強磁性的に結合した超常磁性体のペア近似
による磁化の計算
近藤慎一郎* 羽坂雅之* 森村隆夫*
Calculation of magnetization for the ferromagnetically coupled superparamagentic system on the basis of pair approximation
by
Shin-ichiro KONDO, Masayuki HASAKA and Takao MORIMURA
We have calculated the magnetization for the ferromagnetically coupled superparamagnetic system on the basis of pair approximation. Usually superparamegntic system has no correlation each other as already have been shown in the Cu-Co ferromagnetic cluster system. However the presence of narrow bridges between magnetic cluster seem presumable when magnetic cluster precipitates along with grain boundaries. In this article we have examined such a superparamagnetic system(ferromagnetically coupled superparamagnetism) theoretically. From the series of calculations, magnetization shows the temperature dependence and the influence of thermal fluctuation is found to be larger when the length of bridge becomes longer.
Key words: grain boundary, superparamagnetism, ferromagnetic coupling, magnetic cluster, pair approximation
) (
00
k T
H L m Nm M
B
=
(1) 1.緒言超常磁性体は、通常微細な磁性クラスタ-が結 晶内に細かく分散しているときに見られる磁性で あり、それぞれの磁性クラスタ-間に磁気的相関 は存在しないとされている。代表的な例として希
薄Cu-Co合金1)-3)や磁性流体4,5)などが挙げられる。
そのような場合系の磁化Mは ___________________________
で表される。ここでm0は磁気クラスタ-の磁化、N は系の磁気クラスタ-数である。H,kB及びTは印加 磁場、ボルツマン定数及び温度である。また L(x) はランジュバン関数であり、L(x)=coth(x)-1/xであ る。この式自体通常の常磁性体と全く同じ式であ
平成20年6月27日受理
* 材料工学科(Department of Materials Science and Engineering)
るが、m0H /kBT の値が常磁性体に比べて桁違い に大きいのが特徴である。そのため常磁性体は印 加磁場に対して線形の応答をするのに対し。超常 磁性体では印加磁場に対して非線形的挙動を示し、
小さな磁場で磁気的に容易に飽和するし、ヒステ リシスル-プは形成しない。
磁気クラスタ-が互いに離れている場合には前 述したように磁気相関=0として考えてもよいが、
もし磁気クラスタ-が結晶粒界にそって析出した ような場合、クラスタ-間に磁気的相関があると 考えるのが妥当であろう。今回磁気クラスタ-間 に強磁性的相互作用が存在する場合について、統 計力学的手法の一つであるペア近似を用いて系の 磁化の計算を試みたので報告する。
2.理論
緒言でも述べたように Fig.1に模式図を示す。
ここで四角は大きな磁気クラスタ-であり、細い線 が小さな磁性原子が配列したものであり、bridge に相当する。強磁性的相互作用はこのbridgeを介 して行われる。
Fig.1 Illustration of ferromagnetic superpara -magnetic system
ペア近似とは constant coupling 近似の一つで あり、ペア(原子対)についての相互作用は正確
に計算するが、それ以外は平均場近似で取り込み セルフコンシステントになるように計算する方法 である。今回は小口-高野 6)らによって提唱された 方法をこの問題に適応させ磁化を求める。まず、
ペアハミルトニアンは
j j i i j i ij
ij
J S S h S h S
H = − − −
(2) で与えられる。ここでJijは、i,jサイト間の交換エ ネルギ-、Si, Sj は前述したようにスピン座標(±1)である。hi,hj はi,j以外のスピンから生じ る分子場を表している。内部エネルギ-E はヘル ムホルツの自由エネルギ-Fを用いて
β
β ∂
∂
= ( F ) /
E
(3) 但しβ ≡ 1 / k
BT
である。これより
∫
∫
+
=
+
=
) ,
, , ' ( ' )
(
}) { , ' ( ' )
(
2 1 0
0
N i
m m m E d F
m E
d F
F
β L β β
β β β
β
(4) 及び
β F β F
β 0
0
lim
)
( ≡
→ (5)) , , 2 , 1
( j N
S
m
j≡
j= L
(6)で定義される。
ところで、
k
BS F
F ) lim /
(
0≡
0= −
→
β
β
β (7)Sは系のエントロピ-であり、混合エントロピ-と 同じく次のように表現される。
[ ] [ ]
[ ( 1 ) / 2 ] [ ln ( 1 ) / 2 ] }
2 / ) 1 [(
ln 2 / ) 1 ( {
mi mi
m m
S
i ii
−
−
+ +
+
−
= ∑
(8)
次に分配関数
Z
ijを求めてみよう。分配関数 は{exp(
Z
ij) ( /
j j i i
j i ij ij ij
m h m h
S S J Z Z
+
+
>
<
=
∂
∂ β
(15)
)}
Tr
ijij
H
Z ≡ − β
(9)ij ij
ij
Z Z
Z / ( / ) / ln ∂ β = ∂ ∂ β
∂
(16)で定義される。ここでTrは位相空間での考えられ る空間域での和(もしくは積分)を表す。ここで注し てほしいのはペアハミルトニアンの表現である。
よ り 位 相 空 間 で の 可 能 な 和 は
(+1,+1),(+1,-1),(-1,+1),(-1,-1)の四通りしかなく 計算が極めて楽になる。これはペア以外のあらゆ る位相空間での和(積分)というものを平均場近 似で置き換えたことに由来するものである。これ より
± 1
i
= S
i i i
i
m h m
h ∂ =
∂ ( β ) / β
(17) (15)-(17)よりβ β
β
∂
−
−
∂
>=
<
/ )
(ln
j j
i i ij j
i ij
m h
m h Z
S S J
(18)
) tanh tanh
1 ( cosh
cosh cosh
4
j i
ij j
i ij
ij
h h
h
h J
Z
β β
μ β
β β
+
×
=
(10)但し
ij
ij
β J
μ = tanh
(11)} ) (ln
{ln
) ,
, , ' ( '
}) { , ' ( '
0 2
1
j j i i ij ij
j j i i ij
N i
m h m h Z
m h m h Z
m m m E d
m E
d
β β
β β
β β
β β
−
−
−
−
−
−
=
=
∫ ∑
∫
>
<
L
(19)
但し
と な る 。 ま た こ れ よ り 系 の 磁 化
m
i, m
j は[ ]
00
) (ln
) (ln
lim
j j i i ij
j j i i ij
m h m h Z
m h m h Z
β β
β
β
β
−
−
≡
−
→
−
(20)
) tanh tanh
1 (
) tanh (tanh
) exp(
Tr
j i
ij
j ij
i
ij i
i i
h h
h h
H S
S m
β β
μ
β μ
β
β +
÷ +
=
−
=
≡ / Z
ij
とした。次に
*
* 0
lim H
ij= − S
ih
i− S
jh
j→
β
β (21)
(12)
[ ]
) tanh tanh
1 (
) tanh (tanh
/ ) exp(
Tr
i j
ij
i ij
j
ij ij j
j j
h h
h h
Z H S
S m
β β
μ
β μ
β
β +
÷
+
=
−
=
≡
但し
*
lim
0h
i= h
i→
β
β (22) とする。これより
(13) また内部エネルギ-Eは
∑
>
<
−
=
ij
j i
ij
S S
J
E
(14){ }
) 1 )(
1 ( / 4
) tanh 1 )(
tanh 1 ( / 4
) exp(
Tr
) (ln
) (ln
lim
2 2
* 2
* 2
*
*
0 0
j i
j i
j j i i
j j i i ij
j j i i ij
m m
h h
h S h S
m h m h Z
m h m h Z
−
−
=
−
−
=
+
=
−
−
≡
−
→
−
β β
β
β
β
(23)
で与えられる。ところで
さらにhiについては級数展開できて
= ∑ − Γ
j
kj kj
kj4
( 3
2) /( 3
3)
3
μ μ
η
(31)+ L Γ +
Γ
=
3
2
/
/ tanh
ij j i ij
ij i i
M M
M h μ
β
とおけば、磁化は (24)(25)
これらの関係を用いて
β F
をmi, mjについて(0,0) 近傍でテ-ラ-展開すると(26) 自由エネルギ-が各点の磁化の関数として表現で きた。この表現では有限系であるという制限はあ るものの、周囲の環境を取り込みやすく、bridge やクラスタ-の磁化を計算できる利点がある。
次に熱平衡下では自由エネルギ-が任意の磁化に 対して極小値をとるので、
0 /
: ∂ ∂ =
∀ i β F m
i (27) これより各点での磁化が計算できる。3.ペア近似による計算結果 次にこれまでの結果を基に、
{ }
∑ Γ − Γ
=
j
j j j j j
j
m /
02
03m
3/( 3
03)
0
0
μ μ
η
(28)(29)
0)
連立非線形方程式を解くことを意味している。今 回は 2240 個のスピンについてセルフコンシステ ントになるように計算を行い各点での磁化を導出
した。ただし計算の便宜上 として交換相
は一定値とした
Fig.2に今回計算したクラスタ-の断面図を示す
Fig.2 Cross section of magnetic cluster
(3
(32) して任意の点における磁化が計算できる。これは
J
0J
ij=
互作用
Fig.3 Calculated magnetization of cluster
Fig.3はA,BおよびC点での磁化の計算結果であ
る。図を見て判るように、各点での磁化の値より
1
2, ,
ij ij
i ij j j
j ij i i
m m
M
m m
M
μ μ μ
−
= Γ
−
=
−
=
} ) ( ) 12 /(
] ) 1 ( 6
) (
8 ) )(
3 ( [
) 2 /(
] 2
) (
[ 2 / {
} ] 2 / ) 1 ln[(
] 2 / ) 1 [(
] 2 / ) 1 ln[(
] 2 / ) 1 [(
{
6 3 3
2 2 2 2
3 3 3 4 4 2 4
2 2 2 2
m O m
m
mi m mj m m
m
m m m
m m m
m m
F
ij ij
j i ij ij
j i
ij j i ij ij ij
ij j i ij j i ij ij
i i
i
i i
μ μ
μ
μ μ
μ
μ μ
μ β
+ Γ +
−
+ +
+
−
−
+ Γ
− + +
−
+ +
+ +
+ +
=
∑
∑
>
<
{ }
∑
+ Γ − Γ=
j
j j j j j
j 12 m2 13 12 1
2 1
1
μ
(1μ
) /μ
/η
3 k
Γ
) tanh(
0 1 k 2 k2 3k
m m m
m = η + η + η + η
3 2
2
2
j/
j j
m
−
= ∑ μ
η
23jクラスタ-中央が一番熱揺らぎを受けにくく、ク ラスタ-周辺部にいくにつれて磁化は減少し熱揺
磁性 原子が鎖上に並んでいると仮定している。
らぎの寄与が大きくなる。
Fig.4はBridgeの模式図である。今回の計算で
は一次元鎖を想定しクラスタ-間に20ヶの
Fig.4 Illustration of Bridge
このBridgeについてペア近似を用いて計算した結
をFig.5に示す。
ig.5 Calculated magnetization of Bridge
d
消滅するのではないか
る。
つい はまだ確認されず、今後の課題としたい。
1 -A P
P 9-476,1971.
金 と思われ 4.結論
今回、強磁性的相互作用のある超常磁性体につ いてペア近似を用いてクラスタ-およびクラスタ
-間を磁気的に結合させるBridgeについての磁化 を計算した。計算の結果より、クラスタ-の磁化 は中央ほど熱揺らぎの寄与が少ない。またBridge の磁化は中央に行くほど熱揺らぎが大きく作用し て磁気秩序を容易に減少させる。またこのことよ りこのような系での磁気的挙動ではまず比較的低 温でクラスタ-間の磁気的相互作用が消失し、次 にクラスタ-自体の磁化が減少して最終的に系の 磁化がなくなり常磁性状態へ転移すると考えられ る。ただ今回の計算では臨界点存在の有無に
果 て
参考文献
)M.Ernst,J.Schelten and W.Schmatz: Small- ngle Scattering of Neutrons at Single-Domain recipitation in a Cu-1%Co Single Crystal, hys.stat.sol.(a),Vol.7. pp.46
2)妹尾,岩永,友清,江口: 磁気測定による Cu-Co 合
の析出過程の研究,日本金属学会誌,第 45 巻, 第7号,pp661-667,1981.
F
図を見て判るように、やはり Bri ge中央は熱揺 らぎを極めて受けやすい。例えば kBT/J0 =1.5 で
Bridge 中央の磁化はほぼ0である。Fig.3の計算
結果と比べて見るとクラスタ-自体の磁化はこの
3)Y.Tomokiyo,S.Matsumura and M.Toyohara:
Strain Contrast of Coherent Precipitates in Cu-Co Alloys under Excitation of High Order Reflections, J.Electron.Microsc, Vol.34,No.4,
pp338-349,1985.
温度ではまだ十分高い磁気秩序が存在している。
このことを考えると、このような相互作用のあ る系での磁化は十分低い温度(kBT/J0 =1.5程度)
でクラスタ-間の磁気相関は消失し強磁性的相互 作用は存在しなくなる。そして更に高温でクラス タ-内の磁化の磁気秩序が
4)R.W.Chantrell,A.Bradbury,J.Popplewell and S.W.Charles: Particle cluster configuration in magnetic fluid,J.Phys.D,Vol.13,L119-122, 1980.
5) K.Sano and M.Doi: Theory of Agglomeration Ferromagnetic Particles in Magnetic Fluid,
J.Phys.Soc.Jpn,Vol.52,No.8,pp.2810-2815,1983.
6)T.Oguchi and F.Takano: Theory of the random bond model ,J.Magn.Magn .Mater.,Vol.31-34, pp.1301-1302.