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日 本 管 理 会計 学会 誌 管 理 会 計 学 第 2巻 第 2 号 1993年 秋 季 号
論 文
銀 行の リス ク管理 の た め の
多目標 単 純 リコ ー ス確 率 計画 ALM モ デル
枇々 木 規 雄* 福 川 忠 昭 †
〈 論 文 要旨〉
日 本の 銀行 は金融 の 自由 化 ・国 際化の影 響 を受け,厳 しい 経 営 を 追 ら れ てい る.
この よう な 経 営 環 境の 中で, 銀 行は様々 な規 制み下で リス ク管理 を十 分に行い な が ら, 利 益 を あ げる必 要が で て きた.本 論 文で は , 銀 行の リス ク管理 手法で あ る ALM (資 産 負 債 管 理)の考 え方を利 用 し, 不確 実 性 を考慮 した多目標 単 純リコ ース 確 率 計 画ALM モ デ ル を提 案 する.こ の モデル の特 徴は, 銀 行 経 営に とっ て重 要に なっ て きて い る BIS (国 際 決 済 銀 行 )の 自 己 資 本比率 規 制に含ま れ る確 率 的 要 素を確 率 制 約式と して取 り扱 うな ど,不確 実 性を考 慮 しつ つ , トレー ドオ フ の 関 係 に あ る リ
ス ク と利 益とい う 多 目標を取 り扱 うことがで きる こ とで ある.そ して ,この モ デル
に よっ てALM の問題 を解 く方 法 論 とし て, 単 純リコ ース型の確率計 画 法に おける
確 率 制 約 式と目標 計 画 法における目標 制 約 式 との 両 方を一度に取 り扱 う方 法を提 案
す る.
〈 キーワー ド〉
資 産 負 債 管理, 銀 行 経 営, リスク管 理, 目標 計 画 法, 単 純リコ ース確 率 計 画 法
, トレ
ード オフ
1993年 8月受 付
1993年12月 受理
*慶 應 義 塾 大学 助 手 (理工学 部 管 埋工学 科 )
†慶 應 義 塾 大 学 教 授 (理工学 部 管理工学科 )
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管理会副学 第 2巻 第 2 号
1. は じ めに
1990 年代に入 り, 日本の 銀行は 金 融 の 自由 化 ・国際 化の 影響を受け, 厳 しい 経営 を迫ら れ て い る.1993 年 6 月には定 期性 預金の 金利が自由化 さ れ, ス ケ ジュ ール通 りに 自 由化が 進 展す れ ば, 1994 年度 に は 流動 性預金 も含め た すべ ての 預金金利が完全に 自由化 さ れ る 予 定で ある.また 国 際 的 に業 務を行 う銀 行は,BIS (Bank for International Settlements
;国際 決 済 銀行 ) 規 制に よっ て 自己 資本 比 率を8%以 上に保つ こ と が義 務付 けら れてい るこ とに加 えて , 新 た な 規 制 も 予 想 さ れる.この よ うに経営環 境 が大 きく変化 する中で, 銀 行 は様々 な規制の 下で リス ク管理 を 十 分 に行い な が ら, 利益 を あ げ る 必 要 がで て き た. 一方,銀行 経営の 財務計 画 問 題 に 対 して ,様々 な数理 計 画モ デルが提 案さ れて い る。多
目標の達 成を 目指 すモ デ ル と し て ,BOQth & Bessler [1]の利 益 と 金利 リス ク を目標 と するモ デ ル,Giokas & Vassiloglou [3]の 総収益,自 己資 本比率, 流動 性比率, 預金高,
貸 付 高 を目 標 と した モ デル , Korhonen [12 ]の 期待 利 益, リス ク, 流動 性, 資 本の 充実 性な ど を 目標 と し たモ デ ル が 提 案 さ れて い る.こ の 他に も,Langen [14]の 金利 リス ク, 信 用 リス ク, 為 替 リス ク な ど を取 り扱 う多目的計 画モ デ ル , Tayi & Leonard [16 ]の利 益 , 資 本 充 実 度 ,リ ス クア セ ッ ト を 目標 と す る 多 目 的計 画モ デ ル ,そ して Kusy &
Ziemba [13]の 不確実性 を考慮 した 多期間確 率線 形 計画モ デル (単純 リコ ース モ デル )
が 開発さ れ てい る.
そ し て ,枇々木 ・福川 [5,6,7,8,9]は ALM の考え方に基づ い て , 利 益 と リス ク の トレ ー ドオ フ の 関係をうまく表現で きる銀行の リス ク管 理の ため の モ デ ル化を行っ た.1 計 画 期 問問題 [5]を 基本モ デ ル と して ,多 計 画期 間モ デ ル [6,7],通 貨 別 (多通 貨 )モ デ ル
[8,9]へ と拡 張 を 行 っ た.こ れ らの ALM モ デル は, 「あ る一定の市 場 環 境 及び銀 行が か か える制約の下で ,銀 行が 目指す 目標を達成する た め に は どの よ うな方 策が 必 要か とい うこ
とを 見い 出 す.そ して さ ら に市場 環 境 や 制 約 が 変 わ っ た と きに は どうなるか など を 調べ る
こ とによ り,銀 行の ALM を支援 する 」確 定 的なモ デ ル であっ た,
そ れ に 対 し,不確実 性 を考 慮 し たモ デ ル に は様 々 な もの が考え ら れるが,本 研 究で はパ
ラ メータ の 一部 を確 率分布と して与える多目標 単純 リコ ース 確 率計画 モ デル に よ るア プロ ーチ を 試み る.こ の 単 純 リコ ース 確 率 計 画 法に よ るモ デ ル 化は, すで にKusy & Ziemba
[13]に よ っ て提 唱 され てい るが, 本研 究で は, 銀 行 経営 にと っ て 重要 に なっ て きて い る
BIS の 自己資 本比率 規制 も確 率 制約 式 と し て取 り扱 うな ど, 不確 実 性を考慮 しつ つ , トレ ー ド オフ の 関 係 に あ る リス ク と 利益 とい う多目 標 を取 り扱 うこ と がで き るモ デ ル を 提 案す
る.その 特 徴は 2節に お い て述べ , その定 式 化は 3節 に示 す.な お, こ の モ デル に関 す る
数値 実 験は,枇々木 ・福 川 [10]におい て詳 し く記 述さ れ て い る.
NII-Electronic Library Service 銀行の リス ク管理のた めの多目標 単 純リコース確 率 計画ALM モ デル
2. 不確実 性 を考 慮 したALM モ デル
2.1. 確 定モ デル から確 率モデルへ
確 定モ デ ル は想 定 され るあ る一つ の 状 況の 下で
, 最 適解 を求め る た めの モ デル で ある .
モ デ ル で取 り扱 うパ ラ メ ータ は
, そ の 状 況の ドで はすべ て ある一つ の値 に決まっ て お り,
モ デ ル の 中に不確実性を取 り入れ て い ない ,確定モ デ ル は , その モ デ ル に基づ い て ALM
の 問 題 を 解 くと き に 設定す る問 題 の 状 況 が 実 現 した場 合 に, 銀 行 にとっ て最 も望 ま しい 方 策を与えて くれ る,ま た,パ ラ メータが すべ て確 定値 なの で,モ デ ル で与 えら れ た 問 題 を 解 く方 法論 と して通常の数理計 画 法を用い るこ と がで き る とい う良さ も ある.し か し な が
ら, 取 り扱 うパ ラ メータを前 もっ て確 定で きる と は限ら な い の で ,確 定モ デ ル で はパ ラ メ ータの 値 を様々 に変えて み て得 ら れ た結果を吟味 する こ とで対応する必要が ある.つ まり,
確定モデル で は異なるパ ラメ ータ値 毎に解が得 られ, そ れ らを検 討 する こ と によっ てパ ラ
メ ータの 変 動 を 考 慮 した意思 決定を行 うもの と してい る,し か しな が ら, パ ラ メータの 変 動 を前提 と し た 解 をモ デルで 与 えら れ た 問 題 か ら直接求める こ と はで きない .この ような 場 合 に は確 定モ デ ル で は な く, 不 確 実 性 を考慮 したモ デ ル の構 築 が 必 要 になる.
すなわ ち, こ れ らの パ ラ メ ータの う ちで 確率的に変動する もの は確 率的な もの と して ,
つ ま りある 一
定の確率分布に従 う確率変数 と して取 り扱 う必要 がある.こ うし た扱い の モ
デル を 以降,確 率モ デル と呼ぶ .
確 率を含む数理 計 画 問 題 は,その 取 り扱 い 方の違い に よっ て大 き く リコ ース 問 題 (二段 階問題 )と機 会制約 条 件問 題 とに分 けら れる 。これ らの 問題 を簡単に記 すと,まず リコ ー
ス問題で は, 確 率制 約 式が成 り立たない場 合に生 じる影響 (成 り立 た ない 場合の量にその 確 率を掛けた もの) を 最小 化 する よ うに問 題 を 取 り扱 う.他 方, 機 会制 約 条件問 題で は確 率 制約式 が 成 り 立 た ない 確 率 を 最 小 化 す る よ うに問 題 を取 り扱 う.こ こ で問 題 を与 える
ALM モ デ ル は「リス ク が 発 生 し た場合に,どの程度 量 的 な影 響がで る か,そ してそ れ らに 対応する た めに あ ら か じ め どの よ う な方 策を とるべ き か」とい う考え 方に基づ い た もの で あ る.従っ て , モ デ ル化 を行 う場合, 機会 制 約条件 問 題 よ り も リコ ース問 題 と してモ デル 化した方が, こ の 考え方に合っ てい る もの と考える.
そ して , 実用 的に問 題 を解 くこ とを考慮 して, 単純 リコ ース 型の モ デ ル 化を試み るこ と
に す る.
2.2. 単純リコ ース確率計 画問 題 とは
2 .2 .1 単 純 リコ ース問題の定 式化
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管 理 会 計 学 第 2 巻 第 2 号
次の ような 問 題P1 を単純 リコ ース 問 題 とい う [11,18,19 ].
ns s
P1 ・ m ’・
君・謝 E 囎 恩(P・ ・・’・ q・ ・・一)
ns
s・t, Σα、,j ・j +yi − yi = δ∴ (i= 1,…,肌 ・ )
丿;1
Xj ∈ Fs (1)
筋 , yi ,ツ『≧ 0
(i= 1,_,ms , 」= 1,...,ns )
こ こ で,Xj は決 定 変 数, 鷲 ,ylは リコ ース変 数, Pi, qiは各々 の リコ ース 変 数 に 対 す る
ペ ナ ル テ ィ コ ス ト係 数 ,biは確 率 変 数, Fs は 実行可 能 空 間 を 表 す.ま た, Cj は コ ス ト係 数,
ai , j は確 率 制約 条件式の 係 数を表 す . ns は決定変 数の 数 ms は確率制約 式の 本 数 とする. EF 】は期 待 値を表す.そ して , min は最小化する とい う意 味であるの に対 し, 戴i
鼻 は擁
とy 厂につ い て最 小化 し た値 とい う意 味を表 し てい る .
と こ ろで , 目的関数の第2項は確 率 制 約 式が成 り立 た ない 場 合の期 待 値にペ ナ ル テ ィを 与えた もの で ある. 従っ て , リ コ ース変 数は経 済 的に は制 約が破 ら れ た と きにペ ナ ル テ ィ
を受ける量 (金額) とい う意 味 を持つ .
この 問 題 P1 は ,次の 問 題 P2 と等 価で ある (導 出 過程は石井 [11] pp .14− 15 を参照 さ
れ た い ),
ns
s
… m ・・
混(・一恩・μ の第
・ 毟(Pi 十(1i){(慧・・,、の礁 ・・凹 )一齋吻 齲 ・}…
s・t・ o≦ SCj∈ Fs ,(j= 1,…,ns )
こ こで ,Fi (・)は累積 分 布 関数を表す.ま た,この 問題P2の 目 的関数の 第 1項 目は線 形
で ある が, 第2項目 は一般に非 線 形な項 と なる .しか し,全体 と して は 凸関 数で ある の で, 全域 的な最適解が保証 さ れる (証 明は石井 [11]pp.15 − 16 を参照 され た い ).
とこ ろ で, 問題 P2で は分か りに くい の で具 体 的に確 率分布を挙 げて 問題 を示そう.例 え ば, 確 率 変 数biの確 率分布が図 1に示 す ような 有 限で 離散型 (確率変 数の と り得る値が
ri,1_ri, liで ,そ れ らの生 じ る確 率がfi,i...fi,.iiで あ る離散分布)の場合は次の 問 題 P3の よ うに なる (導出 過程はWets [19]pp .223 − 227 を参照 さ れた’v・).