風景画」 募集活動の具体的な手法や得られた情報などを示し,3 点の要素から考察する. 「昔の水辺の風景画」募集活動は,2007 年から毎年, 6 月から 7 月ごろに若狭町,2013 年からは美浜町も加え たの全小学校長あてに依頼文書とともに募集チラシと応 募用紙(アンケート)の配布を行うという方法で実施し た.応募は児童の任意であるが,応募者には手ぬぐいや 缶バッジなどの参加賞を進呈している.この取り組みに よって2007 年から 2017 年までの 10 年間で 1543 枚の風 景画が集まった.このうちアンケートをつけて内容を集 計することができるようになった2009 年以降では 1325 枚になる(表1). 集まった風景画は,水辺の景観はもちろん,生物の様 子や人の行動,衣服なども当時の様子が細かく書かれて いるものもある.ただし,あくまで子どもが絵として描 くことができたものが表現されているので,風景画だけ だとその内容を解釈する材料が乏しくなり,空間的な情 報を含めて結果的にそこから得られる情報が少なくなっ てしまう. そのため,絵の内容を補足する情報を得るために2009 年から,子どもが描く風景画のほかに,絵の内容や場所, 時代についてのアンケート用紙を添付している.しかし, この段階では風景画の内容の傾向が必ずしも明らかでは なかったため,話者や地点,時代以外の風景画の内容そ のものについては基本的に自由記述で対応せざるを得な かった. 具体的なアンケート内容は,子どもが話を聞いた話者 の属性(子どもから見た話者との続柄の選択肢,例えば 祖父,祖母,父,母など)と年齢,絵の描かれた場所に 表1 . 年別の若狭町・美浜町の小学校児童数および応募枚数 (児童数は福井県学校基本調査より.美浜町での募集 は2013 年から開始) 年 小学校児童数 (内訳) 応募数 若狭町 美浜町 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 1521 1481 1443 1404 1393 1337 1302 1272 1249 1254 1243 995 949 937 922 897 874 846 850 832 825 839 526 532 506 482 496 463 456 422 417 429 404 69 149 152 142 180 165 243 105 193 82 63

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ついての集落名と地名,地図上の位置(地図の範囲は依 頼した小学校区の範囲を示した),絵の書かれた時代に ついての10 年刻みの選択肢,絵に描いた風景の思い出 や生き物,食べた話などのエピソードの自由記述,子ど もが話を聞いたり絵を書いたりした感想の自由記述,そ して追加調査に協力してもらえる場合の連絡先の記入欄 がある(アンケートの具体的な項目については表2 およ び図3 参照).また,応募された風景画は展覧会の展示 やウェブ上のデータベース等を通じて公開する旨を募集 要項において説明している. 応募された風景画とアンケートは,風景画部分につい ては整理番号とともにデジタルカメラで撮影し,アン ケート部分は絵と同じ整理番号を付記してスキャニング してデータベースに入力した.風景画をデジタルカメラ で撮影するのは,小学校では「四つ切りサイズ」の画用 紙(382 mm×542 mm)が用いられることが多く,通常 普及しているA3 および A4 サイズのスキャナーよりも 大きいためである.こうした情報の電子化を行うことで, 後述するようなWeb GIS による公開を可能し,内容の データベース入力や分析の作業を行いやすくことができ る. また,アンケートの自由記述を原文ママでデータベー スに入力する一方で,その時代,場所,風景画やアンケー トの自由記述の内容について「川」「フナ」「魚とり」な どの要素(単語)による「タグ」をデータベースに付加 した. 例えば,図4 の風景画(2012 年応募,時代:昭和 20 年頃,地点:岩屋集落,語り手:75 歳男性・祖父,「み んなの三方五湖マップ」より引用)には自由記述として 「いなごをくしにさして食べたり,学校の給食でおつゆ に入れて食べた.朝は,いなごがあまり飛ばないから早 朝に毎日つかまえに行った.そこの川にはカニなどが いっぱいいた.(原文ママ)」という様子が記されている. これに対して,データベースでは「川」,「イナゴ」,「虫 とり」,「カニ」とタグを付加している.「タグ」を後か ら付加したのは,予備情報として先述した風景画の内容 の傾向が必ずしも明らかではないという事情から,アン ケートの設計上自由記述を多くしたためと,小学生が書 き込むため表記ゆれが大きいという2 つの実務的な課題 に対してデータベースにおける検索を容易にするためで ある. 3-3.子どもによる「風景画」の制作過程 「昔の水辺の風景画」募集活動では,子どもが大人か ら話を聞き,その内容を子ども自身が絵や文章で記録す る.つまり,子どもにとっては「知らない」時代のこと を絵に描くことになるため,結果的に大人から詳しく話 を聞くことになること,それが世代をまたぐコミュニケー ションになることなどを狙っていた.しかし,これが本 当に行われるのかという点については,夏休みに行われ る風景画の制作の現場そのものを調査することは,調査 設計上のハードルが高い.そのため,2011 年 10 月 7 日 に若狭町内のA 小学校 2 年生( 6 ~ 7 歳)に対して, 授業時間中に,祖父母世代の大人6 名に昔の水辺の様子 を話してもらい児童16 名が絵を描くという特別講義を 開催してもらい,そのプロセスを観察した.毎年夏休み に募集する際の制作過程とは小学生たちの置かれた状況 の違いはあるが,コミュニケーションの内容などの参考 になると考えられた. この取り組みは,事前学習と当日の取り組みに分けら れる.まず,事前学習では授業の10 日前( 9 月 27 日) に,ウェブサイトの「みんなの三方五湖マップ」(後述) からA 小学校周辺について風景画募集で描かれた絵を 数枚紹介し,過去の水辺の様子が現在と異なることにつ いてのきっかけづくりを行う.その後,土日を含む期間 で家族に昔の水辺について話を聞いてくるように宿題を 出している. 当日は,最初の45 分で 6 名の祖父母世代の大人(50 代から70 代)に昔の水辺の生き物や遊び,生活などに ついて話してもらった(図5).その後の時間で 2 ~ 4 名の児童に1 名の大人がサポートしながら絵を描いた (図6).この時,図鑑の写真を見たり,景観の様子を絵 に書いて補足したりしながら,話者の大人がかなりサ ポートしないと絵に描けないことがわかった.例えば, 水辺にあった「木の杭」の話をしても,子どもは「杭」 自体を知らない(認知していない)ため,大人は実際に 「杭」の図を描いて見せる必要があった. 時間も,絵を書く作業だけで2 時間以上かかっていた. 事後の話者の大人に対するインタビューでは,「昔は物 が無かった分,有る物を使って(必要な道具を)作って いた.手を使っていたからその感触がまだ残っている. しゃべっているうちに思い出が出てくる.子どもに教え ているというか逆に教えられている.こうして自分の役 割があるのはうれしい」(2)という感想があったほか,「絵 を描くには時間が無い」(3),「子どもたちに口だけで伝え るのは難しい」(4),「家で話すと反発されるが,ここでは 素直.頼りにされるのはうれしい」(5),「よその子でもみ んな孫みたいなものと感じることができてかわいい」(6) 「子どもたちと魚とりをしたい」(7)といった意見もあり, 総じて好意的だった.子どもが大人から話を聞いて描く

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表2 .アンケートの質問項目 設問 回答形式 選択肢等 小学校名・学年 記述 ─ お話を聞いた方 選択 おじいさん,おばあさん,お父さん,お母さん,近所の人,その他の方 話を聞いた方の年齢 記述 ─ 絵の題名 記述 ─ この絵の場所はどこですか? 穴埋め記述 「    」集落の「    」あたり この絵はいつごろの風景ですか? 選択 昭和昭和20 年頃,昭和 30 年頃,昭和 40 年頃,50 年頃,その他 絵に描いた昔の風景の思い出や生き物について,お話をしてく れた人に聞いてみましょう!(例:すんでいた生き物やそれを つかまえた話,楽しかった遊びなど…) 記述 ─ 昔の水辺のお話を聞いたり,絵にかいたりして,あなたはどう 思いましたか? 記述 ─ この絵の場所やお話はどこでしょうか?地図に書き込んでみてく ださい.地図はおおむね学区域の範囲です.この地図の外の話な どのときは,空欄をつかって地図を自由に書いてみてください. 書き込み記述 学区域周辺の地形図を示す 後日改めて話を聞かせてもらえる場合の連絡先 記述 ─ 図3 .風景画に添付するアンケート用紙.

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風景画はこうした地道な作業の積み重ねで完成してい る.おそらく,これまでの「昔の水辺の風景画」募集活 動に応募された1500 枚以上の絵も少なからず同様のプ ロセスを経て描かれた可能性がある. 3-4.「風景画」に描かれた内容の分析 実際に応募された風景画の内容はどのようなものだっ たのか.概略をつかむために2009 年から 2014 年応募の 986 枚の絵やアンケートから読み取った内容について, この項ではTomita et al.(2019)で行われた集計内容か ら絵の内容を分析する. どんな水辺の種類(地形)の絵だったのかについて は,川の絵が582 枚と圧倒的に多かった.次いで湖が 147 枚,水田が 104 枚だった(図 7).風景画は若狭町と 2013 年からは美浜町も加えた全小学生に対して募集が 行われるため,その生活圏を反映して湖沿岸だけでなく 流入河川や水路,水田などの生活のなかで身近な水辺に ついての絵が多かったことを示していると考えられる. また,一部の地域は海(若狭湾)にも面しており「海」 に関する絵もあった. 次に,絵に描かれた生物をカウントする.同じ絵の中 に複数の生物が書き込まれることが通常なので,合計は 全体の風景画の枚数(986 枚)とは一致しない.最も多 く描かれていたのはカニで168 枚の絵に描かれていた (図8).カニには,主にモクズガニ(Eriocheir japonica) やサワガニ(Geothelphusa dehaani)と考えられる.アン ケートで明記されていたのは168 枚のうちモクズガニが 図4 .風景画の例(「みんなの三方五湖マップ」より引用). 図6 .児童が絵を描くサポートをする (A 小学校の授業にて). 図5 . 祖父母世代の大人が昔の水辺の様子を話す(A 小学校 の授業にて). 図7 .描かれた地形別の風景画の枚数.

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25 枚,サワガニが 18 枚であり,多くは単に「カニ」と しか判別できないものだった.しかし,これらのカニは, 川の上流から下流まで目撃される可能性があり,あらゆ る水辺で身近な存在だったことが伺える.次いでフナ 類(Carassius spp.)が 161 枚,ニホンウナギ(Anguilla japonica)が 124 枚という順だった.三方五湖流域では, 先述のラムサール条約の選定理由にあるようにハスやイ チモンジタナゴなどの希少な魚類や,ウナギやコイ,フ ナなどの漁業の対象種(特にウナギは名産とされる)が 注目されることが多い.その中で,カニは生態学的な希 少種とも経済的な重要種ともされていないが,風景画に おいてはもっとも登場するという結果になった. また,絵に描かれた行為についてカウントすると,圧 倒的に釣りや網,手づかみなどの魚とりが多く551 枚の 絵に描かれていた(図9).基本的は何らかの生き物を 捕獲する行為がほとんどを占めるが,水泳が描かれた絵 は102 枚,洗濯が描かれた絵も 14 枚あった. 以上からは全体的な傾向がうかがえるが,個別の風景 画の内容を検討すると,その話者自身が経験したことに ついての様子を知ることができる. 図10 の風景画(2010 年応募,時代:昭和 40 年頃, 地点:別庄集落,語り手:75 歳男性・祖父)のタイト ルは「田んぼで魚とり」で,「雨のよくふった5 月の田 にフナがさんらんにあがってくるのをたもやバケツのそ こをぬいたので,おさえてつかまえた(原文ママ)」と ある.これは,産卵期のフナが雨の後に田んぼに遡上し て産卵するのを捕獲した経験である.当時は用水路を通 じて湖から田んぼまで水系の連続性があり,湖の沿岸で はよく語られる経験でもある.捕獲した魚は食用にされ ることが多かった.また,この風景画では人物の服装も 当時のものを意識していると考えられる.風景画を描く 際には,こうした細かな点についても語られたと考えら れる. 図11 の風景画(2013 年応募,時代:昭和 40 年頃, 地点:気山集落,語り手:46 歳女性・母)のタイトル は「子ども会でしじみとり」で,「子ども会で久々子湖 のはまべへしじみとりに行きました.名前はわからない けど,小さな魚がたくさんおよいでいました.湖でおよ ぎました.(原文ママ)」とある.三方五湖のひとつの 久々子湖は汽水湖であり,ヤマトシジミが多く生息して いた.ヤマトシジミは,商業的な漁業の対象でもあった が,自家消費のために個人的なシジミ採りも行われてい 図8 .描かれた生物別の風景画の枚数(上位 20 位まで). 図9 .描かれた行為別の風景画の枚数(10 枚以上のもの). 図10. 風景画「田んぼで魚とり」(「みんなの三方五湖マッ プ」より引用).

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た.また,川や湖で泳いだという経験も描かれている. 図12 の風景画(2013 年応募,時代:昭和 30 年頃, 地点:北前川集落,語り手:63 歳女性・祖母)のタイ トルは「むかしの水べのふうけい」で,「川の石のあい だに,かにや,おさかながいました.むかしはせんたく きがなかったので川であらっていたそうです.(原文マ マ)」とある.このように数は多くないが,川で洗濯を 行った風景画もある.遊びだけでなく,生活の場だった 事実は子どもにも新鮮な経験として受け止められており, この絵を描いた子どもの感想には「むかし,川は,あそ びばだったり,せんたくをしたりと,人とちかいところ にあったんだなと思いました.(原文ママ)」と書かれて いる. 3-5.結果の公開と共有 「昔の水辺の風景画募集」では,集まった風景画それ 自体やその内容について,募集の参加者以外の人とも共 有する取り組みも同時に行っている.大きく分けて風 景画の展示や内容の講演,ウェブ上のGIS,集落単位の ワークショップの3 つの手法で行われた. 3-5-1.風景画の展示や内容の講演 風景画自体を展示することは風景画募集の初期の段階 から行われていた共有手法である.若狭町内にある「若 狭三方縄文博物館」や「パレア若狭」などの施設におい て展示会を行った.また,会が終わった後の風景画の一 部は博物館の館内でも引き続き展示された.これらは決 して規模が大きい展示会ではないが,実際に風景画募集 に関わった子どもや大人が見に来ることもあった(図 13).その集大成として,2015 年の冬季には若狭三方縄 文博物館の特別企画展も開催された(若狭三方縄文博物 館 2015). また,三方五湖に関するイベントである「五湖のめぐ みフォーラム」や「若狭町歴史環境講座」などの地域イ ベントにおいて絵の内容を報告する講演会を行った(図 14).イベントによっては,フナの刺身などの「湖のめ ぐみ」が実際の参加者にふるまわれることもあった.そ のため,関連した風景画を中心的に紹介するなどした. これらは,集まった風景画の紹介としてはもっとも簡 便で古典的な方法といえる.しかし,結果が共有できる 範囲が来場者に限られてしまうことと,講演だけだと発 信者(企画者)側からの情報提供になりがちで,情報の 受け手との双方向的なコミュニケーションが限定的に なってしまう,また,空間や時代についての情報を集合 図11. 風景画「子ども会でしじみとり」(「みんなの三方五 湖マップ」より引用). 13.展示会の様子(2011 年 1 月). 図12. 風景画「むかしの水べのふうけい」(「みんなの三方 五湖マップ」より引用).

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的な結果として表現しにくいという点が大きな弱点とし て存在する.後述する2 つの手法はそれらを補う位置づ けになる. 3-5-2.ウェブ上の GIS による公開 アンケートの内容から,風景画の時代と場所を集落単 位で特定できるようにしたことで,時間と空間による情 報の整序が可能になった.それを利用して,より多くの 人と成果を共有する方法としてウェブ上で閲覧するこ とができるGIS(地理情報システム)を「みんなの三方 五湖マップ」(三方五湖総合研究グループ 2019)として 2011 年 7 月 20 日より公開した(図 15).これまでウェ ブ上で公開されていたGIS システムは専門的な分析が できる一方で扱いが難しいものや,一方で閲覧は簡便だ が,表示や検索が可能な情報が少なくデータベースの編 集がしにくいということがあったため,空間情報科学を 専門とする専門家がシステムを開発した.このシステム

はOpen Street Map(当初は Google map を用いていたが

仕様が変わったため変更した)とMedia Wiki をベース として構築されている(8).閲覧者は,ウェブ上の地図か ら,風景画を検索することができる.検索した個別の風 景画については,個人情報が入らない風景画の画像,タ イトル,応募年,描いた時代,場所(集落単位),各種 のタグ,自由記述を閲覧することができる(図16). これにより,オンラインで誰でも空間明示的に風景画 の内容を見ることができる.また,絵に描かれた時代や 場所,あるいは書かれている要素(生物名など)で直感 的に風景画を検索することが可能になった.そのため, 学校の授業や講演会,ワークショップなどに関して特定 図15.「みんなの三方五湖マップ」スクリーンショット. 図14.五湖のめぐみフォーラムの様子(2014 年 11 月).

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のテーマや場所,時代に関する風景画を誰でも探しやす くなった.また,こうしたウェブ上の公開によって,空 間明示的な結果を共有できる範囲を不特定多数に広げる ことができた.ただし,ウェブ上の公開だけでは情報の 発信者と情報を閲覧した側,あるいは閲覧者同士のコ ミュニケーションは取りにくいという課題がある.ワー クショップの開催はこの課題への対応として企画された. 3-5-3.集落単位のワークショップ 集落単位のワークショップは講演会等を開催する中 で,より双方向的な成果の共有として着想された.ハス プロのコーディネートによって集落の協力を得て,流域 に点在する集落単位で2016 年から一年間に 2 回程度, 15 名ほどの参加者の規模で行われるようになった. ワークショップでは,まず40 分程度を使い風景画募 集のプロジェクトについて説明した後,全体の傾向やそ の地域周辺の地点について描かれた風景画を何点か紹介 する.その後,1 時間程度絵の内容やそれに関連する参 加者の水辺の経験について参加者間で語り合った.そこ では過去の写真や実際の絵画,地図などを補助的な資料 として用いて筆者らやハスプロのメンバーがファシリテー ションを行った(図17).地域周辺の絵の紹介は,ウェ ブGIS によって空間的な検索を行って事前にピックアッ プを行っており,1300 枚を超える蓄積がウェブ GIS で 行われていることをワークショップにおいて活用している. 当初は,ワークショップの会場に子どもから高齢者ま での多世代の参加者を集めることを想定した.ところが, 子どもが集まりやすい時間帯や場所と,高齢者が集まり やすい時間帯や場所が異なり,同じ会場での多世代の交 流を実現させにくいことが判明した.そのため実際の ワークショップの参加者では,昔の水辺に関しての経験 を持っている60 代以上の高齢者が占める割合が多かっ た. しかし,参加者間の語りからわかったのは,日常生活 の中では高齢者同士においても水辺に関する経験を共有 する機会は乏しいことだった.そのため,ワークショッ プでは参加した高齢者が過去の経験を改めて思い出した り,共通の経験を確認したり,逆に個人間や微妙な年代 による経験の違いを確認したりすることになった.また, それらの経験において楽しかったことや苦労したことな どの意味づけも共有された. こうしたプロセスにおいて水辺の経験の世界をシンボ リックに表現する「がんたぼう」や「やんちゃびい」と いう言葉も登場した.「がんたぼう」や「やんちゃびい」 とは,現地の方言で「いたずらっ子」や「おてんば娘」 といった意味を持つ.これは経験の主体である語り手本 人の過去の姿でもあり,昔の水辺の風景画で描かれてい るのは,その「がんたぼう」や「やんちゃびい」が活躍 していた世界だった. こうしたワークショップによるプロセスは,参加者に とっても水辺の経験に関する「再発見」をもたらすこと になった.参加者には経験自体はあっても,それを共有 する機会がなかったからである.そのため,「普段はこ うしたことを話す機会はなかったのでよかった」といっ た感想があるなど,ワークショップによる経験の共有の プロセスに対する参加者の満足度は高かった. 4.考   察 以上のような一連の「昔の水辺の風景画」募集活動に 対して,3-1 の先行事例の検討によって抽出された自然 に対する多様な価値づけの調査手法として求められる3 つの要素(①自然に対する価値の探索が行えること,② 探索結果から個人や時代等に固有性の強い価値づけも把 握や分析が可能であること,③自治体や流域などの日常 的な生活空間を超える範囲において空間明示的な調査や 結果の提示が可能であること)について「昔の水辺の風 景画」募集活動の調査手法としての可能性を検討し,調 査結果の活用と手法において持っている課題についても 考察を行いたい. 4-1.自然に対する価値の探索としての可能性 応募された昔の水辺の風景画には,ラムサール条約に 指定されている「三方五湖」の範囲に限らない水辺の様 子や,また,産業的に重要な生物種や,希少な生物種に 図17.ワークショップの様子(2018 年 2 月 17 日).

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限らない生物が数多く描かれていることがわかった.も ちろん,風景画には,聞き手である子どもに語り手であ る大人が「話した内容」が反映されているため,それは そのまま過去にあった水辺における経験の総体を表現し ているわけではない.また,生物学的な生物の生息等を 網羅して反映しているわけでもない.このことは風景画 やデータの解釈上の注意点である一方で,自然に対する 価値の探索としては重要なポイントにもなっている. 例えば,今回の風景画では「カニ」が最も多く登場し たが,過去の若狭町や美浜町において実体として「カ ニ」に関する営みが多かったとは限らないし,生物とし て「カニ」が特別多く生息していたかどうかはわからな い.風景画やそのエピソードに描かれた生物としてはカ ニが最も多い(168 枚)にもかかわらず,風景画の内容 自体は圧倒的に魚とりの絵が多く(551 枚),「カニ」を メインにした「カニとり」という行為が描かれた絵は 107 枚しかない.このことから「カニ」は,それ自体が 水辺の思い出のメインというよりも「背景」として認知 されていた可能性は高い.「カニ」の描かれた数の多さ は,こうした水辺の様子を示す要素として大人に認知さ れ,子どもに語られる機会が,産業上重要な「ウナギ」 や保全上の希少種である「ハス」などよりも多かったこ とを示している. これは子どもに対して大人が語ろうとした水辺がどん なものであったかを反映していると考えられる.その点 で言えば,「カニ」をはじめとして「ドジョウ」「メダカ」 「アメリカザリガニ」「ナマズ」などの生き物が風景画に 比較的多く登場したことは,地域の大人たちがよく認知 し,子どもに語ることができる,そして次世代である子 どもに語り伝えたい水辺の姿を反映していると考えられ る. つまり,他にも数多くあるはずの水辺の経験のうち 「何が語られたのか」に注目することで,「産業上重要」 「保全上重要」といった外在的な価値づけとは異質の自 然に対する認識や価値づけの存在を探索することができ る.ワークショップを通じて,それが日常における身近 な水辺における「がんたぼう」や「やんちゃびい」とい う言葉に象徴されることが発見され,参加者にとって も,企画者にとっても「学び」(富田 2018)が産まれて いることも示された.今回の風景画募集は設計上,大人 は地域に居住する親密な関係の小学生に対して話をする ようになっているため,同じことを外部の調査者がイン タビューするよりも,よりこうした価値づけを探索しや すい結果がでていると考えられる. さらに集落単位のワークショップにおいては,日常生 活の中では高齢者同士においても水辺に関する経験を共 有する機会は乏しいこと,そして小学校の授業の事後の インタビューからも,水辺に関する経験が世代を超えて 日常の生活においては存在しないことが示唆されている. つまり,「昔の水辺の風景画」募集活動やその後のワー クショップという機会は,外部者(専門家など)にとっ てだけでなく,地域に住む大人や子どもにとっても自然 に対する価値づけの探索であり,その「学び」の機会と もなっている.これは大人の話を聞いて小学生が風景画 を描くという設計やワークショップによる情報の共有を 通じて可能になったといえる. 4-2. 個人や時代等に固有性の強い価値づけの把握とし ての可能性 「昔の水辺の風景画」募集活動の特徴の一つは,単な るアンケート調査とは違って,聞いた話をもとに「風景 画」を子ども自身が描くという点にある.A 小学校での 授業の観察でも示されたように,聞いた話を絵として描 くには,その場所や生き物,人物や状況などの細かい情 報が必要である.それは,話し手の詳細な情報が風景画 に込められていることを意味する.3-4 でも紹介したよ うに,語り手の行為やその背景,感情なども絵や文章に 含まれている.例えば同じ「田んぼに産卵に来た魚を獲 る」絵でも,その内容は微妙に異なる.このテキストを より詳細に検討するだけでも豊かなエピソードの数々 を知ることができる.1 枚当たりの分量はまちまちだが 1000 枚を超える風景画が蓄積しているため,それを丁 寧に読み解くだけでもかなりなボリュームがある.しか も,これらの絵や文章は基本的にウェブ上で閲覧でき る.それを用いるだけでも,定性的には個人や時代等に 固有性の強い価値づけの把握や分析を行うことは可能で ある. また,風景画を通じて大人の経験を共有した感想を自 由回答で書く欄もある.多くの子どもの感想は,「昔は すごい」「川がきれいだとは知らなかった」「魚がそんな にいたなんて」「その時代に行ってみてやってみたい」 といったポジティブな感想が多く書かれていた.一方で, 「昔の生活は大変で,今に生まれてよかった」や,「今も 魚とりはするから昔と変わらない」という感想も少ない 数ではあるが存在した.これらの感想の内容で共通して いるのは,大人から伝えられた昔の水辺の経験は,子ど もたちにとっては「これまで知らなかったもの」である ことがわかる.つまり,ポジティブな評価であれ,ネガ ティブな評価であれ,子どもにとっては,大人の経験や そこに内在する価値は新鮮なものとして認識されている.

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これは,A 小学校の授業の事後インタビューの内容など でも裏付けられる. つまり,風景画の製作の段階で,聞き手となる小学生 と語り手となる大人,それも祖父母などの身近な大人と の世代を超えた個人や時代等に固有性の強い経験の共有 が多く行われていることがわかる.すなわち,「昔の水 辺の風景画」募集活動では,10 年間で延べ 1500 件を超 える水辺についての世代間の経験とそこに内在する価値 の伝達が行われたと見ることができる.また,その後の ワークショップは結果的に語り手となり得る高齢者間の 伝達にもなっている. 現在の三方五湖自然再生事業においては,目標の3 つ の柱の一つとして「生活の中で受け継がれてきた湖の文 化の伝承」が掲げられているが,ここでいう「文化の伝 承」とは,こうした経験や価値の伝達によっても行われ ると評価できる. 4-3. 日常的な生活空間を超える範囲の空間明示的な調 査としての可能性 「昔の水辺の風景画」募集活動においては小学校を通 じた募集を行ったことによって,若狭町と美浜町の全域 から10 年近くをかけて 1000 枚以上の水辺に関する経験 とエピソードを収集することができた.小学校は,比較 的身近な範囲に配置されており,自治体ごとにネットワー キングされている.流域などの自然条件を必ずしも反映 はしないが,その地域や子どもたちに密着しているネッ トワークの一つであり,この協力が得られることで運用 がしやすくなっていることは間違いない.これは,個別 の聞き書きに頼る手法では現実的には達成することがで きない自治体単位の広域の調査である.在籍している児 童の数と応募数の対比(表1)を見ても,年によって差 があるが最大で20%近い児童からの応募があった.こ れだけの割合が網羅されている情報であることは特筆す べきである.さらに,この募集は夏休みに任意の応募と して受け付けているが,小学校等との事前の準備をより 密に行って,授業の一環として行うなどによって応募率 を上げることも可能だろう. また,風景画募集で集まるエピソードは単なる「語 り」ではなく,昔の水辺の風景画という,ある時代と空 間が明示された中での「スナップショット」について の「語り」である点にも注目すべきである.通常のイン タビュー調査だと,得られた生の語りでは,時代や場所 などが一貫しない内容が含まれることが多く,GIS のよ うな分析・表示ツールを用いるためには時代(時間)と 空間などによって改めて生の語りを構造化する作業が必 要である(宮内 2004).この作業は社会調査等において 「語り」を分析するにあたってはオーソドックスな手法 ではあるものの,これ自体に大きな労力がかかってしま う. 一方で,風景画は,もともと題材となっている時代や 空間をある程度特定することができるスナップショッ トである.この性質は時間と空間で情報を整理するGIS のような分析・表示ツールとも相性が良い.だからこそ, 「みんなの三方五湖マップ」として結果を表示しやすく, 誰しもが時代や地域などを限定した検索をし,分析する ことが可能である. こうした定量的かつ空間明示的な結果の提示によっ て,全体的にはマイナーでも特定の時代や空間では重要 な経験についての語りを見つけることも可能である.例 えば,洗濯は風景画全体の傾向からすればマイナーな題 材ではあるが,語り手や聞き手のジェンダーや世代,当 時の水利用インフラ,そして子どもの反応を踏まえると, 日常生活に密着した水辺との関係を考えるときには,特 徴的な経験の語りであるといえる. 4-4.調査手法に関する課題 一方で,「昔の水辺の風景画」募集活動を調査手法と してみたときの課題も明らかになった.まずは,情報共 有に重要な役割を担っている「みんなの三方五湖マッ プ」のウェブのサーバーの維持費用(40 万円/年程度) については,外部の研究者がボランタリーに負担してい るのと,このシステムの開発そのものは空間情報科学の 専門家の助力を得ているため,他地域で同じことをやろ うとする場合にはそれを確保する必要がある.助成金等 の資金源の多くは時限的なものが多いため,サーバー維 持費用のような継続的に発生する費用の問題は,解決が 必須の課題になる. また,10 年以上活動が継続したことによって判明 した課題もある.表2 からもわかるように,応募率は 2013 年をピークに下がっており,それに関連して小学 生側からはすでに何回か応募していて代わり映えがしな いという指摘もある.毎年1 年生の加入と 6 年生の卒業 があるとはいえ,毎年募集を行うと大多数の小学生に とって,話を聞いて絵を描く,という部分については繰 り返しの作業になってしまう.そのため,後述する成果 の活用という課題とも関連して工夫が必要になる.例え ば,風景画の内容を単純に集計するだけでなく,空間(場 所)や時代,語り手に特異的なものを空間的・統計的な 解析等によって見出し,自然再生事業等において具体的 に解決しようとする課題に対する情報を提供したり,新

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たにテーマ性のある調査設計を行ったりすることなどが 挙げられる.いわば,調査の参加者だけでなく,企画者 にとっても「学び」によって順応的に調査設計をする必 要がある(富田 2018). ただし,この課題は,「昔の水辺の風景画」募集活動 の開始当初は問題にはならない.なぜなら,開始当初は 取り組み自体,参加者にとっても目新しいものであるし, そもそも自然に対する多様な価値づけに関する情報がな い段階で「探索」を行うための調査設計としては,充分 な成果を残すことができているからである.その意味で, 繰り返しの作業になってしまうという「課題」は,さら にこの「昔の水辺の風景画」募集活動やその成果を発展 させる際に直面するものだと言えるし,そのためには成 果の活用のあり方と同時に考えざるを得ない. 4-5.調査結果の活用に関する課題 活用のあり方についての課題は,先行事例より抽出し た自然に対する多様な価値づけの調査手法として求めら れる3 つの要素(①自然に対する価値の探索が行えるこ と,②探索結果から個人や時代等に固有性の強い価値づ けも把握や分析が可能であること,③自治体や流域など の日常的な生活空間を超える範囲において空間明示的な 調査や結果の提示が可能であること)を直接的には超え た部分ではあるが,前項のように活動の継続によって見 えてきた課題から,その成果の活用のあり方についての 議論も避けられないことが明らかになった.つまり,そ もそも「昔の水辺の風景画」募集活動によって得られた 情報や,そのプロセスで行われたコミュニケーションが, 自然再生事業をはじめとする何らかの新しい行動を生ん だり,活かせたりするのかどうか,あるいは新しい行動 につなげるにはどうしたらよいかという課題である. それは,より時間の流れに注目していえば,過去の経 験を共有しつつ,いかにして未来の展望を得るかという 問題とも言える(富田 2014).もともと「野生生物と社 会」の課題は,「今あるモノを保存する」という古典的 な自然保護の発想では対応しきれない.例えば,野生生 物の(適正な)個体数や自然再生事業の目標などは「今 はない」未来を目標とせざるを得ない.その未来の目標 がなぜ「望ましい」とされるのかは,科学知だけでは解 を出すことはできず,基本的には社会の中で合意形成す ることになる(平川 2010,丸山 2013). 三方五湖では,2012 年に三方五湖自然再生協議会の 自然再生全体構想において,この風景画募集活動によっ て集まった風景画が引用され,自然再生事業の目標につ いてのイメージを作ることに貢献はしている.しかし, それ以上に募集の結果を何か具体的な現場における計画 の設定に活用したり,風景画の制作過程で行われた子ど もと大人のコミュニケーションを自然再生事業等に活用 したりする活動はまだ始められていない.現段階で行わ れている集落単位のワークショップでも,何かを決定 するというほど話をまとめることはできておらず,価 値の探索を通じた「体験共有型ワークショップ」(平井 2017)としての機能に留まっている.それは取組を行っ ていく際の社会的な基盤形成になり得ると考えられる が,さらなる活用をするためにも共有プロセスの工夫は 重要課題である. つまり,もっと具体的な自然再生事業に関する計画を 住民目線で設定したりするためには何らかの合意や行動 計画を作っていくためのワークショップの設計も必要で ある.また,そのような価値の探索やワークショップの 設計に活かすためにも,すでに集められた1000 枚を超 える昔の水辺の風景画から,質的・量的双方で,これま での紹介したもの以外にも分析が必要であり,それは今 後の課題としたい. 幸い,三方五湖における「昔の水辺の風景画」募集活 動においては,風景画の内容の情報がMedia Wiki を通 じてウェブ上に蓄積されており,(解析のしやすさは別 としても)生に近いデータが公開されていて,誰でもそ れを利用することができる.その点では,1990 年代に 行われた「琵琶湖流域の三世代アンケート」よりも, ウェブの情報技術によって筆者ら以外の分析者や実践家 の参加を得て成果の活用や情報の分析が行える可能性が ある. ただし,現実的にはこのような調査の分析の深化や情 報共有,ワークショップの開催,そして新たな調査の企 画などにおいては,専門的な知見の活用も必要になる. その意味で段階に応じた「専門家」の支援(9)をうける ことができる仕組みづくりも広い意味での「手法」の問 題として検討する必要あるだろう (丸山 2007).例えば, 琵琶湖では三世代調査だけでなく,各種の市民調査にお いて,琵琶湖博物館に在籍する専門家が重要な役割を果 たしてきた(水と文化研究会 2000).いつ,どのような 段階で,どういうタイプの専門家が,どのような支援を 行うことが適切なのかについて,より多くのケーススタ ディによって検証することや,先述のサーバー維持費に 見られるような情報共有の基盤のあり方,関与する専門 家に対するインセンティブなど,市民と専門家の協働に よってその土地固有の知を見出していく知識生産・流通・ 活動のプロセスの研究の進展もまた今後の課題として残 されているといえるだろう.

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5.結   論 これまでの考察を踏まえて,本稿で取り上げた三方五 湖における「昔の水辺の風景画」募集活動やそれに関連 する情報共有の取組は,以下のように評価できることが 明らかになった. まず,大人の話を聞いて小学生が風景画を描くという 設計やワークショップによる情報の共有により,「学び」 を通じた地域に内在的な自然に対する価値の探索を行う ことができる.次に,風景画の製作の段階で,聞き手と なる小学生と語り手となる大人,それも祖父母などの身 近な大人との世代を超えた個人や時代等に固有性の強い 経験の共有が多く行われているほか,それがウェブ上の 情報公開とワークショップ等の開催によって二次的に共 有可能であることからも個人や場所,時代の固有性が強 い価値づけについても把握や分析ができる.そして,自 治体ごとに組織化されている小学校を通じた募集を行う ことと,「風景画」という一定の時間と空間の「スナッ プショット」についてのエピソードを集めるという手法 によって,自治体や流域などの日常的な生活空間を超え る範囲において空間明示的な調査や結果の提示ができる. そのため,本稿で取り上げた事例は,「野生生物と社 会」の問題解決の基礎となる,ある特定の地域の自然に 対する多様な価値づけの調査手法のモデルのひとつとし て考えることができる. 一方で,調査を始めるにあたっての情報基盤の整備と 維持や,その成果の活用のためには,「学び」による順 応的な調査設計と活用方法の模索が求められるため,風 景画の募集で得られた情報についてのさらなる定量的・ 空間的な分析の必要や,情報共有プロセスのあり方,専 門家の関与についてのさらなる検討の必要性も示された. これらは,自然に対する多様な価値づけを捉え,実際の 「野生生物と社会」の問題解決に導くための今後の研究 課題としたい. 謝   辞 「昔の水辺の風景画」募集活動に応募していただいた 福井県若狭町と美浜町の方々,企画運営にご協力いただ いた関係の方々に心より感謝の意を表します.また,こ の研究は,科学研究費補助金(24243054・26590089・ 16H02039・18H00920),環境省および(独)環境再生保全 機構の環境研究総合推進費(D-0910・S15・4-1505),人 間文化研究機構総合地球環境学研究所のプロジェクト (14200103)による成果の一部です. 注 (1) 具体的には,「目に浮かぶ風景」,「耳に残る音」, 「鼻に思い出す匂い」,「肌によみがえる感触」,「舌 に懐かしい味」について聞いている. (2) 2011 年 10 月 7 日,小学校で講話した B さん (男性) からの聞き取り. (3) 2011 年 10 月 7 日,B さんからの聞き取り. (4) 2011 年 10 月 7 日,小学校で講話した C さん (男性) からの聞き取り. (5) 2011 年 10 月 7 日,小学校で講話した D さん (女性) からの聞き取り. (6) 2011 年 10 月 7 日,C さんからの聞き取り. (7) 2011 年 10 月 7 日,小学校で講話した E さん (女性) からの聞き取り. (8) システムの技術的な詳細は Kumagai et al. (2010)を 参照. (9) 例えば,専門家の関与のあり方については科学技術 コミュニケーションの文脈(Collins & Evans 2002) から,情報基盤やオープンサイエンスに関与する専 門家に対するインセンティブなどの問題は集合知の 形成についての文脈(ニールセン 2013)からの議 論もある.これらの議論との接続については今後の 課題としたい. 引用文献

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平井太郎(2017)「ふだん着の地域づくりワークショッ プ」.筑波書房,東京.

平川秀幸(2010)「科学は誰のものか」.NHK 出版,東 京.

表 2 .アンケートの質問項目 設問 回答形式 選択肢等 小学校名・学年 記述 ─ お話を聞いた方 選択 おじいさん,おばあさん,お父さん, お母さん,近所の人,その他の方 話を聞いた方の年齢 記述 ─ 絵の題名 記述 ─ この絵の場所はどこですか? 穴埋め記述 「    」集落の「    」あたり この絵はいつごろの風景ですか? 選択 昭和 20 年頃,昭和 30 年頃,昭和 40 年頃, 昭和 50 年頃,その他 絵に描いた昔の風景の思い出や生き物について,お話をしてく れた人に聞いてみましょう!(例:

参照

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