スエズ運河紛争問題
著者
郡司 喜一
雑誌名
東洋法学
巻
1
ページ
47-74
発行年
1957-11
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007746/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaギ リ ス 、 開催された。
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題
目 次 は 会主 き L 欧亜南縁諸国の一般動向 国 有 化 に い た る 経 緯 四 スエズ運河の実体 五 アスワン・ハイ・ダム建設の尉政的可能度 -L・ ノ 、 主 要 国 の 態 度 七 スエズ運河問題と国際連合 /司、 結 びは
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本論文集の編ざんが発表された八月下旬、 フランスは武力の行使も辞さないという態度をとったが、 ス忌ズ運河紛争問題君
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スエズ運河国有化の問題で世界は異常の緊張を一示し、 イ アメリカの斡旋でロンドン会議が八月十六日から 四七東 洋 法 学 四 /司、 本論文集の材題としては不適当かも知れないが、 済、法律に関連する大きな問題であるので取上げることにした。 この問題は実に朝鮮戦争以来の国際緊迫振りを一示し、 政治、経 これはエジプト会社の固有化の問題であるからエジプト政府が決定し得ることであるが、 その管理等は一八八八年 のコンスグンチノ l プル条約によって規定されているので、単純にエジプトの国内事項ではなく、運営方法について は関係諸国の協定を要する国際問題であることは論をまたない。 これを無視してエジプトが単独で運河を収用し管理 しようとする所に国際法違反がある。英仏両国が強硬な抗議を行い、 かつエジプトの資産を凍結したことは復仇行為 として当然であろう。 伝えられる所によれば英仏は武力の行使をも辞さないとのことであるが、武力の行使は国際法上原則として許され ていない現状において、 その意図する所がなんであるか判明しないが、恐らくこれは法律上も世論の上からも許し難 いので、大体平和的の解決方法をとるより外に方法がないであろう。そして実際にその方向に進んでいる。 ロンドン会議においては現在ハ八月下旬)、 二十二ヶ国が参集して、米国案、 インド案などが討議され、大体平和的 解決の方向に進んでいるが、今後の成行がどうなるかは勿論逆賭し得ない。恐らく提案に対する幾多の修正補修等迂 余曲折を見るであろうが、これについてニューズ的の報道を掲げることは本稿として不可能であるとともに、またそ の目的でもない。本稿の目的は主として本紛争の基盤的、背景的事実とも見られるような不変的、不可動的のファク ターとして、欧亜南縁諸国の一般動向、紛争の起った経緯、スエズ運河の実体、アスワン・ハイ・ダム建設について のエジプトの財政的可能度、紛争に対する主要国の態度、およびスエズ運河問題と国際連合との関係などを述べて参 考に資するに過ぎない。
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南縁諸国の一般勤向 地が政治的に独立を獲得し、民衆が久しく忘れていた自主的精神を取りもどし、しかもその自主性を裏づける経済的 向上がそれに伴なわないならば、多くの新しい独立国が世界地図の上に出現したことは、かえって世界秩序の安定を 第二次世界戦争の結呆、従来の植民地の多くは政治的独立をかちえた。しかし植民 おびやかすことになる恐れがある。 北部アフリカから近束、西南アジア、南東アジアを経て極東にいたる欧亜大陸の南縁地帯の各地に民族主義の燐火 が上り、国際連合を悩ますような抗争の嵐をまき起している背後には、常に経済問題が伏在し、経済的自立への要求 が抗争の大きな理由となっている。 後進地域の経済開発が、氷い間閑却され、そこでの資源が専ら先進諸国の利益のために利用され、その地域の住民の 生活が人間の尊厳に値しない低水準のままに止っていることが平和を脅す癌であることは明らかである。このような 実情に立脚して考えるとき、後進地域の経済開発を促進し、そこでの生活水準の向上をはかることは、単なる人道問 題よりも造に切実な平和のための急務である。国際連合はここに着目し、後進地域の開発を以て平和維持の基礎案件 としたことは正しき狙いであった。 かかる見地から国連の経済社会理事会の下部機構であるヨーロッパ経済委員会(
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、 一 フ テ y ・アメリカ経済 委員会(
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、およびアジア極東経済委員会(
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、ならびに専問機関である国際復興開発銀行、国際 通貨基金、更に国連以外の英連邦のコロンポプ一フン、アメリカのポイントフォア計画などが、開発資金と技術の導入 に努力して平和維持の基礎条件を確立しようとしている。 しかし、戦後、政治的独立を獲得したアジアその他の諸国は、従来の植民地的従属経済の段階から急速に脱却する スエズ運河紛争問題 四 九東 洋 法 学 E O ためには‘近代工業、特に重工業の発達を必要とすると考え、他方援助国方面では一足とぴに近代産業の段階に飛躍 する前に、近代工業化を可能ならしめるような社会的条件の整備を必要とすると主張して、経済援助も未だ満足に進 捗していない。 な か っ た の で 、 こうして事態は遅々として進展を見ない現状に乗じてソ連の潜行的活動がある。マルクス理論に基ずく革命が起ら レ 1 2 v J は革命思想が独占金融資本による植民地の被圧迫民族 これを修正したのがレ l -一 ン で あ る 。 の中にうっせきし、それが独立運動や解放戦争となって火の手を上げることになると明言した。最近、とくに第二次 世界戦争以後の共産主義運動が先進諸国の植民地であった後進地域を主たる舞台として展開し、それが激烈な民族主 義と結合して、国際平和の基礎をゆり動かしつつあるはレ l 一 一 Y の帝国主義理論によって大きく転針した国際共産主 義の戦略転換のあらわれに外ならない。 スエズ運河固有砧問題は直接には昨年一二月、 イ ギ リ ス 、 アメリカ両国がアスワン・ハイ・グムの建設のために資 金援助を申出で、後にエジプトの現状では実現困難であるという理由で撤回したことに原因している。しかしこの紛 争は戦後欧亜南縁の諸国に頻発している後進国と先進国との聞の一連の紛争事件の一環と見ねばならぬ。それは先進 国の抱く憤習的思想と行動に対する、新しく復活したはげしい民族主義の反抗であり、西欧諸国の保持する経済的利 益と後進国の反植民地主義との衝突であると見なければならぬ。しかもその際、二つの世界の対立に由来する共産主 義運動と、防共的政策との衝突が拍車をかけている事実を見逃し得ない。 戦後欧亜南縁の植民地が独立し、 これを失ったイギ
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スとしてはペルシャ湾地域における石油資源の保持と、イラ グ方面の残春勢力を極力維持しようとする。フランスはその生命線北アフp
カをカイロから防止しようとする。ここに両国の利害は一致したが、 アメリカは伝統的な反植民主義と反共産主義対策から南東アジアおよびア一フプ諸国の悪 感情を努めて避けようとして彼等の国家主義を是認する。 こうして西欧側においても決して心からの一致はないが、 ともかくその大目的のために表面一応歩調をともにしているが、 これら政策の縫目を伝うて巧みに共一産主義の浸透が 続けられている。 イ ズ 一 フ エ ル 、 アラブ諸国間の紛争にしても、 イラン石油問題にしても、今度のスエズ運河問題にしても、 こうした 背景が伏在していることは見逃しえない。 固有化にいたる経緯 エジプトにおいては一九五二年七月、当時三四才の青年陸軍中佐ガマル・アドベル・ナ セル(の
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を首領とする軍闘が無血グ l プを行い、税政続出のファログ王(間宮岡司ω
円 。 ロ W ) を 追 放 し た 。 更に一九五四年七月、 このナセルの革命政府は中東における安定政府となるであろうとの西欧側の希望と信念に副 っ て 、 イギリスはスエズ運河地帯から軍隊を撤去する協約に調印した。調印の目、 ナセル首相は﹁エジプトとイギリ スおよび西欧諸国との間に相互的信用信頼ならびに協力を基盤とする友好関係を持つ新しい時代﹂の開始を華々しく 表明したのであった。 ところが本年七月に至り永い聞の反西欧的行動の後、 ナセルは遂に協力の希望を破砕してしまったと伝えられた。 エジプトの、氷年の宿望であるアスワン・ハイ・グムの財政的援助をアメリカとイギリスが拒否したので、 これに対す る憤激的反動として、 ナセルはスエズ運河を押収した。ウォシントン、 ロンドン、バりが反抗的態度を示したことは スエズ運河紛争問題 五東 洋 法 学 主 ナセルの民族主義がエジプトの西欧との関係を危殆ならしめたことは明瞭である。 スエズ運河に最も大きな利害関係のあるのはイギ
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スとフランスであることは周知の事実で、この両国が運河に関 連を持った経緯は後で述べるとし、運河は一九六八年に至るまでの期限でエジプト政府の特許を得、期限到来ととも 会社の大多数の株主はフランス人で、 勿 論 で あ る 。 に無償でエジプト政府に帰属することになっており、 重役は主としてイギp
ス、フランス両国人である。 イギp
ス政府は株式の四四パーセントを所有し、最大の株主であり、運河経営に有力な発言権を持ち、会社収入の 最大の利益を収めている。 昨年の総収入は九、九OO
万 ド ル ハ 主 と し て 航 行 料 ﹀ 、 純 収 益 三 、 数は一億トン以上で、パナマ運河の二倍、四八ヶ国の船舶が使用し、イギリス一位、)
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万ドルに上っている。 年聞に航行するトン ア メp
カ二位となっている。 政治的に見ると、イギリスの運河に対する利益は全中東の門戸に対する鍵となっている。前世紀末までにイギp
ス の艦隊と陸軍とはその利益擁護のためにエジプトに進出し、同国から更にア一フプ諸国に波出され、中東におけるイギp
スの﹃特殊利益﹄を確保した。 の経費を以て基地、飛行場、兵器服、 第二次世界戦争によってイギリスはスエズ運河地帯に中東防衛の軸線を確立した。イギリスは同地帯に一O
億ドル 全施設の要員として八O
、000
人の軍隊を備え および通信施設を建設し、 た 。 エジプトにおける最も有力かっ執槻なカである民族主義運動の結果、その主要目標として、 プトはスエズのイギリス占領地を奪取した。イギリス政府はアメリカ政府の口添えに基申すいて遂にエジプト政府の要 一 九 五 四 年 の 末 、 コ ニ ジ求 に 応 じ 、 スエズの基地を手放し、本年六月最後の一兵が運河地帯から去った。 イギリスもアメリカも運河地帯の撤兵はア一フプの民族主義を緩和し、ア一フプ民族は共産主義に反抗して西欧と手を 握るものと想定した。然るにナセル首相はこのような西欧側の期待を破り、中立主義をとり、 種の取引を開始した。西欧諸国はそれでもエジプトに対して譲歩政策を続けてきた。 かつソ連プロックと各 昨年二一月末、更にエジプトの好意を獲得しようとしてアメリカとイギリスは、ア一ブプ諸国において最も記念的な 濯甑および発電事業であり、工費一三億ドルを要するアスワンにおいてナイル河に架するグムの建設を助けようと申 出た。即ち両国はナセル首相に対し、直ちに七、
000
万ドルの贈与と二億ドルの借款を申しいで、この金額を消費 した後更にその後の約束を暗示した。 ナセルとしてはアスワン・ダムの建設を非常に希望していた。これはエジプトの経済改革として広く宣伝した計画 の礎石でもあり、また全ア一フプ諸国に対する彼のダイナミックな指導の象徴でもあった。しかし彼は前ぶれとして西 欧を勧誘する手段としてロシアの申出をも考量していたとの流言が広まった。 ナセル大統領はアラブ民族に対する西欧側の譲歩的態度は、その弱体の印であると解釈したことは明らかである。 彼がロシア側に傾かない限りは、 イ ギp
スもアメりカも決して彼との聞に確執を生じないとの信念があったので、イ 一 フ ク 、 ジ ヨ ル ダ ン 、 フランス領北アフリカを含めたア一フプ世界から徐々に西欧諸国の勢力を駆逐する作戦を激化して い っ た 。 ところが彼の予想に反して西欧側の反感が昂じてくるとともに、 そのような戦術は決して得策でないことを表示す る西欧の決意もまた強固になってきた。 スエズ選前紛争問題 王東 津 法 学 王 国 昨 年 の 春 、 ア メ
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カとイギリスの政府はその全中東政策ならびに一二月に行ったアスワン・ダムに関する申出につ いて再検討を開始した。そうして遂にこの申出を撤去してしまった。そうなるとナセルとしてはロシアとの取引を行 ったことと思われるが、英、米両国政府としてはロシアがかかる巨額のグム建設援助を行いうるかどうかを疑問視しa
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可 、 、 u v 品 れ エジプト政府は遂に一二月申出を再考されんことをイギリス、アメリカ両国政府に申出たが、両国政府の態度は審 議の結果、確定しており、両政府とも現状の下ではエジプトのダム建設の能力は疑わしいとの理由で申出を拒否する ことに決定した旨を宣言した。 かくして西欧側はナセル政権に対する温情的支持から冷酷的拒否へと態度を変えてしまった。この拒否の事情を公 表 す る 際 、 アメリカ政府もイギリス政府もナセルの態度を攻撃したが、 この攻撃の結果ナセルの世評はエジプトにお いてもア一フプ諸国においても悪化した。 その後y
連外相シェピロフ ( ω H H O 司 口 。 ︿ ) は 、 ロシアはエジプトのダム建設を援助する意図はないと声明した。西欧 側はナセルの空威張を予想通りであるとして密かにほくそ笑んだのであった。 暫く沸黙を守っていたナセルは突然アメp
カ攻撃を開始し、新しい精油工場の寄贈式上y
連代表の面前で、アメリ カはエジプト経済の現状について虚言を弄したとして猛烈な攻撃演説を試み、そしてスエズ運河とその財産の国有化 を宣言した。その一一言葉の中に次のような文句がある。 ﹁この金はわれわれのものである。スエズ運河はわれわれの物である。これはエジプト人が建設したもので、 〉・ 1... のために一二O
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人のエジプト人が生命を失っている。 エ ジ プ ト の 三 、 五O
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万ポンド ( 一 億 ド ル ﹀ は毎年スエズ運河会社がわれわれから奪っている。われわれはダム建設のためにこの金を使用しようと思う。われわれは 自己の力、自己の筋肉、自己の基金に依侍する積りである。﹂ 彼は新しいスエズ運河会社を作る積りであるといい、更に﹁この新しい会社はエジプト人が経営する、 エジプト人 事、 -﹃ 4 μ
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l ・ エジプト人が!﹂と絶叫した。彼の演説をきいた数千のエジプト人は大きな拍手を以てこれを迎えたのであっ た 。 この宣言と同時に警察隊はアメリカ大使館前のカイロにあるスエズ運河会社事務所を収用し、軍隊は運河の地中海 端にあるポ l トセットの会社事務所、中間にあるイズメリアおよび南端のスエズを占領した。エジプトは更に運河地 帯に軍政をしき、会社従業員に対し許可なくして業務を去ることを禁じ、犯す者は長期禁鋼に処すると警告した。こ れはこれなくして運河操作を不可能ならしめる外国技術者の撤退を禁じたものである。 同時に商務大臣モハメッド・アプ l ・ ノ セ l ア( ζ
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はイギリス及びフランスから提訴する 国有ル刊についての訴訟はエジプト裁判所のみが管轄権を持ち、国際裁判所は何等の権限がないと宣言した。彼は更に 固有化は国際連合安全保障理事会の干渉への途を開いている﹁平和に対する脅威﹂であるとの指示を拒否し、かっ航 行は通常の如く持続するといった。しかし七月二十八日にナセルは外国の干渉について警告したことは、運河の閉鎖 をも考えたのではないかと思われる節もあった。 アラブ人の閣ではナセルの行動は大きな同情をもたらした。ア一アプ民族の各首都においては、彼の名誉のため行列 行進が行われ、 シp
アの新聞は大きな見出で﹁ナセル西欧を叩出す﹂との記事を掲げた。 この挙に対する西欧側の反動も直ちに現われた。イ l デン英首相もモレ仏首相も早速閣議を開き、 七月二十六日撤 スエズ運河紛争問題 王 五東 洋 法 学 五 六 宥の会議を続けた。二十七日イギリス政府はスエズ運河資産および全エジプト傍貨帳尻の凍結を行った。フランスも フランスのピノ 1 外相はエジプト大使に対し、運河の押収は奪略行為とも紘す 同様エジプト資産の凍結を実施した。 べ く 、 アルゼリア民族主義者に対するナセルの尻押よりも逢に重大なものであると言渡した。 アメリカにおいても国務省は米国に対するエジプトの誹段に抗議し、 マーフィー国務次官補はイ l デン首相との会 談のためにロンドンに飛び、グレス長官もその後ロンドンに赴いた。 今後西欧側がいかなる行動をとるにせよ、少くとも当分ナセルが運河を支配することは明瞭であるう。ただ問題は 彼がいかにこれを使用するかにある。収益を得んとせば運河の経営が必要である。技術者は多く外国人であって、 こ れは永くその業務に留ることを強制し得ない。運河の長期計画は増々大型となるタンカーと歩調を合せて運河の拡張 および竣深事業を要する。このためには巨大な資本支出を要するが、エジプトにはその能力がない。 し か し 、 ナセルは運河を西欧との取引の具に利用することは可能であるう。彼は運河を閉鎖する考は毛頭ない。も しそのような挙に出ずればアスワン・グムをム口なしにする恐れがあるからである。しかし、彼はスエズの航行を阻害 する方法、または航行料値上げの方法で西欧側から譲歩を得ょうと試みるかも知れぬ。しかしこの点についての彼の 行動の自由は無限ではない。特に石油を生産するア一フプ諸国は石油輸送に関する重大な妨害を理由に反動的に出る可 能 性 が あ る 。 西欧側にとっても取るべき手段はまた複雑である。次のようなことが考え得る。 国際連合への提訴 西欧側は既にスエズを﹁国際水路﹂として認めていることを明らかにしている。 エジプトに よるこの国際水路の押収は平和的運営に脅威を与えるものと見ている。 一八八八年のコンスグンチノ l プル条約は平
た。しかしエジプトに不利な決議に対しロシアが拒否権を行使することを考えるとき、 イ l デン英首相は既に国連安全保障理事会への提訴を考えていると下院で報告し ナセルはこの理事会を余り重 戦時の自由航行を保障している。 く見ないであろう。 国際司法裁判所への提訴 これも余り実行性はない。 エジプトが事件付託の意思がなければ、 この裁判所は管轄 権がないからである。 スエズ無視の行動 ニューヨークの石油関係業者は西半球の石油生産を強化し、 これによってヨーロッパの需要 を満たし、中東のタンカー船隊をしてケ l プグウ y を廻航せしめる方途を指示している。 このような代用手段はヨ l ロッバ諸国をして、その鬼大な石油需要のために僅少なドル準備金を使用せしめることとなる。更にこの方法はサウ ディ・アラビアにおけるアメ
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カ石油会社の持つ利権を危殆に陥入れるかも知れない困難が伴なう。 コ Y スタンチノ 1 プル条約の下では、運河航行の自由を保障するために地中海と紅海のスエズの両端 軍事行動 に軍艦を沃遣することができる。 フランスはイギp
スが協力するならば、ある種の軍事行動をとることに反対ではな いとしている。これは大方自衛権の行使として脅えているのであろうが、現下の国際状勢の下では重大な危険が伴な う で あ ろ う 。 更にこの問題と関連する重大問題はイズ一フエルの緊張した国境問題に及ぼす影響であろう。イズ一フエル人とア一フプ 国連事務総長は休暇を取止めて、 人との聞の緊張は国境における新しい事件のために更に増大している。四ヶ月前に国境における新休戦交渉を行った イズ一フエルにおいて巻上った暴動処理のために一一ュ l ヨ l グに帰任したような事情 に あ る 。 スエズ運河紛争問題 王 七東 洋 法 学 五 八 四 スエズ運河の実体 地中海と紅海とを連結する水路スエズ運河は全長一
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五 哩 、 水底の最短幅一九六フィ l ト、水面の最短幅五一O
フィートである。その深さは四六フィートで最大排水三六フィートの船舶の航行が可能であ る。大型船舶の航行を容易ならしめるため、戦後特に最近交通の激増に伴ない拡張事業を行った。例えば改善計画の 一部として一九五三年に六、000
、000
立方トンの土砂を竣深した。この目的は排水量四O
フィート以上に及ぶ 超大タンカーの航行を容易ならしめるものであった。 ており スエズ運河会社(。。5
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且 ロ の 自 己 富 山 肖 日 昨 日 目 。 色 。ω
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は一八五九年の初めから施設を所有し エジプトから特許された国際株式会社である。この会社はチュニス駐在のフランス国領事フェルディナンド ( 明 。 昆 宮 内 凶 口 弘 品 。 岡 、 。 説 。 ℃ ω ) が、その友人である当時のエジプト総督サイド・パシャ から建設利権を得て組織したものである。最初四00
、000
株を発行したとき、ニOO
、000
株は数ヶ月中にフ ランスで買われ、九六、000
株はエジプト政府のためにサイド・パシャが保持した。このときオットマン帝国もま た大量の株を買取った。 -ド・レセップ ( ω m w 山 弘 司 ω ω } 岡 山 ) 一 八 七 五 年 一 一 月 、 エジプト王ケデ l ヴ・イズメ l ル ( 関 ﹃ 色 守 O H ω 白色︼)の政府は財政破綻に頻したので、九六、000
のエジプト所有株をイギリス政府に売却した。当時英首相であったベンジャミン・ディズレリ l ( 図 。 ロ 古EE
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巳日)は大胆にも議会の圧迫を無視してこれを買取り、 更に総計一七六、 七五二株を買取るためにロスチャイル ドから二O
、000
、000
ドルの借款を得た。 この劇的な買収とその後の買取によってイギリスはスエズ運河会社の四O
パーセント以上の利権を持つようになっ た。バリにある会社本部である管理委員会においてはフランス人が常に多数を占めている。最近 ( 一 九 五 五 年 ) に おける管理委員会を見ると、 フランス人一六人、 イギリス人九人(内三人は政府を代表 i 他は船舶会位および商社の利益を代 表 す る ) 、 エ ジ プ ト 人 五 人 、 アメリカ人一人、 およびオランダ人一人であるコ フランス政府自体としては株式を所有していないが、実質的に課税によって利益を享受している。 い る 。 他の大運河と比較すると、 これと大体比較しうるものはパナマ運河であるが、パナマはその貨物量においてスエズの半分以下である。ウ スエズ運河は航行船舶の数においても、取扱トン数においても、 だん然一頭地を抜いて ェ l 一アンド(当色自己)とマンチェスタ l (
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円)の両運河は貨物量においてスエズの五分の一、セント・ロ ーレンス(
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運河は約一O
分の一である。即ち一九五五年、スエズ航行の貨物は一一八、五OO
、0
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ト y であるに対し、パナマ通過の貨物は四九、二OO
、000
トンに過ぎない。 現在スエズ運河を通過する貨物の最大の量は石油と石油生産品である。 一九五五年において石油と石油生産品とが 通過貨物全量の六五パーセントを占めている。その他の貨物は地中海を経由してヨーロッパ諸国に輸送する各種の原 料品およびスエズ以東に輸送する完成品または半完成品である。 一九五四年度の財政区分を分析して見ると、 スエズ運河会社に関連する利益金を明確に示している。即ち金収入額 は 九 二 、 七 三O
、 五七四ドルで、全支出額は四一二、二O
八 、 一七一ドル、法定利子および償却金四 九六八、六五六 ドルを示している。 この年度の純収入額は四四、 五 五 三 、 七四七ドルで、 一一株に対する総配当額は三O
五一ドルに当 る。この年度における運河航行料金は交通の増大を基準としての第二七回目の低減を行ったものである。運河に対す るイギリスの最初の投資額は実に八倍以上で既に償還されていると計算される。 航行料金決定の基準としての測定規則および運河通過の問題を調整するため、 一八七三年にコンスタンチノ l プ ル スエズ運河紛争問題 王 九東 洋 法 ρ>40 づ‘ /"
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で国際委員会が開かれた。通過船舶増大数の率に従って、次第に料金の低減を計ろうとする規定を設けたのはこのと きであった。 平時戦時を問わず、国旗の差別なく、各国船舶に対して航行の自由を与えたのは、英、独、填、仏、西、伊、蘭、 露および土を署名国とする一八八八年のコンスタ y チ ノ l プル条約である。これが運河の統制を実施する唯一の国際 条約であるが、事実上、戦時、戦略上の必要の場合、屡々無視されたことがある。 第二次世界戦争中、イギリスはスエズ地域を広汎に支配した。また一九五O
年以来エジプトは、 エルとの聞の戦争状態が春続するとの理由で、イズ一フエルの船舶およびイズ一フエル港向けの他国船に対して航行を担 エ ジ プ ト と イ ズ 一 フ 否した。イズ一フエルは船舶抑留は不法であり、 ま た 、 イズ一フエルを含む隣接ア一フプ諸国と同国との聞に調印した休戦 協定に違反するものとして争ったが、 エジプト政府はこれを受入れなかった。 運河の特許期限は一九六八年でこの年に運河は無償でエジプトに帰属することになっている。従って今回の国有化 は期限前に特許を取消すもので、その独断的措置は明らかに国際法違反である。 更にこの結果、毎年加重を続ける運河維持の巨費をエジプト政府が負担せねばならぬこととなる。 国際関係および結局の利益という見地からすれば、 ナセルのこの行動は更に事態を悪化せしめる結果となろう。そ の最大な問題はなんといっても、従来永く図際的であった事業を独断的に一国の支配の下におくとした点で、国際的 の信用を著しく破壊したことであろう。 運河を確実に把握するとともに、ナセルは各種の方法でエジプト経済を利する途をとるであろうが、 河利諮金を以て果してアスワン・グムの建設に関する彼の構想を実現しうるかどうかは、現在の数字を基礎としては 一O
年余の運疑わしい。なんとなれば、維持者(のために一層大きな支出を要し、現在の交通量が継続するとせば年々の船舶の型が 大きくなるにつれ、運河改善のための費用も増大するからである。 エジプトの戦術の結果、多数の船舶が他の海路をとるとすれば、運、河の収入は実質的に減少し、収入と支出の開き を増々狭める。この間エジプトは産業開発によって多大の利誌を収めうるであろうが、これもまた運河航行料金から の収入を以て開発資金を充たそうと期待しているようである。 アスワン・ハイ・ダム建設の財政的可能度ナセル大統領が大胆なスエズ運河の国有化を宣言したとき、 プトはアスワン・ハイ・ダム建設の大工事計画を独力で賄いうるとの目標を立てた。これによれば、 五 コ ニ ジ スエズ運河の年 収 入 を 三 、 五
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万ポ y ド ( 一 00 、 000 、 000 ド ル ﹀ と 見 積 り 、 これを全部ダム建設に注ぎこもうとするのであっ てエジプトの専門家はエジプト経済に大きな支障なしに、何とか成就しうるものとしている。しかしこの見積りは全 く仮定的のもので、重要な国際水路であるスエズ運河の高度の維持標準に伴なう改善補修などを考量に入れないもの で φの っ て 、 これが大きな問題を提供するものと息われる。 ナセル大統領を最も激昂せしめたことは、西欧諸国が、 計画を実施するには健全と息われないとの理由を暗示したことにある。 エジプト財政は一五ヶ年聞に一三億ドルの巨額に上るダム ところでこの計画の見地からエジプト財政の状態を簡単に検討して見ょう。 エジプトの経済的将来を見ると、産業化計画について毎日のように新しい事業計画を発表している。これはアスワ ン・グムに対する外国借款と贈与金を以てしても、なおエジプトをして赤字経済に追込むものであることは明瞭であ スエズ運河紛争問題 ー... ./'¥東 洋 法 学 . よー ノ ¥ る エジプトの経済が現在健全でないという意味ではないが、 その野心的固有化の夢と長期に亘る耐乏生活を通じて、 エジプト政府の安定を持続せしめうるかどうかが西欧諸国に懸念を生ぜしめた現由である。 エジプトの経済は現在および将来とも、殆んど主要農作物である綿花を以てする農業に基盤をおいている。 最近エジプトは武器は勿論、資本財に対しても、その主要農産物をソ連圏との貿易に利用しているが、冷厳な経済 家の批評眼にとって大切なことは、 このような政治的の変化ではなく、 マルクス主義者が特に声を大にして叫ぶよう な巨額の産業化計画にエジプトが、どの程度飛躍しうるかの問題である。そしてその結論は、 問、その財政支出能力を維持しつつ援助国に対して継続的に借款を要求しうるのでなければ、 エジプトはダム建設の このような計画を遂行 し得ないであろうとするものである。 なるほどエジプトの経済は比較的に健全である。 る。このような情態の下において、その国民に更にこの上の耐乏を強いることは人道上から見て惨酷であるばかりで し か し 、 エジプトは世界における最低生活水準国の一つでもあ な く 、 また政治的に極めて危険でもあると見られている。 エジプトの国民所得は過去三ヶ年聞に約一パーセントの増加を示した。 一九五四年度の国民所得は八六八、。。 。 、
000
エジプトポンド(一エジプトポシドは二八五ドル﹀で、 これは一九五三年度に比し、 一・三パーセントの増加 で あ る 。 一九五五年度の国民所得は未明であるが、 かりに一・五パーセントの増加と見れば、 この年度の国民所得は八八 。 、000
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エジプトポンドである。これはエジプト人口二一二、000
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として平均国民所得三八ポンド、即ち一
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米ドル弱に当る。 ハイグムのような大規模計画を実施するエジプトの財政能力を算定する場合、 一九五五会計年度において約四六、000
、000
ポンドに達している投資予算に対し、新たに一三、000
、000
ポンドに達する資本投下 ( 建 物 お よ び 公 共 サ ー ビ ス を 除 く ﹀ を加えねばならないとされている。更にハイ・グムに対して年額二一、000
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ポ y ドの支出を加算すれば開発のための全支出額は八O
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ポンドとなる。 この調達についてエジプト大蔵省は粗資本形成率(略85
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塁。ロ)と称する方式による算定を 行っている。平たくいえば毎年の国民所得の中から何パーセントを国家経済の資本形成に当てうるかという計画であ る。エジプトの公文書によれば、 これは一九五三年度において八バ l セ Y トと算定されている。この基盤においです れ ば 、 一九五六年度におけるエジプトの資本形成は約七O
、000
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ポンドに達する。 この新しい資本形成の可能な額と開発上の所要額との開きは九、六OO
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ポンドの不足となる。 この場合にハイ・グムに対してエジプトが支出せねばならぬ年額算定は、 エジプトが自己の所有金九OO
、000
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ドルと西欧諸国および世界銀行が残金四OO
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ドルの借款に応じるという最初の計画に基ずい て進められている。 右 の 約 一O
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ポ y ドに加え、更にエジプト政府が実行を宣言した新しい計画に対する支出額を加え る必要がある。これはアレキザンドリアにおける新しい乾ドッグ、ハンガリーから買取る新しい鉄道施設約二、00
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ポンド、東ドイツから輸入する新しい自動車組立工場、新しい電気器具工場および自転車工場である。こ れらの計画を合算すると、 エジプト財政を著しく困難に陥入れるようである。 スエズ運河紛争問題 ..1.晴 /、東 津 法 学 ノ、 四 もしエジプトがハイ・グム建設を独力で行うとすると、この計画に対する平均年間支出額は一五年間に亘って三
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、000
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ポ Y ド に 上 り 、 これはこの革命政府が計画したすべての産業化計画を無視するとしても、なお一九五 六年度において 一 八 、 六00
、000
ポンドの欠損となる。 エジプト財政家は、もしエジプトが収用したスエズ運河からの新しい年額三五、000
、000
ポ ンドに当る歳入の少くとも大部分を使用し、他の短期的の諸計画を制限すれば、 それにしても、 ハイ・ダムの建設は可能であるとし て い る 。 これがエジプト経済専門家がスエズ運河の収用は大胆な政治的行動であるばかりでなく、大統領の最大の夢を実現 せしめうるものとして彼を説いた理由であると多くの経済観測者は信じているのである。 ....L.,
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主要国の態度 フ ラ ン ス の 態 度 ア ラ プ 諸 国 閣 の 常 習 的 な 紛 争 と 異 な っ て 、 イ ギp
ス、フランスなどに重大な利害関係のある全面的国際問題である。イ I デン首相の外交は最近軟弱であるとして、そ エジプトに対し一夜にして強硬な態度に変じたので、国民の好意を挽回し、 イ ギ リ ス 、 ス エ ズ 運 河 問 題 は イ ズ 一 フ エ ル 、 の政敵から非難をうけていた。しかし、 また野党である労働党は政府の態度に対し事実上一人も残さず政府を支持することとなった。 イギリスがエジプトの運河国有化に憤激しているばかりでなく、 フランスはそれ以上に好戦必し、 ナセル打砕にイ ギリスと協力する熱意を示している。 イギリス人はその行動と声明には慎重の注意をとるのが常であるが、 ホワイト,ホ l ル背後の活動は極めて狂気的である。軍隊は常ならぬ活動に忙しく、三隻の軽艦隊母艦は、 いつでも地中海に出動しうる準備を整えて待機し、主 として朝鮮戦争に従事した二
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の完全訓練をうけた軍隊も待機の姿勢をとり、空軍も同様である。官吏は休 暇を廃し、閣員は休日を繰下げた。 国際約定の定める期限前に突然運河を収用し、 アスワン・グム建設のために会社収入を押収せんとする一国単独の 計画決定は到底受諾し難いというのが英、仏両国の腹である。 問題はエジプトにおける一国際商事会社の単純な国有化ではない。このようなことはイギリス人も合法的と考え、 戦後の労働党内閣自身も外国人を株主とする多くの英国会社の国有化を実施したからである。 イギリス政府が受諾しえないとする点は、運河の大きな海運国である使用国の何れとも協議せず、独断的にエジプ トの管理の下におこうとしてナセルが突然敵意ある決定を進めたことにあると叫んでいる。 最近の事態が一示す通り、運河を国内政策の目的のみに利用せんとして、ある一国の無制限管理の下におき、なんら 将来の利用方法につき取極を行わないことは、イギリス政府の受諾し難い所であると表明する。 イギリスの意図を名誉にかけて世界輿論の前に公表した、慎重に起草されたイ l J ア y 首相の文章の背後には、 ル大統領はイギリスの最後の名残、否全西欧勢力の最後の名残をも中東から追放し、これに代って大西洋からペルシ ャ湾に跨って一ア一フプ帝国を建設する決心であるとのイギリス政府および保守党の信念が表わされている。労働党も ナ セ これに同調し、首領のヂ l ト ス ケ ル ( の 包 宮 付 A w -) は運河の押収は中東支配の争と見ねばならぬ。もしナセルの権威が 向上し、イギリスの権威が沈むとすれば、 イギリスの友好国はイギリスを見捨てるであろう。彼等はイギp
スが敗北 し た と 見 て 、 エジプト側につくからであると声援している。 スエズ運河紛争問題 六 五東 洋 l 法 学 六 六 ﹁ア一フプ人は成功を尊敬する。もしナセルがスエズ問題で西欧諸国に誇を見せつけるこ とができるときは、イギリスのジヨルダン、イラクおよびトルコにおける残春勢力の速かな崩解であろう。パグダッ あるイギリス官吏はいう。 ト協約も致命傷をうけるであろう。ペルシャ湾の石油諸国もエジプトにならって行動するであろう。われわれは今日 まで何事もナセルと協調してきた。今やイギ
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ス人はこの頼みの綱の終点に近づかんとしているロ﹂2
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カの態度 右のような緊迫したイギ F スやフランスの情勢のさなかにダレス長官がロンドンに飛んだの は入月一日であった。グレスは英、仏の異常な憤激と緊張と両国の固い団結を知った。両国とも国際世論の圧迫を用 い、必要あれば武力に訴えてもナセルの計画を停止せしめようと決心していたことを知った。 ダレスは英仏両巨頭と会談し、見事な業績を挙げ、二日前までは中東に戦火を見るの危険を息わせた事態を、到着 後多分に緩和した。 ダレスの主張の下に、 そして運河の国際管理原則に基ずく米国協力と交換条件で、 イ ギp
スとフランスも二十四ケ 国 ハ 実 際 参 加 国 二 十 二 ν の国際会議を八月十六日に開催することとした。取りもなおさずこれが米国の態度である。 換 言すればアメp
カは平和的に事態を処理しようとするのである。 アイゼンハワ!大統領が宣言したところによると﹁米国はこの重大な困難を平和的手段によって解決しようとする 深甚な希望を持っている﹂という。 ロンドンにおける西欧側の解決案として八月二十日ダレス長官が米、英、独三国を代表して会議の宣言案を提出し た。これは自由航行の保障と新国際機関を設立するという妥協的のものである。 インドの態度低開発園、権民主義反対国、中立主義国の盟主としてインドがエジプトに同情することは想像3
に 難 く な い が 、 インドは西欧との連帯の持続を欲し、 かっ武力行使を避けることを望んでいる。インドの経済計画は 西欧との継続商業に依侍しようとしている際運河の閉鎖による危険は極めて大きいからである。 ネ l ル首相は議会において﹁エジプトの主権に対し大きな尊敬と関心﹂を表明すると演説した。同時に彼はエジプ トは﹁単なる招請国としては運河会議に参加しないであろう﹂と予言した。ネ!ルの言によれば、米、英の借款担否 によって促進された運河固有化決定は巨大なグムの建設には貢献しないであろうといい、英、仏両国が紛争解決のた めに誤った脅威手段を用いたことを非難し、ユーゴ l およびピルマを会議に招請しなかったことを問題とした。また 会議に代表を源遣することに同意するとともにこの決定はエジプトの同意を要する関係上、最後の結論には達しない であろうと表明している。インドは会議裏面において、インド代表が西欧とエジプト閣の交渉談合の機会を望んでい る。それにしてもインドとしてはエジプトの譲歩しうる最大限度は、国際委員会は運河に対する監督権を持つもので なく、単に勧告的権限を持つに過ぎないものであるべきであると信じている。 反植民主義、民族主義に同情し、二つの世界の対立に対して中立主義を標傍するインドの態度が暗示されている。 メ ノ ン 、 インド代表は八月二十日、前記グレス長官の提案に対して、勧告、諮問、連絡の機能を持つ国際機関設置 案を提出した。
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連の態度 中東において西欧に対する紛争醸成に熱心であり、かっ中東から南東アジアにかけた低開発諸国 の生活水準の低下している民家に対し、その民族主義、反植民主義を利用して共産必に湛進してきたy
連 と し て は 、 エジプトをしてロンドン会議に反対せしめようとする有力な刺戟政策にでることは容易に観取しうる。 し か し 、 ソ連は後門における戦争に周到な注意を払っているので、中東においては周旋的役割を望んでいる。y
連 スエズ運河紛争問題 六 七東 洋 法 ρ.>.t,. 寸喝 六八 は最近アジアとの貿易を強調しているので運河の開放を希望する理由を増大している。 ソ連の発表した文書による ロンドン会議のあらゆる古川について批判を加え、会議は八月末とすべく、参加国には最初の二十四ヶ国の外に中 共および衛星諸国を加うべきであると主張する。また何故にスエズ運河のみを問題にし、これに匹敵すべきジプ一プル タル海峡およびパナマ運河を取上げないかというている。会議に代表者を送ることには同意したが、この会議はスエ と ズ運河について、 いかなる決定をもなしえないものであると主張する。 ソ連はスエズ問題で、西欧三国に反対してエジプトと公然協調する明瞭な宣伝動機を蔵している。しかし、ソ連は ナセルまたはその他のエジプト首領が共産主義世界に背を向け、その船舶に対して運河を閉鎖することがありうるの を知っている。 このことが少くとも、西欧が運河の自由航行を確保しようとしていることに関心を寄せる理由となっ て い る 。
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その他 チ ョ l ドリ、パキスタン外相は八月二十一日の会議で、 ト ル コ 、 イ ラ ン 、 エチオピアと共同で、ダレ ス案に修正を加えた五国案を提出参加国二十二ヶ国中十八国の支持を得たが、y
連 、 インドネシアおよびセイロンは インド案を支持した。 七 ス工ズ運河問題と国際連合 今回のスエズ運河国有化問題は一つの孤立した問題ではなく、永い間希望的の思 考をめぐらし、 か っ 華 府 、 解決を見るような問題ではなかろう。 ロンドン、パリにおいて別々に考えられていた多くの問題の一環であって、早期に円満な 勿 論 、 スエズ運河の国有化は止むをえないものとしても、諮問船舶の自由航行を保障する新しい国際管理制度を確立すべをものであるう。もしロンド y 会議が失敗に終れば、 イ ギ リ ス 、 フランスは武力に訴えるかも知れないが、国 際連合の立場からすれば、 このような目的のために武力を行使することは不可能であるう。 実際上、問題勃発以来、米国官憲の表明したところは、 アイゼンハワ 1 政府はいかなる目的に対しても武力の行使 に反対するという信念を持っているようである。 華府通信の伝えるところでは、アメリカは経済封鎖には反対でないとしているようであるが、そうするとしても国 際連合がその適用を許容すべきであるとしている。しかし国連は少くとも現在の段階においては、この種の行動を決 定し得ないことは自明であるので、この態度は自然、 過去二年間、アメリカもイギリスもカイロからの報告で、大統領ナセルは合理的な温健な人物であるとの印象を与 えられてきたようである。これらの報告によると、 エジプト政府に反影しているようである。 ナセルの唯一の興味は一度イギリスが運河地帯から撤退すれば、 エジプト国民の生活水準の向上が見られるとした所にあったようである。 現在の問題の根源は既に一九五一年に逆って発生しているのである。この年に国連安全保障理事会はエジプトに対 し 、 こ の 要 求 に 対 し て 西 欧 諸 国 は こ れ を 援 助 す る イズ一フエル船舶の運河使用禁止を解くよう要求したのであったが、 何等の外交的措置をとらなかった。かくてこの決議は全くエジプト側から無視されたのである。即ちエジプトの主張 は エジプトはイズ一アエルとなお技術的に戦争状態にあるので、 一八八八年のコンスタンチノ l プル協約違反ではな いというのであった。運河の自由使用保障について西欧諸国がその支持を怠ったことは、新しい事態の受諾を迫るナ セル政府の態度を硬化せしめた一つの因子と見ねばならぬ。 この失敗の事実があるので、会議代表者の多くは急いで国連に提訴することを臨時路したのであった。更にナセルは スエズ選前紛争問題 六 九
東 洋 法 学 七 O スエズ運河の国有化は運河の完全な国際使用を妨げるものではないと強く確言しているので、西欧諸国は実際上これ に反する証拠がない以上、国連に提訴する地位にはないのである。 安全保障理事会に関する限り、西欧諸国の遅滞的態度については、 また他の理由がある。二年前、 ソ連のアンドレ -ヴィシンスキ 1 代表は、イズラエル船舶問題についての要求を更新する決議に対して担否権を行使した。そして
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連はアラブ民族の主張を支持する地位に基ずき、 エジプトが受諾しえないようなすべての決議を拒否する態度を示し た 。 エジプトは附近地域に対するイギリス、フランスの軍隊の行動は平和および安全に対する脅威であるとの理由で、 いつでも安全保障理事会に事件を付託することができる立場にある。 エジプトおよびy
連 は 、 スエズ運河を規正する必要があるとせば、何故にパナマ運河またはジプ一フルグル海峡の国 際規王がないかと反問することができる立場にある。 し か し 、 エジプトの主たる支持国であるy
連とインドが、 ロンドン会議に参加する同意を与えたので、 ナセルはロ ンドンにおける事態の動きを見定めるまでは安全保障理事会に付託することはしないであろう。 し て お れ ば 、 エジプトやアラブ諸国は一般に安全保障理事会におけるよりも総会においては強力である。そしてもし総会が開会 ナセルは既にこれに事件を付託していたかも知れぬ。 国連事務総長はスエズ運河の自由使用を支持する決議を通過せしめる期待の下に総会の討議を可としているといわ れている。事務総長は希望としてではあるが、エジプトはイズ一ブエル船舶の安保理事会の決議を担否したが、総会の 決議に対してはこれに従うであろうと期待している。西欧諸国としては、 ロンドン会議が央政に終れば事件を総会に付託するかも知れぬ。西欧諸国の態度いかんに拘ら エジプトおよびその支持国は総会の討議を望むものと思われる。西欧﹁帝国主義﹂を攻撃してカを合せるアフリ ず 、 カおよび
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連プロック諸国のカは、最近新しい加盟国をえた結呆著しく増大したからである。アフリカおよびy
連圏 のニつの団体は昨年一二月に加入を許された十六国中の多数を獲得している。更にア一フププロツグに属するス l グ ン -チ ュ ニ シ ア 、 およびモロッコの三国もその後に加入している。 かくて七十九国の連合国の中、 ア ジ ア 、 アフリカブロックは二十六ヶ国となった。y
連ブロックは一O
国 と な り 、 もし中共が加入すれば十一国となる訳である。 フィリッピ Y およびタイ固などの動向は確かでないが、西欧側を支 持することはないと思われるが、あるいは支持するかも知れない。もしこれら諸国が西欧側を支持するとすれば、例 西欧と特別の連帯を持つパキスタン、イ一フグ、 えばメキシコのような外国利権に対して争ってきたラテン・アメリカ諸国が、 その不足を補填することもありうる。 エジプトは少くともア一フプ民族の友好関係を希堅しているユ l ゴ l 、ギリシア、イタp
ア、およびスペインなどから 好意的の投票をうるであろう。常に反植民側を支持してきたスカンディ、不ヴィア諸国は更にエジプト側に投票するの ではなかろうか。 スエズ問題を総会の議事日程にのせるためには単純多数、即ち四O
票を要する。決議成立には三分二の多数投票を 要する。エジプトは三分の一に一票だけ加えた数の支持国を持つので、たとえ自国の提案が承認されないとしても、 反対の決議案を封じることができる訳である。いずれにしても総会の決議は連合国に対して拘束力がないので、 コ 二 、 守 、" プトはなんらの危虞を感じることなく、総会を討議場として使用しうる立場にある。 スエズ運河紛争問題 七東 津 法 学 七 結中近東から南東アジアにかけての諸国は第二次世界戦争を契機として反植民主義を椋傍して民族主義 を高揚して独立した。しかしこれは政治的の独立であって経済的、文化的の自立は今後の発展に期せられている。西
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ぴ 欧の帝国主義は破綻したが、独立した諸国は未だ相当の民族主義を以てしても自ら統治の実を挙げうる域に達してい h 、 、 0 4 ん し ここに先進各国の経済的、技術的その他の援助を必要とする。 先進諸国と比較して生活水準の著しく低下している現状、教育普及の不十分な事実は共産主義培養の温床である。 しかもアメリカとしてはその伝統と政治哲学に基唄すいて、 これら諸国の尚早能力の現状においてしても、 その独立要 求に対して同情せざるをえない立場にある。他方アメp
カは永くアジア、アフp
カならびにアメp
カ大陸さえも統治 した英、仏と同盟関係にあるので、新興諸国からは疑惑の眼を以て見られている。かくてアメp
カは﹁方植民主義に 対する嫌悪の情を抱くとともに、他方主なる植民国とは同盟関係に立つという痛し痔しの立場にある。このディレン マの関係は英、仏が次第に旧植民地に独立を許すという事態の変必に伴なって解決するより外に方法はない。 ところがこの解決は急速に行われるものではないために新興諸国の不満をかもす。新興諸国は今回のナセルの挙に しても、他の北アフp
カ諸国にしても、教育、生活の現状と、資本および技術を他国に依侍せざるをえない状態にも 拘 ら ず 、 いずれもこれを考慮せずに急速の自立を要求してやまない。 西欧諸国は未だ完全に帝国主義的衝動を捨てきらず、他方旧植民地は既に完全に独立を持ったものとして取扱われ たいとの焦慮から問題は複雑化する。そしてこの間において見逃しえないのはソ連の工作である。 困難ではあるが、 この間に処して事態を収拾するのは米国の役割となるであろう。 一方においてはイギp
スとプランスの怒りを押え、他方ナセルの強激な民族主義を制禦して国際的および国民的の責任を認識せしめるよう承服するのが米国外交の焦点となるであろう ι 以前の帝国主義的横民地を平和的に自立せし めうるように導くために援助を与えることはアメリカの任務ともなり、その利益ともなるであろう。 この任務は英、仏両国が従来とってきた方策と同様相当の期間を要するであろう。そしてまた他方従来先進工業国 に対して資本と市場について依侍してきた低開発諾地域を害してい rるモズレム世界のような強激な国民的、民族的ま たは宗教的感情を緩和せしめなければならぬこともアメリカの任務となるであろう。 き て 、 スエズ運河国有ル刊を断行せしめた真の背後の動機はなにであるか。これはエジプト民衆の生活を改善すると いう動機でなければならぬ。ところがエジプト民衆の貧困は想像の外であって、衛生状態は一般的に見て世界最悪、 とくに伝染病において然りであるという。教育の普及度は極めて低く、文官度は国民全般的であるという。 運河問題の平和的解決は、これらの園内問題を取上げる前に一般安定回復の問題企ともに急を要するものである。 ア一フプ民族主義という可燃性の福音は一時的には若干の指導者の心情を満足させるかも知れないが、これを以てして は民衆の空腹は充たしえない。国際会社の国有化は蚊と肝臓寄生虫とに対する武器ではありえない。 エジプトは国民生活改善という大きな目標の一部としてアスワン・ハイ・ダムを要するであろう。しかしこのよう な計画を実施するためには、 エズの独断的行動は、 それ以上に国際的の経済と道義的信用とを要するであろう。共産主義の浸透に伴なうス この信用をいたく傷けるものではなかろうか。この意味においてナセルの挙は祖国を益すると いうよりも害する結果にならないであろうか。要はナセルの面子の問題ではなく、 エジプト民衆の救助にあるのでは な か ろ う か 。 要するにスエズ運河問題は、政治的、経済的、 および法律的の問題である。政治的には発生しつつある民族主義を 民スズ運河紛争問題 七
東 洋 法 学 七 四 どう取扱い、かっ汎ア一ブプ主義に対してどう要求するかの問題で、経済的には世界の諸国の経済が幾分でも依侍して いる大水道の安定した運営を確保する問題であり、更に法律的には従来の国際的運営を変更しようとするナセルの処 置に対し、園際的約、定を有効に保障するためにいかに処理するかという問題である。 総じて事件の発端からエジプト側にも、イギリス、フランス側にも感情の分子が意外に多いようである。交渉の、氷 びくにつれ、自然冷却期間を構成して冷静な帰結がもたらせられるであろう。 (昭和三十一年九周一日記) 附 記 、 木 稿 の 資 料 は 主 と し て