サトウキビ栽培における施肥窒素減肥が生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響
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(2) 58. 熱帯農業研究 13 (2)2020. しては,現在普及している多くの品種が施肥基準作成. の開発に利用されている.サトウキビでもライシメー. のために対象とした品種(NCo310)と比較して,早. ター法を利用して,異なる土壌,肥料タイプによる品. 期高糖型であり,施肥窒素減肥により減収を招くとい. 種適応性が検討されているが(井上,2018),肥料窒. う懸念が挙げられている(久場,2011) .しかしなが. 素の削減を目的として,減肥によるサトウキビの生育. ら,依然として農地に施用される化学肥料は,地下水. 過程,窒素溶脱の経時変化を評価するためには用いら. への窒素溶脱の主要な負荷源であると指摘されている. れていない.そこで本研究では,サトウキビ収量を維. (東田ら,2001;吉本ら,2007;中野ら,2013).中西. 持し,窒素負荷量を削減する肥培管理法の開発を目的. ら(2001)は,地下水中の NO3-N 濃度の上昇する時. として,屋外に設置されているライシメーターを用い. 期が,サトウキビ栽培初期に短期集中的に化学肥料が. て,異なる肥培管理下におけるサトウキビ栽培試験お. 施用されている時期と一致し,その生育初期にサトウ. よび窒素溶脱観測を行った.施肥窒素は,現行の施肥. キビに利用されない肥料窒素が溶脱することを指摘し. 量を基準として,基肥および追肥を減肥した肥培管理. た.サトウキビの初期生長は緩慢であり,窒素吸収は. を設定した.そして,基肥および追肥窒素の減肥がサ. 僅かである(伊東,1966;寺内・松岡,2000;寺内,. トウキビ生育および窒素溶脱に与える影響を検討した.. 2002;福澤ら,2008) .このように,現状の施肥基準. 材料および方法. および施肥実態は,サトウキビの窒素吸収特性からす ると不適切な肥培管理である可能性が高い.したがっ て,沖縄県のサトウキビ栽培では,生産性と環境保全. 試験概要 栽培試験に用いたライシメーターは,沖縄県石垣市. の観点から,施肥窒素の溶脱による地下への窒素負荷. の国際農林水産業研究センター熱帯・島嶼研究拠点. を削減しサトウキビ収量を維持もしくは向上させる持. (北緯 24°22′43″,東経 124°11′41″)内に位置する.ライ. 続的な施肥技術の開発が求められている.. シメーターは 1 基の表面積 10 m2(3.68 m × 2.78 m),. 生産性と環境保全を両立した肥培管理技術を開発す. 深さ 2 m の有底のコンクリート枠構造である.供試. るためには,施肥窒素に対する作物による窒素吸収特. 土壌は 2003 年のライシメーター竣工時に粒度調整を. 性および窒素溶脱特性を定量的に評価する必要があ. 行われずに充填された土壌である.ライシメーターの. る.島嶼という限定された空間においては,島外から 移入した化学肥料への依存は農地の環境負荷容量を超. 側面は地表面より 15 cm ほど高く,試験期間内の最 大時間降雨(78 mm h-1)が発生した 2017 年 4 月 26. 過する危険性が高い.さらに化学肥料依存は農地の地. 日の地表面の観察より,表面流去水が発生しない構造. 力低下を招くという観点から,島内での有機物資材を. であることが確認できた.降雨量は同拠点内で観測さ. 循環させる肥培管理技術の開発も進められている(比. れた降雨データを用いた.. 嘉ら,2011;前里ら,2016) .このように,サトウキ. サトウキビ栽培試験は,図 1 のとおり,2016 年 12. ビによる窒素吸収特性もしくは生育特性の評価は数. 月 16 日から 2018 年 1 月 16 日の約 1 年 1 ヶ月に渡っ. 多く行われているが,同時に窒素溶脱特性が評価さ. て実施した.栽培品種は現在の普及品種の 1 つである. れている事例はほとんどない.例えば,加治・長友. NiF8 を供試し,2016 年 11 月 21 日に 1 節苗(5 cm 程. (2008)は,サトウキビの窒素利用効率は作型で異な. 度)をピートモスポットで 400 苗育苗し,12 月 16 日. り,春植栽培では,基肥窒素 26%,追肥窒素 64%で,. に草丈 10 cm 程度の苗を選抜し,ライシメーター 1 基. 基肥窒素の利用率が低いことを明らかにした.しかし. につき 15 苗を植付けた.植付けでは,畝間 1.2 m ×. ながら,他の調査と同様に,吸収されなかった施肥窒. 株間 0.5 m として,ポットの上端が土壌表面から 1 cm. 素がどの程度地下へと溶脱したかは評価されなかっ. 程度の深さとなるように平植えした.畝立てをするこ. た.サトウキビ栽培において窒素溶脱特性の評価が行. とによる畝間からの集中的な浸透および各試験区の畝. われてこなかった要因として,サトウキビの 2 つの作. の形状のバラつきによる浸透へ及ぼす影響を少なくす. 物特性が挙げられる.まずは,深根性の作物であるサ. るため,本試験では植付けおよび栽培管理において,. トウキビの溶脱量を把握するためには,根群域以下の. 植溝を切らずに,培土も行わなかった.1 回目の施肥. 土層に測定機材を設置する必要がある.さらに,作付. (以降,基肥)は根の活着が確認できた植付けの約 1 か. け期間を少なくとも 1 年以上必要とするサトウキビ栽. 月後に行なった.基肥の施用後の 2 月および 3 月では,. 培における窒素溶脱を観測するためには,長期間観測. サトウキビの生育がほとんど確認できなかったため,. 体制を維持しなくてはならない.以上の労力,コスト. 1 回目の追肥は 4 月に行い,2 回目の追肥は 6 月に行っ. を必要とする要因が,サトウキビ栽培における窒素溶. た.窒素肥料は尿素を用い,沖縄県さとうきび栽培指. 脱特性を把握することを困難としている. ライシメーター法は圃場レベルでの施肥窒素に対す. 針の春植え栽培と夏植え栽培における施肥窒素基準量 のおよそ中間量である,230 kg ha-1 を本試験の窒素施. る窒素溶脱特性を評価する手法として利用され,作物. 肥基準量とした.施肥窒素処理として,基肥を 50%. による窒素溶脱特性を明らかにし,持続的な施肥技術. 減,100%減,さらに追肥を 50%減させた場合の組.
(3) 59. 岡本ら:施肥窒素減肥がサトウキビ生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響. 植付 12/16. 休耕 圃場管理. 年 月. 除塩 5/27. 除塩 9/1, 10/5. 基肥 1/12. 収穫 1/16. サトウキビ栽培試験 追肥 追肥 4/12 6/12. 2016 2017 2018 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 土壌サンプリング. 収穫調査. 生育調査. 調査・観測 浸透水量観測 NO3-N濃度観測. (2016/12/16~) (2017/1/16~). 図 1.試験前処理および試験概要.. み合わせおよび窒素無施肥区の計 7 パターン(T1 ~. 表 1.肥培管理条件.. T7)を設定した(表 1) .過リン酸石灰及び塩化カリ ウムをそれぞれ 34 kg ha-1 および 30 kg ha-1 を基肥と. 施肥窒素 処理区. して,23 kg ha-1 および 24 kg ha-1 を追肥 1 回目とし て,46 kg ha-1 および 42 kg ha-1 を追肥 2 回目として,. 基肥. 追肥 1 回目. 追肥 2 回目. 合計. T1. 70. 60. 100. 230. 全てのライシメーターに同一量施用した.施肥箇所は. T2. 35. 60. 100. 195. T3. 0. 60. 100. 160. T4. 70. 30. 50. 150. T5. 35. 30. 50. 115. T6. 0. 30. 50. 80. T7. 0. 0. 0. 0. 畝に沿い株から 10 cm 離れた位置として,10 cm の溝 を掘り施用した後,土壌表面が均平となるように覆土 した.栽培試験は 2 反復行い,計 14 基のライシメー ターを用いた.なお,本研究では,ライシメーターの 数という制約上,基肥のみ施用した処理区(追肥な し)を設定することはできなかったが,基肥の無施用. 500. と追肥の半量における,それぞれの窒素削減量(基肥 70 kg ha-1,追肥 80 kg ha-1)は同程度である.. 間は休耕状態であった.試験開始時における各基の NO3-N 濃度のバラつきを抑えるため,NO3-N 濃度が 1 mg L-1 以下となるまで,ライシメーターを湛水させ. 2017年. 300 200 100. る除塩処理を 3 回行った(図 1) .除塩処理後に,土. 0. 壌物理・化学性分析用の土壌サンプリングを行った. 土壌サンプリングは,0-15 cm,15-30 cm,30-60 cm, 60-90 cm,90-200 cm の層位別に行い,撹乱試料およ. 平年値. 400 月間降雨量 (mm). ライシメーターの直近の栽培歴は,2016 年 2 月収 穫のサトウキビ栽培であり,試験開始までの 10 ヶ月. 施肥窒素量(kg ha-1). 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月. 図 2. 石垣島における月間降雨量.. 石垣島気象台の 1986 年から 2015 年の降雨データを平年 値として用いた.. び不撹乱試料(50 cm3 コアサンプラー)を採取した. 栽培管理として,かん水は行わず,適宜除草を行った. 栽培試験期間の総降雨量は 2,540 mm であり,石垣. 土壌の物理・化学性の測定. 島における平年値(1986 年から 2015 年)2,182 mm. 土壌分析では土壌物理性として粒径組成および飽和. と比べて多かった.これは,2017 年の 11 月の月間降. 透水係数の測定を,土壌化学性として pH(H2O) ,全. 雨量が,平年値と比べて 3 倍以上多かったことが要因. 窒素(%)および全炭素(%)の測定を行った.粒. であると考えられる(図 2) .石垣島における平年の. 径組成の測定は JIS 法に準拠した.飽和透水係数は,. 梅雨時期は 5 月中旬から 6 月下旬であり,2017 年の. 不撹乱試料を用いて,室内透水試験(定水位法)に. 梅雨時期はほぼ平年どおりであったが,2017 年の 6 月. より測定した.全窒素および全炭素は,乾式燃焼法. の降雨量は平年値と比べて少なく,梅雨入り前の 3,. (NC22-F,住化分析センター)により測定した.これ. 4 月の降雨量は平年値と比べて多い傾向を示した.ま. らの測定では,植物根を除去した 2 mm ふるい通過風. た,石垣島における夏場(7 ~ 9 月)の降雨は台風の. 乾土壌を乳鉢により磨砕した試料をサンプルとして用. 接近による影響が大きいため,月ごとのバラつきは大. いた.pH は 1:5 法により風乾土壌を蒸留水に浸漬さ. きいが,期間降雨量は平年並みであった(7 ~ 9 月の. せ,ガラス電極法(D-13,堀場製作所)により測定し. 降雨量は平年値で 604 mm,2017 年で 613 mm).. た..
(4) 60. 熱帯農業研究 13 (2)2020. 生育調査および収穫調査. 統計解析. 生育調査は,台風により調査が出来なかった 7 月を. 窒素の肥培管理の違いがサトウキビの生育に与える. 除いた 2017 年 4 月から同年 10 月の間に約 1 月間隔で. 影響を明らかにするために,各生育調査日における. 6 回実施した(図 1) .調査では各ライシメーターの任. 各調査項目および収穫調査における収量を除いた調. 意の 4 個体を対象として,各窒素処理区で計 8 個体の. 査項目について多重比較検定(Tukey’s test)を実施. 調査を行った.調査項目は,草丈,茎数,緑葉枚数,. した.基肥および追肥の減肥が収量および NO3-N 溶. 葉長および葉面積とした.草丈の測定では,対象個体. 脱量に与える影響を検討するために,2 元配置分散分. の最も長い茎を対象とし,茎数および緑葉枚数の調査. 析を行った.時期別の NO3-N 溶脱特性を把握するた. では,全対象個体の茎本数および緑葉枚数を数え上. め,基肥日~ 1 回目の追肥日,基肥日~ 2 回目の追肥. げ,葉長調査では,全対象個体の全緑葉の葉身長を測. 日および基肥日~収穫日の 3 つの時期において,線形. 定した.測定した葉身長から葉面積を求めるために試. 回帰分析を行った.統計解析には,統計解析ソフト R. 験区外で栽培したサトウキビ 30 個体から任意に 4 本. version 3.3.2 を使用した.. の茎を刈り取り,自動面積計(AAM-9,林電工株式会. 結果および考察. 社)を用いて葉面積と葉身長の関係式を求めた.そし て,測定した対象個体の葉身長を関係式にあてはめ,. ライシメーター圃場の土壌物理・化学性. 対象個体の全葉面積を算出した.これらの測定結果. 表 2 にライシメーターの土壌物理・化学性を示す.. から,1 個体ごとに,1 葉当たりの平均的な面積とし. 全ての層で砂分は 50%以上であり,土性は砂壌土,. て平均一葉面積(cm2) ,1 茎あたりの青葉数(葉枚数 茎 -1) ,茎数(茎数 m-2)および LAI を算出し調査結果. 砂質埴土および軽埴土に分類された.土壌断面の土色. をまとめた.収穫調査では,生育調査で対象とした同 一個体の草丈(cm) ,茎長(cm) ,節数(節数 茎 -1). 県の代表的土壌である国頭マージ(赤黄色土壌)に. の観察結果および pH が酸性であったことから,沖縄. および茎数を測定した後に,圃場において全ての株の. 近い土壌特性を有すると考えられた.飽和透水係数の オーダーは 10-2~10-3 cm s-1 を示し,下層土まで高い. 原料茎重量(以降,収量)の測定を行い,ライシメー ター 1 基あたりの収量(t ha-1)を算出した.. マージ圃場の下層土の透水係数のオーダーは 10-7 cm s-1. 透水性を示した.登川・寺沢(1982)によると,国頭 で透水性は低いと報告されている.国頭マージは母岩. 浸透水の採取方法および分析方法. の種類が多いため土性は砂質土から粘性土のものまで. ライシメーターの最下部より排水される浸透水は,. 広範囲にまたがる.供試土壌は,砂分が多く含まれて. 電磁弁を取り付けた円筒形カラムに受けた.カラム. いたことから透水性が高かったと推察した.沖縄県の. 内部には GY 式精密水位計(GYLT-01-300-BR-M8-CN,. 地下水利用地域では,そのほとんどで土層が浅い島尻. SANTEST. Co. LTD.)を設置し,カラム内の水位変化. マージが分布し,作土層下には石灰岩層が堆積してい. を測定して,水位変化より浸透水量を求めた.浸透水. るため,雨水等の浸透水はその基盤の割れ目などから. 量のデータは 30 分間隔でデーターロガー(CR10X,. 流出する(宜保・宮城,1977;渡嘉敷,1993).ライ. Campbell Sci. Inc.)に記録した.浸透水の測定用サン. シメーターの土層は 2 m で設定されているが,下層. プルは,2017 年 1 月 12 日以降,毎日定時に 50 mL ポ. まで透水性が高いため,地下水利用地域と同様に,降. リビンに採取した.採取したサンプルは,実験室内に. 雨のほとんどは即時に地下へと流出する浸透特性を有. 持ち帰り,吸光分析法(Hitachi U-2000,日立)によ り NO3-N 濃度(mg L-1)を測定した.測定したサン. していると考えた.供試土壌の全炭素は,既往の石垣. プルの NO3-N 濃度,浸透水量およびライシメーター の面積より NO3-N 溶脱量(kg ha-1)を算定した.. 縄県農業試験場,1978)の全炭素(平均値±標準偏. 島の畑地における 35 地点 93 サンプルの土壌調査(沖 差,0.79%± 0.47)と比べて,小さい値を示した.こ. 表 2.ライシメーター圃場の土壌物理・化学性. 土層. 土性. cm 0-15. 砂壌土. 粒径組成. 飽和透水係数. pH. 全炭素. 全窒素. (H2O). (%). (%). 11.9. (cm s-1) 1.27 × 10-2. 5.4. 0.464. 0.043. 砂分. シルト分. 粘土分. (%). (%). (%). 68.3. 19.7. 15-30. 砂壌土. 71.4. 16.4. 12.2. 1.08 × 10-2. 5.9. 0.395. 0.041. 30-60. 砂質埴土. 57.6. 16.6. 25.8. 5.6. 0.206. 0.036. 60-90. 軽埴土. 54.9. 17.9. 27.2. 1.57 × 10-2 9.41 × 10-3. 6.0. 0.271. 0.042. 29.8. 5.53 × 10-3. 5.2. 0.298. 0.041. 90-200. 軽埴土. 52.8. 17.4.
(5) 61. 岡本ら:施肥窒素減肥がサトウキビ生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響. の理由としては,ライシメーター圃場は 10 年以上,. 日前( 9 月 13 日)に石垣島に台風が接近したため,. 畑地として利用されているが,栽培試験による調査の. 調査時に葉の裂傷が確認され,全ての処理区で 8 月の. ため作物の地上部はライシメーター外に持ち出されて. 調査に比べ減少する傾向を示した.一方,10 月の調. いた点,2014 年以降有機物資材が土壌に投入されて. 査では,T1 から T5 では再び増加する傾向を示した.. いなかった点が挙げられた.以上の結果より,本栽培. このことより,T1 から T5 では,再び葉が生長するた. 試験は低い肥沃度の土壌状態で実施したことが確認で. めの土壌窒素が存在していたが,T6 と T7 では不足し. きた.. ていたと考えられた.10 月調査においては,T1 と T2 には有意な違いはなく,全調査期間においても,違い. 生育調査. は確認できなかった.. 生育調査の結果を表 3 に示す.. 青葉数では,9 月調査の T1 と T4 から T7 を除き,. 平均一葉面積では,6 月までの 3 回の調査において,. 処理間の違いは確認できなかった(P<0.05) .9 月の. 処理間の違いは確認できなかった.8 月の調査では,. 調査において,T1 および T3 の青葉数が大きくなった. T6 および T7 は T1 から T4 と比べ有意に小さかった. 理由としては,台風直後の調査であったため,新しく. (P<0.05).これらの結果より,6 ~ 8 月の時期にかけ. 出現した葉と台風により裂傷して茎に残っていた葉が. て,T6 と T7 では葉の生長に必要な窒素が土壌で不足. 調査時に混在したためだと考えられた.施肥窒素処理. し始めたと推察された.9 月の調査では,調査日の 6. に関係なく 8 ~ 10 月までの期間の青葉数は約 10 枚で. 表 3.生育調査. 調査日. 施肥窒素処理区 T1. T2. T3. T4. T5. 平均一葉面積(cm ) 56.3 a 53.0 98.3 a 86.3 179.9 a 158.5 269.8 a 250.4 207.7 a 240.1 216.7 bc 251.2 青葉数(葉数 茎 -1) a 5.3 a 5.9 a 6.9 a 6.2 a 8.4 a 7.8 a 10.0 a 10.3 ab 9.9 b 10.0 a 9.8 a 8.8 茎数(茎数 m-2) a 6.0 a 4.1 a 11.1 a 8.1 a 11.8 a 9.8 a 10.1 a 8.1 a 8.4 a 7.1 a 7.9 a 8.1 LAI a 0.2 a 0.1 a 0.7 a 0.4 a 1.9 a 1.2 a 2.9 a 2.0 a 1.8 ab 1.7 ab 1.7 ab 1.9 草丈(cm) a 150.0 a 137.9 a 234.0 a 232.4 a 336.6 a 319.4 a 382.5 a 371.4 a 387.9 a 396.3. T6. T7. 2. 4/17 5/17 6/15 8/8 9/19 10/12. 54.6 83.3 166.7 294.5 232.7 302.4. a a a a a a. 51.2 84.5 177.6 274.5 242.6 284.0. a a a a a a. 57.3 87.4 165.1 272.3 236.1 257.5. 4/17 5/17 6/15 8/8 9/19 10/12. 5.6 6.6 9.1 10.6 12.2 10.3. a a a a a a. 5.7 6.9 9.2 10.1 10.3 9.3. a a a a ab a. 6.4 6.3 8.4 10.2 11.2 9.6. 4/17 5/17 6/15 8/8 9/19 10/12. 5.1 9.8 10.1 8.3 8.4 8.4. a a a a a a. 5.6 10.7 11.1 9.6 9.2 8.3. a a a a a a. 3.0 7.7 9.2 9.2 9.6 9.9. 4/17 5/17 6/15 8/8 9/19 10/12. 0.1 0.6 1.6 2.6 2.4 2.6. a a a a ab a. 0.1 0.6 1.8 2.7 2.3 2.2. a a a a ab ab. 0.1 0.5 1.3 2.6 2.5 2.5. 5/17 6/15 8/8 9/19 10/12. 141.0 227.1 338.9 387.5 416.8. a a a a a. 145.9 228.5 335.5 385.6 421.9. a a a a a. 145.7 220.5 327.5 384.9 393.1. a a a a a ab. a a a ab a abcd. 53.0 82.3 156.3 240.6 201.8 195.4. a a a b ab cd. 59.8 91.3 176.1 215.2 180.5 171.8. a a a b b c. a a a a b a. 5.5 6.1 7.4 9.7 9.9 10.3. a a a a b a. 6.6 6.5 8.2 10.2 9.7 9.6. a a a a b a. a a a a a a. 4.5 12.4 13.1 9.4 8.1 7.5. a a a a a a. 4.7 11.1 11.6 9.0 7.9 8.1. a a a a a a. a a a a ab ab. 0.1 0.6 1.5 2.1 1.6 1.5. a a a a ab ab. 0.2 0.7 1.6 1.9 1.4 1.3. a a a a b b. a a ab a a. 151.4 228.4 333.0 360.1 378.0. 152.4 252.1 293.8 319.1 328.5. a a b b b. a a a a a. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.各調査日において,施肥窒素処理間において,Tukey 法により同一アルファ ベット間には有意差がないことを示す(P<0.05).草丈の調査は 5/17 以降開始した..
(6) 62. 熱帯農業研究 13 (2)2020. あったため,茎あたりの青葉数は窒素施肥量の影響は. れの窒素施肥量を削減した際に収量に与える影響力. なく,品種固有の値であると推察された.. を,交互作用は,基肥(追肥)量によって,追肥(基. 茎数の経時変化では,6 月~ 9 月まで増加し,収穫. 肥)削減量が収量に与える影響力を示している.基肥. 時には各処理区でほぼ同じ値となった.窒素は分げつ. および追肥窒素による主効果は有意であり(P<0.05),. の出現伸長に重要な要素であるが(宮里,1986) ,本. F 値および平均平方の比較より追肥における減肥の影. 試験では施肥量の違いによる有意な差は確認できな. 響は基肥の影響より 4 割近く大きく,交互作用は有効. かった.これは栽培管理において,培土を行わなかっ. ではなかった(P>0.05) .これらのことより,基肥窒. たため,無効分げつが増加し,施肥窒素の効果がでな. 素量および追肥窒素量それぞれの削減により,収量が. かったためであると推察された.. 減少することが示唆された.追肥窒素半量区(T4,. 調査期間における LAI の最大値は 8 月調査時にお. T5,T6)では,追肥窒素基準量区(T1,T2,T3)と. ける 2.9(T4)であり,比屋根(2008)の報告とほぼ. 比べて草丈および茎長の値が小かった(表 5).この. 同じ値を示した.LAI の経時変化では,9 月調査にお. ことより,追肥窒素の減肥は,茎の伸張を制限し,収. いて T3 と T7,10 月調査において T1 と T7 で有意な. 量が小さくなると推察される.基肥窒素量を削減した. 違いが確認された.8 月調査時における LAI の最大値. 場合,追肥窒素基準量区および追肥窒素半量区では,. と最小値の差は 1.0 で,処理による有意差は確認でき. 基肥の減肥に伴い収量は減少したが,T1 と T2 におけ. なかった.一方,9 月以降の調査ではその差は 1.1 以. る収量の差はほとんど見られなかった.他の収穫調査. 上となり,施肥窒素処理の違いが LAI に影響を及ぼ. 項目においては T7 を除いた処理区の間に有意な差が. すことが確認できた.. 見られなかったが,生育調査では T1 と T2 は全ての. 草丈は,平均一葉面積と同様に 8 月以降の調査にお. 期間で概ね同じ平均一葉面積の経時変化を示した(表. いて,無施肥区である T7 が他の処理区より有意に低. 3).したがって,T1 と T2 では,生育期間をとおして,. い値となった(P<0.05) .10 月調査時に注目すると,. 十分な光合成が行えたため,収量が同レベルであった. T7 を除いた処理間の統計的な有意差はなかったが,. と推察した.久場(2011)によると,国頭マージ圃場. T1 および T2 処理区の草丈は 400 cm を超えた.T1 お. におけるサトウキビ連作の窒素無施用は,造成畑,熟. よび T2 では,平均一葉面積が,基肥を全く与えない. 畑を問わず,サトウキビの減収を初作から招き,さら. 処理(T3)および追肥を半量とした処理(T4,T5,. に,熟畑における 2 ~ 3 年目では窒素施用量を 5 割減. T6)より大きい値を示していたことより,十分に光. じても窒素施用標準量並みの収量を得ることが可能で. 合成を行う葉面積を維持していたため,草丈が大きく. あったが,4 年目では約 20%の減収になると報告して. なったと推察した. 以上の生育調査の結果から,施肥窒素処理の影響は サトウキビの葉の生長および草丈に影響を及ぼし,8 月以降の生育最盛期からその影響が発生することが確 認された. 収穫調査 表 4 に,分散分析による基肥および追肥が収量に与 える影響を示す.表 4 における基肥と追肥は,それぞ. 表 4.分散分析表(1)収量に与える基肥および追肥の影響. 要因. 自由度. 平方和 平均平方. F値. P値. 基肥. 2. 314.0. 157.0. 6.75. 0.029. 追肥. 1. 252.1. 252.1. 10.84. 0.017. 交互作用. 2. 50.7. 25.3. 1.09. 0.395. 誤差. 6. 139.5. 23.3. 基肥の窒素施用量は 70,35,0 kg ha-1 の 3 水準,追肥の窒素 施用量は 160,80 kg ha-1 の 2 水準とした.. 表 5.収量調査. 施肥窒素 処理. 収量 (tha-1). 草丈. 茎長. 節数. 茎数 1 (節数 茎 ) (茎数 m-2). (cm). (cm). T1. 91.0. 423.9 a. 261.5 a. 24.0 a. 8.4 a. T2. 88.8. 420.4 a. 253.4 a. 22.4 a. 7.9 a. T3. 76.8. 420.7 a. 255.9 a. 22.5 a. 8.4 a. T4. 83.0. 390.3 a. 235.8 a. 21.0 a. 8.4 a. T5. 74.5. 394.7 a. 234.7 a. 20.6 a. 6.8 a. T6. 72.3. 405.0 a. 239.3 a. 22.9 a. 7.1 a. T7. 39.8. 346.9 b. 198.4 b. 20.6 a. 7.9 a. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.収量は各施肥窒素処理 2 反復の調査結果をそ れぞれ平均した代表値を示す.収量を除いた調査項目において,施肥窒素処理間において, Tukey 法により同一アルファベット間には有意差がないことを示す(P<0.05)..
(7) 63. 岡本ら:施肥窒素減肥がサトウキビ生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響. いる.土壌有機物が少ないライシメーター圃場を用い. (T7)のみが他の処理区と比べて浸透量が大きい傾向. た,本試験における施肥窒素量の 5 割減(T5)は,. を示した(図 3).これは, 8 月以降の窒素不足により,. 久場の報告による熟畑で連作した場合もしくは造成畑. 葉面積が減少し,蒸散量が減少したためであったと考. における減肥の試験結果と同様の傾向を示した.. えられた.. 現行の施肥基準における基肥窒素を半量に削減して も,基肥窒素の全量と同程度の収量が維持できること. NO3-N 濃度. が確認できた.一方,追肥窒素が基準量の半量の条件 下では,基肥の減肥に伴い収量は減少した.. 観測期間における浸透水中の NO3-N 濃度の平均は 1.8 ~ 3.7 mg L-1 で, 水 質 基 準 で あ る 10 mg L-1 を 下. 浸透水. 回った(表 7).井上(2018)の報告による,窒素無 施用では,浸透水中の NO3-N 濃度は 2.36 mg L-1 であ. 図 3 に試験期間における,降雨量および各処理区の 浸透量の積算量を示す.栽培期間における浸透量は,. り,T7 の濃度と同程度であった.一方,最大 NO3-N 濃度は 7.2 ~ 10.6 mg L-1 であった.施肥窒素基準量区. 1,518 ~ 1,766 mm であり,浸透率(=浸透量 / 降雨. (T1)では,浸透水中の NO3-N 濃度は水質基準を 8. 量)は,0.60 ~ 0.70 であった(表 6) .6 月までの初. 日間超過した.また,T7 の最大 NO3-N 濃度は窒素を. 期生育の段階では,降雨のほとんどが浸透し,土壌の. 施用していないにも関わらず T4 より多くなった.こ. 高い透水性(表 2)を示す結果であった.7 月~ 8 月. れは,各ライシメーターに充填されている土壌構造の. の期間においては,全ての処理区で,浸透水はほとん. ばらつきによる浸透特性の違いが,ライシメーターか. ど発生しなかった.表 3 で示したとおり,この時期の. ら排水される浸透水の最大 NO3-N 濃度に影響を及ぼ. サトウキビ生育は最も旺盛であったため,植物による. したと考えられる.本ライシメーター試験における長. 蒸散量が増加したことが要因であると考えられた.10. 期的な NO3-N 溶脱特性を時間変動で把握するために,. 月から収穫までは,再び浸透量は増加し,無施肥区. 降雨および各処理における NO3-N 濃度を 10 日間平均. 積算降雨量,浸透量 (mm). 2700. 1800. T1 T2 T3 T4 T5 T6 T7 降雨. 900. 0. 日付(年/月/日) 図 3. 積算降雨量および各処理における積算浸透量. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.. 表 6.積算浸透量および浸透率.. 表 7.観測期間における NO3-N 濃度の平均及び最大.. 施肥窒素 処理. 積算浸透量. 浸透率. (mm). T1. NO3-N 濃度(mg L-1). (浸透量 / 降雨量). 施肥窒素 処理. 平均. 最大. 1,576. 0.63. T1. 3.7. 10.6. T2. 1,518. 0.60. T2. 2.6. 8.8. T3. 1,545. 0.61. T3. 2.2. 6.3. T4. 1,583. 0.63. T4. 2.7. 8.7. T5. 1,583. 0.63. T5. 2.6. 9.0. T6. 1,597. 0.64. T6. 2.2. 7.8. T7. 1,766. 0.70. T7. 1.8. 7.2. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.浸透率の算定に用 いた栽培期間の降雨量は 2,514 mm.. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す..
(8) 熱帯農業研究 13 (2)2020. 12. 0. 10 200 8. 降雨 T1 T2 T3 T4 T5 T6 T7. 6 4 2 0. 400. 降雨 (mm). NO3-N濃度の10日間平均値 (mg L-1). 64. 600. 800. 日付 (年/月/日). 図 4. 降雨および各処理における NO3-N 濃度の経時変化.. 10 日間の平均値.T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.. 値として図 4 に示す.. 窒素量の違いによる影響と考えられた.また,6 月 12. 1 月から 4 月前半までの栽培初期では,処理間の. 日の追肥 2 回目以降の NO3-N 濃度は,全ての処理区. NO3-N 濃度にバラつきはあるものの,全ての処理区. で減少する傾向をした.これは,作物生育が旺盛にな. において,NO3-N 濃度は増加する傾向を示した.ま. り,作物による窒素吸収量が多くなり,下層への窒素. た,4 月 1 日に全ての処理区で NO3-N 濃度が低下し. 溶脱量が減少したためと考えられる.7 月後半から 9. たが,この要因は 3 月 10 日以降にまとまった降雨が. 月までは,無施肥区を除いては浸透水が発生しなかっ. なく浸透量が低下したためと推察した.測定を開始し. たため,浸透水のサンプリングは行えなかった.再. た直後における NO3-N 濃度の全処理区の平均値は 1.5 mg L-1 であり,除塩処理後からの大幅な増加は確認で. び浸透水が発生した 9 月以降では,T4,T5 および T6 の NO3-N 濃度は 1 mg L-1 以下であり,11 月以降では,. きなかった.. 全ての窒素処理区における NO3-N 濃度は 1 mg L-1 以. 異なる窒素の肥培管理による浸透水中の NO3-N 濃. 下となった.これらの結果は,追肥窒素が基準量の処. 度の違いは,梅雨入り前の日降雨 222.0 mm のイベン. 理区(T1,T2,T3)では,9 月以降においても土壌. トがあった 2017 年 4 月 26 日以降から確認された.5. 中に窒素が残存していたと考えられ,10 月の生育調. 月においては,窒素無施用区(T7)に比べて,基肥. 査において台風により減少した平均一葉面積の回復に. 窒素無施用区(T3,T6)の浸透水中の NO3-N 濃度は. 貢献したと推察された.したがって,追肥窒素量を半. 高かった.また,基肥窒素の基準量区(T1,T4) ,半. 量とした場合,溶脱する窒素量も減少するが収量の減. 量区(T2,T5) ,無施用区(T3,T6)の順で浸透水中. 少量も大きいため,追肥窒素量は現行の基準量が必要. の NO3-N 濃度は高い傾向を示し,T1 と T4 および T3. であることが示唆された.. と T6 では追肥窒素による浸透水中の NO3-N 濃度の 違いも確認できた.Anzai et al.(2017)は,サトウキ ビの生育初期において施肥後 3 ~ 4 週間後に深度 1 m の NO3--N 濃度が増加すると報告している.本試験に. NO3-N 溶脱量 観測期間の積算 NO3-N 溶脱量は,窒素を施用しな. おける施肥窒素のライシメーター底(深度 2 m)に溶. い T7 で 37.4 kg ha-1 に対し,窒素処理の違いにより, 42.2 ~ 61.1 kg ha-1 溶脱した(表 8).草場ら(2009). 脱した日を 4 月 26 日にすると,基肥窒素溶脱のタイ. および井上(2018)によると,鹿児島県における黄色. ムラグは 105 日であるが,梅雨時期前に施用した 1 回. 土壌を充填したライシメーターを用いたサトウキビ新 植栽培試験の NO3-N 溶脱観測結果は 42 kg ha-1 前後と. 目の追肥窒素は,既往の研究と同様に 1 か月以内に溶 脱している.5 月までの緩慢なサトウキビ生育にとっ ては,基肥および追肥 1 回目の施肥窒素は作物の吸収. 報告されている.既往の研究と同程度の窒素量を施肥 した T2 の NO3-N 溶脱量は 48.2 kg ha-1 であり,概ね. 能を超過するため,石垣島では梅雨時期(5 月中旬か. 同じ結果を示した.また,神野・本名(1999)によ. ら 6 月下旬)の降雨により,根群域より下層へと溶脱. る,ライシメーターを用いた無肥料・無栽植の条件 で,NO3-N 溶脱量は 13 ~ 38 kg ha-1 であることから,. していると考えられる. 追肥窒素を基準量施用する T1,T2 および T3 では,. T7 における NO3-N 溶脱量は既往の研究と比べて多い. 7 月初めに NO3-N 濃度は増加したが,追肥窒素が半量. とは言えない.本試験においては,T7 の NO3-N 溶脱. である T4,T5 および T6 では,NO3-N 濃度は変化し. 量を供試土壌からの窒素溶脱量として,T1 から T6 の. なかった.したがって,この NO3-N 濃度上昇は追肥. NO3-N 溶脱量を T7 の NO3-N 溶脱量で差し引いた値を.
(9) 65. 岡本ら:施肥窒素減肥がサトウキビ生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響. 施肥窒素に対する窒素溶脱量とした.観測期間におけ. は,それぞれを減肥した際に,NO3-N 溶脱に与える. る施肥窒素に対する積算窒素溶脱量を図 5 に示す.. 影響力を,交互作用は,基肥(追肥)量によって,追. 観測開始から 4 月 26 日までの全ての処理区におけ る施肥窒素に対する積算窒素溶脱量は 0 kg ha-1 近傍. 肥(基肥)の減肥量が NO3-N 溶脱量に与える影響力 を示す.基肥の主効果は有意であるが,追肥の主効果. で推移したことより,無施肥区(T7)と同様にライ. は有意ではなかった.一方,交互作用は有意ではな. シメーターに充填されていた供試土壌からの窒素溶脱. かったが,基肥による NO3-N 溶脱量の影響の 3 割程. が主な要因であったと考えられた.4 月 26 日以降では,. 度の影響があると考えられる.これらのことより,基. 全ての処理区における施肥窒素に対する積算窒素溶脱. 肥窒素量の削減により,NO3-N 溶脱量が減少するこ. 量は増加した.基肥半量区(T2,T5)および基肥窒. とが示唆された.この分散分析による基肥および追肥. 素無施用区(T3,T6)においては,それぞれ追肥窒. の減肥による NO3-N 溶脱量に及ぼす影響を,図 6 に. 素が基準量(T2,T3) ,半量(T5,T6)であっても. 示した期間別の各施肥窒素処理区における施肥窒素量. 最終的な溶脱量の違いはなかった.観測期間における. と NO3-N 溶脱量の関係より次のように考察した.. NO3-N 溶脱の合計量は,追肥窒素のみ半量区(T4) ,. 施肥窒素の増加に伴う NO3-N 溶脱量が大きい期間. 基肥窒素半量区(T2 および T5)および基肥窒素無施. は,基肥日~ 2 回目の追肥日(緑)であった.この時. 用区(T3 および T6)では,現行の施肥基準量である T1 の積算窒素溶脱量(24 kg ha-1)と比べて,10 kg. 期は,石垣島の梅雨時期(5 月中旬~ 6 月下旬)を含. ha-1,12 kg ha-1,19 kg ha-1 減少した.これらの結果. 窒素は溶脱しやすい.特にサトウキビの窒素吸収量は. より,現行の施肥基準における窒素施肥量の削減によ. 4 月までは僅かで基肥のほとんどは吸収されない.し. り,肥料由来の窒素による溶脱は 4 ~ 8 割程度削減さ. たがって,基肥の主効果は有意であったと推察された.. れることが確認できた.. むため,連続的な降雨により基肥および 1 回目の追肥. (P=0.041) .. 表 9 は分散分析による基肥および追肥が NO3-N 溶. 一方,梅雨明け以降は,台風のまとまった降雨がな. 脱量に及ぼす影響を示す.表 9 において,基肥と追肥. い限り,下層への水分移動は少なく,さらにサトウキ. 表 8.観測期間における NO3-N 溶脱量の積算.. 表 9.分散分析表(2)NO3-N 溶脱に与える基肥および追 肥の影響.. 施肥窒素 処理. 積算 NO3-N 溶脱量 (kg ha-1). T1. 61.1. T2. 48.4. T3. 41.8. T4. 50.9. T5. 49.5. T6. 42.2. T7. 37.4. 要因. 自由度. 平方和 平均平方. P値. 基肥. 2. 343.2. 171.6. 5.718. 0.041. 追肥. 1. 20.2. 20.21. 0.673. 0.443. 交互作用. 2. 101.8. 50.92. 1.697. 0.261. 誤差. 6. 180. 30.01. 基肥の窒素施肥量は 70,35,0 kg ha-1 の 3 水準,追肥の窒素 施用量は 160,80 kg ha-1 の 2 水準とした.. T1 から T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.. 25. 0. 20. 50 100. 15. 150. 10. 200. 5. 250. 0. 300. -5. 350. 降雨 降雨(mm). 施肥窒素に対する積算窒素溶脱量 (kg ha-1). F値. T1 T2. T3 T4 T5 T6. 日付 (年/月/日). 図 5. 施肥窒素に対する積算窒素溶脱量.. T1 から T6 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.施肥窒素に対する積算窒素溶脱量は,T1 から T6 の NO3-N 溶脱量を T7(無施肥区)の NO3-N 溶脱量で差し引いた値の積算量を示す.マ イナスは施肥窒素に対する積算 NO3-N 溶脱量が無施肥区における積算 NO3-N 溶脱量よりも 少ないことを示す..
(10) 66. 熱帯農業研究 13 (2)2020. NO3-N溶脱量(kg ha-1). 70. y = 0.1241x + 35.273 R² = 0.578*. 60 50 40. y = 0.0818x + 36.469 R² = 0.521 N.S.. 30 20. y = 0.0327x + 13.284 R² = 0.202 N.S.. 10 0 0. 50. 100. 150. 窒素施肥量(kg. 200. 250. ha-1). 図 6. 期間別の窒素施肥量と NO3-N 溶脱量の関係.. 記号は表 1 の施肥窒素処理区を示し(〇:T1,△:T2,□:T3,●:T4,▲:T5,■: T6,×:T7),色は期間を示す(青:基肥日~ 1 回目の追肥日,緑:基肥日~ 2 回 目の追肥日,赤:基肥日~収穫日).T1 ~ T7 は表 1 の施肥窒素処理区を示す.* は 回帰分析により,施肥窒素減肥に伴う NO3-N 溶脱量の直線的な減少が 5%水準で有 意差のあること,N.S. は有意差のないことを示す.. ビの養分吸収が多い時期でもある.T1 を除いた全て. 推察された.生育調査および収穫調査の結果を考慮す. の施肥窒素処理区では,基肥日~ 2 回目の追肥日およ. ると,現行の施肥基準においては,梅雨時期前に施用. び基肥日~収穫日における NO3-N 溶脱量はそれぞれ. される窒素量が過剰であると思われる.基肥窒素の無. 同程度であった.また,基肥日~収穫日における回帰. 施用は,NO3-N 溶脱量の削減効果は大きいが,現行. 係数は有意ではなかったものの(P>0.05) ,施肥窒素. の施肥基準と比べて収量が大きく減少したため生産性. の減少に伴う NO3-N 溶脱量の直線的な傾きは,基肥. は低下する.基肥窒素のみを半量とした処理では,現. 日~ 2 回目の追肥日における傾きと比べて小さかっ. 行の施肥基準における施肥窒素に対する窒素溶脱量の. た.これらの要因は,梅雨明け以降の降雨特性および. 5 割程度の削減が見込まれ,現行の施肥基準と同程度. サトウキビの窒素吸収特性により,2 回目の追肥日以. の収量が維持できる可能性が高い.熱帯・亜熱帯地域. 降の栽培期間において窒素溶脱が発生しなかったため. における生産性と環境保全を両立したサトウキビ肥培. であると考えられた.したがって,追肥窒素は基準. 管理技術開発のためには,植え付け後における施肥の. 量,半量に関わらず,ほとんどがサトウキビに吸収さ. 削減が効果的であり,現行基準量の半量程度まで削減. れるため,NO3-N 溶脱に及ぼす追肥の主効果は有意. できる可能性があると思われる.. ではなかったと推察された(P>0.05) .. 結 論. 交互作用による影響は,梅雨時期前に施用された施 肥窒素の合計量が多い施肥窒素基準量区(T1)にお. 本研究では,施肥窒素の減肥がサトウキビ生育およ. ける NO3-N 溶脱特性の違いが要因であることを次の. び NO3-N 溶脱に与える影響を把握するため,亜熱帯. ように考察した.井上(2018)は,Ni22 春植え栽培 での,基肥窒素施用量を 70 kg ha-1 より多く設定する. 島嶼地域のライシメーター圃場を用いて,異なる施肥. と,サトウキビの窒素利用効率が低下する傾向を示. た.以下に結果を要約する.. した.本試験においては,基肥窒素の基準量は 70 kg ha-1 で前述の既往の研究と同量であるが,梅雨時期前. 1 )窒素施肥量の違いは,6 月以前までの地上部の初. に施用された基肥および 1 回目の追肥窒素の合計量は 施肥窒素基準量区(T1)で 130 kg ha-1 であった.し. 2 )現行の施肥基準における基肥窒素を半量に削減し. たがって,梅雨時期前の窒素施肥量が多かった T1 に. 3 )栽培期間における浸透水量は無施肥区を除き,概. おいては,土壌窒素濃度が局所的に高まり,根が十分 に土壌窒素を吸収できなかったと考えられた.その結 果,梅雨時期(5 月中旬から 6 月下旬)の降雨により. 窒素処理条件を設定したサトウキビ栽培試験を実施し. 期生育には影響を及ぼさなかった. ても基肥窒素の全量と同程度の収量が維持された. ね同じであった. 4 )浸透水中の NO3-N 濃度は,4 月後半から 6 月後 半までの梅雨時期に高くなる傾向を示した.. 高濃度の NO3-N が根群域より下層へと溶脱したため,. 5 )サトウキビ栽培における NO3-N 溶脱は主に梅雨. 梅雨時期以降においても NO3-N 溶脱量が多かったと. 時期に発生し,その要因は,サトウキビの生育初期.
(11) 岡本ら:施肥窒素減肥がサトウキビ生育および硝酸態窒素溶脱に与える影響. に施用される基肥であることが示唆された. 以上の結果より,収量を維持し窒素負荷量を削減す るためには,基肥量( 1 回目の施肥量)を削減するこ とによって,生育初期の窒素溶脱量を削減することが 有効であることが確認できた. 本研究の栽培条件は,沖縄県の春植え栽培および夏 植え栽培のどちらの栽培型にも当てはまらない栽培時 期であるため,これらの減肥栽培は,栽培指針に示さ れた栽培期間に従い,適用可能か検証する必要があ る.また,複数年度において異なる気象条件下および 異なる栽培型でも適用可能か栽培試験および窒素溶脱 観測を行いデータの蓄積を行う必要がある.前述した ように,サトウキビ栽培試験の実施には,少なくとも 一年以上の期間を要するため,蓄積したデータを用い て,作物生育および土壌内における水・溶質動態の予 測可能な土壌-作物モデルを構築していくことも有効 な手段である. 謝 辞 本研究を進めるにあたり,供試資材の提供及びご助 言頂いた国際農林水産業研究センターの寺島義文氏, 観測装置の維持管理において協力頂いた同センター技 術支援室,高橋正史氏と前津雅英氏には深く御礼申し 上げます. 引用文献 Anzai, T., S. Goto, S. Ando, K. Inosako, B. B. E. Patrick, and S. Ando 2017. Utilization of nitrogen fertilizer in the early growth stage of sugarcane and leaching of nitrate-nitrogen: A case study on Negros Island, the Philippines. Trop. Agr. Devlop. 61(4): 184-193. 福澤康典・川満芳信・小宮泰明・上野正実 2008.サトウキビ 生育の極初期段階におけるバイオマス生産特性.日作紀 77(1): 54-60. 宜保清一・宮城調勝 1977.島尻マージ地帯の透水性について. 琉球大学農学部学術報告 24: 449-455. 比嘉明美・儀間 靖・亀谷 茂・國吉 清・桃原 弘 2011. 有機物の長期連用がサトウキビと土壌の理化学性に与える 影響.沖縄県農研セ報 5: 11-15. 東田盛善・佐竹 洋・渡久山章 2001.沖縄島の湧水と河川水 の化学的特徴と同位体組成.地球科学 35: 27-41. 廣畑昌章・小笹康人・松崎達哉・藤田一城・松岡良三・渡辺征 紀 1999.熊本県 U 町の硝酸性窒素による地下水汚染機 構.地下水学会誌 41(4): 291-306.. 67. 比屋根真一 2008.沖縄本島南部地域の夏季における春植えサ トウキビの蒸発散.沖縄県農研セ研報 1: 63-67. 井上健一 2018.品種特性と土壌条件を考慮したサトウキビの 栽培管理法に関する研究.鹿児島農総セ研報 12: 31-89. 伊東祐次郎 1966.サトウキビ栽培型による生育相ならびに蔗 茎登熟相について.九州農試種子島試験地昭和 40 年度成 績書. 加治俊幸・長友 誠 2008.重窒素トレーサー法によるサトウ キビの施肥窒素利用効率.鹿児島農総セ研報 2: 43-51. 神野雄一・本名俊正 1999.ライシメーター試験によるシバ 畑における施肥窒素の溶脱過程と窒素収支.土肥誌 70(3): 297-305 久場峯子 2011.サトウキビ栽培における肥料の低減. 『特産 種苗』日本特産農作物種苗協会(東京)pp.107-112. 草場 敬・郡司掛則昭・藤冨慎一・猪部 巌・古江広治・井 出 勉・山本富三・山田一郎 2009.九州沖縄各試験デー タに基づく土壌・施肥管理の現状解析と適正化に向けた課 題.九州沖縄農業研究センター研究資料 92: 30-33. 熊沢喜久雄 1999.地下水の硝酸態窒素汚染の現状.土肥誌 70(2): 207-212. 前里和洋・中原麻衣・小宮康明・上野正実・川満芳信 2016. バガス炭を単体としたリン溶解菌による難溶性無機リン酸 の可溶化が株出しサトウキビの生育および養分吸収に及ぼ す影響.日作記 85(3): 246-252. 宮里清松 1986.『さとうきびとその栽培』日本分蜜糖工業会 (沖縄)p.364. 中西康博・高平兼司・下地邦輝 2001.沖縄県宮古島における サトウキビへの施肥実態と地下水窒素濃度との関係.土肥 誌 72(4): 499-504. 中野拓治・安元 純・寺澤春奈・名和規夫 2013.地下水中硝 酸性窒素濃度の時空間分布と形成要因井について-沖縄県 本島南部琉球石灰岩分布地帯を例として-.農業農村工学 会論文集 286: 1-9. 登川 伸・寺沢四郎 1982.沖縄県本島の主要土壌の物理性に ついて.土壌の物理性 46: 2-12. 沖縄県農業試験場 1978.『昭和 52・53 年度 地力保全基本調 査成績書(八重山・宮古地域)』沖縄県農業試験場(沖縄) p.253. 沖縄県農林水産部 2014.『さとうきび栽培指針』沖縄県農林 水産部(沖縄)p.87. 沖縄県農林水産部 2017.『平成 28/29 年基 さとうきび及び 甘しゃ糖生産実績』沖縄県農林水産部(沖縄)pp.1-2. 寺内方克 2002.サトウキビ生産の現状と砂糖収量向上のため の課題.日作紀 71(3): 297-307. 寺内方克・松岡 誠 2000.サトウキビ初期生長特性改善のた めの形態形質の解析.日作紀 69(3): 286-292. 渡嘉敷義浩 1993.沖縄に分布する島尻マージおよびジャーガ ルの土壌特性.ペドロジスト 37(2): 29-42. 吉本周平・土原健雄・石田 聡・今泉眞之 2007.琉球石灰岩 分布地帯における地下水硝酸性窒素の動態.農業農村工学 会論文集 251: 69-82..
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