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アジ研ワールド・トレンド No.182 (2010. 11)
「
イ
ス
ラ
ー
ム
金
融
に
つ
い
て
何か知っていますか?」ある
経済関係の講演会があったお
り、知人の助けも借りて周囲
の
参
加
者
に
尋
ね
て
み
た。
「
利
子
を
禁
止
し
て
い
る
ら
し
い
が、
それ以上はわからない」とい
う
答
え
が
多
か
っ
た。
「
利
子
を
伴わない金融制度がどうして
成立するのか?」と逆に質問
されたりもした。
このように、イスラーム金
融はまだ日本ではなじみの薄
い仕組みだといえる。しかし
世界的にみると、イスラーム
圏を中心として既に七〇カ国
以上で導入の実績を持つとい
う。しかも、年一五〜二〇%
の高い成長率を示しているら
しい。ロンドン、シンガポー
ル、香港といった主要な国際
金融センターにおいても、そ
の地位向上と競争力強化を目
指し、イスラーム金融の拡大
に努めている。その一方、こ
の分野での日本の取り組みの
遅れが指摘されている。
そこで、イスラーム金融に
ついての理解を深めていただ
くため、参考となる日本語図
書を紹介してみよう。出版時
期は、この分野に関する一般
向けの書籍が出版され始めた
二〇〇七年以降に限定する。
糠谷英輝著『拡大するイス
ラ
ー
ム
金
融
』(
蒼
天
社
出
版
二〇〇七年九月)
は、この分
野に関する単行書としては最
も出版時期の早いもの。イス
ラーム金融の基本原理、金融
市
場
お
よ
び
金
融
機
関
の
現
状、
課題と展望など、全体的にバ
ランスの取れた構成となって
いる。著者は財団法人国際通
貨研究所主任研究員。同じ著
者によるものとして、
糠谷英
輝著『世界を席巻するイスラ
ム
金
融
』(
か
ん
き
出
版
二
〇
〇
〇
七
年
一
二
月
)
が
あ
る
。
前
著
作
と
類
似
の
目
次
構
成
か
ら
な
る
概
説
書
。
ま
た
、糠
谷
英
輝
著
『
中
東
マ
ネ
ー
と
イ
ス
ラ
ム
金
融
』(
同
友
館
二
〇
〇
八
年
五
月
)
も
あ
る
。書
名
の
通
り
、
前
半
を
オ
イ
ル
マ
ネ
ーと
湾
岸
諸
国
経
済
の
動
向
分
析
に
、
後
半
を
イ
ス
ラ
ー
ム
金
融
の
解
説
に
充
て
て
い
る
。
糠谷著作と同様、早い時期
に出版されたものとして、
吉
田悦章著
『イスラム金融入門』
(
東
洋
経
済
新
報
社
二
〇
〇
七
年一〇月)
がある。概説書で
あ
る
が、
日
本
に
お
け
る
イ
ス
ラーム金融の位置づけと、日
本の金融機関の取り組みにも
触れている。イスラームにな
じみのない日本の読者に何と
か制度の仕組みを伝えようと
いう熱意がうかがえる。著者
は国際協力銀行に所属するイ
スラーム金融の専門家。著者
には、
吉田悦章著『イスラム
金
融
は
な
ぜ
強
い
』(
光
文
社
二〇〇八年一〇月)
という新
書版の著作もある。イスラー
ム金融の基本原理、金融取引
の基本概念、商品取引の実際
に重点を置いて解説する。入
門書としての役割が期待でき
よう。また、共著として
北村
歳治、吉田悦章著『現代のイ
ス
ラ
ム
金
融
』(
日
経
B
P
社
二
〇
〇
八
年
一
二
月
)
が
あ
る。
概説書の構成を取ってはいる
ものの、利子概念の明確性の
問題、イスラーム金融のガバ
ナビリティの検証、など専門
的な内容も含んでいる。
このほかの文献についても
刊行順に紹介しておこう。
イ
ス
ラ
ム
金
融
検
討
会
編
著
『
イ
ス
ラ
ム
金
融
:
仕
組
み
と
動
向
』
(
日
本
経
済
新
聞
出
版
社
二
〇
〇
八
年
一
月
)
は
、
民
間
大
手
金
融
機関
に
所
属
す
る
行員
と
国
際
協
力
銀
行
の
行員
で
構
成
さ
れ
る
「イ
ス
ラ
ム
金
融
検
討
会
」
の
、
一
七
人
に
よ
る
共
同
著
作
。イ
ス
ラ
ー
ム
金
融
の
市
場
、
制
度
、
機
関
、
実
務
、
契
約
と
広
範
で
網
羅
的
な
記
述
と
な
っ
て
い
る
。
参
考
図
書
的
な
利
用
方
法
も
可
能
で
あ
ろ
う
。
前
田
匡
史
著『
「
詳
解
」
イ
ス
ラム金融:世界を動かすダイ
ナ
ミ
ズ
ム
』(
亜
紀
書
房
二
〇
〇八年四月)
は、急拡大する
イスラーム金融の動きを追う
一方で日本の立ち後れを指摘
し、積極的な参入の必要性を
説いている。
櫻井秀子著『イスラーム金
融:贈与と交換、その共存の
シ
ス
テ
ム
を
解
く
』(
新
評
論
二
〇
〇
八
年
九
月
)
は、
贈
与、
交換、エートスといった経済
人類学的な分析枠組みに依拠
しながら、イスラーム金融の
今日的意義について本格的に
考察した研究書。イスラーム
の思想や社会についての予備
知識がないと、読むのに困難
が伴うかもしれない。
バハレーン中央銀行著、今
平和雄、渡辺喜宏訳『イスラ
ム
銀
行
と
イ
ス
ラ
ム
金
融
』(
P
H
P
研
究
所
二
〇
〇
九
年
九
月)
は、中東における有力な
金融センターであるバハレー
ンを中心に、イスラーム銀行
における業務の実際と金融市
場の現状を解説したもの。各
種規制や関連機構の役割など
制度面の記述も詳しい。
小
杉
泰
、
長
岡
慎
介
著
『
イ
ス
ラ
ー
ム
銀
行
:
金
融
と
国
際
経
済
』
(
山
川
出
版
社
二
〇
一
〇
年
一
月
)
は
、
イ
ス
ラ
ー
ム
学
・
中
東
地
域
研
究
の
専
門
家
と
、イ
ス
ラ
ー
ム
経
済
・
金
融
研
究
の
専
門
家
に
よ
る
共
著
。
イ
ス
ラ
ー
ム
の
思
想
的
源
流
か
ら
話
を
起
こ
し
、
金
融
制
度
の
発
展
へ
の
道
筋
を
わ
か
り
や
す
く
語
る
。
ペ
ー
ジ
数
も
少
な
く
、
読
み
や
す
い
。
歴
史
図
書
専
門
出
版
社
ら
し
い
本
で
あ
る
。
最後にアジア経済研究所の
成果を紹介しておこう。
福田
安志編『イスラーム金融のグ
ローバル化と各国の対応』
(ア
ジア経済研究所
調査研究報
告
書
二
〇
〇
九
年
三
月
)
は、
外国人二人を含む九人の研究
者
の
共
同
著
作。
地
域
的
に
は、
中東、南アジア、東南アジア
のほか、非イスラーム国(英
国およびシンガポール)を取
り上げている。本書は、その
全文を当研究所のウェブサイ
トからダウンロードすること
ができる。
(
ひ
が
し
か
わ
し
げ
る
/
図
書
館資料企画課
)
イ
ス
ラ
ー
ム
金
融
と
は
何
か
東川
繁
R
EFERENCE
C
ORNER