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新型コロナウイルス感染症の流行と疫学的解析について(その1)

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(1)

はじめに

 国内での新型コロナウイルスの感染拡大により,4 月 7 日に出された緊急事態宣言が全国に拡大され,新規感染者 の減少等の結果,5 月 25 日までに全ての都道府県につい て宣言が解除された。本稿を執筆する 6 月 16 日現在,解 除後も福岡県や東京都で 2 桁を超える新規感染者が確認さ れ,東京都では,新たな注意喚起を促す「東京アラート」 が発動されるなど,予断を許さない状況が続いている。  中国が原因不明の肺炎について,WHO に初めて報告し たのは今年(2020 年)の 1 月 5 日1)。日本は,年号が令和 に変わって 2 年目を迎え,いよいよ 56 年ぶりの開催とな る東京オリンピックの開催を迎えようとしていた。それか らまだ半年程度しか経過していないが,この間に世界で感 染した人は 760 万人以上,死者は 42 万人を超え,現在も 毎日 10 万人以上の新たな感染者が見つかっている(いず

解 説

新型コロナウイルス感染症の流行と疫学的解析について(その 1)

山本健久* 国立研究開発法人 農業・生物系特定産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門 ウイルス・疫学研究領域疫学ユニット

COVID-19 Outbreak and Epidemiological Researche in Japan - Part

1-Takehisa YAMAMOTO*

Epidemiology Unit, Division of Viral Disease and Epidemiology

National Institute of Animal Health, National Agriculture and Food Research Organization  

Summary

  On 5th January 2020, World Health Organization notified all member states about the new outbreak of pneumonia of unknown cause in Wuhan City, Hubei Province of China. It was a beginning of pandemic of the novel transmissible disease, which was later named as COVID-19. The causative agent was soon searched using whole genome analysis and a new coronavirus that is very similar to the virus causing SARS was identified. The virus was named SARS-CoV-2. COVID-19 rapidly spread inside China and the Government of China decided to shut all public transportation at the end of January. In Japan, a man who travelled back from Wuhan city in early January was the first case. To rescue Japanese nationals trapped in Wuhan, the Japanese Government chartered five flights. All passengers were put under quarantine after arrival and were subjected to PCR testings. On 1st February, a passenger on a cruise

ship ‘Diamond Princess’ that had departed from Yokohama was confirmed to be infected with SARS-CoV-2 at Hong Kong. Therefore, all passengers and crews on the ship were put under quarantine offshore Yokohama, the final destination of the cruise. PCR testings were performed on symptomatic persons and persons that had close contact with cases. The number of cases increased day by day from the start of the quarantine. Epidemiological research was conducted worldwide from an early stage and demonstrate good indices to understand epidemiology of COVID-19. Case reports from China showed presence of many asymptomatic cases especially in younger generations. Mathematical modelling studies estimated the length of incubation period of COVID-19 and its serial interval and the possibility of transmission during asymptomatic period was also highlighted to give warning. Effectiveness of the quarantine measures on the Diamond Princess was evaluated in another study and drastic reduction of the predicted number of future cases was proven. At the end of February, a specialist advisory group was organized under the Ministry of Health, Labor and Welfare. Advised by this group, Japan started to tackle COVID-19 by applying a unique strategy in the world.

    連絡先 : 山本健久* 国立研究開発法人 農業・生物系特定産業技術総合 研究機構 動物衛生研究部門 ウイルス・疫学研究 領域疫学ユニット 〒305⊖0856 茨城県つくば市観音台 3⊖1⊖5 Tel : 029⊖838⊖7769 E-mail : [email protected]

(2)

れも 6 月 13 日時点2))。この感染症が,どのような特徴を 持ち,社会,コミュニティそして個人レベルでどのように 対応,適応していくべきかについては,各国の政府機関, 研究者や医療機関などから次々と公表・報告がなされてき た。現在の日本における新型コロナウイルス感染症の流行 と対策を理解する上では,感染初期から世界が歩んできた 過程を知ることが重要と思われる。「その1」とする本稿 では,この感染症が世界に知られてから,日本における対 策が本格化するまでを整理したい。特に,本病の対策では 理論疫学と呼ばれる手法が重要な役割を担っていることか ら,こうした手法と,その背景にある関連情報に重点を置 いて紹介したい。

最初の報告

 感染症の流行に関する情報の国際的な早期共有を行って いるメールニュースである ProMED-mail が,中国中部の 湖北省の州都である武漢市において,原因不明の肺炎の発 生を伝える報道を配信したのは 2019 年 12 月 30 日である3) 12 月 31 日,同様の情報が中国政府機関から WHO に報告 され,WHO は年明けの 1 月 5 日,武漢市における原因不 明の肺炎の発生について公式に発表した。これによると, その時点までに 44 名の感染者が確認され,11 人が重傷で あること。感染者の一部が武漢市内の海鮮卸売市場で働い ていたことこの市場は,1 月 1 日付けで閉鎖されたこと, また,ヒト - ヒト感染は確認されていないことを伝えてい る。この通報を受けて,厚生労働省は,翌 6 日付けで全国 の衛生部局が渡航者への注意喚起などを行うとともに, WHO が公表した内容などについてプレスリリースを発出 した4)

中国での感染拡大

 初期の感染者が勤務していた場所として名前が挙げられ た華南海鮮卸売市場は,およそ東京ドーム 1 つ分程度の敷 地に 1000 店舗以上が並ぶ市場で5),海産物の他,100 種類 を超える野生動物が取り扱われていた。最初の報告の後も, 武漢市を中心として感染が拡大し,9 日には初めての死者 が確認された6)。その後も感染が拡大したため,武漢市は, 1 月 23 日から武漢市を出入りする鉄道やバスなどの運行 を停止し,市全体を閉鎖した。いわゆる,ロックダウンと いわれる措置で,商店等も完全に閉鎖されることにより, 市民の生活は大幅に制限されることとなった。また,これ と同じ時期,中国政府は,この新興感染症に対応するため の専門病院として,武漢市内に 2 つの病院の建設を開始し, これらの病院は 2 月 5 日までに相次いで開院した7)。この 頃(2 月 4 日時点)の感染者数は湖北省全体で 1 万 6 千人 を超え,死亡者数は 500 人近くに達している8)。この感染 の中心となった武漢市と,東京都の概況を比較すると,武 漢市の面積は東京の約 4 倍,人口はおよそ 1 千万人で東京 のおよそ 8 割である9)。従って,人口密度では東京の 5 分 の 1 に過ぎず,感染症の流行制御の観点からは,東京の方 がはるかに厳しい条件と言える。

病原体の特定

 この伝染病の原因となったウイルスについての解析が中 国の研究機関を中心に進められ,1 月 9 日までに,中国政 府から WHO に対し,SARS(重症急性呼吸器症候群)や MARS(中東呼吸器症候群)の原因となったウイルスとは 別の,コロナウイルスによるものと考えられるとの報告が なされた10)。12 月 26 日に入院した,海鮮市場で働いてい た 41 歳の男性から分離されたウイルスの全ゲノム情報が 解析され,1 月 7 日付けで Nature 誌に投稿された11)。この 全ゲノム情報は,論文公開前の 1 月 10 日には WHO と共 有されるとともに12),遺伝子情報の国際データベースであ る GenBank で公開され13),その後の各国での遺伝子学的 研究に役立てられることとなった。この論文では,武漢で 分離されたウイルスは,2015 年に中国浙江省舟山市でコ ウモリから採取された,SARS コロナウイルスに似たウイ ルス14)と最も近縁であったとし,MARS や SARS と同様に, コウモリがこのウイルスの自然宿主である可能性を指摘し ている。その後,2 月 11 日に,このウイルスは,SARS コ ロナウイルスに近縁であることに基づいて,国際ウイルス 分類委員会により SARS-CoV-2 と命名された15)。同日付で WHO は,このウイルスによる疾病を COVID-19(Coronavirus disease 2019)と命名することを発表した16)  コロナウイルスはエンベロープのある 1 本鎖の RNA ウ イルスである。電子顕微鏡でウイルス粒子を観察すると, ウイルス表面に突起が並んでいて,太陽のコロナのように 見えることからこう呼ばれている。人の病原体としてのコ ロナウイルスには,SARS の原因となった SARS コロナウ イルス(SARS-CoV)や MARS の原因となった MARS コ ロナウイルス(MARS-CoV)が含まれるが,季節性の「か ぜ」の原因の 10~15%を占める 4 種類のコロナウイルス がより一般的である17)。SARS は 2002 年に中国広東省で 発生し,2003 年 7 月の終息宣言までにアジア各国やカナ ダなどの 30 以上の国に拡大した。全世界での感染者数は 8,096 人,うち 774 人(9.6%)が死亡している18)。一方, MARS は 2012 年にサウジアラビアで発見され,その後, 中東地域を中心に 27 カ国の 2,494 人が感染し,うち,858 人(34.4%)が死亡した。この際,韓国では中東から帰国 した感染者 1 名から,病院内で感染拡大し,186 人に感染 拡大している17)  コロナウイルスはまた,獣医学的にも重要な病原体であ る。家畜では牛で下痢を起こす牛コロナウイルス(BCoV), 豚では豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV),豚呼吸器コロ ナウイルス(PRCoV),豚流行性下痢ウイルス(PEDV), 豚血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)が知られており, 鶏では鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)が重要である。 ペットにおいても胃腸炎や下痢などを起こすイヌコロナウ イルス(CCoV),ネココロナウイルス(FECoV)やネコ 伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が知られている19)。これら の動物で見られるコロナウイルスは基本的に宿主特異的 で,人に感染することは知られていない。しかしながら, RNA ウイルスであるコロナウイルスは変異を起こしやす く,容易に性質を変えて宿主の壁を越える可能性があ る20)。実際に,SARS-CoV に類似したウイルスは中国のコ ウモリから多数見つかっており21),MARS-CoV は,中東 のヒトコブラクダに感染したウイルスが人に伝播して発生 した22)と考えられているが,ヒトコブラクダは中間宿主で, コウモリが自然宿主である可能性がある11)。新型コロナウ イルス(SARS-CoV-2)についても,自然宿主はコウモリ と考えられているが,中国国内で違法輸入により摘発され たセンザンコウ(Pangolin)由来のウイルス遺伝子が新型 コロナウイルスと似た特徴を有していることが分かってお り,コウモリ以外の中間宿主の存在が疑われている23)。な お,センザンコウが中国国内で高値で取引されているのは その鱗が漢方薬として珍重されているためである23)。新型 コロナウイルスが野生動物に由来する可能性を考慮し,中 国政府は中国国内での野生動物の食用利用を禁止する方針 を示しているが,伝統医学である「中国医学」に関連する 商品は今でも流通しているなど,対策の実効性には課題が 残されている24)

日本での最初の発生

 日本と中国の人の動きの関係を見ると,国籍別の訪日外 国人の人数では中国人が最も多く,約 30%を占めてい る25)(2019 年)(図 1)。また,中国から見た場合,中国人 の渡航先として,香港,マカオ,台湾を除けば,タイが 1 位で 16%,日本がこれに次いで 12%となっている26)(2017 年)。これらのデータは中国で感染症が発生した場合の, 日本への侵入リスクの高さを示している。特に本年 1 月 24 日からの一週間は中国では春節と呼ばれる大型連休で, それ以前から帰省や海外旅行が盛んになるため,厳重な警 戒が必要と考えられていた。  武漢市での原因不明の肺炎の発生に伴い,厚生労働省は 1 月 6 日付けで,武漢市滞在歴のある肺炎患者については, 国立感染症研究所(感染研)での検査が可能である旨を周 知した27)。最初の感染者は,この仕組みによって検査され た武漢市からの帰国者である。武漢市滞在中の 1 月 3 日か ら発熱しており,1 月 6 日に帰国し国内の病院を受診した ところ,前述の検査対象となり,感染研での検査の結果, 15 日までに感染が確認された28)。国内での感染者の確認 に伴い,全ての感染者について,積極的疫学調査が行われ, 感染者が感染させた可能性のある全ての人について,健康 観察や検査が行われた。例えば,22 日時点では,この 1 例目の感染者に関連する 18 名が検査対象となっている29)

チャーター便による帰国者での発生

 1 月 24 日には,中国からの旅行者が 2 例目として確認30) されるなか,日本政府は,武漢市に滞在する日本人をチャー ター機で帰国させる方針を決定した。武漢市からのチャー ター機は 1 月 29 日に第 1 便が到着し31),その後,2 月 17 図 1 国籍別訪日外国人(2019)と中国人の渡航先国別出国者数(2017) ただし,中国人の渡航先のうち,香港,マカオ,台湾は除く 出典:いずれも日本政府観光局25, 26)

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れも 6 月 13 日時点2))。この感染症が,どのような特徴を 持ち,社会,コミュニティそして個人レベルでどのように 対応,適応していくべきかについては,各国の政府機関, 研究者や医療機関などから次々と公表・報告がなされてき た。現在の日本における新型コロナウイルス感染症の流行 と対策を理解する上では,感染初期から世界が歩んできた 過程を知ることが重要と思われる。「その1」とする本稿 では,この感染症が世界に知られてから,日本における対 策が本格化するまでを整理したい。特に,本病の対策では 理論疫学と呼ばれる手法が重要な役割を担っていることか ら,こうした手法と,その背景にある関連情報に重点を置 いて紹介したい。

最初の報告

 感染症の流行に関する情報の国際的な早期共有を行って いるメールニュースである ProMED-mail が,中国中部の 湖北省の州都である武漢市において,原因不明の肺炎の発 生を伝える報道を配信したのは 2019 年 12 月 30 日である3) 12 月 31 日,同様の情報が中国政府機関から WHO に報告 され,WHO は年明けの 1 月 5 日,武漢市における原因不 明の肺炎の発生について公式に発表した。これによると, その時点までに 44 名の感染者が確認され,11 人が重傷で あること。感染者の一部が武漢市内の海鮮卸売市場で働い ていたことこの市場は,1 月 1 日付けで閉鎖されたこと, また,ヒト - ヒト感染は確認されていないことを伝えてい る。この通報を受けて,厚生労働省は,翌 6 日付けで全国 の衛生部局が渡航者への注意喚起などを行うとともに, WHO が公表した内容などについてプレスリリースを発出 した4)

中国での感染拡大

 初期の感染者が勤務していた場所として名前が挙げられ た華南海鮮卸売市場は,およそ東京ドーム 1 つ分程度の敷 地に 1000 店舗以上が並ぶ市場で5),海産物の他,100 種類 を超える野生動物が取り扱われていた。最初の報告の後も, 武漢市を中心として感染が拡大し,9 日には初めての死者 が確認された6)。その後も感染が拡大したため,武漢市は, 1 月 23 日から武漢市を出入りする鉄道やバスなどの運行 を停止し,市全体を閉鎖した。いわゆる,ロックダウンと いわれる措置で,商店等も完全に閉鎖されることにより, 市民の生活は大幅に制限されることとなった。また,これ と同じ時期,中国政府は,この新興感染症に対応するため の専門病院として,武漢市内に 2 つの病院の建設を開始し, これらの病院は 2 月 5 日までに相次いで開院した7)。この 頃(2 月 4 日時点)の感染者数は湖北省全体で 1 万 6 千人 を超え,死亡者数は 500 人近くに達している8)。この感染 の中心となった武漢市と,東京都の概況を比較すると,武 漢市の面積は東京の約 4 倍,人口はおよそ 1 千万人で東京 のおよそ 8 割である9)。従って,人口密度では東京の 5 分 の 1 に過ぎず,感染症の流行制御の観点からは,東京の方 がはるかに厳しい条件と言える。

病原体の特定

 この伝染病の原因となったウイルスについての解析が中 国の研究機関を中心に進められ,1 月 9 日までに,中国政 府から WHO に対し,SARS(重症急性呼吸器症候群)や MARS(中東呼吸器症候群)の原因となったウイルスとは 別の,コロナウイルスによるものと考えられるとの報告が なされた10)。12 月 26 日に入院した,海鮮市場で働いてい た 41 歳の男性から分離されたウイルスの全ゲノム情報が 解析され,1 月 7 日付けで Nature 誌に投稿された11)。この 全ゲノム情報は,論文公開前の 1 月 10 日には WHO と共 有されるとともに12),遺伝子情報の国際データベースであ る GenBank で公開され13),その後の各国での遺伝子学的 研究に役立てられることとなった。この論文では,武漢で 分離されたウイルスは,2015 年に中国浙江省舟山市でコ ウモリから採取された,SARS コロナウイルスに似たウイ ルス14)と最も近縁であったとし,MARS や SARS と同様に, コウモリがこのウイルスの自然宿主である可能性を指摘し ている。その後,2 月 11 日に,このウイルスは,SARS コ ロナウイルスに近縁であることに基づいて,国際ウイルス 分類委員会により SARS-CoV-2 と命名された15)。同日付で WHO は,このウイルスによる疾病を COVID-19(Coronavirus disease 2019)と命名することを発表した16)  コロナウイルスはエンベロープのある 1 本鎖の RNA ウ イルスである。電子顕微鏡でウイルス粒子を観察すると, ウイルス表面に突起が並んでいて,太陽のコロナのように 見えることからこう呼ばれている。人の病原体としてのコ ロナウイルスには,SARS の原因となった SARS コロナウ イルス(SARS-CoV)や MARS の原因となった MARS コ ロナウイルス(MARS-CoV)が含まれるが,季節性の「か ぜ」の原因の 10~15%を占める 4 種類のコロナウイルス がより一般的である17)。SARS は 2002 年に中国広東省で 発生し,2003 年 7 月の終息宣言までにアジア各国やカナ ダなどの 30 以上の国に拡大した。全世界での感染者数は 8,096 人,うち 774 人(9.6%)が死亡している18)。一方, MARS は 2012 年にサウジアラビアで発見され,その後, 中東地域を中心に 27 カ国の 2,494 人が感染し,うち,858 人(34.4%)が死亡した。この際,韓国では中東から帰国 した感染者 1 名から,病院内で感染拡大し,186 人に感染 拡大している17)  コロナウイルスはまた,獣医学的にも重要な病原体であ る。家畜では牛で下痢を起こす牛コロナウイルス(BCoV), 豚では豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV),豚呼吸器コロ ナウイルス(PRCoV),豚流行性下痢ウイルス(PEDV), 豚血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)が知られており, 鶏では鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)が重要である。 ペットにおいても胃腸炎や下痢などを起こすイヌコロナウ イルス(CCoV),ネココロナウイルス(FECoV)やネコ 伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が知られている19)。これら の動物で見られるコロナウイルスは基本的に宿主特異的 で,人に感染することは知られていない。しかしながら, RNA ウイルスであるコロナウイルスは変異を起こしやす く,容易に性質を変えて宿主の壁を越える可能性があ る20)。実際に,SARS-CoV に類似したウイルスは中国のコ ウモリから多数見つかっており21),MARS-CoV は,中東 のヒトコブラクダに感染したウイルスが人に伝播して発生 した22)と考えられているが,ヒトコブラクダは中間宿主で, コウモリが自然宿主である可能性がある11)。新型コロナウ イルス(SARS-CoV-2)についても,自然宿主はコウモリ と考えられているが,中国国内で違法輸入により摘発され たセンザンコウ(Pangolin)由来のウイルス遺伝子が新型 コロナウイルスと似た特徴を有していることが分かってお り,コウモリ以外の中間宿主の存在が疑われている23)。な お,センザンコウが中国国内で高値で取引されているのは その鱗が漢方薬として珍重されているためである23)。新型 コロナウイルスが野生動物に由来する可能性を考慮し,中 国政府は中国国内での野生動物の食用利用を禁止する方針 を示しているが,伝統医学である「中国医学」に関連する 商品は今でも流通しているなど,対策の実効性には課題が 残されている24)

日本での最初の発生

 日本と中国の人の動きの関係を見ると,国籍別の訪日外 国人の人数では中国人が最も多く,約 30%を占めてい る25)(2019 年)(図 1)。また,中国から見た場合,中国人 の渡航先として,香港,マカオ,台湾を除けば,タイが 1 位で 16%,日本がこれに次いで 12%となっている26)(2017 年)。これらのデータは中国で感染症が発生した場合の, 日本への侵入リスクの高さを示している。特に本年 1 月 24 日からの一週間は中国では春節と呼ばれる大型連休で, それ以前から帰省や海外旅行が盛んになるため,厳重な警 戒が必要と考えられていた。  武漢市での原因不明の肺炎の発生に伴い,厚生労働省は 1 月 6 日付けで,武漢市滞在歴のある肺炎患者については, 国立感染症研究所(感染研)での検査が可能である旨を周 知した27)。最初の感染者は,この仕組みによって検査され た武漢市からの帰国者である。武漢市滞在中の 1 月 3 日か ら発熱しており,1 月 6 日に帰国し国内の病院を受診した ところ,前述の検査対象となり,感染研での検査の結果, 15 日までに感染が確認された28)。国内での感染者の確認 に伴い,全ての感染者について,積極的疫学調査が行われ, 感染者が感染させた可能性のある全ての人について,健康 観察や検査が行われた。例えば,22 日時点では,この 1 例目の感染者に関連する 18 名が検査対象となっている29)

チャーター便による帰国者での発生

 1 月 24 日には,中国からの旅行者が 2 例目として確認30) されるなか,日本政府は,武漢市に滞在する日本人をチャー ター機で帰国させる方針を決定した。武漢市からのチャー ター機は 1 月 29 日に第 1 便が到着し31),その後,2 月 17 図 1 国籍別訪日外国人(2019)と中国人の渡航先国別出国者数(2017) ただし,中国人の渡航先のうち,香港,マカオ,台湾は除く 出典:いずれも日本政府観光局25, 26)

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日までに計 5 便が運航された。これらのチャーター機の乗 客は,原則として,全員について帰国時に PCR 検査が実 施され,帰国時点で症状が認められた場合や,PCR 検査 で陽性が確認された場合には医療施設への入院となった。 陰性の場合には帰国から 2 週間を観察期間として,この間 は指定された宿泊施設に滞在し,滞在中に 2 回目の PCR 検査が実施された。1 便から 5 便までの帰国者の人数と, 検査により判明した感染者の人数をまとめると表 1 のよう になる。829 人の帰国者のうち 14 人(1.7%。後述する, 国内で感染したと考えられる 1 名を除く)で感染が確認さ れ,うち 4 名(0.5%)は無症状感染者であった32)。なお, 第 2 便の帰国者のうち2名は,帰国時の PCR で陰性であっ たため,2 週間の観察期間をともに自宅で過ごしていた。 その後,検疫期間中にこのうち 1 名が発症し感染が確認さ れた後,同居者も発症し検査で陽性となった。この際,2 人目の発症は帰国後 22 日目であったことから,中国国内 で感染していたとは考えにくく,帰国後に家庭内でのヒト - ヒト感染により感染したと考えられている33)。これらの チャーター機で帰国した際,到着時に何らかの症状が認め られ,一時的に入院となった帰国者は合計 34 名(1 機あた り 2~13 名)であったが,このうち到着時の PCR 検査で陽 性となったのは 1 名,2 週間の待機期間中に陽性となった のはこの 1 名を含む 5 名(14.7%)であった31, 32, 33, 34)

ダイヤモンド・プリンセス号での発生

 1 月 20 日に横浜を出発したクルーズ船「ダイヤモンド・ プリンセス号」は,鹿児島,香港,ベトナム,台湾と沖縄 に寄港し横浜に戻る計画であった。その途中の香港で 1 月 25 日に下船した男性について,2 月 1 日に香港で感染が確 認され,香港当局から日本政府に情報提供があった35)。こ の男性は,乗船前に中国から飛行機で日本へ入国しており, 乗船前から咳などの症状があったようだ36)。同船は 2 月 3 日に横浜に到着したが,日本政府は,香港政府からの情報 に基づき,乗客の上陸を認めず,PCR 検査を含む検疫を 行うこととした。症状がある人と,その濃厚接触者の検査 を行った結果,2 月 5 日までに 10 人の感染が確認され37) 医療機関に搬送された。新たな感染者が確認されたことに より,同船に対して,2 月 5 日から 14 日間の検疫が実施 されることとなった35)。検疫開始時点で,同船には,乗客 2,666 人,乗員 1,045 人の合計 3,711 人が乗船していた。検 疫実施の基本的な方針として,(1)船内の個室で 14 日間 隔離し,隔離開始後 5 日目以降に PCR 検査で陰性を確認 する,(2)検査陽性者と発症者(陽性でない者を含む)は 下船させて医療機関に搬送する,(3)船室の同居者に新た な陽性者が確認された場合,陽性者が退室してから 24 時 間経過後に,改めて検疫期間(14 日間)を起算する,(4) 乗客の検疫を優先し,乗員の検疫は乗客の下船が終わって から開始する,といった決定がなされた38)。船内の感染拡 大防止対策として,船内の空気の循環を止めるといった措 置がとられたが,体力維持の観点から船内の散歩は認めら れた。また,船内での生活を維持するため,一部の乗員に ついては,食事の提供や清掃といった勤務の継続が認めら れた35)。検疫の開始以降,乗客及び乗員に対して,順次 PCR 検査が実施された結果,徐々に感染者が確認され,2 月 18 日までの感染者は乗客 466 名,乗員 65 名の 531 名と なった。これらの感染者の年齢分布を見ると,クルーズ船 の客層を反映して,およそ 6 割を 60 歳以上が占めている。 また,感染者の国籍も多様であり,2 月 19 日までの乗客・ 乗員の感染者の国籍の内訳は,日本,アメリカ,カナダ,オー ストラリア,フィリピン,香港,中国など 28 カ国に渡っ ている39)。2 月 19 日までに 3,011 人の検査が終了したため, 検査等で陰性が確認された乗客について,同日以降,下船 が開始されたが,公共交通機関を使用して帰宅したこれら の乗客のうち一部は,上陸後または帰国後に感染が確認さ れた40)。最終的な感染者数は,712 人(19.2%)で(6 月 5 日時点),そのうち 13 名が死亡している(感染者の 1.8%)。 同船内での感染拡大は,基本的に外部からの人の移動がな い状況で起こったため,船内での感染は船内の感染者から 表 1 武漢からのチャーター便による帰国者の感染確認状況 到着日 到着人数 (A) A のうち到着時症状 あり(B) B のうち 到着時の PCR 陽性 B のうち 2 週間以内に 感染を確認 A のうち 2 週間以内に 感染を確認 (C) C のうち 無症状 A のうち2 週間以上 経過後感染を 確認 第 1 便 1 月 29 日 206 5 0 2 5 1 第 2 便 1 月 30 日 210 13 0 1 4 1 1 第 3 便 1 月 31 日 150 10 0 1 3 2 第 4 便 2 月 7 日 198 4 0 0 1 第 5 便 2 月 17 日 65 2 1 1 1 合計 829 34 1 5 14 4 1 起こったと考えることができる。すなわち,船内での感染 拡大の状況を解析することにより,新型コロナの感染拡大 の特徴を知ることが可能であると考えられた。北海道大学 大学院医学研究院社会医学分野の西浦 博教授は,船内で の感染者の摘発状況から,毎日の感染者数を推定するとと もに,2 月 5 日に開始された隔離措置の有効性を検証し た40)。その結果,乗客の感染のほとんどは隔離開始時点よ り前に起こっており,日本に到着するまでに,船内で大規 模な感染拡大が起こっていたと推定された。また,隔離開 始により,乗客の新規感染が大幅に減少していたのに対し, 食事の提供などのために移動が認められていた従業員で は,2 月 5 日の隔離措置の開始以降も多くの感染が認めら れた。こうした乗客と乗員の感染時期の違いについては, 感染研の報告35)でも示されている(図 2)。西浦の研究では, さらに,隔離措置を行わなかった場合の感染拡大を予測し, 隔離を行った場合と比較したところ,隔離を行わない場合 の最終的な感染者数はおよそ 13 倍になると推定され,隔 離措置が有効であったと考えられた。  隔離措置の開始後,乗客・乗員の感染確認が相次いだこ とから,同船の乗員・乗客を船内にとどめおいたことにつ いての批判が国内外で相次いだ41)。しかしながら,検疫開 始後に確認された乗客の感染は主に検疫開始前に起こって いたことが疫学分析から明らかにされたのである35, 40)。ま た,感染が確認されていない乗客の中にも潜伏期間中の感 染者が含まれている可能性があったことと,多言語による 対応が必要であったことを考慮すると,これらの乗客・乗 員を一度に収容できる医療施設の確保は極めて難しかっ た。このことは,武漢市からのチャーター便の帰国者は, 一便あたりの乗客数が 200 人程度であったことから,陰性 が確認されるまでの期間,原則として政府が用意した宿泊 施設で隔離されたこととは対照的と言えるだろう。参考と して,新型コロナ発生による体制強化が行われる前の,感 染症に対応した病床数(感染症病床数)は全国で合計 1,871 床,結核に対応した病床も 3,502 床に過ぎなかった42)。実 際に,ダイヤモンド・プリンセス号の対応においては PCR 検査陽性者や発症者のみを近隣の医療施設で受け入 れる対応としたものの,そのことが,その後の感染拡大に おいて,特に首都圏の医療体制を逼迫させる大きな要因の 1 つとなった43)

WHO と中国の合同調査

 2 月 16 日 か ら 24 日 に, 各 国 の 専 門 家 が 参 加 し て, WHO と中国による合同調査が行われ,その調査報告書が 公表された12)。この調査報告書については,市民団体によ る邦訳が行われ,同じく公表されている44)。この中で,中 国における本病の流行の特徴が報告されている。具体的に は,感染者の年齢分布について,中央値が 51 歳であり, 大多数(77.8%)が 30~69 歳であった。感染者の濃厚接 触者の特定と検査(臨床検査を含む)を徹底したところ, 濃厚接触者の感染率は深圳市で 2.8%,四川省で 0.9%,広 東省で 4.8%であった。平均潜伏期間は 5~6 日であり,臨 床検査で確認された患者のうち,約 80%で軽度から中等 度の疾患,13.8%が重度の疾患(呼吸困難や血中酸素飽和 度 93%以下など)を有し,6.1%が危篤(呼吸不全,敗血 症性ショック,多臓器不全など)となった。60 歳以上の 高齢者であること,高血圧,糖尿病,心血管疾患,慢性呼 吸器疾患や癌などの基礎疾患が重篤化の要因と考えられ た。致命割合(CFR)は 1 月 1~10 日の発症例では 17.3% で,2 月 1 日以降の発症例では 0.7%に低下した(なお, 感染症流行後のこうした CFR の低下は,検査体制の整備 により,症状が明らかでない感染者の摘発が進むことなど により,一般的に認められる)。また,報告書では算出法 図 2 クルーズ船乗員乗客の常設診療所訪問日別発熱患者数(n = 79) 出典:国立感染症研究所ホームページ35)

(5)

日までに計 5 便が運航された。これらのチャーター機の乗 客は,原則として,全員について帰国時に PCR 検査が実 施され,帰国時点で症状が認められた場合や,PCR 検査 で陽性が確認された場合には医療施設への入院となった。 陰性の場合には帰国から 2 週間を観察期間として,この間 は指定された宿泊施設に滞在し,滞在中に 2 回目の PCR 検査が実施された。1 便から 5 便までの帰国者の人数と, 検査により判明した感染者の人数をまとめると表 1 のよう になる。829 人の帰国者のうち 14 人(1.7%。後述する, 国内で感染したと考えられる 1 名を除く)で感染が確認さ れ,うち 4 名(0.5%)は無症状感染者であった32)。なお, 第 2 便の帰国者のうち2名は,帰国時の PCR で陰性であっ たため,2 週間の観察期間をともに自宅で過ごしていた。 その後,検疫期間中にこのうち 1 名が発症し感染が確認さ れた後,同居者も発症し検査で陽性となった。この際,2 人目の発症は帰国後 22 日目であったことから,中国国内 で感染していたとは考えにくく,帰国後に家庭内でのヒト - ヒト感染により感染したと考えられている33)。これらの チャーター機で帰国した際,到着時に何らかの症状が認め られ,一時的に入院となった帰国者は合計 34 名(1 機あた り 2~13 名)であったが,このうち到着時の PCR 検査で陽 性となったのは 1 名,2 週間の待機期間中に陽性となった のはこの 1 名を含む 5 名(14.7%)であった31, 32, 33, 34)

ダイヤモンド・プリンセス号での発生

 1 月 20 日に横浜を出発したクルーズ船「ダイヤモンド・ プリンセス号」は,鹿児島,香港,ベトナム,台湾と沖縄 に寄港し横浜に戻る計画であった。その途中の香港で 1 月 25 日に下船した男性について,2 月 1 日に香港で感染が確 認され,香港当局から日本政府に情報提供があった35)。こ の男性は,乗船前に中国から飛行機で日本へ入国しており, 乗船前から咳などの症状があったようだ36)。同船は 2 月 3 日に横浜に到着したが,日本政府は,香港政府からの情報 に基づき,乗客の上陸を認めず,PCR 検査を含む検疫を 行うこととした。症状がある人と,その濃厚接触者の検査 を行った結果,2 月 5 日までに 10 人の感染が確認され37) 医療機関に搬送された。新たな感染者が確認されたことに より,同船に対して,2 月 5 日から 14 日間の検疫が実施 されることとなった35)。検疫開始時点で,同船には,乗客 2,666 人,乗員 1,045 人の合計 3,711 人が乗船していた。検 疫実施の基本的な方針として,(1)船内の個室で 14 日間 隔離し,隔離開始後 5 日目以降に PCR 検査で陰性を確認 する,(2)検査陽性者と発症者(陽性でない者を含む)は 下船させて医療機関に搬送する,(3)船室の同居者に新た な陽性者が確認された場合,陽性者が退室してから 24 時 間経過後に,改めて検疫期間(14 日間)を起算する,(4) 乗客の検疫を優先し,乗員の検疫は乗客の下船が終わって から開始する,といった決定がなされた38)。船内の感染拡 大防止対策として,船内の空気の循環を止めるといった措 置がとられたが,体力維持の観点から船内の散歩は認めら れた。また,船内での生活を維持するため,一部の乗員に ついては,食事の提供や清掃といった勤務の継続が認めら れた35)。検疫の開始以降,乗客及び乗員に対して,順次 PCR 検査が実施された結果,徐々に感染者が確認され,2 月 18 日までの感染者は乗客 466 名,乗員 65 名の 531 名と なった。これらの感染者の年齢分布を見ると,クルーズ船 の客層を反映して,およそ 6 割を 60 歳以上が占めている。 また,感染者の国籍も多様であり,2 月 19 日までの乗客・ 乗員の感染者の国籍の内訳は,日本,アメリカ,カナダ,オー ストラリア,フィリピン,香港,中国など 28 カ国に渡っ ている39)。2 月 19 日までに 3,011 人の検査が終了したため, 検査等で陰性が確認された乗客について,同日以降,下船 が開始されたが,公共交通機関を使用して帰宅したこれら の乗客のうち一部は,上陸後または帰国後に感染が確認さ れた40)。最終的な感染者数は,712 人(19.2%)で(6 月 5 日時点),そのうち 13 名が死亡している(感染者の 1.8%)。 同船内での感染拡大は,基本的に外部からの人の移動がな い状況で起こったため,船内での感染は船内の感染者から 表 1 武漢からのチャーター便による帰国者の感染確認状況 到着日 到着人数 (A) A のうち到着時症状 あり(B) B のうち 到着時の PCR 陽性 B のうち 2 週間以内に 感染を確認 A のうち 2 週間以内に 感染を確認 (C) C のうち 無症状 A のうち2 週間以上 経過後感染を 確認 第 1 便 1 月 29 日 206 5 0 2 5 1 第 2 便 1 月 30 日 210 13 0 1 4 1 1 第 3 便 1 月 31 日 150 10 0 1 3 2 第 4 便 2 月 7 日 198 4 0 0 1 第 5 便 2 月 17 日 65 2 1 1 1 合計 829 34 1 5 14 4 1 起こったと考えることができる。すなわち,船内での感染 拡大の状況を解析することにより,新型コロナの感染拡大 の特徴を知ることが可能であると考えられた。北海道大学 大学院医学研究院社会医学分野の西浦 博教授は,船内で の感染者の摘発状況から,毎日の感染者数を推定するとと もに,2 月 5 日に開始された隔離措置の有効性を検証し た40)。その結果,乗客の感染のほとんどは隔離開始時点よ り前に起こっており,日本に到着するまでに,船内で大規 模な感染拡大が起こっていたと推定された。また,隔離開 始により,乗客の新規感染が大幅に減少していたのに対し, 食事の提供などのために移動が認められていた従業員で は,2 月 5 日の隔離措置の開始以降も多くの感染が認めら れた。こうした乗客と乗員の感染時期の違いについては, 感染研の報告35)でも示されている(図 2)。西浦の研究では, さらに,隔離措置を行わなかった場合の感染拡大を予測し, 隔離を行った場合と比較したところ,隔離を行わない場合 の最終的な感染者数はおよそ 13 倍になると推定され,隔 離措置が有効であったと考えられた。  隔離措置の開始後,乗客・乗員の感染確認が相次いだこ とから,同船の乗員・乗客を船内にとどめおいたことにつ いての批判が国内外で相次いだ41)。しかしながら,検疫開 始後に確認された乗客の感染は主に検疫開始前に起こって いたことが疫学分析から明らかにされたのである35, 40)。ま た,感染が確認されていない乗客の中にも潜伏期間中の感 染者が含まれている可能性があったことと,多言語による 対応が必要であったことを考慮すると,これらの乗客・乗 員を一度に収容できる医療施設の確保は極めて難しかっ た。このことは,武漢市からのチャーター便の帰国者は, 一便あたりの乗客数が 200 人程度であったことから,陰性 が確認されるまでの期間,原則として政府が用意した宿泊 施設で隔離されたこととは対照的と言えるだろう。参考と して,新型コロナ発生による体制強化が行われる前の,感 染症に対応した病床数(感染症病床数)は全国で合計 1,871 床,結核に対応した病床も 3,502 床に過ぎなかった42)。実 際に,ダイヤモンド・プリンセス号の対応においては PCR 検査陽性者や発症者のみを近隣の医療施設で受け入 れる対応としたものの,そのことが,その後の感染拡大に おいて,特に首都圏の医療体制を逼迫させる大きな要因の 1 つとなった43)

WHO と中国の合同調査

 2 月 16 日 か ら 24 日 に, 各 国 の 専 門 家 が 参 加 し て, WHO と中国による合同調査が行われ,その調査報告書が 公表された12)。この調査報告書については,市民団体によ る邦訳が行われ,同じく公表されている44)。この中で,中 国における本病の流行の特徴が報告されている。具体的に は,感染者の年齢分布について,中央値が 51 歳であり, 大多数(77.8%)が 30~69 歳であった。感染者の濃厚接 触者の特定と検査(臨床検査を含む)を徹底したところ, 濃厚接触者の感染率は深圳市で 2.8%,四川省で 0.9%,広 東省で 4.8%であった。平均潜伏期間は 5~6 日であり,臨 床検査で確認された患者のうち,約 80%で軽度から中等 度の疾患,13.8%が重度の疾患(呼吸困難や血中酸素飽和 度 93%以下など)を有し,6.1%が危篤(呼吸不全,敗血 症性ショック,多臓器不全など)となった。60 歳以上の 高齢者であること,高血圧,糖尿病,心血管疾患,慢性呼 吸器疾患や癌などの基礎疾患が重篤化の要因と考えられ た。致命割合(CFR)は 1 月 1~10 日の発症例では 17.3% で,2 月 1 日以降の発症例では 0.7%に低下した(なお, 感染症流行後のこうした CFR の低下は,検査体制の整備 により,症状が明らかでない感染者の摘発が進むことなど により,一般的に認められる)。また,報告書では算出法 図 2 クルーズ船乗員乗客の常設診療所訪問日別発熱患者数(n = 79) 出典:国立感染症研究所ホームページ35)

(6)

は示されていないが,新型コロナの基本再生産数を 2~2.5 と推定している。

中国での流行から見えてきたこと

 中国での原因不明の肺炎の発生に関する情報が世界に拡 散し始めた年明け以降,中国国内での発生状況や,中国か らの出国者の発生状況に基づく疫学的な解析が世界中で開 始された。最初の報告は 1 月 17 日に英国のインペリアル・ カレッジ・ロンドンから報告されたもの45)で,中国から 各国への入国者における感染者の割合から,武漢市内の感 染者数の推定を行っている。要するに,海外で見つかった 感染者から算出した感染率を,武漢市の居住者数に掛けた のである。公表されている 1 月 12 日までの感染者数が 41 人であったのに対して,同じ時期の実際の感染者数を 1,723 人(95%信用区間で 427~4,471 人。入院等の対象となら ないような,無症状感染者を除く)と推定している。つま り,報告されている感染者の 34 倍に当たり,現地での肺 炎や呼吸器症状発症者への検査を拡大するべきと主張して いる。北大の西浦らも 1 月 24 日までの海外摘発例 13 名の 情報を用いて同様の推定を行い,中国の発生例報告数 549 人に対し,実際の感染者は 5,502 人(95%信用区間で 3,027 ~9,057 人)と報告している46)

基本再生産数

 中国から報告される感染者数の増加により,この感染症 の伝播力の強さを示す基本再生産数(R0:アールノート) が世界中の疫学研究者により推定され始めた。基本再生産 数は,集団の全員がその病気に感受性であった場合に,1 人の感染者から新たに感染する平均の人数である。この値 から,感染症が流行した場合にその流行がどのように推移 するかを判断することができ,R0 が 1 より大きい場合は, その集団内で感染症の流行が維持・拡大するが,R0 が 1 より小さい場合は(小規模な発生が起こったとしても)流 行は続かず,いずれその感染症は集団から消滅すると考え られる。代表的な人の感染症の R0 としては,麻疹で 12~ 18,風疹で 5~7,HIV で 2~5 といった値が知られている47) なお,その後の流行で,時点(t)ごとの感染拡大の状況 を評価する指標として用いられた実効再生産数(Rt)は, R0 の概念から派生した指標で,対策の実施や抗体獲得な どの影響の下で,時点の感染者 1 人あたりが生み出す 2 次 感染者数の平均を意味している(厳密には様々な定義がな されている)。1 月 25 日付けで,インペリアル・カレッジ・ ロンドンのグループは,新型コロナの潜伏期間は同じコロ ナウイルスによる疾病である SARS と同等と仮定し,また, SARS と同様に,1 人が感染させる人数には大きなばらつ きがある(ごく一部の感染者が多くの感染者に感染させる) と仮定した上で,新型コロナの R0 を 1.5~3.5 と推定した48) (こうした情報を踏まえて,WHO は新型コロナの R0 を 1.4 ~2.5 と発表した49))。この時点では,中国国内でのヒト -ヒト感染は報告されていなかったが,同グループは,推定 された R0 が 1 を超えたことから,新型コロナがヒト集団 の間で感染拡大を起こし,大規模な流行に至る可能性が高 いことを指摘している。

潜伏期間など

 潜伏期間は感染から発症までの期間である。感染が疑わ れた接触者などが見つかった場合に,少なくとも潜伏期間 を経過するまで発症しなければ感染を否定できると考えら れることから,感染疑い症例に対する検疫期間を設定する 際の指標となる。また,感染症の拡大を予測する場合にも 重要な要因となる。北大の Linton ら(西浦の研究チーム)は, 中国国外で診断された感染者の感染疑い日,発症日,入院 日などのデータから,数理モデルを用いて潜伏期間などを 推定した50)。この結果,新型コロナの潜伏期間は平均 5 日 (95%信用区間:2~14 日),発症から入院や隔離までは 3 ~4 日ないし 5~9 日(2 つめの結果は,データを解析した 時点から見て最近の感染例については,潜伏期間を経過し ていないことなどから観察されないことを考慮した場合) であることを示した。著者らは,この結果から,本病の隔 離期間を少なくとも 14 日とするべきとしている。  さらに,西浦らは,同じく中国国外で診断された感染者 の情報を用いて,新型コロナの世代時間(Serial interval) を推定した51)。世代時間とは,新規感染者が新たに感染者 を生み出すまでの時間の長さであり,この時間が短いほど, 感染は急速に広がることとなる。このため,この時間の長 さは,感染症の感染拡大を予測したり評価したりする場合 に重要なパラメーターとなる。推定の結果,新型コロナの 世代時間の中央値は 4.0 日(95%信用区間:3.1~4.9 日) であり,先に述べた潜伏期間より短かった。このことは, 感染者からの感染の多くが,感染者が潜伏期間にあるうち に起こっていることを示している。この結果から,西浦は, 発症者の隔離という対策だけでは,感染拡大の防止が難し い可能性があると指摘している。

PHEIC 宣言そしてパンデミックへ

 中国での発生に端を発した新型コロナについて,病原体 の特徴,症状,R0 や潜伏期間といった疫学的な特徴が明 らかになっていくとともに,中国以外での発生が急激に増 加していった。1 月 30 日には,WHO が「国際的に懸念さ れる公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern, PHEIC)」を宣言した52)。この宣言は

これまでに,2009 年の新型インフルエンザ,2014 年と 2019 年のエボラ出血熱,2016 年のジカ熱などに対して宣 言されてきたが,MERS は対象とならなかった。PHEIC の宣言からおよそ 1 ヶ月後の感染者数は全世界で 80,239 人(うち死亡 2,700 人),中国だけで 77,780 人(うち死亡 2,666 人で世界全体の感染者の 99%)となり,中国以外の国に おいても,宗教関連施設からの拡大があった韓国で 977 人, イタリアで 229 人となっていた53)。日本での発生は,ダイ ヤモンド・プリンセスの乗客であった 691 名を除けば 156 名が感染しており,このうち死亡者は 1 名であった54)。特 に,1 月 30 日からの日程で開催されたさっぽろ雪祭りの後, 各地で感染者が確認された北海道では,2 月 25 日に 35 例 だった感染者数が,4 日後の 29 日には 70 例へ倍増してお り,全国の都道府県で最も多くの感染者が確認されていた。  こうした中,2 月 25 日,日本国内の新型コロナウイル ス対策を専門的見地から検討する「新型コロナウイルス感 染症対策専門家会議」の下に「クラスター対策班」が設置 された55)。クラスター対策班には,それまでに中国での新 型コロナの流行に関する疫学的解析の結果を数多く発表し ていた北大の西浦教授らが参画し,理論疫学を駆使して日 本の新型コロナ対策における中心的役割を担っていく。こ の詳細と,その後の経緯については,次稿で述べたい。 1) Available at : https://www.who.int/csr/don/05-january-2020-pneumonia-of-unkown-cause-china/en/ 2) Available at : https://coronavirus.jhu.edu/map.html 3) Available at : https://promedmail.org/promed-post/?id= 20191230.6864153 4) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08767. html 5) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 武漢華南海鮮 卸売市場 #cite_note-Schnirring8Jan2020-14 6) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08873. html 7) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 中国本土にお ける 2019 年コロナウイルス感染症の流行状況 # 武漢 市・湖北省 8) Available at : https://coronavirus.jhu.edu/data/hubei-timeline 9) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 武漢市 10) Available at : https://www.who.int/china/news/detail/09- 01-2020-who-statement-regarding-cluster-of-pneumonia-cases-in-wuhan-china

11) Wu, F., et al.: A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature 579(7798), 265⊖269, 2020. doi:10.1038/s41586-020-2008-3 12) Available at : https://www.who.int/docs/default-source/ coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf 13) Available at : https://virological.org/t/novel-2019-coronavirus-genome/319 14) Available at : https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/ PMC6135831/ 15) Available at : https://www.biorxiv.org/content/10.1101/202 0.02.07.937862v1.full.pdf 16) Available at : https://www.who.int/docs/default-source/ coronaviruse/situation-reports/20200211-sitrep-22-ncov.pdf 17) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/2482-2020-01-10-06-50-40/9303-coronavirus.html 18) Av a i l a b l e a t : h t t p s : / / w w w. n i i d . g o . j p / n i i d / j a / kansennohanashi/414-sars-intro.html 19) Available at : http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/ disease/sars/index.html

20) Amer, H.M.: Bovine-like coronaviruses in domestic and wild ruminants. Animal Health Research Reviews 19, 113⊖ 124, 2018. Available at : https://doi.org/10.1017/ S1466252318000117

21) Hu, D., et al.: Genomic characterization and infectivity of a novel SARS-like coronavirus in Chinese bats. Emerg Microbes Infect. 7(1), 154, 2018. doi:10.1038/s41426-018-0155-5

22) Drosten, C., Kellam, P. and Memish, Z.A.: Evidence for camel-to-human transmission of MERS coronavirus. New England Journal of Medicine 371, 1359–1360, 2014. 23) Lam, T.T., et al.: Identifying SARS-CoV-2 related

coronaviruses in Malayan pangolins. Nature, 2020. Available at : https://doi.org/10.1038/s41586-020-2169-0 24) Available at : https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-china-wildlife-idJPKBN22X0F14 25) Available at : https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/ since2003_visitor_arrivals.pdf 26) Available at : https://www.jnto.go.jp/jpn/inbound_market/ china02.pdf 27) A v a i l a b l e a t : h t t p s : / / w w w . m h l w . g o . j p / content/10900000/000582709.pdf 28) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08906. html 29) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09043. html 30) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09093. html 31) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9525-483p01.

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は示されていないが,新型コロナの基本再生産数を 2~2.5 と推定している。

中国での流行から見えてきたこと

 中国での原因不明の肺炎の発生に関する情報が世界に拡 散し始めた年明け以降,中国国内での発生状況や,中国か らの出国者の発生状況に基づく疫学的な解析が世界中で開 始された。最初の報告は 1 月 17 日に英国のインペリアル・ カレッジ・ロンドンから報告されたもの45)で,中国から 各国への入国者における感染者の割合から,武漢市内の感 染者数の推定を行っている。要するに,海外で見つかった 感染者から算出した感染率を,武漢市の居住者数に掛けた のである。公表されている 1 月 12 日までの感染者数が 41 人であったのに対して,同じ時期の実際の感染者数を 1,723 人(95%信用区間で 427~4,471 人。入院等の対象となら ないような,無症状感染者を除く)と推定している。つま り,報告されている感染者の 34 倍に当たり,現地での肺 炎や呼吸器症状発症者への検査を拡大するべきと主張して いる。北大の西浦らも 1 月 24 日までの海外摘発例 13 名の 情報を用いて同様の推定を行い,中国の発生例報告数 549 人に対し,実際の感染者は 5,502 人(95%信用区間で 3,027 ~9,057 人)と報告している46)

基本再生産数

 中国から報告される感染者数の増加により,この感染症 の伝播力の強さを示す基本再生産数(R0:アールノート) が世界中の疫学研究者により推定され始めた。基本再生産 数は,集団の全員がその病気に感受性であった場合に,1 人の感染者から新たに感染する平均の人数である。この値 から,感染症が流行した場合にその流行がどのように推移 するかを判断することができ,R0 が 1 より大きい場合は, その集団内で感染症の流行が維持・拡大するが,R0 が 1 より小さい場合は(小規模な発生が起こったとしても)流 行は続かず,いずれその感染症は集団から消滅すると考え られる。代表的な人の感染症の R0 としては,麻疹で 12~ 18,風疹で 5~7,HIV で 2~5 といった値が知られている47) なお,その後の流行で,時点(t)ごとの感染拡大の状況 を評価する指標として用いられた実効再生産数(Rt)は, R0 の概念から派生した指標で,対策の実施や抗体獲得な どの影響の下で,時点の感染者 1 人あたりが生み出す 2 次 感染者数の平均を意味している(厳密には様々な定義がな されている)。1 月 25 日付けで,インペリアル・カレッジ・ ロンドンのグループは,新型コロナの潜伏期間は同じコロ ナウイルスによる疾病である SARS と同等と仮定し,また, SARS と同様に,1 人が感染させる人数には大きなばらつ きがある(ごく一部の感染者が多くの感染者に感染させる) と仮定した上で,新型コロナの R0 を 1.5~3.5 と推定した48) (こうした情報を踏まえて,WHO は新型コロナの R0 を 1.4 ~2.5 と発表した49))。この時点では,中国国内でのヒト -ヒト感染は報告されていなかったが,同グループは,推定 された R0 が 1 を超えたことから,新型コロナがヒト集団 の間で感染拡大を起こし,大規模な流行に至る可能性が高 いことを指摘している。

潜伏期間など

 潜伏期間は感染から発症までの期間である。感染が疑わ れた接触者などが見つかった場合に,少なくとも潜伏期間 を経過するまで発症しなければ感染を否定できると考えら れることから,感染疑い症例に対する検疫期間を設定する 際の指標となる。また,感染症の拡大を予測する場合にも 重要な要因となる。北大の Linton ら(西浦の研究チーム)は, 中国国外で診断された感染者の感染疑い日,発症日,入院 日などのデータから,数理モデルを用いて潜伏期間などを 推定した50)。この結果,新型コロナの潜伏期間は平均 5 日 (95%信用区間:2~14 日),発症から入院や隔離までは 3 ~4 日ないし 5~9 日(2 つめの結果は,データを解析した 時点から見て最近の感染例については,潜伏期間を経過し ていないことなどから観察されないことを考慮した場合) であることを示した。著者らは,この結果から,本病の隔 離期間を少なくとも 14 日とするべきとしている。  さらに,西浦らは,同じく中国国外で診断された感染者 の情報を用いて,新型コロナの世代時間(Serial interval) を推定した51)。世代時間とは,新規感染者が新たに感染者 を生み出すまでの時間の長さであり,この時間が短いほど, 感染は急速に広がることとなる。このため,この時間の長 さは,感染症の感染拡大を予測したり評価したりする場合 に重要なパラメーターとなる。推定の結果,新型コロナの 世代時間の中央値は 4.0 日(95%信用区間:3.1~4.9 日) であり,先に述べた潜伏期間より短かった。このことは, 感染者からの感染の多くが,感染者が潜伏期間にあるうち に起こっていることを示している。この結果から,西浦は, 発症者の隔離という対策だけでは,感染拡大の防止が難し い可能性があると指摘している。

PHEIC 宣言そしてパンデミックへ

 中国での発生に端を発した新型コロナについて,病原体 の特徴,症状,R0 や潜伏期間といった疫学的な特徴が明 らかになっていくとともに,中国以外での発生が急激に増 加していった。1 月 30 日には,WHO が「国際的に懸念さ れる公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern, PHEIC)」を宣言した52)。この宣言は

これまでに,2009 年の新型インフルエンザ,2014 年と 2019 年のエボラ出血熱,2016 年のジカ熱などに対して宣 言されてきたが,MERS は対象とならなかった。PHEIC の宣言からおよそ 1 ヶ月後の感染者数は全世界で 80,239 人(うち死亡 2,700 人),中国だけで 77,780 人(うち死亡 2,666 人で世界全体の感染者の 99%)となり,中国以外の国に おいても,宗教関連施設からの拡大があった韓国で 977 人, イタリアで 229 人となっていた53)。日本での発生は,ダイ ヤモンド・プリンセスの乗客であった 691 名を除けば 156 名が感染しており,このうち死亡者は 1 名であった54)。特 に,1 月 30 日からの日程で開催されたさっぽろ雪祭りの後, 各地で感染者が確認された北海道では,2 月 25 日に 35 例 だった感染者数が,4 日後の 29 日には 70 例へ倍増してお り,全国の都道府県で最も多くの感染者が確認されていた。  こうした中,2 月 25 日,日本国内の新型コロナウイル ス対策を専門的見地から検討する「新型コロナウイルス感 染症対策専門家会議」の下に「クラスター対策班」が設置 された55)。クラスター対策班には,それまでに中国での新 型コロナの流行に関する疫学的解析の結果を数多く発表し ていた北大の西浦教授らが参画し,理論疫学を駆使して日 本の新型コロナ対策における中心的役割を担っていく。こ の詳細と,その後の経緯については,次稿で述べたい。 1) Available at : https://www.who.int/csr/don/05-january-2020-pneumonia-of-unkown-cause-china/en/ 2) Available at : https://coronavirus.jhu.edu/map.html 3) Available at : https://promedmail.org/promed-post/?id= 20191230.6864153 4) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08767. html 5) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 武漢華南海鮮 卸売市場 #cite_note-Schnirring8Jan2020-14 6) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08873. html 7) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 中国本土にお ける 2019 年コロナウイルス感染症の流行状況 # 武漢 市・湖北省 8) Available at : https://coronavirus.jhu.edu/data/hubei-timeline 9) Available at : https://ja.wikipedia.org/wiki/ 武漢市 10) Available at : https://www.who.int/china/news/detail/09- 01-2020-who-statement-regarding-cluster-of-pneumonia-cases-in-wuhan-china

11) Wu, F., et al.: A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature 579(7798), 265⊖269, 2020. doi:10.1038/s41586-020-2008-3 12) Available at : https://www.who.int/docs/default-source/ coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf 13) Available at : https://virological.org/t/novel-2019-coronavirus-genome/319 14) Available at : https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/ PMC6135831/ 15) Available at : https://www.biorxiv.org/content/10.1101/202 0.02.07.937862v1.full.pdf 16) Available at : https://www.who.int/docs/default-source/ coronaviruse/situation-reports/20200211-sitrep-22-ncov.pdf 17) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/2482-2020-01-10-06-50-40/9303-coronavirus.html 18) Av a i l a b l e a t : h t t p s : / / w w w. n i i d . g o . j p / n i i d / j a / kansennohanashi/414-sars-intro.html 19) Available at : http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/niah/ disease/sars/index.html

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(8)

html 32) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9557-483p04. html 33) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9527-483p02. html 34) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9528-483p03. html 35) Available at : https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/ corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html 36) Available at : https://www.nikkei.com/article/ DGXMZO55302210V00C20A2CC1000/ 37) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09276. html 38) Available at : https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/ 000627363.pdf 39) Available at : https://www.mhlw.go.jp/content/000599297. pdf

40) Nishiura, H.: Backcalculating the Incidence of Infection with COVID-19 on the Diamond Princess. J. Clin. Med. 9, 657, 2020. 41) Available at : https://www.nhk.or.jp/politics/articles/ feature/31092.html 42) Available at : https://www.jmari.med.or.jp/download/ WP443/WP443-appendix.pdf 43) Available at : https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatos hi/20200328-00170113/ 44) Available at : https://www.shiminkagaku.org/wp/wp-content/uploads/Report-of-the-WHO-on-COVID-19_ Japanese-translation.pdf

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48) Imai, N., et al.: Report 1: Report 3: Transmissibility of 2019-nCoV. Imperial College London. DOI: https://doi. org/10.25561/77148

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51) Nishiura, H., et al.: Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections. Int. J. Infec. Dis. 93, 284―286, 2020. Available at : https://doi.org/10.1016/j.ijid. 2020.02.060 52) Available at : https://www.who.int/news-room/detail/30-01- 2020-statement-on-the-second-meeting-of-the- international-health-regulations-(2005)-emergency- committee-regarding-the-outbreak-of-novel-coronavirus-(2019-ncov) 53) Available at : https://www.who.int/docs/default-source/ coronaviruse/situation-reports/20200225-sitrep-36-covid-19.pdf?sfvrsn=2791b4e0_2 54) Available at : https://www.mhlw.go.jp/content/000599916. pdf 55) Available at : https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09743. html

参照

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