地域志向型人材の育成に向けたフィールドワーク
「COC フィールドワーク基礎演習」の事例から
兵庫県立大学地域創造機構 伊東未来
はじめに
現在、多くの大学が教育の一環として、1 年次からフィールドワークや それに類する実習を実施している。大学におけるフィールドワークは長ら く、大学院を中心とした課程で、人類学や民俗学の研究者育成の一環とし ておこなわれてきた。しかし1980年代後半以降、フィールドワークに対 する社会的要請が増大し(柳澤 2006:4-5)、大学の学部教育においても、
大学卒業後も活用可能な能力を身につける実践として、他の学問領域にお いても教育カリキュラムに組み込まれることが増えている(佐藤 2006)。
兵庫県立大学でも、地域志向型副専攻「五国豊穣プログラム」において、
平成27年度より「COCフィールドワーク基礎演習」を開講してきた。こ の副専攻は、人口減少や産業構造の変化といった地域課題の解決をマネー ジできる人材を育成することを目指し、平成 27 年度から開始された。地 域課題解決のためには、課題が生じている現場に実際に入りこむことが不 可欠である。そのため本副専攻では、フィールドワークの基礎を学ぶ「COC フィールドワーク基礎演習」(以下、フィールドワーク基礎演習)を副専攻 の必修科目のひとつと位置づけている。わたしは平成29年度の本科目を、
李素婷特任助教・泉直亮特任助教とともに担当した。
わたしはこれまで、西アフリカでの計2年間の長期フィールドワークを おこない、その後もたびたび数週間から数か月の短期のフィールドワーク を実施してきた。身近な人物へのライフヒストリーの聞き取り調査とその まとめ方を教える授業を担当したこともあったが、「フィールドワークを 教える」「フィールドワークをコーディネートし引率する」という経験は初 めてであった。また、フィールドワークの過程で身につけていく経験知が
その成果を大きく左右し、言語化が困難なフィールドワークの技法を、時 間と空間の限られた授業で教えることは、自身がこれまで学び実践してき たフィールドワークを相対化させる経験でもあった。
本論では、平成 29 年度に兵庫県立大学で開講されたフィールドワーク 基礎演習の詳細を示し、地域課題の解決をマネージできる人材を育成する 教育課程の一環としてのフィールドワークの成果と課題について述べる。
1.副専攻「五国豊穣プログラム」におけるフィールドワーク教育の位 置づけ
兵庫県立大学では、平成 27 年から地域志向型副専攻「五国豊穣プログ ラム」を実施している。プログラム名は、兵庫県が但馬・丹波・播磨・摂 津・淡路の「五国」から成り、地域ごとの個性と特性のもと、多様な生業 や人びとの生活が展開されてきたことから名づけられている。
この副専攻プログラムは、文部科学省「地(知)の拠点整備事業(COC 事業)」を契機として開設された。「COC」はCenter of Communityの略 で、大学が所在する地域の自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育、
研究、地域貢献を進める大学を支援する文部科学省補助金事業であり、課 題解決に資するさまざまな人材や情報、技術が集まる、地域コミュニティ の中核的存在としての大学の機能強化を図ることを目的としている。
兵庫県立大学は、平成25年度にCOC事業の採択を受けた。平成29年 度現在、県および11市町と連携して6つのプロジェクトを展開し、地域 課題の解決を図るとともに、これらのプロジェクトフィールドを活用した 地域連携教育の充実に取り組んでいる。
平成 27 年度に始まった地域志向型副専攻「五国豊穣プログラム」のカ リキュラムは、二つの柱から成っている。一つは、副専攻独自の科目であ る3つのコア科目(地域入門科目「COC概論」、地域実践科目a「フィー ルドワーク基礎演習」、地域実践科目b「地域課題実践演習」)であり、も う一つは、各学部で開講される地域に関連する科目群「地域発展科目」で ある。
図1:地域志向型副専攻「五国豊穣プログラム」履修マップ
学生たちはまず、1 年前期に開講される COC 概論で、県内各地の地域 的特色を学ぶ。この科目では、各地で研究教育を展開する各プロジェクト フィールドのリーダーである教員と、大学と連携して取り組みをおこなっ ている地域の人びと(自治体職員、NPO代表者、企業代表者など)がリレ ー形式で講義をおこなう。履修者の大半が兵庫県内出身者および大阪をは じめとした近隣府県の出身者であるが、学生のコメントでは、「地元なのに
(だからこそ)この講義を受けるまで知らなかったことが多かった」「生ま れ育った県の中に、これほど多様な特色や課題があることに驚いた」とい った声が数多く聞かれる。
その後、1 年後期に開講されるフィールドワーク基礎演習は、前期の COC概論の履修者から定員約 30 名として希望者を募る。この講義では、
フィールドワークを「地域と人の営みを深く知るための調査」(シラバスよ り引用)と位置づけ、座学と兵庫県養父市での1泊2日のフィールドワー ク実習を実施する(3に詳述)。その後、2年次以降に開講される地域課題 実践演習で県下のプロジェクトフィールドを訪れ、課題解決に取り組む地 域の人びとの現場での実践に参与する。
これら3つの副専攻独自開講科目と、各学生の所属学部で開講される地 域別発展科目を履修し、プログラムで指定された合計 20 単位以上を履修 した学生には、卒業時に「ひょうご学志」の称号と修了証明書が授与され
る。この副専攻の第一期終了生が、平成 30 年度末の卒業時に「ひょうご 学志」を取得予定である。
フィールドワーク基礎演習は、いわば入門と実践の中間に位置づけられ る。学生たちは、COC概論で県内各地の地域課題に関する概説的な知識を 得たうえで、2 年次以降に地域課題実践演習で課題解決の実践の場に入る 前に、フィールドワーク基礎演習で基本的な調査の手順や作法を学ぶので ある。
2.平成 29 年度 COC フィールドワーク基礎演習の概要
本節では、わたしが担当教員として携わった平成 29 年度のフィールド ワーク基礎演習の概要を示す。
実施概要と履修者
平成29年度の後期に開講されたフィールドワーク基礎演習の履修者は、
1年生の26名であった。学部別の内訳は、経済学部5名、経営学部13名、
環境人間部5名、理学部2名、工学部1名である。出身地別では、兵庫県 内出身者が18 名、兵庫県以外の関西府県出身者が4名、その他の地域の 出身者が3名であった。
各学部のキャンパスの立地の関係上、1泊2日の実習を除く授業は、東 地区(神戸商科キャンパス)と西地区(姫路工学キャンパス)の二つのキ ャンパスに分かれて開講された。二つのキャンパスで複数教員が分担して 同時開講し、必要に応じて遠隔授業システムで繋ぎ、ディスカッションな どをおこなうという形態をとった。それぞれ東地区(経済学部・経営学部)
で18 名と、西地区(環境人間学部・理学部・工学部)の8名が共に受講 し、筆者は主に1人で西地区を担当した。
授業の構成
授業の主な内容は共通しており、各回のおおまかな内容は次ページ表1 のとおりである。
回 内容
フィールドワークの基礎を学ぶ 1 ガイダンス、アイスブレイク 2 ① フィールドワークとは?
② 学術文献・郷土資料の集め方を知る 3 ① 養父市の取り組みを知る
② 行政文書を集める、地図・統計指標から地域を読み取る フィールドワーク実習の準備をおこなう
4 ① フィールドワークの一連の流れをフィールドワーカーの経験 から学ぶ
② 調査しながらメモをとる
③ チーム分け
5 ① 各チームのインタビュー対象者を決める
② 調査をどう設計するか?
③ 調査を設計してみよう
6 ① 調査成果をどうまとめるか―現地での成果報告会に向けて
② 模擬インタビュー フィールドワーク実習
7-12 養父市でのフィールドワーク実習(1泊2日)
フィールドワーク実習の成果をまとめて発表する 13 フィールドワークのふりかえり
14 ① レポートの書き方を学ぶ
② 最終発表会の準備 15 最終発表会
表1:平成29年度COCフィールドワーク基礎演習の授業構成
計15回の授業は、1~3回がフフィールドワークの基礎を学ぶ事前学習、
4~6回がフィールドワーク実習に向けた準備、7~12回が養父市大屋町に おける1泊2日のフィールドワーク実習、7~15回がフィールドワーク実 習の成果のまとめと発表という4つの段階に分けて実施した。
事前学習と実習の準備では各回、レクチャーとワーク(回によって異な るが、課題の内容についてのクイズ、パソコンでの資料検索、ブレインス トーミング、ディスカッション、模擬インタビューなど)で構成される。
また、時間外学習のために個人やチームで取り組む課題を自宅学習として 課すことで、授業時間内ではフォローしきれない情報(実習先の地域に関
する最近の新聞記事など)を共有したり、チームのメンバー間の相互理解 を深めたりする機会とした。
ワークノートの活用
また、全回を通じて、平成 27 年度から副専攻生の地域実践科目(フィ ールドワーク基礎演習と地域課題実践演習)を対象に使用している「地域 実践科目ワークノート」を副教材として使用した。学生は授業の進行にあ わせて適宜、以下の7段階に分かれた計16 の「ワーク」から成るワーク ノートに記入する(表2)。
(I)自分と地域のつながりを考える
0 今回地域で学ぶにあたって意識して臨みたい自分の目標を考えて みましょう。
1 地域の方への自己紹介を考えましょう。その際、自分のこれまで の暮らし、現在学んでいる分野、日常抱いている関心などと地域 の関係が伝わるよう意識しましょう。
(II)地域と交流するための基本的な情報を集める
2 地域を訪れる前に自分で様々な情報を調べてみましょう。
(III)地域の方との対話から、自分の関心に関する情報を入手する 3 地域の方に聞きたいテーマを3つ考えましょう。
4 地域の方からお聞きした話を記録しましょう。
5 ワーク④で記録した内容をテーマごとに整理しましょう。整理し た中で新しいテーマを見つけたら、追加テーマとして整理しまし ょう。
(IV)地域の情報をもとに、地域の課題を考える
6 ワーク②調べた地域の情報をもとに、訪れる地域にどのような課 題があるか予想しましょう。
7 ワーク⑥で予想した課題について地域の方に質問して、わかった ことを記述しましょう。誰から聞いたかわかるようにしておきま 8 しょう。地域で得られた情報をもとに、再度地域にどのような課題がある
か考えてみましょう。
(V)地域で手に入れた情報から、課題の原因や対策を考える
9 ワーク⑧で考えた地域の課題について、原因は何か、どのような 対策が可能か考えましょう。
10 地域の課題を考える中で出てきた疑問や、機会があれば調べてみ たいことについて記述しておきましょう。
(VI)チームで役割分担する
11 グループワークにおいて、それぞれのメンバーはどのような役割
を分担しましたか。
12 今回のグループワークで不十分だった点、次回のグループワーク で意識して臨みたい点を考えましょう。
(VII)目標を意識して学びに取り組む
13 今回の学びで以下の項目が達成できたか、5 段階で自己評価して みましょう。(自己評価の項目は省略)
14 今回の学修で不十分だった点、次回意識して臨みたい点、気を付 けるべき点を記述しておきましょう。
15 次回の地域での学びに向けて、新しい目標を考えましょう。
表2:地域実践科目ワークノートのワーク一覧
3.各回の内容と学生たちの様子
本節では、2.に示した授業や課外学習課題、ワークノートの記入など を通じて見られた学生の反応や変化を、表1「平成29年度COCフィール ドワーク基礎演習の授業構成」に示した4つの段階に内容に沿って記述す る。以下に示す事例は主に、わたしが担当した西地区の学生の様子である。
フィールドワークの基礎を学ぶ
本科目は全学部対象の副専攻の科目として開講している。そのため、履 修者の間には、前期のCOC概論で互いに多数の学生の一人として同じ教 室にいた以外には、ほとんど面識がない。そのため第 1 回目の授業では、
8名の履修者をランダムに2つのグループに分け、ゲーム形式で互いの自 己紹介をおこなった。学生たちはこの自己紹介を通じ、互いが共通の趣味 や友人をもっていたり、意外な特技をもっていたりすることを発見した。
授業後には、授業前はそれぞれに無言で授業開始を待っていた学生たちが 連絡先を交換し合う光景が見られた。
第2回目は、フィールドワークの歴史と意義や分類、一次資料と二次資 料の分類などを概説した後で、インターネットを使った文献調査の方法を ワーク形式でおこなった。学生の全員が図書検索の経験があったものの、
論文検索については初めておこなう者も多く、個人のブログの投稿記事と 雑誌論文の資料としての扱いの違いと留意点などについて質問がなされ た。
第3回目は、行政文書や統計資料から、フィールドワーク実習先である 養父市の特徴やまちづくりの方針、地域が抱える課題を読み取るワークを おこなった。西地区の8名の学生のうち7名が大阪府西部から神戸市周辺 の都市圏出身者であるため、こうした都市圏と大きく異なる養父市の産業 別人口構成や医療施設の数、過疎化に関する指標などに対して、学生の関 心が集中した。またこの回では、養父市のステークホルダーから紹介を受 け、あらかじめ依頼をしているインタビュー対象者5名の簡単なプロフィ ールを紹介した。
フィールドワーク実習の準備をおこなう
第 4 回目は、教員これまでおこなってきたフィールドワークの概要と、
そこで経験した失敗談や成功体験から得たフィールドワークの経験知を レクチャーした。こうした話を通じて、いま学習しているフィールドワー クの技術や文献調査で得た情報は、実際にフィールドワークに出てみると 覆ることもたびたびあることを伝えるとともに、そうした場合にどのよう に調査の問やテーマを修正していくべきかを示した。
その後、フィールドワーク実習先の養父市に関する5分程度の映像を4 つ視聴した。これは、養父市に関する事前情報を補強するためであり、ま た、話を聞いたり見学をしたりしながらメモをとることの重要性と難しさ について体験的に学ぶためにおこなった。そのため、4 つの映像のうち 2 つはメモをとらずに視聴し、その内容をどれだけ覚えているかを問う質問 をおこなった。
その後、これまでの事前学習などを通じて絞った興味関心をもとに、学 生を5のチームに分けた(東地区3グループ、西地区2グループ)。その うえで、第3回で紹介したインタビュー対象者全員にインタビューをする と仮定して具体的な質問内容を考え、チーム内でとりまとめることを課題 として課した。実際のフィールドワーク実習では5チームがそれぞれ1人 にインタビューをおこなうが、全員に質問をおこなうと仮定して質問を考 える課題を通じて、チーム内のコミュニケーションを図るとともに、それ ぞれの興味関心がどのようなトピックに対してより強いのかを互いに認
識させる狙いがある。
第5回目では、前回の課題(質問事項の作成)をもとに、フィールドワ ーク実習でどのチームがどのインタビュー対象者にインタビューをおこ なうのかを決定した。複数のチームの希望が重複したインタビュー対象者 については、前回の課題で用意した質問事項を交互に発表し合い、その他 のチームの学生が「どちらのチームがより興味深い質問を考えてきたか」
をジャッジする形式で決定した。
その後、調査設計を立てるときのおおまかな流れ(事前に得た情報の整 理→目的・調査の問いの設定→フィールドワークでの情報収集と整理→目 的や問いとの照らし合わせ、というサイクルの往還)についてレクチャー し、チームごとに調査計画を話し合うグループワークをおこなった。この グループワークでは、学生から「このままではインタビューをするだけで、
その先に何も見えてこない」「今の情報量では意義のある質問はできず、イ ンタビュー対象者に失礼ではないか」といった焦りの声が聞かれた。学生 たちはそれまでの授業を通じて情報収集をおこない、教員からも調査に必 要な資料は適宜提供していたものの、その分量や読み込みは必ずしも十分 とは言えなかった。具体的に調査計画を議論する段階になって、改めて自 分たちの情報不足や理解不足を痛感し、より主体的に資料の読み込みや情 報収集に臨む姿勢が強まった。学生たちは授業外で自主的に集まるなどし て、実習に向けた準備を行う様子が見られた。
フィールドワーク実習に出る直前の回となった第 6 回目では、まず、1 泊2日のフィールドワーク実習の最後に予定されている、地域の人びとに 向けた成果発表会に向けたレクチャーをおこなった。このレクチャーでは、
当事者(インタビュー対象者を含む養父市の住民)に対して調査者(フィ ールドワーカー=学生)が何をどのように提示すべきかを提示した。
その後、各チーム内でインタビュアーとその補佐、記録係の3役に分か れて模擬インタビューをおこなった。学生全員がインタビューをおこなう のが初めてであったため、基本的なあいさつやインタビューの趣旨説明、
自己紹介をせずに最初から質問を投げかけたり、質問への答えに対して無 反応で次の質問に移るなど、ぎこちなさが見られた。そうした点を教員か
ら指摘しながら、フィールドワーク実習当日のインタビューに向けた基本 的作法を習得していった。
フィールドワーク実習
これまでの授業での準備をふまえ、2017年11月11~12日の二日間に 兵庫県養父市大屋町において、フィールドワーク実習をおこなった。第 6 回までは東地区(3チーム18名)・西地区(2チーム8名)に分かれて別 キャンパスで授業をおこなっていたが、フィールドワーク実習は東地区・
西地区合同でおこなった。
1 日目(2017 年 11 月 11 日)
午前 【両組合同】於 養父市大屋地域局
和田祐之氏(NPO法人明延鉱石研究所代表)と杉本彰洋氏(養 父市大屋町地域局長)とのディスカッション
午後 【アート組】於 養父市大屋町大屋地区各所
おおやアート村の見学とアート教室体験、木彫展示館、分散ギ ャラリー「養蚕農家」、ふるさと交流の家「いろり」の見学
【明延組】於 養父市大屋町明延地区各所
旧明延鉱山北星社宅、鉱山電車一円電車、旧明延鉱山の「探検 坑道」、明延ミュージアム「第一浴場」の見学
(夕食)
夜 【各チーム】於 宿泊研修施設「あけのべ自然学校」
グループワーク(情報の整理、調査計画の見直しなど)
2 日目(2017 年 11 月 12 日)
(朝食)
午前 【各チーム】インタビュー調査
(昼食)
午後 【各チーム】於 養父市大屋町地域局会議室
・成果報告会の準備(各自が収集した聞き取りや見学の成果 の整理とまとめ)
・成果報告会
表3:養父市大屋町でのフィールドワーク実習の行程
5 名のインタビュー対象者は、大屋町のアートを活用したまちづくりに 携わる 2名(NPO法人おおやアート村副理事長・おおやホール文化振興 会会長の近藤研秀氏、「分散ギャラリー養蚕農家」オーナーの河邊喜代美氏)
と、大屋町明延地区の旧明延鉱山を活用したまちづくりに携わる3名(養
父市大屋町明延区長・「鉱石の道」明延実行委員会会長の小林史朗氏、明延 ミュージアム「第一浴場」館長・NPO法人一円電車あけのべ副理事長の小 林政数氏、明延鉱山ガイドクラブ副会長の正垣智子氏)からなる。フィー ルドワーク実習の一部行程では、学生のチームもインタビュー対象者の取 り組みにしたがって、「アート組」2チームと「明延組」3チームに分かれ て行動した。養父市大屋町での2日間のおおまかな行程は、表3の通りで ある。
実習では、初日に関連施設やまちおこしに関する取り組みの体験・見学 をおこなった。学生たちはいずれの施設や取り組みに対しても事前に情報 収集していたものの、実際に足を運び説明を受けることで、新しい質問や 疑問、インタビューで質問すべき事項などが生じたようだった。それぞれ の場所を案内してくれた和田氏・杉本氏および藤尾賢介氏(明延鉱山探検 坑道ガイドクラブ会長)に質問をし、熱心にメモをとっていた。
夕食後は、現地の見学で得た情報を整理し、それをふまえたうえで翌日 のインタビュー調査にむけた調査計画の見直し、質問項目の練り直しなど を、各チームでおこなった。調査テーマを深めるための質問を追加するチ ームもあれば、計画していた調査の問いそのものを根本から見直す必要性 を感じ軌道修正を試みるチーム、見学を通じて新しく得た情報を整理する のに大半の時間を要したチームなど、各チームのグループワークの様子は 様々であった。
二日目のインタビュー調査は、チームによって異なるが、およそ2時間 から2時間半おこなわれた。事前学習の際に1時間半~2時間程度という インタビュー想定時間を伝えると、学生から「初対面の人に2時間もイン タビューできない」という不安の声があがっていた。しかし実際にインタ ビューを始めてみると、インタビュー対象者の多大な協力もあり、多くの 貴重な話をうかがうことができた。学生たちは用意してきた質問だけでな く、その場で新たな質問や自分たちの考えを述べるなど、柔軟にインタビ ューを展開させていた。
二日目の午後は、インタビュー内容を含むこれまでの調査で得た情報を 整理し、調査の問いに対する結論やまちおこしに関する提言などをまとめ、
模造紙でも発表資料を制作する作業を、チームごとにおこなった。その後、
各チームによる成果報告会を開催した。この成果報告会には、和田氏、杉 本地域局長の他、インタビュー対象者の近藤氏と正垣氏にもコメンテータ ーとしてご参加いただいた。コメンテーターからは、「事前調査やインタビ ュー内容が的確・端的にまとめられている」「事前の情報収集をしっかりと おこなってきたことが感じられる質問と発表だった」「すぐにでも実行に 移せそうな有益な提言がなされた」といった評価をいただいた一方、一部 の提言に対し、実現可能性の低さや提言の根拠となる情報の調査不足の指 摘を受けた。
フィールドワークのふりかえり
フィールドワーク実習を終えた直後の第 13 回目の授業は、フィールド ワーク実習のふりかえりをおこなった。西地区のいずれのチームの学生も、
フィールド調査で得た情報や、フィールド調査を経験できたことに対して は充実感をもっていたものの、成果報告会とそれに先立つ情報の整理につ いては、納得のいく水準のものをまったく提示できなかったという厳しい 自己評価をしていた。
第 14 回目には、授業終了後に個人で提出するレポートの書き方につい てレクチャーをおこなった。その後、最終発表会に向けたグループワーク をおこなった。最終発表会の課題は、調査地の当事者に向けておこなった 成果報告会とは異なり、「養父市や大屋町について予備知識のない人に対 して、自分たちの調査の内容を報告する」というものである。そのためグ ループワークでは、養父市に関する基礎情報の追加や、報告会で受けたコ メントや指摘の整理をおこなった。また、成果報告会では予定時間をオー バーするチームが多かった反省から、全チームが読み上げ原稿を作成する など、用意した内容を時間内で正確に伝える工夫に取り組んでいた。
最終回となる第 15 回目は、最終発表会をおこなった。東地区と西地区 を遠隔授業システムで繋ぎ、全チームの発表を相互評価した。
これらの授業を通じ、学生たちはフィールドワークの基礎的技法を学修
した。2 年時以降は、この経験をふまえたうえで、県内各地の地域課題の 解決に向けて取り組みがなされている現場に入り自習をおこなう。
おわりに―フィールドワーク基礎演習の成果と課題
最後に、フィールドワーク基礎演習の成果と課題を、地域課題の解決を めざす人材育成という、副専攻プログラムの目標の観点から指摘したい。
成果のひとつとしてまず挙げられるのは、履修した学生のコミュニケー ション意欲・能力の向上である。フィールドワークの経験を通じて学生の コミュニケーション能力が高まることは、これまでの事例研究で多く指摘 されているが(e.g. 原尻 2005)、コメントや実習でのディスカッション、
プレゼンテーションなどでの様子からも観察できた。
もうひとつの成果は、この演習を通じて学生が、自身が生まれ育った地 域を相対的にとらえる視点をもつようになったことである。授業の回を重 ねるにつれ、実習先の養父市と自身が生まれ育った「地元」「うち」との相 違を指摘したり、共通点を見いだしたり、比較したりする発言・記述が多 くみられるようになった。地域で活躍する人材をめざすうえでは、地域の 固有な特性や課題を把握する能力とともに、複数の地域を比較する相対化 の視点も不可欠である。フィールドワーク実習を通じて学生たちは、この 相対化の視点を獲得しつつある。
一方で、フィールドワーク基礎演習がかかえる課題も明らかになった。
それは、調査地に長期滞在することを前提に構築されてきたフィールドワ ークの技法を、授業の一環で短期間に教える・学ぶということの教員・学 生双方の側の難しさである。このフィールドワーク基礎演習でおこなった 実習では、時間の制約上、授業担当教員が事前に実習先のステークホルダ ーと協議したうえで、おおまかなテーマや見学先、インタビュー対象者を 決定していた。これは、いわば周到に「お膳立て」されたフィールドワー クであり、今後このプログラムを修了した学生が地域で活動する際に直面 するであろう、予測不能な事態の連続の地域課題解決の現場の様相とは大 きく異なる。今後は、こうしたフィールドワークの基礎技術を学ぶ機会を
提供しつづける一方で、学生がより主体的に地域課題解決の現場に入りこ んでフィールドワークをおこなう意欲の促進と機会の提供をおこなう必 要があるだろう。
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参考文献
佐藤郁哉
2006 『フィールドワーク増訂版 書を持って街へ出よう』新曜社. 原尻英樹
2005 「フィールドワーク教育の実践とその教育的効果:コミュニケーシ ョン能力育成を中心にして」『人文論集』56(1):73-108.
柳澤雅之
2006 「いま、なぜフィールドワークなのか」京都大学大学院アジア・ア フリカ地域研究研究科京都大学東南アジア研究所 編『京大式フ ィールドワーク入門』NTT出版.