I .問題の所在と研究目的
1.子どもの貧困を問う 「子どもの貧困」と聞いて,まず思い浮かべるのは, 16.3% という「子どもの相対的貧困率(その国の所得中 央値の一定割合以下の所得しか得ていない世帯員の割 合)」ではないか註 1)。2012 年に厚生労働省の調査によっ て示されたこの数値は 18 歳未満の子どもの約 6 人に 1 人が貧困状態であること,そして先進国でありながら子 どもに「貧困」という問題が生じている実情を人々に訴 えかけた註 2)。 ここで,注意しなければならないこととして,「子ど もの相対的貧困率」はあくまで経済(所得)指標であり, 「貧困」の本質を捉えているとは言い難い1)。そもそも, 子どもの貧困とは「子どもが経済的貧困と社会生活に 必要なものの欠乏状態におかれ,発達の諸段階におけ るさまざまな機会が奪われた結果,人生全体に影響を 与えるほどの多くの不利を負ってしまうこと」であり2), 「社会的に生み出され,家族を単位として立ち現れる貧 困を,そこに生きる子どもを主体として把握し,子ど もの育ちと人生に即してより具体的に理解するために, 子どもの貧困という言葉が使用される」と考えるべきで ある3)。 こうした指摘を受け,「子どもの貧困に関する指標」 として,内閣府による「子供の貧困対策に関する大綱 (2019 年閣議決定)」の重点施策である「教育の支援」「生 活の安定に資するための支援」「保護者に対する職業生 活の安定と向上に資するための就労の支援」「経済的支 援」に基づいたものが示されている4)。また,近年では, 「剝奪指標」のように,家庭の裕福さだけでなく,子ど も自身が何を得られていないのか,その視点に立つこと で,子どもの貧困の実態を明らかにする手がかりになる ことが示唆されている註 3)。子ども食堂における成果の一考察
-振り返りから教員養成課程の学生が得たもの-
A Study on the Achievements in the Childrenʼs Cafeteria : What the Teacher
Education Students Got from the Reflection
加 納 史 章*
KANOU Fumiaki
本研究は,子ども食堂の “ 成果 ” として,学生ボランティアが活動に関わることで得られた学びや意識の変容等を明ら かにすることを目的としている。子どもの貧困対策としての位置づけとなっている子ども食堂であるが,運営側,つま り子ども(もしくはその家庭)を受け入れるにあたって,様々な課題に直面している。そこで,課題解決の一助として, 運営に携わるスタッフやボランティアの姿勢,その在り方を再考する機会であると捉えた。 今回,教員養成課程に所属し,調査の承諾が得られた 4 名の学生(3 年間継続して,子ども食堂のボランティアに参加 していたという選定理由)を対象としている。学生達には「子ども食堂のボランティアを通して,自分自身が『気が付 いたこと・学んだこと』『意識の変容』など」というテーマで,子ども食堂での活動を振り返ってもらい,質問紙(補足 としてインタビューも実施)でそれぞれ自由な回答を求めた。 分析及び考察には,テキストマイニングソフト KH Coder を用いて,学生の全記述データを数値化操作し,計量的な分 析を行った。そこから見えてきたものは,子どもの成長に応じた関わり方,子ども食堂につきまとう「スティグマ(ネガティ ブなレッテル)」との向き合い方,学生同士の学び合いなど,学生一人ひとり得たものは違うものの,各々が子ども食堂 における成果を見出していることが明らかになった。さらに,スタッフやボランティアが今までの活動を振り返ること での有用性が示唆された。 本研究の課題としては,対象及び記述データの少なさが挙げられる。子ども食堂には様々な可能性が秘められている 一方で,1 つの社会資源であることを踏まえ,今回の教員養成課程のような連携の切り口を模索することが求められてい ると言える。 キーワード:子ども食堂,成果,振り返り,教員養成課程,学生ボランティアKey words : childrenʼs cafeteria,achievements,reflection,teacher education,student volunteers
では,子どもの貧困の対策についてはどのように進ん できたのであろうか。子どもの貧困が大きく取り上げ られた 2012 年から 8 年が経過しようとしている。その 間,国をはじめとした行政による取り組み註 4)に加えて, 行政が補えない部分(当事者の視点からの支援・援助) をインフォーマルな機関,つまり,民間による活動が積 極的に行われてきた。そうした背景には,子どもの貧困 が負の連鎖を生み,様々な不利・困難と結びつき5),社 会的損失に多大な影響を及ぼす可能性が明らかになっ たことが挙げられる6)。そして,子どもの貧困が身近に 潜む問題であることに意識が傾いたからである。 本研究では,民間による代表的な活動である「子ども 食堂」に焦点を当てる註 5)。子ども食堂には明確な定義 がない。それは,定義づけをすることによって,その活 動に制限を設けてしまうからである。子ども食堂の役割 は,「地域の大人が子どもに無料や安価で食事を提供す る,民間発の取り組み」「経済的に困窮していたり,ひ とり親で食事の支度が思うようにできなかったりする などの事情をもつ家庭の子どもに無料,あるいは低価 格で食事を提供し,団欒を楽しむ場」であると言える。 また近年は,食事だけでなく,地域住民やボランティア の人々と交流しながら,遊びや学習支援の場としての役 割も求められている。 子ども食堂は,その親しみやすいネーミング,活動の 分かりやすさ,そして,子どもの貧困の関連報道等が影 響し,全国各地に拡がりを見せている(現在,全国に 3,718 カ所(2019 年 6 月)ある註 6))。増加の一途を辿る他方で, 運営難に陥り,継続が困難となってしまうケースも出 てきており,ブームの一過性を危惧する声もある7)。ま た,各種の報道が子ども食堂の立場を危うくしているこ とも事実であり,貧困の子どもが行く場所という固定観 念を生み出し,美化された内容によって,真に必要とし ているニーズ層への支援を遮っているとも考えられる。 そこで,こうした子ども食堂の現状と課題について概観 する。 2 .子ども食堂の現状と課題 子ども食堂の始まりは 2012 年,東京都大田区の八百 屋「気まぐれ八百屋だんだん」の店主近藤博子氏が名付 け親という話は有名である。近藤氏は歯科衛生士として の視点から「食」「健康」「歯」を繋げたいという思いと, 経済的困窮等,様々な家庭事情による子ども達の姿を知 り,何かできないかとの考えから子ども食堂に至ったと いう。また,子ども食堂開設以前は,学習支援として「ワ ンコイン寺子屋」「みちくさ寺子屋」という低額の補習 塾を開講しており,現在の子ども食堂の 1 つの主流と なっている註 7)。 近 藤 氏 に 着 想 を 得 る 形 で,「NPO 法 人 豊 島 子 ど も WAKUWAKU ネットワーク(以下,WAKUWAKU ネッ トワーク)」は 2013 年,東京都豊島区に「要町あさやけ こども食堂」を開設し,子ども食堂ブームを全国展開へ と発展させていく。2015 年以降毎年,「WAKUWAKU ネッ トワーク」と「こども食堂ネットワーク(地域で子ども 食堂を運営している人たちが交流をし,子ども食堂の輪 を広げるための連絡会)」の共催で「こども食堂サミッ ト」を開催し,これを機に,子ども食堂を始める人も増 えている。和田(2016)は子ども食堂の開設について,「気 まぐれ八百屋だんだん」や「要町あさやけこども食堂」 を先駆的と捉え,第一世代とし,2015 年以降に開設し た子ども食堂を第二世代であると述べている8)。 子どもの食堂の開設に関しては,WAKUWAKU ネッ トワーク編著『子ども食堂をつくろう 人とつながる地 域の居場所づくり』(明石書店,2016)や飯沼直樹著『地 域で愛される子ども食堂 つくり方・続け方』(株式会社 翔泳社,2018)に加えて,雑誌・新聞記事等でその方法 が示されている。特別な許可(保健所における衛生管理 を除き)は必要なく,また面積基準やスタッフの配置基 準などの制約もない。「子ども食堂はこうあるべきとい うイメージを持たない」という言葉が指すように9),開 設への敷居の低さと,子ども食堂のつくり方等の講座 等,様々な情報を参考にしつつ,自分のやり方で運営が でき,「食事」という,誰もが安心できるテーマであっ たことが普及に結びついたと言える註 8)。 しかし,こうした広がりに警鐘を唱える研究者も少 なくない。湯浅(2016)は「何がこども食堂かをめぐっ ては混乱も見え,多くの疑問や戸惑いを生んでもいる」 と述べている10)。さらに,子ども食堂が各地に展開す るなかで,少しずつ課題も見え始めている。釜池(2017) は運営側に対する調査から,子ども食堂が抱える課題を 2 つ挙げている。それは「こども食堂を続けるために必 要な資源(場所・資金・食材・ボランティアなど)をど うやって継続的に確保するか」と「支援が必要なこども たちとどのようにつながっていくか」である11)。前項 については,あまり表には出てきていないが,資源の枯 渇など,運営が思うようにいかず,あえなく子ども食堂 を閉じたという事例が複数報告されている。また,「NPO 法人全国子ども食堂支援センターむすびえ」や「こども 食堂ネットワーク」を中心とした動きから,各地でお互 いに支えあう土壌がつくられつつあるが,そこでも「継 続」については議論が行われている。後項については, 民間での活動の限界が見えてきたと言えよう。子ども 食堂を始めるきっかけの多くが支援の必要な子どもが 身近にいることへの危機感や使命感であった。しかし, いざ,開始すると,支援が必要な子どもに本当に届いて いないのではという疑問を抱く。さらに,支援が必要な 子どもとどう接するべきか,どのような職種・機関と繋 加 納 史 章
げるべきかなど,より専門的な知見が求められているこ とからも,運営側としての立ち位置を再度見直す時期に 来ているのではないだろうか。 本研究は,釜池が示した 2 つの課題に対するアプロー チの検討を行っていく。ここで,資源を豊富にする手立 てや専門職との連携等の提案を行えば,課題解決に直結 するが,すべての子ども食堂において一般的な手段と は言えない。2 つの課題に共通していることは,子ども 達を受け入れる運営側,つまり,スタッフやボランティ アの姿勢,その在り方について再考することである。そ の例として,スタッフやボランティアが活動を振り返る ことは,時間さえあれば,どの子ども食堂でも行うこと が可能であろう。では,それを行うことにどんな意味が あるのか。再考の根拠として,ケアの概念を用いる。「ケ ア」の概念では,ケアする人とされる人の間には「相互 性」があり,他者を支援・援助することは自分自身の「自 己を実現する」に繋がることが示されている13)。つまり, 活動を振り返ることで,スタッフやボランティアの技能 の向上や専門性の見極めなどに結び付くと考えられる。 吉田(2016)は,子ども食堂には「食事の提供や栄 養の補給の場という単純な目的ではなく,実際には子 どもを支える場として多岐にわたる機能を有している」 と主張している14)。そして,子どもが子ども食堂への 参加を通じて,食事の提供(「食を通した支援」機能), 一人ひとりが想い想いにありのままの姿で過ごすこと で自らの居場所を感じられること(「居場所」機能),食 事や他者との交流を図ること(「情緒的交流」機能)の 3 つの経験が得られることが望ましいとし,その前提に は,「子どもの主体性の尊重」,空間を支え,地域と繋げ る「支援者の存在」が必要であると述べている。この「支 援者」とは,「子ども食堂の運営者・スタッフ〈ボランティ アも含む〉・〈幅広い意味での〉協力者等」を指している ことからも,その姿勢や在り方について議論を深めるべ きであると言える。さらに,大阪子どもの貧困アクショ ングループ(Child Poverty Action Osaka : CPAO)(2016) は課題を抱えた親子との関わりで,「調べる」「見つける」 「ほぐす」「つなげる」の 4 つの視点の重要性を主張して おり15),そのなかでも「ほぐす」「つなげる」は,子ど も食堂が次なるステップに向かうために求められる視 点であると受け取れる。そして,子ども食堂は,タテ(親 や学校),ヨコ(友達同士)だけでなく,ナナメ(地域 の人達)の関係であるからこそ16),「さまざまな福利リ ソースにつなげるチャンネルができ」17),そうした姿勢 や在り方に至ることで,課題の解決に寄与すると考え る。 3 .本研究の目的 本研究は,子ども食堂の “ 成果 ” を明らかにしていく。 ここでの成果とは,子ども食堂に関わることで得られた 学びや意識の変容等を指す。例えば,活動を重ねるこ とで,スタッフやボランティアは,子ども対応,地域 の社会資源などの知識や技術を得ていると考えられる。 また,子ども食堂に関する研究を概観したが,子ども食 堂の役割や意味付け,実践報告(子どもや保護者が中心) などに留まっており,新たな視点で学術的に論証するこ とに価値があるのではないかと考える。吉田が「子ども が主体となる空間づくりを行うには,『子どもの居場所 を支える支援者』の存在が不可欠である」と主張してい るように18),支援者の存在によって,子ども食堂とい う空間が大きく変容する。つまり,課題に直面している 今だからこそ,スタッフやボランティアの意義について 問いかける必要があるのではないだろうか。 さらに,今回は,学生ボランティア(教員養成課程所 属)を対象に,彼らが子ども食堂の活動を通して何を得 たのかを考察することを目的とした。なぜ,教員養成課 程の学生にこだわったのかというと,子ども食堂の多く が教育機関,学校との協力体制を望んでいるという報告 が挙がっているからである19)。つまり,教員を目指す 学生の子ども食堂での成果を明らかにすることで,今後 の教育現場との連携の礎になるとも考えた。 4 .本研究における子ども食堂 兵庫県加東市にある,NPO 法人子ども食堂ペイフォ ワード(以下,ペイフォワード)に調査協力を依頼し, 承諾を得た。 ペイフォワードは,2016 年 11 月末より毎週土曜日午 後 5 時から 8 時,加東市社福祉センターで実施している。 主に小中学生を対象としているが,参加する子どもの中 には乳幼児の姿も見られる。主なスタッフは,会社員や 主婦,元公務員や元保育所調理師等,15 名の有志で法 人を結成し,現在に至る。また,遊びや学習支援にも力 を入れており,H 大学のボランティアセンターに協力を 依頼し,大学生による活動支援も行っている。 ペイフォワードの魅力として,土台づくりを丁寧に 行っているところが挙げられる。理事長や副理事が中心 となり,コーディネーター役の監事が他の子ども食堂の 情報を取り入れるのではなく,まずは地域を地盤とし, さらに継続性を視野に入れた運営を行っている点が大 きいと言える。
II.研究方法
1 .調査について 調査の対象は,H 大学に所属する学生ボランティア 4 名(男女それぞれ 2 名ずつ,全員第 1 回(2018 年)調査時は大学院 2 年生:表記は学生 A,B,C,D)である。 この 4 名の選定理由としては,3 年間継続して,子ども 食堂のボランティアに参加していたことが挙げられる。 また,調査方法は,質問紙(補足インタビューを含む) を用意し,「子ども食堂のボランティアを通して,自分 自身が『気が付いたこと・学んだこと』『意識の変容』 など」というテーマで自由に回答してもらった。事前に テーマを伝え,自分自身の活動を振り返る機会として の時間を設けた。調査期間は第 1 回を 2018 年 7 ~ 9 月, 第 2 回を 2019 年 7 ~ 9 月とした。期間の設定については, 学生が夏季休業期間に入り,余裕をもって回答しやすい 時期を考慮した。 2 .分析について 調査で得られた全記述データの分析及び検討には,テ キストマイニングソフト KH Coder(Ver.3.a15f.)を用い た。KH Coder とは,新聞記事,質問紙における自由回 答項目,インタビュー記録等,社会調査によって得ら れた様々なテキストデータを計量的に分析するために 制作されたフリーソフトである20)。KH Coder は,言語 処理の分野において高い精度と有効性が示されており, 「茶筅」の形態素解析から抽出された語に基づき,詳細 な計量的分析を行うことができる。質的なテキストデー タを量的手法で分析することは,恣意的な操作を回避す ると同時に,データに潜む情報を要約,また理解する ことにも有用であり,理論的に読み取ることを可能に する。さらに,分析を行う際,コーディングルール(特 定の記述がデータ中にあればそのデータを特定のカテ ゴリーに分類する基準)を作成することがある。しかし, コーディングは分析における 1 つのプロセスにすぎず, かつ,ルールを作成することで,研究者からの影響を受 け,結果が変わる恐れがある。そこで,今回は,結果の 変動要素が指摘されるコーディングルールをあえて設 定せず,学生の言葉をありのまま使用することにした。 3 .倫理的配慮について 一人ひとりに調査依頼書を示し,調査の内容について 説明(データとして処理するため個人が特定されるこ とはないこと,同意した場合でも,いつでも取り止め, 拒否することができること,要望に応じて,調査内容に 関する部分について事前に確認を行うことができるこ と等)を行い,そこで同意の得られた者のみを対象とし ている。また,個人情報の取り扱い及び研究者倫理に関 しては,研究者が所属している兵庫教育大学研究倫理規 定(兵庫教育大学ヒトを対象とする研究に関する倫理規 程)を遵守し,調査対象が不利益にならないよう配慮を 行った。
III.結果と考察
1 .形態素解析・頻出語
まず,全記述データの形態素を解析した。「総抽出語 数(データに含まれるすべての語の延べ数)」は 4,526 語,「異なり語数(何種類の語が含まれているかを示す)」 は 828 語であった。分析に用いた品詞は,KH Coder の 認識する品詞体系に従った。また,一部の語については, 複合語として取捨選択の処理を行った(例えば,「子ど も食堂」「居場所づくり」「学生ボランティア」等である)。 表 1 は,学生の記述に頻出する語とその出現回数を示 している。学生自身が子ども食堂のボランティア,また 子ども達との関わりを通して,「思う(31 語)」「考える (24 語)」「感じる(21 語)」という体験に出会ったこと がうかがえる。ここで,注目すべき語として,「出来る(29 語)」を挙げる。「KWIC コンコーダンス(データ内で抽 出語がどのように用いられているか文脈を探る)」で検 索したところ,「子どもの安全を考えるにあたってまず は率先して,私達が示さなければならないという自覚が 『出来た』ことである。(学生 A)」「私個人としては,ボ ランティアを通して様々な子ども達と接する経験を『出 来た』ことは実習にも活かせる大きな経験となったよう に思います。(学生 B)」と,子ども食堂での出来事が学 生の自覚や成功体験を積み上げる機会になっているこ とが分かる。一方で,「家庭事情やその子の抱える問題 が分からないこと,ボランティア間での情報共有が『出 来ない』ことにあるのかも知れません。(学生 C)」「子 ども達にはっきりと言うことが『出来る』か,良し悪し を区別して伝えることが『出来る』かどうか,というの は,子どもの成長に大きく影響を及ぼすのではないか と思っています(学生 D)。」とあるように,「出来ない」 ことへの反省や改善,今後「出来る」ことへの課題を模 索し,次回の活動へと繋げようとしていることが考察で きる。 2 .期間における対象の言葉の特徴 既述したように,本研究は同じ対象かつ同じ内容で時 期を分けた調査を行っている。そこで,縦断的分析とし て,第 1 回(2018 年)と第 2 回(2019 年)における学 生の特徴的な記述を表す語を「関連語検索(各見出しに おいて,データ全体を比べて高い確率で出現する語を示 す)」で探った。抽出した結果として,表 2 に各回の特 徴語と「Jaccard 類似性測度(0 ~ 1 の値で関連が強いほ ど 1 に近い数値を示し,共起を測定する)」を示している。 第 1 回では,特徴を表す語として,「居場所」「食べる」 という子ども食堂本来の目的を示す語が挙がっており, 学生が,子ども達にとって,どのような場所なのかに ついて理解している様子(「分かる」「様子」「考える」) が示唆された。その中で,出現率は高くないが,最も 加 納 史 章特徴的な語として示された「壁」に着目したい。「KWIC コンコーダンス」で検索すると,「中学生組との交流を 促していきながら,これから少しずつ,人間関係の『壁』 を取り除く手伝いをしていきたい(学生 A)。」「女の子 グループ特有の,自分達の周りに『壁』をつくりすぎる こともなく,話しかければ応じてくれました(学生 C)。」 と,子どもが関係を構築していくうえでの「壁」につい て記されていることが分かる。特に,成長過程におけ る女の子同士が結束しグループを形成するにあたって, そこに生じるグループ内外のいざこざ等の「壁」にどう 対応すべきかを考えている様子が見て取れる。 さらに,「子どもと関わるとき,自分が感じることの ある『壁』の多くが,実は自分自身の固定観念や経験不 足によって自らが生み出しているものであると気がつ きました(学生 B)。」とあるように,学生自身が子ども との間に「壁」をつくっていることに気づいたという記 述も見られた。子ども食堂に関わる際,「スティグマ(ネ ガティブなレッテル)」とどう向き合うかを常に考えな ければならない。子ども食堂に来ている子ども達に対し て,「貧しい」「困っている」というレッテルを無意識に 貼っているのではないか。既述したように,子ども食 堂の発足に「子どもの貧困」が関連している。そして, そこから派生して,現在の様々な活動に至っている。し かし,実際に子ども食堂に来ている子ども達はどうであ ろうか。中には,家庭内でのトラブルを抱えている子ど ももいるかも知れない。だが,それは子どもと家庭の問 題であり,子ども自身の問題ではない。子ども食堂が民 間の善意から始まり,「おせっかい」という言葉が代表 されるように,子ども達(もしくはその背景にある家庭) に何かを行いたいという気持ちを抱くと共に,関わる中 で,「固定概念」に捕らわれない一人の子どもとして見 られるかどうかで,その後の関係が大きく変わっていく と考えられる。1 つの記述だけで信憑性は定かではない が,学生が継続してボランティアに参加し,率先して子 ども達と向き合う姿,そして,ありのままの記述である からこそ,そのきっかけを掴むことができたのではない 表 1 学生の記述に頻出する頻出語 表1 学生の記述に頻出する頻出語 ※ 出現回数が 3 以上の語を示した。 抽出語 出現 回数 抽出語 出現 回数 子ども 42 最近 4 子ども達 36 参加 4 思う 31 私達 4 出来る 29 大きい 4 子ども食堂 27 大切 4 考える 24 知る 4 感じる 21 中学生 4 ボランティア 19 当初 4 見る 17 難しい 4 食べる 17 聞く 4 関わる 15 帽子 4 居場所 10 おかわり 3 特に 9 ご飯 3 遊ぶ 9 ペイフォワード 3 姿 8 育つ 3 時間 8 一緒 3 多い 8 引く 3 分かる 8 影響 3 ダメ 7 外 3 環境 7 学生ボランティア 3 自分 7 楽しい 3 勉強 7 関わり方 3 様子 7 関係 3 関わり 6 機会 3 私自身 6 区別 3 食事 6 嫌う 3 知れる 6 元気 3 必要 6 厳しい 3 たくさん 5 言う 3 悪い 5 交流 3 安心 5 好き 3 意識 5 作る 3 学校 5 姿勢 3 学生 5 支援 3 気 5 周り 3 気づく 5 出来事 3 居場所づくり 5 傷つける 3 経験 5 小学生 3 行動 5 場 3 思い 5 場所 3 少し 5 声 3 母親 5 促す 3 来る 5 通る 3 良い 5 伝える 3 家庭環境 4 悩む 3 過ごす 4 被る 3 学ぶ 4 貧困 3 学習 4 壁 3 共有 4 目 3 見える 4 役割 3 戸惑う 4 遊び 3 行く 4 与える 3 今 4 様々 3 表 2 各回の特徴語と Jaccard 類似性測度 表2 各回の特徴語と Jaccard 類似性測度 第1回(2018年) 第2回(2019年) 壁 .750 意識 .750 居場所 .667 知れる .750 行く .600 良い .750 食べる .600 学校 .600 特に .600 気 .600 分かる .600 感じる .571 様子 .600 子ども達 .571 考える .571 出来る .571 子ども食堂 .571 ボランティア .500 ボランティア .500 子ども .500 子ども食堂における成果の一考察
かと受け取っている。 次に,第 2 回の特徴的な語としては,「学校」という 公的な場が示されている。学生達が教員養成課程に所属 していることもあるが,子ども食堂だからこその利点 (「良い」「ボランティア」),そして,連携についての気 づきや意見を持つようになった(「知れる」「気」「感じ る」)ことがうかがえる。 第 2 回では,最も特徴を表す語として「意識」が示さ れた。第 1 回の「壁」と同じく出現率は高くないものの, 第 1 回には表れていないことから,文脈を探ってみた。 そこには,「ボランティアだからと言って,子ども達と 適当に関わるのではなく,何かしらの『意識』をもって 関わることの大切さを感じているため,子ども達にどの ように育ってほしいと思っているかをしっかりと考え, そのことを『意識』して関わっていきたいと思います (学生 D)。」「このボランティアを通して,他者がどう受 け取るかということにより『意識』を割けるようになっ たと感じています(学生 B)。」と,学生の「意識」に違 いが生じている様子が記されていた。第 1 回と比べ,第 2 回は,学生自身,すでに教育実習等を終え,教育現場 の体験を踏まえて活動に臨んでいたとも考えられる(そ れは,特徴語に「子ども達」という集団への視点が示さ れていることからもうかがえる)。ただし,教育現場と の大きな違いはそれぞれの立場であると言えよう。学校 は教師と生徒という関係であり,両者の関わりにおい て,教え教えられる関係などのイメージが持ちやすい。 一方,子ども食堂のような「サードプレイス(第三の場 所)」による活動では,家庭でも教育現場でも見せない 子どもの姿に出会うことがある。さらに,個への対応, 直接的な関わりが多くなることから,学生 D のように 責任感を抱き,子どもとの関わり方においても,より「意 識」を持たなければならないようになったと考えられ る。 加えて,「意識」は,子どもに向けられたものだけで はない。学生とのインタビュー(質問紙の補足)から,「学 生間で子どもや活動について意見交換を行うことがと ても有意義であった(学生 D)。」「ある学生の子どもへ の接し方は私自身にはまだ出来ないため,すごく勉強に なる(学生 A)。」という声が聞かれた。「意見交換」と いう言葉が示すように,共同で取り組むことは,お互い に相乗効果を生むことがある。自分の意見を主張し,ま た他者の意見に耳を傾ける。意見がぶつかることもある が,何より他の意見にふれられることは,自身の「意識」 の変容にも関係してくると言える。さらに,子どもの対 応を参考にするという「モデリング」と受け取れる言葉 も見られ,対応する関係(子どもと参考にしたい学生) を近くで見て,すぐに実践へと繋げられることも彼らに とっては貴重な学びの機会になっていると考えられる。 3 .共起ネットワークによる形態素解析 学生の記述の全体的傾向を把握するため,「共起ネッ トワーク(出現パターンの似通った語,すなわち共起の 程度が強い語を線で結んだもの)」による分析を行った。 図 1 は,学生の記述に頻出する語と各回(外部変数)の 関係を示したものである(最小出現数 5 語及び Jaccard 係数 0.4 以上)。共起ネットワークは,布置された位置 よりも線で結ばれているかどうかが重要である。また, 今回は「強い共起関係ほど太い線」かつ「出現数の多い 語ほど大きな円」と設定している。作成された共起ネッ トワークは,表 1 よりも頻出語と各回の特徴を表す語の 関係を視覚的に把握することに有効である。 第 1 回と第 2 回ともに示されている語として,「子ど も」「見る」「ボランティア」「思う」が挙がっている。「ボ ランティア」として,「子ども」をどう「見る」か,また, 活動を通じて「思う」こともあったと言えよう。 ここでは,今まで取り上げていない「見る」という語 を「KWIC コンコーダンス」で確認した。第 1 回は「子 ども達と関わるときには,このような子どもに違いない という色眼鏡は捨てて,その子どもそれぞれの実像を 『見な』ければならないと学びました(学生 B)。」とあり, 第 2 回では,「子どもとの関わり方が上手なボランティ アを『見て』いると,子どもと同じ目線に立って会話を している,拒絶を恐れず懐に飛び込める,笑顔が多い, 子どもを尊重する姿勢を貫いている等,幾つかの共通 点が『見え』てきます(学生 B)。」と,第 1 回と第 2 回 で,学生 B 自身の「見る」ことにも違いが生じている ことが分かる。つまり,「見る」という動作一つだけでも, 活動を行っていくなかで変容があることが示唆された。 以上,子ども食堂での活動を振り返るなかで,学生が 得てきたものを具体的に示すことができたと考える。 図 1 学生の記述と各回との関係(共起ネットワーク)図1 学生の記述と各回との関係(共起ネットワーク) 32 加 納 史 章
IV.研究の総括と今後の課題
本研究は,学生の記述をテキストマイニングソフト KH Coder による数値化操作を加え,計量的な分析を行っ た。対象及び記述データの少なさ,語の選択等で課題は 残るものの,学生が子ども食堂の活動において,それぞ れの学びや意識に変容があったことが明らかになった。 これは,子ども食堂による “ 成果 ” であると言え,スタッ フやボランティアの一人ひとりに違いはあるが,活動を 振り返ることの有用性を示せたのではないだろうか。 また,繰り返しになるが,今回,教員養成課程に所属 する学生を調査対象としたのは,彼らが子ども食堂と 教育現場への架け橋になってもらいたいという思いが あってのことである。追跡による実証が必要ではある が,彼らが子ども食堂に来ている子どもを,それは家庭 や学校では見せない姿かも知れないが,決して何も変わ らない一人の子どもとして深く知っていることは,教育 現場へ出たとき,子どもへの対応に違いをもたらすと推 測する。 何より,子ども食堂は社会資源の 1 つでしかない。例 えば,子どもの貧困を例に挙げたが,子ども食堂だけで は問題の解決までの力は十分ではなく,子ども食堂はそ の解決に向けた窓口に過ぎない。報道等による美談で子 ども食堂がまるで万能薬のように報じられているが決 してそうでなく,窓口からの繋がりによって,少しずつ 過程を踏んで進んでいる現実をより社会に発信すべき ことが求められている。そして,今回学生自身も学んだ ように,共同で取り組むことで,新たな道が開けること もある。地域には,多くの社会資源がある。自助を補う ための共助,そして,公助の 3 つのバランスを整えるこ とが重要であり,今後の課題として挙げておく。 本稿は,2018 年日本社会福祉学会第 66 回秋季大会(愛 知県・金城学院大学)ポスター発表「こども食堂の成果 に関する検討-活動を通して教員養成課程の学生が得 たもの-」から追跡調査を行い,加筆修正したものであ る。また,調査また準備にあたって,ご協力いただいた すべての方に,この場を借りて感謝申し上げます。註
₁ .現状では,2015 年の調査において,子どもの相対 的貧困率は 13.9% と減少し,18 歳未満の子ども 7 人 1 人が貧困状態であることが示されている(厚生労 働省「平成 27 年度国民生活基礎調査」https://www. mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/index.html 2020/04/24 最終閲覧 .)。₂ .OECD(Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)の報告によると, 日本の子どもの相対的貧困率は 2010 年で加盟国 34 か 国中 10 番目に高く,国際比較からも問題視する声が 上がっている。 ₃ .「剥奪指標」を用いた調査としては,2016 年に大 阪府が実施した「子どもの生活に関する実態調査」 (大阪府「『子どもの生活に関する実態調査』及び子 どもの貧困対策に関する具体的取組について」http:// www.pref.osaka.lg.jp/kosodateshien/kodomo/index.html 2020/04/24 最終閲覧 .)が有名である。調査の詳細な 分析については,山野則子編著『子どもの貧困調査- 子どもの生活に関する実態調査から見えてきたもの』 (明石書店,2019.)を参照のこと。 ₄ .2013 年,「子どもの貧困対策の推進に関する法律」 が制定され(2014 年施行),翌年には「子供の貧困対 策に関する大綱」が閣議決定された(「教育の支援」 「保護者に対する就労支援」「子どもの貧困に関する 調査研究等」「生活の支援」「経済的支援」「施策の推 進体制等」の重点施策が位置付けられていた)。さら に,2019 年には,これまでの国の対策を見直し,法 改正及び新たな大綱の策定が行われた(策定された 大綱の目的に示されているように,「子育てや貧困を 家庭のみの責任とするのではなく,地域や社会全体 で課題を解決するという意識を強く持ち,子供のこ とを第一に考えた適切な支援を包括的かつ早期に講 じる」ことを強化する方針が打ち出された)。詳細は, 内 閣 府「 子 供 の 貧 困 対 策 」(https://www8.cao.go.jp/ kodomonohinkon/index.html 2020/04/24 最 終 閲 覧 .) を 参考のこと。 ₅ .「子ども」の表記について,「こども」や「子供」, もしくは表記のない食堂(例えば,「親子食堂」「み んな食堂」等)もあるが,本研究では,引用を除き, 食堂に関する先行研究の表題を参考に「子ども」の表 記で統一する。 ₆ .NPO 法人全国こども食堂支援センターむすびえ による全国調査(2019 年 6 月)を参照。同調査は 2018 年にも実施されており,2,286 か所と 1 年間で 1.6 倍増加したことが報告されている(NPO 法人全国 こども食堂支援センター「こども食堂って」https:// musubie.org/kodomosyokudo/ 2020/04/24 最終閲覧 .)。 ₇ .近藤氏は様々な機関誌や雑誌に「子ども食堂」をテー マに投稿しており,「気まぐれ八百屋だんだん」が子 ども食堂として活動し始めるまでの経緯やその思い について語られている(「食からこども・地域を支え る 人がつながる地域の居場所 “ こども食堂 ”(特集 地 域をつくる市民からのメッセージ)」『看護』69(1), 日本看護協会出版会,2017.)(「子どもの居場所をつ くり,孤立を防ぐ :「こども食堂」第 1 号店からの 発信 (特集 深刻化する子どもの貧困)」『月刊保団連』 (1225),全国保険医団体連合会,2016.)(「地域で子
どもを支える「こども食堂」 (特集 子どもの心の成長 と食事) 」『教育と医学』64 (9),慶應義塾大学出版会, 2016.)。 ₈ .子ども食堂の共通の特性に,「多様性」「創意性」「地 域性」の 3 つがある。「多様性」とは,「一つとして同 じ形の『こども食堂』」はなく,むしろ「画一的では ないところが魅力」であり,それぞれ運営や組織に よって,持ち得ている機能も異なっている。「創意性」 は,決して整った条件とは言えない環境下でも,運営 や組織の「創意工夫」によって,子ども食堂の活動が 成り立っている姿勢を示している。そして,「地域性」 とは,「垣根が低い」ことから,誰でも子ども食堂を 立ち上げることができ,さらに地域発の活動であるこ とから,地域に根付くことが期待されている(「広が れ,こども食堂の輪!」全国ツアー実行委員会テキス トプロジェクト発行『広がれ,こども食堂の輪!活動 ガ イ ド ブ ッ ク 』http://www.mow.jp/pdf/3.27_kodomo_2 2020/04/24 最終閲覧 .)