1.はじめに
冷戦以降、中東、旧ユーゴスラビア、スリランカ、カシミールなどの紛争を受けて、 それらを引き起こす一因として、宗教および宗教的イデオロギーが広く議論されるよ うになった。一方で、Appleby(2000)やGopin(2000)は、さまざまな宗教者や宗教 コミュニティー1が取り組む平和構築(Peacebuilding2)の事例を示し、平和構築の担い 手としての宗教者の可能性を議論した。また、Johnston(2003)は、‘faith-based diplo-macy’(信仰を基盤とした外交)という新しい概念を提示し、宗教的側面を平和構築 に関わる外交に反映する重要性を示した。これらの著作は、宗教が紛争を引き起こす 一因であるとの分析は、宗教の可能性を示すには十分ではないことを表している。 国連および国連諸機関3も、冷戦以降、平和構築と人道支援の主体として宗教コミュ ニティーの役割と貢献に関心を示す傾向にある(Mische,2001)。それは、持続的な平 和構築のためには市民社会の参画と主体性が必要不可欠であり、宗教コミュニティー は市民社会を形成する重要な社会単位であるとの認識による。 現在、信仰を基盤とした団体(Faith-Based Organization/FBO4)や諸宗教連合体など さまざまな宗教コミュニティーが、国連諸機関と連携し、国連が掲げるアジェンダに 積極的に取り組んでいる。しかし、宗教コミュニティーと国連機関の連携で期待され紛争下における役割
―― Religions for Peace と UNICEF の連携事業を例に ――
三 善 恭 子
1.はじめに
2.紛争下における諸宗教協力の役割 3.宗教コミュニティーの資源
4.Religions for Peace の諸宗教メカニズム
5.宗教コミュニティーと連携する国連機関からの視点 6.Religions for Peace と UNICEF の連携事業
7.おわりに 参考文献
る役割と課題については、まだあまり研究がなされていない。
本稿では、紛争下において、特に諸宗教連合体と国連機関の連携で期待される可能 性と、その課題について検討することとしたい。具体的には、国際的な諸宗教連合体 であるWorld Conference of Religions for Peace(世界宗教者平和会議/Religions for Peace) と UNICEF(国連児童基金)が行う「紛争下・後における子ども保護」の連携事業を 例に考察する5。
2.紛争下における諸宗教協力の役割
冷戦後の紛争について、Miall(2004)は3つの重要な変化を指摘する。まず、紛争 が、独裁者と抑圧された市民、多数派と少数派など、権力や地位の不平等さから起こ る非対称(asymmetric)な紛争であること、そして紛争が長期化していること、さら には紛争が国際社会、経済、地域などさまざまな主体を巻き込んでいるということで ある。また、それらの多くが、国家機能が破たん、もしくは低下している国で起こる 傾向にあるため、従来型の国家による紛争介入と調停のやり方では解決が難しいとさ れる(Newman et al,2009)。そのため、紛争解決と持続可能な平和構築には、市民社 会を巻き込むボトムアップアプローチと共に、社会、経済、地域など異なる領域に包 括的にアプローチする必要がある。 平和構築に携わる主体(アクター)とアプローチについて、Lederach(1997)は、ピ ラミッド型モデル(図1)を用いて、①最高指導者レベル(Top Leadership)、②中間 指導者レベル(Middle-Range Leadership)、③草の根指導者レベル(Grassroots Leader-ship)の三段階に分類し、各階層に期待される役割と実践を指摘する。 Lederach は特に、草の根の指導者と最高指導者を効果的に結ぶ中間指導者層の役割 を強調する。中間指導者層は、政治・軍事的な権力から一定の距離を置き柔軟に活動 ができること、また草の根の指導者と最高指導者とのつながりを活用し、地域コミュ ニティーの平和構築の役割を高め、ボトムアップアプローチを効果的に推進すること ができると指摘する。 このピラミッド型モデルを宗教コミュニティーに応用するとき、さまざまな宗教的 アクターが各階層に存在することがわかる。まず、最高指導者レベルでは法王、ムフ ティ、主席ラビ、大司教など宗教的権威を持つ指導者、中間指導者レベルでは地域宗 教指導者、学者、諸宗教連合体、国際宗教 NGO など、そして草の根指導者レベルで は地域コミュニティーで活動する宗教者、宗教 NGO、在家信者などである(Hertog, 2010)。各階層の役割を検討するとき、最高指導者のもつ権威と影響力は、紛争下の調 停、アドボカシー活動、和解プロセスに有用である。また、中間指導者は、最高指導 者と草の根指導者を効果的につなぎ、利用可能な資源を戦略的に活用し、柔軟なプロジェクト運用が期待される。草の根の指導者には、日常的に直面する暴力的衝突や憎 しみの連鎖に対し、地域コミュニティーの教育や和解プログラムを行うことが期待さ れる。 Lederach のピラミッド型モデルは、これまでに平和構築の主体と考えられていなか った中間・草の根指導者層の人材と資源を巻き込み、また、平和構築を支える最も大 きな基盤が草の根の階層であることを広く社会に示した意味において評価されている (Miall,2004、Fetherston,2000)。宗教コミュニティーによる平和構築に置き換える と、全世界では50億人が何らかの宗教コミュニティーに属していると言われている。 その意味で、宗教コミュニティーは最も大きな草の根のコミュニティーを形成してお り、コミュニティーの有する人的・物質的資源を包括的に利用することで、平和構築 に大きく貢献する可能性を持っている。
3.宗教コミュニティーの資源
ここで、宗教コミュニティーの有する資源について述べたい。Vendley(2005)は、 宗教コミュニティーが有する資源として①社会的資源、②倫理的資源、③精神的資源 を挙げている。まず、社会的資源として、宗教コミュニティーの持つインフラ(教会、 寺社、モスク、学校、病院など)、寄付・布施による財政基盤、伝道のためのコミュニ 図1:平和構築に関わる主体とアプローチ6ケーションツール(新聞、雑誌、ラジオ、インターネットなど)、宗教者間・宗教コミ ュニティー内のネットワークなどがあげられる。これらは紛争下において、人道支援 を提供する場や、和解のメッセージを伝えるツールとして利用することが可能である。 また、宗教的な価値観は、暴力や衝突を避け、調和をもたらすための一定の倫理観を 有している(Hertog,2010)。宗教コミュニティーの持つ倫理的資源については、紛争 下の不安定な社会状況で、紛争調停や和解プロセスに重要な役割が期待される。そし て、宗教の持つ非暴力や赦しという精神的メッセージは、人々が平和構築の当事者と して取り組む姿勢を後押しするものである(Abu-Nimer,2001)。これは、国連などの 平和構築活動にはない、宗教者独自の領域である。 この3つの資源に加え、ここでは、諸宗教が集うことで得られる独自の資源を提示 したい。まず、異なる宗教コミュニティーが集うことで、単一コミュニティーよりも 幅広く社会的、倫理的、精神的資源を活用することができる。そして、諸宗教の連合 体は、宗教の多様性を受容し、特定の宗教に偏らず、また布教活動を行わないことが 前提となる。その意味で、諸宗教連合体は宗教の集まりである一方、独自の宗教性を 持たず、より公益的な機能を有すると言える。そのため、非宗教コミュニティーが宗 教コミュニティーに対して抱える不安、すなわち宗教を語った過激主義や、人道支援 を通しての布教活動に陥る懸念が少ないという利点がある。また、宗教の違いによっ て紛争下の対立が懸念される場合には、異なる宗教コミュニティーの指導者が集い、 共に和解のメッセージを発することで、衝突を鎮め、正しい理解を促し、連帯をもた らす作用が期待される。 しかし、これらの宗教コミュニティーが持つ独自の資源はしばしば見落とされ、活 用されない。その理由の一つとして、Appleby(2008)は、宗教指導者が平和構築の担 い手として自己を認識しておらず、また国境を越えるトランスナショナルなアクター としての戦略的能力が欠如しているからだと指摘する。 そのため、宗教者の持つ国境を越えたネットワークを活かすとともに、地域社会に おける平和構築を担う当事者としての意識を高め、宗教コミュニティーの有する資源 を活用するためには、その特性を活かすメカニズムが必要と言えよう。また、国連諸 機関や国際 NGO などの専門性を持つ団体との連携により、宗教コミュニティーの資 源を広範に活用することも期待される。 一方で、宗教者が平和構築に関わる中で本質的に懸念されるのは、Appleby(2000) が指摘する宗教の両義性(ambivalence of religion)の問題である。非暴力や赦しなど宗 教が平和的共存を求める一方で、歴史的に見ても、宗教が暴力行為を正当化するとい う逆説的な行為を行ってきた。紛争下で宗教が政治に利用されたとの議論もなされる が、宗教者は宗教の持つ両義性についても認識しなければならない。宗教を語った過 激主義や異宗教間の衝突を予防する意味でも、諸宗教が集う環境の構築は有益である
と考える。
4.Religions for Peace の諸宗教メカニズム
Religions for Peace は国連経済社会理事会(ECOSOC)の特殊協議資格を有する国際 的な諸宗教の連合体である。1970年の創設以降、諸宗教の協力によって軍縮、紛争解 決、貧困改善、環境問題への取り組みなどを推進してきた。現在、世界90カ国以上に 諸宗教評議会(Inter-Religious Councils: IRCs)を有し、女性、青年を含む宗教者のネッ トワークを地域から国際レベルで構築している7。Religions for Peace は各国の IRCs と の結びつきを持ちながら、IRCsはそれぞれの地域で活動を行い、独自のアイデンティ ティを有している。Religions for Peace は宗教のもつ階層的な性格と国際的なネット ワークを用い、最高指導者から草の根の指導者レベルまでを結び、さまざまな問題に 取り組んでいる。IRCsは、それぞれの宗教のアイデンティティを保ちながら異なる宗 教コミュニティーを尊重し、地元の諸宗教組織を支援し、共通する課題に対して協働 することを基本としている(Vendley 2005)。その意味で、IRCsは諸宗教協力の持続的 なプラットフォームを構築し、自主的で行動指向型組織を目指している。
Religions for Peaceの具体的な紛争解決への取り組みは、1990年代から行われてきた。 特に、バルカン半島、西アフリカ、中東などで積極的に紛争解決および紛争後の社会 の再構築に携わってきた。シオラレオネ内戦では、シエラレオネ諸宗教評議会(Inter-Religious Councils of Sierra Leone)が政府、暫定軍事政府、武装組織を含む主要な団体 との仲介を行い、人質や少年兵の解放など和平プロセスに寄与した実績を持つ(Turay, 2000)。ルワンダ、コンゴ民主共和国、ウガンダでも、紛争後の心のケア、和解プログ ラム、アドボカシー活動などを行っている。これらの取り組みは、宗教指導者の自主 性と独自性を尊重し、宗教コミュニティーが紛争解決に関わる重要なアクターである ことを認識させている。
また、Religions for Peace は国連諸機関と連携し、世界の喫緊の課題に取り組んでい る。特に UNICEF との連携は、1990年の「子どものための世界サミット」で、子ども の権利と福祉のための共通行動をUNICEFと共同採択したことに始まる(Religions for Peace, 2002)。以降、宗教的な視点を取り入れながら、子どもに対する暴力、紛争関 与、性的搾取、HIV/AIDS などの危機的な問題に取り組んでいる。2006年に開催され たReligions for Peaceの第8回世界大会では、宗教コミュニティーのコンセンサスとし て、子ども保護に関する声明「A Multi-Religious Commitment to Confront Violence against Children」を採択し、2007年から2011年の戦略的計画の中でも、子どもと家族の権利と 福祉の推進を行動指針の一つとするなど、UNICEF との連携を深めてきた(Religions for Peace,2009)。
しかし、これまでの UNICEF との連携は、ほとんどが Religions for Peace と UNICEF 本部が主導して行なってきたものであり、各国、地域レベルでどのように子ども保護 の指針を活かしていくかが課題とされてきた。また、国レベルでは、FBO と UNICEF の連携による子ども保護の活動はこれまでも行われてきが、諸宗教協力母体である IRCsとUNICEF国内事務所の連携はこれまで行われたことはない。その意味で、2009 年から開始された Religions for Peace と UNICEF の連携プロジェクトは、諸宗教協力の 視点を取り入れ、諸宗教連合体の特性を活かした企画、運営という新しい取り組みを 始めたと言える。
5.宗教コミュニティーと連携する国連機関からの視点
国連及び国連諸機関は、市民社会とのさまざまな連携8を構築しており、市民社会を
構成する一つとしての宗教コミュニティーとの関わりも年々増加している。国連では、 2001年の国連決議56/6「Global Agenda for Dialogue among Civilizations」以降、宗教・文 化への理解促進、諸宗教対話の推進など、宗教に関するさまざまな国連決議が採択さ れてきた9。2007年から2009年の国連事務総長報告においても、平和のための諸宗教・ 文化間対話の必要性を確認している10。 国連諸機関の中では特に、UNICEF、UNFPA(国連人口基金)、UNAIDS(国際連合 エイズ合同計画)が宗教コミュニティーとの協働を積極的に行ってきた。それらの経 験から、UNICEF と UNFPA は宗教コミュニティーとの効果的な連携と協働について のガイドブックをまとめている11。このガイドブックをもとに、宗教コミュニティーと 連携する国連機関の視点を考察したい。 UNICEF は、世界の主要な宗教伝統と子どもの権利条約の原則は、共通の価値観を 有すると認識している(UNICEF,2012a,P11)。宗教コミュニティーと連携する上で、 共通の価値を有することは重要な要素である。また、連携を通して、宗教コミュニテ ィーの持つ倫理的影響力、リーダーシップ、広範囲なネットワーク、特に、家族や地 域コミュニティーへのアクセスに期待を寄せている。なぜなら、宗教指導者や宗教コ ミュニティーは、多くの場合、社会経済的、階層的な境界を超えて家族や個人の領域 にアクセスが可能であるからだ。 2006年の「子どもへの暴力に対する国連事務総長報告」12では、子どもへの暴力のほ とんどが家庭の中で行われることが指摘されている。しかし、家庭内の子どもの問題 は表面化しない場合が多く、さらに家庭は私的領域と考えられるため、外部の支援者 によるアプローチが難しく、慎重さが求められている。一方、宗教指導者は多くの場 合、家族や地域コミュニティーと密接に関係しており、個人の領域へのアクセスを可 能にしている。UNICEF は、宗教コミュニティーとの連携を通して、家庭や宗教コミ
ュニティー内における子ども保護の取り組みを行うことを期待している。 UNFPAは、性と生殖にかかわる健康、女性のエンパワーメント、人口と開発の領域 で活動を行う国連機関である13。UNFPA が取り組む課題の多くが、性と生殖、男女の 権利、ジェンダーとセクシュアリティの問題など、文化と深く結びついたものである。 UNFPAは、文化を人間の生活や考え方に影響を与える“人間開発の重要な特性”と捉 え、文化を開発のプロセスに融合させる取り組みを行っている。そして、宗教は文化 を形成する重要な要素であるとし、FBOや宗教コミュニティーを人間開発に変化をも たらす主体と考え、FBOとの連携を特に強化してきた。非宗教系組織が支配的な開発 分野において、UNFPAの調査では、開発途上国の健康管理、教育サービスの30∼60% を FBO が担っていることを示していることからも、FBO との連携が必要不可欠であ ると認識している(UNFPA,2009)。 宗教コミュニティーとの連携に際し、UNICEF、UNFPA はともに、中立性と多様性 を指針の一つに掲げている(UNICEF,2012a,UNFPA,2009)。紛争下で、宗教コミ ュニティーが政治的権力や衝突に関与している場合を鑑み、特定の宗教コミュニテ ィーとの連携を避け、透明性のあるコミュニケーションを目指している。その意味で、 諸宗教連合体との連携は効果的である。実際に、UNICEF と UNFPA は、既存の諸宗 教連合体と連携することで、諸宗教連合体がさまざまな宗教コミュニティーとの橋渡 し役を担い、幅広いコミュニティーで、宗教的バランスが保たれた事業を行うことを 期待している。 しかし、国連諸機関と宗教コミュニティーとの連携に際し、いくつかの課題が存在 する。まず、「連携(partnership)」の概念そのものが未だ開発途上であり、連携におけ るそれぞれの役割と責任の所在について定義がなされていないという点である。特に、 諸宗教連合体との「連携」におけるガイドラインはまだ策定されていない。ガイドラ インやアセスメント評価基準がない場合、その場しのぎの、また一貫性のないプロジ ェクトになる可能性が考えられる。そのため、異なる状況下でどのような「連携」が 最も効果的かなど、さらなる開発と研究が求められる。 また、連携する宗教コミュニティーが、国連機関の請負組織として機能するのでは、 有効な連携事業とは言えない。国連機関と宗教コミュニティーが、協働する対等なパー トナーとしてどのように連携を組めるかが、今後の重要な課題であると言える。 国連機関と宗教コミュニティーのジェンダーや子どもの権利に対する相互理解につ いても検討されなければならない。UNICEF は、“宗教に基づく信仰、実践の一部は、 児童に対する暴力や差別を助長もしくは容認するものである”と指摘する(UNICEF, 2012a,P3)。しかし、児童、ジェンダーや性に関わる問題は、社会文化的背景の中で 多くは明るみに出ず、宗教コミュニティーの中でもオープンに語られないことが多い。 一方で、宗教コミュニティーは、国連機関が持ち込む規範に対し、これまでの性に関
する概念や慣習を変えさせられてしまうのではという不安を感じているのも事実であ る。子どもの権利という概念さえ、地域固有の文化や伝統を変えさせるための西洋的 概念であると間違って解釈されることも多い。 したがって、国連機関と宗教コミュニティーが連携するためには、共通の目的を共 有し、互いの信頼を構築するとともに、それぞれが使用する言語、専門用語について 学ぶことが必要不可欠である。また、宗教コミュニティーは多様であり、同一の宗教 内でも異なる解釈が多く存在する。連携においては、この多様性も考慮しなければな らない。
6.Religions for Peace と UNICEF の連携事業
Religions for Peace と UNICEF は、2009年から、紛争下・後の子どもたちの保護のた めの連携事業を開始した。この事業は、宗教コミュニティーと子ども保護事業団体の 連携を強化し、紛争の被害を受ける子どもたちに適切な保護を促すことを目的として いる(Religions for Peace,2012a,P3)。地域住民は紛争の影響を最も受けやすく、地 域コミュニティーの宗教者は紛争の影響を受けた子どもや家族の問題に直面する。そ のため、宗教者は子どもたちや家族に対する物質的・精神的ケアを提供する役割を担 うことが期待されている。UNICEF との連携事業では、宗教コミュニティーが子ども 保護に関する知識、技術を学び、諸宗教の連合体としてそれらを幅広くコミュニティー の中で実践することを目指している。UNICEF もまた、諸宗教連合体の価値や組織な どを理解することで、より効果的に子ども保護事業を行うことが望まれている。 この連携事業は、Religions for PeaceとUNICEFの国際本部での合意により開始され、 その具体的なプロジェクトは国レベルで各国 IRCs と UNICEF 各国事務所の協議のも とに行われている。IRCsとUNICEF事務所は、子ども保護事業という共通の課題に取 り組むことを目的とし、異なる宗教コミュニティー間の協力と理解を促すとともに、 宗教が紛争に利用されないよう予防することも目的としている。また、Religions for PeaceとUNICEF国際本部は各国の連携事業の評価、分析とフィードバックを行い、国 際的なネットワークを通じて、各国 IRCs、UNICEF 事務所と成果や課題について共有 している。国際本部レベルでは、子ども保護に関するハイレベル会合を設け、政府、 NGO、学者などを巻き込み支援活動を行うなど、包括的な子ども保護事業を展開して いる。現在、Religions for Peace と UNICEF は、ケニア、リベリア、フィリピンで連携 事業を行っている。本稿では、特にリベリアでのプロジェクトについて述べたい。 リベリアでは1989年から2003年まで続いた内戦により、多くの孤児と若い母親が存 在する。また、HIV/AIDS のまん延も深刻な問題となっている。リベリア諸宗教評議 会(Inter-Religious Council of Liberia/IRC Liberia)と UNICEF リベリア事務所は、2010
年にリベリアの5つの郡で、子どもへの暴力と虐待を予防するための連携事業を開始 した。連携事業では、複合的なアプローチを用い、離散した子どもたちの保護と家族 のもとへの帰還支援、脆弱な家族のケア、性的暴力・虐待・HIV/AIDS から子どもた ちを保護することに取り組んでいる。 国内指導者レベルにおいて、リベリア諸宗教評議会は、リベリア政府の保健・社会 福祉省のタスクフォースチームの一員として、孤児を減らす取り組みを行っている。 リベリア諸宗教評議会のアドボカシー活動は、子どもたちが孤児院に不用意に送られ ることがないよう政府の規制を強化することに結びついた。地域レベルでは、リベリ ア諸宗教評議会と UNICEF リベリア事務所が連携し、地元の宗教指導者との会合を持 ち、孤児を減らす取り組みを行っている。2011年は、100名以上の地元宗教指導者が会 合に参加、子どもたちが家庭の中で育つことの重要性と、家庭内の性的暴力の予防に ついて話し合った(Religions for Peace,2012b,p5)。
これらの活動の背景には、孤児増加の一因に、宗教者の関わりがあると考えられて いるからだ。宗教者が脆弱な子どもたちを保護する目的で家族から引き離し、安易に 孤児院に送ることによって孤児の増加を招いたとHanmer et al(2009)は指摘する。宗 教者や宗教コミュニティーの中で、子どもの生育環境に対する認識が低く、さらには、 家族を支援するサービスが不足しているため、子どもたちを安易に孤児院に送る傾向 にあると言う。また、孤児院の多くが宗教コミュニティーの寄付や貧者救済のミッシ ョンで支えられており、孤児数の増加に伴って孤児院を増設し、さらに孤児を増やし てしまうという“orphan crisis(孤児の危機)”に陥っている。このような悪循環を断 ち切るために、UNICEF リベリア事務所とリベリア諸宗教評議会は連携し、地域宗教 指導者との会合を持ち、子どもたちを家庭で育てることの重要性を示すと共に、脆弱 な家族へのケアを連携して強化することに取り組んでいる。 また、リベリアでの連携事業では、宗教者や親たちが、「子どもの権利」という言葉 を西洋・自由主義社会の価値観であるとし、「子どもの権利」という言葉を使いたがら ないという事例が見られた(Religions for Peace,2012c)。一方で、UNICEF は宗教者
の使う宗教的表現、言語の使用を好まない傾向にある。そこで、「子どもの権利」とい う言葉を使う代わりに、宗教の教義や伝統的な教えの中にある言葉を用い、子どもの 「幸福(well-being)」や子どもの「保護(safe guarding)」と表現し、UNICEF と宗教コ ミュニティーが互いに理解を深めるよう努めている。互いの言語を学びあうプロセス は、UNICEFと宗教コミュニティーの価値観や、構造について学ぶ機会となる。また、 さまざまな宗教コミュニティーの伝統や価値を学ぶ中で、諸宗教の多様性についても 認識するものであり、連携事業を行う際に重要なプロセスであることが確認されてい る。
7.おわりに
これまで論じてきたように、宗教コミュニティーは社会的、倫理的、精神的な側面 で平和構築活動を支える独自の資源を有し、さまざまな階層の宗教コミュニティーを 巻き込み、平和構築を担う役割が期待されている。また、諸宗教の協力は、単一の宗 教コミュニティーよりも幅広くそれらの資源を活用し、さらには、宗教連合体として 公益的な性質を持つことで、非宗教コミュニティーとの連携を可能としている。 Religions for Peace と UNICEF との連携事業は、宗教コミュニティーが子ども保護の 主体として、子ども保護を担う当事者意識を高めていることを示している。そして、 政府へのアドボカシー活動や草の根のワークショップを行うなど、異なる階層で諸宗 教ネットワークを活かす取り組みを行っている。UNICEF にとっても、Religions for Peace との連携は、宗教の多様性と中立性を保ち、さまざまな宗教コミュニティーへ の橋渡し役として協働することを期待する。その意味で、諸宗教連合体と国連諸機関 の連携は、双方向にとって有益であると考えられる。 しかし、宗教コミュニティーが、国連機関の請負組織ではなく対等なパートナーと して連携するためには、協働のための共通目的を明確にし、プロジェクトの計画を策 定しなければならない。そして、プロジェクト実施の際は、互いの言語、価値観、組 織構造などを学び合い、連携するパートナーとしての意識を高めることが求められる。 言語や価値観を学びあうプロセスは、互いを受容し、両者の強みを活かすために必要 な作業であると考えられる。 連携におけるそれぞれの役割と責任、貢献のあり方は未だ手探りの状態である。宗 教コミュニティーの多様性ゆえに、連携のあり方を一つに定義することは現段階では 難しいであろう。その意味で、今後のさらなる研究が求められる。 参考文献ABU-NIMER, M.(2001)“Conflict Resolution, Culture, and Religion: Toward a Training Model of Interreligious Peacebuilding,”Journal of Peace Research, 38⑹, pp.685-704 AMMIRATI, B.(2012)Personal Communication,(Ammirati is Conflict & Child Protection
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VENDLEY, W. F.(2005)“The power of Inter-Religious Cooperation to Transform Conflict”, Cross Currents, 55⑴. 【謝 辞】 本稿は、バーミンガム大学政治社会大学院に提出した修士論文を加筆し修正したも のである。同大学院への留学に際し、立正佼成会から寛大なご支援を頂き、WCRP 日 本委員会ならびにWCRP国際委員会からは本研究に対して多くのご協力を頂いた。修 士論文の主査である同大学院の Josef BOEHLE 教授、本稿を執筆するにあたり数々の ご教示いただいた WCRP 国際委員会副事務総長の杉野恭一氏と WCRP 日本委員会渉 外部長の和田めぐみ氏へ心からお礼を申し上げ、感謝の意を表したい。 1 本稿でいう「宗教」とは仏教、キリスト教、道教、ヒンズー教、イスラーム、ユダヤ教、シー ク教、神道、その他の民族宗教など世界の主要な宗教を意味し、「宗教」に関する神学的、社会学 的定義の議論は避ける。宗教コミュニティーとは、“ローカルから国際的なレベルにおいて、宗教 のもとに集う男女、システム、組織”を意味し、地域の宗教共同体、信仰に基づく団体(Faith-Based Organisation: FBO)、青年・女性の信仰ネットワーク、諸宗教連合体を含む。(UNICEF, 2012a, p.7) 2 ‘Peacebuilding’は元々、1992年に国連のBoutrous Boutrous-Ghali事務総長が‘An Agenda for Peace’ の中で使用し、紛争後の社会の再構築、和解の促進などを含む復興事業を意味している。 Peacebuilding を定義するとき、紛争後の国の再興、インフラ整備、停戦の維持など狭義の定義か ら、紛争予防を含む紛争に関わる様々な事業を広義の意味として使用される場合もある。本稿で
は、紛争下・後の精神的ケアを含む人道支援、人権促進、経済開発と共に、紛争の予防と未然の 管理を含む広範の活動を意味している。これは、Peacebuilding を行う行為の主体が元々国家や国 連機関であったのに対し、宗教者、宗教コミュニティーによる Peacebuilding の可能性を考える上 で、ハード面のみならずソフト面での平和構築活動への貢献を可能にする広範な意味で捉えられ るため。
3 The United Nations と the UN agencies を指す。
4 FBO については、UNFPA の定義‘religious, faith-based groups, and/or faith-inspired groups which operate as registered or unregistered non-profit institutions’を使用する(UNFPA, 2009, p. 4)。
5 本稿では、「諸宗教」とはさまざまな宗教と宗教コミュニティーの相互交流を意味する包括的な 概念として用いる。諸宗教対話における神学的、哲学的議論は含まず、現存する諸宗教連合体と 宗教者の取り組みについて述べることとする。
6 Actors and Approaches to Peacebuilding(Source: from Lederach, 1997, p. 39) 7 Religions for Peace Website, www.wcrp.org
8 ここでの連携(partnership)とは、国連決議62/211(11 March 2008)“‘Towards global partnerships’ における‘voluntary and collaborative relationships between various parties in which all participants agree to work together to achieve a common purpose or undertake a specific task’を意味する。
9 国連決議56/6(9 November 2001)“Global Agenda for Dialogue among Civilizations”, 57/6(4 November 2002)“Concerning the promotion of a culture of peace and non-violence”, 57/337(3 July 2003)“Prevention of armed conflict”, 58/128(19 December 20039)“Promotion of religious and cultural understanding, harmony and cooperation”, 59/23(11 November 2004)“Promotion of interreligious dialogue”, 59/143(15 December 2004)“International Decade for a Culture of Peace and Non-Violence for the Children of the World, 2001–2010”, 59/199(20 December 2004)“Elimination of all forms of religious intolerance”, 61/221 (14 March 2007)“Promotion of interreligious and intercultural dialogue, understanding and cooperation for
peace”など。
10 United Nations General Assembly(2007, 2008, 2009)“Interreligious and intercultural dialogue,
understanding and cooperation for peace Report of the Secretary-General”
11 UNICEF(2012a)Partnering with Religious Communities for Children, New York,(http://www.unicef. org/eapro/Partnering_with_Religious_Communities_for_Children.pdf), UNFPA(2009)“Guidelines for Engaging FBOs as Agents of Change”(http://www.unfpa.org/culture/docs/fbo_engagement.pdf) 12 The UN Secretary-General’s Study on Violence against Children in 2006