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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) : 「幼児教育職務実践力尺度」を作成するための調査結果における保育所保育士と幼稚園教諭の比較

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) :

「幼児教育職務実践力尺度」を作成するための調査

結果における保育所保育士と幼稚園教諭の比較

著者

秋山 真奈美

雑誌名

佐野短期大学研究紀要

24

ページ

45-57

発行年

2013-03-31

URL

http://doi.org/10.15109/00000048

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) はじめに  本稿は秋山(2011)1)の続報である。  保育者養成校での教育的実用を目的とし、 現場で求められる幼児教育職務実践力の指標 を作成するために、秋山(2011)1) では現職 の幼稚園教諭に対し、「幼稚園教育要領」8) 「保育所保育指針」6) 、先行研究(木村・橋 川 2008)5) を基に作成した 37 項目での多重・ 強制複合型選択法と自由記述法による調査を 実施した(有効回答 145 名、返送率 44.6%)。 回答協力者には「幼児教育における職務実践 力」を計測する指標として有効、重要である と考えられる項目に印を付けるように求め、 結果として回答者の半数以上が「重要である」 と認めた 31 項目に対し、数量化Ⅲ類、クラ スター分析を施し、回答の傾向について検討 を行った。特に後者分析からは保育者志望学 生が各種実習後セルフモニタリングを行う際 に実用可能な 5 つの尺度を得て、これら「① 積極的に働きかけて、園児に潜在している能 力・活動を引き出す力」、「②園児の状態を把 握する力」、「③園児の主体性や自己表現・解 決能力を励ます力」、「④教育的人的環境とな る力」、「⑤環境を構成する力」を、現場で求 Abstract:

The final purpose of this study is to improve the scales of ability for early childhood education for students who aspire to be a preschool teacher or a childcare worker.The scales consisted of 37 items pre-viously used(Akiyama2011),which investigated the image that in-service preschool teachers have of an ideal competence in childcare.In Japan,public and social childcare are supported mainly by both pre-school teachers and childcare workers.For the present study,eleven new items were added to the scales,and an inquiry of childcare workers who had been teaching for at least 5 years was conducted;157 responses were received.First,the data obtained from a multiple-answer questionnaire using a chi-square test and quantification method type III were compared with 31 items which both preschool teachers(the data reported in Akiyama 2011)and childcare workers consider important.Consequently,I found differ-ences and similarities between the two groups in their cognitive structure concerning childcare.In addition,I identified six categories by cluster analysis of the 48 items.These results will be useful for improving the scales for the students.

キーワード: 幼児教育職務実践力、保育者志望学生、資質向上支援、尺度作成、現職保育所保育士

現場 で 求めら れ る 幼児 教 育職 務実 践力 とは ?( 2)

「幼児教育職務実践力尺度」を作成するための

調査結果における保育所保育士と幼稚園教諭の比較

秋 山 真奈美

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められている「幼児教育職務実践力尺度」と して、学生用セルフモニタリングシートを作 成した。  これらの尺度も項目も、未だ改良を要する 段階ではあるが、中間報告的に、保育・教育 実習を終えた直後の保育者志望学生にこれら を実施しセルフモニタリングを行わせた結果 を記述したのが秋山(2012)2) である。  改良を要する最大の理由は、これらの項目 の重要性を、現職の幼稚園教諭のみにしか未 だ問うていないということにある。  言うまでもなく、現在、保育・幼児教育に 携わる者に求められる資格の二本柱は幼稚園 教諭免許と保育士資格であるが、両者は決し て対極に存在するものではない。平成 15 年 には「経済財政運営と構造改革に関する基本 方針 2003」(注 1) に幼稚園教諭と保育士の職 員資格の併有の推進が盛り込まれたこともあ り、現職の保育者における両資格の併有傾向 はここ数年、持続して増加する傾向にある(例 えば幼稚園教諭の保育士資格併有率は、文部 科学省初等中等教育局幼児教育課の「幼児教 育実態調査」9) によると、平成 18 年 69.9%、 平 成 19 年 70.9 %、 平 成 20 年 72.7 %、 平 成 22 年 74.1%である)(注 2) 。またこの「幼児教 育実態調査(平成 22 年度)」9)によると、幼 稚園教諭採用選考を実施した地方公共団体の うち、66.8%が受験資格として幼稚園教諭免 許のみならず保育士資格の併有を要件として いる。多様な保育ニーズに合わせ、今や「幼 稚園の保育所化」(三野 2011)7) は進行し、 優れた幼児教育を実践するにはますます高度 な養護的知見と技能とが併せて求められてい る。このため、このふたつの資格を同時に取 得させようとする保育者養成校もまた増加し ており(川俣 2010)3) 、国際動向にも目を 向けた上で保育におけるケアと教育の一元化 の推進を強く提案している北野(2009)4)は、 保育士資格取得はできても幼稚園教諭免許が 取得できない保育士養成コースを持つ各種学 校があることに、ケア・教育・子育て支援を 担う養成の観点から懸念を示している。優れ た保育・幼児教育者を輩出するためには、養 成教育段階で、両資格・両現場の要素を含ん だより多角的な視点と技能の獲得を促すに若 くはない。  それはもちろん実際に保育・幼児教育現場 において発揮されるべき「教育職務実践力」 においても同様である。 目 的  そこで本研究では、秋山(2011)1) で調査 を行った際に幼稚園教諭から自由記述欄にお いて示された指摘を取り入れた内容を検討項 目として追加し、現職の保育所保育士に同形 態の調査を実施する。そして幼保一元化が一 層進行してきた現況において、幼稚園教諭、 保育所保育士の双方が重視する“幼児教育に おいて求められる職務実践力”の構造につい て両職種の反応を比較、把握することで、保 育者養成校在学生が自己の幼児教育職務実践 力についてセルフモニタリングを行う際に有 益となる知見を収集し、「幼児教育職務実践 力尺度」の改良を目指す。 方 法  幼稚園教諭と保育所保育士のそれぞれから 得た結果を比較検討することを目的のひとつ としているため、方法については、原則とし て秋山(2011)1)を踏襲する。 1.対象  公立・私立の別を問わず、栃木県下のすべ ての認可保育所(調査実施当時 350 園)(注 3) に無記名式調査用紙を郵送した。保育・教育 職務を 5 年以上経験している保育士を調査対 象とし、回答者の勤務経験年数と性別の記入 を求めた。なお、依頼にあたっては、添え文 と調査用紙の両方に、返却された内容をすべ て数量化し、公表の際には保育所名や回答者

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) が特定されない様式をとることを明記した。 2.用具  秋山(2011)1) で使用した 37 項目に、同 調査時に自由記述欄で幼稚園教諭から示唆さ れた検討要件 11 項目を加えた 48 項目を尺度 とした。これらに対し、まず、幼児教育者の 「職務実践力」を測る指標として重要と思わ れるものにいくつでも丸(以下○と表記)印 をつけ、次いでその中でも特に重要と思われ る項目 5 つを選び○の中に更に小さな丸を加 え二重丸(以下◎と表記)印にしてもらうよ う求めた。また、調査用紙の最終頁に任意の 自由記述欄を設けた。なお、本調査において 教育対象として想起してもらうのは“幼児”(1 歳以上の就学未満児)である。従って、幼稚 園教諭が主として教育対象としている 3 歳以 上の後期幼児期層よりも、保育対象の年齢幅 が広い保育所での調査では想起対象範囲は自 ずから拡大することになる。しかし、そういっ た対象年齢層の厚さという要素も含んだ実践 力のあり方について、今回調査で確認するこ と自体が学生指導上有益であると考えられる ため、想起する“幼児”の年齢幅については 特に限定しなかった。 結果と考察 1.集計分析とχ2検定  2011 年 10 月中旬~ 11 月中旬に調査を実 施した結果、157 園 157 名より回答が寄せら れた(返送率:44.9%)。回答者の幼児教育・ 保育職務経験年数は 5 ~ 44 年であり(平均 22.1 年:無記入の回答 3 名を除く)、性別の 内訳は女性が 151 名(96.2%)、男性が 3 名 (1.9%)、無記入の者が 3 名(1.9%)であった。  Figure 1 に、今回調査 48 項目へのマーキ ング結果を示す。なお、項目番号(1)~(37) の項目の順序と内容は、秋山(2011)1)とまっ たく同じものであり、項目番号(38)~(48) が今回調査で新規に加えられた項目である。  またFigure 2 に、今回調査における保育士 からの◎と○印の合計実数と、秋山(2011)1) の幼稚園教諭からの回答結果の調整頻度数 (有効回答資料数 145 から得たデータと今回 の保育士からの有効回答資料数 157 とを対置 できるよう、各項目における回答数を係数 1.083[ = 157 / 145] で 乗 算 処 理 し た も の ) とを、両者対比可能な 37 項目を対象にして 示す。  今回調査においては、◎と○印の合計数が 有効回答数の半分に満たない項目が 5 つあり ( 第 2、22、24、27、33 項 目 )、 こ れ ら は Figure 2 に下線を付帯して示している。なお、 これらの項目はすべて、幼稚園教諭において も過半数を満たしていないものであった(秋 山 2011)1) 。従ってこの 5 項目は現職の保育 職務従事者にそれほど重要とは認識されてい ない項目である可能性が高いと考えられるた め、今後の分析から外すことにした。ただし、 幼稚園教諭のデータにおいては半数に満たず 当時研究では分析対象から外した「(17)園 児が自分の身体を大切にするように指導する こと」という項目については、今回調査では 過半数を越える回答を得ていたため、分析・ 考察の対象に加えるとともに、学生に対して 提示する項目としても、今後残留させること にした。  さらに保育士と幼稚園教諭の「幼児教育職 務実践力」についての認識の相違を検討する ため、今回の 157 名分の保育士データと対置 可能になるよう秋山(2011)1) の幼稚園教諭 145 名分のデータを先述の要領で換算し、両 職種で比較可能な 32 項目に対し項目ごとに 職種と印の有無で 2 × 2 のクロス表を作成し、 χ2検定を実施した。その結果、9 項目(第 5、 7、9、10、12、17、26、28、36 項 目 ) に お いて、両側検定 5%水準で保育士と幼稚園教 諭の回答の間に有意な差が検出された(χ(1)2 = 4. 31 ~ 12.89)。Figure 2 において、差の 検出された項目を□で囲んで示す。なお、項

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Figure  1:  保育所保育士に対する 48項目の内容と 回答数 42 17 2 4 17 92 19 79 11 2 38 20 27 3 45 0 1 37 15 15 31 0 17 2 0 12 1 14 5 4 11 8 36 2 11 17 8 15 12 11 6 9 5 9 12 15 1 36 95 115 88 87 98 57 111 70 110 95 106 115 92 79 89 31 97 101 116 104 109 59 97 86 51 102 61 96 98 95 111 85 94 95 106 92 97 102 91 101 88 118 91 80 99 108 53 93 0 20 40 60 80 100 120 140 160 (48 ) 個人情 報の 取り扱 い に 細 心の 注意 を払 う こ と 。 (47 ) 保護者 の心 理的 ・ 環 境的 状況 に 配 慮し な がら 、適 切な 保 育指 導を 行う こ と 。 (46 ) 園児や 家庭 の食 育を 推進 す る こ と 。 (45 ) 園児の 欲求 の所 在を 的確 に 把握 す る こ と 。 (44 ) 適宜、 指導 計画 の評 価・ 改善 を行 う こ と 。 (43 ) 園児が 情緒 の安 定し た 生活 を送 れる よ う 、 園児 と の信 頼関 係の 構築 に 努め る こ と 。 (42 ) 同僚間 で、 個々 の園 児の 育ち に つ い て日 頃か ら 話し 合 い をして お くこ と 。 (41 ) 安全管 理に 細 心の 注意 を払 う こ と 。 (40 ) 保護者 の悩 みや 心配 事に 対 し 、じ っ くり と 相談 に の る こ と 。 (39 ) 園児の 園内 外で の生 活リ ズ ム に 関 心を 払う こ と 。 (38 ) 登園時 ・ 降 園時 に 、 保護 者と 園 児の 様子 に つい て 十分 な情 報の 交換 をす る こ と 。 (37 ) 顔色や 様子 が気 に なる 園 児に 対し 、 声を かけ る こ と 。 (36 ) 保育内 容5領 域が 、相 互に 関連 し て園 児の 発達 をも たら す こ と が 理解 で きてい る こ と 。 (35 ) 園児に 対 し 明瞭 で 十分 な声 量で 声か け をす る こ と 。 (34 ) 園児の 実態 ( 興 味や 関心 、発 達の 状況 など )を 踏まえ た環 境を 構成 す る こ と 。 (33 ) 競争心 を活 用し て 活動 の継 続を 図る こ と 。 (32 ) 前日まで の 園児 の姿 を読 み取 っ て い る こ と 。 (31 ) 園児に 対 し 、表 情豊 かに 関わ る こ と 。 (30 ) 正し い 言葉 を使 用す る 手 本と な る こ と 。 (29 ) きま りの 大切 さ を園 児に 自 覚さ せる こ と 。 (28 ) 衛生管 理が 適切 である こ と 。 (27 ) 壁面構 成な ど に 創意 工夫 が発 揮で きる こ と 。 (26 ) 家庭や 社会 生活 環境 と の関 係性 を視 野に 入 れた 保育 をす る こ と 。 (25 ) 率先し て 環境 に 関 わり園 児の 活動 を引 き起 こ す こ と 。 (24 ) 日常生 活上 覚え る こ と が 好まし い 標 識へ の注 意を 、 園児 に 促す こ と 。 (23 ) 園児に 自 分の 気持 ち を伝 える 適 切な 表 現の 仕方 を教 える こ と 。 (22 ) 園児に 、 身の 回り に あ る 物を 工 夫し て 用い る こ と を推 奨す る こ と 。 (21 ) 園児の 活動 に 応じ て 環 境を 再構 成す る こ と が でき る こ と 。 (20 ) 園児の 想像 力を かきた てる よ う な 助言 をす る こ と 。 (19 ) 疑問を 投げ かけ 、 園児 の探 求心 を引 き起 こ す こ と 。 (18 ) 園児が 友達 の気 持ち に 気 づ くよ う 、ヒ ン トを 与え る こ と 。 (17 ) 園児が 自分 の身 体を 大切 に す る よ う に 、指 導す る こ と 。 (16 ) 園児が 場面 に 応じ て 、 自分 の思 い を はっ きり 表現 ・主張 し たり、 自分 の感 情を 抑え たり す る こ と を 学習 す る よ う 、 励ま す こ と 。 (15 ) ア イデ ア を 提供 す る こ と で 、園 児の 新た な活 動を 引き起 こ す こ と 。 (14 ) 生活の 流れ や園 児の 実態 から 環境 の構 成が でき る こ と 。 (13 ) 園児が 自分 の気 持ち を 言葉 で表 現で きる よ う 根気 のよ い 働 きか け をす る こ と 。 (12 ) 散歩の 機会 など を 活か し 、自 然の 大きさ や美 し さ を園 児に 知ら し め る こ と 。 (11 ) 園児が 楽し く進 ん で身 体を 動か し たく なる よ う な 雰囲 気作 りが う ま い こ と 。 (10 ) 園児の 知・ 情・ 意 の変 化を 捉え てい る こ と 。 ( 9) 友達と の間 で 引き起 こ さ れ る 対立 や葛 藤か ら の 立ち 直 りを 励ま す こ と 。 ( 8) 個と 集団の 関係 性に 留意 し た園 児の 活動 を予 想す る こ と 。 ( 7) 絵本読み や言 葉遊 び など を 通し 、 言葉 の楽 し さ や 美し さ を 園児 に 知 ら し め る こ と 。 ( 6) 物の性質 への 興味 ・関心 を引 き出す よ う な 言葉 がけ を す る こ と 。 ( 5) 季節や行 事に 合 っ た曲 など がピ ア ノ で 弾け る こ と 。 ( 4) ク ラス が集 団と し て ど のよ う に 変 容し 、 人間 関係 がど の よ う な状 態に あ る かを 捉え てい る こ と 。 ( 3) 園児が主 体的 に 取り 組ん で い る かど う かを 見極 め 、そ の姿 を励 ます こ と 。 ( 2) 園児の先 行経 験と 結 び つけ な がら 、 援助 の目 的や 意味 が明 確に わ かる よ う に 説 明す る こ と 。 ( 1) 園児が自 分で 活動 を展 開し 、ね ら い を 達成 し てい け る よ う な 援助 を工 夫し て 考 える こ と 。 ◎ ○ Figure 1:保育所保育士に対する 48 項目の内容と回答数

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) 135 119 82 134 31 98 138 131 119 140 59 114 88 51 114 62 110 103 99 122 93 130 97 117 109 105 117 103 112 94 127 96 89 111 123 54 129 123 101 90 141 35 106 133 131 121 115 70 96 73 32 100 56 115 106 115 118 71 126 102 121 110 87 123 79 92 86 110 99 107 118 114 55 132 0 20 40 60 80 100 120 140 160 ( 37 )顔色や様 子が気 になる 園児に 対し、 声をか けるこ と。 ( 36 )保育内容 5領域 が、相 互に関 連して 園児の 発達を もたら すこと が理解 できて いるこ と。 ( 35 )園児に対 し明瞭 で十分 な声量 で声か けをす ること 。 ( 34 )園児の実 態(興 味や関 心、発 達の状 況など )を踏 まえた 環境を 構成す ること 。 ( 33 )競争心を 活用し て活動 の継続 を図る こと。 ( 32 )前日まで の園児 の姿を 読み取 ってい ること 。 ( 31 )園児に対 し、表 情豊か に関わ ること 。 ( 30 )正しい言 葉を使 用する 手本と なるこ と。 ( 29 )きまりの 大切さ を園児 に自覚 させる こと。 ( 28 )衛生管理 が適切 である こと。 ( 27 )壁面構成 などに 創意工 夫が発 揮でき ること 。 ( 26 )家庭や社 会生活 環境と の関係 性を視 野に入 れた保 育をす ること 。 ( 25 )率先して 環境に 関わり 園児の 活動を 引き起 こすこ と。 ( 24 )日常生活 上覚え ること が好ま しい標 識への 注意を 、園児 に促す こと。 ( 23 )園児に自 分の気 持ちを 伝える 適切な 表現の 仕方を 教える こと。 ( 22 )園児に、 身の回 りにあ る物を 工夫し て用い ること を推奨 するこ と。 ( 21 )園児の活 動に応 じて環 境を再 構成す ること ができ ること 。 ( 20 )園児の想 像力を かきた てるよ うな助 言をす ること 。 ( 19 )疑問を投 げかけ 、園児 の探求 心を引 き起こ すこと 。 ( 18 )園児が友 達の気 持ちに 気づく よう、 ヒント を与え ること 。 ( 17 )園児が自 分の身 体を大 切にす るよう に、指 導する こと。 ( 16 )園児が場 面に応 じて、 自分の 思いを はっき り表現 ・主張 したり 、自分 の感情 を抑え たりす ること を学習 するよ う、励 ますこ と。 ( 15 )アイデア を提供 するこ とで、 園児の 新たな 活動を 引き起 こすこ と。 ( 14 )生活の流 れや園 児の実 態から 環境の 構成が できる こと。 ( 13 )園児が自 分の気 持ちを 言葉で 表現で きるよ う根気 のよい 働きか けをす ること 。 ( 12 )散歩の機 会など を活か し、自 然の大 きさや 美しさ を園児 に知ら しめる こと。 ( 11 )園児が楽 しく進 んで身 体を動 かした くなる ような 雰囲気 作りが うまい こと。 ( 10 )園児の知 ・情・ 意の変 化を捉 えてい ること 。 (9)友 達と の間で引 き起 こされる 対立 や葛藤か らの 立ち直り を励 ますこと 。 (8)個 と集 団の関係 性に 留意した 園児 の活動を 予想 すること 。 (7)絵 本読 みや言葉 遊び などを通 し、 言葉の楽 しさ や美しさ を園 児に知ら しめ ること。 (6)物 の性 質への興 味・ 関心を引 き出 すような 言葉 がけをす るこ と。 (5)季 節や 行事に合 った 曲などが ピア ノで弾け るこ と。 (4)ク ラス が集団と して どのよう に変 容し、人 間関 係がどの よう な状態に ある かを捉え てい ること。 (3)園 児が 主体的に 取り 組んでい るか どうかを 見極 め、その 姿を 励ますこ と。 (2)園 児の 先行経験 と結 びつけな がら 、援助の 目的 や意味が 明確 にわかる よう に説明す るこ と。 (1)園 児が 自分で活 動を 展開し、 ねら いを達成 して いけるよ うな 援助を工 夫し て考える こと 。 幼稚園調 整頻 度 保育所頻 度合 計 0.21 0.02 1.43 0.76 4.31 0.08 4.57 0.89 5.38 7.22 0.70 4.35 0.03 0.30 0.30 0.39 5.69 0.27 3.49 0.13 0.34 0.42 2.92 5.34 2.92 4.32 1.64 12.89 0.09 0.0 0.61 0.88 0.25 1.27 0.76 4.90 2.83 Fi gure 2 : 調整 換算 した幼稚 園教諭 の 回答数 と 、 保育所 保育士の 回答数 ( 実数)と の項目別 比較  ( 下線は棄 却項目、 □囲みは χ 2検定 (両側検 定 5 %水 準 )で有 意差を検 出した項 目。斜体 数字は χ 2値 であ る。 ) Figure 2:調整換算した幼稚園教諭の回答数と、保育所保育士の回答数(実数)との項目別比較  (下線は棄却項目、 □囲みはχ 2検定 (両側検定 5%水準) で有意差を検出した項目。 項目番号付近の斜体数字は χ 2値である。 )

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目番号付近に併記されている斜体の数値が χ2値である。  これらについては、ピアノに関する項目 (「(5) 季節や行事に合った曲などがピアノで 弾けること」)においてのみ幼稚園教諭のほ うが高い値を示したが、それ以外はいずれも 保育士データのほうが高い値を示した。該当 する項目(「(7) 絵本読みや言葉遊びなどを通 し、言葉の楽しさや美しさを園児に知らしめ ること」、「(9) 友達との間で引き起こされる 対立や葛藤からの立ち直りを励ますこと」、 「(10) 園児の知・情・意の変化を捉えている こと」、「(12) 散歩の機会などを活かし、自然 の大きさや美しさを園児に知らしめること」、 「(17) 園児が自分の身体を大切にするように、 指導すること」、「(26) 家庭や社会生活環境と の関係性を視野に入れた保育をすること」、 「(28) 衛生管理が適切であること」、「(36) 保 育内容 5 領域が、相互に関連して園児の発達 をもたらすことが理解できていること」)の 間に目立つ共通性は特に認められないが、養 護的な観点および長時間保育中の教育要件の 多さが結果に反映されたものと考えられる。 預かり保育など、幼稚園が保育所的業務を取 り入れる上では、こうした要素を現在以上に 敢えて意識していかなければいけないという ことでもあるだろう。 2.数量化Ⅲ類による解析  続いて、幼児教育職務実践力がどういう認 知的次元で構成されているのかを知り、項目 同士の関連性について幼稚園教諭と保育士と の相違を確認するために、両者のデータで過 半数を獲得した 31 項目(注 4)に対し、保育士 より得た 157 名分のデータを、○あるいは◎ 印を 1 点、空欄を0点に換算して、数量化Ⅲ 類による解析を行った(Table 1)。内容を検 めたところ、第 4 軸以降は解釈が困難であっ たので、第 3 軸までの結果に対し考察を行う こととする。  第 1 軸は、項目の内容が「重要かそうでな いか」(得点の有無)を分けるものとなった。 つまり、第 1 軸を X 軸、第 2 軸を Y 軸とし た時に、得点あり(1 点)の回答が第Ⅰ象限 と第Ⅳ象限に、得点無し(0 点)の回答が第 Ⅱ象限と第Ⅲ象限に限定する形で出現したと いうことである。これは秋山(2011)1) にお いてもまったく同様に見られた結果であり、 第 1 軸が各項目における得点の有無で明確に 分別されたことは、本調査項目が、教育職務 実践力の有無を判定する分水嶺となり得る可 能性が高いことを示す証左となろう。  以上を確認した上で、軸含意についての解 釈の力点を第 2 軸と第 3 軸とに置き、第 2 軸 を X 軸、第 3 軸を Y 軸としてカテゴリース Table 1:31 項目に対する数量化Ⅲ類の結果 Table 1:31項目に対する数量化Ⅲ類の結果 変数(項目) 値 カウント 該当率% 第1軸 第2軸 第3軸 㻝 㻝㻞㻥 㻤㻞㻚㻞 㻜㻚㻠㻟 㻙㻜㻚㻞㻤 㻜㻚㻜㻥 㻜 㻞㻤 㻝㻣㻚㻤 㻙㻞㻚㻜㻜 㻝㻚㻟㻝 㻙㻜㻚㻠㻞 㻝 㻝㻞㻟 㻣㻤㻚㻟 㻜㻚㻠㻥 㻜㻚㻝㻤 㻙㻜㻚㻜㻤 㻜 㻟㻠 㻞㻝㻚㻣 㻙㻝㻚㻣㻤 㻙㻜㻚㻢㻢 㻜㻚㻞㻥 㻝 㻝㻝㻝 㻣㻜㻚㻣 㻜㻚㻢㻠 㻙㻝㻚㻜㻥 㻙㻜㻚㻢㻜 㻜 㻠㻢 㻞㻥㻚㻟 㻙㻝㻚㻡㻡 㻞㻚㻢㻟 㻝㻚㻠㻡 㻝 㻤㻥 㻡㻢㻚㻣 㻜㻚㻣㻝 㻝㻚㻞㻝 㻜㻚㻣㻠 㻜 㻢㻤 㻠㻟㻚㻟 㻙㻜㻚㻥㻞 㻙㻝㻚㻡㻤 㻙㻜㻚㻥㻢 㻝 㻥㻢 㻢㻝㻚㻝 㻜㻚㻣㻡 㻜㻚㻜㻡 㻜㻚㻡㻤 㻜 㻢㻝 㻟㻤㻚㻥 㻙㻝㻚㻝㻤 㻙㻜㻚㻜㻣 㻙㻜㻚㻥㻝 㻝 㻝㻞㻣 㻤㻜㻚㻥 㻜㻚㻠㻤 㻜㻚㻣㻡 㻙㻜㻚㻜㻤 㻜 㻟㻜 㻝㻥㻚㻝 㻙㻞㻚㻜㻞 㻙㻟㻚㻝㻣 㻜㻚㻟㻡 㻝 㻥㻠 㻡㻥㻚㻥 㻜㻚㻤㻟 㻙㻜㻚㻤㻠 㻙㻜㻚㻟㻟 㻜 㻢㻟 㻠㻜㻚㻝 㻙㻝㻚㻞㻠 㻝㻚㻞㻢 㻜㻚㻠㻤 㻝 㻝㻝㻞 㻣㻝㻚㻟 㻜㻚㻣㻜 㻜㻚㻝㻢 㻙㻝㻚㻜㻠 㻜 㻠㻡 㻞㻤㻚㻣 㻙㻝㻚㻣㻠 㻙㻜㻚㻟㻥 㻞㻚㻡㻥 㻝 㻝㻜㻟 㻢㻡㻚㻢 㻜㻚㻣㻥 㻙㻜㻚㻤㻣 㻜㻚㻞㻡 㻜 㻡㻠 㻟㻠㻚㻠 㻙㻝㻚㻡㻜 㻝㻚㻢㻢 㻙㻜㻚㻠㻤 㻝 㻝㻝㻣 㻣㻠㻚㻡 㻜㻚㻡㻡 㻜㻚㻤㻟 㻜㻚㻞㻟 㻜 㻠㻜 㻞㻡㻚㻡 㻙㻝㻚㻢㻜 㻙㻞㻚㻠㻞 㻙㻜㻚㻢㻢 㻝 㻝㻜㻡 㻢㻢㻚㻥 㻜㻚㻣㻢 㻜㻚㻢㻠 㻜㻚㻣㻤 㻜 㻡㻞 㻟㻟㻚㻝 㻙㻝㻚㻡㻠 㻙㻝㻚㻞㻥 㻙㻝㻚㻡㻣 㻝 㻝㻜㻥 㻢㻥㻚㻠 㻜㻚㻡㻡 㻜㻚㻟㻣 㻙㻝㻚㻠㻥 㻜 㻠㻤 㻟㻜㻚㻢 㻙㻝㻚㻞㻢 㻙㻜㻚㻤㻡 㻟㻚㻟㻥 㻝 㻝㻝㻣 㻣㻠㻚㻡 㻜㻚㻡㻢 㻙㻝㻚㻝㻡 㻜㻚㻡㻟 㻜 㻠㻜 㻞㻡㻚㻡 㻙㻝㻚㻢㻟 㻟㻚㻟㻢 㻙㻝㻚㻡㻢 㻝 㻥㻣 㻢㻝㻚㻤 㻝㻚㻜㻝 㻝㻚㻜㻥 㻜㻚㻣㻣 㻜 㻢㻜 㻟㻤㻚㻞 㻙㻝㻚㻢㻠 㻙㻝㻚㻣㻢 㻙㻝㻚㻞㻠 㻝 㻝㻟㻜 㻤㻞㻚㻤 㻜㻚㻟㻟 㻙㻜㻚㻟㻣 㻙㻜㻚㻣㻣 㻜 㻞㻣 㻝㻣㻚㻞 㻙㻝㻚㻡㻣 㻝㻚㻣㻣 㻟㻚㻣㻟 㻝 㻝㻞㻞 㻣㻣㻚㻣 㻜㻚㻢㻝 㻜㻚㻟㻠 㻙㻜㻚㻣㻠 㻜 㻟㻡 㻞㻞㻚㻟 㻙㻞㻚㻝㻠 㻙㻝㻚㻞㻜 㻞㻚㻡㻣 㻝 㻥㻥 㻢㻟㻚㻝 㻜㻚㻤㻢 㻜㻚㻠㻞 㻜㻚㻠㻡 㻜 㻡㻤 㻟㻢㻚㻥 㻙㻝㻚㻠㻤 㻙㻜㻚㻣㻞 㻙㻜㻚㻣㻣 㻝 㻝㻜㻟 㻢㻡㻚㻢 㻜㻚㻥㻝 㻜㻚㻡㻟 㻜㻚㻜㻡 㻜 㻡㻠 㻟㻠㻚㻠 㻙㻝㻚㻣㻠 㻙㻝㻚㻜㻝 㻙㻜㻚㻝㻜 㻝 㻝㻝㻜 㻣㻜㻚㻝 㻜㻚㻣㻟 㻙㻝㻚㻜㻤 㻜㻚㻜㻥 㻜 㻠㻣 㻞㻥㻚㻥 㻙㻝㻚㻣㻜 㻞㻚㻡㻞 㻙㻜㻚㻞㻞 㻝 㻝㻝㻠 㻣㻞㻚㻢 㻜㻚㻡㻥 㻜㻚㻜㻡 㻙㻝㻚㻜㻤 㻜 㻠㻟 㻞㻣㻚㻠 㻙㻝㻚㻡㻤 㻙㻜㻚㻝㻠 㻞㻚㻤㻢 㻝 㻤㻤 㻡㻢㻚㻝 㻝㻚㻜㻟 㻜㻚㻞㻢 㻜㻚㻞㻥 㻜 㻢㻥 㻠㻟㻚㻥 㻙㻝㻚㻟㻞 㻙㻜㻚㻟㻟 㻙㻜㻚㻟㻣 㻝 㻝㻝㻠 㻣㻞㻚㻢 㻜㻚㻡㻠 㻙㻜㻚㻥㻢 㻙㻜㻚㻝㻢 㻜 㻠㻟 㻞㻣㻚㻠 㻙㻝㻚㻠㻠 㻞㻚㻡㻟 㻜㻚㻠㻟 㻝 㻝㻠㻜 㻤㻥㻚㻞 㻜㻚㻟㻞 㻙㻜㻚㻜㻞 㻜㻚㻠㻜 㻜 㻝㻣 㻝㻜㻚㻤 㻙㻞㻚㻢㻝 㻜㻚㻝㻟 㻙㻟㻚㻟㻞 㻝 㻝㻝㻥 㻣㻡㻚㻤 㻜㻚㻠㻞 㻜㻚㻠㻟 㻙㻜㻚㻢㻟 㻜 㻟㻤 㻞㻠㻚㻞 㻙㻝㻚㻟㻝 㻙㻝㻚㻟㻢 㻝㻚㻥㻢 㻝 㻝㻟㻝 㻤㻟㻚㻠 㻜㻚㻠㻥 㻜㻚㻝㻥 㻜㻚㻞㻢 㻜 㻞㻢 㻝㻢㻚㻢 㻙㻞㻚㻠㻢 㻙㻜㻚㻥㻠 㻙㻝㻚㻟㻞 㻝 㻝㻟㻤 㻤㻣㻚㻥 㻜㻚㻞㻟 㻜㻚㻜㻥 㻜㻚㻢㻡 㻜 㻝㻥 㻝㻞㻚㻝 㻙㻝㻚㻢㻥 㻙㻜㻚㻢㻠 㻙㻠㻚㻣㻜 㻝 㻥㻤 㻢㻞㻚㻠 㻜㻚㻣㻥 㻙㻜㻚㻡㻠 㻙㻜㻚㻟㻠 㻜 㻡㻥 㻟㻣㻚㻢 㻙㻝㻚㻟㻞 㻜㻚㻥㻜 㻜㻚㻡㻢 㻝 㻝㻟㻠 㻤㻡㻚㻠 㻜㻚㻟㻢 㻙㻜㻚㻢㻝 㻜㻚㻣㻝 㻜 㻞㻟 㻝㻠㻚㻢 㻙㻞㻚㻜㻥 㻟㻚㻡㻣 㻙㻠㻚㻝㻡 㻝 㻤㻞 㻡㻞㻚㻞 㻝㻚㻜㻡 㻜㻚㻥㻜 㻙㻜㻚㻝㻣 㻜 㻣㻡 㻠㻣㻚㻤 㻙㻝㻚㻝㻠 㻙㻜㻚㻥㻤 㻜㻚㻝㻥 㻝 㻝㻝㻥 㻣㻡㻚㻤 㻜㻚㻡㻤 㻙㻜㻚㻟㻞 㻜㻚㻝㻟 㻜 㻟㻤 㻞㻠㻚㻞 㻙㻝㻚㻤㻞 㻝㻚㻜㻝 㻙㻜㻚㻠㻜 㻝 㻝㻟㻡 㻤㻢㻚㻜 㻜㻚㻠㻜 㻜㻚㻜㻢 㻜㻚㻜㻠 㻜 㻞㻞 㻝㻠㻚㻜 㻙㻞㻚㻠㻤 㻙㻜㻚㻟㻠 㻙㻜㻚㻞㻝 固有値 㻜㻚㻞㻣 㻜㻚㻜㻣 㻜㻚㻜㻡 (N=157) 㻔㻝㻕 㻔㻟㻕 㻔㻠㻕 㻔㻡㻕 㻔㻢㻕 㻔㻣㻕 㻔㻤㻕 㻔㻥㻕 㻔㻝㻜㻕 㻔㻝㻝㻕 㻔㻝㻞㻕 㻔㻝㻟㻕 㻔㻝㻠㻕 㻔㻝㻡㻕 㻔㻝㻢㻕 㻔㻝㻤㻕 㻔㻝㻥㻕 㻔㻞㻜㻕 㻔㻞㻝㻕 㻔㻞㻟㻕 㻔㻞㻡㻕 㻔㻞㻢㻕 㻔㻞㻤㻕 㻔㻟㻢㻕 㻔㻟㻣㻕 㻔㻞㻥㻕 㻔㻟㻜㻕 㻔㻟㻝㻕 㻔㻟㻞㻕 㻔㻟㻠㻕 㻔㻟㻡㻕

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) コアの座標値をプロットした(Figure 3:図 中の数字は項目番号である)。ただし、見易 さを配慮して、有得点回答のみ図示している。 視認の結果、X 軸が「計画性・企図性のある 積極的な支援(+)」と「園児の周辺環境の 把握とそれに応じた環境構成(-)」という“関 わり方のスタイル・方法”を表わしており、 Y 軸が「知育(+)」と「社会性(-)」とい う“育みたい内容の方向性”を表わしている ことが知れた。  第 2 軸に示された“関わり方のスタイル・ 方法”という次元は、厳密には完全対応して いる訳ではないが、Figure 4 に再掲する秋山 (2011)1) で幼稚園教諭データを解析した際 にも類似した形で出現したものである。この 時、幼稚園教諭のデータには第 3 軸として「積 極的関与」と「環境整備的支援」という極で “働きかけのスタイル・方法”が示された訳 だが、どちらかというと“偶発的に生じた事 態を教育の機と捉えて”「積極的な関わり」 をする傾向と、“生活に含有される学習要件 を園児が発見してくれることを願って”事前 に準備される「環境支援」という傾向とが軸 の性質に織り込まれていた。これに対し今回 結果の第 2 軸では、正の方向に進むにつれ保 育者の「積極的な関わり」の中に偶発的色彩 よりも“計画的・知育的な色彩”が強くなっ ていくと同時に、負の方向に向かい“実態把 握・予測的観点からの”より確信的な「環境 構成」という意味合いが強くなっているとい える。同じ項目を用い、その上類似した性質 を持つ軸が出現したとはいえ、両職種で採用 される関わり方のスタイルには、行動原理の 部分で若干の相違が現れたようである。  第 3 軸に関しては、幼稚園教諭への調査と はまったく異なる内容が出現した。幼稚園教 諭に対する調査においては、上記の“働きか けのスタイル・方法”の軸の他に、(第 2 軸 として)「働きかけの対象範囲」が“個”で あるか“集団・複数要素”であるかという点 が要件となった。しかし今回のデータでは正 の方向に「園児の知的・感情的・意欲的発達 を促す関与のあり方」(知育)が示され、負 の方向に「コミュニケーション上の発育」(「社 (31) (28) (16) (34) (37) (29) (1) (7) (30) (3) (26) (11) (13) (14) (36) (23) (18) (4) (9) (5) (21) (6) (12) (10) (32) (8) (19) (20) (15) (25) (35) -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 㻙㻝㻚㻡㻌 㻙㻝㻌 㻙㻜㻚㻡㻌 㻜㻌 㻜㻚㻡㻌 㻝㻌 㻝㻚㻡㻌 興味や活動を引き出す 働きかけ 社会性の発達を促す援助 個と集団の関係性の参照 主体性の尊重 環境構成 知 育㻌 㻌 育 み た い 内 容 の 方 向 性 (Y 軸 )㻌 㻌 社 会 性 園児の周辺環境の把握㻌←㻌 関わり方のスタイル・方法(X軸)㻌 →㻌 計画性・企図性のある積極的な支援 Figure 3㻌 :保育所保育士データにおける数量化Ⅲ類㻌 カテゴリースコアの散布図㻌 (共通31項目) Figure 3:保育所保育士データにおける数量化Ⅲ類 カテゴリースコアの散布図(共通 31 項目) (31) (28) (16) (34) (37) (29) (1) (7) (30) (3) (26) (11) (13) (14) (36) (23) (18) (4) (9) (5) (21) (6) (12) (10) (32) (8) (19) (20) (15) (25) (35) -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 㻙㻝㻚㻡㻌 㻙㻝㻌 㻙㻜㻚㻡㻌 㻜㻌 㻜㻚㻡㻌 㻝㻌 㻝㻚㻡㻌 興味や活動を引き出す 働きかけ 社会性の発達を促す援助 個と集団の関係性の参照 主体性の尊重 環境構成 知 育 㻌 㻌 育 み た い 内 容 の 方 向 性 ( Y 軸 ) 㻌 㻌 社 会 性 園児の周辺環境の把握㻌←㻌 関わり方のスタイル・方法(X軸)㻌 →㻌 計画性・企図性のある積極的な支援 Figure 3㻌 :保育所保育士データにおける数量化Ⅲ類㻌 カテゴリースコアの散布図㻌 (共通31項目)

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会性」の養育)や、「集団や社会的な要素を 意識した保育」が出現する形となり、“教育 しようとする内容の方向性”がこの第 3 軸に 示されたといえる。そしてこれらの正負の領 域を結ぶように、第Ⅰ、第Ⅳ象限に跨る座標 軸付近に“言葉に関連する項目”(第 7、20、 30、35、37 項目など)が集結しているのは 興味深い現象である。  このように項目のまとまりをカテゴリー化 して検討できるのが数量化Ⅲ類の利点である ので、続いてFigure 3 における同データのま とまりのよさを視認した。するとまず、第Ⅰ 象 限 を 中 心 に 第 5、6、7、11、12、15、19、 20、25、28、30、31 項目がまとまり、知育 的な「①興味や活動を引き出す働きかけ」と いうにふさわしいカテゴリーが見出された。 また第Ⅱ象限を中心に、第 10、14、21、34 項目が近接していた。これらの項目は園児の 現在の状態を捉えた上で、教育的な観点から 環境を構成しようとする内容であることか ら、「②環境構成」として括ることにした。 第Ⅲ象限を中心とするエリアには第 4、8、 26、32 項目が存在し、「③個と集団の関係性 の参照」をした上で、適切な保育を行おうと する姿勢が示されていた。本カテゴリーは第 Ⅲ象限に在ることで、把握しようとする内容 が「②環境構成」よりも、より対人関係性の 強いものになっている。第Ⅲ象限と第Ⅳ象限 に跨る形で第 9、13、16、18、23、29 項目を 括ると、園児が何らかの社会的葛藤に直面し た際に適切且つ積極的な励ましを与えること で「④社会性の発達を促す援助」を行う様子 が浮かび上がってきた。そして原点周辺に第 1、3、37 項目がまとまり「⑤主体性の尊重」 というカテゴリーが出現し、すべての関わり の中心あるいは根源に、園児の主体性を育む 姿勢が存在することが窺い知れた。  双方ひとつの軸の持つ意味が完全に異なる 2 正負の感情や考えを、適切な形で 23 13 1.5 積 極 的 正負の感情や考えを、適切な形で 表現するための指導・支援 16 23 3 9 1 極 的 関 与 実態の把握 16 4 29 26 18 3 0.5 1 働 き か 園児の自発的な発見を促 すための投げかけ 実態の把握 1 7 4 29 26 19 18 36 10 0.5 き か け の ス タ 園児の自発的な発見を促 すための投げかけ 1 34 31 30 21 19 37 6 36 8 20 32 15 10 12 0 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 の ス タ イ ル ・ 方 34 11 30 14 21 6 28 8 20 32 15 -0.5 ル ・ 方 法 ( Y 環境整備による支援 11 5 14 28 35 25 -1 ( Y 軸) 5 -1.5 環 境 整 備 複数要素 ← 働きかけの対象範囲 (X軸) →単数要素 -1.5 整 備 的 支 援 複数要素 ← 働きかけの対象範囲 (X軸) →単数要素 Figure 4 : 幼稚園教諭データにおける 支 援 Figure 4 : 幼稚園教諭データにおける 数量化Ⅲ類 カテゴリースコアの散布図(31項目) 秋山(2011)より再掲 2 正負の感情や考えを、適切な形で 23 13 1.5 積 極 的 正負の感情や考えを、適切な形で 表現するための指導・支援 16 23 3 9 1 極 的 関 与 実態の把握 16 4 29 26 18 3 0.5 1 働 き か 園児の自発的な発見を促 すための投げかけ 実態の把握 1 7 4 29 26 19 18 36 10 0.5 き か け の ス タ 園児の自発的な発見を促 すための投げかけ 1 34 31 30 21 19 37 6 36 8 20 32 15 10 12 0 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 の ス タ イ ル ・ 方 34 11 30 14 21 6 28 8 20 32 15 -0.5 ル ・ 方 法 ( Y 環境整備による支援 11 5 14 28 35 25 -1 ( Y 軸) 5 -1.5 環 境 整 備 複数要素 ← 働きかけの対象範囲 (X軸) →単数要素 -1.5 整 備 的 支 援 複数要素 ← 働きかけの対象範囲 (X軸) →単数要素 Figure 4 : 幼稚園教諭データにおける 支 援 Figure 4 : 幼稚園教諭データにおける 数量化Ⅲ類 カテゴリースコアの散布図(31項目) 秋山(2011)より再掲 Figure 4:幼稚園教諭データにおける数量化Ⅲ類 カテゴリースコアの散布図(共通 31 項目) 秋山(2011)より再掲

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) 中での座標化であるため、秋山(2011)1) の 際のまとまり(「①園児の自発的な発見を促 すための投げかけ」、「②環境整備による支 援」、「③実態の把握」、「④正負の感情や考え を適切な形で表現するための指導・支援」) とは異なる結果が出現したのはむしろ当然の ことなのだが、立ち現れた集合体の性質には 似通った点も認められた。特に保育士の場合 においても「⑤主体性の尊重」と「①興味や 活動を引き出す働きかけ」とは座標軸上でと りわけ近接しており、幼稚園教諭の「①園児 の自発的な発見を促すための投げかけ」の持 つ意味合いを強く想起させることとなった。 園児たちに主体的な発見や活動の喜びを実感 させることを重視して働きかけが選択されて いる点などでは、両職種の間に通底するもの があるといえよう。 3.クラスター分析  さらに今回実施項目間の関係性を把握し明 瞭に分類することで、学生用「幼児教育職務 実践力尺度」の改良を図るため、◎印の数に 過不足のあったデータを除外した 138 名分の データに対し、回答が過半数を越えた 43 項 目の各得点を、◎印を 2 点、○印を 1 点とし た上で Z 値変換し、ウォード法によるクラ スター分析(点間距離測法は平方ユークリッ ド距離)を行った。クラスターの生成状況お よび解釈可能性を吟味した結果、今回項目は 再調整された距離クラスター結合を 10 ポイ ントでスライスし、次の 6 群に分けることが 内容的に妥当であると知れた(Figure 5)。  まず 1 つ目のクラスターは「(Ⅰ)園児と 集団の実態を把握した上で、環境を整える技 能〔10 項目〕」であり、これは園児個人はも ちろんのこと、園児の所属するクラスや友だ ち集団、あるいは周辺環境としての保護者の 状況にまで目を配り、適切な環境調整を行な う力である。明確に限定できるものではない が、「保育所保育指針」6) 第 3 章「保育の内容」 の「(1)養護に関わるねらいおよび内容」「(2) 教育に関わるねらいおよび内容」(以下、ま とめて「保育内容」6) とする)における「環 境」に該当する項目が多く含まれており、ま た秋山(2011)1) との対比では、「②園児の 状態を把握する力」と「⑤環境を構成する力」 に分類されていた項目を含んでいた。  2 つ目のクラスターは「(Ⅱ)関係性・信 頼性に関する技能〔4 項目〕」であり、保育 内容や対人面における関係性を重視し、園児 に対してもその発育を促す関わりを心がける ものである。「保育内容」6) では「人間関係」 が該当し、秋山(2011)1) の「②園児の状態 を把握する力」、「③園児の主体性や自己表現・ 解決能力を励ます力」、「⑤環境を構成する力」 の項目が混在しており、これらの職務実践力 が含有する“関連性”に関わる要素が抽出さ れた形になったといえる。  3 つ目のクラスターは「(Ⅲ)園児の主体 性や潜在能力を引き出す力〔10 項目〕」と命 名した。園児が表に出しそびれている主体性 や潜在的な能力を、助言や働きかけを通じて 引き出す力である。「保育内容」6) と関連づ けると、「表現」および「環境」が該当する。 本クラスター項目は、秋山(2011)1) の「① 積極的に働きかけて、園児に潜在している能 力・活動を引き出す力」と「③園児の主体性 や自己表現・解決能力を励ます力」、「④教育 的人的環境となる力」の項目から構成されて いる。  4 つ目のクラスターは「(Ⅳ)対人感情や 対人技術を育てるための働きかけ〔4 項目〕」 であった。園児が自他の気持ちを大切にし、 その実行のために必要な方法を体得できるよ うに教え励ます力である。「保育内容」6) では、 「情緒の安定」と「言葉」に関連する要素が 多く、秋山(2011)1) での「③園児の主体性 や自己表現・解決能力を励ます力」の中の、 葛藤状態における適切な自己表現を促す項目 で主に構成されている。

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 5 つ目のクラスターは「(V)情報・衛生・ 安全管理に関する注意〔6 項目〕」全般に関 わるものであり、これには正確な情報伝達の ために求められる正しい言葉遣いを教えるこ とや、安全確保に必要なルールの周知などの ような、それぞれの土台教育を促す姿勢も含 まれている。「保育内容」6) では、「生命の保 持」に関わる項目であるといえよう。秋山 (2011)1) では「④教育的人的環境となる力」 に含まれていた項目が多いが、新規に付加し た項目の割合も高い。  6 つ目のクラスターは、「(Ⅵ)園児のコン       Figure 5:保育 所保育 士のデ ータに よるク ラスタ ー分析 ( ウォ ード法 :平方 ユーク リッド 距離) の結果 ( 14 )生活の 流れや園 児の 実態から 環境 の構成が でき ること。 ( 21 )園児の 活動に応 じて 環境を再 構成 すること がで きること 。 ( 34 )園児の 実態(興 味や 関心、発 達の 状況など )を 踏まえた 環境 を構成す るこ と。 (4)ク ラス が集団と して どのよう に変 容し、人 間関 係がどの よう な状態に ある かを捉え てい ること。 (8)個 と集 団の関係 性に 留意した 園児 の活動を 予想 すること 。 ( 47 )保護者 の心理的 ・環 境的状況 に配 慮しなが ら、 適切な保 育指 導を行う こと 。 ( 42 )同僚間 で、個々 の園 児の育ち につ いて日頃 から 話し合い をし ておくこ と。 ( 10 )園児の 知・情・ 意の 変化を捉 えて いること 。 ( 44 )適宜、 指導計画 の評 価・改善 を行 うこと。 (1)園 児が 自分で活 動を 展開し、 ねら いを達成 して いけるよ うな 援助を工 夫し て考える こと 。 ( 26 )家庭や 社会生活 環境 との関係 性を 視野に入 れた 保育をす るこ と。 ( 36 )保育内 容5領域 が、 相互に関 連し て園児の 発達 をもたら すこ とが理解 でき ているこ と。 ( 16 )園児が 場面に応 じて 、自分の 思い をはっき り表 現・主張 した り、自分 の感 情を抑え たり すること を学 習するよ う、 励ますこ と。 ( 43 )園児が 情緒の安 定し た生活を 送れ るよう、 園児 との信頼 関係 の構築に 努め ること。 (3)園 児が 主体的に 取り 組んでい るか どうかを 見極 め、その 姿を 励ますこ と。 (7)絵 本読 みや言葉 遊び などを通 し、 言葉の楽 しさ や美しさ を園 児に知ら しめ ること。 ( 15 )アイデ アを提供 する ことで、 園児 の新たな 活動 を引き起 こす こと。 ( 20 )園児の 想像力を かき たてるよ うな 助言をす るこ と。 ( 25 )率先し て環境に 関わ り園児の 活動 を引き起 こす こと。 ( 19 )疑問を 投げかけ 、園 児の探求 心を 引き起こ すこ と。 (5)季 節や 行事に合 った 曲などが ピア ノで弾け るこ と。 ( 11 )園児 が 楽しく進 んで 身体を動 かし たくなる よう な雰囲気 作り がうまい こと 。 ( 31 )園児に 対し、表 情豊 かに関わ るこ と。 ( 35 )園児に 対し明瞭 で十 分な声量 で声 かけをす るこ と。 ( 18 )園児が 友達の気 持ち に気づく よう 、ヒント を与 えること 。 ( 23 )園児に 自分の気 持ち を伝える 適切 な表現の 仕方 を教える こと 。 (9)友 達と の間で引 き起 こされる 対立 や葛藤か らの 立ち直り を励 ますこと 。 ( 13 )園児が 自分の気 持ち を言葉で 表現 できるよ う根 気のよい 働き かけをす るこ と。 ( 30 )正しい 言葉を使 用す る手本と なる こと。 ( 48 )個人情 報の取り 扱い に細心の 注意 を払うこ と。 (6)物 の性 質への興 味・ 関心を引 き出 すような 言葉 がけをす るこ と。 ( 28 )衛生管 理が適切 であ ること。 ( 29 )きまり の大切さ を園 児に自覚 させ ること。 ( 41 )安全管 理に細心 の注 意を払う こと 。 ( 38 )登園時 ・降園時 に、 保護者と 園児 の様子に つい て十分な 情報 の交換を する こと。 ( 40 )保護者 の悩みや 心配 事に対し 、じ っくりと 相談 にのるこ と。 ( 39 )園児の 園内外で の生 活リズム に関 心を払う こと 。 ( 45 )園児の 欲求の所 在を 的確に把 握す ること。 ( 32 )前日ま での園児 の姿 を読み取 って いること 。 ( 17 )園児が 自分の身 体を 大切にす るよ うに、指 導す ること。 ( 46 )園児や 家庭の食 育を 推進する こと 。 ( 12 )散歩の 機会など を活 かし、自 然の 大きさや 美し さを園児 に知 らしめる こと 。 ( 37 )顔色や 様子が気 にな る園児に 対し 、声をか ける こと。 園児と集団の実態を把握した上で環境を整える技能 関係性・信頼性に関する技能 園児の主体性や潜在能力を引き出す力 対人感情や対人技術を育てるための働きかけ 情報・衛生・安全管理に関する注意 園児のコンディションへの関心 Figure 5:保育所保育士のデータによるクラスター分析(ウォード法:平方ユークリッド距離)の結果

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) ディションへの関心〔9 項目〕」であり、園 児の登園中のみならずそれ以外の生活全般に 対する熱心な興味によって構成されている。 このため、保護者に対する働きかけや、家庭 での食育推進に関わる項目も、このクラス ターに分類されている。「保育内容」6)では「健 康」と、「生命の維持」に該当し、新規付加 項目が中心となって構成されたクラスターで ある。  今回、項目が追加されたことでクラスター 構造は秋山(2011)1) と比べると当然に改変 された。内容的には「保育内容」6) の各領域 がほぼ網羅され、比較的バランスの良い構成 に落ち着いたといえよう。現場視点を反映し た項目の追加・選別・分類というこの一連の 作業によって、学生あるいは養成者が幼児教 育職務実践力に対して持つべき着眼点は精査 され、より多角的になったと考えられる。た だその一方で、学生が自己の実習経験を省み る際のツールとしての用途を考える時、限ら れた実習期間中の経験の量や幅を鑑みると評 価対象にしづらい項目も含まれていることは 否めず、引き続き学生を対象とした数段階の 精査が必要であろうと考えられる。 まとめ  本研究は「幼児教育職務実践力尺度」の内 容を、より広範な場面で通用するものに改良 すべく、幼稚園教諭を対象とした秋山(2011) 1)の追研究として、保育所保育士に対し、検 討項目を追加した上で、郵送法による調査と 解析を行ったものである。  現職の保育所保育士に、彼らが日頃重視し ている幼児教育職務実践力を表している項目 に印をつけてもらうよう依頼し、調査紙返送 分の過半数を超えて回答された項目を選抜す ることで重要な項目を抽出した。この作業に よって棄却された項目は幼稚園教諭のデータ 結果とわずか 1 項目を除いて一致しており、 これらの合致した 5 項目は以後の解析と尺度 構成から外すことにした。  さらに両職種の認識の相違を確認するた め、今回追加項目・棄却項目を除く比較可能 な 32 項目に対し、出現頻度数を母集団の人 数を鑑み調整した上で、χ2検定を行った。 その結果、ピアノに関する 1 項目については 幼稚園教諭のほうが有意に高い値を示した が、他に有意差の出た 8 項目については、長 時間保育中の教育要件の多さが反映されたの か保育士のほうが高い値を示した。  次いで、秋山(2011)1) と比較可能な 31 項目(注 4) に対し数量化Ⅲ類による解析を実 施した。その結果、第 3 軸までに有用な解釈 可能性が示された。第 1 軸は秋山(2011)1) と同様に、印の有無すなわち項目の重要性を 弁別する軸として出現した。第 2 軸は“関わ り方のスタイル・方法”(計画性・企図性の ある積極的な支援-園児の周辺環境の把握と それに応じた環境構成)を表わしており、こ れは幼稚園教諭のデータを解析した際にも (第 3 軸として)出現したものであった。ま た第 3 軸は“育みたい内容の方向性”(知育 -社会性)を表わしていることが知れた。さ らに第 2 軸と第 3 軸を座標化した際の項目同 士のまとまりのよさを視認したところ、「① 興味や活動を引き出す働きかけ」、「②環境構 成」、「③個と集団の関係性の参照」、「④社会 性の発達を促す援助」、「⑤主体性の尊重」の 5 つのカテゴリーが確認できた。幼稚園教諭 のデータとは軸の含意自体が異なるため、項 目のまとまり方も異なって然りだが、それで も、関連性の高い項目は近接する傾向があり、 両職種に通底する職務実践力の存在が窺われ た。  そして本研究には、教育・保育実習を終え た保育者志望学生に自身の幼児教育職務実践 力をセルフモニタリングさせるための評価用 紙を改良するという目的も存在するため、今 回実施の項目の関連性を端的にまとめること を狙い、現職の保育所保育士に重視された

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43 項目に対しクラスター分析を行った。そ の結果、「(Ⅰ)園児と集団の実態を把握した 上で、環境を整える技能」、「(Ⅱ)関係性・ 信頼性に関する技能」、「(Ⅲ)園児の主体性 や潜在能力を引き出す力」、「(Ⅳ)対人感情 や対人技術を育てるための働きかけ」、「(Ⅴ) 情報・衛生・安全管理に関する注意」、「(Ⅵ) 園児のコンディションへの関心」の 6 群が得 られた。項目の追加があったこともあり、ク ラスター構造が秋山(2011)1)に比し幾許か 改変された一方で、凝集性の高い項目グルー プの存在と「保育内容」6) との関連性が確認 でき、より多角的な視点を含む尺度が得られ た。  最後に、今回調査の末尾に任意の記述を依 頼した、自由記述欄の結果について触れてお く。54 名(返送数の 34%、平均保育経験年 数 24.5 年)より、養成校への要望も交えた種々 の所見が寄せられた。主として、回答者の考 える幼児教育職務実践力の要義・要件が記さ れており、その多くが「保育技術的なことよ りも、人間性や意欲、基本的コミュニケーショ ン能力、信頼関係を築く能力等を重んじる」 という内容であった。また全記述数の半数以 上(52%)に、これら(上記の「人間性」以 降の部分)を在学中に学生に体得させて欲し いという要望や期待が記載されていた。同様 の 傾 向 は、 幼 稚 園 教 諭 か ら の 回 答( 秋 山 2011)1) にも認められたことであり、採用直 後の新卒保育者に職務を任せるにあたり、後 進指導にあたるベテラン職員が、いかにこれ らに纏わる指導に苦労し、養成校にその指導 を期待しているかが窺い知れた。また「保育 技術に関することは現場経験により徐々に身 につけることが可能であるので、在学中はむ しろ保育理論や、保育行動への理由づけを行 うための手法を学ぶべきである」という指摘 も複数見られた。然るに奥山・山名(2006) 10) が指摘するように、学生や新任期の保育 者の関心が、むしろ保育技能の習得に集中す るのもまた現実であり、それらは新人が実際 に保育を行う際に直面する不安に依拠するだ けでなく、これまでの日本の保育者養成教育 が具体的な技能を習熟させることに重きを置 いてきたこととも無縁ではない。保育者養成 校においては、実践に概念的な根拠が必要で あるということを、理論的教科だけでなく、 技術的教科においても一層強調することが不 可欠であろう。実際、今回調査で回答を収集 した項目においても、回答可能性度数(157) の上位 25%を超える度数(120)を数えた項 目のほとんどは、保育技術の有無に依存する ものではなく、子どもの発達あるいは保育全 体を眺めて初めて実践できるものばかりで あった(Figure 1 参照)。またこの他にも自 由記述には、社会現象・社会情勢への関心や、 これに関わる情報収集力の重要性も記されて おり、こうした大局的視野を持つことが、長 期的に、且つ責任を持って保育を実践できる 保育者の要素として求められることが改めて 確認されたといえる。  こうした自由記述欄での傾向だけでなく、 幼稚園教諭からの指摘によって追加された項 目が保育士にも重視されていることをも含 め、総じて言えるのは、経験豊かな現職保育 職務従事者が重視する内容は共通性が高く大 局的だということである。特に稿者のような 両資格を付与する養成校に勤務する教員は、 この現実を学生にも一層知らしめ、志望職種 のいずれを問わぬバランスの良い教育職務実 践力を身につけることの重要性を説き、彼ら を現場に臨ませねばならないだろう。また稿 者としては、本研究における諸々の結果を学 生に詳説することで、保育現場でいかに多様 で広範な実践的能力が必要とされ、また在学 中に何を学んでおくべきかということに改め て注目させたい。従って、今回調査の結果は、 学生に講義中で知らしめるとともに、学生の 自己到達度評価に用いる指標の改良にも活用 し、理念と手法の両方から彼らの眼前に提供

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現場で求められる幼児教育職務実践力とは?(2) する予定である。 注 (注 1)「経済財政運営と構造改革に関する基 本 方 針 2003」 平 成 15 年 6 月 27 日( 閣 議決定) (注 2)平成 21 年のデータは公表されていな い。 (注 3)調査依頼をした保育所には「保育園」 の名称を冠するところも多いが、本稿中 では法律上の呼称である「保育所」で統 一して表記する。 (注 4)幼稚園教諭におけるデータ(秋山  2011)1)では第 17 項目は半数を獲得で きなかったので、数量化Ⅲ類での分析に おいては双方において共通して残留した 31 項目を解析の対象にした。 (注 5)主著者アルファベット順 引用文献(注 5) 1)秋山真奈美 2011 現場で求められる幼 児教育職務実践力とは?:幼児教育職務実 践力尺度の作成を通して . 佐野短期大学研 究紀要 ,22,129-142. 2)秋山真奈美 2012 授業内における幼児 教育職務実践力尺度の施行と、学生のセル フモニタリングについて:授業経過報告と して . 佐野短期大学研究紀要 ,23,103-115. 3)川俣美砂子 2010 幼稚園教諭のキャリ ア形成に関する研究 . 福岡女子短期大学紀 要 ,73,45-53. 4)北野幸子 2009 ケア・教育・子育て支 援 を 担 う 保 育 士 養 成 の 課 題 . 社 会 福 祉 学 ,50,123-133. 5)木村直子・橋川喜美代 2008 「保育実践 力」尺度作成に関する研究:保育士・幼稚 園教諭養成校教員の考える保育実践力を手 がかりに . 保育士養成研究 ,26,33-38. 6)厚生労働省 2008 保育所保育指針 . 7)三野靖 2011 保育の提供手法の比較検 討 . 自治総研通巻 ,389,23-52. 8)文部科学省 2009 幼稚園教育要領 . 9)文部科学省初等中等教育局幼児教育課  2008 ~ 2012 平成 18 ~ 22 年度幼児教育 実態調査 .(注 2) 10)奥山順子・山名裕子 2006 求められる 保育者の専門性と大学における保育者養 成:保育者志望学生の意識と養成教育の役 割 . 秋田大学教育文化学部教育実践研究紀 要 ,28,119-132. 謝 辞 本研究にあたり、ご多忙の中、調査にご協 力いただきました保育所の先生方に、心より 御礼申し上げます。

Figure 1: 保育所保育士に対する48項目の内容と回答数4217 2 4 17 92 19 79 11 2 38 20 27 3 45 0 1 37 15 15 31 0 17 2 0 12 1 14 5 4 11 8 36 2 11 178 15 12 11 6 9 5 9 12 15 1 36 9511588879857111701109510611592798931971011161041095997865110261969895111859495106929710291101881189180

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