大洋州島嶼国廃棄物管理分野での日本の協力
J-PRISM (特集 太平洋島嶼国の持続的開発と国際関
係)
著者
桜井 国俊
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
244
ページ
32-35
発行年
2016-01
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003036
家派遣、沖縄とサモアで交互に実 施した広域研修、サモア・アピア の近郊タファイガタのオープンダ ンプの福岡方式による改善などを 行い、第二期では技術協力プロジ ェクトとしてサモアSPREPで の広域研修を実施した。この間に、 二国間協力でパラオ、バヌアツ、 フィジーで技術協力プロジェクト を実施した。第三期協力では広域 研修のみならず一一カ国(フィジ ー、パプアニューギニア、ソロモ ン、バヌアツ、ミクロネシア、キ リバス、マーシャル、パラオ、サ モア、トンガ、ツバル)の各国で 具体的な活動を行うJ―PRIS Mを実施中である。 筆者は二○○○年四月に沖縄大 学に赴任し、以後、沖縄をベース に熱帯・亜熱帯の島嶼における環 境問題の解決に向け取り組んでい るが、沖縄大学赴任直前の二○○ 日本は、二○〇〇年の太平洋・ 島サミットを契機に大洋州島嶼国 における廃棄物管理分野での協力 を展開し、一定の成果を上げてき た。現在に至る協力の経緯、大洋 州島嶼国における廃棄物管理の特 色、主要理念となっている3R+ リターン、日本の協力のねらい、 今後の協力課題について報告する。 ● 協 力 の 経 緯 大洋州島嶼国を対象とした廃棄 物分野の日本の協力は、二○○○ 年の太平洋・島サミットを契機と して第一期協力(二○○○~二○ ○ 五 年 )、 第 二 期 協 力( 二 ○ ○ 六 ~ 一 ○ 年 )、 大 洋 州 地 域 廃 棄 物 管 理改善支援プロジェクト(J―P RISM)の第三期協力(二○一 一~一六年)と展開してきた。第 一期では太平洋地域環境計画SP REP(在サモア)への個別専門 ○年二月に短期専門家としてSP REPに派遣され、大洋州島嶼国 の廃棄物管理の改善に日本はどの ように取り組むべきかという提言 を行った。以後一六年にわたり、 日本は大洋州島嶼諸国を対象に廃 棄物管理分野で継続的な協力を実 施し、一定の成果を上げてきた。 上述のように第一期協力では、 沖縄とサモアで交互に広域研修を 行い、またサモアのタファイガタ のオープンダンプの福岡方式によ る改善を行ったが、痛感したのは、 沖縄は亜熱帯の島であり、島特有 の廃棄物管理問題の難しさを大洋 州島嶼諸国と共有するところがあ るとはいえ、やはり先進国日本の 資金力で解決しているところが少 なくなく、沖縄の経験や技術は大 洋州島嶼国には採用しがたい面が 多々あるということである。 そこで第二期の人材育成は、沖 縄ではなく、もっぱら大洋州にお いて行うこととしたのである。そ れと同時に、二国間協力を通じて、 大洋州島嶼国のなかで様々な良い 事例GPを作っていく努力を行っ た。そのひとつがパラオにおける CDL(容器デポジット法制)の 導入である。容器が国のなかに入 ってくるときにデポジットを徴収 し、人々が使用済みの容器を集め て持ってきたときに払い戻すとい うシステムの法制化、これがCD Lである。まずパラオで導入され、 それが良い事例GPとしてミクロ ネシア諸国、さらには他の大洋州 島嶼国にも広がってきている。ま た、バヌアツのボウファ埋立地の 改善も福岡方式で実施し、南太平 洋の中心的な国であるフィジーで 学校においてゴミ教育を行うクリ ーン・スクール・プログラムを展 開した。 そして二○一一年から二○一六 年にかけての第三期は、一一カ国 を網羅する広域協力プロジェクト J―PRISMとして展開し、筆 者は国内支援委員会の委員長を務 めてきた。J―PRISMでは、 域内各国での改善を同時並行で進 めるとともに、第二期で開発した 良い事例GPの担い手を域内専門 ◤特 集◢
太平洋島嶼国の
持続的開発と国際関係
大
洋
州
島
嶼
国
廃
棄
物
管
理
分
野
で
の
日
本
の
協
力
J
-P
R
I
S
M
桜井
国俊
家として域内他国に派遣するトレ ーナー派遣プログラムや域内諸国 の廃棄物管理担当者を域内先進地 域に派遣し良い事例GPについて 学ぶ機会を提供する国外先進地配 属研修プログラムを積極的に実施 している。域内各国はそれぞれ固 有の課題を抱えるが、自然条件や 社会経済文化条件において類似す るところが少なくなく、相互に学 び合えるものが多い。J―PRI SMが目指すのは、この域内諸国 間の協力(南々協力)の組織的支 援である。 J―PRISMが進める南々協 力は、域内国際機関であるSPR EPと連携することでより効果的 に展開されている。具体的には、 SPREPが二○○五年に策定し 加盟国で採択した廃棄物管理地域 戦略をJICAの協力のもとに改 訂し、第二期期間中に新地域戦略 ( 二 ○ 一 ○ ~ 一 五 年 ) を 策 定 し た。 また現在、J―PRISMの活動 の一環としてSPREPによる次 期戦略(二○一六~二五年)の策 定を支援しており、二○一五年末 までには加盟国により採択される 見込みである。加盟各国は、地域 戦略の枠組みを踏まえつつ、自国 の戦略を定め実施しており、J― PRISMは国別戦略の策定およ びその実施の支援も行っている。 SPREPとの連携のあとひとつ の柱は、人材データベースPID OCの整備とその運用である。J ―PRISMの活動を通じて育成 された域内専門家を登録し、域内 で活用を図るためのものである。 J―PRISMは五年間の活動を 計画どおり二○一六年二月に終了 する。そこで現在、ポストJ―P RISMの活動計画の検討作業を 実施しているところである。 ● 大 洋 州 島 嶼 国 に お け る 廃 棄 物 管 理 の 特 色 J―PRISMの参加国一一カ 国のなかには、日本よりも国土面 積が大きいパプアニューギニアも 含まれているが、残りは小規模島 嶼開発途上国SIDSと呼ばれる 小さな島国である。こうした小規 模島嶼開発途上国の廃棄物管理に はどのような問題があるだろうか。 第一に指摘できるのは、ライフ スタイルが急激に変化し、それと ともにゴミ問題も変化しているこ とである。第二には、島のスペー スが非常に小さいことから、廃棄 物の最終処分地の確保が非常に難 しい。第三には、リサイクルを進 めようにも量がまとまらず、また 先進国リサイクル市場は遠隔の地 にあるため、輸送コストが制約と なって多くの廃棄物がリサイクル されずに小さな島に蓄積してしま うという問題がある。そして四番 目の問題は、これらの島々の多く が、珊瑚礁やマングローブ林など の魅力的な自然環境を有し、主た る産業の観光業の基盤となってい るが、不適切な廃棄物管理によっ て深刻な環境被害が出ていること である。 これらの問題の多くは、離島県 沖縄にも共通する問題である。図 1にみられるように、沖縄のリサ イクル率は全国のそれよりも五ポ イント以上低くなっているが、こ れは離島のハンデを示すものであ る。また沖縄も、主産業は観光業 であるが、観光客の増加は廃棄物 発生量の増加を招き、処分空間の 確保に苦慮することとなる。不適 切な処理・処分は自然環境を劣化 させ、観光地としての魅力を低下 させるというジレンマがある。大 洋州島嶼諸国は、沖縄と問題を共 有する部分が少なくなく、相互に 学びあう意義は極めて大きい。例 えば、離島県沖縄では、パラオの ようにCDLを導入し、空き缶、 ペットボトルなどの散乱ごみを防 止する必要性が高いが、沖縄県を 構成する四一自治体の足並みを揃 えることの困難性から、未だ導入 には至っていない。 大洋州島嶼諸国廃棄物管理に共 通する五番目の問題として近年急 速に大きくなりつつあるのが気候 変動による災害多発とそれにとも なって発生する大量の災害廃棄物 の管理の問題である。近年大洋州 諸国では明らかに気象災害が起き やすくなっており、災害が起きる 図1 沖縄のごみ処理量とリサイクル率 ごみ処理量(沖縄) 資源化量(沖縄) 全国のリサイクル率沖縄のリサイクル率 ︵左軸︶ ︵右軸︶
た び に 多 量 の 災 害 廃 棄 物 が 発 生 し て い る。 災 害 廃 棄 物 と い え ど も 3 R の 考 え に 基 づ き リ サ イ ク ル・ 減 量 に 努 め な い と、 貴 重 な 埋 め 立 て 地 が 急 速 に そ の 寿 命 を 消尽してしまう。 気候変動(地球温暖化)の原因 者は先進諸国であり、大洋州島嶼 諸国ではない。しかし、気候変動 がもたらす影響は島嶼諸国に集中 的に現れる。このため、大洋州島 嶼諸国には気候変動の緩和策では なく適応策が求められる。J―P RISMでは、AdaptWas teというスローガンの下に、災 害廃棄物への計画的対処の実績を 積み重ね、域内での経験交流に努 めている。その嚆矢となったのは、 二○○九年のサモア沖での地震・ 津波によって生じた災害廃棄物の 3Rに基づく減量・リサイクルの 取り組みである。この取り組みの 重要な点は、それがJ―PRIS Mで育成された域内専門家のイニ シアティブによって実施され、J ―PRISMの枠組みに乗って域 内での経験交流に繋がっていった ことである。 ● 3 R + リ タ ー ン 二○○九年以降、日本政府のイ ニシアティブでアジア3Rフォー ラムが開かれ、二○一三年三月に ベトナムのハノイで開催された第 四回フォーラム以降、大洋州島嶼 諸国もこのフォーラムに参加して いる。J―PRISMの目的は、 小規模島嶼国で健全な物質循環型 の社会を作ることであり、3Rの 推進が不可欠である。具体的には、 入ってくる段階でプラスチックの 輸入を規制する。そして、ゴミを 減量する、再利用する、リサイク ルする。しかし、島嶼内で循環を 完結することは極めて困難である。 そこでJ―PRISMでは、図2 に示すように、3R+リターンと いうコンセプトを提唱している。 リターンのなかでまず重要なの は、有機物に関しては島のなかで コンポスト化し、島自身に還して いくことであり、島で同化できな いものについては、地域外の生産 国に返していくことを追求する。 容器のデポジット・リファンドシ ステムのCDLは、域外生産国へ のリターン推進の重要手段である。 しかしながら、市場価格により輸 出先が変動し輸出が不規則・不定 期になる、リサイクル業者にとっ て船賃(輸送費)や保管費の負担 が大きい、船会社によって経済ル ートが決められ船舶ルートが柔軟 性に欠ける、輸出側と輸入側の情 報格差があり、輸出した有価物が 先方の基準に満たず受け取りを拒 否されるなど、様々な課題がある。 ● 日 本 の 協 力 の ね ら い さて、J―PRISMにおける 日本の協力の狙いを整理すれば、 次の五点になる。 第一には、人材育成に力点を置 くことである。日本の専門家が解 決するのではなく、域内の人たち が解決する、そのための人材を育 成する、ということである。 第二には、そのために良い事例 GPを作るということである。た とえば、埋め立てであれば、福岡 方式での改善をサモアやバヌアツ で実施し、それを域内他国に拡げ ていく。 第三には、リターンを推進し循 環型の社会を作るということで、 容器に関してはCDLの導入に努 め容器デポジットシステムによっ て域外に返していく。有機物につ いては各家庭でのコンポスト、あ るいはマーケットコンポストを展 開していく。 第四には、草の根レベルの協力 を重視し、発生源別分別に取り組 んでいる鹿児島県志布志市の協力 を得てフィジーでの協力を実施す る、あるいは沖縄リサイクル運動 市民の会の協力を得てトンガのバ バウでの協力を展開している。ま た、大洋州島嶼諸国に数多く派遣 されている青年海外協力隊員と連 携しながら協力を実施する。 第五には、南々協力を重視し、 域内で育った人材に域内他国の問 題解決に協力してもらうようJ― PRISM(日本)が支援するい わゆる三角協力を展開していく。 図3はJ―PRISMによる南々 協力・三角協力の成果を示したも のであり、グレーの矢印は良い事 例GPを開発した域内人材に他の 国に出向いてもらい解決するとい うトレーナー派遣プログラムであ り、また青い矢印は良い事例GP を作ったところに学びに行く国外 先進地配属研修プログラムである。 J―PRISMは域内の良い事例 GPを相互に学び合うことに最大 の力点をおいて進めている。 加えて第六には、当初は予定し 図2 3R+リターン (出所) J-PRISMプロジェクトオフィス。
特集:大洋州島嶼国廃棄物管理分野での日本の協力J-PRISM ていなかった活動であるが、前述 のように地球温暖化の進行ととも におきやすくなった気象災害がも たらす災害廃棄物の管理を南々協 力で進めている。J―PRISM 関係者は大洋州島嶼諸国の廃棄物 管理を改善したいということで取 り組みを始めたが、大洋州島嶼諸 国の最大の課題である気候変動問 題と統合して取り組まなければな らないことがみえてきたのである。 ● 今 後 の 協 力 課 題 J―PRISMの終了と今日ま での一六年にわたる協力実績を踏 まえ、J―PRISMフェーズ2 の協力のあり方について現在検討 を進めているが、以下のようなも のが今後の協力課題となろう。 第一には、地域戦略の改訂であ り、二○一五年九月に開催される SPREP総会で承認される見通 しである。次期戦略では、当然の ことながら廃棄物管理と気候変動 を統合的にみていく視点が入って くる。第二には、これまでに実施 した良い事例GPの開発を担った 人材を域内で活用していくため、 人材データベースPIDOCをS PREPのなかに整備していくこ とである。第三には、そうした人 材が作り上げた良い事例GPを教 材・マニュアルという形でまとめ ていくことである。世界保健機関 ( W H O ) は、 筆 者 ら を 著 者 と し て太平洋島嶼諸国向けの都市廃棄 物管理マニュアルを一九九六年に 刊行しているが、今回は筆者ら域 外の専門家ではなく、域内専門家 が自ら実践した良い事例GPで書 き換えることを目指しており、現 在その作業を展開中である。 大洋州島嶼国はいずれも小さく、 人材の層が非常に薄い。小さな国 では少数の人材が廃棄物管理を担 当しており、彼や彼女が異動する と突然サービスが劣化するという 日本では考えられない状況がある。 従って、連続性の担保が極めて重 要な課題となっている。協力する 側のバックアップで連続性を担保 するというのもひとつの形である が、J―PRISMを通じて域内 諸国間に形成されたネットワーク をSPREPが維持発展させ、一 国単独では落ち込むことがあると しても、周りからの刺激やサポー トで継続発展できるようにするこ とが、とりわけ島嶼国では必要で はないかと考えている。 ( さ く ら い く に と し / 沖 縄 大 学 名誉教授) 図3 南々協力・三角協力の成果 キリバス共和国 パラオ 共和国 ナウル 共和国 マーシャル諸島 ミクロネシア連邦 ソロモン諸島 ツバル パプアニューギニア 独立国 パラオ 地域研修 ・3R 研修(2013 年):パラオお よびその他 4 カ国が参加 パプアニューギニア(PNG) 集団研修 ・廃棄物収集のための職業安全・衛生研修: 地方政府および民間企業が参加 ミクロネシア連邦(FSM) 地域研修 ・埋立地運転管理研修(2013 年):FSM3 州およびパラオが参加 ・埋立地運転管理実践研修 (2013 年):FSM4 州およびマーシャル諸島が参加 サモア 地域研修 ・廃棄物処理のための職業安全・衛生研修 (2013 年 ):サ モアおよびその他 5 カ国が参加(民間企業および労働組合 代表を含む) 現場訪問 ・埋立地運転管理(2012 年):パプアニューギニアが参加 フィジー 集団研修 ・3R 研修(2011 年):フィジーの地方自治体が参加 地域研修 ・3R 研修(2012 年):フィジーの地方自治体およびその他 4 カ国が参加 ・学校でのごみ教育プログラム(2012 年):フィジーの地方 自治体およびトンガ、ソロモン諸島が参加 トレーナー派遣プログラム ●埋立地運転管理(2013 年) トレーナー派遣プログラム ●研修プログラム(2012 年) トレーナー派遣プログラム ●学校でのごみ教育プログラム(2013 年) 国外先進地配属研修 ●ごみ収集、3R(2012 年)