手術<頭 蓋 底 切 除(ど こまで切 除 可能 か)>
鼻副 鼻 腔癌 の頭蓋 底 切 除 の限界 行 木 英 生
鼻 副 鼻腔 悪性 腫 瘍 に おけ る頭蓋 底 の切 除 部位 の 限界 に つい て総論 的 に述べ た。1)鼻 副鼻 腔癌 に対 す る頭 蓋底 手術 の成績 を左 右す る因子 の 中で最 も強調 してお きたい点 は、
浸潤 部位 や組織 型 とい う因子 以 上 に、不 完全切 除 で は長 期生存 が期 待 で きない とい う点 で あ る。2)鼻 副 鼻腔 の原 発巣 と頭蓋 底 とを一 塊 として切 除で きる腫瘍 の進展 範 囲 は、
頭蓋 底 の骨 切 り範 囲 内 に含 まれ る ことが 必 要条 件 で あ る。3)頭 蓋底 の骨 切 り範 囲の限 界 とな る部位 は、 眼窩尖 端部 、視 神経 管 、前床 突起 、蝶 形骨体 部、 破裂 孔、頸 動脈 管、
お よび斜 台 であ り、 これ らの部位 は内頸動 脈 の走行 と密 接 な関係が あるた め癌 の浸潤 の 程 度 に よ り手術 適 応が 決 まる。4)頭 蓋底 の骨切 り範 囲 に含 まれ る頭蓋 内組織 の 中で、
海 綿 静脈 洞 はその底 面 の硬膜 まで は一 塊切 除可 能 であ るが、海 綿静 脈洞 内へ の浸潤 は内 頸動 脈切 除 の可 否 によ り手 術 適応 が決 ま る。5)ま た 、脳 実質 は必 ず し も適応 外 で はな いo
Key words:鼻 副 鼻 腔 癌 、 頭 蓋 底 外 科 、 切 除 限 界 、 累 積5年 生 存 率 、 内 頸 動 脈
は じ め に
鼻 副 鼻 腔 癌 の 頭 蓋 底 浸 潤 例 に対 す る治 療 成 績 が 20%台 で 悲 観 的 で あ っ た1980年 代 前 半 を 経 て 、 頭 蓋 内 外 か らの 複 合 法 に よ る頭 蓋 底 外 科 手 術 が 日本 で も盛 ん に 行 わ れ る よ う に な っ て す で に10年 以 上 に な る1)。1987年1月 か ら1996年12月 ま で の10年 間 に 筆 者 が 経 験 し た54例 の 治 療 成 績(1996年6月
ま で の9年6カ 月 の 治 療 成 績 に つ い て は 頭 頸 部 腫 瘍 23:212‑220,1997に 詳 細 に 記 載 し て あ る2))を も
と に、 頭 蓋 底 外 科 に お け る鼻 副 鼻 腔 癌 の 頭 蓋 底 切 除 限 界 に つ い て 総 論 的 に述 べ る 。
累 積5年 生 存 率
頭 蓋 底 の切 除 部 位 を前 頭 蓋 底 、前 中頭 蓋 底 お よ び 、 中 頭 蓋 底 に 分 け る。 手 術 し た54症 例 の う ち 前 頭 蓋 底 切 除 例(A)が19例 、 前 中 頭 蓋 底 切 除 例(B)は28 例 、 中頭 蓋 底 切 除 例(C)は7例 で あ っ た が 、 手 術 手 技 の 複 雑 な 中 頭 蓋 底 を 中 心 に 考 え る と前 中+中 頭 蓋 底 切 除 例(D)は35例 と な る 。 累 積5年 生 存 率 は 全
体 で は49%で あ っ た が 、(A)で は62%、(B)で は 30%、(C)で は83%、(D)で は41%で あ っ た 。 そ の 中 か ら 扁 平 上 皮 癌(n=31)だ け を ピ ッ ク ア ッ プ し て み る と 、(A)が10例 で51%、(B)は18例 で26%、(C)は3例 で100%、(D)は21例 で38
%で あ り、 扁 平 上 皮 癌 全 体 で は40%で あ っ た(図 1)。 組 織 型 の い か ん に か か わ らず(B)の 生 存 率 が 低 い の に 対 して(C)が 良 か っ た の は、 眼 窩 内 容 を保 存 し て 中 頭 蓋 底 と上 顎 を一 塊 と して 切 除 す る 手 技 の 難 し さ の た め に 、 完 全 切 除 が 可 能 な 中頭 蓋 底 骨 ま で の 浸 潤 症 例 を選 択 し た こ とが 一 つ の 要 因 と考 え られ る 。 扁 平 上 皮 癌 で は頭 蓋 内 浸 潤 に対 す る切 除 範 囲 の 設 定 の 難 し さの た め に 中 頭 蓋 底 切 除 以 外 の 頭 蓋 底 切
除群 の 成 績 が 悪 くな っ て い る 。 局 所 制 御 率
扁 平 上 皮 癌 の 累 積5年 生 存 率 は(C)を 除 き 他 の 部 位 の 成 績 は確 か に 悪 い が 、 局 所 制 御 率 を み て み る と
(A)は58%、(B)で は40%、(C)は100%で あ り、
全 体 で は52%が 局 所 制 御 が で き た と い え る(図2)。
静 岡 赤 十字 病 院 耳鼻 咽 喉 科
別 刷 請 求:〒420‑0853静 岡市 追 手 町8.2静 岡赤 十字 病 院 耳鼻 咽 喉科 行 木英 生
574 耳 鼻 と 臨 床 44巻 補2号
図1全 組 織 型 お よ び扁平 上 皮 癌 に お け る頭 蓋 底 切 除部 位 別 の 累積 生 存率 曲線 C:中 頭蓋 底 切 除群 、A:前 頭 蓋底 切 除 群 、T:全 手術 例 、
D:前 中 ・中頭蓋 底 切 除群 、B:前 ・中頭 蓋底 切 除 群
図2扁 平上 皮 癌 に お け る頭 蓋 底切 除部 位別 の局 所 制 御 率 曲線
C:中 頭 蓋底 切 除群 、A:前 頭 蓋 底切 除群 、 T:全 手 術例 、B:前 ・中 頭蓋 底 切 除群
一 塊 切 除 を 目的 と した頭 蓋 底 切 除 ラ イ ン3) (図3)と 一 塊 切 除 不 可 能 な 頭 蓋 底 の 部位 1)前 頭 洞 か ら篩 骨洞 天蓋 にか けて の浸潤Xに 対 す る頭 蓋底 の骨 切 り線 はA‑Bの よ うに設 定 す る が、外 頭蓋底 で は浸潤 の程度 によ り眼 窩紙様 板 、眼 窩骨膜 、眼 窩内容 、 お よび鼻 中 隔切除 の有 無 を検 討 す る必 要が あ る。
2)後 部 篩骨 洞 天 蓋か ら眼窩 内 にか けて の浸 潤Y に対 す る頭 蓋底 の骨切 り線 はA‑Cの よ うに設 定す
るが、 外頭蓋 底 で は患側 は眼窩 内容、健 側 は眼 窩紙
図3頭 蓋底 切 除 ライ ン
様 板 あ る い は眼 窩 骨 膜 を含 む か 否 か を検 討 す る必 要 が あ る 。
3)前 頭 蓋 底 の 切 除 後 縁 は 蝶 形 骨 平 面 か ら眼 窩 尖 端 部 と な る の で 、 こ の 切 除 ラ イ ン を越 え て 視 神 経 ル ー ト、 前 床 突 起 、 あ る い は上 眼 窩 裂 へ の 浸 潤Sが あ る場 合 に は、 中 頭 蓋 底 の 前 半 部 分 を合 併 切 除 す る こ と で 完 全 切 除 と な る場 合 と内 頸 動 脈(C3)の 切 除 も必 要 と な っ て適 応 外 とな る こ と も あ る 。
4)篩 骨 洞 天 蓋 か ら眼窩 内 お よび 中頭蓋 底 にか け ての浸 潤XYZに 対 す る頭蓋 底 の骨 切 り線 はA‑E やa‑Eの よ うに設定 す るが、外 頭 蓋底 で は蝶 形骨 体部 、翼 状 突起 、三叉 神経 第3枝(卵 円 孔)へ の浸 潤 の可 能性 を考 える と中頭蓋底 の広範 囲切 除 を必要 と し、 また、前 頭蓋底 の骨切 りは浸潤 の範 囲 に よ り患 側 また は健 側 の篩 骨 洞 天蓋 を含 む切 除 が 必 要 とな る4)。
5)中 頭蓋 底 だ けの浸 潤Zに 対 す る頭 蓋底 の骨 切 り線 はD‑Eの ように設定 す るが、 外頭蓋 底 で は蝶 形骨体 部 、翼状 突起 、三 叉神 経第3枝(卵 円孔)ま で の浸潤 に対 して は中頭蓋底 だ けの切除 です む場 合 が あ る。 眼窩 内容 は保 存 で きる場 合 とで きない場合 と にわ かれ る。
6)中 頭 蓋 底 の切 除 後縁 は頸動 脈管 の前 縁 に沿 う
ので、 この切 除 ライ ンを越 えて頸動 脈管 、破裂 孔、
あ るいは斜台 へ の浸潤 があ る場 合 に は内頸動脈 の切 除 が必 要 とな り、適 応外 とな る場合 が多 い5)。
7)硬 膜 浸潤 に対 す る切 除(図4):硬 膜 浸潤 の部 位 が前 また は中頭蓋 窩 のいず れか、 あ るい は前 お よ び中の両頭 蓋 窩 に またが る もの と硬膜 浸潤 の ない も の と比較 してみ る と硬 膜 浸潤 の部 位 が広 が るにつれ て累積生存 率 は組織型 に関係 な く低 下す る。特 に、
頭蓋底 骨 の切 除 ライ ン上 の硬膜 に まで浸潤 が ある症 例 は一塊切 除 は も とよ り完 全切 除 はで きない と考 え られ、 また、 この よ うな症例 では髄液 漏 を生 じさせ な い硬 膜再 建 が難 しい こ とが多 い。
8)硬 膜 内浸 潤 に対 す る切 除:前 頭蓋 底 で は視 神 経ル ー ト周 囲 の浸潤以 外 の前方浸 潤 な ら切除 可能 で あ る。 中頭 蓋底 で は海 綿静脈 洞底 面 を構 成 す る硬膜
図4全 組 織 型 お よび扁 平 上皮 癌 にお け る硬膜 浸潤 部 位別 の累積 生 存 率 曲線
図5全 組織 型 お よび扁 平 上皮 癌 にお け る切 除度 に対 す る累積 生 存 率 曲線
576 耳 鼻 と 臨 床 44巻 補2号
へ の 上 眼 窩 裂 や 正 円孔 か らの 浸 潤 に対 し て は海 綿 静 脈 洞 の 部 分 切 除 が 可 能 で あ るが6)、 海 綿 静 脈 洞 内 お よ び 内 頸 動 脈 壁 周 囲 へ の 浸 潤 が あ る場 合 は 内 頸 動 脈 の 合 併 切 除 が 必 要 とな り、 また 、 組 織 型 に よ り7)適 応 外 の 症 例 が 多 くな る と考 え る 。
前 頭 蓋 底 漫 潤 症 例 と 前 中 頭 蓋 底 浸 潤 症 例 前 頭 蓋 底 浸 潤 を示 し た19例 中 の7例 が 死 亡 し て い る が 、 そ の 中 で 浸 潤 部 位 の 不 完 全 切 除 に終 わ っ た 症 例 は 全 例 死 亡 し て い る。 そ の部 位 と し て は、 一 つ は眼 窩 尖 端 部 や 蝶 形 骨 小 翼 で あ り、 前 頭 蓋 底 の切 除 ラ イ ン を後 方 に越 え て い る部 位 な の で 前 中頭 蓋 底 合 併 切 除 の適 応 で あ っ た 。 も う一 つ は、 硬 膜 内 へ の 進 展 と し て、 前 頭 葉 へ の 浸 潤 を認 め た 悪 性 黒 色 腫 で あ
るが 、 組 織 型 の 悪 性 度 も考 慮 す べ き で あ る。
前 中 頭 蓋 底 と 中頭 蓋 底 に浸 潤 を示 し た も の は28 例 と7例 で あ る が 、 そ の 合 計35例 を検 討 し て み る
と、 そ れ ぞ れ19例 と1例 の 合 計20例 が 死 亡 し て い る。 浸 潤 部 位 の 切 除 度(図5)か ら み る と、micro‑
scopicalに で も不 完 全 な 切 除 に終 わ っ た 症 例 は全 例 死 亡 して い る。 こ の 点 は 浸 潤 部 位 や 組 織 型 に 限 らな い 最 も重 要 な 予 後 因 子 で あ る。 ま た 、 組 織 型 の い か ん に か か わ らず 硬 膜 内 浸 潤 、 海 綿 静 脈 洞 内 浸 潤 、 内 頸 動 脈 周 囲 浸 潤 、 視 神 経 に 沿 っ た 眼 窩 尖 端 部 浸 潤 、 お よ び 硬 膜 播 種 は 、 統 計 的 に は 単 変 量 解 析 で あ っ た が 予 後 因 子 と して 有 意 の 差 を認 め た 。 そ の 他 の 死 亡 原 因 と し て は 術 後 の 合 併 症 死 が あ げ られ る。例 え ば 、 術 後 の脳 梗 塞 、 皮 弁 壊 死 に よ る頭 蓋 内 感 染 、 痙 攣 発 作 、 内 頸 動 脈 出 血 、 と い う よ う な重 篤 な 合 併 症 で あ る が 、術 後 管 理 上 の 問 題 も含 ん で い る の で 合 併 症 死 は 改 善 で き る可 能 性 が 十 分 に あ る。
組 織 型 別 に は 扁 平 上 皮 癌 と腺 様 嚢 胞 癌 の 生 存 曲線 に 特 徴 が あ らわ れ て い る(図6)。 扁 平 上 皮 癌 で は術 後18カ 月 まで に 生 存 率 は40%ま で 急 速 に低 下 す る が そ れ 以 降 は 死 亡 例 が な く40%の5年 生 存 率 を 保
っ て い る の に対 して 、 腺 様 嚢 胞 癌 で はmicroscopical に は 不 完 全 切 除 で あ り な が ら、 局 所 再 発 や 遠 隔 転 移 を繰 り返 し て い る う ち に 死 亡 す る 例 は あ っ て もそ
図6頭 蓋 底 手術 に お け る組 織型 別 の累積 生 存 率 曲線
LMSa: leiomyosarcoma, BSC: basosquamous carcinoma, ONB: olfactory neuroblastoma,AC:
adenocarcinoma, ABSa: ameloblastic sarcoma, ACC: adenoid cystic carcinoma, SCC: squamous cell carcinoma, OSa: osteosarcoma, FSa: fibrosarcoma, RMSa: rhabdomyosarcoma, MM: malignant melanoma
の過 程 は ゆっ くりで長期 的 で あ る。 これ は、 扁平上 皮 癌 で の不 完全 切 除例 が18カ 月以 内 に全 例死 亡 し て い る こ とと対 照 的 であ る。
大 切 片 標 本 か ら見 た 一 塊 切 除 の 限 界 症 例1.65歳 男 性、 上顎 洞扁平 上 皮癌
3回 の血管 内治療 と上 顎部 分切 除後 の再 発例 で、
顔面 皮膚 お よび眼 窩 内 と前 中頭蓋 底骨 へ の浸潤 を認 め た。硬膜 外 で の原発巣 と頭 蓋底 の一 塊切 除 を行 っ た が 、頸 部 リ ンパ 節 お よび肺 転 移 で術 後11カ 月で 死亡 した。摘 出標本(図7A)と 大切 片標 本(図7B、
C)か らは、 癌 は硬膜 面 に は露 出 し て いな いが 、 翼
突筋群 や 口蓋帆 筋群 への浸 潤 が著 しい。
症例2.45歳 女性 、上顎 洞扁 平上皮 癌
上 顎洞 か ら篩 骨洞 、蝶形 骨洞 、鼻咽 腔 に充満 す る 癌 で、眼 窩内 お よび前中頭 蓋窩 硬膜 に浸潤 してい る。
放射 線治療 は無効 であ ったの で、原発 巣 と眼窩 内容 および前 中頭蓋 窩硬膜 の合 併切 除 を一 塊 として行 っ た。 大切 片標本(図8)で は癌が 眼窩尖 端部 か ら蝶 形 骨体 部後 方お よび斜 台 にか けての部位 で不 完全切 除 とな ってい るのが分 か る。 頭蓋 内再発 で術後5カ 月 で死 亡 した。
症 例3.36歳 女性 、 翼 口蓋 窩 腺様 嚢胞 癌 の眼窩 ・ 中頭 蓋窩 の三叉 神経経 由の後頭蓋 窩進 展例 で、強 度
図7症 例1
A:上 方 か ら 見 た 一 塊 摘 出 標 本 、B,C:矢 状 断 大 切 片 標 本(CはBの 外 側)
a.前 頭 蓋 底 、b.中 頭 蓋 底 、c.鶏 冠 、d.視 神 経 、e.上 眼 窩 裂 、f.正 円 孔 、9.卵 円 孔 、 h.蝶 形 骨 洞 、k.口 蓋 帆 筋 群m.側 頭 筋 、n.鼻 中 隔 、
578 耳 鼻 と 臨 床 44巻 補2号
図8症 例2
a:MRI‑前 頭 蓋 底 浸潤(矢 印)、b:MRI‑蝶 形 骨 体部 位 、 中頭 蓋 底 浸 潤(矢 印)、
c,d:前 頭 蓋底 の矢 状 断大 切 片標 本 、e,f:前 中 頭蓋 底 の 矢状 断 大切 片 標 本 の 顔 面 痛 を訴 え て い た 。MRI矢 状 断(図9a)で は 、
翼 口蓋 窩 の腫 瘍 は 後 方 か ら上 顎 洞 に 、ま た上 眼 窩 裂 、 正 円 孔 、 卵 円 孔 の 三 叉 神 経 を 経 由 し て 中 頭 蓋 窩 か ら 後 頭 蓋 窩 に進 展 しつ つ あ る所 見 が と らえ ら れ た 。 癌 が 後 頭 蓋 窩 に 進 展 し つ つ あ っ た の で 、Gassel神 経 節 か ら後 方 の 腫 瘍 は残 し て放 射 線 治 療 と し 、 硬 膜 外 で の 原 発 巣 と頭 蓋 底 の一 塊 切 除 を行 っ た 。 大 切 片 標 本(図9b、c)で は 翼 口 蓋 窩 の腫 瘍 が 上 顎 洞 後 壁 を 、 また 正 円 孔 、 卵 円 孔 の三 叉 神 経 を経 由 して 中頭 蓋 底 を 破 壊 し て い るが 、 不 完 全 切 除 で あ る の が わ か る。
局 所 は放 射 線 照 射 で 制 御 され た が 、 骨 転 移 の た め に 術 後21カ 月 で 死 亡 し た 。
症 例4‑48歳 男 性 、 上 顎 洞basosquamous
carcinoma。 中 心 部 に 嚢 胞 変 性 を伴 う腫 瘍 は 上 顎 洞 の後 壁 を 破 壊 し て 翼 口 蓋 窩 か ら 中 頭 蓋 底 に 浸 潤 し て い るが 、 眼 窩 骨 膜 内 お よ び 中 頭 蓋 窩 硬 膜 に は 浸 潤 は な い と判 断(図10a)し て 、 眼 窩 内 容 を保 存 し た 原 発 巣 と中 頭 蓋 底 の 硬 膜 外 一 塊 切 除 を 行 っ た 。 大 切 片 標 本(図10b)か ら は 癌 の 中 頭 蓋 底 浸 潤 部 は 肥 厚 した 結 合 組 織 が境 界 を な し て お り、 完 全 切 除 で あ っ た 。 再 発 や 転 移 を認 め ず 術 後30カ 月 生 存 して い る。
考 察
鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に お け る 頭 蓋 底 の 切 除 は ど こ ま で 可 能 か … に 対 す る ま とめ と し て は 、1)鼻 副 鼻 腔 癌 に対 す る頭 蓋 底 手 術 の 成 績 を左 右 す る因 子 の 中 で
図9症 例3
a:MRI‑翼 口蓋 窩 か ら中 頭 蓋底 三 叉 神経 ル ー トを通 り後 頭 蓋 窩 に進 展 す る腫 瘍 、b,c:矢 状 断 大切 片 標 本(cはbの 外 側)
最 も強 調 して お きたい点 は、 浸潤部 位 や組織 型 とい う因子 以上 に、 不完 全切 除 では長期 生存 が期 待 で き な い とい う点 で あ る。2)鼻 副 鼻 腔 の原発 巣 と頭蓋 底 とを一塊 と して切 除 で きる腫瘍 の進 展範 囲 は、頭 蓋底 の骨切 り範 囲 内 に含 まれ る ことが 必要 条件 で あ るが 、そ の中 で外頭 蓋底 までの浸 潤例 は最 もよい手 術 適 応 で あ る。3)浸 潤 が さ らに深 く頭 蓋 内 に進 ん で硬 膜 浸潤 を認 めた場 合 の適 応 の中 で、海 綿静 脈洞 底 面 の硬 膜 まで な ら合併 切除 が可 能 であ り、完 全切 除 とな り うる。4)海 綿静 脈 洞 内 に浸潤 して い る場 合 で も内頸 動脈 をC3か らC5の 間 で切除 して も重 篤 な合 併症 が お きない例 で は合併 切除 が可 能 であ る が、microscopicalに も完 全切 除が で きな い と5年 生 存 は期待 で きない。 もちろん 、内頸 動脈 の切 除が
で き ない例 で は手 術 適応 が な い と言 える。5)同 様 に、頭 蓋底切 除後 縁 の限界 は内頸 動脈切 除が 可能 か 否 か で頸動 脈管 を含 むか その前縁 まで か に分 かれ る が、 と くに扁平上 皮癌 の浸潤 様式 の特性 が び漫性 の 骨 内浸潤 にあ る ことか ら、microscopicalに も癌 細 胞 の遺 残が な い状 態 での頭蓋 底切 除が 要求 され る。
6)組 織 型 別 には扁 平上 皮癌 と腺 様 嚢胞 癌 の生存 曲 線 に特 徴が あ り、不完 全切 除 に終 わ った前 者で は18 カ月以 内 に全例死 亡 してい るの に対 して、後 者で は 最 終的 には死 亡 す る ものの生 存期 間 は前 者 よ りも長 い。7)鼻 副 鼻腔 悪 性腫 瘍 の頭蓋 底手 術 で は、浸 潤 部 位 の診 断 をCTお よびMRIで 詳細 に読影 して完 全 切除 で き る症例 を選択 す る こ とが、現 時点 で は5 年 生存 率 を高め る早道 で ある と考 える。
580 耳 鼻 と 臨 床 44巻 補2号
図10症 例4
a:MRI‑嚢 胞 変 性 を伴 う腫 瘍 で 中頭 蓋 底 に浸 潤(矢 印) b:矢 状 断 大切 片 標 本(OF:眼 窩床 、矢 印:中 頭 蓋 底)
文 献
1) 犬 山征 夫他: 厚 生 省 が ん 研 究 助 成 金 に よ る研 究 (1995年)‑頭 頸 部 が ん の境 界 領 域 に お け る 治 療 法 の最 新 の進 歩‑. 協 和 企 画 通信, 東京, 1996.
2) 行 木英 生 他: 鼻 副 鼻 腔 悪 性腫 瘍 に対 す る頭 蓋底 外 科 の遠 隔 成 績 と予後 因子. 頭 頸 部 腫 瘍23: 212‑
220, 1997.
3) 行 木英 生: 一塊 切 除術 式 の適応 と限界. 頭 頸部 腫 瘍20: 481‑486, 1994.
4) 行 木英 生: 前 中頭 蓋底 に進 展 した副鼻 腔 癌 に対 す る頭蓋 ・顔 面複 合 体 の一 塊 切 除術. 耳鼻38: 681‑
685, 1992.
5) 行 木 英 生他: 一 塊 切 除術 式 か らみた 中頭 蓋 底 へ進 展 し た副 鼻 腔 癌 の後 方 切 除 限界 の 検 討. 頭 頸部 腫 瘍19: 137‑143, 1993.
6) 行 木 英生 ・小 池聡 之: 中頭 蓋 底 に浸 潤 した 副鼻 腔 癌 に対 す る頭 蓋顔 面 一 塊切 除の 新 しい術 式. 日頭 顎 顔 会誌6: 9‑16, 1990.
7) 鎌 田信 悦 他: 海綿 静 脈 洞 浸 潤 を伴 う鼻副 鼻 腔癌 の 手術 適 応 に つ いて. 頭 頸 部腫 瘍20: 94‑98, 1994.