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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 大学生向けメンタルヘルスアプリの開発および実証研究 : 完成版アプリの使用行動解析 梶谷, 康介九州大学キャンパスライフ 健康支援センター 東島, 育美九州大学芸術工学研究院 金子, 晃

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

大学生向けメンタルヘルスアプリの開発および実証

研究: 完成版アプリの使用行動解析

梶谷, 康介

九州大学キャンパスライフ・健康支援センター

東島, 育美

九州大学芸術工学研究院

金子, 晃介

九州大学サイバーセキュリティーセンター

松下, 智子

九州大学キャンパスライフ・健康支援センター

https://doi.org/10.15017/2560364

出版情報:健康科学. 42, pp.57-65, 2020-03-25. 九州大学健康科学編集委員会

バージョン:

権利関係:

(2)

1) 九州大学,キャンパスライフ・健康支援センターCenter for Health Sciences and Counseling, Kyushu University 2) 九州大学, 芸術工学研究院 Department of Content and Creative Design, Faculty of Design, Kyushu University 3) 九州大学, サイバーセキュリティーセンター Cyber Security Center, Kyushu University

*連絡先:九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744 Tel: 092-802-5881 *Correspondence to: Center for Health Sciences and Counseling, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819-0395, Japan

Tel: +81-92-802-5881 E-mail: kkajitani@chc.kyushu-u.ac.jp

大学生向けメンタルヘルスアプリの開発および実証研究

~完成版アプリの使用行動解析~

梶谷康介

1)*

, 東島育美

2)

, 金子晃介

3)

, 松下智子

1)

, 福盛英明

1)

, 金大雄

2)

Development and experimental study of mental health app for university

students: Analysis of app user behavior

Kosuke KAJITANI

1)*

, Ikumi HIGASHIJIMA

2)

, Kosuke KANEKO

3)

,

Tomoko MATSUSHITA

1)

, Hideaki FUKUMORI

1)

, and Daewoong KIM

2)

Abstract

Background: College days are when students are predisposed to get stressed from theire studies in college,

human relations and the problem of social identity. However, it is rare for young people to consult with a

psychiatrist or a psychologist for mental health problems. We have launched the project entitled “the empirical

study on the improvement in mental health of university students using a smartphone app,” as a mental health

measure aimed at youth.

Methods: This project was conducted from December 1, 2018, to June 30, 2019. The smartphone app (App),

which we independently developed, was installed on the student’s smartphones, and a questionnaire survey and

psychological tests (Link Stigma Scale, CES-D, GHQ-12) were performed on the same day. After using the

App for two weeks, we conducted the same questionnaire survey and psychological tests again.

Results: Thirty-one students participated in this study. More than 80% of students had a good impression of

the design and usability of the App. We conduced a questionnaire survey on the need for a mental health app,

and found that the number of students who answered “very necessary” or “necessary” siginificantly increased

(Wilcoxon signed-rank test, p = 0.011). The results of log data analysis indicated that most students used the

App on the first day of the this study; however, the number of users dropped to half on the second day and

further decreased to one-fifth on the ninth day, suggesting that students used the App every few days, but not

daily.

Conclusions: We developed the smartphone App designed for university students. The increase in students

who understood the need for the mental health care App suggested that the App may be an effective tool for

enlightening students in mental health care.

Key Words:

s

martphone, application, mental health, university students, log analysis, questionnaire

(Journal of Health Science, Kyushu University, 42: 57-65, 2020)

Vol.42, 2020 年 3 月

(3)

健 康 科 学 第 42 巻 はじめに 精神疾患の患者数は年々増加し、今や 400 万人に届 く勢いである1)。厚生労働省は平成 23 年度から地域医 療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾患とし て新たに精神疾患を加え、「5 大疾病 (がん、脳卒中、 急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)」とする方針を決定 したが、これは近年の精神疾患に対する行政の危機感 の表れと言える。この状況は、大学生を含む若者のメン タルヘルスの問題も同様である。2013 年から 2015 年に 実施された精神疾患の大規模疫学調査「精神疾患の有 病率等に関する大規模疫学調査研究: 世界精神保健日 本調査セカンド」によると、大学生を含む 20-34 歳の 12 ヶ月有病率は 11.0%であり、これは他の世代と比べ て 1.6 倍から 5.2 倍の頻度であった2)。また海外の調 査によると、精神疾患の 4 分の 3 は 24 歳までに発病す ることが示されている 3)。このように、青年期のメン タルヘルス対策は重要な課題と言えるが、メンタルヘ ルスに問題を抱える若者が、医療機関に相談すること は洋の東西を問わず少ない。例えば、世界保健機構が行 った調査によると、メンタルヘルスに問題のある大学 生のたった 16.4%しか治療を受けていないことが報告 されており4)、また米国で行われた別の調査では、うつ 病と診断された大学生のうち半数しか治療を受けてい ないことが明らかとなった5)。一方、本邦においても、 近年メンタルヘルスに関する啓発活動がすすんでいる にも関わらず、若者の精神科外来受診数は増えておら ず、また九州大学における過去 10 年の傾向としても、 学生が保健管理センターを利用する数に大きな変化は 認められない6) 大学生がメンタルヘルスのことで保健管理センター を含めた医療機関を訪れない理由はいくつか考えられ る。具体例としては、1) 自分自身のメンタルヘルスに 注意を向けない、2) そもそも相談する手段を知らな い、3) 個人的な問題について他人に相談することが恥 ずかしい、4) 勉強や他の活動で忙しい、5) 病状のた め相談に行くことが難しい、などが挙げられる7) 8)。 筆者は、この「大学生が医療機関へ相談しない状況」 を改善したいと考え、大学生にとって馴染み深いスマ ートフォンを用いた医療介入の可能性を検討すべく、 「スマートフォンアプリによる学生のメンタルヘルス 向上に関する実証研究」というプロジェクトを立ち上 げた。今までに、本プロジェクトから「基本設計と今後 の方針」6)「ログ解析とアンケートによるアプリのブラ ッシュアップ」9)の二つの報告を行っている。本論文で は、ブラッシュアップ後に完成したアプリを実際に大 学生に使用していただき、アンケートによる使用感お よびログデータに基づく使用行動解析の結果を報告す る。 方 法 1.対象 2018 年 12 月 21 日 2019 年 1 月 21 日に大橋および 伊都キャンパスで実証研究を行なった。任意の日にア プリケーションをインストールしていただき、同日に アプリケーションに関する意識調査および心理テスト を行った。アプリを 2 週間使用した後に、アンケート および心理テストを再度行った。研究概要を図 1 に示 す。合計 31 名の学生が被験者として本研究に参加した。 被験者の内訳を表 1 に示す。被験者には研究内容を口 頭および書面で説明し、学生から研究同意書に署名を いただいた。2 週間後に再度アンケートに答えに来た学 生は合計 24 名だった。本研究は九州大学基幹教育院及 びキャンパスライフ・健康支援センター合同倫理委員 会にて承認されている(課題番号: 201819)。 2. アプリ開発およびログデータの収集 以前行ったプロトタイプ(試作品)のデータ(梶谷, 表1: アプリ被験者の内訳 性別(名) 年齢 分野(名) 合 計 男 性 女 性 mean±SD 文 系 理 系 そ の 他 31 22 9 21.7±1.55 11 19 1 図1: 研究の概要 58

(4)

健康科学, 2018)をもとに完成版アプリを作成した。ア プリケーションおよびログデータのサーバープログラ ム作成環境は以下の通りである。

アプリの作成環境: パソコンは Macbook Air Mid 2012 モデル、iMac Retina 5K 2017、MacBook pro 2017(Apple Inc., Cupertino, CA, USA)を使用した。同パソコンの OS は macOS Sierra 10.12.1 および macOS High Sierra 10.13.6 であった。デザインについては Sketch version 41.2(Bohemian Coding, London, England)を 使用した。システム設計は Xcode version 8.2.1 およ び 10.1(Apple Inc.) で 行 い 、 開 発 言 語 は swift 3.0(Apple Inc.)を用いた。実証研究の対象機種は iPhone 4s、 5、 5s、 5c、 6、 6 plus、 6s、 6s plus、 SE、 7、 7 plus、8 plus、X、XS、XS Max、XR (Apple Inc.)とした。

ログ解析用データベース作成環境: アプリケーション からリアルタイムに使用データがサーバーに送られる ようにした。サーバーはさくらのレンタルサーバープ レミアム(SAKURA internet)を使用した。同サーバー の仕様は、OS バージョン FreeBSD 9.1-RELEASE-p24 amd64、CPU Intel Xeon E312xx (Sandy Bridge)、メ モリー容量 18GB、Apache バージョン 2.4.38、 PHP 7.2.14 であった。プログラムは MacBook pro 2017 で 行い、同パソコンの OS は macOS High Sierra 10.13.6 であった。開発ソフトウェアは Visual Studio Code 1.24.1、開発言語は PHP7.2.14 であっ た。 結 果 1. 完成版アプリの仕様 以前報告した研究成果をもとに、アプリのブラッシ ュアップを行なった(梶谷, 健康科学, 2018)。完成版 における改善点としては、1.カレンダーを追加し、この カレンダーから日々の状態を記録する方式に変更、2. 記録時の表示をカード型に変更、3.選択肢にイラスト を追加、4.診断はスクリーニングと詳細診断の 2 段階 評価、5.対象疾患を 10 疾患追加し、合計 14 疾患対応 とした、6.相談先である医療機関の場所を google map で表示できるようにした、7.セルフケアプログラムと の連携、の 7 点に及ぶ。また完成版の画面を巻末図 6-10 に示す。 2. 大学生の健康に関するスマホアプリの意識変化 被験者のアプリケーションに関する意識を検討する ために、メンタルヘルス系アプリへの興味等について アンケート調査を行なった。今回、研究開始時には 31 名が研究に参加したが、研究最終日にアンケートに答 えたのは 24 名だった。この 24 名のスマホアプリ使用 前後の意識変化について表 2 に示す。尚、アプリ使用 者のうち、17 名がプッシュ通知を許可し、7 名は許可 しなかった。質問は、1.健康に関わるアプリ(体重、血 圧、運動など)は大学生に必要だと思いますか?、2. 健 康に関わるアプリ(体重、血圧、運動など)はあなたに必 要だと思いますか?、3.メンタルヘルスをチェックす るアプリは大学生に必要だと思いますか?、4. メンタ ルヘルスをチェックするアプリはあなたに必要だと思 いますか?、5. 今後、メンタルヘルスをチェックする アプリを使用してみたいですか?、の 5 つであった。 アプリ使用前後で、結果を比較したところ、「3. メンタ ルヘルスをチェックするアプリは大学生に必要だと思 健康に関わるア プリ(体重、血 圧、運動など) は大学生に必要 だと思います か? 全く必要 でない それほ ど必要 でない 必 要 とても 必要 p 値 使用前 1 9 14 0 使用後 1 5 15 3 0.052 健康に関わるア プリ(体重、血 圧、運動など) はあなたに必要 だと思います か? 全く必要 でない それほ ど必要 でない 必 要 とても 必要 p 値 使用前 1 10 12 1 使用後 2 5 14 3 0.132 メンタルヘルス をチェックする アプリは大学生 に必要だと思い ますか? 全く必要 でない それほ ど必要 でない 必 要 とても 必要 p 値 使用前 1 10 13 0 使用後 1 6 13 4 0.011* メンタルヘルス をチェックする アプリはあなた に必要だと思い ますか? 全く必要 でない それほ ど必要 でない 必 要 とても 必要 p 値 使用前 2 11 8 3 使用後 3 8 9 4 0.644 今後、メンタルヘ ルスをチェックす るアプリを使用し てみたいですか? はい いいえ どちらでも ない p 値 使用前 7 4 13 使用後 14 3 7 0.059 表2: 大学生の健康に関するスマホアプリの意識変化 アプリ使用者のアプリケーションに関する意識変化について 調査をした。各質問項目につき、アプリ使用前と使用後の結 果を比較した。合計24 名の被験者が実験開始 2 週間後のア ンケートに回答した。使用前後の比較は、Wilcoxon の符合順 位検定を行い、p* < 0.05 を有意水準とみなした。

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健 康 科 学 第 42 巻 いますか?」の質問に関しては、統計学的に有意差を認 めた。しかし、残りの 4 項目に関しては統計学的に有 意差はなかった。 3. アプリケーションの使用感について 次にアプリの使用感についてのアンケート結果につい て示す(図 2)。ボタンの大きさについては、「大きすぎ る」が 0 名、「やや大きい」が 1 名、「適切」が 21 名、 「やや小さい」が 2 名、「小さすぎる」が 0 名となった。 文字フォントサイズについては、「大きすぎる」が 0 名、 「やや大きい」が 0 名、「適切」が 22 名、「やや小さい」 が 2 名、「小さすぎる」が 0 名となった。配色について は、「見やすかった」が 16 名、「やや見やすかった」が 7 名、「どちらとも言えない」が 1 名、「やや見にくかっ た」が 0 名、「見にくかった」が 0 名だった。アプリの 記録機能の操作性については、「わかりやすかった」が 13 名、「ややわかりやすかった」が 7 名、「どちらでも ない」が 1 名、「ややわかりにくかった」が 2 名、「わか りにくかった」が 1 名であった。アプリの診断機能は わかりやすかったか、という質問については、「わかり やすかった」が 9 名、「ややわかりやすかった」が 5 名、 「どちらでもない」が 10 名、「ややわかりにくかった」 が 0 名、「わかりにくかった」が 0 名という結果となっ た。マイカルテについては、「わかりやすかった」が 8 名、「ややわかりやすかった」が 7 名、「どちらでもな い」が 8 名、「ややわかりにくかった」が 0 名、「わかり にくかった」が 1 名という結果となった。 4. ログ解析によるアプリの使用状況 次にアクティブユーザー数(アプリを使用している 人数)の推移を示す。対象はアプリをインストールした 31 名である。図 3 に示すように、使用開始初日はほぼ 全員が使用しているが、2 日目にはユーザー数は半数に まで落ち込み、9 日目以降には 5 分の 1 程度(5-6 人/ 日)で推移していた。また被験者個々人の使用状況を見 ると、初日に使用して以降全く使用していない被験者 は 4 人であり、7 日未満しか使用していない被験者は合 計で 19 名だった。次に被験者がアプリを使用する時間 帯をログデータを用いて解析した。その結果、21 時で 図3: アプリの使用状況 アプリをインストールした31 名のアプリ使用状況を示す。 上段はアクティブユーザー数の推移を示し、下段は被験者の アプリ使用日数を示す。 図2: アプリの使用感に関するアンケート結果 アプリ使用者(合計 24 名)のアプリ使用感に関するアンケート 結果。それぞれ、ボタンサイズ、フォントサイズ、配色、記 録機能の使用感、診断機能の使用感、マイカルテの使用感に ついて回答していただいた。 60

(6)

のイベント数(いずれかのボタンを押した回数)が最も 多く、次いで 16 時、15 時が多かった(図 4)。 次に、被験者が 14 日間、日々の状態(食事、運動、睡 眠、気分)について、どのように記録を行ったかをログ データより解析した(図 5)。食事については「いつもよ りたくさん」と答えた日数は 2.2±2.1 日(mean±SD)、 「いつもと同じ」と答えた日数は 3.7±2.8 日(mean± SD)、「いつもより少ない」と答えた日数は 1.3±1.4 日 (mean±SD)、「無記録」が 6.8±4.7 日(mean±SD)とい う結果であった。運動については、「たくさんした」と 答えた日数は 0.6±7.1 日(mean±SD)、「多少した」と 答えた日数は 2.8±2.5 日(mean±SD)、「全くしていな い」と答えた日数は 3.7±3.3 日(mean±SD)、「無記録」 が 6.8±4.7 日(mean±SD)という結果であった。睡眠時 間については、「9 時間以上」と答えた日数は 1.5±1.9 日(mean±SD)、「6-9 時間」と答えた日数は 3.8±3.7 日 (mean±SD)、「4-6 時間」と答えた日数は 1.6±1.7 日 (mean±SD)、「4 時間未満」と答えた日数は 0.3±0.5 日 (mean±SD)「無記録」が 6.8±4.7 日(mean±SD)という 結果であった。気分については、「良い」と答えた日数 は 2.4±2.5 日(mean±SD)、「普通」と答えた日数は 3.8 ±3.1 日(mean±SD)、「悪い」と答えた日数は 1.0±1.3 日(mean±SD)、「無記録」が 6.8±4.7 日(mean±SD)と いう結果であった。 次に診断機能のログデータ解析結果を示す。31 名の 被験者中、簡易診断を使用したのは 19 名であり、さら に詳細診断を行ったのは 13 名だった。簡易診断でうつ 病に該当したのは 8 名、双極性障害 3 名、パニック障 害は 6 名、広場恐怖 5 名、全般性不安障害は 7 名、強 迫性障害 5 名、社交不安障害 10 名、PTSD5 名、統合失 調症 8 名、自殺念慮 4 名、アルコール依存症 2 名、神 経性大食症 8 名、神経性無食欲症 4 名であった。詳細 診断においては、パニック障害が 2 名、うつ病が 3 名、 全般性不安障害が 2 名、強迫性障害が 2 名、PTSD が 1 名、双極性障害が 2 名、該当診断はないが何らかの問 題のある学生は 3 名であった。尚、診断結果は重複が 多数あり、一人の学生が 10 近い疾患に該当する場合も あった。 考 察 1.大学生のメンタルヘルスに対する意識 本研究ではメンタルヘルスに対する意識調査を、ア プリの使用前後で比較した。身体的な健康に関する設 問(「健康に関わるアプリ(体重、血圧、運動など)は大学 生に必要だと思いますか?」「健康に関わるアプリ(体重、 血圧、運動など)はあなたに必要だと思いますか?」)に ついて使用前後で変化がなかったのは、今回作成した アプリがメンタルヘルスに特化したものであったため と考えられる。一方、メンタルヘルスに関する質問であ る、「メンタルヘルスをチェックするアプリは大学生に 必要だと思いますか?」については使用前後で統計学 的に有意な変化を認めた(p = 0.011)。しかし、「メン タルヘルスをチェックするアプリはあなたに必要だと 思いますか?」については使用前後で統計学的に有意 図4: アプリの使用時間帯 被験者のアプリ使用時間帯の頻度を示す。尚、プッシュ通知 は21 時に行った。 図5: 記録アプリにおける各パラメーターの平均日数 被験者31 名が、日々記録した各項目の平均日数をグラフ化 した。

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健 康 科 学 第 42 巻 な変化は認めなかった(p = 0.644)。これは、実際にメ ンタルヘルスアプリを通して、一般的な考えとしてメ ンタルヘルス対策の必要性を理解したが、当事者でな い以上、なかなか自分の問題として捉えることは難し いためと考えられる。また「今後、メンタルヘルスをチ ェックするアプリを使用してみたいですか?」という 質問に関しては、アプリ使用前が「はい」7 名、「いい え」4 名、「どちらでもない」13 名であったのが、使用 後には「はい」14 名、「いいえ」3 名、「どちらでもない」 7 名と「使用してみたい」という意見が倍増したが、統 計学的に有意とはならなかった(p = 0.059)。今回の実 証研究では、使用状況にばらつきがあり、例えば 1-2 日 しか使用していない学生が 7 名いた。使用期間が短い 場合、アプリケーションの必要性を十分理解できない ままアンケートに答えた可能性がある。また、最後まで 研究に参加した学生が合計 24 名と少なかった。今後、 被験者数を増やすことでアプリの効果を十分検討する 必要がある。 2.アプリケーションの使用感について アプケーションのデザインに関する項目(ボタンの 大きさ、フォント、配色)については、9 割前後の被験 者が好意的な回答を寄せた(図 2)。記録機能については 「わかりやすい」「ややわかりやすい」と答えた被験者 は全体の 8 割を占めた(図 2)。これは本研究ではアプリ ケーションのデザインを、学生のアンケート結果に基 づき作成しているためであり、以前の我々の研究報告 と同様の結果となった9)。このように、対象ユーザーを 念頭においたデザインの重要性が改めて確認された。 一方、診断機能およびマイカルテに関しては、「わかり やすい」「ややわかりやすい」と答えた被験者は 6 割に とどまった。診断機能については診断中に一度質問に 答えると、一つ前の質問に戻れないことなど、操作性の 問題が理由の一つと考えられる。マイカルテに関して は、この機能が直近 7 日間の記録を行わないと表示さ れないため、分かりにくいと感じる被験者が増えた可 能性がある。 3.アプリ使用のログ解析結果 本研究では、各被験者のiPhone からアプリ使用に関 するログデータを抽出し、客観的データとして解析し た。 3.1 アプリの使用状況および時間帯 図3(上段)に示すように、アクティブユーザー数は 2 日目に半減し、以後ユーザーの 20%が使用するように なった。被験者の使用パターンを調べると、多くの被験 者が、2-3 日ごとにアプリを記録していることがわかり、 毎日使用している被験者は 0 名だった(図 3 下段)。ア プリケーションの記録が、被験者の能動性に委ねられ ており、アプリケーションへの興味の減退(飽き)や、忙 しさから、アプリの記録を忘れてしまう可能性が高い。 ログ解析によって、アプリの使用時間帯を検討した ところ、15-16 時および 21 時にピークがあった(図 4)。 15-16 時のピークについては、被験者のリクルート時間 がこの時間帯に集中したためである。一方、最も使用頻 度の高い21 時のピークについては、プッシュ通知の配 信時間を21 時に設定しているためと考えられる。21 時 は、今回の記録に必要な1 日の活動(食事、運動)が概ね 終わっている時間帯であると同時に、就寝する前の時 間帯として最適であると考えて本検証を行ったが、研 究結果より、被験者は我々の想定通りの使用行動をと ったと言える。 3.2 記録機能の使用状況 図5 に示すとおり、検証期間である 14 日間中 6.8 日 は無記録であった。これは、まとめて後で記録をした場 合も含むため、14 日間中、「空欄」が約 7 日あったこと を示す。実際のログデータをみると、2-3 日毎に過去数 日の記録を入力したり、中には検証期間の終わりにま とめて記録したりする被験者もいた。プッシュ通知機 能を導入したとはいえ、被験者に毎日記録させるのは 難しいことがわかった。 次に各項目について検討する。尚、今回のデータは31 人の被験者からのデータであり、数として少ない。この ため各データの標準偏差値をみてもわかるように、数 値のばらつきが大きい。従って、以下の記述はあくまで 参考程度としていただきたい。 「食事」については、「いつもと同じぐらい」が最も多 く、2 週間のうち概ね 4 日程度であった。一方、「いつ もよりたくさん」が約2 日、「いつもより少ない」が約 1 日という結果であった。記録していない 7 日を除外し た場合、平均的な学生の1 週間のうち、2 日程度は食べ 過ぎ、1 日程度は素食であることを示唆する。農林水産 省が発表した「大学生の食行動」を参考にすると、一人 暮らしの4 人に一人が昼食を取らず、4 割が野菜を食べ ず、5 割以上が食生活上の悩みを抱えていることが示さ れた 10)。この大規模調査と比較すると、本研究の被験 者は食生活が大きく乱れてはいないようである。 62

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次に「運動」ついては、「たくさんした」と「多少し た」を合わせると約 3 日強であり、「全くしていない」 は3-4 日という結果であった。つまり無記録であった 7 日を除外すれば、本研究に参加した学生は 1 週間のう ち半分はある程度の運動をしていることがわかる。日 本の大学生における運動習慣についての大規模調査と して「学生の健康白書2015」を参照すると、4 年生学部 学生のうち「運動をする」と答えた学生は全体の52.3% であり、「運動をしない」答えた学生が47.6%であった 11)。この調査結果と我々の結果を比べることは難しいが、 本研究の対象者の全てが調査期間である 2 週間のうち に、「多少した」と1 日でも答えており、全国調査の対 象者よりは運動を意識した生活を行なっていることが わかった。 「睡眠」に関しては、「9 時間以上」の日が 1-2 日、 「6-9 時間」は約 4 日、「4-6 時間」が 1-2 日、「4 時間未 満」は半日未満、という結果であった。この結果から、 1 日の睡眠時間が少なめである 6 時間未満の日は 1 週 間のうち2 日程度であり、十分の休息と言える 9 時間 以上の睡眠は1-2 日程度ということがわかる。おそらく ウィークデイは勉強やサークルで少し無理をする日が 2 日ほどあり、週末に多めに睡眠をとっている、という 生活パターンを反映しているように思える。運動習慣 と同様、ここでも「学生の健康白書2015」を参照する と、最も多いのは6 時間~7 時間であり、全体の 70%を 占めている 11)。本研究でも、全体の睡眠時間の平均は 6-7 時間になるため、睡眠時間に関しては全国的な調査 と大きく変わりがないことがわかった。 「気分」については、平均すると「良い」と答えた日 が約2 日、「普通」が約 4 日、「悪い」と答えたのが 1 日 であった。しかし、筆者が調べたところ、大学生の日々 の気分について、詳細な記録をした先行研究はないた め、我々の研究結果との比較や妥当性を論じることは できない。我々が開発したアプリに備わっている日々 の気分の状態を記録する機能のことを、「mood tracking apps (気分追跡アプリ)」と呼び、近年その数は増えてき ている 12)。しかし、現在利用できる気分追跡アプリの ほとんどが、データの収集とその結果表示に過ぎず、ユ ーザーが希望する気分のパターン分析や改善方法につ いての教示機能を備えていない。今後、このような気分 追跡アプリを利用することで、学生の健康状態の予測 等ができれば、大学生活をサポートする上で有益であ ると考えられる。 3.2 診断機能の使用状況 前述の通り、31 名の被験者中、簡易診断(スクリー ニング)を使用したのは 19 名であり、さらに詳細診断 を行ったのは 13 名だった。簡易診断においては使用者 19 名中 17 名が何らかの疾患に該当した。また詳細診断 においては、12 名中 7 名が何らかの精神疾患に該当し、 また精神疾患に該当しない 5 名のうち 3 名は、何らか の異常を訴えていた。つまり、31 名中 7 名がいずれか の精神疾患に該当するという結果であった。本邦の大 学生を対象とした精神疾患の有病率を検討した大規模 調査はないが、2013-2015 年に実施された 20-34 歳を対 処とした研究によると、この世代の精神疾患の有病率 は 11.0%であった(精神疾患の有病率等に関する大規模 疫学調査研究: 世界精神保健日本調査セカンド)。この 数字と比べると、今回我々の得たデータは実際の精神 疾患有病率よりも高値である。おそらく、今回の実証研 究において、被験者が「モニター」という役割に徹した 為、あえて診断に該当するように回答した可能性があ ると思われる。したがって、学生の精神疾患の有病率を 検討するためには、より多くの学生を対象としたログ データ解析が今後必要になるであろう。 4.その他の意見(今後実装してほしい機能) 今後実装してほしい機能について、自由記述形式で アンケートに回答していただいた。その中に、「運動量 が少ない人にはオススメの運動、食事量が少ない人に はオススメレシピなどアドバイスが具体的だと生活の 参考にできる」「このデータから睡眠時間などを指定さ れると嬉しい」「iPhone のヘルスケア機能との連携」な どの意見があった。自分たちの生活に関わりのある情 報を求めている学生が少なからずいることがわかり、 大学生にとってのメンタルヘルスケアに対するハード ルを下げるためにも、大学生活に密着した情報を追加 する必要があると考えられた。 5.今後の展望 今回は、前回報告した内容に基づきブラッシュアッ プしたアプリケーションを学生に使用していただき、 アンケートやログデータによる使用行動を中心に結果 を報告した。今後は、アプリケーションの使用によって 学生の精神状態の変化や精神疾患に対する考え(偏見) がどのように変化するか、すなわちアプリケーション の効果を評価する予定である。アプリケーションの使

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健 康 科 学 第 42 巻 用については、短期間(2 週間)の使用の効果と、長期間 (2-3 ヶ月間)の使用効果について検討したい。 謝辞 本 研 究 は 、「 科 学 研 究 費 助 成 事 業 ( 課 題 番 号 16K13031)」、「一般財団法人ヘルス・サイエンス・セン ター」、および学内研究助成「QR プログラム(わかばチ ャレンジ); 整理番号 28314」より研究資金を提供され ている。また診断機能に搭載した「PRIME Screen 日本 語版」の使用をご快諾いただいた東邦大学医学部精神 神経医学講座の水野雅文教授に深謝申し上げます。 図6: 記録アプリの画面 (左) カレンダー画面。記録する日付にタップすると、各パ ラメーター(食事、運動、睡眠、気分)が入力できる。 (右) パラメーターの 1 例。図は食事量の入力画面。 図7: 記録アプリの画面とマイカルテ (左) 記録結果の表示。1 日の各パラメーターの記録画面。 (右) マイカルテ画面。直近 1 週間の記録結果に基づき、コ メントを表示する。 図8: 簡易診断と詳細診断 (左) 簡易診断の結果。スクリーニングを主目的とした簡易 診断。この結果に基づき、より詳細な診断を勧める。 (右) 詳細診断。DSM-5 などの診断基準に基づき、より詳細 な診断を行う。 図10: 保健管理施設とセルフケアの案内 (左)学内保健管理施設の紹介。キャンパスライフ・健康支 援センターのホームページへのリンク。 (右) セルフケアプログラムの紹介。九州大学で作成された セルフケアプログラムへのリンク。 図9: 紹介機能と Google マップとの連携 (左)詳細診断の結果に基づき、紹介先(学内保健管理施設や 周辺医療機関)を表示する。 (右) Google マップによる周辺医療機関の表示。紹介先の各 地区付近の病院をタップすると、Google マップで周辺医療 機関が表示される。 64

(10)

引用文献 1) 患者調査, 厚生労働省障害福祉部, https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/ 0000108755_12.pdf 2) 川上憲人,精神疾患の有病率等に関する大規模疫学 調査研究: 世界精神保健日本調査セカンド, 2016, http://wmhj2.jp/WMHJ2-2016R.pdf

3) Kessler RC, Berglund P, Demier O, Jin R, Merikangas KR, Walters EE, Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV Disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Arch Gen Psychiatry 62(6): 593-602, 2005.

4) Auerbach RP, Alonso J, Axinn WG, Cuijpers P, Ebert DD, Green JG, et al., Mental disorders among college students in the World Health Organization World Mental Health. Psychol Med 46(14): 2955-2970, 2016.

5) Eisenberg D, Hunt J, Speer N, Zivin K, Mental health service utilization among college students in the United States. J Nerv Ment Dis 199(5): 301-8, 2011.

6) 梶谷康介, 金大雄, 金子晃介, 東島育美, 松下智子, 福盛英明 (2017): スマートフォンアプリによる学生

のメンタルヘルス向上に関する実証研究 ~基本設計 と今後の方針について~. 健康科学 39(1), 65-70. 7) Kohn R, Saxena S, Levav I, Saraceno B, The treatment gap

in mental health care. Bull World Health Organ 82(11): 858-66, 2004.

8) Mohr DC, Ho J, Duffecy J, Baron KG, Lehman KA, Jin L, Reifler D, Percieved barriers to psychological treatments and their relationship to depression, J Clin Psychol 66(4): 394-409, 2010. 9) 梶谷康介, 東島育美, 金大雄, 金子晃介, 松下智子, 福盛英明 (2018): 大学生向けメンタルヘルスアプリ の開発および実証研究~ログ解析とアンケートによ るアプリのブラッシュアップ~. 健康科学 40(1): 33-40. 10) 農林水産省 関東農政局 (2014): 大学生等の食環境 と食行動、食への関心に関する調査 11) 国立大学保健管理施設協議会(2018): 学生の健康白 書2015.

12) Caldeira C, Chen Y, Chan L, Pham V, Chen Y, Zheng K (2017): Mobile apps for mood tracking: an analysis of features and user reviews. AMIA Annu Symp Proc Apr 16; 2017:495-504. eCollection 2017.

参照

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