は じ め に
伝統的貿易決済ツールである信用状 (以下,ʻ L/C ʼ とする) を活用した取 引 (以下,「 L/C 取引」とする) に類似した取引手法として近年注目を集め て い る の が「 TSU/BPO 取 引 」 で あ る。 本 取 引 は, TSU ( Trade Service
Utility ) と呼ばれる貿易データ自動照合および決済メッセージ自動送信シ
ステムを活用した取引 ( TSU 取引) に BPO ( Bank Payment Obligation ) と呼 ばれる銀行支払確約サービスを組み込むことによって行われる ( TSU/BPO 取引) 。 TSU/BPO 取引と L/C 取引はいずれも銀行の支払確約が加えられ る点で共通するも,決済当事者間で交わされるコミュニケーションの方法 が両者で大きく異なる。 TSU/BPO 取引は L/C 決済が有する「確実性」
に加え,送金決済が有する「迅速性」をも兼ね備えた優れた取引手法であ 603 商学論纂(中央大学)第 59 巻第3 ・ 4号( 2018 年3月)
貿易コミュニケーションの側面からみた TSU/BPO 取引の優位性 (続)
──データマッチングとデータミスマッチ諾否プロセスを中心に──
山 本 慎 悟
目 次 は じ め に
Ⅰ TSU/BPO 取引と L/C 取引の比較
Ⅱ データマッチングプロセスにみる TSU/BPO 取引の優位性
Ⅲ データミスマッチ諾否プロセスにみる TSU/BPO 取引の優位性
お わ り に
ると強調される
1)が, TSU/BPO 取引と L/C 取引の決済当事者間で交わさ れる貿易コミュニケーション方法が異なる点に着目しつつ, TSU/BPO 取 引が有するそれ以外の優位性を浮き彫りにすることが本稿の主たる目的で ある。
ところで筆者は本稿と同主題の論文を他誌に投稿している
2)。既発表論 文も TSU/BPO 取引における貿易コミュニケーションを手がかりとして本 取引の優位性を見出そうと試みている点では本稿と共通の問題意識を有す る。しかしながら本取引における貿易コミュニケーションの内,既発表論 文は取引前半部に当たる「ベースラインの確定と確定済みベースラインの 条件変更プロセス」を研究対象としているのに対し,本稿は取引後半部に 当たる「データマッチングとデータミスマッチ諾否プロセス」を研究対象 としている。それぞれ同一取引の前半部と後半部にフォーカスが当てられ ていることから,互いに密接な関連性を有するも,同一取引の異なる部分 にフォーカスが当てられていることから,互いに独立した関係性も有す る。しかしながら本稿でも TSU/BPO 取引における貿易コミュニケーショ ンを手がかりとして論を進めていく関係上,既発表論文と同様に,まずは 第Ⅰ章にて L/C 取引と TSU/BPO 取引における各種概念・定義を提示し ておく
3)。
1 ) 佐藤武男「貿易決済の電子化(TSU・BPO)による貿易ビジネスの革新」
『貿易と関税』2月号48ページ以下(2016)には元・三菱東京 UFJ 銀行理 事・外為事務部長である佐藤武男氏が報告したセミナーの内容が掲載されて いる。ここでは TSU/BPO 取引に対する造詣が深い同氏の目からみた本取引 の優位性が詳細に説明されている。
2) 山本慎悟「貿易コミュニケーションの側面からみた TSU/BPO 取引の優位
性─ベースラインの確定と確定済みベースラインの条件変更プロセスを中心 に─」『企業研究』第31号141ページ以下(2017)。
3 ) このため,本稿第Ⅰ章における記述が脚注を含めて既発表論文のそれ(同
上論文143‑146ページ)とかなりの部分において重複していることをあらか
Ⅰ TSU/BPO 取引と L/C 取引の比較
本章では TSU/BPO 取引と L/C 取引の比較を通して両取引における各 種概念・定義を整理しておく。両取引で採用されている貿易コミュニケー ション方法については次章以下で詳述することとする。
1 BPO と L/C の共通点と相違点
ICC 荷為替信用状に関する統一規則および慣例
4)(以下,ʻ UCP ʼ とする) は
「発行銀行の約束」を規定するが,本規定を基に L/C をおおよそ以下のよ うに定義にすることができる。すなわち
「信用状は (中略) 輸入者商の依頼と指示に基づき,
①発行銀行が
②信 用状の条件を充足する書類の呈示と引換に,
③輸出者商に対し
④代金の 支払いを確約する書面である
①(下線および囲い筆者) 。」
5)一方, BPO を規律する ICC バンク・ペイメント・オブリゲーション統 一規則
6)(以下,ʻ URBPO ʼ とする) は BPO を以下のように定義している。す なわち
じめ断っておく。
4) 本稿で使用する本規則の訳文については国際商業会議所日本委員会による 訳出に依拠する。
5) 絹巻康史監修・編著『国際商取引事典』152ページ(中央経済社,2007)。
6 ) もともと BPO は SWIFT によって手掛けられたが,その取扱いに関する ルールを世界的に共通化させる必要があることから,ICC (国際商業会議所)
と SWIFT(国際銀行間通信協会)の共同作業によって制定された。 2013 年
7月1日に発効。本規則に支配される直接の関係当事者は銀行であり,輸出
入者は含まれない。なお本稿で使用する本規則の訳文については国際商業会
議所日本委員会による訳出に依拠する。
「『 Bank Payment Obligation 』または『 BPO 』とは, (中略)
⑤確定済み ベースラインによって要求されたすべてのデータセットの送信がデータ マッチ (中略) に至ったことに伴い,
⑥特定の金額を
⑦BPO 受益銀行に
⑧支払う,または後日払の支払い債務を負担して期日に支払う, BPO 負 担銀行の取消不能かつ独立した約束をいう
②(下線および囲い筆者) 。」
7)比較すると, BPO と L/C は共に BPO を発行する銀行 (以下,「 BPO 負担 銀行」とする) および L/C を発行する銀行 (以下,「発行銀行」とする) によ る「支払確約」である (下線 ① ④ および ⑥ ⑧) 。しかしながら L/C はそれ 自体が発行銀行による支払確約のための書面となる (囲い ①) のに対し,
BPO には,「 BPO を発行する」という表現
8)が用いられるものの,そのよ うな書面自体は存在しない (囲い ②)
9)点で異なっている (図表1 ①) 。ま た L/C では支払確約の受益者は輸出者となる (下線③および図表2 ①) の に対し, BPO では輸出者の取引銀行 (以下,「 BPO 受益銀行」とする) とな る (下線 ⑦ および図表2 ②) 点においても異なっている。ただし TSU/
BPO 取引では輸出者と BPO 受益銀行の間であらかじめ BPO に関する包 括的特約が取り交わされ (図表2 ③) ,これに基づいて別途決済処理がな される
10)ため,事実上 L/C 取引と同等の取引効果を得ることができる (図
7 ) URBPO 750 , Art. 3 .
8) Id.「Obligor Bank(BPO 負担銀行)とは,BPO を発行する銀行をいう」。
9 ) これにより,L/C 取引で発生し得る偽造行為は回避できると思われる。
しかし近年は L/C 取引でも高度なセキュリティが確保されている SWIFT ネ ットワークを通して L/C のメッセージが送受信・発行されることが多いた め,偽造や改ざんは極めて困難となっている。
10 ) たとえばアユタヤ銀行(タイ)が顧客と締結している BPO Agreement に
は “If the Bank, as a Recipient Bank of a BPO(BPO 受益銀行)with respect
to a Trade Transaction in which the Company is an exporter, has received
funds under the BPO from the Obligor Bank of the BPO(BPO 負担銀行) , the
表2 ④) 。したがって BPO の受益者は厳密には輸出者の取引銀行であるが,
輸出者もまた「事実上の受益者」といえる (図表1 ②) 。
さて L/C と BPO は共に銀行による「支払確約」であるが,銀行による 支払確約が有効となるための要件 (以下,「支払確約有効化要件」とする) が 両者で異なっている。すなわち L/C では船積書類が L/C 条件を充足し,
Bank shall immediately credit the funds to such account of the Company with the Bank as designated by the Company . . .” との取決めがなされている。な おアユタヤ銀行は 2013 年9月に三菱東京 UFJ 銀行バンコク支店と支店統合 した。
図表1 L/C と BPO の比較
①支払確約
の書面 ②支払確約の受益者 ③支払確約有効化要件 ④支払確約 の基礎
L/C L/C
輸出者L/C
条件を充足した船積書類の呈示
L/C
条件BPO
無 輸出者の取引銀行(事実上は輸出者も)
DS
が確定済みBL
にマッチ確定済み
BL
出所) 山本慎悟(2017)「貿易コミュニケーションの側面からみたTSU/BPO
取引の優位性─ベースラインの確定と確定済みベースラインの条件変更プロセスを中心 に─」『企業研究』第31号144ページ。
輸出側銀行 指定銀行
船積書類 輸入側銀行 発行銀行
輸出側銀行 BRO受益銀行
DS 輸入側銀行 BRO負担銀行
輸出者 L/C条件 輸入者 輸出者 確定済み
BL 輸入者
①
②
③ ④
出所) 山本慎悟(2017)「貿易コミュニケーションの側面からみた
TSU/BPO
取引の 優位性─ベースラインの確定と確定済みベースラインの条件変更プロセスを中 心に─」『企業研究』第31号145ページ。L/C取引 TSU/BPO取引
図表2 L/C 取引と TSU/BPO 取引の支払確約概念
かつこれが発行銀行に呈示される必要がある (下線 ②) のに対し, BPO で はデータセット (以下,ʻ DS ʼ とする) が確定済みベースライン (以下,「確定 済み BL 」とする) に合致するだけでよい (下線 ⑤) という点で異なってい る (図表1 ③) 。ここで「確定済み BL 」とはいわば輸出入者間で合意され た売買契約の契約情報であり, DS とはいわば各種貿易書類から構成され る船積書類の船積関連情報である。このように L/C と BPO に基づく支払 確約が有効となるためにはそれぞれの支払確約有効化要件を満たす必要が あるが,支払確約有効化要件を満たすためにはそれに先立って「 L/C 条 件」および「確定済み BL 」という基礎的条件が成立しておく必要がある。
この意味において, L/C 条件と確定済み BL はいずれも「支払確約の基礎」
といえよう (図表1 ④) 。
2 TSU/BPO 取引と L/C 取引の全体的プロセス
BPO と L/C は書面の有無や支払確約有効化要件等でそれぞれ異なるも,
共に銀行による支払確約である点では共通している。加えて銀行による支 払確約を組み込んだ両取引を俯瞰すると,その全体的プロセスもおおよそ 共通しており,いずれの取引も大きく4つのステージに分割することがで きる (図表3参照) 。
まず売買契約締結後, L/C 取引では L/C 条件が成立 (①) することによ
って支払確約の基礎が築かれ, TSU/BPO 取引では BL が確定 (①
1) する
ことによって支払確約の基礎が築かれる (「支払確約の基礎樹立」ステージ) 。
その後, L/C 取引では船積書類が発行銀行へ呈示,かつこれが L/C 条件
を充足 (③) した場合に支払確約が有効となり, TSU/BPO 取引では DS が
確定済み BL で定められた条件にマッチ (③
1) した場合に支払確約が有効
となる (「支払確約有効化」ステージ) 。いずれの取引も,支払確約が有効とな
った後に銀行による支払いが実行される。
また L/C 取引では L/C 条件の成立後,特定の事情により当該 L/C 条件 が変更 (②) されることがあるが, TSU/BPO 取引でも BL の確定後,当 該確定済み BL が条件変更 (②
1) されることがある (「支払確約の基礎変更」
ステージ) 。加えて L/C 取引において L/C 条件を充足しない船積書類が呈 示されたとしても (③
2) ,銀行が支払拒絶の権利を放棄 (④) した場合に は支払確約が有効となるが, TSU/BPO 取引でも同様に,たとえ DS が確 定済み BL で定められた条件にマッチしなくとも (③
3) ,銀行が当該ミス マッチを承諾 (④
1) した場合には支払確約が有効となる (「支払確約追認」
ステージ) 。いずれの取引も,銀行がこのように対応した場合には支払確約 が有効となり,その後に支払実行に至る。
以上を踏まえ,次章以下では両取引における貿易コミュニケーション方 法の違いに着目し,それらの比較を通して TSU/BPO 取引の優位性を浮き 彫りにする。なお「支払確約の基礎樹立」ステージと「支払確約の基礎変
L/C 取引 TSU/BPO 取引 L/C 取引 TSU/BPO 取引
売買契約締結
「支払確約の基礎 樹立」ステージ
「支払確約の基礎 変更」ステージ
「支払確約有効化」
ステージ
「支払確約追認」
ステージ
③
L / C 条 件を充足し た船積書類 の呈示① L/C 条 件の成立
①1BLの 確定
③
1D S が 確 定 済 み BL の条件 にマッチL/C 条件の成立
②
L/C 条件変更BL の確定
②
1 確定済み BL の条件変更③
3 DS が 確 定 済 みBLの条件にミ スマッチ③
2 L/C 条 件 を 充 足しない船積書類 の呈示④
支 払 拒 絶 の 権利放棄
④
1 ミスマッチの承諾 支払実行出所) 山本慎悟(2017)「貿易コミュニケーションの側面からみた TSU/BPO 取引 の優位性─ベースラインの確定と確定済みベースラインの条件変更プロセスを 中心に─」『企業研究』第31号146ページ。
図表3 L/C 取引と TSU/BPO 取引の全体的プロセス
更」ステージについては既発表論文において検討済みである
11)ため,本 稿では「支払確約有効化」ステージと「支払確約追認」ステージを検討の 対象とする。
Ⅱ データマッチングプロセスにみる TSU/BPO 取引の優位性
L/C 取引では L/C 条件を充足した船積書類が呈示されれば,その後,
銀行による支払いが実行され, TSU/BPO 取引では確定済み BL で要求さ れている条件に DS がマッチすれば,その後,銀行による支払いが実行さ れる。そのプロセスはいずれも「支払確約有効化」である。本章では両取 引における「支払確約有効化」ステージにみる貿易コミュニケーション方 法を概観し,それらの比較を通して得られる支払確約有効化プロセスにお ける違いを基に TSU/BPO 取引の優位性を見出す。
1 データマッチングをめぐる貿易コミュニケーション
まずは TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセスを各ステップに 分割する。これにより支払確約 ( BPO ) 有効化をめぐって関係当事者間で 如何なる貿易コミュニケーションが交わされるのかを概観する (図表4参 照)
12)。
11 ) 山本,前掲注 2 )を参照のこと。
12) TSU/BPO 取引では時として同一の銀行が BPO 受益銀行と BPO 負担銀行
としての役割を担う3コーナーモデルや BPO 受益銀行以外の銀行が DS 送
信銀行としての役割を担うモデルがあるという(中島真志『SWIFT のすべ
て』 183 ‑ 186 ページ(東洋経済新報社, 2015 ))。加えて URBPO 750 では,輸
入者の取引銀行以外の(複数の)銀行,あるいは輸入者の取引銀行を含む複
数の銀行が BPO 負担銀行としての役割を担うモデルも想定されている。し
かし現実的にはこれらモデルに基づく取引は稀であると思われ,通常は売主
たる輸出者の取引銀行が BPO 受益銀行および DS を TSU へ送信する銀行と
して,そして買主たる輸入者の取引銀行が BPO 負担銀行としての役割を担
ステップ1──輸出者は売買契約の履行を通し,各種の船積書類を入 手・作成すると,その情報を BPO 受益銀行に提出,これを TSU へ送信す るよう委託する (①) 。支払確約有効化の成否を判定するために TSU は後 にデータマッチングを行うが,当該船積書類情報はその際に確定済み BL との照合のための材料として用いられる。支払確約有効化の成否を決定す るための照合材料の送信 (または送付) が託される本ステップを「照合材 料託送」とする。
ステップ2── BPO 受益銀行は輸出者から船積書類情報の提出を受け ると,これを端末入力, DS として TSU へ送信する (②) 。支払確約有効 う4コーナーモデルに基づく取引が一般的である。したがって以下,4コー ナーモデルを想定して検討を進める。
図表4 TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセスと 貿易コミュニケーション
注) 点線箇所は自動的かつ瞬間的に進められるステップとなる。
出所) 筆者作成。
輸出側銀行
(BPO 受益銀行)
輸出者
輸入側銀行
(BPO 負担銀行)
輸入者 売買契約
②
③
TSU
① ④
④1
DS
確定済みBL
﹁支払確約有効化﹂ステージ ステップ1(照合材料託送)
ステップ2(照合材料送達)
ステップ3(照合)
ステップ4(照合結果託送)
ステップ5(照合結果送達)
②DS 送信
①船積書類情報提出
TSU はデータマッチング
④データマッチングの結果通知 ④1データマッチングの結果通知
③DS マッチレポート送信 ③1DS マッチレポート送信
③1
化の成否を決定するための照合材料が送信 (または送付) される本ステッ プを「照合材料送達」とする。
ステップ3── TSU は BPO 受益銀行から送信されてきた DS を受信す ると,これを用いて直ちに確定済み BL との自動照合を直ちに開始し, 「デ ータマッチ」あるいは「データミスマッチ」の判定を下す。データマッチ に至った場合は支払確約が有効となる
13)。なお基本的に,当該判定は確定 済み BL と DS の一字一句を照合することによってなされる。照合材料を 用いて支払確約の基礎との照合がなされる本ステップを「照合」とす る
14)。
ステップ4── TSU は DS と確定済み BL の自動照合を行い,その判定 を下すと,当該結果を表示した DS マッチレポートを直ちに双方の銀行へ 送信する
15)(③ ③
1) 。本レポートは厳密には BPO の当事者である BPO 負 担銀行と BPO 受益銀行へ向けられるものであるが, TSU/BPO 取引では その結果が双方の銀行から売買当事者である輸出入者へ転送されることが 予定されている。したがって事実上の受益者たる輸出者と輸入者への転送
13 ) URBPO 750 , Art. 10 c. 「確定済ベースラインに明示された BPO の有効期限 日以前に,確定済ベースラインによって要求されたすべてのデータ・セット 送信後,(当該ベースラインとの)データ照合の結果,下記のいずれかに該 当する場合は,BPO 負担銀行は,確定済ベースラインのペイメント・オブ リゲーション表示欄に明示された支払条件に従って,特定の金額を BPO 受 益銀行に支払うか,後日払いの支払債務を負担して期日に支払わなければな らない。i)データ・マッチとなった場合,(後略)」。
14) なお本ステップにおいて「データミスマッチ」に至った場合には「照合結 果託送(ステップ4)」以下のステップを経由した後に次のステージ(「支払 確約追認」ステージ)へと進み,その後の処理がなされる。
15 ) URBPO 750 , Art. 8 c. 「データ照合は,確定済ベースラインによって要求さ
れた全てのデータ・セットの送信後にはじめて実行される。続いて,TMA
は『データ・セット・マッチ・レポート』を各参加銀行に対し送信し,デー
タ・マッチまたはデータ・ミスマッチのいずれかを当該銀行に通知する」。
のために TSU が双方の銀行へ本レポートを送信することにより,照合材 料と支払確約の基礎との照合結果の通知が託されることになる。照合材料 と支払確約の基礎との照合結果の通知が託される本ステップを「照合結果 託送」とする。
ステップ5──双方の銀行は TSU から送信されてきた DS マッチレポ ートを受信すると,その結果を輸出入者へ通知する (④ ④
1) 。照合材料と 支払確約の基礎との照合結果が通知される本ステップを「照合結果送達」
とする。
なお「照合材料託送 (ステップ1) 」→「照合結果送達 (ステップ5) 」の 成り行きにより,輸出者が所持する船積書類の原本は適当なタイミングで 輸入者へ直送される。
2 船積書類の点検をめぐる貿易コミュニケーション
つづいて L/C 取引における支払確約有効化プロセスを各ステップに分 割する。これにより支払確約 ( L/C ) 有効化をめぐって関係当事者間で如 何なる貿易コミュニケーションが交わされるのかを概観する (図表5参照) 。 ステップ1 (照合材料託送) ──売買契約の履行を通して輸出者は各種 の船積書類を入手・作成すると,その原本を自社の取引銀行に呈示,これ を発行銀行へ送付するよう委託する (①) 。支払確約有効化の成否を判定 するために発行銀行は後に書類点検を行うが,当該船積書類の原本はその 際に L/C 条件との照合のための材料として用いられる。
ステップ2 (照合) ──輸出者の取引銀行は輸出者から船積書類の呈示
を受けると,買取銀行や支払銀行 (以下,「指定銀行」とする) となって当該
船積書類が L/C 条件を充足しているか否かを確認する書類点検業務を行
う。充足している場合,指定銀行は買取るかオナーすることになるが,引
受 L/C や後日払 L/C の場合でもこの段階で輸出者へ輸出代金を支払うこ
とが多い
16)。いずれにせよ指定銀行としては当該資金を後日発行銀行から 回収する必要があるため,書類点検によってそのための道筋をつけておく ことになる
17)。なお書類点検の判断基準となるのは UCP およびその解釈 指針となる ISBP
18)である。
16) 輸出金融実務として,為替手形を引受けまたは後日払の約束をした指定銀 行が,引受済手形または後日払約束を割り引く(すなわち期日前に支払う,
あるいは買入れる)ことが広く定着している(平野英則「後日払信用状にお ける詐欺のリスク配分」『国際商取引学会年報』第 11 号 176 ページ( 2009 ))
ことによる。
17 ) なお本ステップにおいて船積書類と L/C 条件の間に不一致(以下,「ディ スクレ」とする)が発覚した場合には輸出者は指定銀行との協議によっ て ① 補償状付買取り,② ケーブルネゴ扱い,③ 取立扱い(アプルーバル扱 い)等の必要な策を講じ,それぞれの処理がなされる。
A/N
図表5 L/C 取引における支払確約有効化プロセスと 貿易コミュニケーション
出所) 筆者作成。
輸出側銀行
(指定銀行)
輸出者 売買契約
船積書類原本
L/C
②
①
輸入側銀行
(発行銀行)
輸入者
③
﹁支払確約有効化﹂ステージ ステップ1(照合材料託送)
ステップ2(照合)
ステップ3(照合材料送達)
ステップ4(照合)
ステップ5(照合材料処分)
A/N : Amendment Notice(L/C 条件変更通知)
指定銀行は船積書類点検
・呈示人へ書類返却 ・発行銀行で書類保管
・輸入者へ書類引渡し
「支払確約追認」ステージ
発行銀行は船積書類点検
①船積書類呈示
②船積書類呈示
③書類引渡し
ステップ3 (照合材料送達) ──指定銀行は輸出者から呈示された船積 書類が L/C 条件を充足していると判断すると,必要に応じて輸出者へ輸 出代金を支払った上で,当該船積書類を発行銀行へ送付する
19)(②) 。 ステップ4 (照合) ──発行銀行は指定銀行から船積書類の呈示を受け ると,当該船積書類が L/C 条件を充足しているか否かを確認する書類点 検業務を行う。書類点検業務はすでに指定銀行にて実施済みであるが,支 払確約者たる発行銀行は自らの支払確約が有効か否かを決定する観点から 同業務を実施する。やはり UCP および ISBP が書類点検の判断基準とし て用いられるため,基本的には指定銀行での判定結果と同様の判断が下さ れる。船積書類が L/C 条件を充足している場合には支払確約が有効とな り
20),後日指定銀行へ支払い/補償がなされる。
ステップ5──発行銀行は船積書類の点検業務を完了すると,その結果 に応じて船積書類を処分する。船積書類が L/C 条件を充足している場合 は,必要に応じて輸入者から支払いを受けた上で引渡す (③) 。船積書類 が L/C 条件を充足していない場合には,次のステージ (「支払確約追認」ス テージ) へと進み,その後の処理がなされる。照合材料がその時の状況に 応じて処分される本ステップを「照合材料処分」とする。
18) ISBP(International Standard Banking Practice)は UCP の付属物であり,
その規定内容はすべて UCP に含まれていると位置づけられる。このため,
ディスクレの根拠としてはまず UCP に求め,UCP の規定だけでは不十分な 場合には ISBP を援用して拒絶理由を明らかにすることになる(後藤守孝・
吉 野 弘 人『 信 用 状 統 一 規 則 の 実 務 Q&A』260‑261ペ ー ジ( 中 央 経 済 社,
2008 ))。最新版は ICC Publication No. 745 E。
19) UCP 600 , Art. 15 c. 「指定銀行は,呈示が充足していると決定し,かつオナ ーし(honour)または買い取った場合には,書類を確認銀行または発行銀 行へ送付しなければならない」。
20 ) UCP 600 , Art. 15 a. 「発行銀行は,呈示が充足していると決定した場合には,
オナー(honour)しなければならない」。
3 L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセスの 比較
それでは L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセス を比較し,貿易コミュニケーションの側面からみた TSU/BPO 取引の優位 性を浮き彫りにする。
L/C 取引では,その目的は異なるものの,「照合」がステップ2および 4において計2回なされるのに対し, TSU/BPO 取引ではステップ3にお いて1回のみとなる。また TSU/BPO 取引では「照合 (ステップ3) 」の後 に「照合結果託送 (ステップ4) 」および「照合結果送達 (ステップ5) 」が 伴うのに対し, L/C 取引ではこれらのステップは伴わない。これは, L/C 取引では照合結果を知るべき各々の当事者が自らで「照合」作業を行うこ とによって当該照合結果を知ることになるのに対し, TSU/BPO 取引では
「照合」作業を TSU に委ねたことによって照合結果を知るべき当事者が当 該照合結果を通知される必要性があることによる。加えて L/C 取引では 支払確約が有効となった後に「照合材料処分 (ステップ5) 」が伴うのに対 し, TSU/BPO 取引では本ステップは伴わない。これは,船積書類の一部 を構成する船荷証券には船積貨物の権利が化体されており, L/C 取引で は照合材料として機能する当該船積書類を支払確約者たる発行銀行が担保
図表6 L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセス
ステージ ステップ L/C 取引 TSU/BPO 取引
支払確約有効化 1 照合材料託送 照合材料託送
2 照合 照合材料送達
3 照合材料送達 照合
4 照合 照合結果託送
5 照合材料処分 照合結果送達
注) 点線箇所は自動的かつ瞬間的に進められるステップとなる。
出所) 筆者作成。
として所持することに起因する。このような違いは TSU/BPO 取引に如何 なる優位性をもたらすのであろうか。
L/C は発行銀行による受益者たる輸出者に対する支払確約であるが,
これは原因契約たる輸出入者間の売買契約において L/C が決済手段とし て選択され,その後,輸入者が発行依頼人となって発行銀行に L/C を発 行依頼することによって具体化する。そして当該支払確約が「独立抽象性 の原則」
21)によって補完されることにより, L/C 取引はその真価を発揮す ることになる
22)。すなわち発行銀行は原因契約とは無関係に受益者に支払 うこととなり,これにより原因契約上生じ得る問題については別途関係当 事者間で折衝して解決が図られることとなる。これは “ Pay first, argue later ” という標語で表され
23),いわば L/C 取引の理念である。売買当事者 はこのような理念に惹かれて L/C 取引を選択するのであり,またこのよ
21 ) UCP 600 , Art. 4 a. 「信用状は,その性質上,信用状の基礎となることので きる売買契約その他の契約とは別個の取引である。たとえ契約へのなんらか の言及が信用状に含まれている場合であっても,銀行は,このような契約と は無関係であり,またこのような契約によりなんら拘束されない。したがっ て,信用状に基づきオナー(honour)すること,買い取ることまたはその 他の債務を履行することの銀行の約束(undertaking)は,発行依頼人と発 行銀行または受益者との関係の結果として生じる発行依頼人の請求または抗 弁(claims or defences)には左右されない」。
22 ) この点については TSU/BPO 取引も同様である。すなわち「BPO は,背 景にある貿易取引の基礎となり得る売買契約またはその他の契約とは別個で あり,かつ独立している。たとえ確定済ベースライン上に契約への何らかの 言及が含まれている場合であっても,参加銀行は,このような契約とは一切 無関係であり,かつそれらによって拘束もされない。したがって,BPO 負 担銀行の約束は,参加銀行または売主との関係に起因する,買主の請求また は抗弁(claims or defences)の影響を受けない(URBPO 750 , Art. 6 a)」。
23) Jan Dalhuisen, Dalhuisen on Transnational Comparative, Commercial,
Financial and Trade Law Volume 3 404 ( 6 th ed. 2016 ), Oxford and Portland,
Oregon : Hart Publishing.
うな理念に基づいて L/C 取引は遂行されねばならない。しかしながら L/C 取引を補完するはずの「厳格一致の原則」が加わることにより,時 としてこのような理念に基づく取引の遂行が脅かされることがある。これ を裏付ける2つの裁判事例を以下に示す。
⑴ 事案 ①─ Credit Industriel et Commercial v. China Merchants Bank
24)─ 本件は指定銀行と発行銀行の間でディスクレの有無が争われた事案であ る。訴外輸出者と訴外輸入者との間で決済条件を L/C とする売買契約が 成立した。輸出者は約定品である丸太の船積み後,手形と共に各種船積書 類を指定銀行 (原告) へ呈示,買取られた。当該船積書類は発行銀行 (被 告) へ送付されたが,発行銀行は以下の理由をもって支払拒絶したため,
指定銀行は補償を受けることができなかった。なお「 L/C 金額と積載数 量は10%の過不足が許容される」旨の特別指示が L/C 条件として付記さ れていた。
・ 商業送状には丸太の等級別割合が「 Cl が40%, CE が50%そして CS が
10%」と表記されているが,梱包明細書にはそれぞれの容積が「 Cl が
2166 . 4 CBM , CE が2866 . 2 CBM , CS が573 . 5 CBM ,そ し て 合 計 が5606 . 1 CBM 」と表記されている。梱包明細書の数値を用いて丸太の等級別割 合を算出すると,「 Cl が38 . 64%, CE が51 . 13%そして CS が10 . 23%」と なり,商業送状の表記と一致しない。
・他2点 (省略) 。
等級別割合の不一致につき,指定銀行は「商業送状における等級別割合 は10%の過不足が認められるため,算出された数値との間に不一致はな い」として裁判所に訴えた。裁判所は UCP 500第13条 a 項
25)の規定に依拠
24) [ 2002 ] 2 All ER (Comm) 427 .
25 ) 「銀行は,信用状に定められたすべての書類が,文面上,信用状条件を充
足しているとみられるかどうかを確かめるために,相応の注意をもって点検
し,おおよそ以下のように判示した。すなわち「銀行の義務は国際的な標 準銀行実務 ( international standard banking practice ) にしたがって相応の注意 を払うことである。明白な不一致が文面上存在するかどうかを確かめるた めに相応の注意を払うという意味においては,当該義務は消極的なもので あり,書類上のデータを基に不一致を浮き彫りにするという積極的義務で はない。するとドキュメントチェッカーは書類上のデータを用いた算出業 務を行う義務を負わない。結果,商業送状と梱包明細書の間に不一致は存 在しない」。
⑵ 事案 ②─ Bulgrains & Co Limited v. Shinhan Bank
26)─
本件は受益者たる輸出者と発行銀行の間でディスクレの有無が争われた 事案である。輸出者 (原告) は訴外輸入者との間で決済条件を L/C とする 売買契約を締結した。ちなみに輸出者が接受した L/C には受益者名が ʻ Bulgrains Co Limited ʼ と表記されていた。やがて船積書類は訴外指定銀行 を通じて発行銀行 (被告) に呈示されたが,商業送状中の輸出者名が ʻ Bulgrains & Co Limited ʼ と表記されていた。発行銀行はこの点を含む計2 点をディスクレとして扱い,支払いを拒絶した。社名の不一致につき,輸 出者は「社名中に ʻ & ʼ を追記することは軽微な不一致であり,重大なディ スクレとはいえない」として裁判所に訴えた。裁判所はおおよそ以下のよ うに判示した。すなわち「銀行が支払拒絶の権利を有するか否かはディス クレが重大であるか否かによるが,明らかな誤字脱字とはいえない名前の
しなければならない。文面上,定められた書類が信用状条件を充足している ということ(compliance)は,この規則〈UCP〉に反映されている国際的な 標準銀行実務(international standard banking practice)によって決められ る。文面上,相互に矛盾しているとみられる書類は,文面上,信用状条件を 充足していないものとみなされる」。なお「isbp」とは先の ISBP に加え,
ICC Opinion 等に記載されている国際標準銀行実務を含むものである。
26) [ 2013 ] EWHC 2498 (QB).
不一致は重大なディスクレである。受益者名は重要項目の1つであること に疑いの余地はない。ʻ & ʼ の追記は文面からは明白な誤字脱字であると読 み取ることはできないため,重大なディスクレである」。
上記の事案から分かる通り, L/C 取引では時として関係当事者間で船 積書類が L/C 条件を充足するか否かが判然としない状況が生じる。その 主たる理由としては,やはりディスクレの有無判定にあたって解釈の余地 がある点があげられる。 L/C 取引では「厳格一致の原則」に基づいて決 済処理がなされるが,これは船積書類と L/C 条件を一字一句厳格に照合 してディスクレの有無を判定することではない。本原則下では原因契約に 何ら影響を与えることがない軽微な不一致の場合はこれをディスクレとは せず, L/C に基づく支払いを認める。この意味においては「実質的一致 の原則」である。しかしながらこれによりグレーゾーンが生じ,ディスク レの有無をめぐって当事者の解釈が入り込む余地が生まれることになる。
そして当事者間で当該解釈に相違が生じれば争いが生じ,場合によっては 係争事件にまで発展する。特に発行銀行でのディスクレ有無の判定に先立 って指定銀行から輸出者へ代金が支払われている場合には,事案 ① のよ うに指定銀行と発行銀行の間で紛争が生じ得る。なぜなら指定銀行は発行 銀行から資金回収しなければならないからである。通常,指定銀行は輸出 者から船積書類が呈示されると,償還請求権を保留して輸出代金を支払う ため,たとえ発行銀行でディスクレ判定が下されたことに伴い支払拒絶さ れたとしても,指定銀行は輸出者へ買戻請求できる。しかし指定銀行とし てはディスクレ無しとして輸出者へ代金を支払った以上は,顧客たる輸出 者ではなく,発行銀行へ矛先を向けることもあるのであろう。ここで,仮 に指定銀行が何らリスクを負うことのない PP ネゴ扱い
27)にて輸出者へ代
27 ) 発行銀行との関係では外観上あたかも指定銀行として買取りをしたかのよ
うに装うが,買取依頼人(輸出者)との関係では代金の取立扱いとし,発行
金を支払うこととしていた場合,少なくとも指定銀行と発行銀行の間でこ のような紛争が生じることはなかったであろう。なぜなら指定銀行による 輸出者への代金支払いは発行銀行でのディスクレ有無の判定後になされる からである。この場合,仮に指定銀行が発行銀行によるディスクレ有りと の判断に不服を持つとしても,指定銀行は輸出者に対して代金を支払って いない以上,発行銀行に対して異議を唱える必要性は生じない。以上を踏 まえ, TSU/BPO 取引における支払確約有効化プロセスに目を向けよう。
まず TSU/BPO 取引では,「照合材料託送 (ステップ1) 」と「照合材料 送達 (ステップ2) 」の後に支払確約有効化を判定するための「照合 (ステ ップ3) 」が伴う。この「照合」は本来の意味での「厳格一致の原則」に 基づく一字一句の機械的照合
28)であるため,その判定作業においては BPO 負担銀行のみならず, BPO 受益銀行の解釈もが入り込む余地はない。
BPO 負担銀行はその後の「照合結果託送 (ステップ4) 」にてデータミス
銀行から補償があった場合にのみ支払うとする取引慣行。実務では「プリテ ンド」とも呼ぶ(藤田和孝「荷為替信用状取引の下での中継銀行のリスク回 避とリスク負担─留保付き支払いと PP ネゴ方式の取立─」『日本貿易学会 誌』第 50 号 44 ページ( 2013 ))。
28) L/C や船積書類が電子化され,一字一句の機械的照合がなされる状況を
見据え,「短時間で容易にディスクレが発見されることになろうが,果たし てどのような内容のディスクレがどの程度発生することになるのか。早期に 発見されることによって大半のディスクレが有効期限内に解消させるならそ れは望ましいことであろう。しかし一字一句の照合とした場合に残存するデ ィスクレの取扱いはどうすべきか」との問題提起がなされていた(小塚荘一 郎「荷為替信用状取引の電子化」『上智法學論集』第44巻第4号53ページ
( 2001 ))。BPO は別名 ʻeL/Cʼ と呼ばれるため,同様の問題提起が可能であ
る。この点については今後注視していかなければならない。なお TSU によ
る貿易データの照合方法としては,1文字ごとの「厳格な照合」,および大
文字と小文字の区別,スペースの有無,句読点の違いは許容される「緩やか
な照合(企業名等のいくつかのデータ要素に適用)」が存在する(中島,前
掲注12),187ページ)。
マッチ判定に至ったことを知ったなら BPO 受益銀行に対する支払義務を 免れる
29)が,データマッチ判定に至った暁には BPO 受益銀行に対する支 払いが義務付けられる
30)のみとなり, BPO の当事者としてその判定結果 を受入れなければならない。それではデータミスマッチ判定に伴い BPO 負担銀行が支払拒絶した場合には, BPO 受益銀行や輸出者がその判定結 果に異議を唱えて BPO 負担銀行に支払いを求める可能性はあるだろうか。
まず BPO 受益銀行は「照合結果託送 (ステップ4) 」にて BPO 負担銀行と 同じタイミングでデータマッチングの判定結果を知ることになるが,
BPO 受益銀行が輸出者へ輸出代金を支払うタイミングは必ず本ステップ 以降となり,それに先立つことはない。したがってここで BPO 受益銀行 がデータミスマッチの判定結果を受け,仮に当該判定結果に不服を持つと しても,輸出者に代金を支払っていない以上, BPO 負担銀行に異議を唱 える必要性は生じず,そもそも BPO の当事者として当該判定結果を受け 入れなければならない。そして厳密な意味では BPO の当事者ではない輸 出者は「照合結果送達 (ステップ5) 」にてデータマッチングの判定結果を 知ることになるが,ここでデータミスマッチの判定結果を受け,仮に当該 判定結果に不服を持つとしても,そもそも輸出者は BPO 負担銀行との関 係においては当事者適格性を有しないため, BPO 負担銀行に対して異議 を唱えることはできない。輸出者は BPO Agreement を締結している BPO 受益銀行との関係においては当事者適格性を有するものの,データミスマ ッチ判定に伴って BPO 負担銀行から支払いを受けることが叶わない BPO
29) URBPO 750 , Art. 10 g. 「データ照合の結果,データ・ミスマッチとなり,買 主側銀行または買主側銀行以外の別の BPO 負担銀行によってそれが拒絶さ れた場合には,BPO 負担銀行は支払うことを,または期日に支払うために 後日払の支払債務を負担することを要求されない」。
30) 前掲注13)を参照のこと。
受益銀行に対して異議を唱えることも筋違いである。また輸入者は BPO Agreement を締結している BPO 負担銀行との関係においては当事者適格 性を有するものの,やはり BPO の当事者ではない。このため,たとえデ ータマッチの判定結果を受けた輸入者が当該判定結果に不服を持つとして も, BPO 負担銀行が BPO 受益銀行への支払いを義務付けられることにな る以上,やはり異議を唱えることは特約上認められないであろう。そうす ると輸出入者は共に売買当事者として直接折衝し,問題の解決を図るしか 道はない。このように TSU/BPO 取引では照合材料 ( DS ) と支払確約の基 礎 (確定済み BL ) との照合結果をめぐる当事者間の対立は生じ得ず,“ Pay first, argue later ” の理念に基づく確実な取引の遂行が可能となる点で L/C 取引よりも優位な取引といえる。なお TSU/BPO 取引では「照合材料処 分」ステップが伴わないが,これによってもたらされる優位性については 次章での検討内容と重複するため,その検討は次章に譲る。
Ⅲ データミスマッチ諾否プロセスにみる TSU/BPO 取引の 優位性
L/C 取引ではたとえ船積書類が L/C 条件を充足するに至らなかった場 合でも発行銀行がディスクレを許容すれば支払確約が有効となるが,
TSU/BPO 取引でも同様に,たとえ DS が確定済み BL に合致しなかった
場合でも BPO 負担銀行がデータミスマッチを承諾すればやはり支払確約
が有効となる。そのプロセスはいずれも「支払確約追認」である。本章で
は両取引における「支払確約追認」ステージにみる貿易コミュニケーショ
ン方法を概観し,それらの比較を通して得られる支払確約追認プロセスに
おける違いを基に TSU/BPO 取引の優位性を見出す。
1 ディスクレの許容をめぐる貿易コミュニケーション
まずは L/C 取引における支払確約追認プロセスを各ステップに分割す る。これにより支払確約 ( L/C ) 追認をめぐって関係当事者間で如何なる 貿易コミュニケーションが交わされるのかを概観する (図表7参照) 。 本プロセスは2通りのルートを経由することが想定されている。仮に一 方を「16条 a 項ルート」,他方を「16条 b 項ルート」とする。
⑴ 16条 b 項ルートを経るプロセス
ステップ1──書類点検によってディスクレが発覚すると,発行銀行は 輸入者へ打診し,発行依頼人が有するディスクレによる支払拒絶の権利を 行使するか否かを問い合わせる
31)(①) 。これを受け,輸入者は状況に応じ て当該権利に関する意思決定,その旨を発行銀行に回答する (②) 。輸入 者が支払拒絶の権利に関する意思確認を受け,意思決定・表明する本ステ ップを「輸入者の意思確認・決定・表示」とする。
ステップ2──発行銀行はディスクレによる支払拒絶の権利に関する輸 入者の意思を確認し,回答を受けると,それにとらわれることなく,自らの 判断で自身が有するディスクレによる支払拒絶の権利を行使するか否かを 決定する
32)。当該権利を行使する場合には,書類の呈示人たる指定銀行に 支払拒絶通告し (③) ,指定銀行を通じて輸出者にもその旨が通知される
33)31 ) UCP 600 , Art. 16 b. 「発行銀行が,呈示は充足していないと決定した場合に は,発行銀行は,自行のみの判断でディスクレパンシーに関する権利放棄
(waiver of discrepancies)について発行依頼人と連絡をとる(approach)こ とができる。(後略)」。
32 ) UCP 600 , Art. 16 a. 「指定に基づき行為する指定銀行,もしあれば確認銀行,
または発行銀行が,呈示は充足していないと決定した場合には,その銀行は,
オナーすること(to honour)または買い取ることを拒絶することができる」。
33) UCP 600 , Art. 16 c. 「指定に基づき行為する指定銀行,もしあれば確認銀行,
または発行銀行が,オナーすること(to honour)または買い取ることを拒
絶すると決定した場合には,その銀行は,呈示人に対しその旨の一度限りの
A/N
図表7 L/C 取引における支払確約追認プロセスと 貿易コミュニケーション
注) 呈示人への支払拒絶通告(①1 ②1 ③ ④)には以下のいずれかを記載しなければ ならない(UCP
600 , Art. 16 c. ⅲ)。
A 更なる指図があるまで書類を所持している旨
B 発行銀行の場合は,輸入者からの権利放棄を受領して自行がこれを許容する まで,あるいはこれを許容するよりも前に呈示人から更なる指図があるまで書 類を所持している旨
C 書類を返却している旨
D 先に呈示人から受領した指図に従って行為している旨 出所) 筆者作成。
輸出側銀行
(指定銀行)
輸出者 売買契約
船積書類原本
L/C
③(①1) 輸入側銀行
(発行銀行)
輸入者
②
①
﹁支払確約追認﹂ステージ ステップ
1
︵銀行の意思決定・表示︶ ステップ
2
︵照合材料処分︶ ステップ
3
︵照合材料処分︶ ステップ
1
︵輸入者の意思
確
認・
決
定・
表 示
︶
ステップ
2
︵銀行の意志決定・表示︶
A/N : Amendment Notice
(L/C 条件変更通知)
「支払確約有効化」
ステージ
④(②1) ③1
発行銀行は船積書類点検
(ディスクレ発覚)
発行銀行は 権利行使決定
①権利放棄の照会 and/or
輸入者は権利行使 or 放棄決定
②権利行使 or 放棄の回答 発行銀行は権利行使 or 放棄決定
③支払拒絶通告
②1支払拒絶通告
①1支払拒絶通告
④支払拒絶通告
③1書類引渡し
・呈示人へ書類返却
・発行銀行で書類保管 16条b項ルート 16条a項ルート
通告(single notice)をしなければならない」。
(④) 。これにより支払確約は無効となる
34)。支払確約者たる銀行が支払拒 絶の権利について意思決定・表明する本ステップを「銀行の意思決定・表 示」とする。
ステップ3──発行銀行が支払拒絶について意思決定・表明すると,自 身が所持している船積書類を処分する。支払拒絶の権利を放棄する場合に は輸入者へ船積書類を引渡し (③
1) ,権利行使の場合には船積書類を自身 で保管,あるはい指定銀行へ返却するか,場合によっては再呈示させる
35)等,書類の処分方法は状況によって異なる。支払確約の基礎との照合のた めに用いられた材料がその時の状況に応じて処分される本ステップを「照 合材料処分」とする。
⑵ 16条 a 項ルートを経るプロセス
ステップ1 (銀行の意思決定・表示) ─書類点検によってディスクレが発 覚すると,発行銀行は自らの判断で自身が有するディスクレによる支払拒 絶の権利を行使するか否かを決定する
36)。ディスクレが存在する場合,発 行銀行はこれを独断で許容して支払実行に至ることはないため,この時に 下される意思決定は基本的に支払拒絶となる。当該権利を行使する場合に
34 ) UCP 600 , Art. 16 f. 「発行銀行または確認銀行が本条の定め(ディスクレパ ンシーのある書類,権利放棄および通告)に従って行為しない場合は,その 銀行は,書類が充足した呈示となっていない旨を主張することができなくな るものとする」。すなわちディスクレが存在する場合の支払確約については,
発行銀行が定められた形式にて拒絶通告を行った場合にのみその効力が消失 する,いわば「解除条件」である。この点,「停止条件」となる TSU/BPO 取引と対照的である(後掲注 39 )を参照のこと)。
35) 書類の再呈示については UCP 上は想定されていないが,これを認めるか
否かの取扱いは銀行によって異なるようである(和島雄三ほか『銀行実務総 合講座第5巻 外国為替』306‑307ページ(社団法人金融財政事情研究会,
1981 ))。
36) 前掲注32)を参照のこと。
は,書類の呈示人たる指定銀行に支払拒絶を通告し (①
1) ,指定銀行を通 じて輸出者にもその旨が通知される
37)(②
1) 。これにより支払確約は無効 となる
38)。
ステップ2 (照合材料処分) ──発行銀行が支払拒絶の意思を決定・表 明すると,自身が所持している船積書類を状況に応じて処分する。支払拒 絶であるため,基本的には輸入者へ船積書類は引渡されず,船積書類を自 身で保管するか指定銀行へ返却する等の処分方法となる。
以上が L/C 取引における支払確約追認プロセスであるが,実際の取引 では16条 a 項ルートのみを経るプロセスが辿られることはあまりなく,16 条 b 項ルートのみを経るプロセスが辿られるか,両ルートを経るプロセ スが同時並行的に辿られることが多い。
2 データミスマッチ承諾をめぐる貿易コミュニケーション
つづいて TSU/BPO 取引における支払確約追認プロセスを各ステップに 分割する。これにより支払確約 ( BPO ) 追認をめぐって関係当事者間で如 何なる貿易コミュニケーションが交わされるのかを概観する (図表8参照) 。 TSU はデータマッチングによってデータミスマッチ判定を下すと,双 方の銀行へその旨を表示した DS マッチレポートを直ちに送信 (① ①
1) , 双方の銀行を通じてその照合結果が輸出入者へも通知される (② ②
1「支 払確約有効化」ステージにおける「照合結果託送・送達」ステップ) 。なお BPO 負担銀行は DS マッチレポートを受信 (①) した際に当該データミスマッ チを追認するか否か,すなわちデータミスマッチ諾否を回答するよう求め られる。
ステップ1 (輸入者の意思確認・決定・表示) ── BPO 負担銀行は TSU 37 ) 前掲注 33 )を参照のこと。
38) 前掲注34)を参照のこと。
から送信されてきた DS マッチレポートに基づく照合結果を輸入者へ通知 すると共に,データミスマッチにもかかわらず支払う意思があるか否かを 問い合わせる (②) 。これを受け,輸入者は状況に応じて支払拒絶の権利 に関する意思決定,その旨を BPO 負担銀行に回答する (③) 。
ステップ2 (銀行の意思決定・表示) ── BPO 負担銀行は支払拒絶に関 する輸入者の意思を確認し,回答を受けると,それにとらわれることな く,自らの判断で自身が有するデータミスマッチによる支払拒絶の権利を
図表8 TSU/BPO 取引における支払確約追認プロセスと 貿易コミュニケーション
注) 点線箇所は自動的かつ瞬間的に進められるステップとなる。
出所) 筆者作成。
﹁支払確約追認﹂ステージ ステップ
1
︵輸入者の意思
確
認・
決
定・
表 示
︶
ステップ
2
︵銀行の意志決定・表示︶
売買契約
⑤
⑥
DS
確定済みBL
①1
⑤1 輸出側銀行
(BPO 受益銀行)
輸出者
②1
③
輸入側銀行
(BPO 負担銀行)
輸入者
⑥1
TSU
④①
②
②1データマッチング の結果通知
①1DS マッチレポート 送信
TSU はデータマッチング(ミスマッチ判定)
輸入者はミスマッチ諾否決定
②データマッチングの結果通知
(ミスマッチ諾否の照会)
③ミスマッチ諾否の回答
⑥1ミスマッチ諾否通知
①DS マッチレポート送信
(ミスマッチ諾否の照会)
BPO 負担銀行はミスマッチ諾否決定
⑥ミスマッチ諾否通知
⑤1ミスマッチ諾否通知送信
⑤ミスマッチ諾否通知送信
「支払確約有効化」
ステージ
④ミスマッチ諾否送信
行使するか否かを決定,行使する場合にはミスマッチ拒絶を,放棄する場 合にはミスマッチ承諾を TSU へ送信する (④) 。当該銀行の諾否はミスマ ッチ承諾/拒絶通知として TSU から双方の銀行へ直ちに送信 (⑤ ⑤
1) , 承諾通知の場合はこれにより支払確約が有効となる
39)。つづいて当該通知 は双方の銀行を経由して輸出入者へも通知される (⑥ ⑥
1) 。
3 L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約追認プロセスの比較 それでは L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約追認プロセスを 比較し,貿易コミュニケーションの側面からみた TSU/BPO 取引の優位性 を浮き彫りにする。
TSU/BPO 取引では L/C 取引で経ることになる「照合材料処分」が不 要となる。これは, L/C 取引では船積貨物の権利が化体された船荷証券 を含む船積書類が照合材料として発行銀行に呈示されるのに対し, TSU/
BPO 取引では船積書類は照合材料としては使用されず,適当な時期に輸 出者から輸入者に直送されることが予定されているためである。この点を 除くと, TSU/BPO 取引における本プロセスは L/C 取引の16条 b 項ルー トを経由するプロセスと共通している。ただし注意を要するのは,実際の L/C 取引では16条 b 項ルートと16条 a 項ルートを経由するプロセスが同
39 ) URBPO 750 , Art. 10 c. 「(前略)データ照合の結果,下記のいずれかに該当 する場合は,BPO 負担銀行は,(中略)特定の金額を BPO 受益銀行に支払 うか,後日払いの支払債務を負担して期日に支払わなければならない。i)
(中略)ii)データ・ミスマッチとなり,かつ買主側銀行が唯一の BPO 負担 銀行である場合,TMA が BPO 受益銀行に『ミスマッチ承諾通知』を送信 することによって,買主側銀行からの『ミスマッチ承諾』を受信したことを 知らせるとき,(後略)」。すなわちデータミスマッチが存在する場合の支払 確約については,BPO 負担銀行がミスマッチ承諾を TSU へ送信した場合に のみその効力が生じる,いわば「停止条件」である。この点,「解除条件」
となる L/C 取引と対照的である(前掲注34)を参照のこと)。
時並行的に辿られることが多い
40)という点である。このような違いは TSU/BPO 取引に如何なる優位性をもたらすのであろうか。
L/C 取引において発行銀行が船積書類を点検し,ディスクレを発見し た場合,発行銀行はあくまで自身のみの判断で支払拒絶の権利を行使する か否かを決定できる
41)。しかしたとえディスクレが発覚したとしても,輸 入者がディスクレによる支払拒絶の権利を放棄するのであれば,基本的に 発行銀行としては支払拒絶する理由はない
42)。したがって発行銀行が支払 拒絶の権利行使に関する意思決定を自ら下す前に,まずは輸入者に対して 支払拒絶の権利放棄を照会してその意思を確認する
43)ことになる16条 b
40) 浦野直義監修『輸出入と信用状取引─新しい UCP & ISBP の実務』241ペ ージ(経済法令研究会, 2012 )。
41) 前掲注32)を参照のこと。
42 ) ただし輸入者がディスクレによる支払拒絶の権利を放棄したとしても,そ の後の輸入者の信用状態悪化等に伴い,発行銀行が自らの判断で支払いを拒 絶することがある(後藤・吉野,前掲注 18 ), 126 ページ)。
43) 発行銀行が支払拒絶に関する意思決定を下す以前に輸入者によってなされ る権利放棄のことを Bryne は ʻprenotice waiverʼ と呼んでおり,ʻpost refusal waiver( 後 掲 注50) を 参 照 の こ と )ʼと 区 別 し て い る(James E. Bryne, International Letter of Credit Law and Practice ¶ 38 : 17 , 39 : 11 ( 2009 ‑ 2010 Edition, 2009 ), West)。
図表9 L/C 取引と TSU/BPO 取引における支払確約追認プロセス ステージ ステップ L/C 取引
TSU/BPO 取引 16条 a 項ルート 16条 b 項ルート
支払確約追認 1 銀行の意志決定・
表示
輸 入 者 の 意 思 確 認・決定・表示
輸 入 者 の 意 思 確 認・決定・表示 2 照合材料処分 銀行の意志決定・
表示
銀行の意志決定・
表示
3 照合材料処分
出所) 筆者作成。