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ホルモン注射による養成雌ブリの成熟と排卵の促進

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Academic year: 2021

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(1)

ホルモン注射による養成雌ブリの成熟と排卵の促進

楳 田  晋・落 合

  (農学部附属水産実験所)

On the Acceleration of Maturation and Ovulation   of the Yellowtail Cultured in the Floating Net       by the Injection of Hormone

        Susumu Umeda and Akira OCHIAI

        Fisheries Itistitt↓tion、Faculり好Agriculture

      Abstract

 The present study was performed to obtain fundamental information on the artificialovu-lation of the yellowtail cultured in a narrow floating net set in the coastal areas during three

to six years. Gonad index, egg diameter and histology of gonad were examined after intra-muscular injections of saline solution of Gonatropin and Synahorin had done. It was found that Gonatropin was effective for the acceleration of maturation and ovulation. Two of eleven fishes tested were successfully ovulated after 400 MU in total dosage ir!jected twice for four days. The ovarian tissue of the ovulated fishes contained various stages of germ cells 仔om oogonium to ripe, empty folliclesand atretic oocytes. Some of the ovulated eggs were fertilized and hatched out in an acrylic aquarium with non-circulated sea water. The newly hatched larvae ranged from 2.4 to 3.0 mm. with a mean 2.8 mm in total length. The eleven examples injected by Synahorin do not ripened.

       緒     言

 最近,ハマチ養殖用の種苗としてモジャコを大量に採捕するため,ブリの資源が減少傾向にある

と言われている1).このような状勢の中でブリの種苗生産は実験的段階から実用段階に発展し2

3),

ハマチ養殖に大き座変革をもたらナとともに天然プリ資源の保護手段としても重要性を増してきた.

 ブリの産卵盛期と目される4月には殆んどすべての養成雄ブリは完然している.しかし,雌魚で

はふつうの状態で飼育すると完熟しない4).そこで産卵促進用のホルモン注射により養成ブリを完

熟させ,これから人工採卵する試みが痙され,かなりの成果をあげつつある5).筆者らも376年間

ふつうの状態で養成されたプリを用いて,ホルモン剤,ゴナトロピンの成熟促進・人工採卵の効果

を比較検討し若干の知見を得たのでここに報告する.

 報告に先立ち,資料を提供された瀬戸内海栽培漁業協会上浦事業場鵜川正雄氏と高知県宿毛市浜

田繁栄氏,資料確保に協力いただいた水産庁第二課と高知県水産試験場長高田和氏に心より厚くお

礼を申し上げる.なおヽ,この研究は昭和44年,45年度文部省科学研究費(試験研究)の一部によっ

て行なわれたことを付記する.

       実験材料と方法

 大分県上浦町津井地先と高知県宿毛湾で3-6年間にわたってふつうに養成され,

1970年3月26日

から同年5月9'日まで高知県土佐市宇佐町の高知大学水産実験所前の海面いけナ網へ移された44尾

の養成ブリの中,雌雄不明の22尾を選んで供試魚とした(Table

1).

(2)

3 0

高知大学学術研究報告  第20巻  農’学  第3

Table l.j私心 「ity culturedand nu励,rび回脚画む・ajjりhee・xperiment

Name of

hormone

Age

Locality

cultured

・ Number of

 material

Synahorin

3 4 6

 Sukumo

(Kochi Pref,・)

 Tui

(Oita Pre£)

  Tui

(Oita Pref.)

2 4 5

Gonatropin

3 4 6

 Sukumo

(Kochi Pref.)

  Tul

(Oita Pre£)

  Tui

(Oita Pref.)

2 5 5  使用したホルモン剤は帝国臓器K.K.のシナホリン*とゴナトロピン**である.これらの魚体へ の1回の投薬量は魚体重kg当りシナホリンで150マウス子宮重量単位,ゴナトロピンで200マウ ス子宮重量単位である.これらのmを0.5-1 ml の生理的食塩水の中へ1尾分溶かしてブリ背側筋 肉へ注射した.なお,魚体への注射時には麻酔処理を行なわなかった.  実験では,供試魚22尾を2群に分け,5月9日に1群ヘシナホリンを他の1群ヘゴナトロピンを それぞれ所定m投与し,投与後2日経過(5月11日)して再び前回と同量の注射を各群へ行在い, 成熟促進ならびに排卵の状態を調べた.その後,排卵された卵を乾導法により人工受精をし発生過 程を観察した.  受精用の雄魚は体長88.2 cmの満6年魚で精巣重n 27.4g (生殖腺指数0.4)ときわめて軽かっ た.腹部切開により精巣を摘出し精液をとり出した.この精巣には小葉の中心部や精巣腔に若干残 存精子がみられ,小葉壁周辺には精原細胞と喰細胞とが混在していた.また,小葉は小さく,垂直 径で0.05mm前後であり,小葉壁は肥厚し,その中に間質細胞が多数分布していた.  生殖腺の成熟状態を知るため,生殖腺の肥大状態・生殖腺指数6)・卵径おヽよび組織像などを調べ た.組織像は常法に従って5-10μのパラフィン切片を作りエオシンとヘマトキシリンで二重染色 した.卵形成の各期は山本7)の方法に準拠して呼び分けた.なおヽ,実験中の飼育水温は18.7-19.3°C であった.        結     果  ホルモン剤シナホリンとゴナlヽロピンが3-6年間養成されたプリの成熟促進ならびに排卵に効果 があるかどうか比較検討したところ,ゴナトロピンに効果がみられた.  第1回ホルモン注射後2日経過して実験魚の下腹部を指圧したが,排卵・排精する個体はみられ なかったにしかし,この際ゴナトロピン注射群の2尾(体長91.0 cm ・ 68.2Cm)だけ下腹部が顕著 に膨出して柔軟であった.第2回注射後2日経過して再び実験魚の下腹部を指圧したところ,第1 回注射後に発見された下腹部膨出個体の2尾から排卵がみられた.残り20尾はいずれも下腹部が堅 くて排卵しなかった.  排卵した2尾の卵巣の肥大状態をみると,体長91. 0 cmの個体で最大卵群の卵径モードは 1. 20 mm,卵巣重量は332 9, 生殖腺指数4.4とやや軽かった.また,体長68.2 cmの個体でも最大 卵群の卵径のモードは1.12 mm,卵巣重量は153 g と やや軽く,生殖腺指数は4.8であった. * Synahorin: 哺乳動物の脳下垂体と胎盤を原料とした生殖腺刺激ホルモン剤で,脳下垂体  前葉性のものと胎盤性のものを1:9の割合に配合してある. ** Gonatropin: 哺乳動物の胎盤を原料とした生殖腺刺激ホノレモン剤である.

(3)

ホルモン注射による養成雌ブリの成熟と排卵の促進(楳田・落合) 31

 卵巣の組織像をみると,両個体とも卵原細胞から完熟卵まで各発生段階の生殖細胞がみられ,さ

らに,卵巣の退行現象を表わすatretic

oocyte や排卵後の跡を示すempty

follicle

が観察された.

 これらの卵細胞のうち完熟卵は核が消失し,卵全休に大小の卵黄塊が多数みられた.また,卵膜

は二重構造を失恋い輪走する条線が数本観察された.卵膜の厚さはおよそ6μでエオシンに濃染さ

れた(Fig. lA).胚胞移動期に相当する卵母細胞では楕円形の核は卵母細胞の周辺部に移動し,核周

辺に若干の仁が存在した.細胞質は卵黄球で充満されていたが,卵母細胞の中心部のそれらは大型

でヘマトキシリン,エオシンの両色素に対する親和性が薄かった.卵膜は二重構造を示し,外層は

エオシンに濃染され,厚さおヽよそ2.4μ,内層はエオシンに薄染され,厚さ9.6μであった(Fig.

IB).

Fig. 1 Cross section of yellowtail with injection of Gonatropin.

A, Fully ripe egg- B, Oocyte in migratory yolk stage.

 ×60. From an example, 91cm in folk length with gonad

332 g in weight taken on Mayl3, 1970.

 Empty

follicleでは外形が球状のものから複雑に摺曲した袋状のものまでさまざまみられ,これ

らの輪郭はいずれも義膜でふちどられており,濾胞上皮細胞は全くみられない.      ’

 Atretic oocyte はさまざま在吸収状態にあるものが観察されたが,いずれも卵黄球期に発達した

卵母細胞にのみみられた.吸収初期では核の消失と卵膜の部分的な切断が特徴的であるほか,卵膜

も顕著に肥厚していた.なあヽ,爽膜と卵膜の間に喰細胞が観察され濾胞上皮細胞の存在は明らかで

在い.これらの喰細胞は楕円形の核を持ちその中に1個の大きな仁がある.さらに,吸収か進行す

ると卵膜も消失し,義膜と卵膜の消失した卵母細胞の間に多層状に多数の喰細胞がみられ,卵母

細胞の輪郭は不明瞭となる.吸収し尽された卵母細胞ではempty

follicleのよう痙外形と左るが,

empty follicleと異なり爽膜の周辺に喰細胞が接着していた.

 一方,全く排卵されなかったシナホリン注射群の1個体(体長78.1

cm)では,下腹部は小さく

(4)

32 高知大学学術研究報告  第20巻  a  学・ 第3号

て硬い.卵巣も軽くて30

9,生殖腺指数も0.8と極めて小さかっすこ.卵巣の組織像は染色仁期と周

辺仁期の卵母細胞が卵巣薄板中にみられるのみであった.

 体外へ排出された卵は籾殻状で内容物のないものや卵黄物質が白濁して外観が白っぽく球状のも

のか大半であったが,卵の中心部にのみ白濁斑のあるもの,透明に近いか若干黄色味を帯び顕微鏡

でみると大小の油球が数個卵内に散在しているもの,透明で卵内に油球1個をもち卵が真円状のも

のも若干みられた.

 これらの卵に精液を混ぜたところ媒精後1時間30分経過して水面へ浮上した卵めごく一部か2細

胞期に発生していることが観察された.この時の浮上卵の総数は約5万粒と目測されたが,大部分

のものが白濁した卵で卵割は行左われていなかった.しかし,ごく少数(約1-2%)の透明か透明

に近い状態の卵には卵割か認められた.その後,受精後5時間を過ぎて桑実期に達したが,この時

期で大部分の発生卵が発生を停止した.この桑実期を越えた卵はその後,殆んど諏死せずに発生が

進み,受精後,

61.5時間を経過してふ化を始めた.ふ化開始から完了までの時間は約12時間であっ

ふ化直前の卵のふ化率は90%(500尾),奇形串は5596

(275尾)であった.ふ化直後の仔魚の全

た.長は2. 4-3. 0 mm

(10尾測定)で平均2.

8 mmであ?た.

       考     察

 筆者ら4)は養成ブリの卵巣か4月から5月上旬にかけて第1-3次卵黄球期に相当する成熟状態に

発達したものと吸収過程にあるものとからなることを報告した.実験開始時(5月9日)における

供試魚の雌も同様の状態にあると思われる.

 本研究に用いたゴナトロピンは元来排卵を促進し成熟には直接的な作用を及ぼさない.ところが

本研究ではゴナトロピンによって明らかに成熟促進がみられ,少なくとも卵黄球期に相当する成熟

状態に発達した卵母細胞から完熟卵へと発達した.これは石田ら8)も指摘しているように投与した

ゴナトロピンが二次的に成熟促進ホルモンの分泌を促したためと考えられる.本研究ではゴナトロ

ピンにより排卵された卵は受精・ふ化したか,その後の生残状態が思わしくなかった.このことが

クロダイでいわれているゴナトロピンの難点9)であるかどうかを確かめる目的で,高知県古満目産

の天然ブリ1o)を用いて養成ブリで行なった実験をくり返したところ,シナホリン,ゴナトロピンい

ずれの排卵方法によってもふ化率や奇形率に有意痙差か認められなかった(Table

2).ふ化後の仔魚

T a b l e 2 . O v u l a t i o 。 , h a t c h i n g a n d d φ Γ 。 l e r f r a t e s o f s p a w n i n g y e l l o w t a i l 。 l i g r a t e d t 。 瓦 。 m a m e         f i s h i n g g r o u n d . K o c h i   P u f .   b ! ! i n j e c t i o n   o f G o n a t 呻 i n a n d S y n a h o r i n   ( M a ! ! 2 7 , w a t e r         t e m p e r a t u r e 2 1 ° り

Hormone

Body

length

 (cm)

Body weight  (kg)

Dosage

 (U*)

Ovulation

Days from injection to ovulation

Hatching

rate**

  (%)

Deformed

・rate

  (%)

Gonatropin

81.267.0 7.34.4 10001000 98.091.5 51.048.8

Synahorin

71.874.2 5.55.0 833833 + +  2 ,2 91.8 92.0 33.3 78.2  * mouse unit.

** hatching rate of 100 eggs just befor hatching・

の生残について,同一親魚から得た卵で高知水試が比較実験を行痙った結果両者の間に有意の差が

なかった11).

 従来プリの成熟・産卵促進ホルモンとしてシナホリンだけが使用された2・3・5・1o).天然ブリでは人

工排卵のためにはかなり効果が大きいが,本実験ではこのホルモンを注射した11尾とも全く排卵現

象が認められなかった.供試魚の成熟や生理状態が両実験区で同じかどうか不明なので,この結果

からシナホリンよりゴナトロピンの方が成熟と排卵の促進効果が大きいとは言えない.ホルモン効

(5)

      ホルモン注射による餐成雌プリの成熟と排卵の促進(楳田・落合)       33 果を厳密に比較するには同一の親魚からとった卵巣についてインビトロな研究をする必要がある.  今回得られた仔魚は総じて活度が低かったが,これは産卵末期に実験したために生殖腺が退化し つつあり,とくに精巣の退縮がひどく残存精子を用いたためと思われる.養成ブリの場合は卵黄球 期に達するとやがて退縮しだすので人工受精は生殖腺の退縮が始まる前の最適な短期間(4月中) に行なう必要がある.天然卵では産卵期間が長く,1尾でも多回産卵するようであるが6),養成プリ では1期間中2回以上の採卵は不可能と思われる.

       要     約

 日本南部の養殖場で満3-6年間にわたりいけす網で養成されたプリの成熟促進ならびに排卵をゴ

ナトロピンとシナホリンで試みた結果,次の事項が明らかとなった.

 1.ゴナトロピンは卵黄球期にあると推定された養成雌プリに対して成熟促進ならびに排卵の効

果が認められた.

 2.ゴナトロピンの投与により完熟に達した卵巣組織には卵原細胞から完熟卵まで各発生段階の

生殖細胞がみられ,さらに,卵巣の退行現象を表わすatretic

oocyteや排卵後の跡を示すempty

f0111cleがみられた.

 3.ゴナトロピンによって排卵された卵は受精・ふ化した.プリの場合産卵促進用としてシナホ

リンのほかにゴナトロピンも有効である.

1 ) 勾両 句司 C 5   P リ 8 ) 9 )       文 東水研数理統計部・南西水研外海資源部, 番).1-99(1970)・ 原田輝雄,私信.      献 モジャコ採捕のブリ資源に及ぼす影響に関する研究(報告 長崎水試,プリの人工採苗に関する研究.昭和45年度指定調査研究会議種苗生産技術部会中間報告書. 1-22 (1970)・ 楳田 晋,落合 明,・産卵期前後における養成ブリの成熟について.魚類学雑誌(投稿中). 原田輝雄・水野兼八郎・村田 修・熊井英水・中村元二,養殖プリからの採卵人工ふ化について.日 水会秋季大会講演要旨, 20 (1967)・ 三谷文夫,ブリの漁業生物学的研究.近大農学部紀要, No. 1, 81-300 (1960)・ 山本喜一郎,海産魚類の成熟度に関する研究−n.クロガレイの雌魚の成熟度について.北水研報, 11, 68-77 (1954). ・ 石田力三・加賀竹一郎・松島昌大,生殖腺刺激ホルモン投与による魚類の成熟および排卵の促進に間 する研究−I.アユにおける適正投与量と促進効果について.淡水研報, 20 (1). 15-25 (1970). 日比谷京・笠原正五郎・平野礼次郎・佐藤英雄,クロダイの種苗生産に関する基礎的研究−Ⅲ.ホル モン剤による人工採卵.日水会秋季大会講演要旨, 28 (1964)・ 10)楳田 晋・広沢国昭・落合 明,高知県古満目漁場に来遊するブリ産卵群とシナホリンによる成熟促    進について.日水誌, 35 (5), 446-450 (1969)・ 11)広沢国昭,私信. (昭和46年9月25日 受理)

(6)

Table l.j私心 「ity culturedand nu励,rび回脚画む・ajjりhee・xperiment Name of
Fig. 1 Cross section of yellowtail with injection of Gonatropin.

参照

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