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〈論説〉1999年モントリオール条約第35条1項の提訴期限の法的性質--消滅時効か除斥期間か

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Academic year: 2021

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(1)法科大学院論集. 1999年 モ ン トリオ ー ル 条 約 第35条1項. 第9号. の. 提 訴 期 限 の法 的 性 質 一消 滅 時効 か除斥 期 間か一. キ. 膝. 一. 勝. 田. 利. は じめ に. 大 阪地 裁 平 成23年(ワ)第4279号. 損 害 賠 償 請 求 事 件(以 下,本 件 とい う。). に 関 し,原 告 代 理 人 よ り,1999年5月28日 年11月4日. に モ ン トリオ ー ル で署 名 され,2003. に発 効 した 「国 際 航 空 運 送 につ いて の あ る規 則 の 統 一 に関 す る条 約 」. (い わ ゆ る1999年 モ ン トリオ ー ル 条 約1,以 下 「本 件 条 約 」 とい う。)第35条1項 の解 釈 ・適 用 に つ い て意 見 を求 あ られ た の で,二 つ の意 見 書 を大 阪地 裁 に提 出 した。 一 つ は原 告 の 主 張 を補 強 す る た め(第 一 意 見 書:甲 第26号 証),も つ は被 告 の反 論 に対 す る意 見 と して(第 二 意 見 書:甲 第30号 証)で. う一. あ る。 この. 事 件 は,平 成24年12月12日 大 阪地 裁 第15民 事 部 に お い て原 告 の請 求 を認 め る判 決 が下 され,被 告 側 が控 訴 しな か った た あ,確 定 判 決 とな った。1999年 モ ン ト リオ ー ル条 約 第35条1項 東 京 高 裁 平 成22年5月19日. の適 用 が 問題 とな った先 例 と して託 送 手 荷 物 に 関す る の判 決(判 例 集 未 搭 載)が. あ るが,後 述 の よ うに事. 実 関係 そ の もの に 問題 が あ る と と もに本 人 訴 訟 で主 張 自体 に無 理 が あ り,十 分. 11999年5月28日. に 成 立 し た モ ン ト リ オ ー ル 条 約 は,2003年11月4日. (parties)は,103に つ い て は,藤. に 発 効 し,現. 達 す る 。http://www.icao.int/secretariat/legal/Listモ. 田勝 利 編. 「新 航 空 法 講 義 』193頁. 以 下(信. 35. 山 社,2007年4月. 在 の 当 事 国. ン ト リオ ー ル 条 約 に 刊)。.

(2) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. に議 論 が尽 く され て い な い とい う意 味 で先 例 と して の意 義 は乏 しい よ うに思 わ れ る。 これ に対 し,本 判 決 は,人 的損 害 に 関 す る同条 約35条1項. の適 用 事 例 と. して,お そ ら く 日本 で初 あ て の ケ ー ス で あ り,消 滅 時効 と除斥 期 間 の 関係 に つ い て も一 石 を投 じ る注 目す べ き判 例 と して,二 つ の意 見 書 で述 べ た こ と と本 判 決 の判 決 理 由 を踏 ま え て考 察 す る。. 二. 事実関係. 本 件 に対 す る法 的判 断 の前 提 とな る事 実 関係 に つ い て は,争 点 に 関係 す る部 分 に絞 って示 す と次 の よ うで あ った。 本 件 は,被 告Yの. 中 国 国 際航 空 股 扮 有 限公 司(以 下,中. 国 国 際航 空 とい う。). に所 属 す る定 期161便 と して北 京 首 都 国 際 空 港 か ら関 西 国 際空 港 に 向 けて 飛 行 して い た ボ ー イ ン グ737-300型 機 に搭 乗 して い た原 告Xが,平 午 後7時19分. 頃,島 根 県 松 江 市 上 空 高 度3万1,400フ. 成20年2月10日. ィ ー トに お け る 降 下 飛 行. 中,機 体 が動 揺 した た あ,ト イ レ利 用 後 座 席 に戻 るた あ に被 告 航 空 機 内 の通 路 を歩 い て い た と ころ,体 が宙 に浮 き頭 部 を荷 物 入 れ に打 ち付 け た後,腹 部 を座 席 の肘 掛 け で強 打 し,小 腸 破 裂 に よ る汎発 性 腹 膜 炎 等 の傷 害 や外 傷 後 ス トレス 障害(PTSD)等. の 後 遺 障 害 を 負 った と して,被 告 に対 し,民 法715条 に基 づ き,. 損 害 賠 償 を求 あ た事 案 で あ る。 これ に対 し,被 告 は,被 告 航 空 機 は,平 成20年 2月10日 に到 達 地 で あ る関西 国 際空 港 に到 達 し,原 告 が訴 え を提 起 した の は平 成23年4月4日. で あ るか ら,本 件 条 約 第35条1項. に よ り,原 告 の被 告 に対 す る. 損 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 して い る と して争 った。. 三. 被 告 ・運 送 人 の 責 任. 本 件 は,中 華 人 民 共 和 国 の北 京 首 都 国 際空 港 を 出発 地 と し,日 本 国 の 関西 国 36.

(3) 法科大学院論集. 第9号. 際空 港 を到 達 地 とす る国 際航 空 運 送 中 の航 空 機 内 で生 じた事 故 に基 づ く損 害 賠 償 請 求 事 件 で あ る と ころ,中 華 人 民 共 和 国 は2005年7月31日 年11月4日. に,日 本 国 は2003. に,そ れ ぞ れ1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 の 当事 国 に な って お り,本. 件 国 際航 空 運 送 は,同 条 約 第1条 所 定 の 「国 際運 送 」 に該 当 す るか ら,同 条 約 の適 用 が あ り,原 告 に対 す る被 告 ・中 国 国 際航 空 の運 送 人 と して の責 任 は,同 条 約 に よ り規 律 され る。 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 に よ る と,運 送 人 は,旅 客 の死 亡 又 は身 体 の傷 害 の場 合 に お け る損 害 に つ い て は,そ の死 亡 又 は傷 害 の原 因 とな った事 故 が航 空 機 上 で 生 じ又 は乗 降 の た め の 作 業 中 に生 じた も の で あ る こ との み を条 件 と し て,責 任 を負 う と定 め(第17条1項),賠. 償請 求者 側 に 帰 責事 由 が な い 限 り(第. 20条),運 送 人 に 厳 格 責 任 が 課 せ られ て い る。 た だ し,こ の よ うな厳 格 責 任 が適 用 され るの は,同 条 約 第17条1項. 所 定 の損 害(旅 客 の 死 亡 又 は傷 害 に よ る損 害). に 関 し,各 旅 客 につ き11万3,100特 別 引 出 権(SDR)ま あ って(第21条1項),そ. で の額 の賠 償 に つ い て で. の 額 を超 え る部 分 の賠 償 に関 して は,当 該 損 害 が少. な く と も運 送 人 又 は そ の使 用 人 若 し くは代 理 人 の過 失 に よ って生 じた もの で は な い こ とを運 送 人 自 ら証 明 す る場 合 に は責 任 を 負 わ な い とす る運 送 人 の過 失 推 定 責 任 を採 用 して い る(第21条2項)。. ま た,本 件 の よ うな旅 客 運 送 に お け る損. 害 賠 償 の訴 え に つ い て は,そ れ が この 条 約 に基 づ くもの で あ るか,ま た,契 約, 不 法 行 為 そ の他 の事 由 を理 由 とす る もの で あ るか を 問 わ ず,こ の条 約 に定 め る 条 件 及 び 責 任 の 限 度 に 従 う こ と に よ って の み 提 起 す る こ と が で き る と定 あ, 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 の排 他 的適 用 を 明記 して い る(第29条)。 従 って,原 告 が,本 件 国 際航 空 運 送 中 に被 った傷 害 に よ る損 害 に つ い て,同 条 約 の上 記 諸 規 定 の適 用 に よ り,被 告 ・中 国 国 際航 空 は,当 該 損 害 が運 送 人 側 の過 失 に よ っ て生 じた もの で な い こ とを証 明 しな い 限 り,原 告 に対 し損 害 賠 償 責 任 を負 う こ とは 明 らか で あ る。. 37.

(4) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. 四. の提 訴 期 限 の法 的性 質. 訴 え を 提 起 す る 期 限(本 件 条 約 第35条1項)の. 解 釈 ・適 用. 被 告 の答 弁 書 に よ る と,「本 件 訴 え は,本 件 航 空 機 の 到 達 地 へ の 到 達 の 日(平 成20年2月10日)か. ら起 算 して 約3年2ヶ. 月 経 過 して提 起 され た もの で あ り,. 原 告 は,本 件 航 空 機 の到 達 地 へ の到 達 の 日(平 成20年2月10日)か. ら2年 の期. 間 内 に訴 え を提 起 しな か った。」 か ら,被 告 に何 らか の責 任 が 認 あ られ,原 告 が被 告 に対 し,何 らか の 損 害 賠 償 請 求 権 を 有 して い た こ とが あ っ た と して も, 当該 損 害 賠 償 請 求 権 は2年 の期 間(除 斥 期 間)の 経 過 に よ り消 滅 した と主 張 す る。 確 か に,1999年 モ ン トリオ ール 条 約 第35条1項. に よ る と,「1損. 害賠償 を. 請 求 す る権 利 は,到 達 地 へ の到 達 の 日,航 空 機 が到 達 す べ き で あ った 日又 は運 送 の 中止 の 日か ら起 算 して2年 の期 間 内 に訴 え が提 起 され な い場 合 に は,消 滅 す る。」 と規 定 して お り,単 純 に文 理 解 釈 す れ ば,被 告 の 主 張 どお りに解 釈 で き そ うに も思 わ れ る。 しか し他 方,同 条2項. で,「1に 規 定 す る期 間 の計 算 方 法. は,訴 えが 係 属 す る裁 判 所 に適 用 され る法 令 に よ って決 定 す る。」 と規 定 して お り,同 条 約 の解 釈 と して被 告 主 張 の よ うな単 純 な文 理 解 釈 で片 付 け う るの か検 討 す る必 要 が あ る。. (1)本 件 条 約 第35条1項. 所 定 の訴 え を提 起 す る期 限. 原 告 は消 滅 時効 期 間 で あ る とす るの に対 し,被 告 は 除斥 期 間 で あ る と主 張 し て い る。 原 告 主 張 の根 拠 の一 つ は,航 空 法 の研 究 者 ・実 務 家 と して著 名 な坂 本 昭雄 氏 の見 解 で あ る。 同条 約 第35条1項. は,1929年. ワル ソー原 条 約 第29条1項. を継 承 す る規 定 で あ るが,坂 本 氏 に よ る と,こ の期 間 が 時効 で あ るか,除 斥 期 間 で あ るか に つ い て,ワ ル ソー採 択 会 議 に お い て議 論 が あ り,除 斥 期 間 で あ る こ とを 明記 しよ う と した フ ラ ンス の追 加 提 案 が撤 回 され た経 緯 か ら,こ れ を 時 効 と解 し,こ れ が ほ ぼ通 説 とな って い る とす る2。 38.

(5) 法科大学院論集. しか し,他 方 で は,1929年. 第9号. ワル ソー原 条 約 の立 法 の沿 革 に徴 す る と,除 斥 期. 間 で あ る とす る有 力 な見 解 もあ る。 そ れ に よ る と,1929年. ワル ソー原 条 約 は も. と も と海 上 運 送 に 関 す る1924年 統 一 船 荷 証 券 条 約(「 船 荷 証 券 に 関 す る あ る規 則 の統 一 の た あ の 国 際条 約 」)を モ デ ル に した もの で あ るが,1924年. 条 約 で は,. 立 法 の沿 革 か ら時効 で あ る と解 され て き た。1929年 原 条 約 の草 案 に お い て は そ れ に な ら って1年 の 時効 が規 定 され て い た と ころ,時 効 は,一 方 に お い て各 国 法 の認 あ る中 断 ま た は停 止 の事 由 に よ り,空 中運 送 人 の責 任 が,そ の予 期 に反 して延 長 され る恐 れ が あ り,他 方 に お い て1年 の期 間 は,距 離 の 関係 か ら短 か す ぎ る場 合 あ るべ く,ま た身 体 損 害 の場 合 に は,1年. 間 に そ の被 害 の程 度 を知. りえ な い場 合 が あ る とい う理 由 か ら,一 方 に お い て期 間 を 除斥 期 間 となす と共 に,他 方 に お い て1年 の期 間 を2年. とな した もの で あ るが,空 中運 送 事 業 の性. 質 上,短 期 間 に そ の責 任 を免 除 され る必 要 が あ るか ら1年 の短 期 時効 となす こ とが望 ま しい と述 べ る3。 そ の後 ワル ソー条 約 を改 正 して近 代 化 す るた あ の1971年 グ ァテ マ ラ市 に お け る国 際航 空 法 会 議 に お い て この議 論 が繰 り返 され て い る。 フ ラ ンス代 表 が そ の 全 体 委 員 会 に お い て,ワ ル ソー条 約 第29条1項. の解 釈 を 明確 に す るた め 同条 項. の 「2年 の期 間 は い か な る理 由 で あ れ,中 断 あ るい は停 止 しな い もの とす る。」 と追 加 修 正 す る提 案 を した が,制 限期 間 の 中 断 あ るい は停 止 は,例 え ば,未 成 年 者 が 関係 す る場 合 や賠 償 が 医療 費 用 に左 右 され る場 合 に は,2年 で き な い場 合 が あ る とか,さ. 以 内 に提 訴. らに は運 送 人 が第29条 所 定 の期 間 を延 長 す るの を. 合 意 で き な くな るな どの 問題 点 が指 摘 され拒 否 され て い る4。 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の も とに な る ワル ソー条 約 第29条1項. の制 定 過 程 に お け る提 訴 期 限 の議 論 は,外 国 の判 例 ・学 説 に お け る議 論 の反 映 2坂. 本 昭雄. 3小. 町 谷 操 三. ・三 好 晋. 『新 国 際 航 空 法 』236頁(有. 『空 中 運 送 法 論 」199頁. 以 下(有. 信 堂,1999年12月 斐 閣,昭. 和29年1月. 41nternationalConferenceonAirLaw,GuatemalaCity,ICAODoc.9040-LC/167,vol.1,pp215217.. 39. 刊)。 再 版 刊)。.

(6) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. で あ って,英 米 の判 例 は概 して 中 断 あ るい は停 止 を認 あ な い傾 向 が強 い の に対 し,フ ラ ンス の最 高裁 で あ る破 棄 院 の判 例5や 最 近 の ス ペ イ ンの判 例 の よ うに そ れ らを認 あ る判 例 も少 な くな い。 学 説 も同様 で,英 米 で は,訴 え を提 起 す る 期 限 に つ い て 中 断 あ るい は停 止 を認 あ な い学 説 が多 数 を 占あ るの に対 し,フ ラ ンスの 学 説 は む しろ中 断 あ るい は停 止 を認 め る見 解 が 有力 に主 張 され て い る6。 わ が 国 の学 説 で も,ワ ル ソー条 約 の モ デ ル とな った1924年 統 一 船 荷 証 券 条 約 第3条6所. 定 の1年 の期 間 に つ い て,そ れ が 時効 期 間 で あ るか 除斥 期 間 で あ る. か 明記 され て い な い た め,条 約 は 時効 期 間 を定 あ た もの と解 す る見 解7と. この. 規 定 が 中 断 を 予想 しな い 点 か ら考 え て 除 斥期 間 を 定 め た もの と解 す る見 解8に に分 か れ て い た。 この よ うに判 例 ・学 説 で見 解 の相 違 が生 じ るの は,1929年 29条1項. ワル ソー原 条 約 第. お よ び そ れ を 引 き継 ぐ1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の文 言 自. 体 が,単 に 「損 害 賠 償 を請 求 す る権 利 は,… …2年 の期 間 内 に提 訴 され な い場 合 に は,消 滅 す る」 とす るだ け で,そ の期 限 に つ い て,こ の条 項 を 中 断 あ るい は停 止 の 問題 に適 用 す る こと まで意 図 して い な か った か らと いえ な く もな い9。 上 記 の よ うに,1971年. の ワル ソー条 約 を改 正 す る外 交 会 議 に お い て,フ ラ ン. ス代 表 が 同条 約 第29条1項. の規 定 を 除斥 期 間 と して 明確 に しよ う と提 案 した の. も,同 条 項 の 解 釈 を 統 一 しよ う と し た も の で あ る が,支 持 さ れ な か っ た10。 従 って 同条 項 の文 理 解 釈 か ら結 論 づ け るの は早 計 で あ り,国 際航 空 運 送 に お け. 5フ 止. ラ ン ス の 破 棄 院 が 控 訴 院 の 立 場 と 異 な り,衡. 平 の 見 地 か ら,1929年. ワ ル ソ ー 条 約 第29条. は停. ・中 断 を 受 け る 時 効 期 間 で あ る と い う 態 度 を 一 貫 し て 採 っ て い る こ と を 紹 介 す る も の と し て,山. 崎 悠 基. 「ワ ル ソ ー 条 約29条. の対 立 を通 して. の2年. の失 権 期 間 の法 的性 質. 」 専 修 法 学 論 集 第54号56頁. 除斥 期 間 か 時効 期 間 か. フ ラ ンス の判 例. 以 下 参 照(1991年12月)。. 6ShawcrossandBeaumontAirLaw,Issue134,September2012[443]一[461]. 7小. 町 谷 操 三. 8田. 中誠 二. 『統 一 船 荷 証 券 論 』266頁(岩. ・吉 田 昇. 波 書 店,1932年4月. 『コ ン メ ン タ ー ル 国 際 海 上 物 品 運 送 法 』225頁. 9ReneH.Mankiewicz,TheLiabilityoftheInternationalAirCarrier,1981,p.174. 10GeorgetteMiller,LiabilityinInternationalAirTransport,1977,p.310.. 40. 刊)。 以 下(勤. 草 書 房,1964年4月. 刊)。.

(7) 法科大学院論集. 第9号. る この点 の議 論 は ま だ決 着 が つ い て い な い とい わ ざ るを得 な い。 そ うだ とす れ ば,本 件 の よ うな航 空 運 送 中 の人 身 傷 害 に つ い て,1999年 第35条1項. モ ン トリオ ー ル条 約. を どの よ うに解 釈 ・適 用 す るか は,諸 外 国 の判 例 ・学 説 を参 考 に し. な が ら,同 条 約 の立 法 趣 旨 も勘 案 し,日 本 の訴 訟 制 度 と実 態 に適 した判 断 が求 あ られ る。 以 下 で は,1999年. モ ン ト リオ ー ル 条 約 第35条1項. 所 定 の2年. の 期 限 につ い. て,延 長 で き る可 能 性 が な い か ど うか,そ の起 算 点 と権 利 行 使 方 法 に つ い て考 察 す る。. (2)2年. の期 限 の起 算 点 と権 利 行 使 方 法. 本 件 条 約 第35条1項. に よ る と,2年 の 期 限 の 起 算 点 に つ い て,運 送 品 の損 害 と. 人 身 損 害 を 区別 す る こ とな く,① 到 達 地 へ の到 達 の 日,② 航 空 機 が到 達 す べ き で あ った 日,又 は③ 運 送 の 中止 の 日か ら起 算 す べ き もの と して い る。 ① の 「到 達 の 日」 の主 体 が は っき り しな いが,② の 「到 達 す べ きで あ った 日」 に つ い て 「航 空 機 が」 と主 体 が 明記 され て い る こ と,航 空 機 が到 達 す る とき は 原 則 と して旅 客 又 は手 荷 物 及 び物 品 が共 に到 達 して い る こ とに鑑 み,航 空 機 が 到 達 した 日を標 準 とす る趣 旨 と解 す べ き で あ ろ う。 ② の 「到 達 す べ き で あ った 日」 とは,航 空 機 が全 く到 達 しな か った場 合 を規 定 した もの で あ る。 延 着 の場 合 は到 達 の事 実 が あ るか ら,現 実 に到 達 した 日を標 準 に す べ き で あ ろ う。 ま た 旅 客 が途 中 で死 亡 し,運 送 品 が途 中 で滅 失 した場 合 で も,航 空 機 が到 達 して い るな ら,そ の到 達 の 日を標 準 に す べ き で あ る。 条 約 が③ の 「運 送 の 中止 」 を標 準 に した意 味 もは っき り しな い。 運 送 の 中止 が あ れ ば,航 空 機 の到 達 は あ り得 な い か らで あ る。 物 品運 送 の場 合,運 送 人 が運 送 を 中止 した 日 と解 す る と提 訴 権 者 に お い て これ を知 る こ とが 困難 な の で,こ れ は荷 送 人 の運 送 品処 分 に よ る 運 送 中 止 の 場 合 を予 想 した もの と解 さ れ て い る11。 しか し旅 客 運 送 の場 合,運 11小. 町 谷 ・前 掲 書 『統 一 船 荷 証 券 論 』202頁 。. 41.

(8) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. 送 人 が運 送 を 中止 した 日を知 る こ とは必 ず し も困難 とは言 え な い か ら運 送 人 が 運 送 を 中止 した 日 と解 して も不 都 合 は な い よ うに思 わ れ る。 本 件 条 約 第35条1項. は,上 記 の起 算 点 か ら2年 の期 間 内 に訴 え が提 起 され な. い場 合 に は,(損 賠 賠 償 を請 求 す る権 利 は)消 滅 す る と規 定 す る。 問 題 は,こ こに い わ ゆ る訴 え の提 起 は,厳 格 な意 味 の訴 え の提 起 に 限 る趣 旨か とい う こ と で あ る。 上 記 の1924年 統 一 船 荷 証 券 条 約 第3条6は. そ の起 算 日よ り1年 内 に訴. え の提 起 が な い とき は,運 送 人 又 は船 舶 は い か な る場 合 に お い て も滅 失 又 は損 害 に つ き一 切 の責 任 を免 れ る と規 定 して い るが,そ れ を 国 内法 化 した 昭和32年 国 際 海 上 物 品 運 送 法 第14条1項. で は,裁 判 上 の請 求 を す れ ば足 りる もの と し. た。 こ こで い う 「裁 判 上 の 請 求 」 と は,時 効 中 断 事 由 と して 定 め る民 法 第149 条 に い う裁 判 上 の請 求 と異 な り,支 払 命 令 の 申立 て,仲 裁 人 選 定 の通 知,船 主 責 任 制 限 手 続 へ の参 加 な どを 含 む 広 い観 念 で あ る と解 され て い る12。 しか も国 際海 上 物 品運 送 法 の平 成4年 改 正 前 第14条 但 書 は,損 害 の発 生 に つ き 「運 送 人 に悪 意 が あ った とき は,こ の 限 りで な い。」 と して悪 意 の あ る運 送 人 は短 期 の 除 斥 期 間(あ. るい は短 期 時効)の 利 益 は享 受 で き ず,商 行 為 に よ る債 務 と して5. 年 の 消 滅 時 効(商 法 第522条)に. か か る もの と され て い た。 こ の よ うな 但 書 の. 規 定 は条 約 や諸 国 の立 法 に存 在 せ ず,わ が 国特 有 の もの で あ った が,運 送 取 扱 人 の 責 任 の短 期 消 滅 時 効 を定 め る商 法 第566条3項. に も同様 の 規 定 が あ り,陸. 上 運 送 人 や船 舶 所 有 者 に準 用(商 法 第589条 ・第766条)さ. れ て い る こ と に鑑 み,. 衡 平 の観 念 に合 致 し,別 段 条 約 に反 す る もの で は な い と解 され て い た13。 以 上 の海 上 運 送 人 の責 任 と対 比 して航 空 運 送 人 の責 任 に つ い て どの よ うに解 し う るか。 本 件 に適 用 され る1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 が発 効 した の は2003年 11月4日. で あ り,そ の 第35条1項. の解 釈 ・適 用 につ い て の議 論 は少 な い か ら,. 同条 項 と同 じ内容 で,か つ多 数 の 国 の判 例 の蓄 積 の あ る ワル ソー条 約 第29条1 12戸. 田修 三 ・中村 眞 澄 「注 解. 13小. 町 谷 ・前 掲 書 『統 一 船 荷 証 券 論 』366頁 。. 国 際海 上 物 品運 送 法 』303頁(青. 42. 林 書 院,1997年3月. 刊)。.

(9) 法科大学院論集. 項 の解 釈 ・適 用 を手 が か りに判 断 せ ざ るを得 な い。 そ れ に よ る と,2年 の 中 断 あ るい は停 止,し. 第9号. の期 間. た が って事 実 上 延 長 を認 あ る見 解 は,原 告 が未 成 年 者. あ るい は身 体 障害 者 で あ る こ と,当 事 者 間 で交 渉 が継 続 して い る こ と,さ らに は交 渉 の過 程 で責 任 を認 あ た こ とな どが考 慮 され て い るよ うで,と. くに運 送 人. が 負傷 者 を病 院 に つ れ て い った り,身 の 回 り品 を買 うの を助 け た り,花 を贈 っ た りす る普 通 の親 切 な行 為 が責 任 を認 あ た こ とに な る とす る判 例 が あ るよ うで あ る14。た だ し,単 な る手 紙 の交 換 や お 悔 や み の手 紙 だ け で は,責 任 を認 め た こ とに な らな い と もい わ れ て い る。 ま た,フ. ラ ンス の破 棄 院判 例 で運 送 人 が正. 式 に責 任 を 認 あ て い る 場 合 は条 約 第29条 第1項. に依 拠 で き な い と す る もの,. オ ー ス トリア の最 高 裁 判 例 で,原 告 と運 送 人 との 間 で交 渉 が続 い て い る間,権 利 喪 失 期 間 は 中 断 す る と判 示 した もの な ど も注 目 され て よ い15。. (3)本 件 の人 身 傷 害 事 件 に対 す る 同条 約 第35条1項 そ れ で は モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の解 釈 ・適 用. を本 件 の よ うな航 空 運 送 中 に生 じた. 人 身 損 害 に対 す る損 害 賠 償 請 求 事 件 に 当 て は あ た場 合 どの よ うに解 す べ き で あ ろ うか,原 告 の主 張 に沿 って述 べ る。 原 告 準 備 書 面 に よ る と,原 告 主 張 の要 点 は,次 の4点 に整 理 で き る。 第 一 に,モ. ン トリオ ー ル条 約 が前 文 で 明記 す る基 本 原 則 の重 視 で あ る。 国 際. 航 空 運 送 に お け る消 費 者 の利 益 保 護 の確 保 と原 状 回復 に基 づ く衡 平 な賠 償,そ して諸 利 益 の衡 平 な均 衡 の達 成 が強 調 され て い る。 ワル ソー条 約 で は航 空 運 送 人 の保 護 育 成 の た あ運 送 人 の過 失 推 定 責 任 に基 づ く有 限責 任 制 度 を採 用 して い た が,そ れ を近 代 化 す るモ ン トリオ ー ル条 約 は航 空 運 送 の利 用 者 で あ る消 費 者 の保 護 を前 面 に打 ち 出 し,運 送 人 の厳 格 責 任 と過 失 推 定 責 任 が並 存 す る無 限責 任 制 度 を 導 入 した16。従 って 同 条 約 第35条1項 14ShawcrossandBeaumontAirLaw,supra,[448]. 15ReneH.Mankiewicz,supra,p.175. 16藤. 田 ・前 掲 書. 『新 航 空 法 講 義 』171頁. 以 下 参 照 。. 43. の解 釈 ・適 用 に当 た って は,原.

(10) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. 告 主 張 の よ うに 同条 約 の制 定 趣 旨を十 分 考 慮 す べ き で あ る。 第 二 に,原 告 は,同 条 項 所 定 の提 訴 期 間 の 中 断等 を認 あ るた あ消 滅 時効 期 間 を定 あ た もの と解 し,事 故 に よ る症 状 が 固定 して全 損 害 額 が 明 らか に な った と き か ら進 行 す る と解 して い る。 そ して症 状 固定 日は平 成22年11月1日. だ か ら損. 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 して い な い とす る。 上 述 の よ うに消 滅 時効 期 間 と除斥 期 間 の い ず れ を定 あ た もの か争 い の あ る と ころ で あ る。 一 歩 譲 って 除 斥 期 間 と解 して も,三 井 鉱 山 じん 肺 訴 訟17や 関 西 水 俣 病 訴 訟18 の よ うに,除 斥 期 間 の起 算 点 を ず ら した判 例 もあ るか ら,除 斥 期 間 と解 して も 中 断 を認 あ る余 地 は あ る。 これ らの判 例 は加 害 行 為 あ るい は損 害 の原 因 とな っ た行 為 が終 了 して か ら相 当 の期 間 が経 過 した後 に損 害 が発 生 した場 合 に は そ の 損 害 発 生 時 か ら除 斥 期 間 が 進 行 す る と い う も の で,本 件 と共 通 す る もの が あ る。 こ こで強 調 して お く必 要 が あ るの は,わ が 国 で は,米 国 な ど と異 な り,訴 訟 費 用 の前 払 い制 を採 用 して お り,訴 訟 物 の訴 額 が確 定 しな い 限 り,提 訴 しが た い とい う問 題 が あ る19。従 って本 件 の よ う な人 身 損 害 の 場 合,症 状 固 定 ま で提 訴 期 間 が進 行 しな い と解 す るの が,条 約 の制 定 趣 旨に か な う と思 わ れ る。 そ の 際,同 条 約 第35条2項. に根 拠 規 定 を見 出 し う るで あ ろ う。. 第 三 に,原 告 が主 張 す るよ うに,被 告 との 間 で,本 件 事 故 直 後 か ら損 害 賠 償 に つ い て交 渉 中 で あ った か ら,提 訴 期 間(時 効 期 間)は 中 断 して い る と解 し う るか で あ る。 問題 は そ の交 渉 の 中身 で あ るが,訴 訟 を前 提 に交 渉 して い るの で あ れ ば,そ の交 渉 が続 く間,提 訴 期 間 は進 行 しな い と解 す る こ と もで き る。 第 四 に,原 告 が航 空 機 の到 達 日か ら起 算 して2年 の期 間 内 に提 訴 しな か った の で,賠 償 請 求 権 が本 件 条 約 第35条1項. の適 用 に よ り,2年. 17最. 三 判 平 成16年4月27日. 民 集58巻4号1032頁. 。. 18最. 二 判 平 成16年10月15日. 民 集58巻7号1882頁. 。. 19中. 野 貞 一 郎 『民 事 訴 訟 法 の論 点1』56頁. 以 下(判. 44. 例 タ イ ム ズ,1994年10月. の 除斥 期 間 の経 過. 刊)。.

(11) 法科大学院論集. 第9号. に よ り消 滅 した と被 告 が主 張 す るの は信 義 則 に反 す るか とい う点 で あ る。 本 件 の場 合,事 故 直 後 の手 術 代 は一 部 弁 済 と して支 払 わ れ て お り,本 件 航 空 運 送 に お け る被 告 の責 任 を 自 ら認 あ た もの と解 し う る。 そ の後 原 告 の症 状 が 固定 しな い こ と もあ っ て交 渉 が 進 展 しな い う ち に2年. の提 訴 期 限 が 経 過 し,提 訴 しな. か った こ とを理 由 に賠 償 請 求 権 が消 滅 した とい うの は不 誠 実 な対 応 で あ った と い え な く もな い。 も し この よ うな こ とが許 され るな ら,運 送 人 が不 誠 実 な対 応 を す る こ とに よ り損 害 賠 償 責 任 を免 れ る こ とが可 能 とな り,モ ン トリオ ー ル条 約 が企 図 した消 費 者 の利 益 保 護 の確 保 とい う制 定 趣 旨に反 す る結 果 に な る。 時 効 期 間 につ い て は,陸 上 運 送 取 扱 人,陸 上 運 送 人 お よ び船 舶 所 有 者 の責 任 は, これ らの者 に悪 意 が あ った場 合 に は1年 の短 期 消 滅 時効 を適 用 しな い と規 定 さ れ て お り(商 法 第566条3項,第589条,第766条),ま. た権 利 行 使 が 困難 で あ る. な ど一 定 の事 情 が あ るた あ に 時効 期 間 が経 過 して しま った事 案 に お い て信 義 則 違 反 や 権 利 濫 用 を理 由 に時 効 の援 用 を認 め な い判 例 は多 数 蓄 積 され て い る20。 長 時 間 経 過 後 の権 利 行 使 に対 して は,権 利 は失 効 す る とい う法 的構 成 の 面 で, 時効 期 間 と除斥 期 間 は共 通 して お り,仮 に 同条 項 が 除斥 期 間 を定 あ た もの と解 した と して も,本 件 の よ うな場 合,信 義 則 違 反 な い し権 利 濫 用 を理 由 に運 送 人 の責 任 消 滅 を認 あ な い特 段 の事 情 が あ るよ うに思 わ れ る。. 五. 被告の反論 に対する意見. 上 記 の原 告 の主 張 とそ れ を補 完 す る第 一 意 見 書(甲 第26号 証)に 対 して,被 告 側 か ら被 告 第 二 準 備 書 面 に お い て反 論 が な され た の で,以 下 の よ うな 内容 の 第 二 意 見 書 を裁 判 所 に提 出 した。. 20一. 般 不 法 行 為 に よ る損 害 賠 償 請 求 権 は,損 害 及 び加 害 者 を知 っ た と き か ら3年 で時 効 消 滅 し,不. 法 行 為 の 時 か ら20年 で消 滅 す る が(民 法724条),債 間 が1∼3年. 権 法 改 正 の 中 間試 案 で は,職 業 別 に消 滅 時効 期. と細 分 化 しす ぎ て分 か りに くい た め,5年. 45. な ど に統 一 す る見 直 しが検 討 さ れ て い る。.

(12) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. (1)モ. の提 訴 期 限 の法 的性 質. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の法 的性 質. が,「損 害 賠 償 を請 求 す る権 利 は,到 達 地 へ の. 到 達 の 日,航 空 機 が到 達 す べ き で あ った 日又 は運 送 の 中止 の 日か ら起 算 して2 年 の期 間 内 に訴 え が提 起 され な い場 合 に は,消 滅 す る。」 と規 定 して い る こ とか ら,被 告 は,こ の規 定 が2年 の 除斥 期 間 を定 あ た もの と解 し,本 件 航 空 機 の到 達 日で あ る平 成20年2月10日. か ら起 算 して2年 以 内 に訴 え が提 起 され な か った. か ら,損 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 した と主 張 す る。 ①. そ の主 張 の根 拠 の一 つ と して,同 条 項 に踏 襲 され た ワル ソー条 約 第29条. 1項 に 関 す る別 件 の東 京 高 等 裁 判 所 平 成22年5月19日 示 す。 確 か に 「本 件 条 約29条1項. の判 決21(乙 第2号 証)を. は2年 の 除斥 期 間 を定 あ た もの と解 す るの が. 相 当 で あ り」 と判 示 した部 分 だ け を読 あ ば被 告 主 張 の通 りか も しれ な い が,他 方 で,「 仮 に,本 件 条 約29条1項. が 消 滅 時 効 期 間 を 定 あ た もの で あ る と して も」. とす る原 審 判 決 の該 当箇 所 を そ の ま ま 引用 して お り,消 滅 時効 期 間 と解 す る可 能 性 を残 して い る。 この別 件 は,託 送(受 託)手 荷 物 で あ る と され るマ ウ ンテ ンバ イ クの修 理 費 用 と紛 失 に よ る再 調 達 価 格 等 約30万 円 の損 害 賠 償 を求 め る本 人 訴 訟 で あ り,弁 護 士 等 の法 律 専 門家 に よ る周 到 な主 張立 証 が な され て い な い とい うだ け で な く,原 告(控 訴 人)が 全 日空 で成 田 か ら ソ ウル,ア で ソ ウル か ら シ ンガ ポ ー ル,そ. して被 告(被 控 訴 人)の. シア ナ航 空. エ ミレー ツ航 空 で シ ン. ガ ポ ー ル か ら コ ロ ンボ空 港 へ と乗 り継 ぐな か で紛 失 した と され るマ ウ ンテ ンバ イ ク及 び輪 行 袋 に つ い て,前 記 東 京 高 裁 判 決 の認 定 事 実 と して 「本 件 全 証 拠 に よ って も,本 件 手 荷 物 が シ ンガ ポ ー ル で被 控 訴 人 に預 け られ た こ との立 証 が な され て い な い とい うほ か な い。」22と言 わ しあ た不 可 解 な ケ ー ス で あ る。 これ に 対 し,本 件 は,そ の よ うな請 求 額 が少 額 の物 的損 害 で は な くPTSDの. 21最. 一 決 平 成22年10月14日(判. 例 集 未 搭 載)に. お い て,民. して棄 却 さ れ,確 定 して い る。 22乙. 第2号. 証6頁. 。. 46. 訴 法 第318条1項. 伴 う深 刻. に よ り,上 告 不 受 理 と.

(13) 法科大学院論集. 第9号. な人 的損 害 に 関 す る事 件 で あ るの で,別 件 以 上 に よ り一 層 慎 重 な判 断 が必 要 で あ る と思 わ れ る。 ②. 第 二 の根 拠 と して,江 頭 憲 治 郎 東 京 大 学 名 誉 教 授 と故 小 町谷 操 三 東 北 大. 学 名 誉 教 授 の学 説 を挙 げ る。 す な わ ち,江 頭 教 授 は,ワ ル ソー条 約 第29条1項 及 び モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. に つ い て,ワ ル ソー条 約 採 択 会 議 の議 論 の. 経 緯 か ら,2年 の期 間 は 除斥 期 間 で あ る と し23,小 町 谷 教 授 も,ワ ル ソー条 約 の 立 法 の沿 革 か ら除斥 期 間 で あ る とす る。 この点 は,第 一 意 見 書 で指 摘 した よ う に,日 本 の 航 空 法 研 究 の 第 一 人 者 で あ る坂 本 昭 雄 氏 は,両 教 授 の説 と異 な り, ワル ソー条 約 採 択 会 議 に お け る議 論 の経 緯 か ら,こ れ を 時効 と解 し,そ の 中 断 及 び停 止 に つ い て裁 判 地 法 に よ る とす るの が ほ ぼ通 説 とな って い る とす る。 残 念 な が ら,ど ち らの学 説 も論 拠 とな る一 次 資 料 が 引用 され て い な い の で,こ れ らの叙 述 か ら どち らが正 しい か結 論 付 け る こ とは で き な い。 ま た小 町谷 教 授 の 見 解 は,1929年. ワル ソ ー 原 条 約 成 立 時 点 で の 議 論 に と ど ま り,そ の後 の ワ ル. ソー条 約 の改 正 経 緯 や モ ン トリオ ー ル条 約 が成 立 す るに至 った事 情 が欠 落 して い るの で,そ の ま ま妥 当 す る とは言 い難 い。. (2)1971年. グ ァテ マ ラ議 定 書 の成 立 経 緯 と モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の. 解 釈 ・適 用 ①. 第 一 意 見 書 に お い て,1971年. の ワ ル ソー 条 約 改 正 の た あ の外 交 会 議 で,. フ ラ ンス代 表 が ワル ソー条 約 第29条1項. の解 釈 を 除斥 期 間 と して 明確 にす るた. あ提 案 した 「2年 の期 間 は い か な る理 由 で あ れ,中 断 あ るい は停 止 しな い もの とす る。」との追 加 修 正 が様 々 の 問題 点 を含 ん で い るた あ拒 否 され た こ とを指 摘 した の に対 し,被 告 第 二 準 備 書 面 に お い て,「2年 の 時効 期 間 を定 あ た と解 す べ き 改 正 は 行 わ れ て い な い の で あ る か ら,… … モ ン ト リオ ー ル 条 約 第35条1項. 23江. 頭 憲 治 郎 『商 取 引法 』 第6版327頁(弘. 文 堂,平. 47. 成22年4月. 刊)。.

(14) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. は,2年. の提 訴 期 限 の法 的性 質. の 除斥 期 間 を定 あ た もの とい うべ き で あ る。」 と反 論 され る。 しか し,. フ ラ ンス代 表 の提 案 趣 旨は,第 一 意 見 書 で示 した よ うに,各 国 の判 例 や学 説 で 見 解 が分 か れ て い るの で,解 釈 の統 一 の た あ 除斥 期 間 と して 明記 しよ う と した もの で あ り,そ の提 案 が拒 否 され た以 上,除 斥 期 間 を定 あ た もの と解 す る こ と は で き な い。 む しろ 同条 項 の解 釈 ・適 用 に つ い て は法 廷 地 法 の合 理 的 な解 釈 に 委 ね た と解 す べ き で あ ろ う。 ②. 第 一 意 見 書 に お い て,ワ ル ソー条 約 の改 正 経 緯 や2年. とい う期 間 の短 さ. な どを考 慮 す る と時効 期 間 を定 あ た もの と解 す るほ うが 国 際航 空 運 送 の利 用 者 で あ る消 費 者 の利 益 保 護 を確 保 す る とい うモ ン トリオ ー ル条 約 の制 定 趣 旨に か な う と述 べ た の に対 し,被 告 第 二 準 備 書 面 に お い て,「 ワル ソー条 約 の制 定 の経 緯 に お い て も,航 空 運 送 の利 用 者 の利 益 保 護 を考 慮 して,草 案 の1年 を2年 に 変 更 し,そ の代 わ りに 除斥 期 間 と した の で あ り,除 斥 期 間 と解 す る こ とが消 費 者 の 利 益 保 護 に 反 す る と は い え な い。」 と反 論 され る。 しか し,こ れ につ い て は,二 つ の疑 問点 を指 摘 で き る。 第 一 に,第 一 意 見 書 に お い て示 した よ うに,1929年. ワル ソー条 約 は,海 上 物. 品運 送 に 関 す る1924年 統 一 船 荷 証 券 条 約 を モ デ ル に して い るが,1924年 3条6所. 条約第. 定 の1年 の期 間 に つ い て も,時 効 期 間 か 除斥 期 間 か で議 論 が あ り,時. 効 期 間 と解 す るの が通 説 と され て い る。 ワル ソー条 約 の場 合,1924年. 条 約 と異. な り,物 品運 送 と旅 客 運 送 を規 制 の対 象 に して い るが,そ の重 心 は む しろ旅 客 運 送 の規 制 に お か れ て い る。 人 と物 の運 送 に対 す る運 送 人 の責 任 規 制 は運 送 の 客 体 の違 い か ら,別 々 に規 制 す べ き で あ り,損 害 賠 償 請 求 の期 間 に つ い て も本 来 な ら同列 に扱 うの は望 ま し くな い。 そ こで妥 協 の産 物 と して1年 の期 間 を2 年 に延 長 した とみ るべ き で あ る。1年. が2年 に延 長 され た こ とは,荷 主 の利 益. 保 護 にな る か も しれ な いが,旅 客 の利 益 保 護 に な る わ けで は な い か らで あ る。 モ ン トリオ ー ル条 約 は ワル ソー条 約 と同様,運 送 人 の不 法 行 為 責 任 に も適 用 さ れ る。 日本 民 法 第724条 に よ る と,不 法 行 為 に よ る損 害 賠 償請 求 権 は,損 害 及 び 48.

(15) 法科大学院論集. 第9号. 加 害 者 を知 った 時 か ら3年 の 時効 消 滅 を定 あ,不 法 行 為 の 時 か ら20年 の 除斥 期 間 を定 あ る。 も しモ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. が2年 の 除斥 期 間 を定 め た と. 解 す るな ら,国 際航 空 機 事 故 の複 雑 な紛 争 解 決 に鑑 み,余. りに も利 用 者 た る旅. 客 の利 益 保 護 に欠 け る こ とに な ろ う。 第 二 に,利 用 者,特 緯 を顧 み る と,1966年 書,1975年. に旅 客 の利 益 保 護 とい う観 点 か ら ワル ソー条 約 の改 正 経 モ ン トリオ ー ル協 定 の成 立 以 降,1971年. グ ァテ マ ラ議 定. モ ン トリオ ー ル第 三 追 加 議 定 書 そ して そ れ らを統 合 す る1999年 モ ン. トリオ ー ル条 約 の成 立 に よ り,根 本 的 に考 え方 が変 わ った こ とに注 目す る必 要 が あ る24。1955年 ヘ ー グ改 正 ワル ソー 条 約 ま で は,経 済 的 に 劣 弱 な 航 空 会 社 の 保 護 育 成 と利 用 者 の利 益 保 護 の バ ラ ンス論 が 幅 を利 か せ て い た が,航 空 会 社 の 発 展 と航 空 機 の安 全 性 の 向上 そ して保 険制 度 の充 実 等 の相 乗 効 果 に よ り,利 用 者 た る旅 客 の 利 益 保 護 に運 送 人 の 責 任 制 度 が 傾 斜 して い っ た。 そ の 到 達 点 が 1999年 の モ ン トリオ ー ル条 約 の成 立 で あ る。 ワル ソー条 約 に お け る運 送 人 の過 失 推 定 に よ る有 限責 任 制 か ら,10万SDR(2009年12月. よ り11万3,100SDR)ま. で の無 過 失 責 任 と損 害 額 が そ れ を超 え る場 合 に は過 失 推 定 の無 限責 任 とい う二 段 階責 任 制 度 に な った。 一 定 額 の制 限 は あ るが,テ. ロ行 為 を含 む無 過 失 責 任 と. そ れ を超 え る額 の無 限責 任 を採 用 した こ とは画 期 的 な こ とで あ る。 しか も この 条 約 上 の展 開 は 日本 の航 空 会 社 の 国 際運 送 約 款 の改 訂 を契 機 に して い るの で あ る。 モ ン トリオ ー ル条 約 が前 文 で 国 際運 送 に お け る消 費 者 の利 益 保 護 の確 保 の 重 要 性 と喪 失 利 益 の 回復 の原 則 を強 調 して い るの は,条 約 が成 立 す るま で の長 い歴 史 を踏 ま え た結 果 に過 ぎ な い。 従 って,モ. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. 解 釈 ・適 用 に お い て もそ の制 定 趣 旨を踏 ま え た もの で な け れ ば な らな い。. 24ワ. ル ソ ー条 約 の現 代 化 の歩 み につ い て は,藤. 田 ・前 掲 書 『新 航 空 法 講 義 』184頁 以 下 参 照)。. 49. の.

(16) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. (3)本 件 人 身 傷 害 事 件 に対 す る モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項 ① 条1項. 第 一 意 見 書 に お い て,モ. の解 釈 ・適 用. ン トリオ ー ル条 約 が踏 襲 す る ワル ソー条 約 第29. の解 釈 ・適 用 に お い て2年 の期 間 の 中 断 あ るい は停 止 な ど事 実 上 の延 長. を認 あ る見 解 の理 由 と して,当 事 者 間 で交 渉 が継 続 して い る こ とや交 渉 の過 程 で責 任 を認 あ た こ とな どを指 摘 した が,こ の学 説 は,運 送 人 の過 失 推 定 責 任 を 定 あ る ワル ソー条 約 第20条1項. の規 定,す. な わ ち 「運 送 人 は,運 送 人 及 び そ の. 使 用 人 が損 害 を 防止 す るた あ必 要 な す べ て の措 置 を執 った こ と又 は そ の措 置 を 執 る こ とが で き な か った こ とを証 明 した とき は,責 任 を負 わ な い。」を前 提 にす る もの で あ る。 と ころ が,本 件 に適 用 され るモ ン トリオ ー ル条 約 で は,運 送 人 は,旅 客 の死 亡 又 は身 体 の傷 害 の場 合 に お け る損 害 に つ い て は,そ の死 亡 又 は 傷 害 の原 因 とな った事 故 が航 空 機 上 で生 じ又 は乗 降 の た あ の作 業 中 に生 じた も の で あ る こ との み を 条 件 と して,責 任 を負 う と定 あ(第17条1項),賠 者 側 に帰 責 事 由 が な い 限 り(第20条),運. 償請求. 送 人 に厳 格 責 任 が課 せ られ て い る。 た. だ し,こ の よ う な厳 格 責 任 が 適 用 され るの は,同 条 約 第17条1項. 所定 の損害. (旅 客 の 死 亡 又 は傷 害 に よ る損 害)に 関 し,各 旅 客 につ き11万3,100SDRま 額 の 賠 償 に つ い て で あ り(第21条1項),そ. での. の額 を超 え る部 分 の 賠 償 に関 して. は,ワ ル ソ ー条 約 と同 様 の過 失 推 定 責 任 で あ る(第21条1項)。. 従 っ て,原 告. が被 告 航 空 会 社 の運 送 中 に被 った傷 害 に よ る損 害 に つ い て,被 告 の側 で 当該 損 害 が運 送 人 側 の過 失 に よ って生 じた もの で な い こ とを証 明 しな い 限 り,原 告 に 対 し,少 な くと も11万3,100SDRま. で の 損 害 につ い て は 自動 的 に無 過 失 の賠 償. 責 任 を 負 うか ら,被 告 が責 任 を認 あ るか ど うか の選 択 肢 は な い。 従 って,被 告 第 二 準 備 書 面 に お い て,「被 告 は,被 告 の 責 任 の 有 無 を 度 外 視 し,事 故 直 後 の手 術 代 を支 払 った の で あ り」,「事 故 直 後 の手 術 代 は一 部 弁 済 と して支 払 わ れ て お り,本 件 航 空 運 送 に お け る被 告 の責 任 を 自 ら認 め た こ と に な らな い。」 との主 張 は論 外 で あ る。 争 い う るの は本 件 事 故 と相 当 因果 関係 が認 あ られ る損 害 の範 囲 の み で あ る。 本 件 の場 合,降 下 中 の機 体 の激 しい動 揺 に よ って生 じた人 身 傷 50.

(17) 法科大学院論集. 第9号. 害 の事 故 で あ り,そ の損 害 に つ い て賠 償 す る結 果 責 任 が被 告 航 空 会 社 に あ るの だ か ら,誠 実 に賠 償 交 渉 に応 じて しか るべ き で あ ろ う。 も し,そ の よ うな事 故 責 任 の 自覚 が な い とす れ ば,利 用 者 の利 益 保 護 の確 保 を重 視 す るモ ン トリオ ー ル条 約 の制 定 趣 旨を無 視 す るに等 しい とい え る。 ②. 原 告 側 の主 張 に よ る と,モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. 所 定 の提 訴 期 間. を消 滅 時効 期 間 と解 し,事 故 に よ る症 状 が 固定 して全 損 害 額 が 明 らか に な った とき か ら進 行 す る と解 して い る。 そ して症 状 固定 日は平 成22年11月1日. だか ら. 損 害 賠 償 請 求 権 は 消 滅 して い な い とす る。 こ の点 に 関 し,第 一 意 見 書 に お い て,仮 に除 斥 期 間 と解 して も,三 井 鉱 山 じん 肺 訴 訟 や 関 西 水 俣 病 訴 訟 の よ う に, 除 斥 期 間 の起 算 点 を ず らす 余 地 が あ る こ とを指 摘 した。 これ らの判 例 は,「 加 害 行 為 あ るい は損 害 の原 因 とな った行 為 が終 了 して か ら相 当 の期 間 が経 過 した 後 に損 害 が発 生 した場 合 」 に は,そ の損 害 発 生 時 か ら除斥 期 間 が進 行 す る と判 示 して い るか らで あ る。 これ に対 し,被 告 第 二 準 備 書 面 に よ る と,原 告 は,本 件 事 故 に よ って原 告 が 傷 害 を負 った 直 後 か ら治 療 を 行 って い る の で あ り,「加 害 行 為 あ るい は損 害 の原 因 とな った行 為 が終 了 して か ら相 当 の期 間 が経 過 した 後 に損 害 が発 生 した場 合 」 に は該 当 しな い と反 論 され る。 しか し本 件 の人 身 傷 害 の場 合,単. な る身 体 的傷 害 に と どま らず,そ れ に起 因 す る と推 認 され る心 的. 外 傷 後 ス トレス障 害(PTSD)が. 発 症 して い る。 本 件 事 故 後 い つ か らそ の よ う. な症 状 が 出 て き た か即 断 で き な い が,原 告 が心 療 内科 に受 診 した病 院 の記 録 に よ れ ば,入 院 が平 成20年10月22日 年1月14日. か ら平 成21年1月13日. ま で で,通 院 が平 成23. ま で続 い て い る。 この よ うに原 告 が精 神 的 に不 安 定 な状 況 に あ る場. 合 に,原 告 訴 訟 代 理 人 が原 告 の意 向 を汲 ん で示 談 交 渉 を積 極 的 に進 あ,そ れ以 上 に訴 え の提 起 ま で踏 み込 あ るか は疑 問 で あ る。 な お,PTSDの 苦 痛(purelymentaldistress)に. よ うな精 神 的. つ い て,モ ン トリオ ー ル条 約 の下 で は,旅 客. の身 体 的傷 害 を伴 わ な い場 合 に は,運 送 人 は,賠 償 責 任 を 負 わ な い可 能 性 が高 い が,本 件 の よ うに,身 体 的傷 害 が伴 う場 合 に は,賠 償 責 任 を 負 う と解 され て 51.

(18) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. い る25。 ③. 被 告 第 二 準 備 書 面 に よ る と,モ ン トリオ ー ル条 約 第35条2項. の 「1に 規. 定 す る期 間 の計 算 方 法 は,訴 え が係 属 す る裁 判 所 に適 用 され る法 令 に よ って決 定 す る」 旨の規 定 に つ き,こ れ は,日 本 法 が適 用 され た場 合 に,例 え ば,年 に よ って期 間 を定 あ た とき は,期 間 の初 日は算 入 しな い とい う もの で あ る と主 張 す る。 しか し,こ れ は,民 法 第143条 に基 づ き,日 本 の 国 内法 が期 間 を定 め た場 合 の解 釈 ・適 用 で あ って,条 約 の規 定,し. か も条 約 の正 文 で は な い 日本 語 訳 に. そ の ま ま該 当 す るわ け で は な い。 一 例 を挙 げ れ ば,条 約 第17条 に お い て運 送 人 が責 任 を 負 うに は,旅 客 の 死 傷 損 害 の 場 合,そ の原 因 と な っ たaccidentが 機 上 等 で生 じた こ とが条 件 と され るの に対 し(1項),手 の場 合,そ の 原 因 とな ったeventが し(2項),正. 航空. 荷 物 の損 傷 に よ る損 害. 航 空 機 上 等 で生 じた こ とが条 件 と され る と. 文 の英 語 で は旅 客 と手 荷 物 で 区別 して規 定 され て い る。 と ころ が. 公 式 の 日 本 語 訳 で は,ど. ち ら も事 故 と 訳 さ れ て い る。accidentあ. るいは. event26は 運 送 人 の責 任 の有 無 を決 定 づ け る重 要 な 用語 で あ る に もか か わ らず, 定 義 規 定 が な い た め,条 約 の 解 釈 ・適 用 を巡 っ て争 い が あ る。 こ の場 合 と 同 様,期. 間 の 計 算 方 法 に つ いて も,モ ン ト リオ ー ル 条 約 の 制 定 趣 旨 に の っ と り,. 法 廷 地 法 の解 釈 に委 ね られ て しか るべ き で あ る。 ④. 交 渉 継 続 の有 無 に つ い て は,事 実 認 定 に か か わ る問題 で もあ り,交 渉 経. 過 に 関 す る原 告 準 備 書 面(2)にお い て詳 述 され て い るの で,私 見 を差 し控 え る。 た だ,上 述 の よ うに,原 告 が 負傷 に よ る後 遺 症 で精 神 的 に不 安 定 な状 況 に あ る場 合,そ. の症 状 の程 度 に もよ るが,原 告 訴 訟 代 理 人 が原 告 の意 向 を汲 ん で示. 談 交 渉 を積 極 的 に進 あ,更 に は訴 訟 代 理 人 と して独 自の判 断 で訴 え の提 起 ま で 踏 み込 あ るか は,普 通 の感 覚 で は考 え に くい こ とだ け は指 摘 で き るで あ ろ う。. 25小. 林 登 「一 九 九 九 年 モ ン ト リオ ー ル条 約 に お け る 国 際航 空 運 送 人 の責 任 一 旅 客 運 送 責 任 に 関す る. 規 定 を 中心 と して一 」 空 法 第42号26頁 ∼28頁 参 照)。. 52.

(19) 法科大学院論集. (4)結. 第9号. 論. 第 一 意 見 書 で述 べ た よ うに,本 件 の よ うな人 身 損 害 の場 合,モ 条 約 の制 定 趣 旨を尊 重 す るな ら,身 体 的 傷 害 に伴 うPTSDの. ン トリオ ー ル. 症 状 固定 ま で提 訴. 期 間 が進 行 しな い と解 す る余 地 が あ る。 そ の解 釈 上 の根 拠 は上 述 の よ うに,同 条 約 第35条2項. に見 出 し う る。 本 件 の場 合,被 告 との 間 で事 故 直 後 か ら損 害 賠. 償 に つ い て交 渉 して お り,訴 訟 を前 提 に した交 渉 が継 続 して い る と認 め られ る な ら,そ の交 渉 が続 く間,提 訴 期 間 は進 行 しな い と解 す べ き で あ ろ う。 仮 に交 渉 の 中 断 が あ った と推 認 で き る場 合 に は,そ の交 渉 中 断 の原 因 が交 渉 当 事 者 の い ず れ に あ った か を 考 慮 す べ き で あ る。 も し本 件 の 原 告 の よ う に, PTSDの. た あ交 渉 継 続 が期 待 で き な い場 合 や被 告 側 の不 誠 実 な対 応 の た め2年. の提 訴 期 間 を徒 過 した よ うな場 合 に は,モ. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の適 用. に よ り,損 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 しな い特 段 の事 情 が あ る と判 断 す べ き で あ る。 第 一 意 見 書 に お い て,本 件 人 身 事 故 の状 況 か ら原 告 の損 害 賠 償 請 求 権 が2年 の 除斥 期 間 の経 過 に よ り消 滅 した と主 張 す るの は信 義 則 に反 す る こ と,ま た そ の交 渉 の進 展 が な い の は被 告 の 不 誠 実 な 対 応 に あ る こ と な どを 指 摘 した と こ ろ,被 告 第 二 準 備 書 面 に お い て,被 告 側 に は不 誠 実 な対 応 で な か った と主 張 し て い る。 不 誠 実 な対 応 で あ った か ど うか は,相 対 的 で あ り,日 本 の航 空 会 社 な ら この よ うな対 応 は しな か った の で は な か ろ うか。 モ ン トリオ ー ル条 約 の利 用 者 の利 益 保 護 の確 保 とい う観 点 か らい え ば そ の よ うに評 価 せ ざ るを得 な い27。 本 件 の場 合,仮 に交 渉 継 続 の 中断 が 認 め られ る と して も,原 告 にPTSDの. た. あ交 渉 継 続 が難 しい事 情 に あ り,か つ被 告 航 空 会 社 側 に不 誠 実 な対 応 が み られ るの で,モ. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の適 用 上,損 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 しな. い特 段 の事 情 が あ る と考 え るべ き で あ ろ う。. 26eventは,事 27後. 実 あ る い は 出 来事 と訳 さ れ る が,accidentよ. 述 の よ う に,大. 阪地 裁 判 決 で は,「 被 告 の 対 応 は,誠. 定 さ れ て い る。. 53. り広 い概 念 で あ る。 実 性 に 欠 け る とい わ ざ るを 得 な い 。」 と認.

(20) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. 六. の提 訴 期 限 の法 的性 質. 本件大阪地裁判決の概要. 本 判 決 は,争 点 を(1)被告 の責 任,(2)原 告 の損 害 の額,(3)本 件 条 約 第35条1項 の法 的性 格 の3つ に分 け て 当事 者 の主 張 を整 理 し,以 下 の よ うに判 断 した。. (1)被 告 航 空 会 社 の責 任 に つ い て 「被 告 の従 業 員 で あ り,被 告 航 空 機 を 操 縦 して い た第 二 機 長 が,一 部 過 剰 と な った操 縦 操 作 を した とい う事 業 の執 行 に つ い て の過 失 に よ って本 件 事 故 を惹 起 した と認 あ られ るか ら,本 件 条 約 第17条 及 び第29条,民 法 第715条 に よ り,被 告 は,本 件 事 故 に よ って原 告 に生 じた損 害 を賠 償 す る責 任 を 負 う。 な お,本 件 条 約 第17条 及 び 第21条 に よ れ ば,11万3,100引. 出権 ま で の 賠 償 につ い て は無 過. 失 責 任 で あ る と認 あ られ る。」 と判 示 した 。. (2)原. 告 の損 害 の額 に つ い て. 原 告 の 請 求 額4,575万1,448円 件 事 故 日 の 平 成20年2月10日 訳 は,治. に 対 し,1,235万8,284円. 以 降 の遅 延 損 害 金 と と もに支 払 を命 じた。 そ の 内. 療 関 係 費85万4,720円,入. 院 雑 費26万8,500円,通. 付 添 看 護 費 及 び 近 親 者 交 通 費18万 円,後 慰 謝 料295万. 円,後 遺 障 害 慰 謝 料280万. 告 の 請 求 額 の 約4分 は,被. 告 が4分. の1を. の1強. 院 交 通 費8万3,800円,. 遺 障 害 逸 失 利 益422万1,264円,入. 円,弁 護 士 費 用100万. 負 担 し,原. 告 が4分. の3を. 念 し た よ う で あ る。. 54. 通 院. 円 と な っ て い る。 原. し か 損 害 賠 償 金 が 認 あ ら れ な か っ た た あ,訴. と し て は 損 害 賠 償 金 の 算 出 に 不 満 が あ り,控 訴 し な か っ た た あ,断. の 損 害 賠 償 金 を 認 あ,本. 訟費用. 負担 す る もの と され た。 原 告. 訴 す る余 地 が あ っ た が,被. 告 が控.

(21) 法科大学院論集. (3)本 件 条 約 第35条1項. 第9号. の法 的性 格 に つ い て. この争 点 は,本 件 の核 心 部 分 に 当 た るか ら,正 確 を期 す た あ,少. し長 くな る. が,重 要 な部 分 に下 線 を して 引用 す る。 「本 件 条 約 中 の 本 件 条 項(第35条1項,以. 下 同 じ)の 適 用 に あ た って は そ の. 文 脈 に よ りか つ そ の趣 旨及 び 目的 に照 ら して与 え られ る用 語 の通 常 の意 味 に従 い,そ の解 釈 を す るの が相 当 で あ る(条 約 法 に 関 す る ウ ィー ン条 約31条1項. 参. 照)。 と ころ で,除 斥 期 間 は法 令 上 の用 語 で は な く,講 学 上 の用 語 で あ って,そ の 内容 や性 質 に つ い て消 滅 時効 との相 違 点 と して,中 断 が認 あ られ な い こ と及 び 当事 者 の援 用 が不 要 と され て い る こ と以 外 に つ い て は必 ず し も定 説 が あ るわ け で は な く,ま た,諸 外 国 に お い て 除斥 期 間 や消 滅 時効 な ど概 念 自体 や そ の 内容 や性 質 が必 ず し も同 じ とは い え な い こ とか らす れ ば,本 件 条 項 が 除斥 期 間 を定 あ た もの か消 滅 時効 を定 あ た もの に よ って そ の 内容 や性 質 が直 ち に定 ま る もの で は な い。 ま た,… … 当事 者 間 の合 意 に お い て本 件 条 項 の適 用 を しな い こ とが 可 能 で あ る と解 す る余 地 が あ るか ら,本 件 条 項 の期 間 を職 権 で判 断 す べ き と さ れ る もの と もい え な い。 そ こで,ま ず,本 件 条 項 の文 理 に つ い て み る に,2年 の期 間 内 に訴 え が提 起 さ れ な い場 合 に は,損 害 賠 償 を請 求 す る権 利 が消 滅 す る と され るの み で あ る。 同 期 間 が,例 え ば請 求 や承 認 な どに よ り中 断 な い し停 止 され た り,あ るい は延 長 され るな どの規 定 は置 か れ て い な い の で,上 記 期 間 の 中 断 な い し停 止 や延 長 が 予 定 され て い る とは考 え が た い。 も っ と も,本 件 条 約 第35条2項. が,期 間 の計 算 方 法 は,訴 え が係 属 す る裁 判. 所 に適 用 され る法 令 に よ って決 定 され る と され て い る こ とか ら,そ の 中 断事 由 等 につ い て,法 廷 地 法 に委 ね た と解 す る余 地 が な い で は な い。」 と し,そ の よ うな 解 釈 が で き るか ど うか につ き,甲 第26号 証(第 一 意 見 書),第30号 二 意 見 書),第. 証(第. 一 意 見 書 で 引 用 した グ ァ テ マ ラ市 外 交 会 議 の 議 事 録28の ほ か, 55.

(22) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. 1929年 ワル ソー 条 約 第29条 の 予備 草 案 につ いて 言 及 す る 関 口雅 夫 教 授 の資 料29 や フ ラ ンス の判 例 の対 立 に つ い て紹 介 す る前 記 の 山 崎悠 基 教授 の論 文30な どを 参 照 しな が ら,本 件 条 項 の採 択 会 議 の議 論 の経 緯 を踏 ま え て検 討 して い る。 「本 件 条 項 は,ワ ル ソ ー条 約 第29条1項. を承 継 す る規 定 で あ る と こ ろ,ワ ル. ソー条 約 第29条 は,… … 中 断事 由 の列 挙 が な い な ど本 件 条 項 と共 通 す る部 分 が 多 い。」が,「採 択 会 議 に お い て,期 間 の停 止 と中 断 の事 由 が各 国 に お い て異 な っ て い る こ と等 か ら,停 止 や 中断 を認 め な い こ と とす る必 要 が 指 摘 さ れ た 結 果, 上 記 条 項(ワ. ル ソー条 約 第29条1項)に. 変 更 され た。」 と述 べ,そ の 後,「1971. 年 の グ ァテ マ ラ議 定 書(未 発 効)を 作 成 す る会 議 に お い て,ワ ル ソー条 約 第29 条 につ いて 諸 外 国 の 裁 判 例 に お い て,そ の 解 釈 が 分 か れ て い た こ とを 受 けて, そ の解 釈 を 明確 に す るた あ,同 条 項 に つ い て 「二 年 の期 間 は い か な る理 由 で あ れ,中 断 あ る い は停 止 しな い もの とす る。」 と追 加 修 正 す る提 案 が され た。 しか し,責 任 期 間 の 中 断 は,未 成 年 者 が 関係 す る場 合 及 び賠 償 が 医療 費 用 に左 右 さ れ,2年. 以 内 に提 訴 で き な い場 合 の不 都 合 や,運 送 人 が29条 所 定 の期 間 を延 長. す るの を合 意 で き な くな るな どの 問題 点 が指 摘 され,同 提 案 は撤 回 され た。 そ の他 に作 成 さ れ た 議 定 書 に お い て も同 文 言 の変 更 は 行 わ れ な か った。」 そ して 「本 件 条 約(モ. ン トリオ ー ル 条 約)の 採 択 に お いて,ワ. ル ソー 条 約 第29条1項. の前 記 規 定 が,本 件 規 定 に文 言 が変 更 され,継 承 され た。」 と述 べ る。 以 上 の 「経 緯 に お い て も法 廷 地 に お け るそ れ ぞ れ の法 に基 づ き 中 断 な い し停 止 を 認 め る方 向 で 議 論 され た とは い え な い こ とに か ん が み れ ば,本 件 条 項 が, 法 廷 地 に定 あ る消 滅 時効 に つ い て の 中 断事 由 を適 用 す る こ とが予 定 され た規 定 で あ る と解 す る こ とは で き な い。 本 件 条 約 第35条2項. 28前. 掲 注4参. 29関. 口雅 夫 「ワ ル ソ ー条 約 関連 資 料(第. 駒 沢 大 学 法 学 論 集37巻37頁 掲 注5参. の期 間 を計 算 す. 照。 一 部)1929年. に ワ ル ソ ー条 約 で 開催 さ れ た第2回. 空 私 法 会 議 に提 出 さ れ た 国 際 航 空 法 専 門委 員 会(CITEJA)の. 30前. は,2年. ∼70頁(昭. 和63年)。. 照。. 56. 国 際航. 条 約 予 備 草 案 及 び 二 の 関連 文 書. 」.

(23) 法科大学院論集 る に あ た っ て,年. の 計 算 を12か 月 を 単 位 と し て 行 う の か,日. 第9号. 数(365日)を. 単. 位 と して行 うの か,日 数 とす る場 合 に初 日を参 入 す るの か とい った専 ら計 算 方 法 の 問題 を本 件 条 約 の締 約 国 の 関連 法 令 に委 ね る こ とを定 あ た もの と解 す るべ き で あ る。 した が って,法 廷 地 法 で あ る民 法 に規 定 され た消 滅 時効 に つ い て の 中 断事 由 を本 件 に適 用 す る こ とは で き な い。 ま た,本 件 条 項 は,明 文 で そ の期 間 の起 算 日を定 あ て い るの で あ って,上 記 と同様 に法 廷 地 法 の解 釈 を も って起 算 日を症 状 固定 時 と解 す る こ と もで き な い。 前 記 の 「経 緯 を み る と,本 件 条 項 の2年 の期 間制 限 を い か な る場 合 に も形 式 的 に適 用 しな け れ ば な らな い こ とま で も本 件 条 項 が規 定 して い る もの とは解 さ れ な い。 本 件 条 約 が,国 際航 空 運 送 に お け る消 費 者 の利 益 の保 護 を確 保 す る こ との重 要 性 及 び喪 失 利 益 の 回復 の原 則 に基 づ く衡 平 な賠 償 の必 要 性 と,国 際航 空 運 送 事 業 の整 然 と した発 展 並 び に旅 客 等 の 円滑 な移 動 等 との,均 衡 を は か る こ とを趣 旨 と した こ とか らす れ ば,国 際航 空 運 送 に お け る消 費 者 の利 益 の保 護 と国 際航 空 運 送 事 業 の発 展 との 間 の均 衡 を著 し く失 し,不 合 理 な結 論 を もた ら す場 合 に は,本 件 条 項 は適 用 され な い と解 す べ き で あ る。」 本 件 に お け る原 告 と被 告 の交 渉 経 過 を示 した後,「 要 す る に,上 記 経 過 は,原 告 が治 療 費 等 の金 額 を確 定 す る こ とが原 告 の症 状 に照 ら して未 だ 困難 で あ る こ とを 明示 した上 で と りあ え ず治 療 費 に つ い て の病 院 へ の直 接 払 い を依 頼 して い るの に対 し,被 告 が証 拠 の提 出 を要 求 す る と と もに相 当 因果 関係 の あ る損 害 に つ い て は支 払 を検 討 す る 旨伝 え,原 告 の被 告 に対 す る損 害 賠 償 請 求 権 に つ い て 証 拠 を 出 せ ば応 じ る姿 勢 を示 す一 方 で,PTSDの. 治 療 費 につ い て は,本 件 事 故. との 因 果 関 係 に疑 問 を抱 い て い る こ とを 表 明 し,最 後 の文 書 に至 って,PTSD の治 療 費 に つ い て は支 払 は拒 絶 す る 旨の連 絡 を した とい う もの で あ る。 以 上 に よ れ ば,被 告 は,本 件 条 項 の規 定 に い う 「到 達 の 日か ら2年 間」 が被 告 航 空 機 の到 達 日で あ る平 成20年2月10日 る こ と を 十 分 に 認 識 しつ つ,そ. の2年. か ら2年 後 の平 成22年2月10日. であ. の 経 過 の 直 前 で あ る平 成22年1月13日 57.

(24) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. に,原 告 の損 害 額 が未 だ 当分 は確 定 で き そ うに な い こ とを予 測 で き た こ とが認 あ ら れ る。 に も か か わ ら ず,被. 告 は,PTSD以. る姿 勢 を 示 し た の で あ る か ら,原 告 に,少. 外 の損 害 に つ い て は支 払 に応 じ な く と もPTSD以. 外 の損 害 に つ い て. は将 来 支 払 に応 じて も らえ る との期 待 を抱 か せ る こ とに な った こ とは 明 らか で あ る。 しか し,被 告 は,本 件 訴 え に お い て本 件 事 故 に よ って原 告 に生 じた損 害 に つ い て 一 切 支 払 わ な い 姿 勢 を 示 す に 至 っ て い る 。 … … 原 告 の 損 害 に は,. PTSD等. 精 神 症 状 に よ る もの も含 まれ て い るが,小 腸 破 裂 等 の外 傷 に直 接 結 び. つ く損 害 額 だ け で も多 額 に上 るの で あ り,被 告 が原 告 に,本 件 条 項 に つ い て積 極 的 に虚 偽 の事 実 を述 べ るな ど した事 実 は な い こ とは 明 らか で あ るが,上 記 の 被 告 の対 応 は,誠 実 性 に欠 け る とい わ ざ るを得 な い。 ま た,本 件 は,原 告 と被 告 との 間 が没 交 渉 で あ って原 告 が賠 償 を求 め な い ま ま2年 の期 間 が経 過 し,被 告 と して は もは や損 害 の請 求 は され な い もの と思 っ て い た とい うよ うな事 案 で は な い。 原 告 が治 療 を続 け て い た こ とを被 告 は知 ら され て お り,被 告 に対 して と りあ え ず必 要 な治 療 費 の支 払 を求 あ て い た こ とか らす れ ば,平 成22年1月13日. を も って原 告 は被 告 に対 して損 害 賠 償(の 請 求 を). す る意 思 を失 い,そ の交 渉 が 完 了 した と思 え る よ うな事 情 は一 切 な く,被 告 は, 原 告 が損 害 賠 償 の請 求 を す る意 思 を失 って い な い こ とを認 識 して い た もの と認 あ ら れ る。 仮 に,原. 告 が 平 成22年2月10日. 以 前 に訴 え の提 起 に至 って い た と し. て も,原 告 の症 状 固定 を待 ち,請 求 の趣 旨を拡 張 し,請 求 原 因事 実 を追 加 変 更 な どす る こ とが必 要 に な った こ とが 明 らか で あ って,訴 訟 が早 く進 行 して早 期 の紛 争 解 決 が期 待 で き た とは い え な い。 以 上 の事 実 に よ れ ば,本 件 条 項 を適 用 しな い こ とで,被 告 に不 測 の損 害 を も た らす と ころ は な い。 一方. ,原. 告 は,被. 告 に 対 し,PTSDの. 診 断書 を送 付 す るな ど して被 告 に対 す. る支 払 を請 求 し,交 渉 が継 続 中 で あ った と認 識 して い た こ と,症 状 固定 に至 っ て お らず,精 神 科 等 に お け る治 療 を続 け て精 神 的 に安 定 しな い状 況 の ま ま未 だ 58.

(25) 法科大学院論集. 第9号. 損 害 が拡 大 しつ つ あ り,代 理 人 との 間 で も冷 静 に交 渉 の方 針 を決 定 し難 い状 況 に あ っ た こ と な ど が 認 あ ら れ る。. 以 上 の事 情 を総 合 考 慮 す れ ば,本 件 に お い て,原 告 が2年 の期 間 内 に訴 え を 提 起 しな か っ た こ と につ い て,被 告 の 責 任 を 免 除 す る本 件 条 項 を適 用 す る の は,国 際航 空 運 送 に お け る消 費 者 の利 益 の保 護 と国 際航 空 運 送 事 業 の発 展 との 間 の均 衡 を著 し く失 し,不 合 理 な結 論 を もた らす特 段 の事 情 が あ る とい うべ き で あ る。 ま た,本 件 の事 情 の下 で は,そ. う解 して も衡 平 な賠 償 の必 要 性 に反 す. る事 態 に もな らな い。 以 上 に よ れ ば,本 件 に お い て は,本 件 条 項 は適 用 され な い と解 す べ きで あ り, 原 告 の損 害 賠 償 請 求 権 は消 滅 した とい え な い。」. 七. 本件大阪地裁判決の分析 と評価. 本 判 決 は,1999年. モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. に つ い て,本 件 の よ うな人. 身 損 害 に対 し,同 条 項 所 定 の2年 の タ イ ム リ ミッ トを適 用 した場 合,不 合 理 な 結 果 を招 く こ とを考 慮 し,モ ン トリオ ー ル条 約 が企 図 と した衡 平 の思 想 に依 拠 して,本 件 の よ うな 「不 合 理 な結 論 を もた らす特 段 の事 由 が あ る場 合 に は,本 件 条 項 は適 用 さ れ な い と解 す べ き で あ る。」 と注 目す べ き判 断 を 示 した。 しか も,原 告 の損 害 賠 償 請 求 は認 あ た の で,原 告 の実 質 勝 訴 で は あ るが,損 害 賠 償 金 は,前 記 の よ うに請 求 額 の4分 の1強 に圧 縮 され た の で,原 告 ・被 告 双 方 の 痛 み分 け とな り,両 当事 者 の控 訴 を思 い と どま らせ る こ とに な った。 結 果 的 に 紛 争 の早 期 解 決 を もた ら した とい う意 味 で配 慮 の行 き届 い た絶 妙 の判 決 で あ っ た よ うに思 わ れ る。 とは い え,争 点 の 中心 は,モ で あ り,統 一 条 約 の性 質 上,国. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の解 釈 ・適 用 問題. 内法 の解 釈 ・適 用 とは異 な る配 慮 もな され な け. れ ば な らな い。 国 際航 空 運 送 の統 一 私 法 条 約 と して多 数 の 国 が加 入 して い るモ 59.

(26) 1999年 モ ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の提 訴 期 限 の法 的性 質. ン トリオ ー ル条 約 の解 釈 ・適 用 と して,日 本 独 自の見 解 で あ って はな らず,国 際 的 に是認 され る もの で な けれ ば な らな い。 そ の見 地 か ら若干 の考 察 を試 み る。 本 判 決 は,モ. ン トリオ ー ル条 約 第35条1項. の法 的性 質 を巡 って,幾 つ か の注. 目す べ き示 唆 を与 え て い る。 第 一 に,本 件 条 項 の適 用 に あ た って,除 斥 期 間 と消 滅 時効 の相 違 点 を示 した 後,「 本 件 条 項 が 除 斥 期 間 を定 め た もの か 消 滅 時効 期 間 を定 め た もの か に よ っ て そ の 内容 や性 質 が直 ち に定 ま る もの で は な い。」 と し,「 当事 者 間 の合 意 に お い て本 件 条 項 を適 用 しな い こ とが可 能 で あ る と解 す る余 地 が あ るか ら,本 件 条 項 の期 間 を職 権 で判 断 す べ き と され る もの と もい え な い。」 とす る。 この 点 は, 運 送 人 が2年 の期 間 を延 長 す る こ とを合 意 す る場 合 の み可 能 と され るの で あ っ て,逆 に運 送 人 が運 送 約 款 等 に よ って そ の期 間 を短 縮 す る こ とは,同 条 約 第26 条(契 約 上 の規 定 の無 効)の 適 用 上,許 第 二 に,本 件 条 項 の2年. され な い。. の期 間 の 中 断 ・停 止 ・延 長 の 可 否 に つ い て,「 同期. 間 が,例 え ば請 求 や承 認 な どに よ り中 断 な い し停 止 され た り,あ るい は延 長 さ れ るな どの規 定 は置 か れ て い な い の で,上 記 期 間 の 中 断 な い し停 止 や延 長 が予 定 され て い る とは考 え が た い。」 とす る一 方,「 本 件 条 約 第35条2項. が,期 間 の. 計 算 方 法 は,訴 え が係 属 す る裁 判 所 に適 用 され る法 令 に よ って決 定 され る と さ れ て い る こ とか ら,そ の 中 断事 由等 に つ い て,法 廷 地 法 に委 ね た と解 す る余 地 が な い で は な い。」とす る。 しか し,本 件 条 項 の採 択 会 議 の議 論 の経 緯 を踏 ま え て,「 法 廷 地 に お け る それ ぞ れ の 法 に基 づ き 中 断 な い し停 止 を認 め る方 向 で議 論 され た とは い え な い こ とに か ん が み れ ば,本 件 条 項 が,法 廷 地 に定 め る消 滅 時効 に つ い て の 中 断事 由 を適 用 す る こ とが予 定 され た規 定 で あ る と解 す る こ と は で き な い。 本 件 条 約 第35条2項. は,2年. の期 間 を計 算 す るに あ た って,年 の. 計 算 を12か 月 を単 位 と して 行 う の か,日 数(365日)を. 単 位 と して 行 う の か,. 日数 とす る場 合 に初 日を参 入 す るの か とい った専 ら計 算 方 法 の 問題 を本 件 条 約 の締 約 国 の 関連 法 令 に委 ね る こ とを定 あ た もの と解 す るべ き で あ る。 した が っ 60.

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