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知識の共有と共用 : 応用地質の事例

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(1)

知識の共有と共用 : 応用地質の事例

著者 白石 弘幸

雑誌名 金沢大学経済学部論集

巻 27

号 2

ページ 129‑148

発行年 2007‑03‑30

URL http://hdl.handle.net/2297/6258

(2)

‑ 応用地質の事例‑

白 石 弘 幸

1 .は じめに

企業の能力 は深 く掘 り下げてい くと,た とえば収益力,表の競争力,裏の 競争力,組織能力 といったように重層的にな っていると考 え られる。本稿 の 議論はここか ら出発す る

そ して, このような企業の能力 の うち,本稿 は深層にある組織能力,特 に 共有共用の仕組みをつ くり機能 させ る組織能力 に目を向ける。 このような能 力 に注 目す る理 由は以下のとお りである。

組織には, メンバー各人が個別 に保有す る個人的知識 と,組織的に共有 さ れている知識がある。前者すなわち個人的知識 を 自分の意思 によ り利用でき るのは基本的には当該個人だけであるのに対 し,後者すなわち共有 されてい る知識は管理が有効 になされていれば多 くのメ ンバーが共用できる。つま り 活用による効果が大 き くな りやすいのは,組織的に共有 され共用 される知識 である。

このような知識の共有共用が もた らす効果の最たるものは,知的触発であ る。 これは共有共用の過程で,新たな価値の高 い知識が生 まれ るとい うもの である

すなわち,知識は個人の論理的プロセス,たとえば情報処理やデー タマイニ ングによって も創造され るが,価値の高 い知識 は個人間の相互作用 と知的触発 という組織的創造によ り形成 され る。 さらに,知識の共有共用 は 知的成果の質的向上,知的業務の時間短縮 とい った効果 ももた らす。

知識を創造 して, これを共有共用 し, さらに新 しい価値の高 い知識がそ こ

か ら創発す るという循環を形成できる企業 は,環境や資源の制約 を克服 し,

(3)

場合 によ ってはこれを成長 の機会 とす ることさえで きる。 したが って,企業 の長期的な存続 と成長 を支え る基盤 と して知識の共有 と共用 に関す る組織能 力が注 目され, これに関す る探究が行 われなければな らない。本稿の問題意 識 はまさにそ こにある。

2. 競争力基盤 と しての組織能力

ワイズマ ン ( 1 9 8 8 ) によれば,企業の競争優位は当該企業が有す る 「 能力」

によ って もた らされ る

す なわち彼 によれば, 「

『A

において,

Y

に対 し て競争優位 にあ る 』 ( A は競争 の舞台, Ⅹ と Y は競争者) とい う表現 の意味 は,

Y

にない能力 もしくは能力の組合せを保有 してお り, その能力 もし くは能力の組合せのおかげで,

A

における戦闘を支配す ることができる とい うことで あ る 」

(Wiseman

, 1 9 8 8 , 1 0 9 ;邦訳, 1 0 1 , ( ) 内の補足 は ワ イズマ ンによる) 。

企業 は 自己の存続 と成長 を図 るために収益をめ ぐって他社 と競争す る。 そ のよ うな収益 をめ ぐる競争 において,企業 は持続的優位を構築 しなければな らない。 そ して企業 には,持続的競争優位 を構築す るための何 らかの土台が なければな らな い。 そのよ うな土台 として極めて重要 なのは当該企業が有す る 「 能力」 だ とい うのか, ワイズマ ンの見解である。

それでは,持続的競争優位 の土台 とな る企業の能力 とは どのような能力を 言 うのであろ うか。企業間競争 は収益 をめ ぐって行 われ,競争優位 は高 い収 益性 に現れ るか ら, この能力 は一般的には 「 収益力」 と混同されがちである。

しか し藤本 ( 2 0 0 3 ) によれば,収益力 は企業が有す る能力の うち表層的な

部分 に過 ぎない。彼 によると,企業の能力 は深 く掘 り下 げてい くと,収益力,

表の競争力,裏の競争力,組織能力 とい うように重層的にな っている。 た と

えば,価格競争 のような,顧客 に見 え る表層 レベルの競争 の水面下では,潔

層 にある組織能力,組織 と しての根源的な能力で優位 に立 とうとす る競争が

営 々と展 開 されている ( 藤本, 2 0 0 3 , 4 2 ) 。 さらに企業間競争 は, このよ う

に組織能力で優位を得 よ うとす る競争 であると同時 に,能力構築をめ ぐる争

いで もある

(Hamel& Prahalad

, 1 9 9 4 , 2 0 3 ;邦訳, 2 5 9 ) 。 そのような視点が

(4)

ない企業,「終わ りな き能力構築」 の重要性 を認識 していない企業 が長期 的 に存続 し成長す ることは難 しい ( 藤本, 2 0 0 4 , 3 0 0 ‑ 3 0 1 ) .

'X'1

このような深層 にある組織能力の うち,本稿が注 目しているのは知識 に関 す る組織能力,特 に共有共用の仕組みをつ くり機能 させ る組織能力 であ る。

本稿がこのような能力 に注 目す る理 由は以下 の とお りである

組織 には,個 々の メ ンバーが個別 に保有す る個人的知識 と,組織 的 に共有 されている知識があ り,概念的 にはその両方 が活用 され うる。 しか し実際 に は,個 々のメ ンバーには個人 と しての意思 が あるか ら,個人的知識 を主体 的 に利用できるのは基本的には当該個人 だ けで ある。組織 は個人 を機械 のよ う に制御 し, その能力 を 自由に使 うとい うわけにはいかない。

これに対 し,共有 されている知識 は管理 が有効 にな されていれば多 くの メ ンバーが共用で きる。つ まり活用 による効果が大 き くな りやす い ( 大 きな価 値が生 じやす い)のは,組織的 に共有 され共用 され る知識 である

後 に述 べ るように, このような知識の共有共用が もた らす効果の最 た るものは,知 的 触発である。 これは共有共用の過程で,新 たな価値の高 い知識が生 まれ ると いうものである。すなわち,知識 は個人 の論理的 プロセス, た とえは情報処 理やデータマイニ ングによって も創造 され るが,価値 の高 い知識 は個人 間の 相互作用 と知的触発 とい う組織 的創造 によ り形成 され る。 さ らに,知識 の共 有共用は知的成果の質的向上,知的業務 の時間短縮 とい った効果 ももた らす。

知識を創造 して, これを共有共用 し, さ らに新 しい価値の高 い知識 がそ こ か ら創発す るとい う循環 を形成で きる企業 は,環境や資源 の制約 を克服 し, 場合 によってはこれを成長の機会 とす ることさえできる。換言すれば,知識 の創造 と共有共用 に優れた企業 は,環境変化 に翻弄 され るのではな く, む し ろ環境 に大 きな影響 を及 ぼす。野 中 ( 2 0 0 5 ) の ことばを借 りれ ば, 「絶 え間 ない知識の集積 と活用 により,企業 は ビジ ョン,対話,実践 を再定義 で きる ようにな り, そ して今度 は企業が新 しく創造 した, あるいは改善 したサー ビ スや製品によ って環境 に影響を与え る 」

(Nonaka

, 2 0 0 5 , 3 8 2 ) のである

したが って,組織能力 は競争優位の基盤 と して重要であると先 に述べたが,

その中で も特 に重要 なのは,知識 に関す る組織能力である。知識 とこれ に関

す る組織能力 は企業の競争優位性 を規定す る最 も本質的な要因 と考 えてよい。

(5)

生産手段 として知識が重要 とな る知識経済化の進行 によ り, このような知 識 に関す る組織能力 は今後 ます ます重要性を増す。 さ らに, ドラ ッカー

( 1 9 9 3 ) に依拠す るな らば,経済活動 の分業 ・専 門化,生産 の 自動化 ・高度 化が進展す るにつれて,知識 の中で も一般的知識ではな く特 に専門知識が経 済全体 で も一企業内部で も重みを増す

(Dmcker

, 1 9 9 3 , 4 6 ‑ 4 7 ;邦訳, 9 5 ) 0

そ して彼 によれば,知識経済 において,「 組織 の機能 は,専門知識 に生産 機能 を果た させ ることであ る 」

(Drucker

,

opcit.

, 4 9 ;邦訳, 9 9 ) .知識の中 で も特 に専門知識が重要性 を増す一方,個 々の専門知識がば らばらに存在 し ていて も, これが大 きな価値 を創 出す ることはない。 したが って, これを共 有共用 して,総体 として生産活動 に動員す る組織の機能が今後大切 となる。

この点 について,彼 はつ ぎの よ うに述べている。「個 々の専門知識 は, それ だけでは不毛である。統合 されては じめて生産的 となる。 そ してこれを可能 とす ることが組織 の役割 で あ り, 存在理 由であ り,機能 であ る 」

(Dmcker

,

opcit.

, 5 0 ;邦訳, 1 0 0 ) 0

3. 知識の共有共用 3.1 情報技術の役割

知識 の共有共用 に関す る先行研究 には,情報技術活用の重要性を指摘 した ものが多 い。 た とえば大 山他 ( 1 9 9 9 ) は,大規模組織 における知識の共有共 用で情報技術 は 「 必要な土台」 としている ( 大山 ・安倍 ・三 田 ・中山, 1 9 9 9 ,

3 8 ) 。 同様 に,大規模組織 における知識 の共有共用 について小林 ( 1 9 9 6 ) は,

「組織 の生産性 向上 とい う レベル にな ると幾つ もの機能の異 な るグループが

時間や空間を越えて コ ミュニケー シ ョンす る必要が生 じるためコンピュータ

ネ ッ トワー クな しでは もはや何事 もな しえない 」 ( 小林, 1 9 9 6 , 2 7 5 ) と述べ

ている。 また,「情報技術 の活用 によ り得 られるメ リッ トは, コ ミュニケー

シ ョンや コラボ レー ションとい う視点で考えると,時間 と空間を超えて,相

互 にコ ミュニケー シ ョンが可能であ り, また,知識 も大量 に蓄積 し活用でき

るよ うにな ることである 」 (アーサーア ンダーセ ン日本法人, 1 9 9 9 , 2 6 ) と

言及 している研究 もある。

(6)

さらに,情報技術 を活用 して,後 に述べ る共有共用の 「 仕組み」 を構築す ることの重要性を説 いている研究 も見 られ る。た とえば程 ・中里 ( 1 9 9 7 ) は,

「時間や場所の制約 を打 ち破 り,誰 もがいつで もどこか らで も企業知識 にア クセス し活用できる仕組みをいかに作 り上 げるかが,厳 しい競争 の中で勝 ち 残 る条件 」 ( 程 ・中里, 1 9 9 7 , 6 5 1 ) とい う見方 を示 している。

これ らの先行研究で共通 して指摘, あるいは示唆 されているのは,組織, 特 に大規模組織 において情報技術ない し情報 システムによ り 「 分散」 と 「 非 同期」を克服す ることの重要性である。すなわち端的に言えば,大規模組織 では異なる場所 あるいは異時点 にいる個人間に知的触発を起 こす ことが課題

となる。

一般 に,小 グループでは知識 の共有共用 につなが るフェイス ・トゥ ・フェ イスのコ ミュニケー シ ョンが 日常的に成立 しているが,大規模組織 ではそれ が成立 していない。 したが って大規模組織 では,意識 的 に共感 の 「場」 や

「 仕組み」 を構築 し,「 状況ない し文脈」 を演出 ・提供す る必要がある。 そ し てこのような 「 場 」 「 仕組み」の構築,「 状況 ない し文脈」 の提供 ・演 出にお いては,情報技術の果たす役割が大 きい。

情報 システムがな くとも,組織の各部で局所的に知識 の共有共用がな され るか もしれないが,非 同期で分散 している個人間ではそれが困難 なために, 後に述べ る知的触発等の効果 もそ こでは限定的 とな る。大規模組織 において 組織全体 にわたる形で,かつ時間を越えて知識 の共有共用を促進す るために は, コ ミュニケー シ ョン機能 とナ レッジベース機能 を有す る情報 システムが 必要 と言える。

このような情報 システムによ り,「 起 こ りうる」可能態 としての コ ミュニ

ケー ション,誰か ら誰へアクセスす るかの関係 は多様 になる。 この ことは,

簡単に言えば組織における他のメンバーとの出会いのチャンス,そ して コ ミュ

ニケーションを継続す るチャンスが増え るということである。 よ り多敬, あ

るいはよ り広 い範囲に当たれば,各 メ ンバーが現在 コ ミュニケー シ ョンして

いるよ りも適当な相手, よ り適 当な知識 に出会え る可能性が高 まる ( 福留,

1 9 9 7

,

3 9 ) 0

(7)

3.2 目的と効果

知識の共有共用において期待 される効果,共有共用を進める際の目的には, 以下 のような ものがある。第一 に, これまで何度か言及 してきた知的触発 の 効果,つま り知識 と知識が相互作用す ることによ り新 しい知識が生 まれ ると い う効果である

端的に言 えば, ある人の知識が他者 の知識 に出会 うことに よ り 「ひ らめき」が起 こる。 これは,無の状態か ら始 めた場合 に比べ,他人 の ノウハ ウ,過去の知 的蓄積 に接す ることによ り,知識創 出が促進 され ると い う思考支援の効果であると言 って もよい。 この点について紺野 ( 1 9 9 8 ) は,

「組織 が保有 している, または共有 して利用可能 な知識 は,効果的に再利用 す ることによって 『 知識 の生産性』 を高めることになる。ゼ ロベースで情報 を収集 し,思考活動 を行 うのに比べて,共有された知識資産を活用す るほう がはるかに生産性 は高 まる 」 ( 紺野, 1 9 9 8 , 9 8 ) と述べている。

この効果は厳密には,新 しい暗黙知創造の時間短縮,一定の知的アウ トプ ッ トすなわち形式知が産み出され る時間の短縮 とい う形で現れる。そ して,前 者 は他者 の暗黙知か ら暗黙知が創造 され る 「 共 同化」 もしくは他者の形式知 か ら暗黙知が創造 され る 「内面化」 のプロセスで行われ,後者 は暗黙知か ら 形式知が生み出され る 「 表 出化」 あるいは形式知か ら形式知が生み出され る

「連結化」 とい う形態 を とる。

.X'2

これ らには,直接 の対面的接触 によって起 こる場合 と情報 システムの支援 によって生ずる場合がある。

さらに情報技術 によ● る知的触発 には,ネ ットワーク上でのコミュニケーショ ンによって起 こる場合 と, ナ レッジベースに蓄積 された形式知 に触れること によ り起 こる場合がある。 た とえば,イ ン トラネ ッ ト上の電子会議 システム によ り,企画 ・新製品開発等 に関す る知的生産性 向上 に努める企業が増えて いる

(NTTイ ン トラネ ッ ト研究会,

1 9 9 7 , 9 2 ‑ 9 9 ) が, これは前者 の例であ る。 ここでは前述 の 4 モー ド

(SECI)

の うち特 に 「表 出化」 が支援 されて いる。 また様 々な部 門にいる職務経験豊富な社員の ノウ‑ ウをナ レッジベー ス化す ることによ り,一般社員 は多様な知 にアクセスできるようにな り,堤 案書作成などの知的業務が効率化 し 「 連結化」が促進 される。 これは後者の 例である。

第二 に,製品開発 を始 めとす る知的業務 において複数の人の知識, ノウハ

(8)

中が複合 されることによ り成果 ( 生産物) の 「 質的向上」が見込 まれ る。 た とえばコンサルテ ィング会社の場合,顧客が グローバル化す ると,効果的な コンサルテ ィング ・サー ビスを提供す るためには,各国の事務所が協力す る 必要性が高まる。 このようなコンサルテ ィング会社 は,国際的な知識 の共有 共用 によ り,顧客 に対 してより適切かつ有益 な ソ リューションを提示できる ようになる ( 佐藤, 1 9 9 6 , 5 4 3 ‑ 5 4 5 ) .すなわちソ リュー シ ョンという知的ア ウ トプ ッ トが質的に向上する。 また,知的生産活動 に経験 ・ノウハ ウの蓄積 とい った過去か らの組織学習成果が反映 され,知的生産物の質が向上す るこ ともあ りうる。

第三 に,知識を共有す ることによ り,多数 の人が同一 の知的業務 に, 同時 にあるいは リレー式 に参加できるようにな る。すなわち個別 に行われていた 知的業務が共同作業化 される場合がある。 この ことによ り,知的業務 の生産 性が向上す る。 これ らは製品開発 を始 め とす る知的業務,知的生産に,第一 の 「知的触発 」 ( 思考支援)同様, ス ピー ドア ップ言 い換えれば 「時間的短 縮」の効果を もた らす。たとえばコンカ レン ト・エ ンジニア リングを導入 し, 複数拠点間で設計の ノウハウと情報 を共有 し, 同期設計をネ ッ トワーク上 の

cA

Dで行 うように して,設計, ク レイモデルの製作か ら金型製作 までの生 産 リー ドタイム短縮 を実現 している場合が これにあたる ( 古川 ・花岡, 1 9 9 6 , 1 4 6 ‑ 1 4 7 ) 0

第四に,ナ レッジベースの構築,および先 に述べた知的業務 におけるシス テム化 と生産性向上 によ り,知的業務 における要員削減が可能 になる。一例 をあげると,製品検査 においてベテランの専 門家数十人が,受注 した仕様通 りに完成 しているか どうかを検査 していたのを,仕様 チェックの ノウハ ウを 厳密 にルール化 して, システムに組み込む ことによ り,仕様チ ェックの合理 化 と人員削減が可能 になる ( 川上, 1 9 9 9 , 1 8 0 ) 0

3.3 実践上の課題

他方では,知識の共有共用には,克服すべ きい くつかの課題がある。

第一は, 自分の知識 を開示す ることへのため らい,心理的抵抗 に関す る も

のである。たとえば開示する際に, 自分が これ まで してきた苦労, ノウハ ウ

(9)

を提供す る自分 とそれを利用す る第三者 という構図が頭に浮かび,出 し惜 し みす ることがある

知識の共有共用を実際に進める際には,多 くの場合 これ が最大の障害 となる。

特 にナ レッジベースによる知識の共有共用には,過去の社員の苦労や努力 を土台 に成 り立つ という性格がある。知識の共有化が始まった時期 に在籍 し ていた組織 メンバーは, ノウ‑ ウを提供す るばか りで,他のメンバーのノウ

‑ ウを利用す ることができない。知識の共有が進む後世のメンバーほど共有 による恩恵が大 き くなる。 この ことに不公平感を覚えると,組織 メンバーは 知識の登録 に消極的 となる。

この種の心理的抵抗が, いわゆるセ クショナ リズムと部分的最適化 によっ て発生す るか,あるいは強化 される場合 もある。極端なケースでは, これが 意識的に 「隠す」 とい う心理 に発展 している。

'X'3

第二 に,利用側が 「 本当に信頼 して使 っていいのか」 というような他人の 知的資産への不信感を持つ場合がある。 よ り具体的には,相手の知識や文書 等の知的資産 に誤 りがあると,それを利用 して創造 した自分の知識,知的資 産 にも誤 りが生 じて しま うのではないか という懸念を利用す る側が抱 くこと がある。

第三 に, これ も利用側の心理的障害 として,プライ ド, 自己実現欲求か ら の抵抗が考え られ る。 た とえば,「 人のマネをす るな ら,最初か ら自分でつ

くりたい」 というような感情である。

3.4 仕組みとイ ンセ ンテ ィブの重要性

前節 までで,知識 の共有共用 について述べると同時に,そこにおける情報 技術の重要性 に言及 してきた。 しか しよ り重要なのはこれを有効活用す る組 織能力であ り,た とえ最新の ものであって も情報技術 を盲 目的に信奉す るこ とは危険であろう。情報技術が知識の共有共用を進 めるのではない。 またこ れが知的触発を起 こすわけで もない。組織能力が これを使 って知識の共有共 用を進 め,組織内に知的触発を起 こすのである。

すなわち,大規模組織では知識の共有共用に情報技術を活用することが重

要ではあるが,そのためには,そのための組織能力 (メタ知識)がなければ

(10)

な らない。情報技術 の導入効果 は,知識 の共有共用 に情報技術 を活用す るた めの組織能力 に依存す る。換言すれば,知識 の共有共用 を意 図 した情報 シス テムが単なる業務報告 の手段 で終わ るか,活発 な知 的触発 の 「 場」形成,知 識創発空間の構築 に機能す るかば,その組織 が保有す る組織能力次第であ る。

組織において共有共用を進め るためには,マネ ジャー特 に トップマネ ジャー がその重要性 を認識 し, メンバ ーに共有 と共用 を奨励す ることが重要であ る ことは言 うまで もない。 ただ し, これはメカニ ズムや 「 場」 の構築努力 を欠 いた奨励,単な る 「か け声」 で終 わ ってはいけない。共有共用 の メカニ ズム を持つ ことが重要 なのである。 この点 につ いて,倉重 ( 2 0 0 3 ) はつ ぎのよ う に述 べている。 「社員一人 ひ と りに,『学習 しよ う』 『仲 間 と共有 しよ う』 と 奨励す ることも不可欠だが, それは簡単であ り, また十分 とはいえない。 同 時 に このような行為 を組織 と して活用 し,継続 させ るメカニ ズムを定着 させ るのが, マネ ジメ ン トの仕事 で あ る。 唱え るだ けで はだめなのであ る 」 ( 倉 重, 2 0 0 3 , 6 3 ) 0

実 際,「すで に欧米企業では,基幹系 システ ム以外 に, さま ざまな情報 を 蓄積 し分析や意思決定 を支援す る情報系 システム と, そ こか ら得 られ る示 唆 や過去の ノウハ ウを利用す る仕組みの優劣 によ って競争 の勝敗 が左右 され る 段階 に突入 している 」 ( 程 ・中里, 1 9 9 7 , 6 5 2 ) 0

それでは,組織 で このような知識 の共有共用 を促進す るための具体的 メカ ニズム,仕組み とは どのような ものであろ うか。 それ は少 な くとも,共有共 用上 の障害 を克服す るために,組織 メ ンバー に共有共用 を促す何 らかのイ ン セ ンテ ィブ,特 に知識 開示 に対す る何 らかのイ ンセ ンテ ィブを提供す る機 能 を有 していなければな らない。

4. 応用地質の事例 4. 1 企業 プ ロフ ィール

応用地質株式会社 ( 以下,応用地質) は, 1 9 5 7 年 に設立 され,本社 を東京

都千代 田区 に置 く資本金 1 6 1 億 7 , 4 6 0 万 円の会社 で あ る ( 別表参照)。 従業 員

数 は連結で 1 , 9 1 4 名,単体で 1 , 0 7 8 名であ り, 田矢盛之 が代表取締役社長 を務

(11)

社 名 :応用地質株式会社 設 立 : 1 9 5 7 年

上 場 : 1 9 9 1 年東証二部、 1 9 9 5 年 同一部 本 社 :東京都千代 田区九段北

4丁 目2

6

号 事業 内容 :地質調査、建設 コ ンサルテ ィング、

地質調査機器の開発 ・製造 資 本 金 : 1 6 1 億 7 , 4 6 0 万 円

従業員数 : 1 , 9 1 4 名 ( 単 1 , 0 7 8 名) 売 上 : 4 3 3 億 4 , 3 0 0 万 円 経常利益 : 1 6 億 6 , 9 0 0 万 円 ( 2 0 0 5 年 1 2 月期、連結)

応用地質のプ ロフ ィール

めている

売上 は 4 3 3 億 4 , 3 0 0 万 円,経常利益 は 1 6 億 6 , 9 0 0 万 円である。

火 山が多 く,地震 の多 い 日本では,高層 ビルデ ィングな ど大規模 な建造物 を建設す るにあた っては,地質 ( 地盤)調査が欠かせない。 同社の主力事業 は, このよ うな大規模建造物設計 に際 しての地質調査 と調査結果 ( データ) の提供である。

ただ し,近年 これ に,建設 の コンサルテ ィング,地質調査機器の開発 ・製 造が加わ っている。すなわ ち,諸外国に比べて脆弱 な地盤 の上 に大規模建造 物 を建て る場合 には,構造設計や工法 に細心の注意,最大限の工夫が必要 と なる。従来, 同社 の事業 は,地質 を調査 しそのような設計や工法の判断 に役 立つデータを顧客 に提供す るのみであ ったが,現在 は判断 に際 して問題解決 や助言 ・提案 を も担 うよ うにな っている。

4.2 知識共有共用化 の背景

同社 は 1 9 8 0 年代半 ば以降,全社的な知識 の共有共用 に取 り組むようにな っ

た。 この理 由 と しては,主 と してつ ぎの三 つがあげ られ る

すなわち, 1)

地質調査 は もともと高度 な専 門知識 を必要 とす る事業であ った,

2)バ ブル

経済到来時に知識の伝達 システムが機能 しな くなった,

3)建設 コンサルテ ィ

(12)

ングのウェイ トが増 したことで多角的かつ専門的な知識の必要度が高まった, である

地質調査 は,大 き く見れば,地表 に関す るもの と地 中に関す るものか らな る。前者 については地表の状況 を綿密 に調べ,後者 は基本的には地 中か ら採 取 した土や岩を分析す ることによって行われ る。大規模建造物の設計 に際 し て重要なのは後者であるが, これに関 しては調べ る対象が直接 目にす ること のできない地下の状況であるために,最終的な判断 はどうして も,業務 を担 当す る技術者 の知識 と 「 解釈」 にゆだね られ ることにな る

(IDG

ジャパ ン, 2 0 0 6 , 1) 。 しか も日本 の場合,往 々に して地層 は複雑 な構造 を持 ってい る

し, 1 キロ離れるだけで地質が全 く異なる特徴を示す ことも多い。 そのよ う な状況下で,特定地点の地質を正確 に把握す るには,高度 な専門知識,その 中で も特 に暗黙知, および経験則 に基づ くノウハ ウが必要 とされ る.

'X'4

応用地質では,調査報告の質 を左右す るこのような暗黙知 を

oJT

, ある意 味では徒弟制度的な教育 システムによ り継承 していた。具体的には,ベテラ ン社員 と経験の浅い若 い社員がチームを組んで調査 に臨み,一緒に業務 を進 めることで,暗黙知を引き継 いでいた。

しか し,バブル経済の到来をきっかけに, このよ うな教育 システムが機能 しな くなった。つま り,好景気 の波 に乗 り,建設 ラ ッシュが起 こったために, 調査案件が一気 に増大 し,同社 は技術者 の不足 とい う問題 に悩 まされ ること

とな った。 チームで仕事 を していた技術者 たちは単独行動 を余儀な くされ る ようにな り,経験の浅 い社員 も自分の知識 だけを頼 りに して第一線で働か ざ るを得な くなった。※

5

現場の混乱 を防 ぐために,基本的 に各人が単独で案件 を担当す るこの業務遂行 スタイルはバ ブル経済崩壊後 も維持 された。

バ ブル崩壊後,公共事業の縮減や構造不況 によ り,一転 して建設業界各社 の業績は軒並み悪化 した。地盤 に関す る調査 とコンサルテ ィングの リーデ ィ

ング ・カ ンパニーである応用地質 もその例外ではな く,収益性 を維持す るた めに,抜本的な経営革新 を迫 られ ることとな った。

従来,同社の ビジネスにおいては,官公庁,設計事務所や建設会社等の発

注者が調査依頼の業務仕様書を作成 し,調査担当者 が当該仕様書の内容を理

解 して, これに従 って業務を遂行すればよか った。 ところが,技術や業務 内

(13)

容の多様化,建設需要減 による競争の激化 によ り,「口を開けて待 っている」

だけでは案件 を受注できない時代 とな った (リアル コム, 2 0 0 4 , 1 0 8 ) 0 特 に,同社 に とり新 たな主力事業 とな っている建設 コンサルテ ィングは, ビルディングや トンネルなどの建造物をつ くる際に,地質調査に加えて設計 ・ 施工監理を担当 した り,地すべ りなどの 自然災害や環境汚染の対策手法を顧 客 に提案す る事業である。 いわゆるソ リューシ ョン ( 解決法) は地質条件や 地理条件な どによ り変 わるため,顧客向けの提案 ・回答内容 は多様性を極 め る。教科書通 り,セオ リー頼みでは解決できない問題が当た り前であ り, あ る場面 に遭遇 し,実際にそれを解決 した人 にしかわか らない問題 も多い ( 井 上 ・他, 2 0 0 5 , 6 3 ) 0

さらに,阪神淡路大震災後 は 「防災」 や 「 環境」への意識が高 まった こと で,地質調査 と建設 コンサルテ ィングに もより多角的かつ専門的な視点 と知 識が求め られ るよ うにな った。つま り都市計画な ど公共事業を中心 に,以前 よ りも技術力 を重視す る顧客が多 くな った。受注を増やすために,技術力 と 提案力を高 めることが急務 にな ったのである。

しか も,前述 したよ うに, 同社では業務遂行のスタイルがチームか ら個人 に変わ った。現場 に出る技術者 は,同社 と顧客 との接点ないしパイプ役であ ると同時に,地質 に関わるさまざまな課題 に対 して,調査結果を踏 まえて最 適なソ リュー シ ョンを提案す るア ドバイザーであることが要求 され る。顧客 の質問や助言 の求 めに対 して,「それは専 門外だか ら」 などと答え るわけに はいかない

(IDG

ジャパ ン, 2 0 0 6 ,

2)

0

この ように, 市場 のニーズが調査報告書 や提案書 のぺ‑ ジ数 に示 され る

「 量」 か ら,調査 と提案 の内容つ ま り 「 質」へ と変 わ り,かつ個 々の従業員

による単独業務遂行が増 えた ことは,「 応用地質 にとっては自らの足 もとを

あ らためて見つ め直す契機 とな った 」

(IDG

ジャパ ン,前掲報告書,

2)

0

すなわち,競合他社 に勝つ提案 をす るために, 自社のすべての技術を詳 しく

把握 し,前述 したような 「ある場面 に遭遇 し,実際にそれを解決 した人 に し

かわか らない問題」 に関す る経験者の知識 を共有 し共用す る必要があると,

同社 は考え るようにな った。

(14)

4.3 共有共用の仕組みとイ ンセ ンテ ィブ

このような経緯で,応用地質 は市販 ソフ ト 「

K

no wl e d g eMa r k e t 」 をプラ ッ トフォームに して,知識の共有共用 システムを構築 し,

2003

年 よ り運用を始 めた。 あわせて, 同社 はナ レッジマネ ジメ ン トの 「 事務局」, およびその下 部組織 として 「 推進委員会」を設 けた。

システム上で知識共有が行 われ る仮想空間すなわ ち 「 場」 は, 同社で は

「コ ミュニ テ ィ」 と呼 ばれ る

コ ミュニテ ィには全社 コ ミュニ テ ィであ る

「oYoコ ミュニティ」 と,専門サブコ ミュニテ ィである 「

探査 コ ミュニテ ィ」

「 設計 コ ミュニティ 」 「 原価管理 コ ミュニテ ィ」等がある。機能的に見れば, 同社 の システムは主 として

「q&A

システム」 と

「K

n o w‑

W

h o システム」 か らな っている。

q&A

システムは,質問の投稿 と回答,質 問者側 の知的触発すなわ ち知識 創造 をサポー トするシステムである

質問は,ダム,空港,港湾, トンネル, 砂防,地下水,温泉 といった 「 小 カテゴ リー」 の うち該 当す るものを指定 し て行 われ る。 たとえば,社員が顧客か らの質問をオ フィスに持 ち帰 り,「ト ンネル」 カテゴ リーを選んで, 「 導水路 と道路 トンネルの近接施工事例 を教 えて ください」 と質問を投稿す ると,早 ければ

1‑ 2

時間以 内に

「A

市の

Z

トンネルの事例」 とい う見出 しの付 いた回答が書 き こまれ る。 それ には,

「 Z トンネルがお問い合わせの事例 に合致 してお ります。解析 ・計画 ・詳細 設計 に関 しては技術本部の

B

さんにご指導 いただきま した」 といったように 書かれている ( 井上 ・他,

2005

,

63)

0

もっとも,前章で述べたような障害 があるため, この種 の システムを導入 して も活発 に利用 されるとは限 らない。む しろ現実 には, そ うな らない企業 が多 い。 この種の システムが広 く活用 され,知識の共有 と共用 に機能す るた めには,役立つ回答がタイム リーに得 られ る仕組みが必要 となる。

同社の場合,カテゴ リー毎 に 「エキスパー ト」 とい う監視役を

1‑ 7

人置

いた。エキスパー トは全社で約

200

人 お り, ナ レッジマネ ジメ ン トの 「 事務

局」が,各上司の承認を得た上 で任命 している

同社 はこのエキスパー トに,

すべての質問に回答がなされるように責任 を持たせている。具体的には,小

カテゴ リーに質問が投稿 されると,担 当エキスパー トに投稿がなされた こと

(15)

を知 らせ るメールが届 く。 それか ら 1 週間以内に誰か らも回答がな されない と,エキスパー トに催促 メールが送 られ ることにな る。回答の内容 と質 もモ ニ ター してお り,必要 な場合 にはエキスパ ー ト自身が回答を書 いた り,他の 社員が書 いた回答 を補足す る。技術者集 団である同社 において,エキスパー

トはある種のステイタス, プ レステー ジのあるポ ジシ ョンとな っている。

前章で述べたよ うに,知識 の共有共用 には知識創造の時間短縮効果,思考 支援効果がある。応用地質では,質 問者 は受 け取 った回答を活用 した後, こ のような時間短縮効果 を申告す ることにな っている。 これは 5 段階評価でな され る。 す なわ ち, 「期待以上, ここまで聞いていいのか! ? 助 か り時間 3 日 間 」 「ずば り解決。感謝 ・感激! ! 助 か り時間

8

時間 」 「なるほど納得。 出口が 見えた。助か り時間 4 時間 」 「ヒン トにな った。一歩前進。助 か り時間 2 時 間 」 「回答 あ りが とう。助か り時間 1 時間」の うち, いずれかを選んで報告 す る。 このよ うな知識創造 における時間短縮効果の報告が,質問に回答す る ことへの重要 なイ ンセ ンテ ィブにな っている。 この報告 は蓄積 ・集計 されて, 当該社員の回答者 と しての能力,蓄積 している知識 の質や有用性が定期的に 評価 され,場合によってはこれをもとに 「 エキスパー ト」への登用が行われる。

一方,K

now‑

Whoシステムとは一般的には,社内の誰がどういう知識を持 っ ているかを管理す るあ る種 のデータベー スである。応用地質の システム も同 様 の機能 を担 って い るが, 同社 の K

now‑

W h

oシステムにはい くつかの特徴

がある。

一つは,分散型 の システムにな っているとい うことである。具体的には, 全社員が ひとり 1 ペー ジの個人 ホームペー ジを持 ち, そこで 自分の知識やス キル,業務経験 を公開 している。社員 は, ある分野 に関 して詳 しい人を探す とい うときには, この個人 ホームペー ジを検索す ることになる。

知識や スキル に? いては, 自己申告以外 に,他の従業員の評価 も書かれて

いる。先 に述べた

q&A

における回答状況や評価 スコアも記載項 目になってい

る。 しか もこれは評価が行われるつ ど, リアルタイムでシステム ( 個人

HP)に

反映 され る。 したが って, この システムを活用すれば,「 誰が どの分野 に強

いか」 を本人 の 自己申告 のみな らず,第三者の評価 を もとにタイム リーに把

握す ることがで きる。

(16)

4.4 考察

応 用地質 の

「q&A

システム」 と

K now‑ W ho システ ム」 は, デー タ中心 ではな く, いわば人 を中心 に した知識 の共有共用 システムであ る。 これは言 い換 えれば,「 業務 の中でそのつ ど発生す る問題 につ いて,社員 同士が コ ミュ ニケー シ ョンしなが ら教え合 うとい う仕組 み 」

(IDG

ジャパ ン, 2 0 0 6 , 3) であ る。 そ こでは,特 に暗黙知 の共有 が重視 されてお り, また前章 で述べた

「よ り多数, よ り広 い範囲での コ ミュニ ケー シ ョンとそれ によ る適切 な知識 との出会 い」が図 られている。※

6

つ ま り,応用地質 は知識の共有共用 と創造 を単 な る文書管理 の強化や既存 デー タベースへのア クセス改善 に とどめることで よ しとせず,人 が中心の知 識共有共用 システムを構築 ・運用 して, 「 職人』 のスキル ・ノウハ ウを組織 全体 で共有す ることで,全社の問題解決能力 を高 め,構造改革 の最大 の 目的 であ る顧客満足の最大化 を達成す る基礎 を築 こうと考 えた」 のである (リア ル コム, 2 0 0 4 , 1 0 9 ) 。

IX'7

そ して応用地質 は,知識の共有共用 と新 たな知識 の創造 を業務 の一環 と し て捉 え,前述 したよ うに,それ をサ ポー トす る能力 のあ る従業員 を 「エキス パー ト」 とい う形 で重用 してい る。 同社 では, このエキスパ ー トが

q&A

に おいて発信 され る回答 内容の質 向上 に大 きな役割 を果 た して い る。 「発信 や 品質保証 を, ボラ ンテ ィアではな く業務 と して行 うことで,確実 な情報流通 を実現 している 」 (リアル コム,前掲書, 1 1 3 ) のである。 また,質 問側 は時 間短縮効果を必ず 申告す ることにな っている。投稿 された質 問へ の回答状況 すなわち知識共有共用への貢献度合 と,質 問者側 による回答 の評価 は K

now ‑

whoシステムに反 映 され, エ キ スパ ー ト人選 時 の資料 と して も用 い られ て いる。 これ らが,質 問へ回答す ることへのイ ンセ ンテ ィブにな っている。

このような施策 によ り応用地質 では,経験 の浅 い社員 が 日々の業務 で感 じ

た疑問を質問 として書 き込み,それに対 してその分野 に通 じた社員がア ンサー

を返す とい うことが 日常的に行 われて いる

(IDG

ジャパ ン, 2 0 0 6 , 3) .

'x'8

(17)

5. 結びにかえて

企業の競争優位性を規定する重要なファクターは当該企業が有す る組織能 力であ り,知識 に関す る組織能力 はその中でも極めて重要である。社会が知 識経済化す るにつれ,その重要性 は今後 さらに増す。本稿では,特 に知識の 共有共用の仕組みをつ くり機能 させ る組織能力に関 して考察 した。

共有共用 にはメンバー間の知的触発を誘発 し,組織的知識創造を促進す る 等の効果がある一方, これを実践す るためにはイ ンセ ンテ ィブの提供 により

「出 し惜 しみ」等 の課題 を克服す る必要がある。 このようなイ ンセ ンテ ィブ としてある意味で 「 手 っ取 り早 い」のは金銭的誘因である。 しか し,組織 メ ンバーの行動 を方 向付 けるのは金銭だけではない。

実際,事例 として取 り上 げた応用地質では,受け取 った回答 によ りもた ら された時間短縮効果を質問者が申告す ることで, また知識の共有共用を支え る能力を有す る社員 を 「エキスパー ト」 に任命 し, これに任命 され ることを 目標化す るとい う形で, メンバーにイ ンセ ンティブを与え,課題を克服 して

さらに進んで,人事考課上のポイ ン トを職務その ものの成績か ら,組織の 知的生産性向上 にどれだけ貢献 しているかに移 し, さらにその考課を昇進や 人事異動 に反映す るということも,知識 の共有共用を促進す るうえで有効か もしれない。事例 として取 り上 げた応用地質 も,知識 の共有共用 に関する貢 献 は評価 して も, これを異動 ・昇進 に反映するということまでは行 っていな か った。 これに関す る研究 は今後の課題 としたい。

また,本稿 では知識 に関す る組織能力の うち,環境 との相互作用を通 じた 知識の取得,保有知識の戦略的活用 に関す る能力は議論 しなか った。 これに 関す る考察 も別の機会 に譲 りたい。

脚 注

※ 1 た とえ ば, 低価格 戦 略 を とる企業 間 の競 争 は販売価格 の低 さをめ ぐる争 い と見 ら れが ちだが, この よ うな企業 はむ しろ安値 で仕入れた り,低 コス トで生産 す る能九

‑144‑

(18)

ポーター

(1985)

の言 うコス トリーダー シ ップの確立 を 目指 して競 い合 っていると 捉え るのか適切である。 このよ うな戦略空 間における競争優位 は, よ り低価格で販 売す ることによ ってではな く, よ り低 い コス トで調達 あるいは生産す る能力 によ っ て もた らされ るのである。つ ま り低価格戦略を とる企業の競争優位源泉 は,販売価 格 の低 さで はな く原価 を低 くす る能 力 にあ る と考 え る方 が よ い。 サ ロー ナ‑他

(2001)

の ことばを借 りるな らば,「 低 コス トの メ リッ トは,価格 に反映 され ること が多いが,競争優位性 は低 コス トにあるのであ って,低価格 自体 にあ るのではない」

(saloner

,

Shepard良 Podolny

,

2001

,

311

;邦訳,

382)

2

野 中 ・竹 内

(1995)

は,組織 的知識創造 における暗黙知 と形式知 の相互補完 ・循 環関係 の垂要件 を指摘 している。彼 らによると, この二つの知識 が個人 と組紙の間 でダイナ ミックに循環すればす るほ ど豊 かな知識が創造 され る。彼 ら自身 の ことば を引用す ると, このような 「ダイナ ミックな知識創造 モデルは,人間の知識が暗黙 知 と形式知 の社会的相互作用を通 じて創造 され拡大 され る, とい うきわめて重要 な 前提 に基づ いて い る 」

(Nonaka

Takeuchi

,

1995

,

61

;邦訳,

90)

。 そ して, 暗黙 知 と形式知 の相互補完 ・循環 関係 は 「知識変換 」

(knowledgeconversion)

とい う概 念で捉え ることができ, これ には四つの形態があ るo第‑ のモー ドは個人 の暗黙知 か らグループの暗黙知が創造 され る 「 共 同化 」

(socialization)

,第二 のモー ドは暗黙 知か ら形式知が創造 される 「表 出化 」

(extemalization)

,第三 のモー ドは個別の形式 知か ら体系的な形式知が創造 され る 「 連結化 」

(combination)

,第 四のモー ドは形式 知 か ら暗黙知 が創造 され る 「内面化 」(

intemalization)であ る。 四つ の モー ドは独

立的 に行 われ るのではな く,sECI プロセ ス と して スパ イラル に作用 し合 うことに よって知識 の増幅を もた らす

(Nonaka& Takeuchi,opci

t

.

,

61‑73

;邦訳,

91‑109)

.

3

このような知識 の出 し惜 しみに関す る紺野

(1998)

のつ ぎの指摘 は,示唆が多い。

「古 いタイプのホ ワイ トカラー組織 は,机 の引 き出 しか ら知識 を出 したか らない社 員 と,従業員 にすべてを教えた くはない経営者 で構成 されていた。 い くら情報共有 や知識共有が重要 だ といって も,現実 の応用 にはい くつ もの障壁 があ る。経営者 は 考えを変え,知識 を共有することが結果的に会社のためになるとい うことを理解 し, その上 で前者 に対 して働 きか けな けれ ばな らない 」 ( 紺野,

1998

,

165)

。 ただ し近 年 においては,経営者側の意識 が変 わ り,知識 の共有共用 を重視す る経営者 も増 え ている。一方 では,知的生産物 の出来 ・不 出来が人事考課等 に大 き く影響す るのは 一般従業員であるか ら,知識 を出 し惜 しむ傾 向は一般従業員 において根強 く残 って いる。 しか も顧客等 に関す る重要知識 は現場 の従業員が保有 して い る。 したがって 企業における出 し惜 しみの克服は,一般従業員 に関 してより大切であると言 ってよい。

※ 4 このような地質調査の難 しさと,そ こにおける知識の重要性を応用地質の成田賢 ・ 取締役専務執行役員 は,つぎの よ うに述 べてい る。 「 我 々に とって は,現場 で採取

したデータを どのように分析, また解釈す るかが勝負 になる。 しか も,舞台 は,世

界の中で も類 を見 ないほど地質 が複雑 だ と言 われ る 日本。つ ま り, スタ ッフの持つ

(19)

経験 や ノ ウハ ウが, 調査 の質 を直 接 左 右 して しま うとい う怖 さ と常 に向 き合 って い るの だ 」

(IDG

ジ ャ

ン,

2006

, 1) 0

※ 5 この点 につ いて, 注 4 で コ メ ン トを 引用 した成 田賢 ・専務 執 行 役員 は, つ ぎの よ うに述 べ て い る。 「バ ブル 当時 は, そ れ こそ ひ っき りな しに仕 事 が舞 い込 ん だ。 あ りが た い話 で あ るが, それ ゆえ に, 新 しい技 術 を習得 した り, 先輩技 術者 か ら経験 を受 け継 いだ りとい った ことが後 回 しに され て しま うよ うにな ったのだ

(IDG

ジ ャ パ ン,前 掲 報 告 書,

2)

0

6

前掲 の成 田賢 ・専務 執 行 役 員 は暗黙 知 共 有 の重要性 に, 以下 の よ うに言及 して い る

「地 質 調 査 は, 現 場 で の作 業 が 中心 に な るため, マ ニ ュアル に記 載 す る こ との で きな い よ うな細 か な問題 が い くらで も出 て くる。 そ の た め, 文書 化 され た形 式知 を い くら共 有 して み た ところで, 真 の効 果 は見込 めな い。 だ った ら, 経験 を積 ん だ 人 に しか分 か らな い生 きた情 報, す な わ ち暗黙知 を共 有 で き るよ うな仕組 みを作 る 必 要 が あ る と考 え た

(IDG

ジ ャパ ン, 前 掲 報告書,

3)

0

※ 7 この点 につ いて, 応 用地 質情 報 システ ムセ ンター企画 部 ( 後 に技術 本部 企画 室) の和 田弘 。上 級 専 門職 は, つ ぎの よ うに述 べ てい る。 「た とえ ば, 地 質調 査 の現場 で働 く担 当者 に と って本 当 に役 立 つ知 識 は, 報告書 で はな くそれ を作 成 した担 当者 各 自の頭 の 中 にあ る。 実 際, 調 査 担 当者 は, 案件 ごとに各 自 自分 な りの工 夫 ( 職 人 芸 ) を凝 ら し作業 を進 め る。 この よ うな 『職 人』 の スキル ・ノウハ ウは, 当然地 質 調 査 の報 告 書 や教 科書 には載 って いな い。 それは, あ る場面 に遭 遇 し,実 際 にそれ を経験 した人 で しか習 得 しえ な い もの な の だ。我 々は, そ う した属人 的 な知 を いか に して 引 き出 し,共有 し, 活用 す るか が重 要 だ と考 えた 」 (リアル コム,

2004

,

109

, ( ) 内 の補 足 は リアル コム に よ る)。

8 4

章 の 内容 は リアル コム

(2004)

, 井 上 ・他

(2005)

,

IDG

ジ ャパ ン

(2006)

, 応 用 地 質株 式 会 社 ・本社 に対 す る ヒヤ リング, 同社 ・北 陸支 店 へ の訪 問調 査 に基

く。

イ ンタ ビューに応 じて下 さった北陸支店長 ・鎌 田雅道氏,技術担 当 グループ リーダー ・ 北 原 哲 郎 氏 に は この場 を借 りて心 よ りの謝 意 を表 した い。

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参照

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(2,3 号機 O.P12,000)換気に要する時間は 1 号機 11 時間、 2,3 号機 13 時間である)。再 臨界時出力は保守的に最大値 414kW