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147 *, 1) ** * 児童青年精神医学とその近接領域 60( 2 ); (2019) インターネット依存の概念が登場してからすでに20 年以上が経過しているものの, 果たしてこれが一つの社会現象なのか, 治療的介入が妥当な医療対象となる疾患概念なのか迷う点が多かった しかしながら

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Ⅰ.はじめに  この領域の先駆者であるヤング博士がインタ ーネット依存の弊害について警鐘を鳴らしてか らすでに20年が経過した(Young, 1998)。また, 2002~2005年にかけて韓国においてインターネ ットの問題使用による死亡の転帰がセンセーシ ョナルに報道されてからは,この問題はより世 間の注目を集めた(前園ら,2012)。現在は日 常的にテレビ番組や日常会話の中で“インター ネット依存”,“スマホ依存”,“SNS 依存”な どの言葉が使われている。しかし,果たしてこ れが一つの社会現象なのか,治療的介入が妥当 な疾患概念なのか,我々は整理をしながら日常 診療にあたるべきである。ゲームを楽しむため にインターネットを利用する若者がアルコー ル・薬物使用,対人関係の困難さなどの精神保 健上の課題を抱える可能性が高いことが近年の 報告で指摘されており(Padilla-Walker et al., 2010),昨今は DSM-5 や ICD-11で今後研究が 必要な疾患概念として 「インターネット・ゲー ム障害」 もしくは 「ゲーム障害」 と提唱された。 まずは MMORPG(Massively Multiple Online RPG)に代表されるようなオンラインゲームも しくはそれに準ずるものへの嗜癖行動を中心に 再検証を行う必要が生じている。これまでに 我々は都市部の大学病院の児童精神科を受診す る児童青年期の患者を対象にインターネット依 存の実態調査と治療プログラムの開発を実施し てきたが,本稿では論点を特にインターネッ ト・ゲームに絞って報告を行う。

特集 児童・青年期における行動嗜癖

藤田 純一*

,1)

,青山 久美**,戸代原 奈央*

児童・青年期のインターネット・ゲーム依存:大学病院での経験から

児童青年精神医学とその近接領域 60( 2 );147─157(2019)  インターネット依存の概念が登場してからすでに20年以上が経過しているものの,果たしてこれ が一つの社会現象なのか,治療的介入が妥当な医療対象となる疾患概念なのか迷う点が多かった。 しかしながら,近年操作的診断基準が改訂される中で,インターネット・ゲーム依存の概念はます ます医学的興味関心を集めるようになった。本稿ではそれを踏まえ,大学病院におけるインターネ ット・ゲーム依存に関する実態調査と事例報告を行った。都市部の大学病院において,インターネ ットの使用目的を主にゲームとする患者のうち約25%は問題使用群に,約 8 %は病的使用群に該当 した。問題使用群や病的使用群に該当する患者には,不安・抑うつ症状,不登校,被虐待体験,喫 煙や飲酒などの心理社会的背景をもつものが比較的高い割合で存在していた。また病的使用群は正 常使用群と比較すると一日を通した日常生活機能全般と放課後の友人関係の問題が存在することが 示唆された。このように,インターネット・ゲーム依存傾向のある患者は治療・支援にあたるべき 心理社会的要素を抱えているが,治療・支援の実際としては患者や家族がもつ個々の特性に応じて 地道に診療にあたることが現実的だと考えられ,本稿では大学病院での診療の実際を一部紹介した。

Keywords:adolescents, internet game addiction, university hospital

**横浜市立大学附属病院児童精神科

**〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9 1)e-mail: jun1182@yokohama-cu.ac.jp

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Patient Health Questionnaire 9 item version (以下 PHQ-9),不安症状については 7 項目 4

段階評価の General Anxiety Disorder 7 item version(以下 GAD-7)を用いた(村松,2014)。 なお,先行研究を参考に PHQ-9 が14以上の場 合を臨床的抑うつ,GAD-7 が11以上を臨床的 な不安と本調査では定義した(Mossman et al., 2017;Tsai et al., 2014)。な お,IAT,PHQ-9, GAD-7 は初診時問診票として一律初診時に患 者自身に記載を依頼しているものである。背景 情報として,性別・年齢・発達障害の臨床診 断・不登校の有無・物質使用(飲酒・喫煙・違 法薬物使用)の有無・一人親世帯もしくはそれ 以外・被虐待経験の有無・睡眠時間・モバイル 端末使用の有無については,家族が記入する問 診票もしくは初診医の診断にもとづき評価した。 なお,本調査は横浜市立大学附属病院および同 附属市民総合医療センターの倫理委員会の承認 を得て実施された。 結果  対象となった10~18歳の初診患者346名中, 主な用途を“ゲーム”と初診時評価で回答した のは173名(24.9%)であった。この173名中41 名(23.7%)が問題使用群,13名(7.5%)が 病的使用群に該当した。患者背景において正常 使用群と問題使用群,病的使用群の差が比較的 際立った項目をあげると,被虐待体験があるも のは正常使用群では119名中11名(9.2%)であ ったのに対し,問題使用群では41名中 9 名 (22.0%),病 的 使 用 群 で は 13 名 中 4 名 (30.8%)であった。また,不登校(30日以上) のものは正常使用群では119名中36名(30.3%), 問題使用群では41名中16名(39.0%)であった の に 対 し,病 的 使 用 群 で は 13 名 中 9 名 (69.2%)であった。さらに,飲酒・喫煙・薬 物使用経験があるものは正常群では119名中 2 名(0.8%)であったのに対し,問題使用群で は41名中 5 名(6.5%),病的使用群では13名中 1 名(4.3%)であった。そして,臨床的抑う つ(PHQ-9≧14)を呈するものは正常使用群で Ⅱ.児童思春期患者における インターネット・ゲーム依存の実態  本邦では一般人口を対象とした思春期のイン ターネット依存に関する疫学研究が複数実施さ れてきたが,我々の知る限り児童思春期を対象 とした臨床例研究は限られている(So et al., 2017)。我々は2016~2017年度にかけて横浜市 立大学に附属する二つの大学病院を初診した児 童思春期患者を対象にインターネット・ゲーム 依存の実態調査を実施したため,その結果を報 告する。  【調査 1 】インターネット・ゲーム依存傾向の 重症度と臨床的特徴について 対象と方法  2016年 4 月~2018年 3 月の 2 年間に横浜市立 大学附属病院および同附属市民総合医療センタ ーの児童精神科を訪れた10~18歳の初診患者 694名に関する横断調査を実施した。このうち, 中~重度知的障害を伴うもの,評価に必要な項 目に記入ができなかったもの,実際本人が来院 できなかったものを除外した346名を解析対象 とした。なお,本稿の主旨に基づきインターネ ットの主な使途を“ゲーム”と回答した173名 の患者に関する臨床的特徴を検討した。インタ ーネットの使用状況について本邦の疫学調査で 一般的に用いられている20項目, 5 段階評価の ヤングのインターネット依存度テスト(Internet Addiction Test;以下 IAT)(Young, 1998)を 用いて調査を行った(国立久里浜医療センター ホームページ https://kurihama.hosp.go.jp/hos pital/screening/iat.html を参照)。従来日本で IAT を用いて実施された疫学調査ではインタ ーネットの問題使用群の頻度が比較的高く見積 もられている可能性があったが(Tateno et al., 2016),その反省に基づいて提示された重症度 の新基準を用い(Tateno et al., 2018),正常使 用群を IAT が50未満,問題使用群を IAT が50 以上70未満,病的使用群を IAT が70以上とした。 抑うつ症状については 9 項目 4 段階評価の

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考察  横浜市立大学に附属する二つの大学病院を初 診した10~18歳の児童思春期患者の約22%が問 題使用群,約 7 %が病的使用群に該当しており, インターネットの主な使途を“ゲーム”と回答 したものに関しては,正常使用群よりも問題使 用群や病的使用群の中に被虐待体験,飲酒・喫 煙・違法薬物使用,不登校といった背景および 不安や抑うつ症状をもつ患者が比較的高頻度に 存在していた。不登校・ひきこもり,社会的孤 立とインターネット・ゲーム依存の関連性は日 本や韓国を中心に報告されている(Lee et al., 2013;白坂ら,2016)。さらに先行研究では親 と子の関係性の悪さとゲーム使用の問題との関 連が指摘されており,特にゲーム使用の問題が 持続するほど親と子の関係性が悪化するという 報告がされている(Schneider et al., 2017)。 不登校・ひきこもりの初期段階に親と子の関係 性が一時的に悪化することは臨床的にしばしば は119名中23名(19.3%)であったのに対し, 問題使用群では41名中19名(46.3%),病的使 用群では13名中 7 名(53.8%)であり,臨床的 不安(GAD-7≧11)を呈するものは正常使用 群では119名中22名(18.5%)であったのに対 し,問題使用群では41名中14名(34.1%),病 的使用群では13名中 6 名(46.2%)であった。 以上の結果の概要は表 1 に示した。  なお,発達障害の診断別にみると,軽度知的 発達症の診断を受けた 7 名中 1 名(14.3%)が 問題使用群, 0 名(0.0%)が病的使用群に該 当したのに対し,注意欠如多動症の診断を受け た33名中 5 名(15.2%)が問題使用群, 3 名 (9.1%)が病的使用群に該当し,自閉スペクト ラム症の診断を受けた62名中15名(24.2%)が 問題使用群, 3 名(4.8%)が病的使用群に該 当した。 正常使用群 ; IAT<50 (N=119) 問題使用群 ; 50≤IAT<70 (N=41) 病的使用群 ; IAT≥70 (N=13) n % n % n % 性別(男子) 71 59.7 23 56.1  7 53.8 小学校 5 - 6 年生 34 28.6  8 19.5  4 30.8 中学校 1 - 3 年生 68 57.1 23 56.1  8 61.5 高校 1 - 3 年生 17 14.3 10 24.4  1  7.7 一人親家庭 13 10.9  6 14.6  3 23.1 被虐待経験 11  9.2  9 22.0  4 30.8 不登校(30日以上の欠席) 36 30.3 16 39.0  9 69.2 睡眠時間 6 時間未満 13 10.9  6 14.6  3 23.1 飲酒,喫煙,違法薬物使用  2  0.8  5  6.5  1  4.3 モバイル端末使用 96 80.7 36 87.8 12 92.3 軽度知的発達症  6  2.4  1  1.1  0  0.0 注意欠如多動症 25 10.2  5  6.5  3 13.0 自閉スペクトラム症 44 17.9 15 19.5  3 13.0 PHQ-9 score ≥14 23 19.3 19 46.3  7 53.8 GAD-7 score ≥11 22 18.5 14 34.1  6 46.2 表1 インターネットの使用目的を主にゲームと回答した患者の背景(N=173)

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る各時間帯の生活機能および全体機能を集計し て比較した。なお,【調査 2 】も【調査 1 】と 同様に横浜市立大学附属病院および同附属市民 総合医療センターの倫理委員会の承認を得て実 施された。 結果  主な用途に“ゲーム”が含まれていた190名 中46名(24.2%)が問題使用群,15名(7.9%) が病的使用群に該当した。次に,QCD を用い て日常生活機能を早朝/登校前( 0 -12点), 学 校( 0 - 9 点),放 課 後( 0 - 9 点),夕 方 ( 0 -12点),夜( 0 - 9 点),全体( 0 - 6 点) の場面ごとに各群間の得点の平均値について対 応のない t 検定を行ったところ,総得点では正 常 使 用 群 33.31±11.78,問 題 使 用 群 29.98± 11.68,病的使用群26.87±11.15であり,正常 使用群に比べ病的使用群は有意に機能が低下し ていた(p<0.05)。下位項目では,放課後の 生活機能について正常使用群が5.69±2.52,問 題使用群4.89±2.42,病的使用群4.27±2.46で あり,正常使用群に比べ病的使用群は有意に機 能が下がっていることが示唆された(p<0.05)。 QCD の合計得点と放課後における得点のグラ フを図 1 に示した。 考察  横浜市立大学に附属する二つの大学病院を初 診した10~18歳の児童思春期患者において,イ ンターネットの主な使途にゲームが含まれてい たものに関して,病的使用群は正常使用群に比 べて QCD 合計点で測定される生活機能全般の 低下がみられ,特に放課後場面で生活機能低下 が顕著であった。先行研究ではインターネッ ト・ゲーム障害による身体的側面,心理的側面, 対人関係,生活習慣,などあらゆる生活機能に 影響し,治療に伴ってそれらが改善することが 示されている(Lim et al., 2016)。本調査の結 果からはインターネット・ゲームの病的使用群 では,起床から就寝までの生活習慣,家族関係 など一日を通した子どもの日常生活機能低下が みられ,重篤な例では無理にインターネット・ ゲームにしがみつく子どもとそれを止めさせよ うと必死になる親が虐待 - 被虐待の関係となる こともある。本調査の飲酒や喫煙・違法薬物使 用の問題を呈する患者はごく少数であったが, 正常使用群に比べて問題使用群および病的使用 群に高頻度に存在した。物質乱用の問題との関 連を指摘する報告は海外の先行研究で複数みら れ て い る(Lee et al., 2013;Sun et al., 2012)。 なお,インターネット・ゲーム依存傾向と不安 や抑うつ症状の関連については世界中で数多く の報告がなされており,近年では海外での臨床 研究や日本で実施された児童思春期を対象とし た大規模疫学研究でも同様の結果が報告され て い る(Kitazawa et al., 2018;Kojima et al., 2018;Takahashi et al., 2018)。  【調査 ₂ 】インターネット・ゲーム依存傾向の 重症度と日常生活機能について 対象と方法  【調査 1 】と同様,2016年 4 月~2018年 3 月 の 2 年間に横浜市立大学附属病院および同附属 市民総合医療センターの児童精神科を訪れた10 ~18歳の初診患者694名に関して横断調査を実 施した。【調査 1 】では併存する不安や抑うつ 症状を含む臨床的特徴について検討したが, 【調査 2 】では朝から就寝までの一日の経時的 な子どもの日常生活機能と全体機能を測定する Questionnaire -Children with Difficulties(以下, QCD)を用いて日常生活機能を評価し(Usami et al., 2013),インターネット・ゲーム依存傾 向の重症度との関係について検討を行った。中 ~重度知的障害を伴うもの,評価に必要な項目 に記入ができなかったもの,実際本人が来院で きなかったものを除外した418名のうち,イン ターネットの主な使途を“ゲーム”と回答した 190名の患者に関する臨床的特徴を検討した。 インターネットの使用状況については【調査 1 】と同様に IAT を用いて,同様の基準でイ ンターネット依存傾向の重症度を分類した。解 析にあたっては,重症度ごとに QCD で示され

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幼少期から両親の喧嘩が絶えず,就学前に父母 は離婚した。母は毎日多忙に働き,本人は一人 で留守番をすることが多かったが,中学 1 年時 に母が再婚した。 【生育歴・生活歴】言葉の発達は早く,幼稚園 ではしっかりした印象を周囲に与えた。小学校 時代から成績優秀であり,小学校高学年から通 塾を開始。友人は限定的で数名であった。本や テレビ,ゲームに夢中になると夜更かしするた め母に注意されることが多かった。特に友達と 一緒に始めた通信型のポータブルゲームに没頭 する傾向があったため,小学校 2 年時から母は ゲーム機を没収していた。中学校 1 年時に母が 再婚したが,継父には馴染まずに授業がない日 も塾の自習室で時間をつぶして遅くに帰宅した。 その態度を不満に思った継父が本人を批判し, それを庇う母と口論が繰り返された。 【現病歴】中学以降,継父と母の口論するのを 避けて自室にこもるようになった。中学校 2 年 末の大掃除の折に,数年間没収されていたゲー ム端末を見つけて母に内緒でゲームを再開した。 ゲームの使用時間は徐々に伸びて,中学校 3 年 以降は宿題に手も付けずに夜中までゲームに没 頭した。中学校 3 年の 5 月の連休明けに,宿題 の未提出を学校教員に厳しく指導されてから起 床困難となって不登校になった。ますます自宅 でゲームに没頭し,夜中にスナック菓子や菓子 存在しており。特に QCD における放課後場面 の質問項目は子どもの友人関係を反映している ため,現実場面における子どもの対人関係の希 薄さや孤立などが予想される。 Ⅲ.大学病院におけるインターネット・ ゲーム依存の診療の実際  【調査 1 】および【調査 2 】に示されるよう な臨床的特徴は存在するものの,実臨床におけ るインターネット・ゲーム依存傾向を示す患者 の治療経過は様々である。著者らが勤務する大 学病院では,患者の臨床的特徴に応じてそれぞ れ治療方針を選択している。一部の患者にはイ ンターネット・ゲーム依存傾向を行動嗜癖の問 題と捉えて,依存症モデルに基づく介入を行っ ている。しかしながら,インターネット・ゲー ム依存傾向よりも,併存するうつ病エピソード や虐待や不登校などの臨床的諸問題への対応が 優先される事例もある。本稿では我々の施設に おける臨床の実際を一部紹介する。なお,本稿 における事例提示にあたっては患者および家族 の同意を取得している。  【事例 1 】動機づけ面接および依存症モデルに もとづく心理教育の実施例 【主訴】不登校,ゲームへの執着 【家族背景】母,継父との 3 人暮らし。同胞なし。 図1 インターネット・ゲーム依存重症度と日常生活機能 P<0.05 P<0.05 正常 正常

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降の外来では動機づけを進めつつ,若者の薬物 使用障害を治療するプログラムとして開発され た Matrix Model(松下・五十嵐,2012)にヒ ントを得て作成した 「インターネット・ゲーム で困っている人へ」 というワークブック(表 2)を用いて動機づけと疾病教育を行った。ワ ークブックには 「インターネット・ゲームと身 体の健康」 「インターネット・ゲームと心の健 康」 「依存症の治療と経過」 「あなたの生活とイ ンターネット」 「あなたの生活とインターネッ ト・ゲーム」 「新しいスケジュールを立ててみ よう」 など16の項目があり,一回30分程度で個 別に実施した。ワークブックの内容を半分ほど こなした初診 2 カ月後になると 「減らせないか ら,ゲームを止めたい」 と述べるようになり, 外来で母にゲーム端末を返却した。また,母の 再婚後の居場所のなさ,継父との関係の苦痛が ゲームに没頭する一因である可能性が高いこと を両親に伝え,本児の前での口論を控え,自宅 パンを食べて生活リズムは崩れ,入浴も外出も しないで部屋に籠った。家族がゲームの没収と 約束を決めて再開させることを繰り返すも事態 は展開せず,中学校 3 年の夏に初診した。 【診断】適応障害 【治療経過】本人は初診時からゲームに対する コントロール喪失を自覚していたが,家族の衝 突を生む一部の原因となっているゲームを中止 することについては頑なに拒んだ。担当医は動 機づけ面接の手法に則り,母の再婚後に家庭内 での自分の居場所をなくした本人が頼ったゲー ムのポジティブな側面を認めつつ,それを手放 すことを躊躇する心情を傾聴した。同時にゲー ムがなかった時に楽しめたこと,将来の夢,ゲ ームの利害得失などを話題にする中で,高校進 学の希望,不規則な食生活でやせ細った自分の 体型などの問題をあげられるようになって, 「ゲームをやめるのではなく,ゲームを減らし たい」 と目標を立てることができた。 2 回目以 1 はじめに 2 インターネット・ゲームと身体の健康 3 インターネット・ゲームと心の健康 4 「依存症」 の治療と経過 5 あなたの生活とインターネット 6 あなたの生活とインターネット・ゲーム 7 インターネット・ゲームで得たもの,失ったもの 8 インターネット・ゲームに関する家族とのトラブル 9 やりたいスイッチが入るとき 10 あなたのまわりにあるスイッチについて 11 あなたの中にあるスイッチについて 12 新しいスケジュールを立ててみよう 13 再発を防ぐために 14 再使用へのいいわけ 15 強くなるより賢くなれ 16 回復のために S-1 インターネット・ゲームの問題が増えているのはどうして? S-2 インターネット・ゲームの問題を抱えやすいのはどういう人? 表₂ ワークブック インターネット・ゲームで困っている人へ

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面的なあり方は変化したものの,敵を作らない よう慎重に行動し,周囲からの高い評価を求め て常に適応を意識する姿勢は同様であった。中 学校以降はバスケットボール部で活躍し成績も 中~上位を維持できており,本人の元気な姿に 母も満足していた。 【現病歴】小学校 3 年時に一度母の病状を悲観 して登校意欲も低下し,墜落自殺未遂を図った ことがあった。中学校 1 年の終わりに長年家族 に関わり,父親代わりのような存在であった担 当児童福祉司が異動した。後任の担当者とはな かなか馴染めず,本人と母の不信感が増した。 もともと緊張すると腹痛を生じる傾向があった が,中学校 2 年の春よりその頻度が増えた。バ スケットボールの試合中に便意を生じることを 特に懸念し,監督やチームメイトの評価を恐れ るようになった。徐々に,意欲低下して部活や 塾を休んで一日中インターネット・ゲームに没 頭するようになって昼夜逆転し,そのような状 態を自責しては希死念慮を生じるようになった ため中学校 2 年の秋に初診となった。 【診断】中等症うつ病エピソード 【治療経過】抗うつ薬と認知行動療法による外 来治療が十分奏功せず,初診後 2 カ月目に約 1 カ月の入院を行い生活の立て直しを行って腹痛 が軽減するなど一定の病状改善をみた。本人の IAT のスコアは50点で問題使用群に該当したが, 病棟のルールに従い生活できる程度にコントロ ールはできていた。しかし,退院後学校復帰に は至らずにオンライン上での友人関係の維持に こだわって,母とインターネット使用時間を巡 って交渉をしては決裂することを繰り返した。 母はインターネット・ゲームに没頭し会話もお ざなりな本人の様子に特に苛立って,外来場面 での話題はこの問題に終始するようになった。 母の不調は増し,本人との関係は悪化の一途を たどった。X+1 年の春にインターネット回線 の解約宣言を行った母と口論の末,処方薬を大 量服薬し救急搬送された。その後も,児童福祉 司の前で口論の末もみ合いとなるなど,トラブ ルが頻発した挙句,最終的には警察が介入する で安心して過ごせる環境を作るよう助言した。 自宅では本児のゲームに関する口論が多かった ため,コントロール喪失は症状であることを伝 え,叱責せず懸念を示すにとどめること,目標 設定や振り返りは外来で行うことを提案し,了 承を得た。徐々に家庭での緊張した関係は緩和 され,塾にはゲームを持参しない,夜は保護者 にゲームを返す,など段階的にゲームを手放す ことができた。その後は受験勉強に専念し志望 高校に合格した。その後も,時にゲームに関す るコントロール喪失に陥ることがあるため,そ の都度動機づけ面接とワークブックの内容を再 確認している。  【事例 ₂ 】うつ病エピソードおよび被虐待症例 【主訴】身体愁訴・意欲低下・ゲームへの執着 【家族背景】母子家庭,同胞なし。母は本人の 産後以降うつ病を長く患っており入退院を繰り 返している。父母は本人が 3 歳時に離婚してい るが,父は再婚して別の家庭をもうけている。 父と本人が面会する度に,病状が悪い場合に母 は苛立ち,本人の気遣いは多かった。母が入院 で不在の時は母方親戚や祖母が本人の面倒を見 たが,本人の幼稚園時代に同じくうつ病を患っ ていた母方祖母は自殺既遂した。母は病状が悪 化すると,母子喧嘩の末に本人に熱湯をかける こともあった。また,本人が登校を渋るような 場合,学校に引っ張って連れていき,担任や級 友の前に放り出して帰宅した。このような環境 のため,幼児期より児童相談所がこまめに本児 に関わって,状況によって適宜数か月~半年単 位の一時保護を行っていた。本人が中学校入学 以降は母の病状が安定して入院することはなく なり,生活保護を受けながら母子生活を続けて いた。 【生育歴・生活歴】幼稚園時代は周りの様子を 窺いながら控えめに振る舞うため,同年代の子 ども達とトラブルになることはなかったという。 このように小学校低学年までは消極的な性格で あったが,高学年からは積極的な態度に代わり, クラスのムードメーカー的存在を自認した。表

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者にどのような背景があり,インターネット・ ゲーム依存が生じているのか熟慮しながら治療 にあたることが重要である。 Ⅳ.おわりに  本稿では大学病院におけるインターネット・ ゲーム依存に関する実態調査および診療の実際 の紹介を行った。DSM-5 や ICD-11による新た な診断基準を用いて評価を行い,実態を明らか にして診療の質を向上させることが我々の今後 の課題である。  fMRI による研究ではギャンブル障害や物質 使用障害と同様に前頭前野の機能低下が存在す ることが指摘されている(Meng et al., 2015)。 このような生物学的背景に加え,今回我々が実 施した調査結果が示すような不登校や被虐待経 験,不安抑うつ症状などの心理社会的背景,ま た多くの先行研究が示すような注意欠如多動症 や自閉スペクトラム症のような発達障害の併存 など,様々な要因が複合してインターネット・ ゲーム依存が子どもたちに生じていることが 推 測 さ れ る(So et al., 2017;Tateno et al., 2016;Paulus et al., 2018)。  なお,現在の知見ではインターネット・ゲー ム依存に対して強く推奨される治療プログラム は存在しない(Paulus et al., 2018)。韓国や国 立久里浜医療センターにおけるインターネッ ト・ゲーム依存の合宿形式の治療プログラムの 実践(Sakuma et al., 2017)や認知行動療法の 一定の効果(King et al., 2017)が報告されて いるのみである。現状ではインターネット・ゲ ーム依存の概念は研究段階にあるため,一般の 大学病院やその他の多くの外来診療ではインタ ーネット・ゲーム依存に特化したこれらのプロ グラムを持ち合わせている治療施設は現在の日 本ではほぼ皆無である。実際の診療に際しては, 本稿で紹介した事例と同様,患者や家族の個々 の臨床的特性に応じながら,患者・家族への心 理教育,動機づけ面接,そして併存する合併疾 患や心理社会的背景への治療・支援を地道に行 うのが現実的である。 ほどの母と本人の衝突が起こって児童相談所に 身柄付き通告の後に一時保護された。この頃, 本人と母が慣れ親しんだ児童福祉司が偶然再度 担当に復帰することになった。インターネット 環境のない一時保護所の中で規則正しい生活を 繰り返し,母と本人の間でのルール設定や学校 復帰の準備が約半年かけて行われて家庭復帰し た。その経過の中で,徐々にうつ状態から脱し て登校状況は改善,部活の仲間との交流も回復 してインターネット・ゲームへ拘泥する様子も みられなくなった。まもなく外来通院は終了し た。 ₂ 事例を通して  事例 1 は家庭不和を背景にするストレスから の回避行動の一つとして,インターネット・ゲ ームに没頭するようになった症例であり,事例 2 は母親のうつ病と虐待を背景に生じたうつ病 エピソードから意欲低下が生じ,母との関係の 回避や現実世界からの逃避としてインターネッ ト・ゲームへの没頭が生じたと考えている。イ ンターネット・ゲーム依存といっても症例ごと の病理的背景は多様である。事例 1 では本人が インターネット・ゲーム依存に至るまでの経過 を共感的に共有して主治医が治療同盟を構築し た後に,動機づけ面接と心理教育を組みわせた 依存症モデルを意識した治療介入を行い比較的 よい結果を得ている。事例 2 では児童相談所が 膠着した母子関係に介入し,時間経過とともに 抑うつ状態が改善することでインターネット・ ゲーム依存の状態も小康となった。先行研究で は, 1 )Emotional vulunerarvility(感 情 脆 弱 性), 2 )Socializing need(社会化の必要性), 3 )Impulsivity/agression(衝 動 性・攻 撃 性), 4 )Not other specified(それら以外)の四類 型がインターネット・ゲーム障害に関して示さ れている(Lee et al., 2017)。事例 1 では 3 ) の要素に対してコントロール力の回復を意識し たアプローチであり,事例 2 では 1 )の感情脆 弱性に対する支援の結果が回復につながったの かもしれない。実臨床においては,目の前の患

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Japa- 本稿の実態調査が示すように,インターネッ ト・ゲーム依存の問題を抱える患者は一定数存 在する。現代の児童思春期臨床に携わるものに は避けて通れない課題であるが,未だ理解され ていないことが多い分野である。我々は日々更 新される知見に関心を持ちながら正しい知識を 集積し,患者・家族の治療・支援にあたる必要 があるだろう。 COI 開示  本稿の執筆に関して開示すべき利益相反(Con-flict of Interest, COI)はない。

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  In the 20-plus years since emergence of the concept of internet addiction, whether it is simply a social phenomenon or a medical condition requiring medical intervention has been a point of controversy and debate. How-ever, following inclusion of internet gaming disorder or gaming disorder in the DSM-5 and ICD-11, the concept has become a focus of much attention. Given the fact, we con-ducted a survey on the state and cases of in-ternet game addiction encountered at univer-sity hospitals. In urban areas, about 25% of the patients using the internet primarily for game playing fell in the problematic internet user category, and about 8% in the pathologi-cal user group. Patients corresponding to the problematic and pathological internet user groups were noted having relatively high rates of background anxiety/depression symptoms, school refusal, and substance abuse including smoking and drinking. More-over, the problematic and pathological

inter-net users showed greater deterioration in overall daily living functioning, and problems regarding peer relationships after school hours compared to normal internet users. From these results, addiction tendencies to internet gaming were regarded as possible indication of underlying psychosocial factors requiring medical intervention, where step-by-step therapy tailored to the characteristics of each individual and their families were re-garded as the realistic approach for actual treatment and support. This paper introduces two such cases experienced in the university hospital setting.

Authorʼs Address J. Fujita

Department of Child Psychiatry, Yokoha-ma City University Hospital

3-9, Fukuura, Kanazawa-ku, Yokohama, Kanagawa 236-0004, Japan

INTERNET-GAMEADDICTIONAMONGADOLESCENTPATIENTSATA

UNIVERSITYHOSPITALPSYCHIATRYCLINIC

Junichi FUJITA, Kumi AOYAMA, Nao TOYOHARA Department of Child Psychiatry, Yokohama City University Hospital

参照

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