日本 管 理 会 計 学 会 誌
管 理 会 計 学 2011年 第19巻 第2号
論 壇
ガバ ナ ンス ・ コ ン トロ ー ル の 理 念 と方 法 一内部統制論議を手掛 りと して 一
大下丈 平
〈論壇要旨〉
本 稿で は,ガバ ナ ンス ・コ ン トロ ール の理念 と方 法が提示 され る.ま ず 内 部 統制 の評 価と その監 査の制 度 化を契 機に,方向は違 うが 2つ の同 型の三層 構 造が現 れて く る.下降 3 層 構 造〈マ ネジメ ン ト/コ ン トロ ール/監 査〉は ト
ップダン の 3 層 構 造であり,伝 統 的 なマ ネジメ ン ト・コ ン トロ ール の仕 組
みその もの で あり,上昇3層 構 造〈ガバ ナン ス /内 部 統制
/内部 監査 〉は,構 成 要 素である 内部 統 制 を介し て下降 3層 構 造 と繋が りなが ら も,方向 と しては ガバ ナ ン ス機 構 を 規 律づけ,支 援 する.その後,ガバナンス ・コ ン トロール の 2 っ の 理念型 が 示 さ れ る.一っ は米 国型のガバ ナンス ・コ ン トロ ール で あ り,も う一つ
はフラ
1
ン ス 型の そ れ で あ る,内 部統 制の 法制 化の動 き を《ガバ ナ ン ス ・コ ン トロ ール 》とい うコ
ン セプ トで捉え る本 稿での試み は, コ ン トU 一ル 論 に新しい 領 域を生み出そ うとす る 大胆 な もの となっ てい る.
〈キーワード〉
ガバ ナン ス,マ ネジメ ン ト・コ ン トロール,会 計,内部 統 制,内部 監査
Philosophy and methodology of governance control :from the argument about the internal control
Johei Oshita
Abstract
In this paper , a survey of the philosophy and methodology of governance control is
provided. At 丘rst , two three ・layer structures of the same type but with different directions have appeared with the institutionalization of the evaluation of internal
control and its auditing as a turning point. The descending three・layer structure of management , control and auditing is a top・down structure , the mechanism ofwhich is traditional management control . The ascending three・layer structure of governallce , internal control and internal auditing disciplines and supports the governance
mechanism , although this structure is connected with the descending three ・1ayer
structure by way of intema工centrol that is a component of the structure . The latter is
called [‘governance control .”Thereafter, two types of gover旦ance control philosophy
have been proposed . One is the U .S.−type
governance control philosophy, the other is the French −type philosophy. Capturing the move to institutionalization through the
concept of governance control is an audacious attempt to create a new area for controI theory .
Key Words
Governance , Management Control, Accounting, Internal control , Internal audit
管理会 計 学 第19巻 第2号
ガバ ナン ス ・ コ ン トロ ール の理念 と方法 一内部 統 制 論 議を 手掛り と して一
大下丈平 (九州大学) 1 は じ め に
1980 年代 以降,米国で は規 制 緩 和,構 造 改革,金融の 自由化な ど を謳 う新自由 主義 政策
が 遂行され る な か,企業の経 営 戦 略と財務戦 略が融 合し,商品 ・サービス 市 場 と経 営 権市
場の 両市 揚を包 括 した企 業 価 値創 造 経 営が積 極 的に 提案さ れ る よ う に なっ て き た 匸.他方,
そ う し た新 自由主義 政 策に よ り,これ ま での 束縛か ら解放さ れ た経 営 者 達は企 業不祥 事, 会 計不正 に ま み れ るこ と になっ た.そ し て そ れ を機に,コ ーポレー ト・ガバ ナン ス の 一環
と し て内 部 統 制が法 制化 され,そ れ に伴っ て リス ク管理の 視 点か ら 外部監査,内 部監査の 在 り方 が 問題 視 され ,同時に その 重 要 性 がクロ ーズ ア
ッ プ され る よ うになっ てきた,そ う し たなか で,伝 統 的 なマ ジ メン ト ・コ ン トロ ール の 領域に おい て も,リス ク管理 や価値創 造 管 理の視 点 を 取り 入れ た 新 しい フ レーム ワーク が構 想 され る ようになっ てき た.
本 稿の 目的は,日米 仏のマ ネジメ ン ト・コ ン トm 一ル 論の 最 近の 成 果 を踏 まえ て
, 内 部
統 制 を介し て コ ン トロール 論ヘガバナ ン ス 概 念が 包摂され ようとする 点 を捉え,ガバナン
ス をコ ン トロール する 可能 性を その 理念と方 法を め ぐっ て考察す ること に あ る.そ れ は ま た,内 部 統 制の評 価 ・監 査の法 制化の動き をマ ネジ メン ト・コ ン トロール 論の 観点 か ら 整 理し,そこ か ら新 し い コ ン トロール 論の 領 域 (ガバ ナ ン ス ・コ ン トロール とい う新しい 研 究 領 域 ) を 提 案 する試み と なっ て い る,
本稿は一っ の素 朴 な 疑 問か ら生ま れで たもの であ
る.そ れ は, わが 国の 管理会 計研究に おい て ほ と ん ど監査(audit )の問 題が取 り上げ られることがなか っ た点への疑 問 で あ る.筆 者は, 管理 会 計 も し く は コ ン トロ ールおい て,なぜ監 査の こと が論じられ ない の か につ い て 長 く 疑 問 を もっ て き た.そ して こ の素 朴な 疑問は,内部 統 制の制 度 化 を 契 機に以 下の コ
ン トロ ール /監査を め ぐ る3組の 3層 構造の存 在の解明の必 要 性に立 ち 至 るこ とになっ た. コ ン トロール /監 査を め ぐ る 3組 の 3層 構造2
(イ) 財 務 諸 表 監 査
:財務 諸表〜内部 統 制〜外 部 監査 (ロ )マ ネ ジメン ト・コ ン トロ ール
(フ ラン ス の ケース) : マ ネジ メン ト〜コ ン トロ ール 〜監 査
(ハ )ガバ ナン ス ・コ ン トロ ール
ガバ ナン ス 〜内部統制〜内部 監 査 上 記の コ ン トロ ール
/監 査 をめ ぐ る 3組の 3層 構 造 は, 本稿で提案す る ガバ ナン ス ・コ ン
トロ ール とい う新しい コ ン トロール 論の 基 本 的 な搆 造
と他 の 3 層 構 造 との 関連を 明 ら か に
した もの である.3 組の コ ン トロ ール /監 査 がそれぞ れ,財 務 諸表 監 査の場合に は財 務諸 表
へ 向 かい ,マ ネジメン ト・コ ン トロ ール (フ ラ ン ス の ケース)の場 合に はマ ネジメン
トに 向か い ,本 稿で提 案 する ガバ ナ ン ス ・コ ン トロール の 場 合に は ガバ ナ ン ス に 向か う様
子が
ガバナンス ・コ ン トロールの理 念 と 方法
一内 部 統 制 論 議を手掛 りと して 一
描かれて いる.これ ら3組の コ ン トロール/監 査が 3 層構造で あ る点で同型 性を 持 っ てい る.
つ ま り,コ ン トロ ール は常に監 査 を 伴い つ っ ,そ れ ぞ れ の 対象へ 向か う点である.以 下で
の考 察の前提 と し て, こ こ で はこの 3組の 3 層構造を確認 し ておきたい .そ うし てお けば, 次節以下の 理解はずっ と深 ま るで あ ろ う.
本 稿は以下の よ うな 構 成 をとっ て い る.まず 次節で は ,コ ン トロ ール論 か ら 見 る 石油 危 機 以 後の 日米の経 済 関 係 を 跡 付 けた後,第皿節で は米 国 トレ ッ ドウェ イ 委員 会 支援組織 委 員 会 (以下 COSO と略 )の 2つ の 報 告 書の 意義を導出する.第IV節では,報告 書が提 起し た 2 つ の論 点 とコ ン トロ ール論に よる それへ の 対 応 を 簡 単に整理 し,第 V節では, そ うし た 対応の 中か ら出て くる ガバ ナン ス ・コ ン トロ ール の 理念を,日米仏の そ れ ぞ れの 国 ごと に類 型 化 し,そこ で考えられ るコ ン トロ ール の方法を検 討 し て い る.その 過 程で,マ ネジ メン ト・コ ン トロ ール と ガバ ナ ン ス ・コ ン トロール の同型 的 な 構 図 を 明 らか に し,そこ で
の管 理 会 計シス テム を 運 用 す るコ ン トローラーや内 部監査人の 役 割の 拡 大を指 摘して い る.
そ し て,最 後に第VI節で全体を総 括 し て い る.
H コ ン トロール 論か ら 見 る石油 危 機以後の 日米の 経 済 関 係 13 つ の側 面
コ ン トロ ール 論, 管理会 計 論からみ ると,石油 危 機以後の 日米の 経済関 係 は大き く 3 っ の 側 面 か ら捉 えら れ る.まず 1つ 目は,米国 が 日本の 経 済シ ス テム,企 業 経 営か ら学びっ
つ , マ ネジメ ン ト・コ ン トロ ール の 装 置 を 独 創 的に構 築し てい っ た 側 面 である.その後,
日本は こ の米 国の成果 を 逆 輸入 してい っ た3.2っ 目 は,米国政 府が中心 となっ て 日本の経 済 ・金融 等の シス テム を米国 に有 利 な 形に変 革 ・改造 すること を決 意 し,様々 な 手 段 に打
っ て 出た側 面であ る4.もっ と も,H本 側 もこれ に 呼応し て積 極 的に金融 ・経 済 ・経 営シス
テ ム を改造 し て い っ た.3つ 目 が本 稿に深 く関わ る 側 面で ある.そ れ は 米 国 が危機 的 な 状 況に陥っ た 自らの 経 済シ ス テ ム と 企業 経 営の あ り方を改 変し,修正 を加え よ う と し た側面 で ある.日本 側もこ の 成 果を積 極 的に 取 り 入 れて大 幅な制度改正 (とりわ け 会 社 法 特に その 改正の 一
つ の 軸を な し た内部統制の 制 度 化 ) を進 め るこ と になっ た.
こ うした状 況の 背景 を な し た もの は ,言 うまで も な く当 時の米 国の経 済的衰退の 兆 し で あっ たt こ の こ と は,こ れ までも 多くの研究 が 明 らか に し て きた5.
本 稿の課 題 とす る ところか らは,上 記 3つ の 側 面の うち,第 3 の 側 面, つ ま り米国が危 機的 な状温 に陥っ た 自 らの経 済シ ステ ム と企 業 経 営のあ り 方に修 正を加え よ うとした側面 に 注 目 したい.そ こ で 問 題と なっ て く るの は,米 国 発の U 一ポ レート・ガバ ナ ンス 論で あ
り,その 重 要 な一面を なす 内部 統 制の 制 度化 (特に 日本 0)場 合は 内部 統 制 評 価と 監 査の 制 度化)の問 題であ る.多くの研究 成 果も支 持 し てい る よ うに, 1980 年 代後 半か ら 1990年 代 前半 にかけて ,米国 製造業の 不振を背 景に しなが ら,コ ーポ レー ト・ガバ ナン ス が 登 場 し
て くる.こ の こ と に 関 し て は、大 方の理 解が得 られ よ う (例 えば田村 達也 [2002 ]).
こ こ で筆 者が, 他 でも ない 米 国発の コ ーポ レー ト・ガバ ナ ン ス 論に拘 泥 す るの は,次の よ うな 理 由 か ら で あ る.なるほど日本で もヨーロ ッ パ で も,それ ぞ れ 固有の コ ーポ レ ート・