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パートナーシップ契約を通じた東京2020の事前合宿誘致プロセス 豊岡市とドイツボート連盟のリレーションシップ・マーケティング に着目して

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Abstract

The purpose of this study was to clarify the invitation process of the pre-games training camp for Tokyo 2020 through the partnership agreement, focusing on relationship marketing between Toyooka City and the German Rowing Federation. We conducted a semi-structured interview with the key informant who was a city worker in charge of the pre-games training camp and the partnership agreement in Toyooka City. The main interviewed items consisted of background, decision-makers and stakeholders, content, project systems, and strategic processes. Also, we used the four-stage process model regarding relationship marketing; 1) the formation of relationship marketing, 2) management and governance of programs, 3) evaluations of program performance outcomes, and, 4) relationship evolution and enhancement (Parvatiyar and Sheth, 2000). The main results could be summarized as follows. First, Toyooka city received a partnership agreement proposal from the GRF, which stipulated that 1) Toyooka City would provide financial support to the GRF and 2) the Toyooka City logo would be placed on uniforms, training apparel, and rowing equipment of the German national rowing team. The pre-games training camp through the partnership agreements was cheaper than conventional camps. Toyooka City had a clear objective of increasing inbound, so the partnership agreement was easy to accept the understanding of their citizens and parliament. Second, it was revealed that this new form of camps builds the relationships besides sport. To be specific, it was confirmed the economic impact in the tourism industry. Lastly, Toyooka City not only intends to sustain its relationship with Germany after 2020, but it will also try to bid for international competitions such as the World Championships. These strategies will maximize the value of the pre-games training camps.

《keywords》Tokyo2020,pre-gamestrainingcamps,partnershipagreement,relationship marketing

1) 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 〒657-8501 兵庫県神戸市灘区鶴甲3-11 Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University 3-11 Tsurukabuto, Nada-ku, Kobe, Hyogo, 657-8501 JAPAN

2) 流通科学大学人間社会学部 〒651-2188 兵庫県神戸市西区学園西町3-1

Faculty of Human and Social Sciences, University of Marketing and Distribution Sciences 3-1 Gakuen-Nishimachi, Nishi-ku, Kobe, Hyogo, 651-2188 JAPAN

<研究資料>

パートナーシップ契約を通じた東京2020の事前合宿誘致プロセス

:豊岡市とドイツボート連盟のリレーションシップ・マーケティング

に着目して

青山将己

1)

,山口志郎

2)

Invitation Process of the Pre-Games Training Camps for Tokyo 2020 through the Partnership Agreement : Focusing on Relationship Marketing between Toyooka City and the German Rowing Federation

Masaki Aoyama1) and Shiro Yamaguchi2)

生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020

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1.緒言

2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大 会(以下,東京2020)の開催を契機に,全国各地で事 前合宿の誘致活動が活発化している.事前合宿の実施 は,オリンピック・パラリンピックをはじめとするメ ガスポーツイベントにおいて,ノンホストシティが関 与することのできる数少ない機会として捉えられてい る(O’Brien and Gardiner, 2006).地方自治体にとっ ては,国外に向けた数少ないアピールの場となってお り,熾烈な誘致争いが繰り広げられている.そのた め,地方自治体は地域の魅力や特徴を国外に PR する 必要があり(Fairley and Kelly, 2017),そのアプロー チ方法は多種多様である.これは,相手国にいかに合 宿地の魅力を認識してもらうかという「プレイス・ブ ランディング」の視点を持つものであり(博報堂ブラ ンドプロジェクト,2006),地方自治体におけるシンボ ルを再認識する機会にもつながる(青山ほか,2019). このような状況下で,兵庫県に位置する豊岡市はド イツボート連盟とパートナーシップ契約を締結し, ボートドイツ代表チームの事前合宿を誘致することに 成功した.地方自治体が国内外を問わず中央競技団体 (以下,NF)とのパートナーシップ契約に署名したと いう事例はこれまで報告されておらず,前例のない動 きであった.日本では,メガスポーツイベントにおけ る事前合宿誘致は自由競争が一般的であり,開催国の 競技団体によって割り当てられた場合よりも,合宿地 となった自治体が費やす費用は高額になりやすい(杉 山ほか,2019).豊岡市におけるパートナーシップ契 約についても同様に,一定の財源を確保する必要があ り,地方自治体として費用対効果をどのように考えて いるのか,またどのような中・長期的戦略を立ててい るのかを検証することは非常に興味深い.そこで本研 究では豊岡市とドイツボート連盟のパートナーシップ 契約という事例を検証することにより,メガスポーツ イベントにおける事前合宿事業の新たな可能性を提示 することを基本姿勢とする. 他方,メガスポーツイベントの事前合宿に関する研 究を概観すると,大きく分けて2つに分類される.一 つ目は,事前合宿地の「選考・選定側」に着目した研 究である.これまで一般的なスポーツ合宿やトップス ポーツにおけるスポーツ合宿研究は行われてきたもの の(e.g., Costa et al., 2004;押見ほか,2012;横山・ 石澤,2015;石澤ほか,2016),メガスポーツイベン トの事前合宿に着目した実証的な研究は非常に少な い.数少ない研究の中で,久保・松井(2020)は海外 代表チームのコーチを対象に,2018 年平昌冬季オリ ンピックにおける事前合宿地選考の意思決定プロセス についてインタビュー調査を実施している.久保・松 井は,押見ほか(2012)の提唱する DAAR モデルに

「比較・検討(Comparison & Examination)」を追加 した「DACEAR」を構築し,2018 年平昌冬季オリン ピックに向けた事前合宿の意思決定プロセスは,「欲 求(Desire)」,「つながり(Association)」,「比較・検 討(Comparison & Examination)」,「行動(Action)」, 「再訪問(Re-visit)」の5段階のプロセスであったこと を報告している. 二つ目は,事前合宿の「受け入れ側」に着目した研 究である.各国代表チームや選手を受け入れる際,受 入地においてどのような事業が実施されたのか,また 事前合宿事業にどのようなアクターやステークホル ダーが関わっていたのかといった,事業そのものに着 目した研究が散見される(e.g., Kellett et al., 2008;青 山ほか,2019;杉山ほか,2019).また,Arnold et al. (2015) は2012年ロンドン夏季オリンピックの事前合

宿における効果的な準備と実施に関連する要因を検証 した,運用モデルを開発している.効果的な準備とい う点においては,イベント・レバレッジに着目した研 究も近年増加傾向にある.Fairley and Kelly (2017) は,2018 年ゴールドコースト・コモンウェルスゲー ムズにおける事前合宿の受け入れについて,Chalip (2004) のイベント・レバレッジモデルを基に戦略を 検証している.イベント・レバレッジは,イベント開 催による経済的効果や社会的効果を最適化するための 戦略であり (Chalip, 2004, 2006) ,その先にレガシー が生み出されると考えられている(間野,2015).事前 合宿のレガシー研究としては,松橋(2017)が FIFA ワールドカップ 2002 日韓大会の事前合宿誘致に成功 した自治体に着目し,ソフトレガシーの形成過程につ いて明らかにしている.松橋は,受入地側の多様な主 体が参画できるかどうかが鍵であり,加えて財政的に 一定のリスクを取ることの重要性を指摘している.ま た,実際のイベント効果という点においては,O'Brien and Gardiner (2006) が 2002 年シドニー夏季オリン ピックを事例に,事前合宿におけるイベント効果を探 索的に検証している.O'Brien and Gardinerは受入地 側と相手国チームの関係性を強化・発展させること で,観光や投資といった長期的な機会が生まれる可能 性を示唆している.さらに持丸・藤本(2009)は,2007 年IAAF世界陸上大阪大会におけるアメリカ代表チー ムの事前合宿に関して,受け入れ地の大学がメディア にどの程度露出したかについて広告価値を評価してい る.以上のように,「受け入れ側」の研究では「事前合 宿の実施によって,何を残すことができるのか」とい う問いが背景にあり,地方自治体にとっては持続的に 事前合宿を誘致するべきかどうかといった判断材料に もなりうる. 本ケースにおいて,上記の「事前合宿の実施によっ て,何を残すことができるのか」という問いは,パー トナーシップ契約という性質上,経済的な価値や効果 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 28

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ステークホルダーの関係性を測定可能な変数(e.g., 満 足度,コミットメント,購買行動,ブランド・トラス ト)に変換し,各変数の影響が検討されてきた.しか しながら,Das (2009) やAgariya and Singh (2011) は,組織(イベント)の価値創造に寄与する役割を理 解するために,価値を生み出す「プロセス」において 組織とステークホルダーの関係性が体系的にどのよう な役割を果たしたかを検証することは不可欠な作業で ある,と指摘している.したがって,本研究における 「パートナーシップ契約を通じた事前合宿」という事 象に対し,その「プロセス」を検証することで事前合 宿の価値創造(新たな可能性)に寄与する役割を理解 することができると考えられる.以上より,本研究に おいては,Parvatiyar and Sheth (2000) のプロセスモ デルを援用し,検証を行う.

図1には,本研究のフレームワークを示している. Parvatiyar and Sheth (2000) におけるプロセスモデ ルは,1)形成(リレーションシップ・マーケティング の形成),2)管理・運営(事業の管理・運営),3)評 価(事業のパフォーマンス評価),4)発展(関係性の 強化・発展),という4段階で構成されている.このモ デルでは,組織とステークホルダーの関係性が強化・ 発展することにより(4:発展),新たな関係性が形成 され(1:形成),また継続して事業を管理・運営する ことができる(2:管理・運営),というサイクルモデ ルとしての側面を持つ.なお,本研究ではパートナー シップ契約と事前合宿の実施という2つの異なるパラ ダイムが存在する.しかしながら,パートナーシップ 契約は事前合宿を前提とするものであり(豊岡市, n.d.),豊岡市とドイツボート連盟のリレーションシッ プ・マーケティングは一貫性のあるものである.本研 究ではパートナーシップ契約を通じた事前合宿の誘致 プロセスを検証することからも,2つのパラダイムを 複合的に捉えることとする. 本研究の調査内容は東京2020に向け進行されている 事業であるため,3)評価,4)発展については時間軸に ズレがある.しかしながら,3)評価は調査時点(2019 年)における「事前評価」,また4)発展は2020年以降 に向けた「戦略」と解釈することとした.なお,新型 コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により, 2020年3月に東京2020の1年延期が発表されたが,本 調査時を軸とし2020年に大会が開催されることを念頭 に置き論を進めることとした. 2.2 調査対象 豊岡市は,兵庫県北部に位置する但馬地域の中心都 市である.2005 年に 1 市 5 町(豊岡市,城崎町,竹野 町,日高町,出石町,但東町)が合併し,新「豊岡 市」が誕生した.人口は約80,000人(2020年2月29日 現在)であり,兵庫県で最も広大な面積を誇る.市内 に焦点が向けられる.また,地方自治体とNFの関係 性が経済的な価値や効果を生み出している可能性があ ることから,両者の関係性構築というプロセスを検証 することは興味深い点である.この関係性構築という 視点で,O'Brien and Gardiner (2006) は「リレーショ ンシップ・マーケティング」の概念を事前合宿におけ るネットワーキングのプロセスに適応し,ステークホ ルダーの関係性構築がいかに持続的な効果に繋がって いるかを明らかにしている.「リレーションシップ・ マーケティング」とは,当事者双方の目的を達成する ため,両者が良好で継続的な関係(リレーションシッ プ)を構築,維持,強化する活動のことである(井上・ 冨田,2002).この視点から考えると,本稿における 豊岡市とドイツボート連盟の関係性構築は,「リレー ションシップ・マーケティング」の一つと捉えること ができる.したがって,本稿ではこの「リレーション シップ・マーケティング」の概念を援用し,論を進め ることとする.以上より,本研究の目的は,兵庫県・豊 岡市とドイツボート連盟のリレーションシップ・マー ケティングに着目し,パートナーシップ契約を通じた 東京2020の事前合宿誘致プロセスを明らかにすること にある.

2.研究方法

2.1 リサーチデザイン リレーションシップ・マーケティング研究は1980年 代以降に台頭した,比較的新しい分野である.Berry (1983) がマルチサービス組織における顧客関係の強 化と維持を目的とするマーケティング活動を「リレー ションシップ・マーケティング」と位置づけて以来, 長年にわたって多くの議論がなされてきた(Abeza et al., 2019).マーケティング研究という性質上,その対 象は企業が一般的であり,企業と顧客間の好ましい関 係を構築することで,長期志向的で友好的な交換関係 を実現するという目的を持っている(久保田,2003). このリレーションシップ・マーケティングがスポーツ の文脈に用いられるようになったのは,1990 年代に 入ってからのことである.その多くはプロスポーツに 関する研究であり,特にクラブ(チーム)とファンや サポーター,顧客,スポンサーとの関係性に着目した ものが散見される(e.g., Cousens et al., 2000; Bee and Kahle, 2006; Harris and Ogbonna, 2008; Achen, 2016). メガスポーツイベントかつ事前合宿事業に,リレー ションシップ・マーケティングの概念を用いた研究 は, 前 述 し た O'Brien and Gardiner (2006) が 初 め てである.この O'Brien and Gardiner の研究では, Parvatiyar and Sheth (2000) によって開発されたプ ロセスモデルが援用されている.これまで多くのリ レーションシップ・マーケティング研究では,組織と

生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020

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営,評価,発展)に沿う形で,青山・山口(2017), Fairley and Kelly (2017),青山ほか(2019)を参考に しながら作成した.質問項目の作成手順については佐 藤(2002)を参考に,まず先行研究を踏まえた上で理 論的に重要な点や回答に必要な情報をリストアップし た.その後,ホームページやアーカイブ資料等の二次 資料から得ることのできる情報についての問いを排除 した.以上の過程を経て,1)事前合宿誘致・パート ナーシップ契約の経緯,2)意思決定者とステークホ ルダー,3)事業内容,4)連携・推進体制,5)ポスト 2020に向けた戦略,を主な質問項目とした(表1). また,本研究では半構造化インタビューの手法を採 用した.半構造化インタビューでは,質問項目を設け てインタビューを進めるが,回答が不明確であった り興味深かったりする場合はより詳しい説明を求め, また別の聞き方をして情報を再確認することができ る(野村,2017).なお,調査日時は 2019 年 7 月 23 日 (火)であり,インタビュー時間は約45分であった. 2.4 分析方法 まず,インタビューで得られたデータについて筆頭 研究者が逐語録を作成した.その後,筆頭研究者と共 同研究者によって,逐語録を基にコーディングを行っ た.コーディングとはコード,すなわち「見出し」を 逐語録に付けていく作業であり,本文を通読しなくて も何のポイントについて話されているか一見して分か るように印を付けることである(野村,2017,p.155). コードの付け方については,帰納的なアプローチであ る「アフターコーディング」を採用した.アフター には日本有数の温泉街である城崎温泉があり,また複 数の海水浴場やキャンプ場,スキー場が存在し,近年 観光業に力を注いでいる.スポーツ分野においては, ボート競技に力を注いでいる.もともと円山川という 一級河川が存在し,円山川城崎漕艇場を中心にボート 競技に適した既存の資源を保有していた.旧城崎町で は「ボートのまち城崎」を掲げていたものの,本格的 にボート競技に取り組むことになったのは,合併後の ことである. 本研究では,豊岡市地域コミュニティ振興部スポー ツ振興課の東京2020事前合宿事業担当者1名(以下, A氏とする)に対する対面式のインタビューを実施し た.A氏はスポーツ振興課の主任であり,パートナー シップ契約や事前合宿誘致において中心的な役割を 担っている.また,自身も元国体選手といった経歴を 持つボート競技者であり,長年にわたり兵庫県や豊岡 市の選手育成に携わるなど(県ボート協会強化部,円 山川城崎ボート協会理事を歴任),ボート振興に貢献 している.なお,インタビュアーは筆頭研究者,共同 研究者の2名であった. 2.3 インタビューの流れ インタビューの実施にあたり,事前に質問の趣旨と 調査内容を送付した.実際の調査時には,調査の背景 や目的,データ管理や発表,倫理的配慮について説明 し,同意を得た上で IC レコーダーによる録音を行っ た.質問項目は,Parvatiyar and Sheth (2000),O'Brien and Gardiner (2006) におけるリレーションシップ・ マーケティングのプロセスモデル(i.e.形成,管理・運 図1 本研究のフレームワーク ParvatiyarandSheth(2000),O'BrienandGardiner(2006)を基に作成

パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致

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1.本研究のフレームワーク

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リレーションシップ・ マーケティングの形成 1.形成 事業の管理・運営 2.管理・運営 事業のパフォーマンス評価 3.評価 関係性の強化・発展 4.発展 ~2020 2020 ~ ~2020 2020 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 30

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業を繰り返した.なお,質問項目がどのプロセスにあ てはめることができたかについては,表1に示す通り である.以下,1)形成(リレーションシップ・マー ケティングの形成),2)管理・運営(事業の管理・運 営),3)評価(事業のパフォーマンス評価),4)発展 (関係性の強化・発展),の4プロセスごとに結果を提 示する.

3.結果及び考察

3.1 リレーションシップ・マーケティングの形成 本節では「リレーションシップ・マーケティング」 コーディングは,逐語録を読んだ後に適切なコードを 作成していく手法である(佐藤,2002).今回アフター コーディングを採用した理由としては,同一の質問項 目であっても,複数のプロセスにあてはまる可能性が あったからである. 次に,導き出されたコーディングがParvatiyar and Sheth (2000) のプロセスモデル(形成,管理・運営, 評価,発展)において,どの段階にあてはまるか検討 した.この作業については,筆頭研究者と共同研究者 がそれぞれ単独で解釈を行った.結果の信頼性を担 保するため,結果が一致しなかった点については議論 のうえ再度分析し,互いの結果が一致するまでこの作 表1 質問項目

パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致

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1.質問項目

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Q1.事前合宿を誘致することになった経緯について教えてください.(→1.形成)  SQ.なぜドイツを対象にしたのですか?  SQ.なぜボート競技を対象にしたのですか?  SQ.豊岡市ではもともとボート競技が盛んに⾏われていたのですか? Q2.ドイツボート連盟とパートナーシップ契約を結ぶことになった経緯について教えてください.(→1.形成) Q3.交渉を進めるにあたり,どのようなことを実⾏していますか/しましたか?(→1.形成,2.管理・運営)  SQ.Aさんは,この交渉にどのように関わりましたか? Q4.事前合宿誘致における⽴案者は誰でしたか?(→1.形成) Q5.事前合宿誘致における意思決定者は誰でしたか?(→1.形成) Q6.事前合宿誘致を⽴案・実⾏するにあたり,重要なステークホルダーはいましたか?(→1.形成) Q7.パートナーシップ契約における⽴案者は誰でしたか?(→1.形成) Q8.パートナーシップ契約における意思決定者は誰でしたか?(→1.形成) Q9.パートナーシップ契約を⽴案・実⾏するにあたり,重要なステークホルダーはいましたか?(→1.形成) Q10.パートナーシップ契約の詳細について教えてください(契約期間や契約費など).(→2.管理・運営) Q11.事前合宿の詳細について教えてください(期間や宿泊地など).(→2.管理・運営) Q12.事前合宿における経費の負担について教えてください.(→2.管理・運営) Q13.パートナーシップ契約により,どのような効果が⽣まれましたか/を期待していますか?(→3.評価,4.発展) Q14.パートナーシップ契約を介することで,メリットやデメリットはありましたか?(→3.評価,4.発展) Q15.パートナーシップ契約の効果を最⼤化するために取り組んでいることはありますか?(→3.評価,4.発展) Q16.事前合宿における推進体制について教えてください.(→2.管理・運営) Q17.事前合宿における協⼒者・事業パートナー(ステークホルダー)について教えてください.(→2.管理・運営)  SQ.彼らはどのような役割を果たしますか/果たしましたか? Q18.⽇本ボート協会との連携はありますか/ありましたか?(→2.管理・運営) Q19.その他,国内の⾃治体や⺠間,イベントとの連携はありますか/ありましたか?(→2.管理・運営) Q20.東京2020以降におけるドイツボート連盟との関係性について,何か戦略を⽴てられていますか?(→4.発展) Q21.東京2020以降におけるボート競技への関わりについて,何か戦略を⽴てられていますか?(→4.発展) Q22.その他,東京2020以降について市としての展望がありましたらお聞かせください.(→4.発展) 備考;SQはサブ・クエスチョンを⽰す 5)ポスト2020に向けた戦略 質問項⽬(括弧内は,コーディング後のフレームワークにおける位置づけを⽰す) 1)事前合宿誘致・パートナーシップ契約の経緯 2)意思決定者とステークホルダー 3)事業内容 4)連携・推進体制 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 31

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ており,ボート界の強豪国として知られている.この 来日でドイツボート連盟は3つの自治体を視察してお り,豊岡市は誘致を勝ち取るための戦略を立てる必要 があった.しかしながら,ドイツボート連盟も豊岡市 に強く惹かれていたため,ドイツボート連盟内の代理 人を通し,水面下である提案を受けることとなる. その提案が「パートナーシップ契約」であった.豊 岡市としては,ドイツ側の滞在費を負担するわけには いかなかったことから,パートナーシップという形で 「TOYOOKA(豊岡)」や「KINOSAKI(城崎)」の名 前が宣伝されるのであれば,と考え提案を承諾する. 先方に(豊岡市を)気に入っていただいて,それで なんとか(ドイツボート連盟が)豊岡市に決めたい と.その中で,ドイツボート連盟の中でパートナー シップの話があると.で,我々,この話にのったらす ごく前に話が進むんじゃないかと.なぜかというと, 我々はホテルの費用や合宿費を丸抱えするわけにはい かず,決められた費用を支援するわけにもいかなかっ たので.・・・(パートナーシップ契約であれば)ギブ アンドテイクの非常にいい関係が成り立つんじゃない かというような提案だったので,是非と. その後,意思決定者である中貝宗治市長の同意の 元,2018年9月にパートナーシップ契約に調印し(ⅵ), 同年11月には事前合宿の協定書に調印することとなっ た(ⅶ).豊岡市が短期間で調印に至ることができた のは,事前合宿そのものへの金銭的支援(宿泊費や食 費,滞在費など)よりも,「パートナーシップ契約」 が海外へのプロモーションに繋がるという明確なメッ セージが,議会や市民の賛同を得やすかったからであ る.また,ドイツはボート界の強豪国であり(豊岡市, 2019),特にヨーロッパ諸国への影響力が大きかった こともパートナーシップ契約において重要な成功要因 となったことが伺える. 3.2 事業の管理・運営 表2にはパートナーシップ契約および事前合宿の詳 細を,図3にはパートナーシップ契約における相互の 関係性を示している.パートナーシップ契約の契約趣 旨は「ドイツボート連盟の活動趣旨に賛同し,これを 支援することを通じて,豊岡市のイメージ向上を図 る」としている.契約金額はドイツボート連盟からの 提案に沿う形であり,47,000ユーロ(約600万円:契約 調印時)であった.主な契約内容は,①ボートドイツ 代表男子スカルチームのウェア,用具への広告掲載, ②ドイツボート連盟および男子スカルチームのロゴ使 用権,③「豊岡市はボートドイツ代表のオフィシャル パートナーです」などの呼称権,の3点である.これ らの契約期間は,2019年5月20日から2021年3月31日 の形成について,図2におけるフローを参照に論を進 める.(ⅰ)から(ⅶ)は重要な出来事として文中に示 す.また,文中の斜体箇所はインタビュー対象者(A 氏)の語りである. 豊岡市は合併以降,円山川城崎漕艇場というコンテ ンツを生かし,本格的にボート競技に関わるように なった.2013年にはボート日本代表合宿を豊岡市とし て初めて開催し(ⅰ),その後,単発的に全国大会を何 度か開催するなど,合宿や大会の誘致を積極的に行っ てきた.このような実績の中,さらなる転機となった のは東京2020の開催にある. 全国的にオリンピックが決まってから合宿を誘致し よう,オリンピックに関わろうと,東京以外の自治体 はそういった動きがあって.豊岡市はどうするんだと いう中で,観光客を,海外の観光客を取り入れよう と,いわゆるインバウンドですね.それに積極的に取 り組んでいたので,その中でヨーロッパ,アメリカ, オーストラリアをターゲットにしようと. 元来,豊岡市は日本人向けの観光地として栄えてき た.それには,豊岡市が国際空港(関西国際空港)から 車で約3時間,公共交通機関で約4時間という場所に位 置するという,地理的な要因が関わっている.2008年 に世界有数のガイドブックである「ロンリープラネッ ト」で城崎温泉が「Best Onsen Town」として紹介さ れ,外国人観光客が増えるきっかけとなったものの, 2011 年における外国人観光客の宿泊人数は約 1,000 人 に過ぎなかった(JTB,2019).豊岡市はヨーロッパや アメリカ,オーストラリアからのインバウンドを増や したいという意向があり,国外に向けて「TOYOOKA (豊岡)」や「KINOSAKI(城崎)」の名前を宣伝する方 法について模索していた.こうした状況下で東京2020 の開催が決定し,大会に付随する形で全国的な事前合 宿誘致活動(2015年頃)が始まった(ⅱ).豊岡市にお いても,国外に向けたアピールの機会になると考え, 市として正式に誘致へ向けて動き出すこととなった (ⅲ).また,豊岡市はボート競技の資源を有していた ことから,ボート競技に狙いを定め誘致活動をスター トさせることとなる. 豊 岡 市 が ボ ー ト 競 技 の 誘 致 国 を 選 定 す る 中, 2017 年 2 月に国際ボート連盟臨時総会(2017 FISA Extraordinary Congress)が東京で開催される(ⅳ). この臨時総会にて,豊岡市は日本ボート協会より事前 合宿の PR に向けたブース出展のオファーを受ける. その際,自然豊かで且つ温泉というコンテンツを持 つ豊岡市にドイツボート連盟が強い関心を示し,同 年11月に豊岡市へ視察に訪れることとなる(ⅴ).ド イツは,2016 年リオデジャネイロオリンピックにお いて競技別メダル獲得ランキング第2位の成績を残し 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 32

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マーケティング効果が高いと考えられている.図4に は,ボートドイツ代表男子スカルチームが使用する 「KINOSAKI & TOYOOKA」のロゴ入りウェア・用具 を示している.これらを大会で使用する機会は,基本 的に1シーズンでワールドカップ3回,世界選手権1回 の計4回である.東京2020の本大会では利権の都合に よりロゴ入りウェア・用具の使用ができないものの, 強豪国であるドイツが前述の国際大会で注目を浴びる 可能性は十分に期待できるものであった.早速,2019 年7月にオランダ・ロッテルダムで開催されたワール ドカップ第 3 戦で銀メダルを獲得し,「KINOSAKI & TOYOOKA」の名前を拡散することに成功した. こうしたボートドイツ代表の活躍や波及効果も相 まって,豊岡市は2019年8月にスイスボート連盟と事 前合宿実施の協定書を結ぶこととなった.これは,ド イツボート連盟がこれまでの豊岡市との関係性に満足 し,ドイツボート連盟がスイスボート連盟に声をかけ たことに起因する.ドイツボート連盟の推薦という形 ではあるが,スイスボート連盟が短期間で事前合宿地 を選定したことは,ボート競技界で豊岡市の知名度が 高まったとも言える出来事であった.イベントにおけ るホスト側へのイメージ向上は,さらなる効果的なイ ベントを生むとChalip (2004) は言及しているが,豊 岡市は短期間でドイツボート連盟の信頼を得ることに 成功したと評価できるだろう. 非常にドイツがいい効果というか,ネットワークを 持っていて,我々としては特に何かをしたわけではな いんですけれども,ドイツがスイスに声をかけてくれ て.本来あまりない例だと思うんですよ,合同で同じ ところでやるのは.スイスからもし声がかかったとし までの約1年10か月となっている.事前合宿の実施期 間は,2020年7月3日から19日までの17日間である. 実施場所は前述の円山川城崎漕艇場であり,約50人の 受け入れを予定している. 事業の管理・運営の肝となる推進体制については, 事前合宿実施の協定書調印以降に整備が進められた. 具体的には地域コミュニティ振興部スポーツ振興課を 中心として,2019年10月25日に「とよおか2020スポー ツ実行委員会」が設立されることとなった.実行委員 会の役員は,市長,豊岡ツーリズム協議会,豊岡商工 会議所,豊岡市議会,豊岡市区長連合会から成るメン バーで構成されている.さらには実行委員会をサポー トする「とよおか2020スポーツ パートナー企業」を 募集し,ゴールドパートナー(18 社),シルバーパー トナー(7社)の計25社の協力支援を得ることに成功 している. また,事前合宿の受け入れにあたって,豊岡市は選 手やスタッフ,関係者が宿泊するホテルを紹介する必 要があった(費用はドイツボート連盟持ち).豊岡市の 宿泊地は城崎温泉街に集中しており,またその形態も 和風旅館がメインである.ドイツボート連盟は畳では なくベッドでの睡眠を希望しており,城崎温泉の老舗 旅館である「にしむら屋」を中心にベッドでの受け入 れ調整を進めている.Fairley and Kelly (2017) や青 山ほか(2019)は,代表チームの要求をできる限り受 け入れることの重要性を指摘しており,本ケースにお いても事前合宿成功に向けて必要不可欠なプロセスで あるといえる. 3.3 事業のパフォーマンス評価 豊岡市にとって,国際大会でのロゴ露出は最も 図2 パートナーシップ契約・事前合宿協定書調印までのフロー

パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致

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2.パートナーシップ契約・事前合宿協定書調印までのフロー

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1市 5町 合 併 ロ ン リ ー プ ラ ネ ッ ト で "B est  O nse n T ow n" に ボ ー ト ⽇ 本 代 表 合 宿 を 初 開 催 事 前 合 宿 誘 致 へ 本 格 的に 始 動 国 際 ボー ト 連 盟 臨 時 総 会 が 東 京 開 催 ド イ ツ ボー ト 連 盟 が 豊 岡 市 視 察 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 契 約 の 調 印 決 定 事 前 合 宿 実 施 の 協定 書 調 印 2005 2008 2013 2015 2016.3 2017.2 2017.11 2018.9 2018.11 “ボートのまち城崎” (合併前:旧城崎町) 全 国 的 に 事 前 合 宿 誘 致 が 開 始 ドイツボート連盟と マッチング リレーションシップ・マーケティングの形成 (ⅰ) (ⅱ) (ⅲ) (ⅳ) (ⅴ) (ⅵ) (ⅶ) 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 33

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表男子スカルチームの選手を出展ブースに派遣すると いうものであった.これはまさにインバウンド増加を 目指す豊岡市の狙いと一致しており,「リレーション シップ・マーケティング」の形成や事業の管理・運営 が評価されるものと考えられる. 3.4 関係性の強化・発展 豊岡市は,東京2020あるいはパートナーシップ契約 解除となる 2021 年 3 月 31 日以降もドイツボート連盟 たらドイツにお伺いを立ててこんな話が来てるけどど うか,っていう話があるんでしょうけど,今回は(先 方同士で)一緒にやりたいっていう話になったので, じゃあ是非と. さらには,ドイツとの関係性構築により,観光業に もプラスの影響が生み出されていた.その計画は, ドイツで開催される国際旅行博に「KINOSAKI & TOYOOKA」の観光ブースを出展し,ボートドイツ代 表2 パートナーシップ契約・事前合宿の詳細

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2.パートナーシップ契約・事前合宿の詳細

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ドイツボート連盟の活動趣旨に賛同し,これを⽀援することを通じて, 豊岡市のイメージ向上を図る. 2019年5⽉20⽇〜2021年3⽉31⽇ 47,000ユーロ 〇豊岡市(意思決定者)  市⻑:中⾙宗治 ⽒ 〇ドイツボート連盟  副会⻑:Dr. Dag Danzglock ⽒  事務局⻑:Jens Hundertmark ⽒ ①ボートドイツ代表男⼦スカルチームのウェア,⽤具への広告掲載  ※オリンピック競技⼤会期間中の使⽤は不可. ②ドイツボート連盟および男⼦スカルチームのロゴ使⽤権 ③「豊岡市はボートドイツ代表のオフィシャルパートナーです」などの呼称権 2020年7⽉3⽇〜19⽇(17⽇間) 円⼭川城崎漕艇場 約50⼈ 城崎温泉街の和⾵旅館「にしむら屋」を予定 実施期間 相⼿国⼈数 内容 宿泊先 実施場所 宿 契約趣旨 契約期間 契約⾦額 署名者 主な契約内容 パー ナー シッ 図3 パートナーシップ契約の相互関係

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3.パートナーシップ契約の相互関係

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ば,地域にもたらす利益を損なうと指摘している.こ のことからも,戦略的に投資を行っている豊岡市は, 本事業の潜在価値を最大化させる努力を行っており, 事前合宿のモデルケースとなる可能性を秘めていると 思われる.

4.研究のまとめ

本稿の目的は,兵庫県・豊岡市とドイツボート連盟 のリレーションシップ・マーケティングに着目し, パートナーシップ契約を通じた東京2020の事前合宿誘 致プロセスを明らかにすることにあった.Parvatiyar and Sheth (2000) におけるリレーションシップ・マー ケティングのプロセスモデルを援用し,1)形成(リ レーションシップ・マーケティングの形成),2)管理・ 運営(事業の管理・運営),3)評価(事業のパフォー マンス評価),4)発展(関係性の強化・発展), 4段階 に沿う形で検証を進めた. 図5は,本研究におけるプロセスの結果をまとめた ものである.1)形成(リレーションシップ・マーケ ティングの形成)においては,ドイツボート連盟との 関係性構築以前に,重要なコンテンツ(e.g., ボート競 技に適した資源,城崎温泉)を所有していたことが明 らかとなった.2)管理・運営(事業の管理・運営) では,地域コミュニティ振興部スポーツ振興課を中心 とする実行委員会の設立など,迅速に推進体制が構築 されていた.また,実行委員会をサポートする独自の 取り組みとしてパートナー企業を募集し,25 社の支 援獲得に成功していた.さらには,事前合宿成功に向 けて,選手・関係者の宿泊施設との様々な交渉も行わ れていた.3)評価(事業のパフォーマンス評価)で は,ワールドカップでのボートドイツ代表男子スカル チームの活躍により,「KINOSAKI & TOYOOKA」の ロゴ露出が増加した.これらの露出機会の増加は豊岡 市のイメージアップにも繋がり,スイスボート連盟と と良好な関係性を維持する意思を示している.具体的 には,今後アジア圏で国際大会が開催される際には, 事前合宿地として誘致する計画を立てている.Chalip (2004) は,イベントの潜在的な価値はイベント終了 とともに消えるものではないと述べている.一度事前 合宿の誘致に成功すると,同国・同競技が再訪する可 能性が高まることから(青山ほか,2019),今回の事前 合宿やパートナーシップ契約を通して得た潜在的な価 値を高めるためにも,定期的にドイツボート連盟とコ ミュニケーションを取っていくことが求められるだろ う. 加えて,前述のようにドイツでの国際旅行博出展と いった観光部署レベルでの交流も継続されること予測 される.つまり,東京2020というスポーツイベントを 介した「パートナーシップ契約」が,スポーツだけで なく他業種にわたって関係性を強化・発展させる可能 性が示唆される.ドイツとの関係性強化のみならず, 豊岡市としてのボート競技への関わりも強化・発展の 兆しを見せている.現在,円山川城崎漕艇場は1,000m のコースであるが,国際基準の2,000mに向けて橋の架 け替え工事を進めている. ちょうど今ですね,オリンピックには間に合わない んですけれども下流に橋を架け替えるという工事を進 めていまして,これが架け終われば直線 2,000m にな ると.そうなると国際大会を誘致できる可能性がある と.これは10年20年前からなかなか進まなかったのが ようやく動き出して.・・・事前合宿が起爆剤になっ て,国際大会ができるまでいきたいなと.さらなる ボートのまちとして有名になれたらなと. この改修工事により,ボート競技の国際大会開催が 可能となる.「ボートのまち」として発展するべく, 着実に計画が進められている.O'Brien and Gardiner (2006) はイベント後にも継続して投資を行わなけれ 図4 ボートドイツ代表男子スカルチームのウェア・用具

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4.ボートドイツ代表男子スカルチームのウェア・用具

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ていくことにより,スポーツクラブの誕生や新規大会 の開催といった新たな価値が生まれることを報告して いる.この2点について,豊岡市は戦略的な投資を計 画,また持続可能な形で国内外の大会を誘致する意向 を持っており,リレーションシップ・マーケティング の新たなサイクルに入るための礎を築いたと言えるだ ろう.

5.おわりに

最後に,本研究の学術的貢献,実践的インプリケー ション,および今後の課題を提示することにより, 研究の結びとしたい.まず,学術的貢献として, Parvatiyar and Sheth (2000),O'Brien and Gardiner (2006) におけるリレーションシップ・マーケティン

グの枠組みを日本国内の現象・文脈に援用した点が 挙げられる.これまで,特に Parvatiyar and Sheth (2000) の研究は,国外を中心に多数の研究が進めら れてきた.しかしながら,我が国で Parvatiyar and Sheth (2000) のプロセスモデルを援用した研究は見 事前合宿実施の協定書を結ぶことにも成功した.加え て,ドイツで開催される国際旅行博に「KINOSAKI & TOYOOKA」の観光ブースを出展し,ボートドイツ代 表男子スカルチームの選手を出展ブースに派遣すると いう成果にも繋がった. 最後に 4)発展(関係性の強化・発展)では,東京 2020以降も継続してドイツボート連盟との関係性を維 持・強化することや,観光業種での交流が戦略的に計 画されていた.これらの戦略的な動きを2)管理・運営 (事業の管理・運営)することで,リレーションシッ プ・マーケティングが永続的にサイクル化し,関係性 を強化することができると考えられる.また,漕艇場 の改修工事といった戦略的な投資により,国際大会の 誘致や「ボートのまち」としての価値創造に寄与し, 新たな1)形成(リレーションシップ・マーケティン グの形成)が生み出されることが期待できる.

O'Brien and Gardiner (2006) によると,事前合宿は 短期的に影響を生むだけでなく,戦略的に関係性を構 築することで長期的な影響を生みだすと述べている. さらに松橋(2017)は,地域が組織的に活動を継続し 図5 本研究におけるプロセスの結果

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5.本研究におけるプロセスの結果

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・ボート競技に適した資源 ・インバウンド増加に向けた宣伝 ・国際ボート連盟臨時総会の東京開催 ・魅力的な城崎温泉 ・リーダーシップを持った市長の存在 ・議会や市民の支持 1.形成 ・契約業務の遂行 ・スポーツ振興課を中心とする 推進体制の構築 ・実行委員会の設立 ・「パートナー企業」の募集 ・宿泊施設との交渉 2.管理・運営 ・ワールドカップにおける活躍 ・ロゴの露出機会増加 ・スイスボート連盟との追加協定 ・国際旅行博での出展 3.評価 ・ドイツボート連盟との関係性維持 ・観光業種での交流 ・ボート競技への関わり強化・発展 ・漕艇場の改修工事 4.発展 〇ドイツ ・継続した合宿地としての利用 ・他業種との交流 〇ドイツ以外 ・「ボートのまち」としての価値創造 ・国際大会の誘致 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 36

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がより強固なものになると考えられる. 以上,兵庫県・豊岡市の先進的な取り組みに着目す ることで,メガスポーツイベントにおける事前合宿事 業の新たな在り方について議論を進めてきた.メガス ポーツイベントの開催は,ホストシティのみならずノ ンホストシティにも波及することからも,イベントが 生み出す「効果」や「価値」を学術的に追求し続ける ことが今後も求められていくだろう.

謝辞

調査にご協力いただきました,豊岡市地域コミュニ ティ振興部スポーツ振興課の担当者様に御礼申し上げ ます.また,本論文の審査過程において有益な助言を いただきました査読者2名の先生方,ならびに編集委 員長の伊藤克広先生に感謝の意を表します.

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当たらない.O'Brien and Gardiner (2006) の知見を加 えた両者のモデルを「日本のメガスポーツイベントに おける事前合宿」という事象において初めて援用する ことで,事前合宿の誘致プロセスとそれに付随するリ レーションシップ・マーケティングの永続的サイクル を体系化することが可能となった.このような視点か ら,本研究はリレーションシップ・マーケティングの 理論的蓄積に貢献できたものと考えられる. 次に,実践的インプリケーションとして,以下の2点 が挙げられる.1点目は,事前合宿におけるパートナー シップ契約の有用性について明らかにした点にある. 近年では,自治体側の費用負担額が高騰傾向にある. 例えば,三重県はカナダ代表の事前合宿費用に1,400万 円を費やす計画を立てており(産経新聞,2018),誘 致のマネーゲーム化が危惧されている.これは,財源 に余裕のある自治体が誘致交渉において優位になるこ とが大いに想定され,ノンホストシティへの波及効果 を期待している内閣官房(n.d.)の狙いに反する流れ とも言える.また,財源に余裕のある自治体であって も,議会や市民の理解を得ることが困難になることが 予想される.この観点で,「インバウンドを増加させ たい」という具体的な目的を持ち,パートナーシップ 契約という手法を取ることで事前合宿の誘致に成功し た豊岡市は,まさに事前合宿の在り方について再考す る機会を提供したといえるだろう.「スポーツイベン ト」に対しての投資ではなく,東京2020ホストタウン 事業(内閣官房,n.d.)のように「観光業」や「国際交 流」,「グローバル化」といった視点で投資をすること で,議会や市民の支持を得やすくなると思われる. 2点目は,パートナーシップ契約を契機とする事前 合宿の実施により,スポーツ以外の関係性が生まれる 可能性を示唆した点にある.従来の一般的な事前合宿 では「住民との交流」や「国際教育」といったソフト 面での波及効果が確認されてきたが(e.g., 松橋,2017; 青山ほか,2019),本研究では実際に国際旅行博での観 光ブース出展というような,経済的効果に繋がる出来 事が確認された.つまり,相手国のNFのみならず, 観光業種など他業種での関係性を構築・発展できるこ とが明らかとなった.これは従来の事前合宿では期待 できなかったものであり,「パートナーシップ契約」と いう形ある契約がなされたからこその効果であろう. したがって,パートナーシップ契約を介した事前合宿 の誘致は,自治体にとってリスクの少ない画期的な戦 略になり得ると思われる. 他方,本研究では事前合宿の「受け入れ側(豊岡 市)」にのみ着目したが,「選考・選定側(ドイツボー ト連盟)」のニーズや関心理由を引き出すまでには至 らなかった.今後の課題として,「選考・選定側(ドイ ツボート連盟)」へのインタビューを補足することで, リレーションシップ・マーケティングへの理論的貢献 生涯スポーツ学研究 vol. 17 No. 1 2020 研究資料:パートナーシップ契約を通じた事前合宿誘致 37

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